独立当事者参加の審判の書き方(前編)
油彩画の甲を買ったと主張するXが、甲を預かる修復工房Yに引渡しを求め、同じ甲を買ったと主張するZが独立当事者参加をして、一審でZが勝ち、Xだけが控訴した事例を素材に、誰も不服を言っていないZのYに対する請求まで控訴審に移るか、控訴しなかったYは控訴人か被控訴人か、控訴審はYの不服がない部分をどこまで変えられるかを、答案の順に確かめます。
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事例
図:原告X・被告Y・参加人Zの関係
登場するのは、4人です。X、Y、Z、Qです。争うのはX、Y、Zの3人で、Qは売買の場面にだけ出てきます。Xは、油彩画の甲を買ったと主張する個人です。Yは、甲を預かって修復している修復工房です。Zは、同じ甲を別に買ったと主張する個人です。Qは、甲を売った美術商です。上の図は、X、Y、Zの3人が、3本の請求で結ばれていることを表しています。3本とは、XのYに対する請求、ZのXに対する請求、ZのYに対する請求です。それぞれの中身を、時間の順に見ていきます。
図:時系列:売買から控訴まで
令和5年4月3日です。美術商のQが、甲をXに売りました。これはXの主張です。次に、令和5年6月12日です。Qは、同じ甲をZにも売りました。これはZの主張です。XもZも、自分が買って所有者になったと言い、互いに相手の所有を認めません。甲は、売買の前から、修復のために、Yの手元にあります。Yは、どちらが所有者でも構わないが、二重に引き渡すことだけは避けたい、と考えています。
令和6年2月19日です。Xが、所有権に基づいて、Yに甲の引渡しを求めて、提訴しました。これが請求①です。令和6年6月10日です。Zが、XとYの双方を相手方として、参加の申出をしました。Xに対しては、甲がZの所有であることの確認を求めます。これが請求②です。Yに対しては、甲をZに引き渡せと求めます。これが請求③です。
Zが、XとYの双方に請求を立てて訴訟に加わるこの形が、独立当事者参加のうちの、権利主張参加です。Zの請求とXの請求は、甲の所有者が誰かをめぐって、論理的に両立しえません。ですから、47条1項後段の要件を満たし、参加は適法です。参加の適法性は、ここでは確認にとどめます。以後は、X、Y、Zの3人が3本の請求で結ばれたこの訴訟を、三面訴訟と呼びます。
令和7年2月17日に、一審判決が出ました。裁判所は、甲の所有者はZだと判断して、請求①を棄却、請求②を認容、請求③を認容しました。令和7年3月3日に、Xだけが、控訴しました。求める内容は、請求①の認容と、請求②の棄却です。Yは、控訴も附帯控訴もしていません。附帯控訴とは、相手の控訴に乗って、自分の不服も控訴審に持ち込む手続です。Zは勝ったので、控訴していません。
図:事実の整理:ア・イ・ウ・エ・オ・カ
事実を、記号で整理します。事実アは、XとZが、甲を別々に買ったと主張して争い、Yは預かっているだけ、ということです。事実イは、請求3本で結ばれた三面訴訟であることです。事実ウは、一審が、所有者はZとして、請求①を棄却、請求②と③を認容したことです。事実エは、控訴したのがXだけで、Yは控訴も附帯控訴もしていないことです。事実オは、請求③を認容した部分について、Xは当事者でなく、Yは不服を申し立てていないことです。事実カは、控訴審の心証が、Ⅰ所有者はX、Ⅱ所有者はZ、の2通りあることです。
図:請求・一審の結論・不服の範囲
上の図は、請求ごとに、一審の結論と、不服を言っているのが誰かを並べたものです。請求①は棄却で、Xが認容を求めています。請求②は認容で、Xが棄却を求めています。請求③は認容で、誰も不服を言っていません。
図:問い:Xだけの控訴で、控訴審はどこまで動けるか
