来なかったとき——欠席と手続
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第3章 訴訟の審理 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の到達点:出席している人どうしの力学

1問だけ、思い出してみてください。出すのが遅れた主張や証拠を、判決の材料から外す仕組みがありましたね。前回の復習です。時機に後れた攻撃防御方法を却下するには、いくつの要件が要りましたか?そのとおりです。156条の適時提出主義と、157条の却下でしたね。弁論の制限・分離・併合が152条。手続そのものが止まる中断が124条。たとえば当事者が亡くなると手続が止まる、というのが中断でしたね。物理的な障害による中止が130条と131条、というところまで進みました。そもそも来なかったとき、何が起きるのか。
①来なくても即敗訴にはしない——対席判決主義

まず出発点です。民事訴訟は、両方が来て向き合うことを前提にしています。この建前を、対席判決主義と呼びます。口頭弁論の基本原則を見た回の双方審尋主義、あれがここでも効いています。止めません。来ているかのように扱って、審理を進めます。ここでは2つの利益が綱引きをしています。1つは、来なかった人の保護です。来られない事情はいくらでもあります。来なかったという一事で実体の権利を失わせるのは、行き過ぎですよね。

売主のAが、買主のBに、売買代金の支払を求めて訴えました。Bは遠方に住んでいて、第1回の期日に出て来られません。それを認めてしまうと、来たか来ないかだけで結論が決まります。だから手続は、来なかったBの言い分をどこかから拾おうとするんです。もう1つは、訴訟の遅延を防ぐことです。わざと来ないことで引き延ばせるなら、手続は簡単に人質になります。そのとおりです。今日出てくる条文は、全部この綱引きの答えなんです。だから条文を別々に覚えるのではなく、問いの順に並べてください。来なかった人の言い分は、どこから取るのか。書面が触れていない事実は、どう扱うのか。そもそも両方来なかったら、手続は誰が動かすのか。そのとおりです。順番にたどりましょう。
②最初の期日に一方が来なかった——陳述擬制(158条)

まず、最初の期日に一方だけが来なかった場合です。原告が来ない場合でも、被告が来ない場合でも、扱いは同じです。そこで働くのが158条です。条文を見てみましょう。
条文民事訴訟法158条
民事訴訟法 第158条(訴状等の陳述の擬制) 原告又は被告が最初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしないときは、裁判所は、その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし、出頭した相手方に弁論をさせることができる。
ひとことで言えば、提出済みの書面が本人の代わりに口を開く仕組みです。ただし、押さえておきたい注意点が2つあります。1つ目。対象は訴状、答弁書、その他の準備書面です。つまり、すでに出してある書面だけが代わりに読まれます。まさにそのとおりです。代弁してくれる書面が存在しません。2つ目。条文は「させることができる」と書いてあります。当然にそうなるのではなく、裁判所がそうできる、という形なんです。そのうえで、出頭した相手方に弁論をさせて、審理は前に進みます。しかも証拠調べは、当事者が出頭しない場合でもできます。183条が、そう定めています。たとえば提出済みの書証の取調べは進みます。詳しくは証拠をまとめて扱う回で。
②書面が触れなかった事実はどうなるか——擬制自白(159条3項)

そこが今日いちばん大事なところです。書いていない部分が危ないんです。159条を見てください。1項と3項を並べます。
条文民事訴訟法159条1項・3項
民事訴訟法 第159条(自白の擬制)第1項・第3項 【第1項】当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。 【第3項】第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。
まず1項です。基準は「争うことを明らかにしない」ことです。黙っていた事実は、認めたものとして扱われます。争わなかったこと自体に、意味が与えられているんです。口頭弁論の基本原則を見た回の「口頭弁論の全趣旨」と同じものと解されています。期日に現れた一切の事情、どんな書面が出て、どんな態度だったかの全部です。そして3項で、この規定が期日に出頭しない場合にも準用されます。そういうことです。ここで但書をよく見てください。除外されるのは、公示送達による呼出しを受けた人です。相手の居場所が分からないときに、裁判所の掲示などで呼び出す方法です。形式上は送達されたことになりますが、本人は現実に知らないままです。だから但書で外しています。ここは向きを逆に覚えないでください。公示送達で呼び出された人には、擬制自白は働きません。

さっきのAとBの事件で、Bの答弁書の中身だけを変えてみます。1つ目。Bが答弁書に「代金はもう支払った」と書いて、欠席しました。そのとおりです。支払があったかどうかを、これから審理していきます。2つ目。Aは、契約を結んだことと、代金の額を主張しています。Bは答弁書で、契約を結んだことは認める、と書きました。ところが代金の額については、何も書かずに欠席しました。その点は自白したものとみなされます。争点にならないまま、判決の前提になってしまいます。だから欠席のコストは、決して低くありません。3つ目。同じ事件で、設定を1か所だけ変えます。Bが転居して所在が分からず、公示送達で呼び出されました。書面も出さず、当日も来ませんでした。よく気づきました。この場合は準用されません。だからAは、自分の主張する事実を証拠で証明しなければなりません。対席判決主義の思想が、いちばんはっきり出る場面です。なお、自白そのものの効力は、また別の大きな論点です。一度認めた事実を後から撤回できるのか、といった話ですね。そちらは、159条2項の扱いと合わせて、弁論主義を扱う回で扱います。
②「最初にすべき期日」の意味と、続行期日の落とし穴

