民訴ゼロから民訴#11

規定が無いのに変動させる——形式的形成訴訟と境界確定の訴え

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第1章 訴訟の開始 ⑪/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

第4の箱——形式的形成訴訟

これまでの3つの型と、もう1つの箱ボード 図:これまでの3つの型と、もう1つの箱ボード

前回は、請求の趣旨請求の原因をもとに、給付・確認・形成という、3つの訴えの型を見ました。そして、形成の訴えは、法律に規定がある場合に限られる、という話をしましたね?では、規定はあるのに、変動させてよい場合の要件だけが、法律に書かれていないとしたら——裁判所は、何を基準に判断すると思いますか? 実は、そういう訴えが実際にあります。形式的形成訴訟と呼ばれる型です。形成の訴えの1つではあるんですが、少し変わった性質を持っています。普通の形成の訴えは、法律が「こういう要件を満たせば、こう変動させる」と、中身まで決めています。

ところが、形式的形成訴訟は違います。「変動させてよい」という規定はあるのに、その中身を決める基準が、法律のどこにも書かれていません。ただし、訴えを起こせるという規定そのものは、ちゃんとあります。ここが大事なところです。前回見た「形成訴訟法定主義」と、矛盾するわけではありません。規定の「有る・無い」ではなく、規定の中身の詳しさが違うんです。その先、どんな基準で変動させるかは、書かれていない。だから、裁判所の裁量に委ねられます。代表例を、2つだけ挙げます。1つは、共有物分割の訴えです。共有している物を、話し合いで分けられないとき、裁判所に分割を求める訴えです。民法258条に規定があります。条文は、現物を分けるか、代金で調整するか、といった方法は挙げています。ただ、どの方法で、どんな中身の分割にするかは、裁判所の裁量に委ねられています。もう1つは、父を定めることを目的とする訴え。民法773条です。子の父が、法律上、定まらない場合に、裁判所が父を定める訴えです。

今日は、名前だけ押さえておいてください。そして、この回でいちばん深く見るのが——境界確定の訴えです。

境界確定の訴え——電柱1本の空き地

隣り合う空き地の境界争いボード 図:隣り合う空き地の境界争いボード

こんな場面を、考えてみてください。隣り合う、2つの空き地があります。境界標も、塀もありません。目印になるものは、敷地の隅に立つ、1本の電柱だけです。Xは、「電柱の位置が、境界だ」と言います。Yは、「電柱から1.5メートル、Xの敷地側に入った所が、境界だ」と譲りません。この争いを解決するのが、境界確定の訴えです。判例・通説は、これを形式的形成訴訟と解しています。ここで、いちばん誤解しやすいポイントがあります。「あの土地は自分のものだと認めてほしい」という所有権確認の訴えとは違います。境界確定の訴えが対象にしているのは、所有権が及ぶ範囲ではありません。筆界と呼ばれる、公法上の境界線です。

筆界と、所有権の及ぶ範囲——別次元の話ボード 図:筆界と、所有権の及ぶ範囲——別次元の話ボード

筆界というのは、登記された一筆の土地と、隣の土地との境目のことです。登記所に備え付けられる地図にも、課税にも使われる、公的な線引きです。一方、所有権の及ぶ範囲は、私人どうしの、実体法上の権利の話です。時効取得のように、動くことがあります。所有権の範囲が動いても、筆界は当然には動きません。両者は、別の次元の話なんです。この区別を、判例がはっきり示しています。

判例民集22巻2号270頁・昭和43年2月22日・百選35

最高裁判所第一小法廷判決(境界確定請求事件) 取得時効の成否は、境界確定の訴における境界確定とは関係がない。

仮に、Xが長年、電柱の向こう側まで占有していて、時効で所有権を取得していたとします。それでも、筆界そのものは、当然には動きません。だから、境界確定の訴えと、所有権確認の訴えは、訴訟物が違う、別の訴えなんです。求めているものが、筆界の確定なのか、所有権の存否の確認なのか、根本的に違います。

通常訴訟が覆る、2つの逆転

境界確定の訴え——通常訴訟との2つの逆転ボード 図:境界確定の訴え——通常訴訟との2つの逆転ボード

この違いが分かると、境界確定の訴えが、なぜ通常の訴訟とまったく違う扱いを受けるのか、見えてきます。通常なら当てはまる原則が、境界確定の訴えでは、2つ、覆ります。1つ目。処分権主義——訴訟のテーマを何にして、どんな解決を求めるか、当事者が決める原則です。ですが、境界確定の訴えでは——原告は、どんな判決を求めるかを書く請求の趣旨に、特定の境界線を掲げる必要がありません。仮に、XかYのどちらかが「ここが境界だ」と、はっきり主張しても——裁判所は、その主張に拘束されません。裁判所が、証拠や事情から、独自に、妥当な線を確定します。極端に言えば、裁判所が「電柱から80センチの所が境界だ」と言うこともできます。XもYも主張していない線を、引いてもかまいません。

では、当事者の誰も境界線を主張しなかったら、どうなるのでしょうか。それでも、結論は変わりません。裁判所は、証拠と事情から、独自に線を引きます。もともと、当事者の主張に縛られていないからです。普通の訴訟なら、「80万円払え」と請求したのに、裁判所が「80万5000円払え」とは言えません——それが処分権主義でした。でも、境界確定の訴えでは、その縛りが外れます。なぜ、そんなことが起きるのか——理由は、さっきの「第4の箱」の性質そのものにあります。訴訟の中身にあたる、法律上の基準——形成要件が、実体法に存在しないんです。基準が無いということは、原告が「これが正しい境界だ」と申立ての形で特定する、土台そのものが無い、ということです。だから、裁判所は、当事者の主張に縛られようがありません。

