民訴ゼロから民事訴訟法 論文

既判力の作用場面と客観的範囲の書き方(後編)

賃借人Yが壁紙の張替費用20万円の債務が存在しないことの確認を求めた訴えが、確認の利益を欠くとして却下され確定した後、Yが同じ訴えをもう一度起こす事例を素材に、却下判決の既判力が何について生じるかを特定し、貸主Xが請求を通知する前の再訴と後の再訴とで結論が分かれることを、答案の順に確認します。

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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

X・Yと、却下された前訴B 図:X・Yと、却下された前訴B

前編の結論は、前訴の理由中の判断には既判力が生じず、10月分の訴えでは合意解約を争えた、というものでした。後編では、別の訴訟を見ます。前編と同じ当事者の話で、Xは、ビルの2階の事務所を、デザイン会社Yに、賃料月額30万円で貸していました。令和7年6月30日にYは退去しています。

退去の後、Yは、事務所の壁紙の張替えの費用を、Xから請求されるのではないかと心配になりました。そこでYは、先に、Xに対して、壁紙の張替費用20万円の債務が存在しないことの確認を求めて、提訴しました。これを前訴Bと呼びます。ところが、Xは、壁紙の件で何も請求しておらず、「請求していないし、するつもりもない」と述べました。裁判所は、両者の間に争いがなく、確認の訴えに必要な確認の利益を欠くとして、訴えを却下しました。この判決は確定しました。

確認の利益とは何だったかを、確かめておきます。確認の訴えでは、確認の利益を判断する観点の1つとして、権利関係について現に争いがあり、いま判決で確定する必要があるかが問われます。この、いま確定する必要のことを、即時確定の利益といいます。前訴Bでは、Xが請求していないので、その必要がありませんでした。

ところが、判決が確定した後になって、Xは、壁紙の張替費用20万円をYに請求すると、通知してきました。

前訴Bの判決と、Xの通知 図:前訴Bの判決と、Xの通知

問いは、こうです。Yが、同じ確認の訴えを、もう一度起こしたとき、前訴Bの既判力は及ぶのでしょうか。Xの通知の前に起こした場合と、通知の後に起こした場合で、考えます。

前編では、10月分の訴えでは合意解約を争えると見ました。では、前の訴えが却下判決だったとき、既判力は何について生じるのでしょうか?却下でも、壁紙の債務があるかないかという中身について、既判力が生じるようにも思えます。却下判決の既判力が、中身にまで届くのかどうか。そこが、後編の入口です。順番に見ていきます。

検討の順番

前訴Bの既判力から、後訴との比較へ 図:前訴Bの既判力から、後訴との比較へ

検討の順番は、次のとおりです。まず、前訴Bの既判力が、何について生じているかを特定します。前訴の主文は、訴えを却下する、です。既判力が生じるのは、その主文が表す判断ですから、先にここを押さえないと、後訴と比べようがありません。次に、Yがもう一度起こす訴え、つまり後訴を、それと比べます。そして、基準時の後で事情が変わったかを見て、後訴の結論を出します。

後訴のことを先に考えるのではなく、前訴の中身を先に確かめます。既判力は、前訴で実際に判断されたことにだけ生じます。まず、何が判断されたのかを確かめます。基準時は、事実審の口頭弁論が終わった時です。既判力は、その時点の判断として生じます。

条文民事訴訟法114条1項

民事訴訟法114条(既判力の範囲)
確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。

これが114条1項です。既判力が生じるのは、主文に包含するものに限られます。前編で見たとおり、主文に包含するものは、訴訟物たる権利関係の存否の判断でした。既判力が主文に包含するものに限って生じることは、条文どおりの成立要件で、覚える規範ではありません。ここでの問題は、訴えを却下した判決の主文には、何が包含されているのか、です。

第1 確定した前訴Bの既判力は何について生じるか

却下判決にも既判力は生じるか。何について生じるか 図:却下判決にも既判力は生じるか。何について生じるか

論点は2つあります。1つ目は、中身を判断せずに訴えを退けた却下判決にも、既判力が生じるのか。2つ目は、生じるとして、何について生じるのか。この2つが、答案の最初の問題提起になります。

却下は、訴えの入口で止まった判決です。中身を判断していない判決に既判力を認めてよいのか、という疑問は、もっともです。ここで、却下と棄却の違いを思い出してください。棄却は、中身を見たうえで、請求に理由がないと判断する判決です。却下は、訴えの要件が欠けているので、中身に入らない判決です。ですから、却下判決は、中身については何も判断していません。

規範と答案の型|訴訟判決の既判力 図:規範と答案の型|訴訟判決の既判力

規範は、判例と通説で立てます。訴えを却下した確定判決にも、既判力が生じます。判例は、訴えを却下する判決が確定している場合には、その既判力により、同じ当事者による同じ請求の申出は却下されるべきだ、としています。範囲と基準時について、この判例は述べていません。

ここからは、通説の整理です。却下判決の主文は、この訴えは要件を欠く、という答えです。ですから、114条1項の主文に包含するものを、訴訟物の存否ではなく訴訟要件で読み替えます。既判力が生じる範囲は、却下の理由とされた訴訟要件の欠缺、つまり要件が欠けていること、の判断になります。基準時の時点で、その要件を欠いていたこと、について生じます。本案、つまり、壁紙の債務があるかないかという中身には、生じません。

