民訴ゼロから民事訴訟法 論文

文書提出義務の書き方

洋菓子店を営む会社Xが、冷凍パイ生地を作る会社Yに損害賠償を求める訴訟で、Yの持つ検討書・ロット管理台帳・取引条件一覧表の提出命令を申し立てた事例を素材に、220条の作りと検討の順番、自己利用文書(4号ニ)の判断枠組み、職業の秘密(4号ハ)が保護に値するかの比較衡量を答案の順に確認し、文書ごとに結論が分かれる理由と、命令・却下に対する即時抗告まで見ます。

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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

原告のX、被告のY 図:原告のX、被告のY

事例から入ります。登場するのは、洋菓子店を何店舗も営む会社で原告のXと、業務用の冷凍パイ生地を作る会社で被告のYです。Xは、Yから継続的に生地を買い、店で焼いて売っていました。11月に、Xの複数の店で、同じ出荷ロットの生地から焼いたパイに、強い異臭が出ました。Xは販売を中止して商品を回収し、お客さんへの返金などで損害を受けました。翌年の3月、XはYに、生地が契約に適合しない品質だったとして、損害賠償650万円を求めて訴えました。Yは、異臭はXの冷凍庫の保管の不備が原因だと争っています。争点は、異臭の原因が、生地に使われた原料の油脂の劣化なのか、Xの保管の不備なのか、です。7月、Xは、原料の劣化を立証するためだとして、Yが持っている3つの文書について、提出命令を申し立てました。

事実の整理:3つの文書 図:事実の整理:3つの文書

3つの文書を、順に整理します。3つとも、持っているのはYです。1つめは、品質保証部の検討書です。以下、本件検討書と呼びます。Yの品質保証部長が、製造部長と営業部長と一緒に、Xから苦情を受けたあとで、異臭の原因の見立てと、Xへの補償方針を決めるために作りました。原因についての見方、原料の受入れ時の管理に甘さがあった可能性などの率直な評価、補償額の社内の上限が書かれています。法令で作成が義務づけられてはおらず、社内の共有フォルダにだけ保存されていて、取引先にも行政にも見せたことがありません。Yは現に営業を続けています。XはYの取引先で、Yの株主でも組合員でもありません。Yは、これは4号のニ、専ら文書の所持者の利用に供するための文書だ、と主張します。2つめは、ロット管理台帳です。本件台帳と呼びます。Yが、ロットごとに、原料の油脂の受入検査の結果、つまり劣化の程度を調べた数値と、仕入先名、製造日、出荷先を記録した帳簿で、Xに出荷したロットも載っています。この設例では、食品衛生法令に基づく衛生管理の記録として、作成と保存が法令で義務づけられていて、保健所の立入検査のときに、帳簿書類として確認を受けることがある、とします。Yの主張は、4号のニに加えて、4号のハ、職業の秘密です。ハについてYは、受入検査の数値から、Yが独自に決めた合格基準が推測できる、これが仕入先や同業者に知られると、仕入先との交渉で不利になり、以後の原料の調達が困難になる、と具体的に主張し、疎明しました。疎明とは、裁判官に、一応確からしいと思わせる程度の証拠を出すことです。

もう少し事実があります。台帳の数値は、過去の特定のロット分で、現在の合格基準そのものは書かれておらず、推測できるにとどまります。Xは洋菓子店で、Yの競合ではなく、Yの調達先を奪う立場にもありません。原料は全部使用済みで現物はなく、原料の状態を客観的に示す他の証拠もありません。争点の中心は原料の劣化の有無ですから、受入検査の数値は、争点の核心の証拠です。

事実の整理:3つの文書(続き) 図:事実の整理:3つの文書(続き)

3つめは、取引条件一覧表で、本件一覧表と呼びます。Yの調達部が、仕入先ごとの単価、支払条件、年間の取引数量をまとめた社内資料で、仕入先との価格交渉の方針を立てるために使います。現在も有効な条件が載っています。Xは、Yは費用を抑えるために、劣化しやすい安い油脂に仕入先を切り替えた、それを示すために必要だ、と言います。Yの主張は4号のハで、現在の取引条件が同業者に知られると、価格交渉力を失い、以後の調達が困難になる、と具体的に主張し、疎明しました。仕入先を切り替えたかどうかは、本件台帳に載っている、仕入先名と製造日で分かります。

この事例で問うこと 図:この事例で問うこと

問うのは1つです。Yは、3つの文書を出さなければならないか。文書ごとに答えます。文書の性質を理由に提出を断れるのかどうかを、条文と最高裁の決定で、順に確かめていきます。

220条の作りと検討の順番

文書提出義務の作り 図:文書提出義務の作り

検討に入る前に、提出義務を定める220条の作りを確かめます。1号から3号は、個別の原因があって、当たれば所持者が拒めない場面です。4号は、それ以外の文書について、イからホまでの除外事由のどれにも当たらないときに、義務を認めます。前者を限定義務、後者を一般義務と呼びます。

条文民事訴訟法220条柱書・1号から3号

民事訴訟法220条(文書提出義務)柱書・1号から3号
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。

