民訴 ゼロから民訴#4b

当事者の能力——法人でない自治会が、なぜ自分の名前で訴えられるのか

「特定できたその相手は、そもそも当事者になれるのか」を扱う当事者の能力編。当事者能力(28条=民法の権利能力/29条=権利能力なき社団の4要件・組合への類推)と訴訟能力(31条絶対的無能力・32条制限的能力・34条は無効だが追認で遡及)を、当事者適格との区別も添えて整理し、当事者能力・訴訟能力・意思能力・弁論能力の4能力を「不成立>無効>有効」の1本の物差しに並べる。

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第2編 主体 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

「ゼロから民訴」第4回・#4b。前回#4aでは、自治会が管理費滞納者を訴える事案を軸に、「そもそも誰を指しているか」を決める確定(実質的表示説)を見た。今回は次の問いだ——確定できたその相手は、そもそも当事者に「なれる」のか。法人登記のない自治会が、自分の名前で原告になれるのか。そして前回、亡くなっていた住人は相続人に引き継がれたが、その相続人の中に未成年者が1人いたら、その子は自分で訴訟を進められるのか。前者が当事者能力、後者が訴訟能力の問題だ。この2つの「能力」を、事案を軸に押さえる。

当事者能力の位置づけ——当事者適格との区別

当事者能力とは、一般的・抽象的に、その者が当事者になれるかという資格だ。訴訟要件の1つで、裁判所が自ら調べる職権調査事項になる。前回の確定が「そもそも誰を指しているか」を特定する作業だったのに対し、当事者能力は「特定されたその者が、そもそも当事者の座に立てる資格を持っているか」を判定する作業だ。

ここでもう一つ、区別しておきたい概念がある。当事者適格——個別的・具体的に、この事件でその者が当事者としてふさわしいかという資格だ。いわば「3つ目の関門」で、当事者能力が事件の中身に関係なく一般的に判定されるのに対し、当事者適格はその事件固有の利害関係を踏まえて個別に判定される。当事者能力は「人の属性(入場資格)」、当事者適格は「事件との結びつき(試合に出る資格)」と押さえておくとよい。関門の中身は専用の回で詳しく扱う。ここでは当事者能力そのものに戻る。

当事者能力の原則(28条)

当事者能力の原則は民訴28条だ。「当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法その他の法令に従う」。つまり当事者能力の範囲は、原則として民法の権利能力とほぼ同じ。自然人であれば生まれた瞬間から、法人であれば設立によって当事者能力を持つ。

問題は、自治会のように法人格を持たない団体だ。民法の権利能力の物差しだけでは、団体は当事者になれないはずである。ここに民法にはない訴訟法固有の拡張が用意されている。

当事者能力の拡張(29条)と権利能力なき社団の4要件

拡張の条文が民訴29条——「法人でない社団又は財団代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる」。法人格を持たない社団・財団でも、代表者や管理人の定めさえあれば団体名義で訴え・訴えられる、という規定だ。実体法上の財産帰属を認めなくても、紛争解決の窓口だけは訴訟法が用意してあげるという便宜がここにある。趣旨は、団体名でまとめて1回で決着をつけたほうが、構成員全員を訴訟に引っ張り出すより簡便・迅速だから。同じ発想から、判例は民法上の組合にも29条を類推適用する(社団と組合の区別が難しい場面があること、団体としての実質を重視する趣旨が組合にも妥当することが理由)。

ただし「法人でない社団」と認められるには、判例の示す4要件を満たす必要がある。

覚えるポイント — 権利能力なき社団の4要件

  • ① 団体としての組織を備えていること。
  • ② 多数決の原則が行われていること。
  • ③ 構成員が入れ替わっても団体そのものが存続すること。
  • ④ 代表の方法・総会の運営・財産の管理その他の主要な点が確定していること。

自治会に、代表者を決めるルールがあり、多数決で意思決定していて、住人が入れ替わっても自治会そのものは存続し、財産の管理方法も決まっていれば、この4要件を満たし、29条の当事者能力が認められる。逆に④の要件——代表の方法・財産管理などの確定——を欠けば、当事者能力が認められず訴えは却下される。「団体らしさ」がどこまであるかが分かれ目だ。これが、冒頭の「法人でない自治会が、なぜ自分の名前で訴えられるのか」への答えになる。

