民訴ゼロから民訴#37

答弁書と第1回口頭弁論期日・申立て・主張・立証

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第2章 訴訟の審理 ㊲/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

800万円は返す約束か、それとももらったものか

冒頭事案の関係図(Xは取引先の代表者Yに800万円を貸した。弁済期は半年後。期限が来てもYは返さず、Yは「あれは借りたのではなく、もらったものだ」と主張する) 図:冒頭事案の関係図

Xさんは、取引先の代表者であるYさんに800万円を貸しました。半年後に返してもらう約束でした。ところが期限が来ても、Yさんは返しません。理由を聞くと、Yさんはこう言います。あれは借りたのではなく、もらったものだ。争いになっているのは、お金を渡したという事実そのものではなく、返す約束をしたかどうかです。Xさんは訴えを起こすことにしました。訴えを起こしたその日に、法廷で言い合いが始まるわけではありません。訴状を出してから、実際に法廷で顔を合わせるまでには、いくつかの段取りがあります。そして、Yさんが最初にすることは、反論ではなく、訴状に書かれた事実を1つずつ認めるかどうかの申告です。この申告の仕方によって、この裁判で本当に争われる部分がどこなのかが、初めて絞り込まれます。今日は、訴状が届いてから第1回の口頭弁論の期日までを追いながら、民事裁判を組み立てている3階建ての構造を見ていきます。

訴状が出てから答弁書が届くまで

審理の流れの板(訴状提出→訴状審査(137条)→期日指定(139条・規60条2項)→送達→進行照会(規61条)→答弁書提出(規80条)→第1回口頭弁論期日) 図:審理の流れの板

Xさんが訴状を裁判所に出すと、まず裁判長が訴状を審査します。

条文民事訴訟法137条

民事訴訟法第137条(裁判長の訴状審査権) 訴状が第百三十四条第二項の規定に違反する場合には、裁判長は、相当の期間を定め、その期間内に不備を補正すべきことを命じなければならない。 2 前項の場合において、原告が不備を補正しないときは、裁判長は、命令で、訴状を却下しなければならない。 3 前項の命令に対しては、即時抗告をすることができる。

訴状の回で見たとおり、必要な事項が欠けていれば裁判長が補正を命じ、それでも直らなければ訴状は却下されます。逆に言えば、ここを通り抜けた訴状だけが、審理という時間軸に乗ります。審査を通ると、裁判長は口頭弁論の期日を指定します。

条文民事訴訟法139条

民事訴訟法第139条(口頭弁論期日の指定) 訴えの提起があったときは、裁判長は、口頭弁論の期日を指定し、当事者を呼び出さなければならない。

最初の期日には、目安があります。

条文民事訴訟規則60条2項

民事訴訟規則第60条2項(最初の口頭弁論期日の指定) 前項の期日は、特別の事由がある場合を除き、訴えが提起された日から三十日以内の日に指定しなければならない。

訴えを起こした日から、原則として30日以内に指定されます。訴えを起こしてから何ヶ月も放置されると、当事者は不安なままですし、記憶や証拠も薄れていきます。早く期日を決めることで、審理全体を迅速に進める姿勢を作っています。ただし、被告が答弁を準備する時間も必要なので、極端に早すぎてもいけません。30日という数字は、そのバランスの目安です。期日が決まると、訴状の副本と、この期日に来てくださいという呼出状が、被告のYさんに送られます。送達の回で見たとおり、この送達があって初めて、Yさんは自分が訴えられていることを知ります。ここで初めて知らされるからこそ、Yさんには防御の準備をする機会が保障されます。送達を抜きにして手続を進めることはできません。それから、期日を指定する前に、裁判長は当事者から進行についての意見を聞くことができます。

条文民事訴訟規則61条

民事訴訟規則第61条(最初の口頭弁論期日前における参考事項の聴取) 裁判長は、最初にすべき口頭弁論の期日前に、当事者から、訴訟の進行に関する意見その他訴訟の進行について参考とすべき事項の聴取をすることができる。 2 裁判長は、前項の聴取をする場合には、裁判所書記官に命じて行わせることができる。

裁判所書記官に行わせることもできます。この段階で、当事者の予定や、争いになりそうな点をあらかじめ把握しておくと、期日そのものが実りあるものになります。いまの一言でいうと、訴状が出てから第1回期日までは、裁判所が形式を整え、当事者に知らせ、進め方を調整する準備の期間です。まだ争いの中身には入っていません。