2号の挙証者とは、証拠を出したい側のことです。ここは条文に書いてあるとおりに当てはめる所で、覚える規範ではありません。読めば出てきます。

条文民事訴訟法220条4号柱書・ハ・ニ(イ・ロ・ホは省略)

民事訴訟法220条(文書提出義務)4号柱書・ハ・ニ
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)

4号は、「前三号に掲げる場合のほか」と書いてあります。つまり、1号から3号に当たる文書は、4号の除外事由に左右されません。ですから、先に1号から3号を見ます。そして4号は、除外事由のいずれにも該当しないときに義務が生じる作りです。拒みたい所持者の側が、除外事由のどれかを持ち出す形になります。ハは、197条1項の、証人が証言を拒める事項が書かれた文書のうち、黙秘の義務が免除されていないものです。設例で使うのは、197条1項3号の「技術又は職業の秘密」です。ニは、専ら文書の所持者の利用に供するための文書です。

4号の義務は、持っているのが当事者でも第三者でも同じです。第三者が所持者のときは、223条2項で、その第三者の言い分を聞く手続があります。

設例の3つの文書を、この作りに当てます。Yは、3つとも訴訟で引用していませんから、1号ではありません。Xが、3つの文書の引渡しや閲覧を求められる事情もありませんから、2号でもありません。3つとも、Yが社内の検討、衛生管理、調達管理のために作った文書で、Xのために作られたものでも、XとYの間の法律関係について作られたものでもありません。3号でもありません。ですから、1号から3号には当たらず、4号の問題になります。

4号の除外事由:設例で問題になるもの 図:4号の除外事由:設例で問題になるもの

4号の除外事由のうち、Yが持ち出すのは、ニとハです。イは196条に規定する事項が書かれた文書、ロは公務員の職務上の秘密に関する文書、ホは刑事事件に係る訴訟に関する書類等ですが、設例には、そのような事情がありません。ここでは、ないと確かめるだけにします。

検討の順番 図:検討の順番

検討の順番は5つです。1つめは、どの号で提出義務を言うか。1号から3号に当たらなければ4号です。2つめは、Yが持ち出す除外事由を、条文で特定すること。3つめは、その除外事由ごとの規範を立てること。4つめは、文書ごとにあてはめること。5つめは、命令や却下への不服申立てです。この順番の理由です。4号は、条文に、1号から3号までの場合のほか、という趣旨の言葉があるので、1号から3号を先に見ます。4号は除外事由に当たらないときに義務が生じるので、Yが何を持ち出すかを特定してから、その除外事由の規範を立てます。不服申立ては、命令や却下が出てから初めて問題になるので、最後です。1つめと2つめは、いま済ませました。3つめから、入ります。

第1 自己利用文書の規範

第1:社内の文書なら拒めるか 図:第1:社内の文書なら拒めるか

第1です。Yが、本件検討書と本件台帳について持ち出すのが、4号のニです。ここで、問いを置きます。社内でしか使わない文書なら、いつでも出さなくてよいのでしょうか?条文の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」を、そのまま読めば、社内向けに作った文書はどれも拒めるように見えます。けれども、4号は、文書を持っている人は原則として出さなければならない、という一般義務です。ニのような除外事由は、その例外ですから、絞って読む必要があります。「社内の文書です」と言うだけで拒めるなら、相手方が必要とする証拠を、持っている側が、社内の文書だと言い張って、いくらでも抱え込めてしまいます。他方で、なんでも出させればよい、とも言えません。会議の反省メモで考えます。あとで外に出ると分かっていれば、誰も本音を書きません。率直な意見の表明や、自由な意思形成は、見られない前提で成り立つからです。そういう文書まで出させると、組織の中の検討そのものが壊れます。そこで、内部の文書であることだけでなく、開示すると何が壊れるか、までを見る枠組みになります。問題提起は、専ら文書の所持者の利用に供するための文書に当たるのは、どのような文書か、です。この枠組みの出どころは、銀行の貸出稟議書をめぐる最高裁の決定です。事案は、融資を受けた人の承継人が、銀行の過剰な融資を理由に銀行を訴え、融資を決めた経緯を立証するために、貸出稟議書の提出を求めたものです。なお、この決定の当時は、条文の号が違い、四号のハでした。「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」という文言は、いまの4号のニと同じです。

判例最決平成11年11月12日 民集53巻8号1787頁

最高裁判所決定(銀行の貸出稟議書・当時は四号ハ、現在は4号ニ)
銀行の貸出稟議書は、銀行内部において、融資案件についての意思形成を円滑、適切に行うために作成される文書であって、法令によってその作成が義務付けられたものでもなく、融資の是非の審査に当たって作成されるという文書の性質上、忌たんのない評価や意見も記載されることが予定されているものである。したがって、貸出稟議書は、専ら銀行内部の利用に供する目的で作成され、外部に開示することが予定されていない文書であって、開示されると銀行内部における自由な意見の表明に支障を来し銀行の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして、特段の事情がない限り、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解すべきである。

