審理はどう進むか
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第3章 訴訟の審理 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の到達点:舞台は整った

本編に入る前に、1つ問いかけです。前回の基本4原則、いくつ言えますか?素晴らしいです。前回は、口頭弁論という「舞台」の作り方を見ました。口頭弁論には、期日・弁論行為・資料という3つの意味がありました。今言ってもらった4原則で、正式さが担保されていましたね。判決には原則必要、決定には裁量という必要的・任意的の振り分けもありました。そして争点整理の3手続で、本番前の下ごしらえをする——という骨格でした。
①審理方式と口頭弁論の一体性——なぜ出し惜しみが問題になるのか

それが理想ではあるんです。1つの事件をまとめて集中的に審理し、終わらせてから次の事件に移る。これを継続審理主義と言います。証人と当事者本人の尋問は集中して行う——182条のこの定めが、理想の現れです。実際の裁判官は、何十件もの事件を同時に抱えています。1つの事件を月に1回くらい、少しずつ進めながら——他の事件も並行して進める。これが併行審理主義、実務の現実です。

されません。期日がどれだけ回数に分かれていても、口頭弁論は全体としてひとつのものとして扱われます。第1回で出した証拠も、最終回で出した証拠も、重みはまったく同じです。247条の「口頭弁論の全趣旨」がその現れです。裁判所は、口頭弁論に現れた一切の事情を対象にします。最初から最後までのすべてを、区別なく判決の資料にするんです。控訴審に進んでも、第一審での主張や証拠が引き継がれます。この続審制、298条1項も、一体性の延長線上にある発想です。さて、ここで一度立ち止まってください。「どの期日で出しても資料の価値は同じ」ということは、裏を返すと何を意味しますか?そのとおりです。今すぐ出そうが、最終盤で出そうが同じ扱いなら、当事者には「出し惜しみ」をする動機が生まれます。相手を油断させてから土壇場で切り札を出す、というやり方が得になってしまうんです。だからこそ、「いつ出してもいい」を放置しておくわけにはいきません。次に見る適時提出主義は、この一体性が生む出し惜しみの誘惑への歯止めなんです。
②適時提出主義——いつ出すべきかのルール(156条)

かつての民事訴訟は随時提出主義——口頭弁論が終わるまでなら、いつ出してもよいという建前でした。それだと不意打ちや無用な訴訟遅延が起きやすい。そこで現行法は適時提出主義に転換しました。156条です。
条文
民事訴訟法 第156条(攻撃防御方法の提出時期)
「訴訟の進行状況に応じ適切な時期に」——ここがポイントです。何が適切なタイミングかは、事件の性質や争点整理の段階によって変わります。そこは個別の事件次第としか言えません。ただ趣旨は明確です。提出を当事者任せにすると濫用が起きます。それを防ぎ、審理に緊張感を持たせるためのルールなんです。背景には信義則、2条があります。当事者は誠実に訴訟を追行しなければならない——このルールが2条にあります。156条は、その具体化の1つなんです。ここが重要な注意点です。156条は訓示規定——これ単独では、提出自体が無効になったりはしません。いいえ。提出そのものを一律に無効にすると、真実に基づく判断という要請とぶつかります。だから156条は効力自体を保ったまま——実害が出る場面だけを、裁判所が個別に切る仕組みにしたんです。そして156条だけでは切れない代わりに、実際に働かせる「刃」が用意されています。それが次の157条です。

具体例で考えましょう。原告Aが被告Bに、貸したお金の返還を求めているとします。争点整理がすべて終わり、証拠調べの段階に入りました。ところがAは、最初から持っていた決定的な借用書を、それまでずっと黙っていました。早く出すと、Bに反論の準備をされてしまうからです。土壇場で出せば、Bは十分に反論できないまま証拠調べが終わってしまうかもしれません。相手の反論準備の機会を奪い、裁判所の審理計画も狂わせます。156条は、こうした「出し惜しみ」自体を戒める規定なんです。
③時機に後れた攻撃防御方法の却下(157条)——今日のヤマ