答弁書——被告が最初に出す準備書面

答弁書の中身の板(答弁書=被告が最初に出す準備書面(規80条)/記載事項/請求の趣旨に対する答弁/訴状記載事実への認否/抗弁事実/重要な間接事実/証拠) 図:答弁書の中身の板

  • 答弁書=被告が最初に出す準備書面(規80条)
  • 記載事項
  • 請求の趣旨に対する答弁
  • 訴状記載事実への認否
  • 抗弁事実
  • 重要な間接事実
  • 証拠

訴状の副本を受け取ったYさんは、期日までに答弁書という書面を出します。

条文民事訴訟規則80条

民事訴訟規則第80条1項・2項(答弁書) 答弁書には、請求の趣旨に対する答弁を記載するほか、訴状に記載された事実に対する認否及び抗弁事実を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならない。やむを得ない事由によりこれらを記載することができない場合には、答弁書の提出後速やかに、これらを記載した準備書面を提出しなければならない。 2 答弁書には、立証を要する事由につき、重要な書証の写しを添付しなければならない。やむを得ない事由により添付することができない場合には、答弁書の提出後速やかに、これを提出しなければならない。

まず、Xさんの請求そのものに対する答弁です。今回であれば、請求を棄却してほしいという申立てになります。それに加えて、訴状に書かれた事実を1つずつ認めるかどうか、そして証拠を書きます。Yさんは請求棄却を求めたうえで、Xさんが訴状に書いた事実を、1つずつ認めるか否かの答えを返します。この答え方こそが、今日の1つ目の核心です。半分正しくて、半分足りません。答弁書は2つの層でできています。1つは、Xさんの申立てそのものに対する応答、つまり請求を認めるか退けるかという層です。もう1つは、Xさんが主張した個々の事実に対する応答、つまり認否の層です。この2層構造は、このあと見る3階建ての構造と、ちょうど対応しています。もし答弁書が期日までに出ず、Yさんが期日にも来なかったらどうなるか。これは、このあと見る第1回期日の場面で扱います。

答弁書の認否——4つに分かれる

認否4類型の板(認める=裁判上の自白/否認=理由付否認(規79条3項)/不知=争ったものと推定(159条2項)/沈黙=自白したものとみなす・擬制自白(159条1項)) 図:認否4類型の板

  • 認める=裁判上の自白
  • 否認=理由付否認(規79条3項)
  • 不知=争ったものと推定(159条2項)
  • 沈黙=自白したものとみなす・擬制自白(159条1項)

訴状に書かれた1つの事実に対して、被告の答え方は4種類にしか分かれません。友人から連絡が来たときの返し方だと考えてみてください。「そうだね」と答える、「それは違う、こういうことだ」と理由を付けて答える、「そんな話は知らない」と答える、そして既読のまま何も返さない。この4つです。

不知と沈黙の対比の板(不知=159条2項/知らないと述べる=争ったものと推定/沈黙=159条1項/争うことを明らかにしない=自白したものとみなす・擬制自白/ただし書=弁論の全趣旨から争ったと認めるべきときはこの限りでない) 図:不知と沈黙の対比の板

  • 不知=159条2項
  • 知らないと述べる=争ったものと推定
  • 沈黙=159条1項
  • 争うことを明らかにしない=自白したものとみなす・擬制自白
  • ただし書=弁論の全趣旨から争ったと認めるべきときはこの限りでない

ここからは、不知と沈黙を並べて見ていきます。

条文民事訴訟法159条

民事訴訟法第159条(自白の擬制) 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。 2 相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。 3 第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

争う姿勢をはっきり示さないと、その事実を自白したものとみなされます。これを擬制自白と呼びます。気持ちは分かります。ですが裁判所には、黙っている理由が分かりません。争っているなら争っていると言えばよいだけです。それを言わない以上、争いが無いものとして扱うほかないのです。既読のまま黙っていれば、相手はいつまでも納得したと受け取るしかないのと同じです。弁論の全趣旨から争ったと認めるべきときは、擬制しません。たとえば、期日で他の事実については激しく争っておきながら、1つの事実についてだけ言及を忘れていた、というような場合です。全体の様子から見て争う意思が明らかなら、たった1つの言い漏らしを自白の扱いにはしません。

