民訴ゼロから民訴#38

必要的口頭弁論と任意的口頭弁論・ウェブ会議

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第2章 訴訟の審理 ㊳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

争点は絞れた。では証人尋問はいつ開かれるのか

冒頭事案の関係図(Xは取引先の代表者Yに800万円を貸した。弁済期は半年後。争点は返す約束をしたかどうかの1点に絞れた。証拠=借用書の写真データ・振込明細) 図:冒頭事案の関係図

前回、Xさんの答弁書の認否をたどりました。Yさんは、お金を受け取ったこと自体は認め、返す約束をしたことだけを否認しました。この結果、争点はただ1点、返す約束をしたかどうかに絞れました。裁判上の自白が成立した事実は、証明することを要しません。前回見た179条の内容です。争いのない事実は確定し、残った争いのある事実だけが、これから先の証拠調べに進みます。ただ、争点が絞れたからといって、いきなりその日のうちに証人が呼ばれるわけではありません。尋問がいつ・どこで行われるのかを追いかけると、審理の後半の全体像と、そもそも法廷とは何なのかという2つの疑問に行き着きます。先に答えだけ言っておくと、判決の材料になるのは、法廷という場に出てきたものだけです。だから判決の前には、必ずその場を開かなければなりません。今日は、その理由を条文でたどっていきます。

審理の後半の地図——争点整理から集中証拠調べへ

審理後半のタイムライン板(第1回口頭弁論→争点整理期日(弁論準備手続)を数回→集中証拠調べのための口頭弁論→判決) 図:審理後半のタイムライン板

争点が絞れたあと、裁判所が何もせずにただ期日を重ねるだけだったらどうなるか、想像してみてください。同じ当事者が何度も法廷に呼ばれ、その都度ばらばらの話をするような審理が、かつて実際に問題になっていました。数か月おきに期日がぽつん、ぽつんと開かれるだけで、審理がなかなか進まない審理を、五月雨式審理と呼びます。さらに、主張と立証がかみ合わないまま行ったり来たりして、どこに向かっているのか誰にも分からなくなる審理を、漂流型審理と呼びます。そこで現行法は、争いのある事実と証拠をあらかじめふるい分けておく手続を用意しています。これを争点及び証拠の整理手続と呼びます。

この手続にはいくつか種類がありますが、実務で最もよく使われるのが弁論準備手続です。これは、公開の法廷ではなく、非公開の部屋で行われるインフォーマルな手続です。裁判官が法服を着ることもなく、書記官が同席しないことも珍しくありません。そこで裁判所と当事者が、この事件で本当に争うべき点はどこか、どの証拠をどう使うかを詰めていきます。この段階で、契約書のような文書の証拠調べも済ませてしまうのが通常です。契約書などの文書は、証人尋問のように時間をかけて聞き取る必要がなく、その場で示して確認すれば足ります。だから、争点整理の部屋のなかで、証拠調べの一部としてまとめて片付けてしまいます。中身はあらためて扱います。標準的な流れを1本の線にすると、こうなります。第1回口頭弁論のあと、争点整理期日が数回開かれ、争いのある事実と証拠が絞り込まれた段階で、あらためて口頭弁論の期日が指定されます。そこで、証人や当事者本人への尋問が、まとめて集中的に行われます。これを集中証拠調べと呼びます。

争点が絞られてから一気に証拠調べを行うことで、記憶が新しいうちに、争点にまっすぐ向き合った尋問ができます。証拠は大きく2つに分かれます。契約書や念書のような物証と、証言による人証です。それぞれの取調べ方の細かい規律は、別の回で扱います。いまの一言でいうと、争点整理を挟んでから集中証拠調べに向かう、という段取りが、五月雨式審理と漂流型審理への反省から生まれた、現在の審理の骨組みです。冒頭のYさんへの証人尋問も、この集中証拠調べの日に行われます。