156条は「適切な時期に出しなさい」という訓示にすぎませんでした。訓示だけでは、破っても何も起きません。そこで働くのが157条です。156条という「原則」に対して、157条は「制裁」にあたります。時機に後れた攻撃防御方法を、実際に却下できるようにする規定です。
条文
民事訴訟法 第157条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
却下できるためには、3つの要件が全部揃わなければなりません。①故意または重大な過失があること——わざと、または不注意がひどいこと。②時機に後れて提出されたこと——出すべきタイミングを過ぎていること。③これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認められること。この提出のせいで、裁判が長引くことです。この3つが全部揃って、初めて却下の決定ができます。

ここで、境界線を具体的に引いてみましょう。原告Aが被告Bに損害賠償を求めている事件だとします。争点整理が終わり、証拠調べの段階に入りました。パターン1です。争点整理の段階では、存在を知りようがなかった新しい証拠だとします。それが証拠調べの直前になって、Aの手元に届きました。Aはすぐに提出しました。これは却下できますか?そのとおりです。①の要件が欠けるので、却下できません。遅れたこと自体は事実でも、責められない遅れは制裁の対象になりません。パターン2です。今度はAが、最初から持っていた書証をわざと黙っていました。証拠調べの土壇場で、初めて提出したとします。故意はある。でもその書証はたった1通で、その場ですぐ取り調べられる内容でした。これは?まさにそこです。①と②は満たしても、③「訴訟の完結を遅延させる」が満たされません。だから却下できない。実務で却下例が少ないのは、この③が最大のブレーキだからです。裁判所は、真実を明らかにする方をどうしても優先しがちなんです。パターン3です。今度は土壇場になって、Aが新しい証人を複数人まとめて申請してきました。争点整理の段階で出せたはずなのに、あえて黙っていました。これを認めると、尋問だけで何回も期日を重ねる必要が出てきます。これは?この場合は3要件が揃うので、裁判所は却下することができます。なお、現行157条には2項もあります。攻撃防御方法の趣旨が明瞭でないのに釈明をしなかった場合。釈明すべき期日に出頭しなかった場合も、同じように却下できる、という規定です。
④(1)裁判所が審理を束ね、絞る——制限・分離・併合

攻撃防御方法をいつ出すかが決まったところで——次は裁判所が審理そのものをどう操作できるかを見ましょう。152条1項です。
条文
民事訴訟法 第152条(口頭弁論の併合等)
ポイントは「口頭弁論」という言葉です。制限も分離も併合も、対象はあくまで口頭弁論——審理そのものの進め方です。そしてこれは裁判所の裁量。当事者には「併合してください」と求める申立権はありません。審理をどう進めるかは、裁判所が主導するという建前だからです。3つの操作を整理しましょう。制限は、1つの事件の中で争点を絞り、その部分だけ先に審理すること。分離は、1つの手続の中身を切り離して、別々の手続にすること。併合は、逆に別々の事件を1つの手続にまとめることです。

制限の例を挙げましょう。原告Aが被告Bに貸金の返還を求めているとします。Bは「もう時効で消滅している」と主張しているとします。時効の成否だけを先に審理すれば、時効が認められればそれで決着がつきます。貸したかどうかの中身まで、審理する必要がなくなるかもしれません。こういうときに、裁判所は口頭弁論を制限して、時効の争点だけを先に審理させることができます。次に分離の例です。原告Aが被告Bに、貸金の返還と、別の交通事故の損害賠償をまとめて求めていたとします。貸金の方は書証だけで、すぐ決着がつきそうです。でも事故の方は、証人尋問を何度も重ねる必要がありそうです。こういうときに、裁判所は弁論を分離して、貸金の方だけ先に終わらせることができます。審理の重い部分に足を引っ張られず、片付くところから進められるのが分離の狙いです。

