時機に後れた攻撃防御方法の却下の書き方
印刷機械の販売会社Xの売買代金請求に対し、製本会社Yが弁論準備手続の終結から42日後、結審予定の期日の7日前に免除の抗弁を出した事例を素材に、157条1項の3つの要件(時機に後れて提出・故意又は重大な過失・訴訟の完結の遅延)を、条文の順に1つずつ事実に当てはめて、却下できるかを答案の形で確かめます。
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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
事例
図:印刷機械の販売会社のXと製本会社のY、売買代金債権の向き
登場するのは、印刷機械の販売会社のXと、製本会社のYです。令和7年6月10日、販売会社のXは、中古の自動製本機を1台、製本会社のYに売りました。代金は540万円です。支払の時期は、検収が完了した日から30日以内、と決められました。検収とは、買主が、機械が注文どおりかを確かめて、受け取りを確定させる手続です。代金を請求できるのは販売会社のXで、払わないのは製本会社のYです。売買代金の債権は、請求する販売会社のXから、払う立場の製本会社のYへ向かいます。では、なぜ払わないのか、時間の順に見ていきます。
図:契約から訴え提起まで
8月25日に、機械の引渡しと据付けが終わりました。そして9月3日に、製本会社のYの工場長が、検収書に署名しました。販売会社のXは、これで検収は完了した、と考えています。そうすると、支払期限は、その30日後の10月3日になります。ところが、製本会社のYは、払いません。製本会社のYの言い分は、署名は、試運転を終えたことの確認にすぎない、というものです。紙送りの不具合が直っていないので、検収は完了しておらず、支払期限は来ていない、と争っています。そして11月18日に、製本会社のYの専務と、販売会社のXの営業部長が、面談しました。この面談が、あとで大きな意味を持ちます。年が明けた令和8年1月13日に、販売会社のXが、売買代金540万円の支払を求めて、訴えを起こしました。
図:手続の経過:弁論準備手続の終結から結審の予定まで
訴えのあと、2月6日に、製本会社のYが答弁書を出しました。内容は、検収は完了していない、支払期限は来ていない、というものです。製本会社のYには、弁護士の訴訟代理人が付いています。争点を整理する弁論準備手続は、2月19日、3月5日、3月26日の3回、開かれました。3月5日の第2回で、製本会社のYの訴訟代理人は、11月18日の面談で、販売会社のXの営業部長から、機械の不具合について謝罪を受けた、と述べました。販売会社のXも、検収が済んでいないと分かっていた証拠だ、という使い方です。3月26日の第3回で、弁論準備手続は終結しました。争点は、検収が完了したかどうかです。5月14日に、証人2名の尋問をまとめて行い、その日に口頭弁論を終結する予定でした。口頭弁論の終結を、結審と呼びます。証人は、販売会社のXの検収担当者と、製本会社のYの工場長です。どちらも、検収の件についての尋問です。ところが、5月1日に、製本会社のYの社内で、11月18日の面談の内容を記した、専務のメモが見つかりました。そして5月7日、製本会社のYは、準備書面で、免除の抗弁を出しました。免除の抗弁とは、11月18日の面談で、販売会社のXの営業部長が、機械の不具合を謝罪したうえで、代金のうち90万円は免除する、と述べた、という主張です。民法519条は、債権者が債務者に対して、債務を免除する意思を表示したときは、その債権は消滅する、と定めています。販売会社のXは、免除など言っていない、と争います。
ここまでの答弁書と3回の弁論準備手続で、免除という言葉は、一度も出ていません。提出されたのは、弁論準備手続の終結から42日後で、結審を予定した期日の、7日前です。遅いだけでは、足りません。却下できるかは、条文の要件を1つずつ、事実に当てはめて決まります。面談で本当に免除の話があったかは、ここでは問いません。問うのは、この抗弁を、却下できるかです。5月14日の期日で、販売会社のXは、却下を申し立てました。裁判所は、製本会社のYの免除の抗弁を、却下できるでしょうか。
検討の順番
図:157条1項から、3つの要件を順に