口頭弁論とは何か——今日の本題

口頭弁論の定義板(公開の法廷において/受訴裁判所の面前で/当事者双方が対席して/口頭陳述により主張事実を提出する/構造=弁論+証拠調べ) 図:口頭弁論の定義板

  • 公開の法廷において
  • 受訴裁判所の面前で
  • 当事者双方が対席して
  • 口頭陳述により主張事実を提出する
  • 構造=弁論+証拠調べ

ここまでは、口頭弁論という言葉を、いわば当然の前提として使ってきました。ここからは、その口頭弁論そのものに向き合います。口頭弁論とは、公開の法廷という場で、受訴裁判所の面前に当事者双方が対席し、口頭陳述という形で主張事実を出していく——この形をとる審理方式のことです。公開の法廷というのは、誰でも傍聴できる形で開かれるという意味です。受訴裁判所の面前でというのは、その事件を担当する裁判所自身が、その場に立ち会っているという意味です。当事者双方が対席してというのは、原告と被告の両方が顔をそろえるという意味です。そして口頭陳述によりというのは、書面を提出して終わりではなく、口で述べる形で主張を出すという意味です。

しかも、この4つは並べただけの飾りではありません。非公開の部屋で、一方の言い分だけを書面で聞いて判決を書けるとしたら、相手は反論の機会を持てず、外からの検証も効きません。この4つがそろって初めて、判決の材料を出す場として信用できる——その理由は、このあと必要的口頭弁論の原則のところで正面から扱います。そして、その中身は大きく2つの活動から成り立っています。1つは、当事者がそれぞれの言い分を述べる弁論。もう1つは、証拠を取り調べる証拠調べです。冒頭で見た第1回口頭弁論での答弁と、この先の集中証拠調べのための口頭弁論での証人尋問は、どちらも同じ口頭弁論という枠のなかにある、弁論の部分と証拠調べの部分です。

口頭弁論の3つの意味の板(①最広義=審理手続全体を指す(例=口頭弁論を開く)/②狭義=当事者の弁論行為そのもの(例=弁論をする)/③最狭義=個々の訴訟行為(陳述)を指す) 図:口頭弁論の3つの意味の板

  • ①最広義=審理手続全体を指す(例=口頭弁論を開く)
  • ②狭義=当事者の弁論行為そのもの(例=弁論をする)
  • ③最狭義=個々の訴訟行為(陳述)を指す

ここで、1つ注意点があります。口頭弁論という言葉は、実は3つの広さで使われます。1番広い意味では、いま説明したような審理手続そのものを指します。口頭弁論を開く、と言うときのこの用法です。もう少し狭い意味では、当事者が行う弁論という行為そのものを指します。弁論をする、と言うときの用法です。そして最も狭い意味では、個々の陳述という訴訟行為そのものを指すこともあります。今日この先で使う口頭弁論は、基本的に1番広い意味、つまり審理手続そのものとしての用法です。ただ、この先ほかの条文を読むときに、口頭弁論という同じ言葉が違う広さで出てきたら、いま説明したこの3段階を思い出してください。

口頭弁論の一体性と電子調書

口頭弁論の一体性の板(数期日にわたっても1期日で行われたのと同様に扱う/口頭弁論の一体性/裁判をするのに熟したとき口頭弁論は終結する(243条1項参照)/各期日で裁判所書記官が電子調書を作成する(160条1項)) 図:口頭弁論の一体性の板

  • 数期日にわたっても1期日で行われたのと同様に扱う
  • 口頭弁論の一体性
  • 裁判をするのに熟したとき口頭弁論は終結する(243条1項参照)
  • 各期日で裁判所書記官が電子調書を作成する(160条1項)

もう1つ、口頭弁論には大事な性質があります。1回の期日で審理が終わらなければ、期日は続行され、口頭弁論は複数の期日にわたることがあります。このとき、それぞれの期日で行われた訴訟行為は、あたかも1つの期日にすべて行われたのと同じように扱われます。これを、口頭弁論の一体性と呼びます。第1回の期日で出した主張も、10回目の期日で出した証拠も、判決の基礎になる資料としては対等に扱われます。だからこそ、当事者は期日をまたいで少しずつ主張を積み重ねていくことができます。以前見たとおり、裁判所が、争いのある事実について裁判をするのに熟したと判断したとき、口頭弁論は終結します。

熟したというのは、前回見たとおり、争点について出すべき主張と証拠が出そろって、あとは裁判所が判断するだけになった状態のことです。そして、それぞれの口頭弁論の期日ごとに、裁判所書記官が経過を記録した電子調書を作成しなければなりません。電子調書は、議事録に近いものです。誰がどんな発言をしたか、どんな証拠が示されたかという経過を、公式に記録し証明する書面です。この調書の中身をめぐる細かい扱いは、また別の回で扱います。今日は、期日ごとに記録が残るということだけ押さえておいてください。