問うのは2つです。1つめ、Xだけの控訴で、ZとYとの間の請求③は、確定するのか、それとも控訴審に移るのか。2つめ、控訴審が、甲の所有者はXと判断したとき、控訴していないYの部分、つまり請求③まで、変えられるのか。この2つに絞るので、参加の要件と、上訴の利益は、論じません。また、判決より前に、一部の人が和解したり抜けたりする場面は、後編で扱います。
条文と検討の順番
図:検討の順番
検討の順番は3つです。1つめは、全請求が控訴審に移るか、つまり確定が遮断されるかです。2つめは、控訴していないYが、控訴審でどんな地位に立つかです。3つめは、Yの部分を、Yの不服がないのに変えられるか、その限度です。そして結論として、控訴審が言い渡す判決の内容まで書きます。最後に、別件で、控訴したのが参加人だった場合を当てます。
この順番にする理由は、控訴審が動けるのは、事件が控訴審に移ってからだからです。次に、動かしたい部分の持ち主であるYの立場を決めないと、不服申立ての限度が当たるかどうかが決まりません。最後に、その限度を超えて変えられるかを検討します。
条文は、三面訴訟の規律の出発点になる、47条4項から開きます。
条文民事訴訟法47条4項
民事訴訟法47条4項(独立当事者参加)
第四十条第一項から第三項までの規定は第一項の訴訟の当事者及び同項の規定によりその訴訟に参加した者について、第四十三条の規定は同項の規定による参加の申出について準用する。
4項は、40条1項から3項までを、三面訴訟の当事者に準用する、と書いています。40条は、本来、必要的共同訴訟の条文です。同じ側に並んだ共同訴訟人に、一つの結論しか出せない場面の規律です。三面訴訟の三人は、同じ側ではなく、互いに争っています。それでも、結論は一つでなければならないので、40条を借ります。借りる意味は、共同ではなく、対立牽制です。対立牽制とは、三人のうちの一人を除け者にして、他の二人だけで訴訟を動かさせない、ということです。準用されるのは、1項から3項までです。3項は、手続の中断や中止が全員に及ぶという定めで、この事例では出てきません。
準用されると何が変わるのかを、40条1項で見ます。
条文民事訴訟法40条1項
民事訴訟法40条1項(必要的共同訴訟)
訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる。
合一にのみ確定すべき場合とは、全員に、矛盾のない同じ結論を出さなければならない場合です。三面訴訟は、その場合にあたります。そのため、一人の訴訟行為は、全員の利益になるときにだけ効きます。この利益が何を指すかは、控訴の場面で具体的に見ます。
条文を読めば分かる部分と、解釈で立てる部分は、次のように分けます。条文を音読すれば出てくる内容は、成立要件です。条文番号を添えて書けば足ります。条文に書いていない基準を、判例や解釈で立てるものが、規範です。ここで立てる規範は3つです。一人の控訴と確定の遮断、控訴しなかった者の地位、そして変更の限度です。47条4項と、40条と、304条は、条文どおりなので、成立要件です。40条を借りる意味が対立牽制だ、という部分は、条文に書いていない趣旨です。答案では、準用の理由として一言添えます。
第1 全請求の移審
図:第1の確認:必要的共同訴訟で一人の訴訟行為は全員に効くか
第1は、全請求の移審です。先に、必要的共同訴訟の規律を、1つ確かめます。必要的共同訴訟で、共同訴訟人の一人がした訴訟行為が全員に効くのは、全員の利益になる場合だけです。40条1項です。そして、47条4項が、この規律を三面訴訟に借りています。この確認を、控訴に当てます。
