民訴ゼロから民訴#19

裁く人を替える——除斥・忌避・回避

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第1章 訴訟の開始 ⑲/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

除斥——法律上、当然に排除される

23条1項の6号列挙(客観的に決まる事実だから当然排除できる) 図:23条1項の6号列挙(客観的に決まる事実だから当然排除できる)

まず、除斥です。

条文民事訴訟法23条1項

民事訴訟法第23条1項(裁判官の除斥) 第二十三条 裁判官は、次に掲げる場合には、その職務の執行から除斥される。ただし、第六号に掲げる場合にあっては、他の裁判所の嘱託により受託裁判官としてその職務を行うことを妨げない。 一 裁判官又はその配偶者若しくは配偶者であった者が、事件の当事者であるとき、又は事件について当事者と共同権利者、共同義務者若しくは償還義務者の関係にあるとき。 二 裁判官が当事者の四親等内の血族、三親等内の姻族若しくは同居の親族であるとき、又はあったとき。 三 裁判官が当事者の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。 四 裁判官が事件について証人又は鑑定人となったとき。 五 裁判官が事件について当事者の代理人又は補佐人であるとき、又はあったとき。 六 裁判官が事件について仲裁判断に関与し、又は不服を申し立てられた前審の裁判に関与したとき。

配偶者、四親等内の血族、後見人、証人になったとき——前審の裁判に関わっていたときなど、6つのパターンが列挙されています。前審というのは、その事件の、前の審級のことです。第一審に関わった裁判官が、控訴審でその判断を審査することはできない、ということです。法律上当然に、その裁判官は職務の執行から除斥されます。忌避と違って、当事者の申立てを待つ必要がありません。事実に当てはまれば、それだけで法律上、当然に排除されます。ただ、当てはまるかどうかで争いになることはあります。裁判所が除斥の裁判をします。23条2項です。申立てでも職権でもできます。

そこが大事なところです。その裁判は、排除するかどうかを決めるものではありません。すでに法律上生じている排除を、確かめる裁判です。ここでも、前回の移送で使った軸——動かす根拠が、客観的な事実か、評価が要る事情か——が効いています。配偶者かどうか、四親等内の血族かどうかは、客観的に決まっている事実です。誰が見ても同じ答えになる。だから、法があらかじめ列挙して、機械的に排除できるんです。

除斥の設例(Pさんの取引先を相手にした訴訟で、担当裁判官の一人がPの実兄) 図:除斥の設例(Pさんの取引先を相手にした訴訟で、担当裁判官の一人がPの実兄)

具体例で考えましょう。Mさんの知り合いのPさんが、取引先を相手に——売買代金を求める訴えを起こしたとします。ところが、審理を担当する裁判官の一人が、実はPさんの実の兄でした。四親等内の血族にあたるので、この裁判官は当然に除斥されます。Pさんが何も申し立てなくても、法律上、この裁判官はその事件を担当できません。

忌避——申立てと裁判で、初めて排除される

24条1項(除斥に当たらない事情を、一般条項で拾う制度) 図:24条1項(除斥に当たらない事情を、一般条項で拾う制度)

除斥事由に当てはまらなくても、公正が心配な場面はあります。それが忌避です。

条文民事訴訟法24条

民事訴訟法第24条(裁判官の忌避) 第二十四条 裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる。 2 当事者は、裁判官の面前において弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判官を忌避することができない。ただし、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない。

除斥のようにあらかじめ全部を列挙しきれない事情を、この一般条項で拾います。当事者の申立てを待って、裁判で判断します。そこが大きな違いです。除斥は当然に排除されますが——忌避は、当事者が申し立てて、裁判所がその事情を審査して初めて——職務執行ができなくなります。

なぜ忌避だけ手続きが要るか(評価が要る事情だから/2項の権利失効) 図:なぜ忌避だけ手続きが要るか(評価が要る事情だから/2項の権利失効)

「公正を妨げるべき事情」は、客観的に決まっている事実ではなく、評価が要るからです。本当に公正が損なわれる程度の事情かどうかは、個別に見なければ分かりません。だから、当事者の申立てと、裁判所の審査という手続きを踏むんです。1つ、2項に権利を失う場合の規定もあります。裁判官の面前で弁論をしたり、弁論準備手続で述べたりした後は、原則として忌避できません。ただし、忌避の原因を知らなかったときや、原因がその後に生まれたときは別です。では、どんな事情が忌避の理由になるのか、具体例で考えましょう。

忌避の設例(担当裁判官が被告側代理人の学生時代からの親友だと判明) 図:忌避の設例(担当裁判官が被告側代理人の学生時代からの親友だと判明)

別の事件で、担当裁判官が、被告側の代理人と——学生時代からの親友だと分かったとします。配偶者でも血族でもないので、除斥事由には当たりません。それでも、公正への疑いが生まれる場面です。こういう事情は、忌避の申立ての対象になりえます。さっきの2項です。事情を知ったうえで弁論をしてしまえば、もう忌避は申し立てられません。ここで、実際にこの基準を示した判決を見てみましょう。

