弁論主義の書き方
ビルのオーナーXが、退去した賃借人Yに4か月分の賃料120万円を請求した事例を素材に、証人だけが語った合意解約、相手方Yが述べた引渡し、主張のない預金の引出しの3つの事実を、主要事実か・弁論に出ているか・誰が出したかは問わないかの順で検討し、判決の内容まで答案の順に確認します。
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事例
図:X・Y・Zと訴訟の経緯
Xは、ビルのオーナーです。令和6年4月1日、デザイン会社Yに、ビルの2階の事務所を、賃料月額30万円、毎月末日払いで貸しました。同じ日に、Yは鍵を受け取って入居しています。Yは令和7年5月分まで、毎月末日にXのもとへ現金を持参して支払い、Xはそのつど領収書を渡していました。ところが令和7年6月上旬、仲介会社の担当者Zが同席して、XとYが事務所で話し合いをします。そして6月30日、Yは事務所を退去し、鍵はZの会社に預けました。6月上旬の話し合いの中身は、あとで効いてきます。Xは、令和7年6月分から9月分までの賃料、合計120万円の支払を求めて訴えを起こしました。
図:訴状とYの書面
訴状には、賃貸借契約の締結と、賃料額・支払時期、そして期間が経過したことが書かれています。ただし、引渡しは書かれていません。
Yの書面です。契約を結んだことは認めます。そのうえで「6月分は、6月30日に、現金で30万円をXに手渡して支払った」と述べます。さらに「7月分以降は、退去したのだから払う必要はない」と述べます。経緯の説明として「令和6年4月1日に鍵の引渡しを受けて入居した」とも書いています。ただ、「退去したから」と言っているだけで、契約を終わらせる合意があったとは述べていません。この点は、あとで丁寧に見ます。Xは、6月分を受け取ったことを否認し、「退去しただけで契約は続いている」と争います。
図:証拠調べの結果
証拠調べでは、3つのことが出ます。証人Zは、「6月上旬に、XとYが6月末で契約を終わらせることで合意した。私も同席していた」と証言しました。Yが提出した預金取引明細には、6月30日の午前に、Yの口座から現金30万円が引き出された記録があります。X本人は、「5月分まで毎月現金で受け取り、領収書を渡してきた。6月分は受け取っていないし、領収書も出していない」と述べました。
ただ、ここで確認しておくことがあります。合意解約も、預金の引出しも、X・Yのどちらの口頭弁論でも、主張として出ていません。問いは、これだけです。裁判所は、合意解約・引渡し・預金の引出しを、判決の基礎にできるでしょうか。
検討の順番
図:事実ごとに、3つの順で問う
3つの事実を、それぞれ同じ順番で検討します。1つ目は、その事実が主要事実か、間接事実かです。2つ目は、主要事実なら、弁論に出ているかです。3つ目は、弁論に出ているなら、出したのが誰かは問わない、という点です。
どうして、いきなり弁論に出ているかではなく、主要事実かどうかから始めるのでしょうか。主張が必要かどうかが、事実の種類で決まるからです。前に見たとおり、権利の発生や消滅を直接決める事実が主要事実で、これには主張が要ります。主要事実を推し測る材料が間接事実で、こちらは主張がなくても使えます。先に種類を決めておかないと、そもそも主張を探す必要があるのかどうかも分かりません。そして、主要事実が弁論に出ているかどうかを、証拠に出ているかどうかと混ぜない。これが、この回の答案の骨組みです。
図:3つの事実は、どこに出たか
3つの事実が、弁論と証拠調べのどこに出ているかを、表にまとめました。合意解約は、Zの証言にだけ出ています。引渡しは、Yの準備書面に出ていて、Xは援用していません。預金の引出しは、書証にだけ出ていて、主張は誰からもありません。3つとも状況が違うので、3つに分けて、順に検討していきます。この回は、合意解約を一番丁寧に見ます。