順番は、条文の順です。まず157条1項を開いて、そこに書いてある要件を、1つずつ、事実に当てはめます。1つめは、時機に後れて提出した、といえるか。2つめは、故意又は重大な過失があるか。ここでは、争点整理の終結後に求められる説明、つまり、相手方の求めがあれば、終結前に出せなかった理由を説明しなければならない、という説明義務との関係を見ます。3つめは、訴訟の完結を遅延させることになるか、です。1つめで当てはまらなければ、検討はそこで終わります。1つでも欠ければ、却下できず、結論はそこで出るからです。逆に、却下できるのは、3つとも満たしたときだけです。ですから、満たしている間は、次の要件へ進みます。検討の順番については、3つとも要る点は、どの順でも同じです。ただ、条文に並んでいる順に検討すると、答案を読む人が、条文と見比べながら追えます。では、157条1項を開きます。
157条1項を開く
図:157条1項の3つの要件
こちらが、157条1項です。
条文民事訴訟法157条1項
民事訴訟法第157条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)第1項
当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
当事者が、故意又は重大な過失で、時機に後れて出した攻撃防御方法について、訴訟の完結を遅らせることになると認めたときは、裁判所が却下の決定をすることができる、という条文です。ここから、3つの要件を拾えます。時機に後れて提出した。故意又は重大な過失。訴訟の完結を遅延させる。この3つは、条文を音読すれば出てくる成立要件です。条文どおりで、解釈で足したものではありませんから、答案には、条文番号を示して挙げれば足ります。このほか、申立てにより又は職権で、とあります。本件では、販売会社のXが申し立てています。効果は、却下の決定をすることができる、です。
申立てがなくても、裁判所が自分で却下することも、できます。職権で、とは、当事者の申立てを待たずに、裁判所が自分の判断でする、という意味です。なお、審理計画で提出期間が定められている場合は、157条の2という、別の条文の場面です。本件は、審理計画が定められていませんから、157条1項で考えます。
3つの要件は、条文にそのまま書いてあります。では、どこから先が、解釈になるのでしょうか。条文は、何を基準に後れたと言うのか、故意又は重大な過失をどう認定するのか、遅延とはどれと比べるのか、を書いていません。ここが、条文に書いていない部分です。答案でも、条文番号だけでは足りず、判断の物差しを書きます。1つずつ、確かめます。
第1 時機に後れて提出
図:免除の抗弁は、時機に後れて提出されたか
1つめの要件、時機に後れて提出した、からです。製本会社のYの免除の抗弁は、時機に後れて提出されたと、いえるでしょうか。条文は、何を基準に後れたと言うのかを、書いていません。そこで、判断の物差しを確かめます。
図:規範と答案の型|時機に後れて提出の判断
規範は、2つあります。1つめは、考え方です。それまでの訴訟の進行状況と、その攻撃防御方法の性質に照らして、実際に出された時期よりも前に出すことを期待できる、客観的な状況があったか、で判断します。争点整理の手続を経たことも、この判断の材料になると考えられます。争点整理は、主張を出し合って争点を絞る場ですから、そこを経たなら、出す機会があったと見やすいからです。遅かったかどうかではなく、早く出せる状況だったかを見ます。たとえば、争点整理の最中に、自分が体験した事実を持っていたのに黙っていて、終わってから出したなら、早く出せた状況があります。逆に、整理が終わってから、相手の出した書類で初めて事実を知ったなら、早くは出せません。出した日は同じでも、結論は分かれます。2つめは、判例です。控訴審で初めて出された攻撃防御方法について、最高裁の判決(最判昭和30・4・5)があります。最高裁は、大審院の判例の解釈を、今も維持すべきだとしています。第一審の訴訟手続の経過も通して見て、時機に後れたかを考えるべきだ、という解釈です。本件は第一審です。ですから、この判例については、控訴審なら第一審の経過も通して見る、という点を確認するだけにします。
図:要件1の事実:免除の抗弁は、早く出せたか