なぜ判決の前に必ず口頭弁論を開くのか——必要的口頭弁論の原則

必要的口頭弁論の2つの効き方の板(必要的口頭弁論の原則=87条1項本文/①開廷の要否=口頭弁論を開かなければ判決できない/②資料の限定=口頭弁論に顕出された事実・証拠だけが判決の基礎になる) 図:必要的口頭弁論の2つの効き方の板

  • 必要的口頭弁論の原則=87条1項本文
  • ①開廷の要否=口頭弁論を開かなければ判決できない
  • ②資料の限定=口頭弁論に顕出された事実・証拠だけが判決の基礎になる

判決の前に、なぜわざわざ法廷を開かせるのか。軸だけ先に言うと、これは判決の材料をどこまで絞るか、という問題と裏表です。法廷を必ず開かせることと、判決の材料をその場に出たものだけに限ることは、同じ1つの仕組みの表と裏なのです。Yさんの証言が判決を左右するのも、それが法廷という場に出たからにほかなりません。ここからが、今日の本題です。冒頭の問い、証人尋問はいつ開かれるのかという問いにも直結します。まず条文を見てみましょう。

条文民事訴訟法87条

民事訴訟法第87条(口頭弁論の必要性) 当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。 2 前項ただし書の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる。 3 前二項の規定は、特別の定めがある場合には、適用しない。

この本文が定めているのが、必要的口頭弁論の原則です。民事訴訟では、判決をするには口頭弁論を開かなければならず、その口頭弁論に現れた事実や証拠だけが判決の基礎になる、という建前が採られています。この原則は、2つの効き方に分けて理解すると、すっきりします。1つ目は、開廷の要否です。判決をするには、必ず口頭弁論という場を開かなければなりません。書面だけで済ませることはできません。2つ目は、資料の限定です。板にある顕出という言葉は、法廷に現れる、という意味です。口頭弁論という場に現れた事実や証拠だけが、判決の材料として使えます。逆に言えば、その場に出てこなかった事情は、裁判所がどれだけ耳にしていても、判決の根拠にできません。

資料を限定する趣旨の板(趣旨=手続の公正確保と当事者の手続保障/法廷の外で伝えられた事情は判決の基礎にできない/公開の場で双方が反論できる状態を担保する/だから法廷を開かせることと材料を絞ることは表と裏) 図:資料を限定する趣旨の板

  • 趣旨=手続の公正確保と当事者の手続保障
  • 法廷の外で伝えられた事情は判決の基礎にできない
  • 公開の場で双方が反論できる状態を担保する
  • だから法廷を開かせることと材料を絞ることは表と裏

想像してみてください。もし、法廷の外でこっそり裁判官に事情を伝えた側が有利になる仕組みだったら、どうなるでしょうか。それは、公正な裁判とは言えません。相手には反論する機会すらありません。口頭弁論という場は、公開されていて、当事者双方が顔をそろえ、口頭で陳述したことが記録に残ります。だからこそ、そこに現れたものだけを材料にしてよいと言えます。この原則の趣旨は、民事訴訟制度の公正を確保することと、裁判に必要な資料の提出について当事者に手続保障を与えることにあります。開かれた場だからこそ、資料を限定してよいのです。

Yさんへの証人尋問は、集中証拠調べのために開かれる口頭弁論の期日で行われます。そこで語られた証言こそが、判決の基礎になる資料です。法廷の外で誰かがどれだけYさんの事情を聞いていたとしても、それは判決の材料にはなりません。

争点整理と口頭弁論のつながりの板(争点整理の部屋で調べた結果は口頭弁論の期日であらためて陳述される/だから部屋で調べた証拠も口頭弁論に出たものとして判決の材料になる/争点整理=口頭弁論で何を扱うかを先に絞る下ごしらえ) 図:争点整理と口頭弁論のつながりの板

  • 争点整理の部屋で調べた結果は口頭弁論の期日であらためて陳述される
  • だから部屋で調べた証拠も口頭弁論に出たものとして判決の材料になる
  • 争点整理=口頭弁論で何を扱うかを先に絞る下ごしらえ