第1 合意解約——主要事実の確認
図:賃料請求の請求原因と、Yの抗弁
最初に、合意解約が主要事実かどうかを決めます。そのために、賃料を請求するときに、Xが何を言わなければならないかを確認します。
条文民法601条
民法601条(賃貸借)
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
これが601条です。賃貸借契約が成立するための条文です。
条文民法614条
民法614条(賃料の支払時期)
賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない。ただし、収穫の季節があるものについては、その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。
そして614条です。建物の賃料は、毎月末に払うものとされています。賃料請求の請求原因は、賃貸借契約を結んだこと、物を引き渡したこと、期間が経過したことです。601条の「これに対して」のとおり、賃料は、物を使わせることの対価です。だから、物を引き渡して使わせたことも、Xが言わなければならない事実になります。この3つは、601条と614条から出てくる成立要件で、覚える規範ではありません。
一方、Yは、7月分以降は払わなくていいと言っています。もし、6月末で賃貸借が合意で終わっていたら、7月分以降の賃料債権は、そもそも発生しません。この合意解約は、賃料債権の発生を妨げる事実です。言い出して証明しなければ不利に扱われる責任、つまり主張立証責任を負うのは、Yです。Xの請求を妨げる事実を、Yの側から出すので、抗弁です。抗弁として、判決の結論を左右する権利の発生・消滅に直接かかわる事実ですから、合意解約は、主要事実です。
第1 合意解約——問題提起と規範
図:証言にだけ現れた合意解約を、判決の基礎にできるか
問題を、はっきりさせます。合意解約は、証人Zの証言にだけ現れていて、XもYも、口頭弁論で主張していません。そこで、証拠調べで現れた抗弁事実を、裁判所は判決の基礎にできるかが問題になります。裁判官はZの証言を耳にしています。耳にしたのなら、使ってもよいのではないでしょうか。
図:規範と答案の型|峻別
ここが、この論点が試す入口です。裁判官が耳にした事実でも、そのまま使えるとは限りません。規範は、判例をもとに立てます。証拠調べによって現れた主要事実は、当事者が弁論で主張して訴訟資料とならない限り、判決の基礎とすることができません。いま述べた形にまで一般化するのは通説の整理で、最高裁自身は、当事者が口頭弁論において抗弁として主張しない事実を認定して、請求を退けることは、弁論主義に違反するとしています。
弁論に出た事実を訴訟資料といい、証拠調べで出た事実を証拠資料といいます。証言は、証拠資料です。証拠資料にとどまる主要事実は、判決の基礎にできません。
たとえば、将棋の対局を思い浮かべてください。盤に駒を置くのは、対局する2人です。見物席から「そこに駒があった」という声が聞こえても、審判は、その駒を盤に足してはいけません。裁判も同じです。判断の土俵に何を載せるかは、当事者が決めます。載った土俵の上で、証拠をどう評価するかは、裁判所が決めます。
そして、この規範には、答案に入れる理由の一文があります。当事者の主張しない主要事実で判断すれば、当事者は、反論の機会のないまま、不利な判決を受けるおそれがあるからです。Yが「合意解約があった」と主張していれば、Xはそれに反論できます。主張がないまま判決に使われると、Xは争う機会を持てません。
ここで、1つ問いです。Yは、「退去したのだから払う必要はない」と述べています。これは、合意解約を主張したことになるでしょうか?