あてはめに使う事実を拾います。まず、時機に後れて提出した、という判断を肯定する方向に効く事実です。面談は、訴え提起の約2か月前の11月18日で、製本会社のYの専務自身が出席しています。専務自身が出席していたことは、なぜ効くのですか。免除の話が本当にあったなら、その場にいた本人が、自分で知っているからです。主張を出すのに、メモも、新しい調査も、要りません。弁論準備手続は3回あり、争点整理の場で出す機会が、3回ありました。しかも、3月5日には、製本会社のYの訴訟代理人が、面談そのものを使っています。謝罪を受けた事実を述べながら、免除だけを出していません。提出は、終結から42日たってからです。さらに、免除は、代金の一部を払わなくてよくなる主張です。出すこと自体が、製本会社のYに不利益を生むわけではありません。出し惜しむ理由が、見当たりません。
否定する方向に効く事実は、ないのですか。あります。メモが見つかったのは5月1日で、書面にして出したのは5月7日です。見つかってから6日で出しています。また、期日の7日前の準備書面です。期日の当日に出された場合と違って、販売会社のXが準備する余地が、全く無いわけではありません。次に、これらの事実の評価です。メモの発見は、立証の補強です。免除の主張をする機会があったかとは、別の話です。面談の中身は、専務自身が体験していました。メモが無くても、主張を出す機会は、3回ありました。7日前だという点も、早く出せた状況があったことを、打ち消しません。出せたはずの時期は、とうに過ぎていたからです。しかも、3回の争点整理を経て、争点が検収の完了の有無に絞られたあとの提出です。この経過は、後れたという判断の材料になると考えられます。最後に、判断の物差しに当てはめます。より前の時期に出すことを期待できる、客観的な状況がありました。時機に後れて提出されたと、いえます。1つめの要件は、満たします。
2つめに進む前に、前提を1つ確かめます。争点整理の手続が終わったあとの新しい主張を出せなくする失権効を、現行法は、置いていません。その代わりに置かれたのは、相手方の求めがあれば、終結前に出せなかった理由を説明しなければならない、という説明義務です。この説明義務が、2つめの要件に関わります。
第2 故意又は重大な過失
図:重大な過失はあるか:終結後の提出と説明
2つめの要件は、故意又は重大な過失により、です。製本会社のYに、故意又は重大な過失があるかを見ます。入口は、説明義務の条文です。まず、174条です。
条文民事訴訟法174条
民事訴訟法第174条(弁論準備手続終結後の攻撃防御方法の提出)
第百六十七条の規定は、弁論準備手続の終結後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者について準用する。
条文民事訴訟法167条
民事訴訟法第167条(準備的口頭弁論終了後の攻撃防御方法の提出)
準備的口頭弁論の終了後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者は、相手方の求めがあるときは、相手方に対し、準備的口頭弁論の終了前にこれを提出することができなかった理由を説明しなければならない。
174条は、弁論準備手続の終結後に、攻撃又は防御の方法を提出した当事者について、167条を準用する、という条文です。167条は、準備的口頭弁論の終了後に提出した当事者について、相手方の求めがあるときは、終結前に提出できなかった理由を説明しなければならない、と定めています。本件は、準備的口頭弁論ではなく弁論準備手続ですから、174条を入口にして、167条へ進みます。この2つの条文の内容も、条文に書いてあるとおりで、解釈で足したものではありません。説明をしなかったら、それだけで却下されるのですか。違います。説明をしなかったこと自体は、却下の理由ではありません。説明がされなかった、あるいは説明が不合理だった、という事実が、157条1項の、故意又は重大な過失の判断に、取り込まれます。その取り込まれ方を、判断の物差しで確かめます。
図:規範と答案の型|故意又は重大な過失と説明