2つ目の逆転に、進みましょう。境界線が、どうしても分からないとき——裁判所は、原告を負けにできるでしょうか? 事実がはっきりしないときは、どちらかに不利益を負わせる——それが証明責任というルールでした。通常の訴訟なら、そのルールに従って、証明できなかった側が負けます。でも、境界確定の訴えでは——それが許されません。ここが、この訴えでいちばん誤解されやすいところです。よく、「証明責任という、通常のルールに例外を作っている」と説明されます。でも、それは正確ではありません。ここで、要件事実を思い出してください。茶碗の売買の回で見た、法律上の要件にあたる具体的な事実です。証明責任のルールが働くのは、その要件事実がある場合です。要件事実が、証拠を出し合っても、はっきりしない——その「真偽不明」という状態を前提に、どちらに不利益を負わせるかを決めるのが、証明責任です。

でも、境界確定の訴えには、そもそも証明すべき要件事実そのものが、存在しません。形成の中身の基準が、法律に無いんですから、その基準を満たすかどうかを証明する、という発想自体が成り立ちません。電柱の空き地で言えば——Xが「電柱の位置が境界だ」と証明しようとしても、「これを証明すれば境界はここだ」という法律上の基準が、そもそも用意されていないんです。要件事実が無ければ、その真偽不明という状態も、観念できません。つまり、証明責任という枠組みは、そもそも適用される前提を欠いているんです。「本来使えるはずのルールに、この訴えだけ特別に免除を与えている」わけではありません。

そもそもこの訴えは、裁判所に線を引いてもらうためのものです。線が引かれないまま終わっては、訴えた意味がありません。だから、裁判所は、証拠が足りなくても、「分からないので棄却します」とは言えません。常に、何らかの内容の判決——つまり、どこかに線を引く判決を、出さなければなりません。境界という公的な線引きを、決まらないままにしておくわけにはいかないからです。ここまでの違いを、通常の訴訟と、並べてみましょう。通常の訴訟なら、原告が線を示す必要があり、裁判所はその主張に縛られ、証明できなければ原告が負けます。境界確定の訴えでは、その3つが、ぜんぶ逆になります。理由は、いつも同じです。要件事実が、実体法に無いからです。

学説の対立——和解はできるのか

学説の対立——境界確定の訴えの法的性質ボード 図:学説の対立——境界確定の訴えの法的性質ボード

もう1つ、考えてみましょう。XとYが、自分たちで話し合って「ここを境界にしよう」と決めることは、できるでしょうか。ここでは、判例・通説の立場ははっきりしています。当事者どうしの話し合いで、境界を決めることはできません。筆界は、当事者2人だけのものではなく、地図や課税にも関わる、公法上の線引きだからです。当事者が自由に処分できる権利ではない——だから、和解にはなじまない、という立場です。これを、形式的形成訴訟説と呼びます。ただし、有力な反対説もあります。境界確定の訴えは、実際には、所有権がどこまで及ぶかという争いを解決するために、提起されているのだから、公的な性質があるというだけで、処分権主義の適用を排除すべきではない、とする立場です。

XとYが、所有権はここまでだ、と自分たちで決める。そういう和解も、この説なら認められることになります。この対立は、境界確定の訴えの法的な性質そのものをめぐる議論として、今も残っています。どちらの立場でどう論じるかは、専用の回に譲ります。今日は、両方の考え方がある、ということを押さえてください。

筆界特定制度との関係

筆界特定制度とはボード 図:筆界特定制度とはボード

最後に、境界確定の訴えとよく似た制度に、筆界特定制度があります。こちらは、裁判所ではなく、登記官という、行政の担当者が、筆界を特定する制度です。不動産登記法の改正で新設された、訴訟より簡易・迅速に使える制度です。では、両方が使われたとき、どちらが優先するのでしょうか。条文を見てください。

条文不動産登記法148条

不動産登記法第148条(筆界確定訴訟の判決との関係) 筆界特定がされた場合において、当該筆界特定に係る筆界について民事訴訟の手続により筆界の確定を求める訴えに係る判決が確定したときは、当該筆界特定は、当該判決と抵触する範囲において、その効力を失う。

境界確定の訴えが、優先します。さっきのXとYで言えば——先に登記官が線を特定していても、あとから境界確定の訴えで判決が確定すれば、その線は、抵触する範囲で効力を失います。筆界特定は、あくまで簡易・迅速な手段です。最終的な決着は、訴訟に委ねられている、ということです。

今日のまとめ

第4の箱と境界確定の訴え——まとめボード 図:第4の箱と境界確定の訴え——まとめボード

では、今日の話を、1枚に畳んでおきましょう。形成の訴えの中には、要件の定めが無い、第4の箱——形式的形成訴訟がありました。代表例は、共有物分割の訴え、父を定める訴え、そして、境界確定の訴えです。境界確定の訴えは、対象が筆界——所有権の及ぶ範囲とは、別次元の話でした。だから、通常の訴訟の原則が、2つ、覆りました。処分権主義が働かず、要件事実が無い以上、請求棄却もできません。そして、学説の対立——形式的形成訴訟説と有力説では、和解の可否まで結論が変わること。最後に、筆界特定制度との優劣——裁判所の判断が優先すること、まで見ました。

今日、地図だけ置いて送ったものも、あります。境界確定訴訟で、誰が訴えれば意味があるかという、当事者適格。控訴した当事者が、判決より不利にならないという原則が、なぜこの訴えには及ばないのか、という話。処分権主義の中身をもっと詳しく見る、請求の特定の回。そして、訴えの中身にあたる訴訟物——これは、また別の回で、じっくり扱います。

参照条文

  • 不動産登記法148条

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