退去したと述べることと、契約を終わらせる合意をしたと述べることは、別のことです。その違いが、一番の境目です。「6月末で契約を終わらせる約束をした」と述べれば、解約の合意という主要事実の主張です。ところが、「退去した」と述べているのは、事務所を出たという事実にすぎません。「払う必要はない」は、その事実から導いた法的な主張で、契約を終わらせる合意があったとは述べていません。退去の事実から、契約が終了したかどうかを考えるのは、裁判所の仕事です。これに対して、合意解約という主要事実の主張があったかどうかは、解約の合意があったと言っているかどうかで決まります。
第1 合意解約——あてはめと結論
図:合意解約は、証拠資料にしか現れていない
あてはめます。事実として、合意解約は、Zの証言にだけ出ています。Yは、退去したことと、払う必要がないことを述べただけで、解約の合意があったとは述べていません。Xも、合意解約を主張していません。ですから、Yの発言は、退去の事実と法的主張にすぎず、合意解約という主要事実の主張とはいえません。Zの証言は証拠資料にすぎないので、合意解約は訴訟資料になっていない、と評価できます。
Zの証言のほうが、Yの発言よりずっと具体的なのに、使えないのでしょうか。使えません。具体的かどうかではなく、弁論に出ているかどうかで決まります。
図:結論 合意解約の抗弁は判断の対象にならない
結論です。裁判所は、合意解約を判決の基礎にできず、合意解約の抗弁は判断の対象とならない、となります。この事例では、7月分以降について、Yの主張は通りません。7月分から9月分の賃料債権の発生を妨げる主張は、ほかにありません。ただし、これだけでは、7月分から9月分の請求が認められるかは、まだ決まりません。請求原因がそろっているかを、続けて見ます。
第2 引渡し
図:相手方が述べた事実を、判決の基礎にできるか
「自分に有利な事実は、自分が言わないと使えない」という思い込みがあります。それは正しいでしょうか?
正しくありません。前に弁論主義を見たときに確認したとおり、誰が言ったかは関係ありません。ここでは、それを答案に書いてみます。引渡しは、賃料債権の発生に必要な、Xの請求原因の主要事実です。ところが、Xは、訴状に書いていません。弁論に出ているのは、Yが準備書面で、「令和6年4月1日に鍵の引渡しを受けて入居した」と述べている部分だけです。そこで、相手方であるYが述べた事実を、判決の基礎にできるかが問題になります。
図:規範と答案の型|主張共通
規範は、これも判例で立てます。当事者の一方が、自己に不利益な事実を主張したときは、相手方がこれを自己の利益に援用しなかったにせよ、裁判所は、この事実を斟酌すべきです。この事例では、自己に不利益な事実を主張した「当事者の一方」がYで、「相手方」がXです。
援用しなくても使える決め手は、通説の説明です。弁論主義は、裁判所と当事者の役割分担であって、当事者どうしの分担ではありません。規範のもとにした判決そのものには、役割分担という言葉は出てきません。さきほどの土俵で言えば、何を土俵に載せるかを決めるのは、当事者の側です。XとYのどちらが載せるかまでは、決まっていません。だから、主要事実が弁論に出ているかどうかが問題で、その主張を誰がしたか、また、有利な側が援用したかは、関係ありません。
比べてみると、はっきりします。Yが準備書面で引渡しを述べているなら、弁論に出ているので使えます。Zの証言にだけ引渡しが出ていて、弁論に誰も出していないなら、第1で見たとおり、使えません。分かれ目は、誰が言ったかではなく、弁論に出たかどうかです。
図:引渡しは、Yの準備書面で弁論に現れている
あてはめです。引渡しは、賃料債権の発生に必要な、請求原因の主要事実です。Yは、準備書面で、自ら引渡しを受けて入居したと述べています。これは、Yにとって不利益な事実が、弁論に現れたということです。Xが援用していなくても、これは訴訟資料です。よって、引渡しの事実を、判決の基礎にできます。これで、7月分から9月分について、契約の締結、引渡し、期間の経過という請求原因事実が、そろいました。
第3 預金の引出し
図:主張のない引出しを、弁済の推認に使えるか
最後に、預金の引出しです。Yは、6月分の賃料を、6月30日に現金で手渡して支払ったと主張しています。これは、弁済の抗弁で、主要事実です。
条文民法473条
民法473条(弁済)