条文に書いてあるのは、説明する義務までです。説明と重大な過失をどう結ぶかは、書いてありません。ここの規範は、判例の言葉ではなく、考え方です。1つめは、故意又は重大な過失を、当事者の法律知識と、攻撃防御方法の種類を考慮して判断する、という考え方です。法律知識とは、本人が自分で訴訟をしているか、弁護士が付いているか、です。弁護士が付いていると、なぜ重大な過失になりやすいのですか。法律知識の水準が高い人には、求められる注意の程度も高くなるからです。主張と立証が別のものだと知っているはずの人が、出す機会を逃したなら、落ち度は重く見られやすくなります。2つめは、説明との関係です。説明がされない、または、著しく合理性を欠くことは、故意又は重大な過失を認める、有力な判断材料になると考えられます。
では、著しく合理性を欠く説明とは、どういうものでしょうか。説明義務が求めているのは、終結前に、出せなかった理由です。ですから、出せなかった事情を具体的に言えていれば、重大な過失の方向には働きません。たとえば、終結のあとで、相手方の書類から初めて事実を知った、という説明です。これに対して、出すつもりはあったが控えていた、という説明は、出さなかった理由であって、出せなかった理由ではありません。なお、157条1項は、故意又は重大な過失により時機に後れて提出した、と書いています。ですから、故意又は重大な過失は、条文の言葉どおり、時機に後れて提出したことについて、必要です。重大な過失とは、わずかな注意を払えば避けられたのに、それを怠った、著しい落ち度のことです。単なる過失では、足りません。
図:要件2の事実:説明をどう評価するか
事実です。5月14日の期日で、販売会社のXの訴訟代理人が、174条と167条に基づいて、終結前に出せなかった理由の説明を求めました。製本会社のYの訴訟代理人は、口頭で、こう説明しました。免除の話は口約束で、証拠が無く、出しても立証できるか分からなかったので、控えていた。5月1日にメモが見つかったので、出すことにした、です。まず、故意又は重大な過失を肯定する方向に効く事実です。製本会社のYには、弁護士の訴訟代理人が付いています。法律知識の水準は、高いと見ます。また、面談には、専務自身が出席しています。免除の話が本当にあったなら、一番よく分かっている当事者が、提出の前から知っていた、ということです。そして、説明の中身です。主張は、免除があった、と事実を述べることです。立証は、その事実を証拠で裏づけることで、主張のあとの段階です。立証できるか分からなかった、というのは、主張するかしないかとは、別の話です。しかも、先ほど見た3月5日の主張で、面談は使っていました。免除だけを外した理由は、説明されていません。
口約束で証拠が無かったのなら、立証に自信が持てなくて控えた、というのは、慎重で、もっともにも見えます。たしかに、立証への不安は、否定する方向に効く事実として挙げられます。説明は一応なされていて、メモの発見という、具体的な事情を挙げています。ただし、評価です。争点整理では、争いのある事実ごとに、調べる証拠も決めます。立証に不安のある主張でも、そこで出さなければ、相手が認めるのか争うのかも、誰を尋問するのかも、決まりません。それに、証拠が無かったわけでもありません。面談に出た専務の証言は、証拠になります。メモの発見は、先ほどと同じで、立証を補うだけです。慎重さは、主張を控える理由には、なりません。免除は、出して不利益になる主張でもありません。ですから、この説明は、著しく合理性を欠いています。有力な判断材料として、重大な過失を認める方向に働きます。最後に、判断の物差しに当てはめます。弁護士が付き、専務自身が体験した事実を、争点整理の場に出す機会が、3回あったのに、合理的な理由なく、出しませんでした。少なくとも、重大な過失があります。
出す機会が3回あったことは、1つめの要件でも使いました。1つの事実が、2つの要件に効くことは、あります。ただし、見ている問いが違います。1つめは、早く出せる状況があったか。2つめは、出さなかったことに、落ち度があるか、です。故意とは、後れると分かっていながら、あえて出さなかった場合です。本件の事実から、そこまでは言い切れません。ですから、少なくとも重大な過失がある、と書きます。2つめの要件は、満たします。
第3 訴訟の完結を遅延させる
図:免除の抗弁で、訴訟の完結は遅れるか
3つめの要件は、訴訟の完結を遅延させる、です。ここで、問いです。免除の抗弁を審理するには、新しい証拠調べが要りますか。要るなら、結審の期日は、どうなりますか?