決定の言葉を、かみ砕きます。貸出稟議書は、銀行の内部で、融資を決めるために作られる文書で、法令で作成が義務づけられたものでもありません。融資の是非を審査する文書なので、遠慮のない評価や意見も書かれます。つまり、専ら銀行の内部の利用のために作られ、外に見せる予定がなく、開示されると、内部の自由な意見の表明に支障が出て、自由な意思形成が阻害されるおそれがある。だから、特段の事情がない限り、ニに当たる、と述べています。

規範と答案の型|自己利用文書(4号ニ)の判断枠組み 図:規範と答案の型|自己利用文書(4号ニ)の判断枠組み

この決定は、貸出稟議書に限らず、どんな文書にも使える一般の枠組みを、先に示しています。図の太字が、その言葉です。規範は、この枠組みで立てます。見るのは3つです。1つめは、作成目的、記載内容、所持するに至った経緯などから、専ら内部の者の利用に供する目的で作られ、外部に開示することが予定されていないこと。内部文書性と呼びます。2つめは、開示によって、所持者の側に、看過し難い、つまり見過ごせないほどの不利益が生ずるおそれがあること。個人のプライバシーの侵害や、団体の自由な意思形成の阻害が例です。3つめは、特段の事情がないことです。

特段の事情の一つは、申立人が、その文書の利用関係で、所持者と同一視できる立場に立つ場合です。XはYの株主でも組合員でもなく、ただの取引先ですから、この立場に立つかどうかが、次の第2で効きます。

この枠組みの文言には、その文書が証拠としてどれだけ必要か、は入っていません。必要性を天秤にかけるのは、職業の秘密のほうで、第4で扱います。

自己利用文書の3つの見方 図:自己利用文書の3つの見方

答案では、この3つの見方に、作成目的、法令上の作成義務、開示の予定、記載内容、開示で壊れるもの、といった事実を拾って当てます。

第2 本件検討書

第2:本件検討書は4号ニか 図:第2:本件検討書は4号ニか

第2です。本件検討書は、4号のニに当たるか。規範の3つの見方に、事実を当てます。

あてはめ:本件検討書 図:あてはめ:本件検討書

1つめ、内部文書性です。本件検討書の作成目的は、Yが補償に応じるかを決める社内の検討です。法令で作成が義務づけられておらず、原料の受入れ管理に甘さがあった可能性など、率直な評価が書かれています。社内の共有フォルダにだけ保存され、取引先にも行政にも見せていません。専ら内部の者の利用に供する目的で作られ、外部に開示することが予定されていない文書です。2つめ、看過し難い不利益です。本件検討書は、補償に応じるかを決める意思形成の過程で作られ、率直な意見の記載が予定されています。開示されれば、Y内部で今後同じ検討をするときに、率直な意見が控えられ、Yの自由な意思形成が阻害されるおそれがあります。3つめ、特段の事情です。Xは、Yの取引先にすぎず、本件検討書の利用関係で、Yと同一視できる立場にありません。また、Yは現に営業を続けていて、守るべき社内の意思形成が、いまもあります。ですから、特段の事情はありません。結論です。本件検討書は4号のニに当たり、Yは提出義務を負わず、Xの申立ては却下されます。

社内の文書でも、結論がいつも同じになるわけではありません。たとえば、検討の結果を社内に知らせるだけの通達の文書は、意思形成の過程で作られるものではなく、2つめの不利益の要素を欠くとされた例があります。また、特段の事情が認められた例として、作成者が破たんして清算中で、所持者が回収だけをしている場合があります。本件のYは営業中ですから、これには当たりません。

第3 本件台帳と4号のニ

第3:本件台帳は4号ニか 図:第3:本件台帳は4号ニか

第3です。本件台帳も、Yは社内の管理資料だと言って、4号のニを持ち出しています。本件検討書と同じ、社内に保管されている文書です。それなのに、結論は逆になりえます。分かれ目は、誰が使うことが予定されているか、です。会議の反省メモと、税務署に見せる前提の帳簿を、比べてください。反省メモは見られない前提ですが、帳簿は、検査で見せる前提で作ります。見せる前提の文書には、開示で壊れる、内輪の自由な意見がありません。規範は、さきほどの枠組みの、内部文書性の見方を使います。外部の利用が予定されているかどうかについて、最高裁の決定があります。事案は、取引先が、メインバンクの説明義務違反などを主張して損害賠償を求め、銀行が融資先の資産査定のために作った、自己査定資料の提出を求めたものです。

判例最決平成19年11月30日 民集61巻8号3186頁

最高裁判所決定(銀行の自己査定資料)
本件文書は、前記資産査定のために必要な資料であり、監督官庁による資産査定に関する前記検査において、資産査定の正確性を裏付ける資料として必要とされているものであるから、相手方自身による利用にとどまらず、相手方以外の者による利用が予定されているものということができる。そうすると、本件文書は、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であるということはできず、民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないというべきである。

かみ砕きます。この資料は、法令で資産査定が義務づけられ、監督官庁の立入検査で、査定の正確性を裏付ける資料として必要とされます。だから、銀行自身の利用にとどまらず、銀行以外の者による利用が予定されている。専ら内部の者の利用に供する目的で作られ、外部に開示することが予定されていない文書とはいえず、ニに当たらない、と述べました。なお、この決定が判断したのは、ニまでです。