Xは、Yにも、Zにも負けました。控訴したのはXだけです。ZがYに勝った部分、つまり請求③は、誰も控訴していません。二当事者の訴訟なら、不服を言わなかった部分は確定します。では、三面訴訟の請求③も、このまま確定するのでしょうか。ここが、第1の問題の所在です。請求③は、YとZの間の請求で、Xは当事者ではありません。三面訴訟でも、Xの控訴で、請求③が動くのか。確定の遮断とは、上訴によって判決が確定しないことです。移審とは、事件が上の審級に移ることです。この2つが、どう決まるかを見ます。
図:規範と答案の型|一人の控訴と確定の遮断・移審
規範は、最高裁の判決で立てます。訴訟の目的が、原告、被告、参加人の三者間で、合一にのみ確定すべき場合には、一審判決のうち、控訴しなかった者の間の請求を認容した部分も、原告のみの控訴によっても、確定を遮断され、全請求が控訴審に移る。控訴審は、三者を判決の名宛人として、事件の本案につき、一個の終局判決をする。一部の者だけに判決をすることは、許されない。
決め手は2つあります。1つめは、そうしないと結論が割れるからです。仮に、請求③だけが確定して、請求①と②だけが控訴審に移るとします。控訴審が、甲の所有者はXと判断して、請求①を認容すると、Yは、甲をXに引き渡せと命じられます。ところが、請求③は、甲をZに引き渡せ、で確定しています。Yは、二重に引き渡せと命じられます。三者の結論が、割れたまま固まります。合一にのみ確定すべき、に反します。
2つめは、40条1項の準用で、説明できることです。ただし、判決はこの点の理由を述べていません。合一確定の要請から、次のように整理するのが一つの説明です。Xの控訴は、控訴したX自身だけでなく、Yにとっても、有利な行為です。Yも、請求③ではZに負けていて、一審で負けた者の一人だからです。ここでの有利さは、一審で負けた者が、結論を上の裁判所に持ち込める、という意味です。Zは勝った側で、控訴審で結論が変わるおそれがあるので、Zにとって有利とは言えません。けれども、Xの控訴は、Zを置き去りにして、二人で結論を決める行為ではなく、三人の結論を、まとめて上に運ぶだけです。だから、Xの控訴は全員に効く、と整理します。
ここに、答案での注意があります。判決は、理由を長く書いていません。合一にのみ確定すべき場合にあたることが明らかだ、と述べるだけです。ですから、決め手の2つめは、判決の理由ではなく、準用からの説明として書きます。また、全請求が移る理由を、客観的併合の場面で出てくる上訴不可分の原則だから、とは書きません。理由は、合一確定の要請です。判決の言葉で確かめます。
判例最判昭和43・4・12 民集22巻4号877頁
最高裁判所判決(参加人だけが控訴した事件。被告を抜いた判決は違法とされた)
参加人のなした右控訴、上告は、第一審被告に対しても効力を生じ
……本件訴訟は第一審原告、第一審被告、参加人につき、全体として、原審、更に、当審に移審して審理の対象となつているものと解すべく
……参加人、第一審原告、第一審被告の三者を判決の名宛人として、事件の本案につき一個の終局判決をのみなすべきものであつて、訴訟当事者の一部のみに関する判決をすることは許されない
この判決の事件は、甲をめぐる設例とは別の事件です。ある定期預金をめぐって、原告、被告、参加人が争いました。一審は、原告が全部勝ち、参加人と被告が全部負けました。参加人だけが、原告を相手方に控訴しました。控訴状は原告にだけ送られ、控訴審は、被告を抜きにして、原告と参加人にだけ判決しました。最高裁は、参加人の控訴は被告に対しても効力を生じ、全体として控訴審に移っているので、三者を名宛人とする一個の判決をすべきだ、として、被告を除いた判決を違法とし、破棄して差し戻しました。
図:あてはめ:全請求の移審
甲をめぐる設例に、あてはめます。まず、事実イです。3本の請求は、X、Y、Zを結ぶ三面訴訟で、三者間で合一にのみ確定すべき場合にあたります。次に、事実エとオです。控訴したのはXだけで、請求③には、誰も不服を言っていません。それでも、合一確定の要請が、Xの控訴を、三者の結論に及ばせます。請求③も、確定を遮断されます。