予定されている証人は、検収の件の2人で、免除について聞かれる人が、いません。ですから、新しい尋問が要りそうです。そうなると、5月14日には、結審できなくなります。この、新しい証拠調べが要り、結審が後ろにずれる、という方向は、合っています。では、遅れる、とは、どれとどれを比べて言うのでしょうか。条文は、書いていません。判断の物差しを確かめます。
図:規範と答案の型|訴訟の完結を遅延させる判断
規範は、3つあります。一般的な考え方、判決の言葉、2つの判決の読み方の3つです。1つめは、一般的な考え方です。却下したときに見込まれる完結の時期と、審理を続けたときに見込まれる完結の時期を比べます。続行のほうが遅くなるとき、訴訟の完結を遅延させる、といいます。注意点は、もともとの予定と比べるのではない、ことです。比べる相手は、却下した場合です。条文は、これにより、遅延させる、と書いています。問われているのは、その攻撃防御方法が原因で、遅れるかです。仮に、検収の件の証人が急病で、5月14日の尋問が、6月4日に延びたとします。免除の抗弁を却下しても、終結は6月4日です。このとき、続行しても6月4日に終結できるなら、予定より3週間遅れていても、免除の抗弁が原因ではありません。予定と比べると、ここを見誤ります。2つめは、判例の言葉です。判決の原文を見ます。
判例最判昭和30・4・5 民集9巻4号439頁
最高裁判所判決(借地上の建物の譲受人の建物買取請求権を、時機に後れたとして排斥した原判決が、破棄された事件)
その主張を審理するために具体的に訴訟の完結を遅延せしめる結果を招来する場合でなければならない
借地上の建物を譲り受けた人が、控訴審になって初めて、建物買取請求権を行使した事件です。ここでの建物買取請求権とは、地主が借地権の譲渡を承諾しないときに、建物を譲り受けた人が、地主に、その建物を時価で買い取るよう求める権利です。行使すれば、建物の所有権が地主に移る効果が、当然に生じます。原審は、この主張を、時機に後れた防御方法として扱い、所有権が移った効果を無視して、判決しました。最高裁は、先ほどの言葉を述べたうえで、この事件では、遅延させるとはいえない、と判断しました。理由は、次の言葉です。
判例最判昭和30・4・5 民集9巻4号439頁
最高裁判所判決(借地上の建物の譲受人の建物買取請求権を、時機に後れたとして排斥した原判決が、破棄された事件)
またこのため特段の証拠調をも要するものではないから、上告人の前記主張に基き本件家屋所有権移転の効果を認めるについて、訴訟の完結を遅延せしめる結果を招来するものとはいえない
所有権が移る効果は当然に生じて、そのために、特別の証拠調べは要りません。ですから、審理を続けても、訴訟の完結は遅れない、として、最高裁は、原判決を破棄して、差し戻しました。時機に後れていても、遅延しなければ、却下できません。後れたことと、遅延させることは、別々の要件です。
では、証拠調べが要るときは、どうなるのでしょうか。規範の3つめに進む前に、もう1つの最高裁判決を見ます。同じく、借地上の建物を譲り受けた人が、控訴審の途中になって初めて、建物買取請求権を行使した事件です。今度は、代金を支払うまで建物の引渡しを拒む、という主張の前提として、行使していました。原審は、この主張を却下して、その同じ期日に、弁論を終結しました。最高裁は、却下を相当としました。理由を、原文で見ます。
判例最判昭和46・4・23 集民102号571頁
最高裁判所判決(借地上の建物の譲受人の建物買取請求権の主張が、控訴審で却下された事件)
右時価に関する証拠調になお相当の期間を必要とすることは見やすいところであり
判例最判昭和46・4・23 集民102号571頁
最高裁判所判決(借地上の建物の譲受人の建物買取請求権の主張が、控訴審で却下された事件)
前述のように右主張を却下した期日に弁論を終結しており、さらに審理を続行する必要はないとしたのであるから
建物の時価を調べる証拠調べには、なお相当の期間が必要です。しかも、原審は、却下した期日に、弁論を終結しており、審理を続ける必要はない、としていました。ですから、最高裁は、この主張は、訴訟の完結を遅延させる、と判断しました。原審は、却下した期日に弁論を終結できると見て、終結しています。この主張を審理すれば、時価の証拠調べの分だけ、終結が後ろにずれます。先ほどの比べ方でいえば、この差が、遅延に当たります。規範の3つめは、ここまでの2つの判決の読み方です。並べると、新たな証拠調べを要するかどうかが、遅延の有無を分けている、そう読めます。ただし、判決が、一般論として、そう言ったわけではありません。