本件検討書と本件台帳の対比 図:本件検討書と本件台帳の対比

あてはめます。本件台帳は、食品衛生法令に基づいて、作成と保存が義務づけられています。保健所の立入検査で、帳簿書類として確認を受けることがあります。ですから、Y自身の利用にとどまらず、行政による利用が予定されています。Yが社内の管理にも使っていることは、結論を変えません。外部の利用が予定されている以上、専ら内部の者の利用に供する目的で作られた文書とは、いえないからです。結論です。本件台帳は、4号のニに当たりません。ただし、Yはハも主張していますから、次に職業の秘密を検討します。本件検討書と見比べておきます。本件検討書は、社内の意思決定のために作られ、本件台帳は、法令が作らせた記録です。作成の理由が、社内か法令かで、内部文書性が分かれました。

第4 職業の秘密の規範

第4:秘密だと言えば拒めるか 図:第4:秘密だと言えば拒めるか

第4は、ハです。本件台帳と本件一覧表について、Yは職業の秘密だと主張します。入る前に、復習を1つ。証人尋問で、証言を拒める技術又は職業の秘密は、どんなものでしたか?公開されると、技術の社会的価値が下落して活動が困難になるもの、または、職業に深刻な影響を与えて、以後の遂行が困難になるものです。この定義が、文書の場面でも出てきます。条文を開きます。

条文民事訴訟法197条1項(柱書・3号)

民事訴訟法197条(証言拒絶権)1項柱書・3号
次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。
三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合

197条1項3号は、技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合、証人が証言を拒める、と定めます。220条4号のハは、これを引いています。証人なら言わなくてよいことは、文書でも出さなくてよい、という作りです。ここも条文どおりの所で、覚える規範ではありません。問いを置きます。秘密だと言えば、文書を出さなくてよいのでしょうか?所持者が秘密だと言うだけで足りるとすれば、歯止めがなくなります。この問題意識が、そのまま2段の規範になっています。1段目は、職業の秘密に当たるか。2段目は、当たっても、保護に値する秘密か、です。

規範と答案の型|技術又は職業の秘密の意味 図:規範と答案の型|技術又は職業の秘密の意味

1段目の規範は、最高裁の決定の定義です。技術又は職業の秘密とは、その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落し、これによる活動が困難になるもの、または、当該職業に深刻な影響を与え、以後その遂行が困難になるものをいう。設例は職業のほうです。さらに、この決定は、技術上の情報が書かれているというだけで、情報の種類、性質、開示による不利益の具体的内容が主張も認定もされていないなら、直ちには当たらない、としました。ですから、Yが「秘密だ」と言うだけでは足りず、何がどう困るかを具体的に主張することが要ります。

規範と答案の型|保護に値する秘密かどうか 図:規範と答案の型|保護に値する秘密かどうか

2段目の規範です。職業の秘密に当たる情報が書かれていても、所持者が提出を拒めるのは、その秘密が、保護に値する秘密に当たる場合に限られます。保護に値するかどうかは、比較衡量で決めます。比べるのは、2つです。1つは、その情報の内容や性質、開示によって所持者が受ける不利益の内容と程度。もう1つは、その事件の内容や性質、証拠としてその文書を必要とする程度です。証人が職業の秘密を理由に証言を拒む場面で使う天秤と、同じ形です。なぜ、当たるだけでは足りないのか。封筒に「秘」と書けば出さずに済む、という話になるからです。それでは、4号が一般義務を定めた趣旨が失われます。そこで、真実を明らかにする必要と、秘密を守る利益を、天秤にかけます。

所持者の不利益が大きいというだけで、保護に値すると決まるわけではありません。不利益が大きくても、その文書が争点の核心で、代わりになる証拠がなければ、保護に値しないとされることがあります。逆に、不利益が同じでも、必要性が低ければ、守られます。この両側を、事実で拾えるかが、あてはめの勝負になります。事実の拾い方の手本になる決定を、見ます。事案は、取引先が、メインバンクの説明義務違反を主張して銀行を訴え、銀行が融資先の経営状況を分析し、評価して作った自己査定資料の提出を求めたものです。融資先は、当時すでに、民事再生手続の開始決定を受けていました。文中の抗告人は銀行、Aは融資先のことです。

判例最決平成20年11月25日 民集62巻10号2507頁

最高裁判所決定(自己査定資料の分析評価情報)
しかし、本件分析評価情報は、前記のとおり民事再生手続開始決定前の財務状況、業務状況等に関するものであるから、これが開示されてもAが受ける不利益は小さく、抗告人の業務に対する影響も通常は軽微なものであると考えられる。一方、本案訴訟は必ずしも軽微な事件であるとはいえず、また、本件文書は、抗告人と相手方らとの間の紛争発生以前に作成されたもので、しかも、監督官庁の事後的検証に備える目的もあって保存されたものであるから、本件分析評価情報部分は、Aの経営状態に対する抗告人の率直かつ正確な認識が記載されているものと考えられ、本案訴訟の争点を立証する書証としての証拠価値は高く、これに代わる中立的・客観的な証拠の存在はうかがわれない。そうすると、本件分析評価情報は、抗告人の職業の秘密には当たるが、保護に値する秘密には当たらないというべきであり、……

