民訴 ゼロから民訴#4c

訴訟上の代理——本人が死んでも、なぜ弁護士の代理権は消えないのか

当事者に代わって手を動かす「訴訟上の代理」。補充(訴訟無能力者を支える)と拡張(多忙な本人を助ける)という2つの働き、法定代理(特別代理人35条・法人代表者37条)と任意代理(弁護士代理原則54条・訴訟委任)の二系統を整理し、範囲(55条)と、本人が死んでも代理権が消えない58条1項(民法111条の逆転現象)まで——すべてを貫く「訴訟手続の安定」という1本の糸で読む、当事者編の締めくくり。

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第2編 主体 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

「ゼロから民訴」第4回・#4c。#4bで、未成年者や成年被後見人は自分ひとりでは有効に訴訟行為ができない(訴訟能力の欠缺)と見た。では、その本人に代わって誰が実際に手を動かすのか。そして訴訟能力に問題のない普通の人でも、法律のプロでない以上、自分だけで訴訟を戦い抜くのは難しい。この2つの穴を埋めるのが訴訟上の代理だ。当事者編の最後に、代理という「主体の手足」を扱う。

訴訟上の代理の概要——補充と拡張、法定と任意

訴訟上の代理には、大きく2つの働きがある。

  • 補充——訴訟無能力者(未成年者など)のように、自分では訴訟行為ができない人を支える働き。
  • 拡張——訴訟能力はあるが多忙・専門知識がないといった当事者を、手伝って能力を広げる働き。

そして代理人は、選ばれ方で2系統に分かれる。

  • 法定代理人——法律の規定によって代理権が与えられる者。本人の意思とは無関係に、法が「この人が代理する」と定める。
  • 任意代理人——本人の意思(委任)によって選ばれる者。訴訟の世界では、その中心が弁護士だ。

「補充/拡張」(何のための代理か)と「法定/任意」(どう選ばれたか)の2軸で、以下の登場人物を整理していく。全体を貫くのは、民法の代理とは少しずつ違うルールが、いずれも訴訟手続の安定という一点に向かっている、という視点だ。

訴訟上の代理権——民法の代理との違い

まず、民法の代理と訴訟上の代理はどこが違うのか。民法の代理が「意思表示を1つ本人に代わってする」ことなら、訴訟上の代理は手続の初めから終わりまで、連続する多数の訴訟行為をまとめて代わってする点に特徴がある。1回きりの意思表示ではなく、手続という流れ全体を託される。だからこそ、途中で代理権の有無がぐらつくと手続全体が不安定になる。訴訟上の代理のルールが民法と少しずつ違うのは、この「手続の安定を守る」という要請から来ている——この視点を最初に握っておく。

法定代理人——特別代理人(35条)と法人代表者(37条)

法定代理人の典型は、未成年者の親権者だ(#4bで見たとおり、未成年者は法定代理人によらなければ訴訟行為ができない)。ここで押さえたいのは、親権者がいない・利益が対立するといった場合に立てられる特別代理人の制度だ。

民訴35条は、法定代理人がいない場合や法定代理人が代理権を行えない場合に、相手方の申立てによって裁判所が特別代理人を選任できると定める。放っておくと訴訟が進められない当事者のために、裁判所が代理人を用意してあげる仕組みで、これも「手続を止めない」ための制度だ。

もう一つ、法人の場合。法人には意思を持つ生身の存在がいないので、代表者(社長など)が法人のために訴訟行為をする。民訴37条は、法人の代表者について、法定代理と法定代理人に関する規定を準用すると定める。つまり法人の代表者は、訴訟上は法定代理人に準じて扱われる。株式会社の代表取締役が会社を代表して訴訟を追行するのは、この準用による。

任意代理人——弁護士代理の原則(54条1項)

任意代理人の中心は弁護士だ。民訴54条1項は、「法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない」と定める。これを弁護士代理の原則という。訴訟という専門的な場で、資格のない者が報酬目的で他人の訴訟に介入するのを防ぎ、当事者の利益と手続の適正を守る趣旨だ。

例外として、簡易裁判所では、裁判所の許可を得れば弁護士でない者も訴訟代理人になれる(54条1項ただし書)。少額・簡易な事件まで一律に弁護士を要求すると、かえって裁判を受けにくくなるからだ。原則は弁護士だけ、例外が簡裁の許可代理——この対比で覚える。

なお、54条1項の冒頭「法令により裁判上の行為をすることができる代理人」とは、支配人(商法21条1項・会社法11条1項)のように、法令上当然に一定範囲の裁判上の行為をなしうる者を指す。彼らは委任がなくても法令の定めにより代理権を持つ点で、弁護士とは別系統だ。

訴訟代理権の範囲(55条)——不制限の原則と特別委任事項

弁護士に訴訟を委任すると、その代理権はどこまで及ぶのか。民訴55条1項は、訴訟代理人は委任を受けた事件について、一切の訴訟行為をすることができると定める。個別の行為ごとにいちいち本人の授権を確かめなくてよい——これを代理権不制限の原則という。手続の途中で「この行為に権限があるか」を逐一問題にしていては、手続が滞り相手方も不安定になるからだ。ここでも狙いは手続の安定である。