いい引っかかり方です。条文は「最初にすべき口頭弁論の期日」でした。これはカレンダーの上で最初に指定された日、という意味ではありません。実際に最初に弁論が行われる期日を指す、と解されています。たとえば初回が空転して、次の期日が実質のスタートになったとします。その場合は、その期日が158条の対象になります。言葉の見た目に引きずられやすいので、注意してください。そして2回目以降、続行期日には、原則として陳述擬制はありません。最初の期日と違って、争点がもう動いているからです。すでに出してある書面をなぞっても、審理は前に進みません。だから続行期日は「来て話してください」が原則になります。書面を出していても、述べたことにはなりません。一方で、争っていない事実は自白とみなされる扱いは残ります。そのとおりです。だから欠席の危険は、むしろ跳ね上がります。ただし例外があります。簡易裁判所です。277条が、続行の期日についても158条を準用する、と定めています。簡裁には、弁護士を付けずに本人だけで進める事件が多いからです。期日に来られないことが、そのまま敗訴に直結しては酷ですよね。この条文が簡易裁判所の特則の章に置かれていること自体が、その答えです。
③双方が来なかった——取下げ擬制(263条)

ここからは、双方が来なかった場合です。手続を動かす人が、そもそもいません。似ていますが別ものです。中断や中止は、事情が消えるまで凍るだけでした。これから見る263条は、放置が続くと訴えそのものが消えます。その263条を読んでみましょう。
条文民事訴訟法263条
民事訴訟法 第263条(訴えの取下げの擬制) 当事者双方が、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をした場合において、一月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴えの取下げがあったものとみなす。当事者双方が、連続して二回、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をしたときも、同様とする。
覚える数字が2つあります。一月と、連続して二回です。双方が欠けたあと、一月以内に期日指定の申立てをすればよい。期日指定の申立てとは、次の期日を入れてくださいと裁判所に求めることです。その申立てをしないまま一月が過ぎると、取り下げたものとみなされます。ここで気をつけたいのは、これが義務ではないという点です。違います。申し立てなければこうなる、という効果の条件にすぎません。次に、適用の範囲が思ったより広いところを見てください。出頭しない場合だけでなく、退廷・退席をした場合も入っています。そのとおりです。そして対象の期日も、口頭弁論だけではありません。弁論準備手続の期日も含まれます。争点と証拠を整理する3つの手続のうち、期日を開いて非公開で行うものです。準備的口頭弁論、弁論準備手続、書面による準備手続の3つでした。法廷から出るのが「退廷」、弁論準備手続の席を外すのが「退席」です。そういう作りです。もう1つ、連続して二回の方も同じ範囲です。一月を待たずに、連続二回でも取り下げたものとみなされます。

同じ事件で、今度は両方が来ない場合を考えてみましょう。AとBが、話し合いで解決できそうだと考えていたとします。期日は開かれるものの、実質の主張はされないまま空転していきます。やがて両方とも足を運ばなくなり、そのまま一月が過ぎました。それでも、訴えは取り下げたものとみなされます。放置には、そのくらいのコストがあるということです。そのときは、取り下げたものとはみなされません。次の期日が指定されて、訴訟はそのまま続きます。空転させたこと自体ではなく、一月を放置したことが効いているんです。なお、控訴審にも準用があります。292条2項です。ただし、そこで取り下げたものとみなされるのは控訴の方です。第一審の判決が、そのまま確定に向かいます。取下げそのものの要件や効果、もう一度訴えられるのかという話。そちらは、訴訟の終わり方を扱う回で正面から扱います。
③それでも判決はできるのか——244条

いいえ、出せる場合があります。244条です。
条文民事訴訟法244条
民事訴訟法 第244条 裁判所は、当事者の双方又は一方が口頭弁論の期日に出頭せず、又は弁論をしないで退廷をした場合において、審理の現状及び当事者の訴訟追行の状況を考慮して相当と認めるときは、終局判決をすることができる。ただし、当事者の一方が口頭弁論の期日に出頭せず、又は弁論をしないで退廷をした場合には、出頭した相手方の申出があるときに限る。
この判決は、講学上「審理の現状に基づく判決」と呼ばれます。ただし、これは条文の見出しではありません。呼び名として覚えてください。よく覚えていましたね。それは243条1項の基準です。244条は、それとは違う基準を使っています。審理の現状と、当事者の訴訟追行の状況を考慮して、相当と認めるとき。訴訟追行というのは、当事者がその訴訟をどう進めてきたか、という態度です。これ以上進む見込みがないなら、今ある材料で判決してよい。来ない人に付き合って、手続を無限に抱え込まない、という割り切りです。そこが弁別のポイントです。基準の言葉で区別してください。そしてただし書です。一方だけが欠席した場合には、条件が付きます。出頭した相手方の申出があるときに限る、とされています。来た側には、まだ主張や証拠を足したい事情があるかもしれません。だから、判決に進むかどうかを出頭した側に選ばせているんです。逆に双方欠席なら、この申出は要りません。選ぶ人がいませんから。