決定の拾い方に注目してください。不利益の側は、民事再生手続の開始決定前の財務状況に関する情報だから、開示されても融資先が受ける不利益は小さく、銀行の業務への影響も軽微。融資先はすでに再生手続に入っているので、それより前の財務状況が知られても、受ける不利益は通常は軽微、という見方です。必要性の側は、本案訴訟が軽微な事件とはいえない、紛争の発生前に作られ、率直で正確な認識が書かれていて、争点を立証する書証としての証拠価値が高い、しかも代わりになる中立的、客観的な証拠が見当たらない。そこで、職業の秘密には当たるが、保護に値する秘密には当たらない、としました。射程に注意します。この比較衡量を、文書提出の場面で最高裁が明示したのは、職業の秘密の事案です。技術の秘密にも同じ比較衡量が及ぶかは、決定は明示していません。設例は職業の秘密ですから、この比較衡量で書きます。

保護に値するかの天秤 図:保護に値するかの天秤

整理します。天秤の片側は、出すYの不利益で、情報の内容や性質、開示で受ける不利益の中身と程度。もう片側は、Xの必要性で、事件の内容、そして、その文書が争点の核心か、代わりの証拠があるか、です。

第5 本件台帳と4号のハ

第5:本件台帳は4号ハか 図:第5:本件台帳は4号ハか

第5です。本件台帳は、4号のハの職業の秘密か。当たるとして、保護に値するか。2段で検討します。1段目、当たるか。Yは、受入検査の数値から、Yが独自に決めた合格基準が推測でき、これが仕入先や同業者に知られると、仕入先との交渉で不利になり、以後の原料の調達が困難になる、と具体的に主張し、疎明しています。原料を調達できなくなるのは、公開されると職業に深刻な影響を与え、以後その遂行が困難になる、ということです。ですから、職業の秘密に当たります。

あてはめ:本件台帳の天秤 図:あてはめ:本件台帳の天秤

2段目、保護に値するか。まず、不利益の側です。数値は、過去の特定のロット分で、現在の合格基準そのものは書かれておらず、推測できるにとどまります。また、開示を受けるXは洋菓子店で、Yの競合ではなく、Yの調達先を奪う立場にありません。Yの不利益は、大きくありません。次に、必要性の側です。争点は、異臭の原因が、原料の油脂の劣化か、Xの保管の不備か、です。受入検査の数値は、劣化の有無を示す、争点の核心の証拠です。原料は使用済みで現物がなく、他に原料の状態を客観的に示す証拠もありません。本件台帳を証拠として必要とする程度は、高いです。比べると、本件台帳の職業の秘密は、保護に値する秘密に当たりません。ですから、4号のハに当たりません。

合格基準が推測できるのに、不利益が大きくないと言える理由です。1段目は、その情報が知られたら仕事が続けにくくなるか、を見ました。2段目は、この訴訟でXに出したときに、実際にどれだけ失うかを量ります。推測できるのは過去のロットの数値からで、基準そのものは書かれておらず、Xは、Yの調達先を奪う立場にもありません。天秤は、必要性の側に傾きます。結論です。本件台帳は、4号のニにもハにも当たらず、イ、ロ、ホにも当たりません。ですから、Yは提出義務を負い、提出を命じられます。

第6 対比 本件一覧表

第6:本件一覧表は4号ハか 図:第6:本件一覧表は4号ハか

第6は、本件一覧表です。同じ職業の秘密なのに、本件台帳と結論が逆になる理由を、確かめます。同じ天秤、同じ規範で書きます。1段目、当たるか。Yは、本件一覧表の単価と支払条件が、現在も有効な条件で、同業者に知られると価格交渉力を失い、以後の調達が困難になる、と具体的に主張し、疎明しています。職業に深刻な影響を与え、以後その遂行が困難になるものといえますから、職業の秘密に当たります。2段目、保護に値するか。不利益の側は、Xが競合でないことを考慮しても、現在も有効な条件そのものが書かれていますから、開示によってYが受ける不利益は大きいです。必要性の側です。Xが立証したいのは、Yが、費用を抑えるために、劣化しやすい油脂に仕入先を切り替えたことです。しかし、切替えの有無は、本件台帳に記録された、仕入先名と製造日で立証できます。単価の高低は、異臭の原因という争点の証明に、必要とはいえません。代わりの証拠があり、必要とする程度は低いです。比べると、保護に値する秘密に当たります。結論です。本件一覧表は4号のハに当たり、Yは提出義務を負わず、Xの申立ては却下されます。

本件台帳と本件一覧表の対比 図:本件台帳と本件一覧表の対比

秘密として痛いのは、本件一覧表のほうに見えます。秘密の大きさも見ますが、それだけでは決まりません。この回の2つを分けたのは、必要性と代わりの証拠です。本件台帳は、争点の核心で、代わりがありません。本件一覧表は、周辺で、代わりがあります。