ただし、本人にとって影響が特に大きい行為は別だ。民訴55条2項は、反訴・訴えの取下げ・和解・請求の放棄や認諾・控訴や上告の提起や取下げ・復代理人の選任などについては、特別の委任を受けなければできないとする(特別委任事項)。これらは訴訟の帰趨そのものを左右し、本人の権利を直接処分することになるので、包括的な委任だけでは足りず、本人の個別の授権を求めるわけだ。「一切できるのが原則、しかし本人の運命を決める行為だけは特別の委任が要る」——55条1項と2項の関係をこう押さえる。

訴訟代理権の消滅(58条1項)——民法111条の「逆転現象」

最後が、この回の表題そのものだ。本人が死んでも、なぜ弁護士の代理権は消えないのか

民法の原則を思い出したい。民法111条は、代理権は本人の死亡によって消滅すると定める。本人が死ねば、その意思に基づく代理権も終わる——これが民法のルールだ。ところが訴訟の世界では、この結論がひっくり返る。

民訴58条1項は、訴訟代理権は、本人の死亡・訴訟能力の喪失、法定代理人の死亡・代理権の消滅などがあっても、消滅しないと定める。当事者が死んでも、選任していた弁護士の代理権はそのまま続くのだ。なぜか。訴訟は連続する多数の行為の積み重ねで、途中で代理権が突然消えると手続全体が宙に浮いてしまう。むしろ代理人がそのまま手続を続けられたほうが、相続人にとっても相手方にとっても安定する。だから、本人の死亡という民法なら代理権消滅の典型事由を、訴訟法はあえて消滅事由から外す。民法111条と正反対の結論になることから、これを「逆転現象」と押さえておくとよい。

これも突き詰めれば、この回の全体を貫いてきた訴訟手続の安定という一本の糸に行き着く。補充・拡張の2つの働きも、特別代理人や代表者準用も、代理権不制限の原則も、そして本人の死で代理権が消えないことも——すべては「動き出した手続を、途中で崩さない」ための工夫だった。

短答ひっかけ

  • 訴訟上の代理の2つの働き=補充(訴訟無能力者を支える)と拡張(能力ある本人を手伝う)。選ばれ方で法定代理人(法律の規定)と任意代理人(本人の委任)に分かれる。
  • 特別代理人(35条)=法定代理人がいない等の場合に相手方の申立てで裁判所が選任。手続を止めないための制度。
  • 法人の代表者(37条)=法定代理・法定代理人の規定を準用。代表者は訴訟上、法定代理人に準じて扱う。
  • 弁護士代理の原則(54条1項)=原則として弁護士でなければ訴訟代理人になれない。例外=簡易裁判所は裁判所の許可で非弁護士も可。支配人など「法令により裁判上の行為ができる代理人」は別系統。
  • 代理権不制限の原則(55条1項)=委任を受けた事件は一切の訴訟行為ができる。ただし特別委任事項(55条2項)=反訴・訴えの取下げ・和解・請求の放棄/認諾・上訴の提起/取下げ・復代理人選任などは特別の委任が必要。1項と2項を混同しない。
  • 58条1項の逆転現象=民法111条では本人の死亡で代理権が消滅するのに、訴訟代理権は本人の死亡等でも消滅しない。原則と例外を逆にしない。趣旨=手続の安定。

📝 論文の型

この回は訴訟上の代理の地図を作る解説(理解)回。制度の所在と条文の骨格を示し、規範定式・あてはめは対応する論文回で実演する。

  • 代理権の範囲と特別委任事項(55条)——不制限の原則(55条1項)を前提に、問題の行為が特別委任事項(55条2項)に当たるかを条文に照らして判定し、特別の委任の有無で有効・無効を振り分ける骨格。訴えの取下げ・和解・請求の放棄認諾が典型。
  • 訴訟代理権の消滅事由(58条1項)——民法111条との違いを意識し、本人の死亡・訴訟能力喪失などが訴訟代理権を消滅させない(手続安定の趣旨)ことを踏まえて、代理人の行為の効力を論じる筋。
  • 法人代表者・特別代理人の位置づけ(35条・37条)——法定代理人に準じる扱い(37条準用)や、特別代理人の選任(35条)を、手続を止めないという趣旨から説明する整理。

今日の地図(保存版)

  • 2つの働き:補充(訴訟無能力者を支える)/拡張(能力ある本人を手伝う)。
  • 法定代理人:法律の規定で代理権。典型=親権者。特別代理人(35条)=法定代理人不在時に裁判所が選任。法人代表者(37条)=法定代理人の規定を準用。
  • 任意代理人:本人の委任で選任。中心=弁護士。弁護士代理の原則(54条1項)(例外=簡裁の許可代理)。支配人等は「法令により裁判上の行為ができる代理人」=別系統。
  • 範囲(55条):1項=不制限の原則(委任事件は一切の訴訟行為)/2項=特別委任事項(反訴・取下げ・和解・放棄認諾・上訴・復代理人選任は特別の委任)。
  • 消滅(58条1項):本人の死亡・訴訟能力喪失・法定代理人の死亡等でも消滅しない(⇔民法111条=本人死亡で消滅)。逆転現象
  • 通底する軸:すべて訴訟手続の安定——動き出した手続を途中で崩さないための工夫。

第2編「主体」(裁判所・当事者)はこれで一区切り。次回 #5 からは第3編「訴訟の開始」——訴訟物・二重起訴の禁止・訴えの利益に入り、「何を・どこまで争うのか」を扱う。

参照条文

  • 民訴54条1項
  • 民訴55条
  • 民訴58条1項
  • 民訴35条
  • 民訴37条
  • 民法111条
  • 民法102条
  • 弁護士法25条

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