第1の結論です。Xだけの控訴でも、請求③を含む全請求の確定が遮断され、控訴審に移ります。控訴審は、X、Y、Zを名宛人とする、一個の判決で裁判します。
第2 控訴しなかったYの地位
図:第2の問い:控訴人か被控訴人か
第2は、控訴しなかったYの地位です。Yは、控訴も附帯控訴もしていません。控訴審で、Yは、控訴人でしょうか。それとも、被控訴人でしょうか。Yは何もしていないので被控訴人のようにも見えますが、Xの控訴で一緒に控訴審に移ったのなら控訴人でもよさそうで、迷うところです。
問題の所在です。控訴審が一審判決を変えられるのは、不服が申し立てられた範囲だけです。これが、不服申立ての限度の規律で、条文は第3で確かめます。全請求が控訴審に移ったとして、Yがどんな立場に立つかで、請求③に、この規律が、どう当たるかが決まります。Yを控訴人とみれば、Yも不服を申し立てた者として扱われるので、請求③について、限度の問題は出ません。被控訴人とみれば、Yは、不服を申し立てていないことになります。
図:規範と答案の型|控訴しなかった者の地位
規範は、最高裁の判決(下に引く最判昭和50・3・13)で立てます。この判決は、上訴人、被上訴人という言葉を使っています。控訴審では、それぞれ、控訴人、被控訴人にあたります。規範は、次のとおりです。三者間の訴訟で、一当事者が、他の二当事者のうちの一当事者のみを相手方として上訴した場合には、その上訴の提起は、40条2項の準用により、残る一当事者にも効力を生じ、その者は、被上訴人としての地位に立つ。上訴した者と、相手方とされなかった者との利害が、実質的に共通でも、その者を上訴人として扱う理由にはならない。この規範によれば、控訴しなかった者は、控訴審では、被控訴人です。
ここで、どの判決が何を述べたかを押さえます。被上訴人としての地位に立つ、と述べたのは、いま規範にした最判昭和50・3・13です。第1で引いた最判昭和43・4・12は、地位に名前を付けていません。また、最判昭和50・3・13の事案で地位が問題になったのは、上訴の相手方とされなかった者でした。これに対して、設例のYは、Xの控訴の相手方でもあります。ですから、Yが被控訴人であることは、いっそう明らかです。この「いっそう明らか」という部分は、判決の言葉ではなく、答案の論証です。条文を確かめます。40条2項です。
条文民事訴訟法40条2項
民事訴訟法40条2項(必要的共同訴訟)
前項に規定する場合には、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為は、全員に対してその効力を生ずる。
一人に対する相手方の訴訟行為は、全員に効力を生じる、という規律です。Yは、Xの控訴の相手方でもあります。仮に相手方とされなかったとしても、40条2項の準用で、Xの控訴の効力はYに及びます。判決の言葉で確かめます。
判例最判昭和50・3・13 民集29巻3号233頁
最高裁判所判決(上訴の相手方とされなかった当事者の地位が争われた事件)
かかる三当事者間の訴訟において、そのうちの一当事者が他の二当事者のうちの一当事者のみを相手方として上訴した場合には、この上訴の提起は同法六二条二項の準用により残る一当事者に対しても効力を生じ、この当事者は被上訴人としての地位に立つものと解するのを相当とする
……上訴を提起した当事者とその上訴の相手方とされなかつた当事者との利害が実質的に共通である場合であつても、そのことは後者を上訴人として取扱うべきであるとする理由とはならない
この判決の事件も、甲をめぐる設例とは別の事件です。ため池の所有権をめぐって、原告、被告、参加人が争いました。控訴審の判決に対して、参加人が、被告だけを相手方に、上告しました。原告は、上告もせず、相手方にもされていません。原審は、原告を、控訴人として扱いましたが、最高裁は、それは違法だが結論は変わらないとして、原告は、上告審では被上告人の地位に立つ、としました。判決文にある「同法六二条二項」は、旧法の条番号で、今の民事訴訟法40条2項にあたります。