第7 不服申立て

第7:誰が、どの裁判を争えるか 図:第7:誰が、どの裁判を争えるか

第7は、不服申立てです。裁判所が、本件検討書の申立てを、4号のニに当たるとして却下し、本件台帳は提出を命じ、本件一覧表の申立てを、4号のハに当たるとして却下した、と仮定します。誰が、どの裁判に、不服を申し立てられるでしょうか。命令の中身から、条文で確かめます。

条文民事訴訟法223条1項

民事訴訟法223条(文書提出命令等)1項
裁判所は、文書提出命令の申立てを理由があると認めるときは、決定で、文書の所持者に対し、その提出を命ずる。この場合において、文書に取り調べる必要がないと認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは、その部分を除いて、提出を命ずることができる。

223条1項です。申立てに理由があるとき、裁判所は決定で、所持者に提出を命じます。後段のとおり、取り調べる必要のない部分や、提出の義務があるとは認められない部分があれば、その部分を除いて命じることもできます。命令も却下も、決定という形でされます。

条文民事訴訟法223条7項

民事訴訟法223条(文書提出命令等)7項
文書提出命令の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができる。

7項は、文書提出命令の申立てについての決定に対しては、即時抗告ができる、と定めます。即時抗告は、決定に対する不服の申立てで、告知を受けた日から1週間のうちにするものです。命令にも却下にも、即時抗告ができます。問題は、誰が、できるかです。最高裁の決定を見ます。事案は、信用金庫の会員が理事であった者を訴えた代表訴訟で、信用金庫が持つ文書の提出命令の申立てを一度は却下した決定を、抗告審が取り消して差し戻したところ、被告とされた元理事が抗告したものです。元理事は、文書の提出を命じられた所持者でも、申立てを却下された申立人でもなく、抗告は不適法とされました。

判例最決平成12年12月14日 民集54巻9号2743頁

最高裁判所決定(文書提出命令の抗告の利益)
文書提出命令の申立てについての決定に対しては、文書の提出を命じられた所持者及び申立てを却下された申立人以外の者は、抗告の利益を有せず、本案事件の当事者であっても、即時抗告をすることができないと解するのが相当である。

かみ砕きます。抗告の利益を持つのは、提出を命じられた所持者と、申立てを却下された申立人だけです。本案事件の当事者であっても、そのどちらでもなければ、即時抗告はできません。この即時抗告は、提出義務があるかないかを、申立人と、命令のあて先である所持者との間で争う機会として置かれています。命令に従わないときに、相手方の主張を真実と認められたり過料の制裁を受けたりするなどの不利益を受けるのは所持者で、申立てを退けられるのは申立人です。元理事は、信用金庫の文書が法廷に出れば訴訟で不利になるかもしれませんが、提出の義務を負わされたわけではありません。ですから、抗告の利益がありません。どんな理由で争えるかにも、制限があります。証拠調べの必要性を欠くことを理由に申立てを却下する決定には、必要性があることを理由として、独立に不服を申し立てることができません。理由は、即時抗告の役割にあります。即時抗告は、いま見たとおり、提出義務があるかないかを争うためのものです。その証拠を調べる必要があるかどうかは、提出義務とは別の問題で、証人でも文書でも、どの証拠を調べるかは、事件を審理している裁判所が決めます。証人の申出を必要がないとして退けられても、その場で抗告はできず、本案、つまりXの損害賠償請求そのものについての判決に対する控訴の中で争います。文書も同じ扱いです。これに対して、除外事由に当たるとして却下されたのなら、提出義務がないと判断されたのですから、即時抗告で争えます。

あてはめ:誰が、どの裁判を争えるか 図:あてはめ:誰が、どの裁判を争えるか

あてはめます。Yは、本件台帳の提出を命じられた所持者ですから、即時抗告ができます。Xは、本件検討書と本件一覧表の申立てを却下された申立人ですから、即時抗告ができます。その却下の理由は、除外事由に当たることで、証拠調べの必要性を欠くことではありません。ですから、必要性についての制限にも当たりません。結論です。Yは本件台帳の命令に対して、Xは本件検討書と本件一覧表の却下に対して、それぞれ即時抗告ができます。従わないときの効果は、当事者については224条にあり、相手方の主張を真実と認めることができる場合があります。

まとめ

完成答案:第1 提出義務の根拠(1/2) 図:完成答案:第1 提出義務の根拠(1/2)

こちらが、完成答案です。答案の第1の、問題の所在と規範です。図と同じ文面を、本文でも置きます。

第1 提出義務の根拠

1 問題の所在

 Xは、Yが所持する品質保証部の検討書(以下「本件検討書」と呼ぶ)、原料のロット管理台帳(以下「本件台帳」と呼ぶ)及び仕入先ごとの取引条件一覧表(以下「本件一覧表」と呼ぶ)について、文書提出命令を申し立てた。Yは、本件検討書及び本件台帳が専ら文書の所持者の利用に供するための文書に当たり、本件台帳及び本件一覧表が職業の秘密を記載した文書に当たると主張している。そこで、Yがいずれの号により提出義務を負うか、Yの主張する除外事由に当たるかが問題となる。