債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。
これが473条です。弁済があれば、債権は消滅します。ここも、条文どおりの成立要件です。弁済は、Yが主張済みです。ところが、Xは受け取っていないと争っています。証拠として、Yの預金取引明細には、6月30日の午前に、Yの口座から30万円が引き出された記録があります。この引出しは、弁論では誰も主張していません。
合意解約と同じで、弁論に出ていないから使えない、ということにならないのでしょうか。そこが、検討の順番の1つ目、主要事実か間接事実かの判断です。引出しは、弁済があったことを経験則から推し測る材料にすぎず、弁済そのものとは別の事実です。種類が違うのです。
図:規範と答案の型|主要事実限定
規範は、通説で立てます。弁論主義が及ぶのは、権利の発生・消滅・変更を直接決める主要事実に限られます。間接事実や補助事実は、当事者が主張していなくても、証拠から認定して、主要事実の推認に用いることができます。ここは、判例の言葉ではなく、通説の整理です。
どうして、間接事実は主張がなくていいのでしょうか。間接事実は、主要事実の存在を推し測る材料で、証拠と同じ働きをするからです。合意解約のところで見たとおり、載った土俵の上で、証拠をどう評価するかは、裁判所が決めます。証拠と同じ働きをする事実にまで、当事者の主張を求める理由はありません。反論の機会も守られています。土俵に載っているのは弁済という主要事実で、Xは、それを争えるからです。
条文民事訴訟法247条
民事訴訟法247条(自由心証主義)
裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。
これが247条です。事実を認めるかどうかは、裁判所が自由な心証で判断します。247条は、成立要件ではなく、間接事実の扱いの理由づけです。間接事実が主張の有無にかかわらず、この自由な判断に委ねられるから、主張は要りません。「6月30日に30万円を手渡した」という弁済の主張は、Yが弁論でしています。引出しは、その弁済が本当にあったのかを、証拠から推し測る材料です。ですから、引出しは、弁済の主要事実を推認する間接事実で、弁論主義は及びません。
図:引出しは、弁済を推認させる間接事実
あてはめです。Yは、賃料と同額の30万円を、支払日の6月30日の朝に引き出しています。5月分までは、毎月同じ現金手渡しで払っていました。手渡し用の現金を、当日の朝に用意したことは、その日の弁済を推認させます。6月分の領収書が出ていないことは、弁済の推認とは反対向きの事情です。ただ、それだけでは、Xが出さなかった可能性もあり、弁済の推認を覆すには足りません。よって、引出しの事実を弁済の推認に用いることができ、6月分は、弁済により消滅したと認められます。
第4 判決の内容
図:結論 判決の内容
ここまでの3つの結論を、判決の内容にまとめます。6月分は、弁済により消滅しているので、理由がありません。7月分から9月分は、請求原因がそろっていて、合意解約は判断の基礎にできず、ほかに抗弁もありません。ですから、理由があります。120万円を請求していて、認められるのは90万円です。
答案は、ここまで書いて完結します。よって、「Yは、Xに対し、90万円を支払え。Xのその余の請求を棄却する。」との判決をすべきです。結論を、規範の当てはめで止めず、判決の内容まで言い切る。これが、民事訴訟法の答案で採点される点です。
まとめ
図:規範と答案の型|峻別
この回の結論を、規範カードで確かめます。証言にだけ出た合意解約は、訴訟資料になっていないので、判決の基礎にできません。
図:規範と答案の型|主張共通
引渡しは、Yが述べたものでも弁論に出ているので、Xが援用しなくても判決の基礎にできます。
図:規範と答案の型|主要事実限定
預金の引出しは、間接事実なので、主張がなくても弁済の推認に使えます。
図:完成答案:第1 合意解約(問題の所在・規範)
こちらが、完成答案です。答案の第1の、合意解約の問題の所在と規範から見ていきます。図と同じ文面を、本文でも置きます。
第1 合意解約について
1 問題の所在
7月分から9月分の賃料債権は、賃貸借契約の締結・引渡し・期間の経過で基礎づけられる。もっとも、X・Y間の賃貸借が6月30日に合意解約で終了していれば、Yはその後の賃料の支払義務を負わない。