図:対比:控訴人とみる説と被控訴人とみる説
上の図は、Yを控訴人とみる説と、被控訴人とみる説を、理由と批判とともに並べたものです。判例は、Yを被控訴人とみます。これに対して、控訴人とみる説があります。Xの控訴は、一審で負けたYにとっても有利な行為で、40条1項の準用で、Yも控訴人とみる、という考えです。
控訴人とみる説には、次の批判があります。1つめは、不服を申し立てていないYを控訴人とするのは不自然で、控訴が棄却されたときの費用まで負わせることになり、妥当でないことです。2つめは、40条1項が及ぼすのは、有利な行為の効力、つまり確定の遮断と移審であって、控訴人という地位まで与えるものではないことです。効力が及ぶことと、地位を与えることは、別です。Yは、Xとも、Zとも向き合う立場です。
答案でとる立場は、判例と同じです。40条2項の準用で、Yを被控訴人とみます。決め手は3つです。1つめは、いま挙げた、不自然さと費用の問題です。2つめは、判決自身が、利害の共通は、上訴人扱いの理由にならない、としていることです。3つめは、Yを被控訴人とみても、合一確定は、第3で扱う、必要な限度の変更で守れることです。地位と、審判の範囲を、直結させなくてよいのです。
図:あてはめ:Yの地位
あてはめます。まず、事実エです。Yは、控訴も附帯控訴もしておらず、Xの控訴の相手方でもあります。仮に相手方でなくても、40条2項の準用で、Xの控訴は、Yにも効力を生じます。Yは被控訴人です。次に、事実アです。XとYの利害は、甲がXのものになれば、共通に見えます。Yは、所有者はどちらでもよい、と言うだけですが、利害の共通は、上訴人扱いの理由にならないので、Yを控訴人とはしません。
第2の結論です。Yは、控訴審で、被控訴人の地位に立ちます。したがって、請求③には、Yの不服申立てがなく、不服申立ての限度が、問題になります。
第3 控訴審の変更の限度
図:第3の問い:不服のない部分を変えられるか
第3は、控訴審の変更の限度です。控訴審が、一審判決を変えられるのは、不服が申し立てられた範囲だけです。上訴の解説でも確かめた原則です。Yが何も不服を言っていないのに、請求③を、Yに有利に、Zに不利に、変えることはできるのでしょうか。条文を開きます。304条です。
条文民事訴訟法304条
民事訴訟法304条(第一審判決の取消し及び変更の範囲)
第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。
一審判決の取消しと変更は、不服申立ての限度でだけできる、という条文です。この原則には、2つの呼び名があります。控訴審が、一審判決を、控訴した人に不利に変えることを禁じる面を、不利益変更禁止と呼びます。控訴した人が求めた範囲を超えて、その人に有利に変えることを禁じる面を、利益変更禁止と呼びます。こう呼び分けることがありますが、どちらも、この304条の原則です。設例の請求③の変更は、どちらの呼び名に当たるかを考えるのではなく、304条の不服申立ての限度の問題として考えます。
問題の所在です。請求③は、Yが控訴も附帯控訴もしておらず、Xも当事者ではありません。不服申立ての範囲の外です。ところが、控訴審が、甲の所有者はXだと判断したとき、一審の、甲をZに引き渡せ、という請求③を残すと、甲をXに引き渡せ、という請求①の認容と、両立しません。Yは、二重に引き渡せません。304条のとおり、請求③には、手を付けられないのでしょうか。
図:規範と答案の型|合一確定に必要な限度の変更