当事者能力の欠缺とその効果

当事者能力は訴訟要件なので、裁判所が自ら調べる職権調査の対象だ。判断の基準時は事実審の口頭弁論が終わった時点。欠けていると分かれば、中身の審理には入らず訴えは却下される。当事者になれるかどうかは手続の入口の話であり、入口が整っていない訴訟をそのまま進めると、後で「実は当事者になれない者を巻き込んでいた」という不安定な判決を生んでしまうからだ。入口で厳しく確認することが、法的安定性につながる。

ここまでが当事者能力=「なれるか」。ここからは「自分で追行できるか」=訴訟能力に入る。

訴訟能力とは——民法の行為能力との対比

訴訟能力とは、自ら単独で有効に訴訟行為をし、また受けるための能力で、民法でいう行為能力に対応する。訴訟には負ければ財産や権利を失うリスクがあり、判断力が不十分な人が自分に不利な訴訟行為をしてしまわないよう守ってあげるための制度だ。

なお、訴訟を進める代理人自身については行為能力は不要とされている。これは、制限行為能力者が代理人としてした行為を取り消せないとする民法102条と同じ発想の構造だ。では具体的に誰が訴訟能力を制限されるのか、条文で見る。

絶対的訴訟無能力者(31条)と制限的訴訟能力者(32条1項)

制限のかかり方は2段階ある。

まず、単独では一切訴訟行為ができない絶対的訴訟無能力者民訴31条は、未成年者・成年被後見人は法定代理人(通常は親権者)によらなければ訴訟行為ができないと定める。訴訟という場では判断を誤ると取り返しがつきにくいので、単独での訴訟行為を一切認めない、という強い保護だ。これを見落として未成年者本人が単独でした訴訟行為は効力を持たない。ただし同条ただし書に例外があり、未成年者が独立して法律行為をできる場合——たとえば営業を許された未成年者——には例外が開かれている。

次に、制限的訴訟能力者。被保佐人・被補助人は、絶対的訴訟無能力者ほど厳しくは制限されないが、一定の場面で保護が必要になる。民訴32条1項は、被保佐人・被補助人などが「相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには……同意その他の授権を要しない」とする——受け身で応じるだけなら同意は不要だ。しかし自分から積極的に不利益の大きい行為をするには話が別で、民法13条1項は被保佐人が同意を要する行為の1つとして「訴訟行為をすること」を挙げている。「守りは緩め、攻めは慎重に」という構造は絶対的訴訟無能力者と共通する。

訴訟能力欠缺の効果(34条)と段階別処理

ここが民法との大きなズレだ。民法は制限行為能力者がした行為を取り消しうる(一応有効だが後で覆せる)ものとして扱う。ところが民事訴訟法は、訴訟能力を欠く者がした訴訟行為を、最初から無効として扱う。民訴34条1項は「訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は、期間を定めて、その補正を命じなければならない」とし、同2項は、欠く者がした訴訟行為は「追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる」と定める。

なぜ「無効」なのか。訴訟は自白・和解・上訴の放棄といった一つ一つの行為が積み重なって、最終的に後戻りしにくい判決に至る。「一応有効」を許すと本人保護が間に合わなくなるおそれがあるからだ。ただし無効のまま終わらせるわけではなく、法定代理人や能力を回復した本人が追認すれば、行為の時にさかのぼって有効になる。「無効だが直せる」という民訴独自のバランスだ。

この欠缺は、いつ生じたかで処理の形が変わる。

  • ① 訴訟の開始時点ですでに欠いていた——見過ごして判決まで進むと、看過された判決に対して上訴で争うほかなく、救済が事後的になる。
  • ② 訴訟の途中で欠缺が生じた——当事者が途中で判断能力を失った場合など。手続がいったん中断し、法定代理人が選任されるなどして引き継ぐ。

前回の確定のズレも訴訟能力のズレも、「まだ動いている手続か、もう進んでしまった手続か」という同じ時系列の軸で整理できる。

意思能力・弁論能力(155条)——4つの能力を1本の物差しに

訴訟能力の前後に、さらに2つの能力がある。

訴訟能力より手前にあるのが意思能力——行為の意味や結果を認識する、最も基本的な精神的能力だ。これを欠いてした訴訟行為は、無効ですらなく不成立(追認の余地すらない)扱いになる。そもそも訴訟行為として成り立っていないと考えるからで、訴訟能力の欠缺より一段重い。

逆に、訴訟の場でうまく陳述できない場合に問題になるのが弁論能力だ。民訴155条1項により、弁論能力を欠く場合、裁判所は陳述を禁じたり、必要があれば弁護士の付添いを命じたりする。手続がうまく進まず裁判所が困るから対応する、という趣旨で、訴訟能力の欠缺とは違い、それでも訴訟行為は有効のまま。訴訟能力の欠缺より一段軽い。