証拠調べが要るかどうかで、なぜ、遅れるかどうかが変わるのですか。期日が増えるかどうかが、変わるからです。たとえば、新しい主張が出されても、予定している証人に、その件も一緒に尋ねられるなら、期日は延びません。新しい証人を呼ぶ必要があるなら、期日が延びます。本件がどちらに当たるかを、あてはめで確かめます。
図:要件3の事実:新たな尋問は要るか
事実です。免除の意思表示があったかどうかは、販売会社のXが否認していて、争いがあります。書証だけでは決まらず、新たな証人尋問が必要です。免除を審理するために必要なのは、3つです。1つめは、製本会社のYの専務の証人尋問です。2つめは、販売会社のXの営業部長の証人尋問です。販売会社のXは免除を否認していますから、反証として、この尋問が要ります。3つめは、メモの成立の確認、つまり、メモが本当に専務の作ったものかの確認です。予定された証人は2名とも、検収の件についてで、免除については、誰も尋問されません。
図:却下した場合と、続行した場合
次に、比べます。却下した場合は、5月14日に、検収の件の尋問をして、口頭弁論を終結します。続行した場合は、5月14日に検収の件の尋問をしても、免除の件は終わりません。新たな尋問のために、裁判所が確保できる最も早い期日が、7月2日です。7月2日に免除の件の尋問を行って、終結します。5月14日から7月2日まで、49日、つまり7週間、遅れます。日数の長さで決まるのではありません。却下した場合と比べて、続行のほうが遅くなるかどうかです。評価です。却下した場合の終結は、もともとの予定と同じ5月14日ですが、それは、たまたまです。判断の物差しに当てはめると、訴訟の完結を遅延させます。3つめの要件も、満たします。ただ、新しい尋問が要らなければ、どうなるのでしょうか。
図:仮に、覚書があれば
仮に、11月18日付の覚書を、製本会社のYが、面談で謝罪を受けた証拠として、すでに書証に出していたとします。覚書には、代金のうち90万円を免除する、という一文と、販売会社のXの営業部長の署名があります。販売会社のXも、営業部長が作った文書だと認めていて、成立に争いがありません。免除の意思表示は、この覚書から、直ちに認められます。この場合は、新たな尋問をしなくても、5月14日に終結できます。却下した場合も、続行した場合も、終結は5月14日で、同じです。遅延させません。最高裁が、特段の証拠調べを要しないから、遅延させるとはいえない、とした先ほどの判決と、同じ考え方です。すると、1つめと2つめの要件を満たしていても、3つめを満たしません。ですから、却下できません。3つの要件は、すべて必要です。結論が動くのは、この3つめです。
却下は、その抗弁を判決の材料から外す、重い措置です。ですから、実際に遅れるかどうかを、具体的に見ます。本件では、覚書はありません。新たな尋問が要り、49日遅れますから、3つめを満たします。
結論
図:3つの要件の結論と、却下の決定
3つの要件の結論です。時機に後れて提出した。少なくとも重大な過失がある。訴訟の完結を遅延させる。3つとも、満たされました。5月14日に、販売会社のXが、却下を申し立てています。申立てにより、という条文の言葉も、満たしています。よって、裁判所は、製本会社のYの免除の抗弁を、却下の決定をすることができます。答案では、3つの要件がすべて満たされたことと、申立てがあることを、そろえて、却下すべきである、と結びます。却下された抗弁は、判決の基礎に使われなくなります。90万円の免除が本当にあったかは、判断されないまま、販売会社のXの請求は、検収が完了したかどうかという争点で、審理されます。
まとめ
図:完成答案:第1 時機に後れて提出(問題の所在・規範)
こちらが、完成答案です。第1は、時機に後れて提出です。図と同じ文面を、本文でも置きます。条文が基準を定めていないことを、問題の所在にして、そこから規範へつなげている流れを、見てみてください。規範が、判断基準と、争点整理手続を経たことの2つに、分けて書かれているところにも、注目です。
第1 時機に後れて提出
1 問題の所在
製本会社のYの免除の抗弁は、弁論準備手続の終結後に提出された。民事訴訟法157条1項は、時機に後れた提出を却下の対象とするが、何を基準に後れたと言うかは定めていない。そこで、時機に後れて提出したといえるかが問題となる。
2 規範
ア それまでの訴訟の進行状況と攻撃防御方法の性質に照らし、実際の提出より前の時期に出すことを期待できる客観的な状況があったかで判断する。
イ 争点整理手続を経たことは、その判断の材料になると考えられる。
図:完成答案:第1 時機に後れて提出(あてはめ・結論)