2 規範

 民事訴訟法220条は、1号から3号までに当たる場合には文書の所持者が提出を拒むことができないとし、4号は、前3号の場合のほか、文書がイからホまでに掲げるもののいずれにも該当しないときに提出義務を認める。そこで、まず1号から3号までに当たるかを検討し、当たらない場合に、所持者が主張する4号の除外事由に当たるかを検討する。

完成答案:第1 提出義務の根拠(2/2) 図:完成答案:第1 提出義務の根拠(2/2)

答案の第1の、あてはめと結論です。読んでみてください。

3 あてはめ

 (1) Yは本件各文書を訴訟において引用しておらず、Xが本件各文書の引渡し又は閲覧を求めることができる事情もない。また、本件各文書は、Yが社内の検討、衛生管理及び調達管理のために作成したものであり、Xのために作成された文書でも、XとYとの間の法律関係について作成された文書でもない。よって、1号から3号までに当たらない。

 (2) Yが主張する除外事由は、本件検討書及び本件台帳についての4号ニと、本件台帳及び本件一覧表についての4号ハである。本件各文書に、196条に規定する事項、公務員の職務上の秘密、刑事事件に係る訴訟に関する書類等が記載されている事情はなく、4号イ、ロ及びホには当たらない。

4 結論

 よって、Yは、本件各文書が4号ニ又はハに当たらない限り、提出義務を負う。

完成答案:第2 本件検討書(1/2) 図:完成答案:第2 本件検討書(1/2)

続いて、答案の第2の、本件検討書です。問題の所在と規範を確かめてください。

第2 本件検討書

1 問題の所在

 本件検討書が、4号ニの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるかが問題となる。この文言だけでは範囲が定まらないから、その判断枠組みが問題となる。

2 規範

 (1) ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解する(最決平成11年11月12日)。

 (2) 特段の事情は、申立人が、その文書の利用関係において所持者と同一視することができる立場に立つ場合などに認められる(最決平成12年12月14日民集54巻9号2709頁参照)。

完成答案:第2 本件検討書(2/2) 図:完成答案:第2 本件検討書(2/2)

答案の第2の、あてはめと結論です。事実の拾い方を、目で追ってください。

3 あてはめ

 (1) 本件検討書は、Yの品質保証部長が、製造部長及び営業部長とともに、Xからの苦情を受けて、異臭の原因の見立てとXへの補償方針を検討するために作成した文書である。法令によって作成が義務付けられたものではなく、原料の受入管理に甘さがあった可能性など率直な評価が記載され、社内の共有フォルダにのみ保存されており、取引先や行政庁に示されたことはない。よって、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書である。

 (2) 本件検討書は、Yが補償に応じるかどうかを決める意思形成の過程で作成された文書であり、率直な意見の記載が予定されている。これが開示されると、Y内部で今後同様の検討をするときに率直な意見の表明が控えられ、Yの自由な意思形成が阻害されるおそれがある。よって、開示によってYの側に看過し難い不利益が生ずるおそれがある。

 (3) Xは、Yの取引先にすぎず、本件検討書の利用関係においてYと同一視することができる立場にない。また、Yは現に営業を続けており、保護されるべき内部の意思形成がなお存在する。よって、特段の事情はない。

 (4) 以上より、本件検討書は4号ニの文書に当たる。

4 結論

 よって、Yは本件検討書の提出義務を負わず、Xの申立ては却下される。

完成答案:第3 本件台帳(1/4) 図:完成答案:第3 本件台帳(1/4)

次は、答案の第3の、本件台帳です。問題の所在と、規範の前半を確かめてください。

第3 本件台帳

1 問題の所在

 Yは、本件台帳が4号ニ及びハの文書に当たると主張する。そこで、まず4号ニに当たるかを検討し、次に4号ハに当たるかを検討する。

2 規範

 (1) 4号ニについては、第2の2(1)の規範による。法令により義務付けられた業務のために必要な資料であり、監督官庁の検査において正確性を裏付ける資料として必要とされる文書は、所持者自身による利用にとどまらず、所持者以外の者による利用が予定されているから、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書とはいえない(最決平成19年11月30日参照)。

完成答案:第3 本件台帳(2/4) 図:完成答案:第3 本件台帳(2/4)

答案の第3の、規範の後半です。読んでみてください。

 (2) 4号ハが引く民訴法197条1項3号の「技術又は職業の秘密」とは、その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいう(最決平成12年3月10日)。もっとも、文書に職業上の情報が記載されているというだけでは直ちには当たらず、情報の種類、性質及び開示による不利益の具体的内容が主張される必要がある(同決定参照)。

 (3) 文書提出命令の対象文書に職業の秘密に当たる情報が記載されていても、所持者が民訴法220条4号ハ、197条1項3号に基づき文書の提出を拒絶することができるのは、対象文書に記載された職業の秘密が保護に値する秘密に当たる場合に限られ、当該情報が保護に値する秘密であるかどうかは、その情報の内容、性質、その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸事情を比較衡量して決すべきものである(最決平成20年11月25日)。

完成答案:第3 本件台帳(3/4) 図:完成答案:第3 本件台帳(3/4)