覚えるポイント — 4つの能力を「効果の強さ」で並べる

  • 意思能力を欠く=不成立(追認もできない・最も重い)。
  • 訴訟能力を欠く=無効(ただし追認で遡及して治る)。
  • 弁論能力を欠く=陳述禁止などで対応するが、見過ごされても有効(最も軽い)。
  • 当事者能力を欠く=訴え却下(そもそも当事者の座に立てない)。
  • 4つは「不成立 > 無効 > 有効」という1本の物差しの上に並ぶ。強さを逆にしない。

短答ひっかけ

  • 当事者能力(一般的に当事者になれるか=人の属性)と当事者適格(この事件でふさわしいか=事件との結びつき)を混同しない。どちらも訴訟要件だが判定の仕方が違う。
  • 当事者能力の原則は28条(民法の権利能力に従う)。拡張が29条——法人でない社団・財団でも代表者・管理人の定めがあれば当事者になれる。民法上の組合にも類推適用
  • 29条の社団性は判例の4要件(組織/多数決/構成員変動を超えた存続/代表・財産管理などの確定)。④の確定を欠くと却下。
  • 当事者能力欠缺=職権調査・基準時は事実審口頭弁論終結時・欠けば却下
  • 訴訟能力欠缺の効果は無効(民法の行為能力欠缺=「取消しうる」とは違う)。ただし34条追認で行為時に遡及して有効。
  • 31条(未成年者・成年被後見人)=絶対的無能力(例外=独立して法律行為ができる場合)。32条1項(被保佐人・被補助人)=守り=応訴は同意不要/攻め=提訴・上訴は同意必要(民法13条1項)。攻めと守りを逆にしない。
  • 段階別=①開始時から欠缺→看過判決は上訴で争う/②途中で喪失→中断
  • 4能力の強さ=意思能力(不成立)>訴訟能力(無効・追認可)>弁論能力(看過でも有効)。当事者能力欠缺は却下。混同しない。

📝 論文の型

この回は当事者能力・訴訟能力の地図を作る解説(理解)回。論点の所在と条文・判例の骨格を示し、規範定式・あてはめは対応する論文回で実演する。

  • 権利能力なき社団の当事者能力(29条)——29条の文言要件(社団/代表者の定め)を示したうえで、判例の4要件を規範として立て、事実(規約・総会・代表者・財産の分別管理)に当てはめて社団性を認定する骨格。④の確定のあてはめが山。組合への類推も同じ枠で処理する。
  • 訴訟能力欠缺と追認の遡及効(34条)——訴訟能力欠缺=無効を前提に、34条追認で行為の時に遡及して治癒する筋。時効の完成猶予が問題になる事案での遡及効の効き方を意識する。
  • 4能力の効果の弁別——当事者能力(却下)・訴訟能力(無効・追認可)・意思能力(不成立)・弁論能力(有効)を、効果の強さで一貫して振り分ける整理。

今日の地図(保存版)

  • 当事者能力:一般的に当事者になれるか(人の属性)。原則=民法の権利能力(28条)。拡張=29条(法人でない社団・財団+代表者の定め。判例の4要件/組合にも類推)。欠缺=職権調査→却下(基準時=事実審口頭弁論終結時)。
  • 当事者適格:この事件でふさわしいか(事件との結びつき)。当事者能力とは別の関門(中身は専用回)。
  • 訴訟能力:自分で有効に訴訟行為ができるか(⇔民法の行為能力)。31条=絶対的無能力(未成年者・成年被後見人)/32条1項=制限的(被保佐人・被補助人。守りは同意不要・攻めは同意要=民法13条1項)。代理人自身の能力は不要(民法102条と同趣旨)。
  • 34条:訴訟能力欠缺=無効(取消でなく)→追認で行為時に遡及。段階別=開始時欠缺は上訴/途中喪失は中断。
  • 4能力の物差し不成立(意思能力)>無効(訴訟能力・追認可)>有効(弁論能力)。当事者能力欠缺は却下。

次回は #4c「訴訟上の代理——本人が死んでも、なぜ弁護士の代理権は消えないのか」。訴訟能力を欠く本人に代わって誰が手を動かすのか——法定代理と任意代理を掘り下げる。

参照条文

  • 民訴28条
  • 民訴29条
  • 民訴31条
  • 民訴32条1項
  • 民訴34条1項
  • 民訴34条2項
  • 民訴155条1項
  • 民法13条1項
  • 民法102条

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