不知は、擬制自白とは違います。知らないと述べた場合は、争ったものと推定されるにとどまります。知らないと言っただけで争ったことになるのは、少なくとも「その事実はそのとおりです」とは言っていないからです。知らないという答えは、相手の事実をそのまま受け入れる態度ではありません。だから、争う姿勢の一種として扱われます。ただ、積極的に理由を示して否定しているわけでもないので、争いの強さとしては、否認より一段弱い扱いになります。擬制と推定には強さの違いがあります。推定は、後から反証すれば覆せる仮の扱いです。擬制は、その口頭弁論の期日での態度のままなら、覆らない扱いになります。そして否認は、はっきり争う場合です。ただし、ただ否認するだけでは足りません。

理由付否認の板(否認=争う意思を正面から示す/理由付否認=規79条3項/理由を示すことで争点が具体的な事実まで絞られる/「もらった」=返還の約束を正面から否定=理由付否認/抗弁との違いは別の事実を持ち出すかどうか) 図:理由付否認の板

  • 否認=争う意思を正面から示す
  • 理由付否認=規79条3項
  • 理由を示すことで争点が具体的な事実まで絞られる
  • 「もらった」=返還の約束を正面から否定=理由付否認
  • 抗弁との違いは別の事実を持ち出すかどうか

ここで、理由付否認の条文を見てみましょう。

条文民事訴訟規則79条3項

民事訴訟規則第79条3項(準備書面) 準備書面において相手方の主張する事実を否認する場合には、その理由を記載しなければならない。

これを理由付否認と呼びます。理由まで求められるのは、ただ「違います」とだけ言われても、何が争点なのかが絞れないからです。理由を書かせることで、否認が単なる時間稼ぎではなく、具体的な言い分だと分かるようにしています。相手方も、どこを争えばよいかが分かり、審理が具体的な事実のレベルまで絞り込まれます。ここで、冒頭のYさんの答弁を思い出してください。Yさんは、お金を受け取ったこと自体は認めます。しかし、返す約束をしたことは否認し、あれはもらったものだという理由を付けます。証明不要で確定する事実と、争点として残る事実が、答弁書1通のなかで一度に決まります。

Yさんの「もらった」という言い方が、否認なのか、それとも別の主張なのかを考えてみましょう。相手の主張する事実を、正面から「そんな事実は無かった」と打ち消すのが否認です。これに対して、相手の事実はいったん置いたうえで、それとは別の新しい事実を持ち出して結論を覆そうとするものを抗弁と呼びます。Yさんの「もらった」は、返還の約束という事実を正面から否定する言い方をしているので、ここでは理由付否認として扱っています。ただ、贈与という別の事実を持ち出す形になれば抗弁に近づくこともあり、否認と抗弁の線引きは、また別の回で扱います。いまの一言でいうと、答弁書の認否は、事実1つひとつを、証明不要にするか争点にするかの仕分け作業です。仕分けの結果しだいで、この先の審理の範囲がまるごと決まります。

第1回口頭弁論期日——欠席しても手続は止まらない

陳述擬制の板(原告が欠席=訴状の記載内容を陳述したものとみなす/被告が欠席=答弁書の記載内容を陳述したものとみなす/どちらも158条・最初の口頭弁論期日限定) 図:陳述擬制の板

  • 原告が欠席=訴状の記載内容を陳述したものとみなす
  • 被告が欠席=答弁書の記載内容を陳述したものとみなす
  • どちらも158条・最初の口頭弁論期日限定

答弁書が出そろうと、第1回の口頭弁論期日を迎えます。この期日は、裁判所が主導して進行を仕切ります。

条文民事訴訟法158条

民事訴訟法第158条(訴状等の陳述の擬制) 原告又は被告が最初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしないときは、裁判所は、その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし、出頭した相手方に弁論をさせることができる。

出した書面に書いてある内容を、その場で述べたものとみなして、手続を進めることができます。訴状や答弁書という書面を先に出させているからこそ、片方が欠席しても、審理を止めずに進められます。この扱いは、どの期日でも使えるわけではありません。これが働くのは、条文が書いているとおり、最初にすべき口頭弁論の期日、つまり第1回の期日です。2回目以降の続行期日には、原則として及びません。前に陳述擬制を扱った回で見たとおり、この仕組みが置かれているのは、第1回期日はまだ当事者の予定が十分にすり合っていないことも多く、欠席のたびに手続を止めていては訴訟が進まないからでした。加えて、最初の期日だけに限られる理由も、2つあります。1つは、初めての期日にたまたま都合がつかなかっただけで、いきなり大きな不利益を受けるのは酷だからです。まだ準備の途中の段階なので、書面の内容をそのまま陳述したことにする、という穏やかな救済で足ります。もう1つは、もしこの扱いを続行期日にまで広げてしまうと、出頭しない側のほうが手続を長引かせて得をする、という逆転した動機が生まれてしまうからです。準備の場を重ねたあとの続行期日で欠席した場合の扱いは、これとは別の規律になり、別の回で扱います。いまの一言でいうと、最初の期日は、書面さえ出しておけば手続が止まらない安全網が用意されています。それだけ、訴状と答弁書という書面の中身が重く扱われている、ということです。