第1の続きで、あてはめと結論です。面談、弁論準備手続の回数、提出の時期という3つの事実を、どう拾っているかを、確かめてみてください。メモの発見を、立証の補強と整理して、早く出せた状況を、打ち消さないとしているところにも、注目です。
3 あてはめ
(1) 面談には製本会社のYの専務自身が出席しており、訴え提起の約2か月前の出来事である。
(2) 弁論準備手続は3回開かれ、3月5日には面談そのものが主張に使われたが、免除は出されなかった。
(3) 免除の抗弁は、終結から42日後に提出された。メモの発見は立証の補強にすぎず、主張をする機会があったこととは別である。
4 結論
よって、より前の時期に出すことを期待できる客観的な状況があり、時機に後れて提出されたといえる。
図:完成答案:第2 故意又は重大な過失(問題の所在・規範)
第2は、故意又は重大な過失です。問題の所在と規範です。終結後の提出と、174条と167条の説明義務を、問題の所在に入れて、そこから規範へつなげている形を、見てみてください。説明が不合理なことを、有力な判断材料と書いているところにも、注目です。
第2 故意又は重大な過失
1 問題の所在
免除の抗弁は弁論準備手続の終結後に提出された。終結後に提出した当事者は、相手方の求めがあれば、終結前に提出できなかった理由を説明しなければならない(民事訴訟法174条、167条)。販売会社のXの求めに対し、製本会社のYの訴訟代理人は説明をした。この説明を踏まえ、故意又は重大な過失があるかが問題となる。
2 規範
ア 当事者の法律知識と攻撃防御方法の種類を考慮して判断する。
イ 上記の説明がされない、又は著しく合理性を欠くことは、故意又は重大な過失を認める有力な判断材料になると考えられる。
図:完成答案:第2 故意又は重大な過失(あてはめ・結論)
第2の続きで、あてはめと結論です。弁護士が付いていることと、専務自身が体験した事実であることから、評価を始めているところを、確かめてみてください。説明を、主張を控える理由になっていない、と評価して、故意かどうかまでは言わずに、少なくともと結んでいる点にも、注目です。
3 あてはめ
(1) 製本会社のYには弁護士の訴訟代理人が付いており、専務自身が体験した事実を、3回の弁論準備手続で出す機会があった。
(2) 「出しても立証できるか分からなかった」という説明は、主張を控える理由にならず、著しく合理性を欠く。メモの発見は立証の話である。
(3) 免除は、出して不利益になる主張ではない。
4 結論
よって、少なくとも重大な過失がある。
図:完成答案:第3 訴訟の完結を遅延させる(問題の所在・規範)
第3は、訴訟の完結を遅延させる、です。問題の所在と規範です。比べる相手は何かを、問題の所在にしている点を、見てみてください。規範が、一般的な考え方、判決の言葉、2つの判決の読み方の3つに、分けて書かれているところにも、注目です。
第3 訴訟の完結を遅延させる
1 問題の所在
免除の抗弁により訴訟の完結を遅延させることとなるか、何と比べて遅れるかが問題となる。
2 規範
ア 却下したときに見込まれる完結の時期と、続行したときのそれを比べ、続行のほうが遅くなるときに遅延させるといえる(一般的な考え方)。
イ 却下するには、その主張を審理するために具体的に訴訟の完結を遅延せしめる結果を招来する場合でなければならない(最判昭和30年4月5日)。
ウ 2つの判決を並べると、新たな証拠調べを要するかで遅延の有無が分かれる、そう読める。
図:完成答案:第3 訴訟の完結を遅延させる(あてはめ・結論)
最後は、第3のあてはめと結論です。新たな尋問が要ることと、却下した場合と続行した場合の終結の差が、49日になることを、並べているところを、確かめてみてください。結論で、3つの要件がすべて満たされたことと、申立てがあることを、そろえて、却下すべきである、と結んでいるかも、見てみてください。
3 あてはめ
(1) 免除の意思表示は販売会社のXが争っており、専務と営業部長の証人尋問が新たに必要である。予定された証人2名は、免除について尋問されない。
(2) 却下すれば5月14日に終結するが、続行すれば7月2日に終結し、49日遅れる。
4 結論
よって、訴訟の完結を遅延させる。3つの要件がすべて満たされ、販売会社のXの申立てもあるから、裁判所は、免除の抗弁を却下すべきである。
最後に、全体を通して、条文の順に、問題の所在から結論まで、1本の線でつながっているかを、見直してみてください。
参照条文
- 民事訴訟法157条1項
- 民事訴訟法174条
- 民事訴訟法167条