同じ事件を先に進めます。争点整理は終わりました。ただし、証人尋問はこれからで、まだ熟したとは言えません。その期日に、Bが来ませんでした。出頭したAが「これ以上待っても進まないので判決を」と述べました。熟していなくても、相当と認めれば終局判決ができます。では、Aが「もう1通だけ書証を出したい」と言ったらどうでしょう。244条では判決できず、次の期日が入ります。Bが欠席したという事実は同じなのに、結論が分かれました。そういうことです。双方が来なかったときは、申出を待ちません。相当と認めれば、そのまま終局判決ができます。言葉にも注意してください。263条は期日指定の「申立て」です。244条ただし書は「申出」。似ていますが、条文の言葉が違います。

ここまでを1枚に整理しましょう。縦が、最初にすべき期日か、続行期日か。横が、一方だけ欠席したか、双方が欠席したかです。最初の期日で一方欠席なら、陳述擬制が働きえます。書面が触れていない事実は擬制自白。公示送達の呼出しだけは除きます。続行期日で一方欠席なら、原則として陳述擬制はありません。例外は簡易裁判所だけ、277条でしたね。そのとおりです。そして双方欠席なら、最初でも続行でも同じです。一月以内に期日指定の申立てがなければ、取下げ擬制。連続して二回でも、同じく取下げ擬制です。そして審理がある程度進んでいれば、どの欄でも244条の判決はありえます。そのとおりです。この表を頭に置いておけば、事案で迷いません。
今日の地図(保存版)

出発点は1つだけでした。来なかった一事では負けさせない。そのかわり、手続そのものは止めない。この2つを両立させる。ここから先の条文は、全部その両立のしかたの違いなんです。だから2×2の4つのマスは、埋まり方が全部違います。その理由まで含めて、見直してみましょう。

最初の期日にBが欠けたときは、言い分の代わりが用意できました。出してある答弁書がそれです。だから158条で代弁させます。ところが続行期日で同じことが起きても、代わりは立てません。そこです。争点はすでに動いていて、書面の読み上げでは進みません。だから「来て話してください」が原則になります。そして代わりが立たない場面でも、黙っていた扱いだけは残ります。書面が触れなかった事実は、159条3項で自白とみなされます。ただし、呼出しが現実に届いていない人は、そこから外れました。そのとおりです。ここだけは向きを間違えないでください。一方、AもBも欠けたマスには、代わりを立てる相手すらいません。誰も動かさないなら、手続を畳む。それが263条の発想です。一月以内の期日指定の申立て、または連続して二回。数字は2つでした。まさにそこです。片方は「代弁する」、もう片方は「畳む」。そして4つのマスのどこにも、244条が重なってきます。熟していなくても、審理の現状と訴訟追行の状況から相当なら判決できる。ただし一方欠席のときだけ、出頭した相手方の申出が要りましたね。そのとおりです。この表は、覚えるものではありません。今の理由づけから、その場で組み立てられるものです。
今日は名前だけ出した話——どこで回収するか

行き先を確かめておきましょう。1つ目は、自白そのものの効力です。自白とみなされた事実に、当事者や裁判所はどこまで縛られるのか。あとから撤回できるのか。これは弁論主義とセットの論点です。弁論主義・主張責任・釈明権を扱う回で、正面から扱います。そのとおりです。2つ目は、証拠の話です。書証がどうやって成立を認められるか、相手に文書を出させられるか。そうした証拠そのものの扱いは、証拠をまとめて扱う回で。3つ目は、訴えの取下げそのものです。263条は「取り下げたものとみなす」場面だけの規定でした。取下げの要件と効果、そしてもう一度訴えられるのかという問題。これは、訴訟の終わり方を扱う回で扱います。4つ目は、今日ずっと使っていた「期日」という言葉です。期日や期間、送達がどういう仕組みで動いているのか。裁判所が手続を主導する訴訟指揮権や、当事者が異議を述べる責問権。訴訟行為をどう評価するかも含めて、期日や送達の仕組みを扱う回で。名前が出たものは、必ずどこかで回収します。
次回:残す・見せる・隠す

これで、来なかったときの手続はひととおり完結しました。一方欠席も双方欠席も、最初の期日も続行期日も、全部埋まりましたね。裁判所書記官が期日ごとに記録を作り、事件の記録として残ります。そして、その記録は原則として誰でも見ることができます。裁判の公開という原則が、記録の側にも及びます。するどいです。だから、見せないための仕組みが二種類あります。一方は、第三者にだけ見せない仕組み。もう一方は、相手方の当事者にすら見せない仕組みです。できます。残す、見せる、隠す。
参照条文
- 民事訴訟法158条
- 民事訴訟法159条1項・3項
- 民事訴訟法263条
- 民事訴訟法244条