判例民集9巻1号83頁・昭和30年1月28日・百選4

最高裁判所第二小法廷判決(立木売買契約存在確認請求事件) 原審の裁判長を務めた裁判官が、原審における相手方(被上告組合)の訴訟代理人の女婿であった事案。上告人はこの関係が裁判の公正を妨げる事情にあたると主張したが、最高裁は——女婿であるという事実だけでは、除斥事由にも、裁判の公正を妨げるべき事情にもあたらないとして、上告を棄却した。 忌避を認めた事例ではなく忌避事由にあたらないとした事例である。

この事件では、控訴審の裁判長を務めた裁判官が——相手方の訴訟代理人の、娘の夫にあたる人でした。上告した側は、この関係が裁判の公正を妨げる事情にあたる、と主張しました。この判決の結論は、正確に言う必要があります。忌避を認めた事例ではありません。相手方代理人の女婿であるという事実だけでは——裁判の公正を妨げるべき事情にはあたらない、として、上告を退けています。

忌避事由の判定基準(疑いが当事者の思い込みにとどまらず、誰から見ても筋が通っていること) 図:忌避事由の判定基準

この判決が示したのは、忌避事由をどう判定するか、という一般的な物差しです。相手と長い付き合いがあるとか、その裁判の結果でお金が入る立場にいる、といった事情です——公正への疑いが、当事者の思い込みにとどまらず、誰から見ても筋が通っていること。これが基準です。基準は示しつつ、この事案そのものの結論は、忌避を退けた事例です。さっきの、親友の代理人という設例は——誰から見ても筋が通っている疑いに近づく可能性がある例として、挙げたものです。では、最初のMさんの事件はどうなるでしょう。その「近い関係」が、たとえば四親等内の血族なら、23条で当然に外れます。そこに当たらない付き合いなら、忌避を申し立てて、いま見た基準で裁判所に判断してもらうことになります。

除斥/忌避の対比(当然排除される除斥/申立てと裁判で排除される忌避) 図:除斥/忌避の対比(当然排除される除斥/申立てと裁判で排除される忌避)

最後に、除斥と忌避を並べておきましょう。除斥は、あらかじめ法が列挙した事由に当てはまれば、当然に排除されます。忌避は、申立てと裁判という手続きを経て、初めて職務執行ができなくなります。客観的な事実か、評価が要る事情か。この軸が、人を動かす場面でも——同じように効いています。

除斥・忌避の手続と、自分から退く回避

誰がどんな形式で除斥・忌避を裁くか+審査中は手続を止める 図:誰がどんな形式で除斥・忌避を裁くか+審査中は手続を止める

除斥や忌避が問題になったとき、誰がどう判断するのか、手続きも押さえておきましょう。

論文で書く規範:25条・26条——除斥・忌避の裁判と、手続の停止 除斥・忌避についての裁判は、その裁判官の所属する裁判所が決定で行う(地裁では合議体)。対象の裁判官は、この裁判に関与できない。理由があるとする決定には不服申立てができず、理由がないとする決定には即時抗告ができる(25条)。 申立てから決定確定までは、急を要する行為を除き、訴訟手続を停止しなければならない(26条)。 (民事訴訟法25条・26条)

除斥や忌避についての裁判は、その裁判官が所属する裁判所が、決定という形で行います。Pさんの事件なら、実兄が裁判官だった、その地裁自身が判断します。地裁の場合は、合議体で審理します。対象の裁判官は、自分の除斥や忌避の裁判には関与できません。もう1つ、理由があると認める決定には、不服を申し立てられません。理由がないとする決定には、即時抗告ができます。理由があるとされた側は、その裁判官が抜けるだけで、当事者は困りません。理由がないとされた側は、公正が心配なまま審理を受けることになるので、争う道を残すんです。そして、申立てがあってから決定が確定するまでは——急を要する行為を除いて、訴訟手続きを止めなければなりません。26条です。

論文で書く規範:回避——民事訴訟規則12条 裁判官は、除斥・忌避の事由があることを自ら認め、監督権を有する裁判所の許可を得て、回避することができる。 根拠は民事訴訟規則12条——法律ではなく規則である点に注意。 (民事訴訟規則12条)

最後に、回避です。除斥や忌避のように他人から言われるのではなく、自分から気づいて身を引く点が違います。自分の判断だけで降りられるわけではありません。そこが次の話です。裁判官自身が、除斥や忌避の事由があると自分で認めて——監督権を持つ裁判所の許可を得て、自分から身を引きます。ただし、これは法律ではなく、民事訴訟規則12条が根拠です。除斥や忌避は、当事者が争って裁判で決める話なので、法律に置かれています。回避は、裁判官が自分から外れて、監督する裁判所が許可するだけ——当事者が争う場面がありません。だから、規則で足りるんです。

公正の担保が及ぶ範囲と、除斥を破ったときの重さ

及ぶ範囲(裁判所書記官27条/専門委員92条の6/裁判所調査官92条の9) 図:及ぶ範囲(裁判所書記官27条/専門委員92条の6/裁判所調査官92条の9)