争点整理の部屋で調べた結果は、あらためて口頭弁論の期日で述べられ、口頭弁論の中に取り込まれます。だから、部屋で調べたものも、最後は口頭弁論に出てきたものとして判決の材料になります。前半で見た争点整理は、口頭弁論の外で判決の材料を作る手続ではなく、口頭弁論で何を扱うかを先に絞っておく下ごしらえなのです。その取り込みの仕組み自体は、弁論準備手続を扱う回であらためて見ます。もう1つ、この条文には大事な仕掛けがあります。3項を見てください。前二項の規定は、特別の定めがある場合には、適用しない、とあります。

つまり、他の条文が特別の定めを置けば、この必要的口頭弁論の原則は外れます。次に見る例外は、まさにこの3項が許している特別の定めの具体例です。

開かずに判決できる場合——87条3項の特別の定め

開かずに判決できる4類型の一覧板(共通点=開いても結論が変わらない類型/①訴えまたは控訴の却下=補正不能な不適法(140条・290条)/②上告棄却=書類のみで理由なしと判断(319条)/③担保不提供による訴え却下(78条)/④判決の変更(256条2項)) 図:開かずに判決できる4類型の一覧板

  • 共通点=開いても結論が変わらない類型
  • ①訴えまたは控訴の却下=補正不能な不適法(140条・290条)
  • ②上告棄却=書類のみで理由なしと判断(319条)
  • ③担保不提供による訴え却下(78条)
  • ④判決の変更(256条2項)

じつのところ、争っても結果が変わらないとわかっている場面では、あえて法廷を開いて主張立証の機会を与えなくても、不公平な扱いにはなりません。そうした場合には、87条3項の特別の定めとして、口頭弁論を開かずに判決できます。代表例をいくつか見ていきます。1つ目は、訴えが不適法で、その不備を補正できる見込みがない場合です。

条文民事訴訟法140条

民事訴訟法第140条(口頭弁論を経ない訴えの却下) 訴えが不適法でその不備を補正することができないときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、訴えを却下することができる。

審理するまでもなく却下できる、という発想です。控訴が不適法で補正できない場合も、まったく同じ考え方です。

条文民事訴訟法290条

民事訴訟法第290条(口頭弁論を経ない控訴の却下) 控訴が不適法でその不備を補正することができないときは、控訴裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、控訴を却下することができる。

2つ目は、上告を棄却する場合です。上告裁判所は、提出された書類だけを見て、上告に理由がないと判断できるときは、口頭弁論を開かずに棄却できます。

条文民事訴訟法319条

民事訴訟法第319条(口頭弁論を経ない上告の棄却) 上告裁判所は、上告状、上告理由書、答弁書その他の書類により、上告を理由がないと認めるときは、口頭弁論を経ないで、判決で、上告を棄却することができる。

事実関係の争いはすでに下級審で決着していて、上告審は法律の解釈だけを見ます。書類の記載だけで理由がないと分かる場合にまで法廷を開く必要はない、という判断です。3つ目は、訴訟費用の担保を供しないときです。訴訟要件のところで出てきた、原告が日本に住所などを持たないときに、負けた場合の費用に備えて立てさせる、あの担保ですね。

条文民事訴訟法78条

民事訴訟法第78条(担保不提供の効果) 原告が担保を立てるべき期間内にこれを立てないときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、訴えを却下することができる。ただし、判決前に担保を立てたときは、この限りでない。

担保を立てないという手続違背がある以上、内容の審理に入るまでもありません。ただし書のとおり、判決の前に担保を立てれば、この扱いにはなりません。4つ目は、判決の変更です。

条文民事訴訟法256条2項

民事訴訟法第256条(変更の判決)2項 変更の判決は、口頭弁論を経ないでする。

変更の判決は、判決の訂正に近いものです。判決に誤記や計算違いのような是正が必要なとき、口頭弁論を経ずに変更の判決をすることができます。もとの判決は、すでに口頭弁論を経たうえで出されています。その中身を正すだけなら、新たに主張や立証をさせる場を開き直す必要がないのです。法廷を開かなくても結論が変わらないという点が、4つに共通しています。不適法で直しようがない、上告に理由がないと書類上明らかである、担保を立てるという手続を怠っている、あるいはすでにある判決の誤りを直すだけである。どの場合も、あらためて口頭弁論という厳格な場を開いて当事者に主張立証をさせる必要が乏しいのです。