規範は、独立当事者参加の解説でも取り上げた、最高裁の判決で立てます。控訴審においては、被告の控訴または附帯控訴の有無にかかわらず、合一確定のため必要な限度で、一審判決のうち、参加人の被告に対する請求を認容した部分を、参加人に不利に変更することができる。判決の言葉で確かめます。
判例最判昭和48・7・20 民集27巻7号863頁
最高裁判所判決(原告のみの控訴で、参加人の被告に対する請求を認容した部分がどうなるかが争われた事件)
本件は、訴訟の目的が原告、被告および参加人の三者間において合一にのみ確定すべき場合……に当たることが明らかであるから、一審判決中参加人の被告に対する請求を認容した部分は、原告のみの控訴によつても確定を遮断され、かつ、控訴審においては、被告の控訴または附帯控訴の有無にかかわらず、合一確定のため必要な限度で一審判決中前記部分を参加人に不利に変更することができると解するのが相当である
この判決の事件も、甲をめぐる設例とは別の事件です。ある代金債権をめぐって、原告、被告、参加人が争いました。一審は、原告の被告に対する請求を棄却し、参加人の原告と被告に対する各請求を、それぞれ一部認容しました。控訴したのは原告だけで、被告は、控訴も附帯控訴もしていません。参加人は、被告に対する請求を認容した部分は、誰も控訴していないので確定している、と主張して、上告しました。最高裁は、その部分も、原告のみの控訴で確定が遮断され、控訴審は、必要な限度で参加人に不利に変更できる、として、上告を棄却しました。第1で規範にした確定の遮断も、この判決が、この同じ一文で述べています。
第2で引いた、被上訴人の地位を述べた最判昭和50・3・13も、同じ方向です。相手方とされなかった当事者の上訴や附帯上訴がなくても、合一確定に必要な限度では、その当事者の利益に、原審判決を変更できる、と述べています。
ここにも、答案での注意があります。判決は、参加人に不利に変更できる、と述べています。被告の控訴や附帯控訴がなくても変更できる、というところまでが判決の言葉で、不服申立ての限度を超えて変更できる、という言い方は、その言い換えです。けれども、304条の例外だ、と判決が言ったわけではありません。理論の説明は、判決には書かれていません。答案は、合一確定のため必要な限度で、という、判決の言葉で書きます。
決め手は2つあります。1つめは、三面訴訟が、三者の結論を、矛盾なく1つにする制度だからです。控訴審が、一部だけを直して矛盾を残せば、制度の目的に反します。対立牽制の逆で、残る二人の間だけで、結論が決まってしまいます。2つめは、動かせるのは、必要な限度だけだからです。不服のない部分を、矛盾がないのに動かす理由はありません。304条の原則は、変更の必要のない場面では、生きています。
では、必要な限度は、どう決まるのでしょうか。控訴審が甲の所有者を誰と判断するか、つまり控訴審の心証によって、動く範囲が変わります。心証Ⅰ(所有者はX)と心証Ⅱ(所有者はZ)の2つの場合を、下の図の設例で確かめます。これは、判決の言葉の意味を確かめるための設例で、判決が書いた理由ではありません。
図:必要な限度の設例:心証Ⅰと心証Ⅱ
心証Ⅰです。控訴審が、甲の所有者はXと判断する場合です。請求①は認容です。ところが、請求③が一審のまま残ると、Yは、甲をZにも渡せと命じられ、二重の引渡しになります。矛盾を解くには、請求③の変更が必要です。ですから、Yの控訴がなくても、甲をZに引き渡せという請求③の認容を、棄却に変えられます。
心証Ⅱです。控訴審も、甲の所有者はZと判断する場合です。請求①は棄却、請求②は認容、請求③は認容で、一審のままで矛盾しません。変更の必要がないので、請求③は動かしません。Xの控訴は棄却です。Yの不服がない、という事実は同じでも、控訴審の心証で、動く範囲が変わります。
図:あてはめ:必要な限度の変更