この公正の担保は、裁判官だけの話ではありません。

論文で書く規範:及ぶ範囲——書記官・専門委員・裁判所調査官 除斥と忌避は、裁判官だけの制度ではない。事件の行方に関わる立場である以上、公正さが疑われては困るのは同じだからだ。この趣旨は、裁判所書記官(27条)にも、審理に加わる専門委員(92条の6)にも、知的財産事件を扱う裁判所調査官(92条の9)にも及ぶ。 法(27条・92条の6・92条の9)が準用しているのは除斥と忌避回避も同じように及ぶが、その根拠は民事訴訟規則の側にある(裁判官の回避=規則12条、裁判所書記官=規則13条)。 (民事訴訟法27条・92条の6・92条の9)

裁判所書記官にも、除斥と忌避の規定が準用されます。27条です。書記官がPさんの実兄なら、同じように、当然に除斥されます。この規定は、裁判官の除斥や忌避と同じ働きをします。裁判に関与する専門委員や——専門委員というのは、専門的な知識が要る事件で、審理に加わってもらう外部の専門家です。中身は、争点整理を扱う回で見ます。ここでは、公正の担保がここにも及ぶ、ということだけ押さえてください。知的財産の事件を担当する裁判所調査官にも、同じように及びます。

除斥違反の効果(絶対的上告理由312条2項2号/再審事由338条1項2号) 図:除斥違反の効果(絶対的上告理由312条2項2号/再審事由338条1項2号)

最後に、除斥事由がある裁判官が判決に関わってしまったらどうなるか、一言だけ触れます。

論文で書く規範:除斥違反の効果——絶対的上告理由・再審事由 除斥事由がある裁判官が判決に関与したことは、絶対的上告理由(312条2項2号)にあたり、確定後は再審事由(338条1項2号)にもなる。 (民事訴訟法312条2項2号・338条1項2号)

法律上、判決に関与できない裁判官が関与したことは、絶対的な上告理由になります。他の理由を問わず、それだけで上告理由として扱われる、という重い意味です。判決が確定した後でも、再審の事由になります。実兄が気づかずに判決まで関わってしまった場合が、まさに絶対的上告理由にあたります。判決が確定していれば、再審の事由にもなります。除斥は当然に排除される分、破ったときの効果も重いんです。ここは、上告や再審を扱う回で、あらためて詳しく見ます。

裁判所をめぐる話を、1枚の地図に畳む

裁判所をめぐる話の地図(裁判権→管轄4種→決める主体→任意と専属→調査と恒定→移送・除斥忌避回避) 図:裁判所をめぐる話の地図

さて、ここまでで、「どこの裁判所で、誰が裁くのか」という話を、全部見終えました。地図として畳んでおきましょう。まず、裁判権があるかどうかから始まりました——日本の裁判所がその事件を裁けるか、という話です。そこから、職分・事物・土地・審級という、管轄の4種類に分かれました——役割・金額・場所・何審目か、の違いです。それを決める主体は、法定・合意・応訴・指定の4通りでした——応訴は当事者の行動、指定は上級裁判所が例外的に決めるものです。動かせるかどうかで、任意管轄と専属管轄——当事者の便宜の線か、公益の線かに分かれ——裁判所は、この管轄を調査し、訴えの提起の時で固定します——職権調査事項と、管轄の恒定です。そして、事後にもう一度動かす方法——移送は前回。人を動かす方法——除斥・忌避・回避を、今日見ました。

送り先一覧(21条即時抗告・17条移送と二重起訴・判決の種類・専門委員の中身) 図:送り先一覧(21条即時抗告・17条移送と二重起訴・判決の種類・専門委員の中身)

今日見てきた話は、いくつか先の回にもつながっています。移送の裁判への即時抗告は、抗告を扱う回で。17条の移送は、二重に起こされた訴えをまとめる場面でも、もう一度出てきます。裁判の種類や、訴訟要件の整理は、判決を扱う回で。専門委員の中身は、争点整理を扱う回で。それだけ、この裁判所をめぐる話が、ここまでの土台になっている、ということです。

今日のまとめ

今日のまとめ(除斥=当然排除/忌避=申立てと裁判/回避=自ら退く/分かれ目は事実か評価か) 図:今日のまとめ

  • 除斥=当然排除
  • 忌避=申立てと裁判
  • 回避=自ら退く
  • 分かれ目は事実か評価か

今日は、審理を担当する裁判官を替える、3つの方法を見ました。客観的に固まった事実で決まる除斥は、申立てを待たず、法律上、当然に排除されます。公正を妨げるかどうかという評価が要る忌避は、当事者の申立てと裁判所の判断が要ります。回避は、裁判官自身が事由を認めて、自分から身を引く方法でした。民事訴訟規則12条という、規則が根拠でした。そして、除斥と忌避を分けたこの物差し——事実で決まるか、評価が要るかは、前回見た移送の分かれ目と、同じものでした。必ず移さなければならないのが必要的、移すかどうかを裁判所が決めるのが裁量——その線引きです。

今日はここまでです。

参照条文

  • 民事訴訟法23条1項
  • 民事訴訟法24条

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