口頭弁論が要らない場合はこれで全部か、と言われると、そこまでは言えません。特別の定めは、これらに限られるわけではなく、法律のほかの条文にも置かれています。ここではあくまで代表例として紹介しています。

決定で裁判される事件——任意的口頭弁論

本文とただし書の対比板(【本文】判決で裁判する事件は口頭弁論が必要的/開かなければ判決できない/【ただし書】決定で完結すべき事件は口頭弁論が任意的/開くかどうかは裁判所の裁量/口頭弁論を開かない場合でも審尋はできる(87条2項)) 図:本文とただし書の対比板

  • 【本文】判決で裁判する事件は口頭弁論が必要的
  • 開かなければ判決できない
  • 【ただし書】決定で完結すべき事件は口頭弁論が任意的
  • 開くかどうかは裁判所の裁量
  • 口頭弁論を開かない場合でも審尋はできる(87条2項)

ここまでは判決の話でした。ここからは、条文のただし書、決定で完結すべき事件の話に移ります。以前、訴訟と非訟のところで出てきた決定ですね。判決より軽い、機動的な形の裁判でした。その決定という形式で裁判される事件については、口頭弁論を開くかどうかが裁判所の裁量に任されます。これを、任意的口頭弁論と呼びます。たとえば、事件を別の裁判所に移す移送についての判断は、決定で行われます。名前だけ挙げておきますが、細かい中身は別の回で扱います。決定で裁判される事件の多くは、訴訟手続に付随する派生的な事項です。本体の請求そのものではなく、その審理を進めるうえで生じる手続上の細かい判断、というイメージです。こうした事項には、簡易さと迅速さが求められます。口頭弁論という厳格で時間のかかる審理方式を、そのたびに踏むべきかどうかを、裁判所の裁量に委ねているのです。

決定なら口頭弁論は要らない、という覚え方は危ういので注意してください。決定だからといって口頭弁論を開いてはいけないわけではありません。開くかどうかを裁判所が判断できる、という意味です。本文とただし書を、対にして見てください。本文が、判決で裁判する事件は口頭弁論が必要的であると定め、ただし書が、決定で完結すべき事件は口頭弁論をすべきか否かを裁判所が定める、としています。判決は原則として口頭弁論が必要、決定は裁判所の裁量。この対応を逆にしないでください。口頭弁論を開かない場合でも、当事者の言い分が一切聞かれないわけではありません。さきほどの87条2項が、その受け皿です。裁判所は、当事者その他の利害関係人を審尋することができます。審尋とは、口頭または書面で、言い分を聴取する簡易な手続です。

なお、審尋は口頭弁論の一種ではありません。口頭弁論のように、公開の法廷で当事者双方が対席する必要はありません。非公開で行われ、当事者双方の顔をそろえることも求められない、より簡易な聴取の手続です。口頭弁論を開かない決定でも、当事者の言い分を完全に無視するわけではなく、審尋という形で耳を傾けることができる、と理解してください。

ウェブ会議による口頭弁論——出廷しなくても口頭弁論はできる

ウェブ会議の口頭弁論の板(裁判所が相当と認め当事者の意見を聴いて実施(87条の2第1項)/当事者は出廷不要/裁判官は在廷/要件=映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話できる方法) 図:ウェブ会議の口頭弁論の板

  • 裁判所が相当と認め当事者の意見を聴いて実施(87条の2第1項)
  • 当事者は出廷不要
  • 裁判官は在廷
  • 要件=映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話できる方法

ここまで、口頭弁論は公開の法廷で当事者が実際に顔をそろえる場だという前提で話してきました。ですが、いまはこの前提が少し変わっています。令和4年の改正によって、裁判所が相当と認め、当事者の意見を聴いたうえで、当事者が法廷に足を運ばずウェブ会議の画面越しに口頭弁論の期日に加わることができるようになりました。

条文民事訴訟法87条の2

民事訴訟法第87条の2(映像と音声の送受信による通話の方法による口頭弁論等) 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、口頭弁論の期日における手続を行うことができる。 2 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、審尋の期日における手続を行うことができる。 3 前二項の期日に出頭しないでその手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。