答案の第3の、あてはめの前半です。事実の拾い方を、目で追ってください。

3 あてはめ

 (1) 本件台帳は、ロットごとの原料の受入検査の結果、仕入先名等を記録したものであり、食品衛生法令に基づいて作成と保存が義務付けられ、保健所の立入検査の際に帳簿書類として確認を受けることがある。よって、Y自身による利用にとどまらず、行政庁による利用が予定されている。したがって、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書とはいえず、4号ニの文書に当たらない。

 (2) Yは、受入検査の数値からYが独自に定めた合格基準が推測でき、これが仕入先や同業者に知られると、仕入先との交渉で不利になり、以後の原料の調達が困難になると、具体的に主張し、疎明している。そうすると、受入検査の結果は、公開されると当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものといえ、職業の秘密に当たる。

 (3) 開示によってYが受ける不利益を検討する。数値は過去の特定のロットについてのものであり、現在の合格基準そのものは記載されておらず、推測できるにとどまる。また、開示を受けるXは洋菓子店であってYの競合ではなく、Yの調達先を奪う立場にない。よって、Yの不利益は大きくない。

完成答案:第3 本件台帳(4/4) 図:完成答案:第3 本件台帳(4/4)

答案の第3の、あてはめの後半と結論です。天秤の傾け方を確かめてください。

 (4) 他方、本案の争点は、異臭の原因が原料の油脂の劣化か、Xの保管の不備かである。受入検査の数値は原料の劣化の有無を示す争点の核心の証拠であり、原料は使用済みで現物がなく、他に原料の状態を客観的に示す証拠もない。よって、本件台帳を証拠として必要とする程度は高い。

 (5) 以上を比較衡量すると、本件台帳に記載された職業の秘密は、保護に値する秘密に当たらない。よって、本件台帳は4号ハの文書に当たらない。

4 結論

 よって、本件台帳は4号ニにもハにも当たらず、イ、ロ及びホにも当たらないから、Yは提出義務を負い、提出を命じられる。

完成答案:第4 本件一覧表(1/2) 図:完成答案:第4 本件一覧表(1/2)

答案の第4の、本件一覧表です。問題の所在から、あてはめの前半までを確かめてください。

第4 本件一覧表

1 問題の所在

 Yは、本件一覧表が4号ハの文書に当たると主張する。そこで、本件一覧表の記載が職業の秘密として保護に値するかが問題となる。

2 規範

 第3の2(2)及び(3)の規範による。

3 あてはめ

 (1) Yは、本件一覧表の仕入先ごとの単価と支払条件が現在も有効な条件であり、同業者に知られると価格交渉力を失い、以後の調達が困難になると、具体的に主張し、疎明している。よって、公開されると当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものといえ、職業の秘密に当たる。

 (2) Xが競合でないことを考慮しても、本件一覧表には現在も有効な条件そのものが記載されているから、開示によってYが受ける不利益は大きい。

完成答案:第4 本件一覧表(2/2) 図:完成答案:第4 本件一覧表(2/2)

答案の第4の、あてはめの後半と結論です。本件台帳との違いを確かめてください。

 (3) 他方、Xは、Yが費用を抑えるために劣化しやすい油脂に仕入先を切り替えたことを立証しようとする。しかし、仕入先の切替えの有無は、本件台帳に記録された仕入先名と製造日によって立証できる。単価の高低は、異臭の原因という争点の証明に必要とはいえない。よって、本件一覧表を証拠として必要とする程度は低い。

 (4) 以上を比較衡量すると、本件一覧表に記載された職業の秘密は、保護に値する秘密に当たる。よって、本件一覧表は4号ハの文書に当たる。

4 結論

 よって、Yは本件一覧表の提出義務を負わず、Xの申立ては却下される。

完成答案:第5 不服申立て 図:完成答案:第5 不服申立て

最後の、答案の第5、不服申立てです。結論の一文まで、目で追ってください。

第5 不服申立て

1 問題の所在

 裁判所が本件台帳の提出を命じ、本件検討書及び本件一覧表の申立てを却下した場合、誰がこれらの決定に対して不服を申し立てることができるかが問題となる。

2 規範

 文書提出命令の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができる(民事訴訟法223条7項)。文書の提出を命じられた所持者及び申立てを却下された申立人以外の者は、抗告の利益を有せず、本案事件の当事者であっても、即時抗告をすることができない(最決平成12年12月14日民集54巻9号2743頁)。また、証拠調べの必要性を欠くことを理由として申立てを却下する決定に対しては、必要性があることを理由として独立に不服の申立てをすることはできない(最決平成12年3月10日)。

3 あてはめ

 (1) Yは、本件台帳の提出を命じられた所持者であるから、即時抗告をすることができる。

 (2) Xは、本件検討書及び本件一覧表の申立てを却下された申立人であるから、即時抗告をすることができる。その却下の理由は、除外事由に当たることであり、証拠調べの必要性を欠くことではないから、上記の制限にも当たらない。

4 結論

 よって、Yは本件台帳の命令に対して、Xは本件検討書及び本件一覧表の却下に対して、それぞれ即時抗告をすることができる。

参照条文

  • 民事訴訟法220条
  • 民事訴訟法197条1項3号
  • 民事訴訟法223条1項
  • 民事訴訟法223条7項

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