なぜ法廷を開かなければならないのか

口頭弁論を支える原則の板(必要的口頭弁論の原則=87条1項本文/口頭弁論の場を支える原則/公開主義/双方審尋主義/口頭主義/直接主義) 図:口頭弁論を支える原則の板

  • 必要的口頭弁論の原則=87条1項本文
  • 口頭弁論の場を支える原則
  • 公開主義
  • 双方審尋主義
  • 口頭主義
  • 直接主義

そもそも、なぜ判決の前に必ず法廷を開く必要があるのでしょうか。

条文民事訴訟法87条1項本文

民事訴訟法第87条1項本文(口頭弁論の必要性) 当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。

これを必要的口頭弁論の原則と呼びます。書面だけで判断を済ませず、当事者が顔を合わせる場を必ず設ける、という姿勢の表れです。中身は別の回で扱います。口頭弁論の場を支えるほかの決まりとして、4つあります。裁判を傍聴できる形で開く公開主義。一方の言い分だけで決めず、双方に言い分を述べる機会を与える双方審尋主義。書面ではなく口で述べたことを判決の資料にする口頭主義。そして、判決を書く裁判官自身がその審理に立ち会う直接主義です。どれも名前だけにとどめ、それぞれの中身はあらためて扱います。

申立て・主張・立証——民事裁判は3階建て

3階建て構造の板(【申立て】訴訟物=貸金返還請求権/【主張】主要事実=①返還の約束②金銭の交付(民587条の成立要件から逆算)/【立証】証拠=借用書の写真データ・振込明細/中段と下段をまとめて事実認定) 図:3階建て構造の板

  • 【申立て】訴訟物=貸金返還請求権
  • 【主張】主要事実=①返還の約束②金銭の交付(民587条の成立要件から逆算)
  • 【立証】証拠=借用書の写真データ・振込明細
  • 中段と下段をまとめて事実認定

ここからが、今日の背骨です。口頭弁論の中心にあるのは、当事者による3段階の行為です。申立て、事実の主張、そして立証です。たとえるなら、友人に頼まれて前に食べた料理をもう一度作ってあげる場面に近いです。まず、何を完成させるかという料理名を決めます。これが申立てです。次に、その料理のレシピを見て、必要な材料を1つずつそろえます。これが主張です。最後に、実際にその材料を使ったことを示す、買い物のレシートを用意します。これが立証です。だから、2段目の主張は必ず、1段目の申立てから逆算して決まります。今回の申立ては、貸したお金を返してほしいという貸金返還請求権です。訴訟物の回で見たとおり、この申立ての中身にあたる特定の実体法上の権利のことを、訴訟物と呼びます。この請求権のレシピにあたるのが、民法の条文です。

何を主張すべきかという中身は、訴訟法のどこを探しても出てきません。訴訟法が決めているのは、どういう手順で争うか、どう認否をするか、という進め方だけです。中身を教えてくれるのは、権利そのものを定めている実体法、つまり民法です。

条文民法587条

民法第587条(消費貸借) 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

レシピを見ると、材料は2個あります。条文のなかの「返還をすることを約して」という部分が1つ目の材料、「金銭その他の物を受け取る」という部分が2つ目の材料に対応します。1つは、返す約束をしたこと。もう1つは、お金その他の物を受け取ったことです。この2つがそろって初めて、消費貸借という料理が完成します。だから、Xさんが主張しなければならない事実も、この2つに決まります。要件事実の回で見たとおり、こうして条文の要件から取り出した具体的な事実を、主要事実と呼びます。そして最後に、この2つの事実を証拠で裏付けます。返す約束をしたことを示す、借用書を撮影した写真データ。そして、お金を渡したことを示す、振込明細です。この、主張と立証の部分をあわせて、事実認定と呼びます。

2方向で見ると分かりやすいです。上から下へたどると、訴訟物を実現するには主要事実が要り、その主要事実を裁判所に認めてもらうには証拠が要る、という順番です。下から上へたどると、証拠が主要事実を裏付け、主要事実がそろって初めて訴訟物という結論を根拠づける、という順番になります。どちらから見ても、3つの階が1本の柱でつながっています。冒頭のXさんとYさんの事案にあてはめてみましょう。Yさんは、お金を受け取ったことは認めています。つまり2つ目の材料は、争いがありません。争いがあるのは、返す約束をしたかどうか、1つ目の材料だけです。