上の図は、あてはめを表にまとめたものです。事実カ、つまり控訴審の心証が2通りあることを拾います。心証Ⅰ(所有者はX)では、請求③の変更が必要な限度にあたります。心証Ⅱ(所有者はZ)では、変更の必要がありません。
第3の結論です。心証Ⅰなら、控訴審は、一個の判決で、請求①を認容、請求②を棄却、請求③を棄却します。請求②の棄却と請求①の認容は、Xの不服の範囲内です。請求③の棄却だけが、不服申立ての限度を超えますが、必要な限度として許されます。心証Ⅱなら、Xの控訴を棄却し、3本の請求とも、一審のまま動かしません。
第4 別件:控訴したのが参加人だったとき
図:別件の設例:Zだけが控訴
第4は、別件です。第1から第3までの物差しを、控訴したのが、参加人のZだった場合に当てます。日付は、ここまでの設例と同じです。この別件では、一審判決で、裁判所は、甲の所有者はXと判断して、請求①を認容、請求②を棄却、請求③を棄却しました。令和7年3月3日に、Zだけが控訴しました。求める内容は、請求②の認容と請求③の認容です。XもYも、控訴も附帯控訴もしていません。控訴審の審理の結果は、甲の所有者はZ、という心証です。
物差しを当てます。1つめ、移審です。Zだけの控訴でも、第1の規範から、Xの勝訴部分の請求①を含めて、全請求が控訴審に移ります。第1で引いた最判昭和43・4・12も、参加人だけが控訴した事件でした。2つめ、地位です。XもYも、控訴も附帯控訴もしていないので、どちらも被控訴人です。3つめ、変更の限度です。所有者はZという心証で、請求①の認容、つまり、甲をXに引き渡せ、が残ると、請求③の認容、甲をZに引き渡せ、と両立しません。請求①の認容を、棄却に変えるのが、必要な限度です。XもYも控訴していなくても、変えられます。
図:あてはめ:別件
別件の結論です。控訴審は、一個の判決で、請求①を棄却、請求②を認容、請求③を認容します。請求②と③の認容は、Zの不服の範囲内です。請求①の棄却だけが、不服申立ての限度を超えますが、必要な限度として許されます。
Xだけが控訴した設例と比べて、この別件で変わる点は、動かされる部分の持ち主が、被告のYではなく、原告のXになることです。Xは、一審で全面的に勝っていたのに、一部が動きます。
ただし、判決の射程に注意します。第3で引いた最判昭和48・7・20の事案は、原告だけが控訴した場合です。被上訴人の地位を述べた最判昭和50・3・13の事案は、参加人が被告だけを相手方に上告した場合です。参加人が控訴して、原告の勝訴部分が動く形そのものを述べた判決は、答案には引けません。答案は、合一確定のため必要な限度で、という、判決の一般的な言い方を当てはめる、と書きます。
まとめ
図:完成答案:第1 全請求の移審
結論を確認します。三面訴訟で、敗訴者の一人だけが控訴しても、全請求の確定が遮断され、控訴審に移ります。控訴しなかった者は、被控訴人です。控訴審は、合一確定のため必要な限度で、不服申立ての限度を超えて変更でき、心証Ⅰなら、一個の判決で、請求①認容、請求②棄却、請求③棄却を言い渡します。
こちらが、完成答案です。第1の、全請求の移審です。図と同じ文面を、本文でも置きます。
第1 全請求の移審
1 問題の所在
Xだけが控訴した場合に、控訴しなかったYとの間の請求③(ZのYに対する引渡請求を認容した部分)も、確定を遮断されて控訴審に移るかが問題となる。
2 規範
訴訟の目的が原告・被告・参加人の三者間で合一にのみ確定すべき場合には、一審判決中の、控訴しなかった者の間の請求を認容した部分も、原告のみの控訴によっても確定を遮断され、全請求が控訴審に移る(最判昭和48・7・20)。控訴審は、三者を判決の名宛人として、一個の終局判決をする(最判昭和43・4・12)。両判決は理由を長く述べていないが、三者の結論が割れることを避けるためであり、控訴は一審で負けた者にとって有利な行為であるから、民事訴訟法47条4項・40条1項の準用により全員に効力が生じる、と説明できる。