併合の例も見ましょう。同じ交通事故で被害者Aと被害者Bがいるとします。それぞれ別々に、加害者Cを訴えて損害賠償を求めていたとします。この2つの訴訟を裁判所が併合すると、1つの手続の中でまとめて審理されます。併合には2つの趣旨があります。1つは審理の重複を避ける効率化。同じ事故の状況を二重に調べる無駄がなくなります。もう1つが判決の矛盾防止です。もしAの訴訟とBの訴訟を、別々の裁判官が審理したとします。同じ事故なのに、過失割合の判断が食い違う判決が出かねません。まとめて審理すれば、そういう矛盾を防げます。併合ができる要件は、訴えの客観的併合の要件、136条があります。もう1つ、共同訴訟の要件、38条としても定められています。
④(2)併合した証拠は使えるか、そして審理の終わりと再開

いい質問です。判例・通説は、援用は不要と考えています。併合前に適法に取り調べられた証拠は、併合後の手続でも当然に判決の資料になります。証拠調べの結果自体は客観的なものです。誰がそれを主張したかとは関係なく、心証形成の材料になる——というのが決め手です。心証形成とは、裁判官がその事件についての判断の手応えを作っていく過程です。1つだけ限定があります。当事者を異にする事件を併合した場合です。証人尋問に立ち会えなかった当事者がいるケースですね。152条2項を見てみましょう。併合前に尋問をした証人について、当事者に限定があります。尋問の機会がなかった当事者が申出をしたときは——その尋問をしなければならない、と定めています。そのとおりです。反対尋問の機会を確保するための手続保障です。反対尋問とは、相手方が申請した証人に、自分の側から問いを向けることです。短答で狙われやすい限定文言ですよ。

審理を絞ったり束ねたりした先に、いずれ弁論そのものを終える場面が来ます。243条1項です。「裁判所は、訴訟が裁判をするのに熟したときは、終局判決をする」——243条1項の文言です。「裁判をするのに熟したとき」——ここがポイントです。これ以上審理を続けなくても、判決を書ける状態になったときに、口頭弁論は終結します。いいえ。153条により、裁判所は終結した口頭弁論の再開を命じることができます。原則は裁判所の裁量です。ただ、終結後に重要な新証拠が出てきたのに、再開しないまま判決を出したとします。それは著しく相当性を欠くとして、問題になる場面もあります。再開しなければ、その新証拠を出す機会が永久に失われてしまうからです。ここまでが「絞る・束ねる」の話でした。次はいよいよ、手続そのものが「止まる」場面です。
⑤(1)訴訟手続の停止——なぜ止まるのか、そして中断(124条)

ここからは、審理が「止まる」場面です。前回学んだ双方審尋主義——当事者双方に主張・立証の機会を平等に与える原則を覚えていますか?そのとおりです。もし当事者の一方が死亡したとします。または代理する人がいなくなったりして——手続に関与できないまま審理が進んでしまうと——その人には反論の機会がなかったことになり、双方審尋主義が壊れてしまいます。だから、そういうときは手続を一旦止める仕組みがあります。それが訴訟手続の停止——中断と中止です。違います。中断は当事者側の「人」の事情です。中止は裁判所または当事者側の「物理的な障害」の事情です。まず中断から見ましょう。124条です。

124条1項は、当事者の死亡や、法人の合併による消滅など——訴訟能力の喪失も含め、6つの号にわたって中断事由を定めています。訴訟能力とは、自分で有効に訴訟行為を行う資格のことです。柱書はこう定めています。「次の各号に掲げる事由があるときは、訴訟手続は、中断する」。「この場合においては、それぞれ当該各号に定める者は——」「訴訟手続を受け継がなければならない」。ポイントは、それぞれの号ごとに、事由と「誰が受け継ぐか」がペアで決まっている、という構造です。たとえば当事者が死亡した場合は、相続人などが受け継ぐ担い手になります。