合意解約はYが主張立証責任を負う抗弁にあたる主要事実である。ところが、合意解約は証人Zの証言にだけ現れ、X・Yのいずれも口頭弁論で主張していない。
そこで、証拠調べで現れた合意解約の事実を、裁判所が判決の土台にしてよいかが問われる。
2 規範
証拠調べによって現れた主要事実は、当事者が弁論で主張して訴訟資料とならない限り、判決の基礎とすることができない。当事者が口頭弁論において抗弁として主張しない事実を認定して判決の基礎とすることは、弁論主義に違反する。
当事者の主張しない主要事実で判断すれば、当事者は反論の機会のないまま不利な判決を受けるおそれがあるからである。
図:完成答案:第1 合意解約(あてはめ・結論)
答案の第1の、あてはめと結論です。読んでみてください。
3 あてはめ
Yは、退去したから支払う必要がないと述べたにとどまり、解約の合意があったとは述べていない。これは退去の事実と法的主張にすぎず、合意解約という主要事実の主張とはいえない。
Xも主張していない。合意解約はZの証言という証拠資料にしか現れておらず、訴訟資料になっていない。
4 結論
よって、裁判所は合意解約を判決の基礎とすることができず、合意解約の抗弁は判断の対象とならない。
図:完成答案:第2 引渡し(問題の所在・規範)
続いて、答案の第2の、引渡しです。問題の所在と規範を確かめてください。
第2 引渡しについて
1 問題の所在
賃料債権は、賃貸借契約を結び、物の引渡しを受けて使用収益できる状態になったうえで期間が経過して初めて請求できる。引渡しはXが主張立証責任を負う請求原因の主要事実である。
ところが、Xは引渡しを主張せず、Yが準備書面で述べているだけである。そこで、相手方Yが述べた事実を判決の基礎にできるかが問題となる。
2 規範
弁論主義は裁判所と当事者の役割分担であって、当事者間の分担ではないから、主張した者が誰かは問わない。当事者の一方が自己に不利益な事実を主張したときは、相手方がこれを自己の利益に援用しなかつたにせよ、裁判所はこの事実を斟酌すべきである。
図:完成答案:第2 引渡し(あてはめ・結論)
答案の第2の、あてはめと結論です。
3 あてはめ
Yは、令和6年4月1日に引渡しを受けて入居したと準備書面で述べており、これはYに不利益な主要事実の主張である。Xがこれを援用していなくても、弁論に現れた訴訟資料である。
4 結論
よって、引渡しの事実を判決の基礎にでき、7月分から9月分の請求原因事実がそろう。
図:完成答案:第3 預金の引出し(問題の所在・規範)
次は、答案の第3の、預金の引出しです。問題の所在と規範を確かめてください。
第3 預金の引出しについて
1 問題の所在
Yは、6月分の賃料を6月30日に現金で手渡して弁済したと主張し、Xは争っている。Y提出の預金取引明細には同日朝の引出しが記載されているが、この引出しは弁論で主張されていない。
そこで、主張のない引出しの事実を弁済の推認に用いることができるかが問題となる。
2 規範
弁論主義が及ぶのは、権利の発生・消滅・変更を直接決める主要事実に限られる。間接事実・補助事実は、当事者が主張していなくても、証拠から認定して主要事実の推認に用いることができる。
間接事実は証拠と同じ働きをし、その評価は自由心証(247条)に委ねられるからである。
図:完成答案:第3 預金の引出し(あてはめ・結論)
答案の第3の、あてはめと結論です。事実の拾い方を、目で追ってください。
3 あてはめ
引出しは弁済があったことを推し測る材料にすぎず、弁済そのものではないから間接事実にあたる。Yは賃料と同額の30万円を支払日の朝に引き出し、5月分までは毎月同じ現金手渡しで支払っていた。
これは当日の弁済を推認させる。領収書がない点は、Xが出さなかった可能性もあり、推認を覆すに足りない。
4 結論
よって、引出しの事実を弁済の推認に用いることができ、6月分は弁済により消滅したと認められる。
図:完成答案:第4 判決の内容
最後に、答案の第4の、判決の内容です。結論の一文まで、目で追ってください。
第4 判決の内容
6月分の請求は理由がない。7月分から9月分は、請求原因事実がそろい、合意解約は判断の基礎にできず他に抗弁もないから理由がある。
よって、「Yは、Xに対し、90万円を支払え。Xのその余の請求を棄却する。」との判決をすべきである。
参照条文
- 民法601条
- 民法614条
- 民法473条
- 民事訴訟法247条