3 あてはめ
請求①②③はX・Y・Zを結ぶ三面訴訟であり、三者間で合一にのみ確定すべき場合にあたる。請求③に誰も不服を申し立てていなくても、Xの控訴により確定が遮断される。
4 結論
よって、請求③を含む全請求が控訴審に移り、控訴審は一個の判決で裁判する。
図:完成答案:第2 Yの地位
第2の、Yの地位です。控訴人とみる説を採らない理由の書き方を、確かめてください。
第2 Yの地位
1 問題の所在
控訴も附帯控訴もしていないYは、控訴審で控訴人か被控訴人かが問題となる。
2 規範
三者間の訴訟で、一当事者が他の二当事者のうちの一当事者のみを相手方として上訴した場合、その上訴の提起は、民事訴訟法40条2項の準用により残る一当事者にも効力を生じ、その者は被上訴人としての地位に立つ(最判昭和50・3・13)。利害が実質的に共通でも、その者を上訴人として扱う理由にならない。40条1項が及ぼすのは確定の遮断・移審の効力であって控訴人の地位まで与えるものではなく、不服を申し立てていないYを控訴人とするのは不自然で費用の面でも妥当でないから、控訴人とみる説は採らない。
3 あてはめ
Yは控訴も附帯控訴もしていない。YはXの控訴の相手方でもあり、相手方とされなくても40条2項の準用によりYに効力が生じる。XとYの利害が共通に見えても、控訴人として扱う理由にならない。
4 結論
よって、Yは被控訴人であり、請求③にはYの不服申立てがない。
図:完成答案:第3 控訴審の判決の内容
第3の、控訴審の判決の内容です。心証ごとのあてはめと結論を、確かめてください。
第3 控訴審の判決の内容
1 問題の所在
請求③の変更は、不服申立ての限度(民事訴訟法304条)を超える。Yの控訴も附帯控訴もないのに、変更できるかが問題となる。
2 規範
控訴審は、被告の控訴または附帯控訴の有無にかかわらず、合一確定のため必要な限度で、一審判決中の参加人の被告に対する請求を認容した部分を、参加人に不利に変更することができる(最判昭和48・7・20)。必要な限度は、三者の結論を矛盾なく一つにする必要があるかで定まる。
3 あてはめ
(1) 控訴審が甲の所有者はXと判断した場合、請求③が残ると請求①の認容と両立せず、Yは二重の引渡しを命じられる。矛盾の解消に請求③の変更が必要であり、Yの控訴がなくても、請求③を棄却に変更できる。
(2) 甲の所有者はZと判断した場合、請求①②③は矛盾せず、変更の必要がないから、一審のままとする。
4 結論
よって、甲の所有者がXとの心証では、控訴審は一個の判決で、請求①を認容し、請求②を棄却し、請求③を棄却する。Zとの心証では、Xの控訴を棄却する。
図:完成答案:第4 別件
第4の、別件です。Xだけが控訴した場合のあてはめとの違いを、確かめてください。
第4 別件(Zだけが控訴した場合)
1 問題の所在
Zだけが控訴した場合に、控訴審は、X・Yの控訴がないのに、Xの勝訴部分である請求①を変更できるかが問題となる。
2 規範
第1の2、第2の2、第3の2のとおり。
3 あてはめ
(1) Zの控訴により、請求①を含む全請求が控訴審に移る。
(2) X・Yは控訴も附帯控訴もしておらず、被控訴人である。
(3) 甲の所有者はZとの心証では、請求①の認容が残ると請求③の認容と両立しない。矛盾の解消に請求①の変更が必要であり、X・Yの控訴がなくても、請求①を棄却に変更できる。参加人が控訴して原告の勝訴部分が動く形そのものを述べた判例はないが、合一確定のため必要な限度という一般的な判断枠組みを当てはめる。
4 結論
よって、控訴審は一個の判決で、請求①を棄却し、請求②を認容し、請求③を認容する。
参照条文
- 民事訴訟法47条4項
- 民事訴訟法40条1項
- 民事訴訟法40条2項
- 民事訴訟法304条