当事者はウェブ会議の画面越しに手続に参加すれば足り、実際に出廷する必要はありません。ただし、裁判官は在廷します。裁判官のいない場所から、映像だけで裁判が進むわけではありません。出廷しなくてよいという結論の根拠は、3項です。前二項の期日に出頭しないでその手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす、とあります。ウェブ会議を通じて手続に関与した当事者は、法律上、出頭したものとみなされます。これを出頭擬制と呼びます。では、電話で参加する形でもよいのか。そこが条文のポイントです。1項の文言をもう一度見ると、裁判所及び当事者双方が、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法、とあります。

声だけを送り合う電話会議システムでは、口頭弁論の期日を開くことはできません。映像が伴わないと、相手の様子を確認しながら手続を進める要件を満たさないからです。

通信方法の対比板(口頭弁論の期日(87条の2第1項)=映像+音声が必須/審尋の期日(87条の2第2項)=音声のみで足りる/弁論準備手続の期日(170条3項)=音声のみで足りる/映像必須は口頭弁論だけ) 図:通信方法の対比板

  • 口頭弁論の期日(87条の2第1項)=映像+音声が必須
  • 審尋の期日(87条の2第2項)=音声のみで足りる
  • 弁論準備手続の期日(170条3項)=音声のみで足りる
  • 映像必須は口頭弁論だけ

審尋の期日についても、ウェブ会議で行うことができます。87条の2第2項です。ただし、文言をよく見てください。音声の送受信により同時に通話をすることができる方法、とあります。審尋については、音声のみで足ります。口頭弁論は映像と音声の両方が必須なのに対し、審尋は音声だけで構いません。口頭弁論は、公開の法廷で当事者双方が対席する、厳格な審理方式でした。相手が本当にその場に向き合って参加しているかを、できる限り確認できる状態が求められます。これに対して審尋は、非公開で行われる簡易な聴取の手続です。厳格さの度合いが下がれば、求められる通信の厳格さも下がります。

実は、争点整理の場面で見た弁論準備手続にも、同じことが言えます。弁論準備手続の期日についても、音声の送受信により同時に通話をすることができる方法で行うことができます。これは170条3項です。

条文民事訴訟法170条3項

民事訴訟法第170条3項(弁論準備手続における音声の送受信による通話の方法) 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。

弁論準備手続も非公開のインフォーマルな手続なので、審尋と同じく音声のみで足ります。映像が必須なのは、口頭弁論そのものだけです。この違いを、板でもう一度確認してください。口頭弁論は映像と音声の両方、審尋と弁論準備手続は音声のみ。この一点さえ押さえておけば、混同しません。弁論準備手続そのものの中身は、また別の回で扱います。

今日の地図(保存版)

今日のまとめの板(争点整理を経て集中証拠調べへ/口頭弁論=公開の法廷で対席し口頭陳述する場/必要的口頭弁論=開廷の要否+資料の限定/例外=87条3項の特別の定め/決定=任意的口頭弁論/ウェブ会議=映像必須) 図:今日のまとめの板

  • 争点整理を経て集中証拠調べへ
  • 口頭弁論=公開の法廷で対席し口頭陳述する場
  • 必要的口頭弁論=開廷の要否+資料の限定
  • 例外=87条3項の特別の定め
  • 決定=任意的口頭弁論
  • ウェブ会議=映像必須

今日の内容を、冒頭の問いに戻してまとめます。Yさんへの証人尋問は、争点整理手続を経たあと、集中証拠調べのために指定される口頭弁論の期日で行われます。争点が絞れても、すぐその日に証人尋問が行われるわけではありません。そして、そこで語られた証言こそが、判決の基礎になります。判決には、必ず口頭弁論という公開の場を開かなければならず、その場に現れた事実や証拠だけが判決の材料になる。これが必要的口頭弁論の原則でした。この原則には、87条3項が許す特別の定めという例外があり、決定で裁判される事件については、任意的口頭弁論として裁判所の裁量に委ねられています。そして、口頭弁論そのものも、いまはウェブ会議で実施できるようになりましたが、映像による相互確認だけは譲られていません。

映像による相互確認が残されていることで、公開の法廷という性質は、画面越しでも保たれています。Xさんの800万円の事案は、その法廷で決着に向かいます。

参照条文

  • 民事訴訟法87条
  • 民事訴訟法140条
  • 民事訴訟法290条
  • 民事訴訟法319条
  • 民事訴訟法78条
  • 民事訴訟法256条2項
  • 民事訴訟法87条の2
  • 民事訴訟法170条3項

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