争いのない事実は、証明が要らない

自白と否認の対比の板(自白=争わない/効果=裁判上の自白が成立/証明の要否=不要(179条)/否認・不知=争う/効果=争点として残る/証明の要否=証拠調べが必要) 図:自白と否認の対比の板

  • 自白=争わない
  • 効果=裁判上の自白が成立
  • 証明の要否=不要(179条)
  • 否認・不知=争う
  • 効果=争点として残る
  • 証明の要否=証拠調べが必要

ここで、先ほどの認否4類型が効いてきます。認めるということは、裁判上の自白が成立するということでした。

条文民事訴訟法179条

民事訴訟法第179条(証明することを要しない事実) 裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

お金を受け取ったことについて、Xさんはこれから証明する必要があるように思えますが、実は、証明する必要はありません。裁判上の自白が成立した事実は、証明が不要になります。裁判所は、その事実をそのまま認定します。争いがないのなら、証拠を出させて争わせる意味が無いからです。争っている事実は、証明が不要になりません。証拠調べを経て、裁判所がその事実はあったと思えるかどうかを、だんだん固めていく対象として残ります。この、裁判官の頭のなかにできる確からしさの度合いを、心証と呼びます。同じ答弁書のなかでも、自白が成立した事実と、争点として残る事実とで、この先の扱いがまったく分かれるわけです。

今回の事案でいえば、残るのは、返す約束をしたかどうか、この1点だけです。ここで大事なのは、訴状を出した時点では、この争点がどこになるかは誰にも分かっていないということです。答弁書の認否を経て、初めて争点は絞り出されます。訴状に争点が書いてあるわけではありません。

裁判をするのに熟したとき——終局判決へ

終局判決までの流れの板(争いのある事実→証拠調べ→心証の形成→裁判をするのに熟した→終局判決(243条1項)) 図:終局判決までの流れの板

争いのある事実について、裁判所は証拠調べを重ね、心証を固めていきます。そして、これ以上審理を続ける必要が無いと判断したとき、判決を出します。

条文民事訴訟法243条1項

民事訴訟法第243条1項(終局判決) 裁判所は、訴訟が裁判をするのに熟したときは、終局判決をする。

争点について心証が固まり、これ以上ためらう必要が無い状態、というイメージです。ただ期日を重ねるだけでは、争点がぼやけたまま長引く審理になりかねません。だからこそ、争点を早い段階で絞り込む手続が、この先に用意されています。

今日の地図(保存版)

第2章のこの先の地図の板(口頭弁論の中身/弁論主義/主要事実の見分け方/続行期日の規律/証拠調べ) 図:第2章のこの先の地図の板

  • 口頭弁論の中身
  • 弁論主義
  • 主要事実の見分け方
  • 続行期日の規律
  • 証拠調べ

今日の内容を、1本の線でまとめます。訴状を出すと、審査を経て期日が指定され、答弁書が届きます。答弁書の認否は、認める、否認、不知、沈黙の4つに分かれ、この答え方によって争点になる部分とならない部分が仕分けられます。冒頭のYさんは、お金を受け取ったことは認めて、返す約束だけを否認したんでしたね。そして、この仕分けの土台になっているのが、申立て、主張、立証の3階建ての構造です。何を求めるかという申立てから、実体法の条文の要件を逆算して主張すべき事実が決まり、その事実を証拠で裏付けます。争いのない事実は証明が不要になり、残った争いのある事実だけが、審理の先で決着をつけられます。

訴状の時点では見えていなかった争点が、答弁書を通ることで、はっきり形になったんですね。この先は、口頭弁論の中身や、誰が何を主張し証拠を出すべきかという弁論主義、そして争点をどう整理していくかという手続に進みます。Xさんの800万円の事案も、この先の回で一緒に育っていきます。

参照条文

  • 民事訴訟法137条
  • 民事訴訟法139条
  • 民事訴訟規則60条2項
  • 民事訴訟規則61条
  • 民事訴訟規則80条
  • 民事訴訟法159条
  • 民事訴訟規則79条3項
  • 民事訴訟法158条
  • 民事訴訟法87条1項本文
  • 民法587条
  • 民事訴訟法179条
  • 民事訴訟法243条1項

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