具体的にイメージしましょう。賃貸人Aが賃借人Bに、建物の明渡しを求めている訴訟だとします。審理の途中でBが亡くなり、賃借人としての地位を子のCが相続したとします。このときCが手続を受け継ぐまで、訴訟は中断して待つことになります。いいえ、そこに大事な例外があります。124条2項です。
条文
民事訴訟法 第124条(訴訟手続の中断及び受継)
同じ事件で、Bに訴訟代理人——弁護士がついていたとします。この場合、Bが死亡しても手続は中断しません。代理人がそのまま手続を続けられるからです。実務でとても頻繁に問題になる例外です。本人が欠けても、代理人がいれば手続の担い手は確保されている、という発想です。
⑤(2)中止——物理的な障害で止まるとき(130・131・132条)

中断が「人」の事情なら、中止は「物理的な障害」の事情です。130条を見てみましょう。
条文
民事訴訟法 第130条(裁判所の職務執行不能による中止)
大規模な災害で裁判所そのものが機能を失った、というような場面です。この場合、当然に手続は中止し、事由が消滅すれば当然に再開します。中断と違って、誰かが「受け継ぐ」必要はありません。そのとおりです。もう1つ、131条1項は当事者側の事情による中止を定めています。当事者が不定期間の故障によって手続を続行できないとき——当事者側に生じた、いつ終わるか見通しの立たない障害のことです。長期の入院や、行方が分からなくなった場合などが典型です。裁判所が決定でその中止を命ずることができます。これは130条と違い、裁判所の決定が必要です。

ここで中断と中止を並べて整理しましょう。中断は当事者側の人の事情で、受継が必要、条文は124条。中止は裁判所または当事者側の物理的な障害で、受継は不要、条文は130条・131条です。共通するのは、132条2項により、中断・中止のどちらでも期間の進行が止まるという点です。ちなみにこの132条は、前回出てきた132条の10とは別の条文です。そこは注意が必要です。132条1項は「判決の言渡しは、訴訟手続の中断中であっても、することができる」と定めています。つまり中断中でも、判決の言渡し自体は可能です。実は、中止中の言渡しについては、132条に明文がありません。ただ、条文が「中断中はできる」とわざわざ書いているということは——書かれていない中止中はできない、と読むのが筋です。そのとおりです。中止は、手続そのものを進められない状態ですから——そこで判決だけ言い渡すのは、そもそも筋が通りません。結論は「中断中は言い渡せる・中止中は言い渡せない」。ここはセットで覚えてください。
今日の地図(保存版)

口頭弁論は一体のものとして扱われ、どの期日で出した資料も価値は同じでした。だからこそ出し惜しみが得になり——それを防ぐために適時提出主義、156条があり——それでも足りない部分を、157条の却下が制裁として補っていました。裁判所は口頭弁論の制限・分離・併合という形で、審理を束ね絞ることができました。そして併合前の証拠は、原則として援用不要で使えましたね。そして審理は裁判をするのに熟したときに終結し、必要なら再開もできます。最後に、手続そのものが止まる場面を見ました。当事者側の人の事情による中断、124条と——物理的な障害による中止、130条・131条です。3問出します。

(少し間を置いて)3つあります。1つ目、故意または重大な過失があること。2つ目、時機に後れて提出されたこと。3つ目、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認められること——この3つです。しません。124条2項により、訴訟代理人がある間は中断の規定が適用されないからです。原則として不要です。ただし当事者を異にする併合で、尋問の機会がなかった当事者が申し出た場合。その場合は、再尋問が必要になります。
次回予告:欠席と記録・秘匿へ

当事者が期日に来なかったらどうなるか。そして訴訟の記録をどう残し、どう見せて、どう隠すかです。さらに先では、訴訟行為そのものの理論や期日・期間・送達を#8bで扱います。弁論主義を#9で、証拠と証明責任を#10で扱う予定です。