判例最判平22・7・16 民集64巻5号1450頁

訴えを却下した確定判決の既判力が、後の申出との関係で争われた事件(最高裁判決)
別件訴訟において適法な住民監査請求を前置していないことを理由に訴えを却下する判決が確定しているから、本件申出はその既判力により不適法な申出として却下されるべきものである。

この判決の事案を一言で言います。住民が自治体のために起こす住民訴訟には、先に住民監査請求という手続を踏む、という要件があります。ある住民たちが、住民訴訟を起こし、同じ日に、同じ請求で、別の住民訴訟に加わる申出もしていました。先の訴えは、監査請求を適法に踏んでいないとして却下され、確定しました。最高裁は、残っていた申出も、その既判力により却下されるべきだとしました。Yが、同じ訴えをもう一度起こすのに近い形です。欠けた要件が、欠けたままの場面です。要件が後から備わった場合は、この判例の外で、このあと後訴で考えます。

答案に入れる理由は、通説の説明で、2つです。1つは、同じ理由による却下を繰り返させず、紛争を終わらせるため。もう1つは、原告は、基準時までに、その要件が備わっていることを主張し、立証する機会が十分あったからです。前訴で示す機会があったのに示せなかったなら、同じ理由でまた止められても仕方がない、ということです。

入場ゲートにたとえると分かりやすいです。チケットがないと止められた人については、その時点でチケットがなかった、という記録が残ります。館内の展示の中身は、誰も見ていません。ですから、記録が確定するのは、その時点の入場資格だけで、展示の中身は何も確定しません。

境界を比べます。「基準時の時点で、確認の利益が無かった」という判断は、前訴Bが実際に判断したことで、既判力が生じます。一方、「YがXに壁紙の張替費用を払う義務があるか」は、前訴Bが一度も判断していないことで、既判力は生じません。

却下理由の欠缺には既判力が生じ、本案の存否には生じない 図:却下理由の欠缺には既判力が生じ、本案の存否には生じない

あてはめます。前訴Bは、争いがなく、即時確定の利益を欠くとして、訴えを却下しました。したがって、既判力は、基準時の時点で、その利益が無かったことについて生じます。壁紙の張替費用20万円の債務が、あるのかないのかについては、前訴Bは判断していません。ですから、この点には、既判力が生じません。却下された時に判断されたのは、確認の利益が無い、ということだけです。

結論 既判力は、基準時に確認の利益が無かったことに生じる 図:結論 既判力は、基準時に確認の利益が無かったことに生じる

結論です。前訴Bの既判力は、基準時の時点で、確認の利益が無かった、という判断に生じます。壁紙の債務があるかどうかには、既判力は生じません。

第2 後訴の適法性——通知の前と後

同じ訴えを、通知の前と後に起こす 図:同じ訴えを、通知の前と後に起こす

次は、後訴です。Yが、前訴Bと同じ、壁紙の張替費用20万円の債務が存在しないことの確認の訴えを、もう一度起こします。まず、Xの通知の前に起こした場合を、後訴αと呼びます。通知の後に起こした場合を、後訴βと呼びます。そこで、αとβのそれぞれに、前訴Bの既判力が及ぶかが問題になります。

規範と答案の型|却下後の再訴 図:規範と答案の型|却下後の再訴

規範は、通説で立てます。却下判決が確定した後、基準時より後に、欠けていた要件が備わったのであれば、再び訴えても、前訴の既判力には妨げられません。反対に、欠けたままの再訴は、既判力により却下されます。

答案に入れる理由の一文は、既判力は、基準時の時点の判断だから、です。判断されたのは、基準時の時点で、利益が無かったことだけです。その後に利益が生じたかどうかは、前訴Bでは判断されていない、新しい事情です。基準時より後のことは、前訴の判断の外にあります。既判力は、基準時の時点の状態についての判断です。先ほどの入場ゲートで言えば、後でチケットを買って戻れば、通れます。買わずに同じ列に並べば、また止められます。

後訴α 通知の前は、新しい事情がない 図:後訴α 通知の前は、新しい事情がない

あてはめます。まず、後訴αです。Xは、まだ何も請求していません。基準時の後に、確認の利益を備えさせる新しい事情は、何もありません。つまり、前訴Bで判断された、確認の利益が無い、という状態が、そのまま続いています。したがって、前訴Bの既判力が及んで、この訴えは、既判力により却下されます。同じ状況で同じ訴えをしても、また却下になります。

前編の後訴1(同じ債権をもう一度請求した訴え)は、中身の判断に縛られたので、棄却でした。後訴αを縛るのは、確認の利益が無いという入口の判断なので、後訴も入口で止まり、却下になります。

結論 αは既判力により却下 図:結論 αは既判力により却下

結論です。通知の前に起こされた同じ訴えは、既判力により、却下されます。

ここで、1つ問いです。では、Xの通知の後に起こした場合は、どうでしょうか?通知で、Xが請求すると言ったので、状況が変わりました。却下にはなりません。理由まで、あてはめで確かめましょう。

後訴β 通知の後は、確認の利益が備わった 図:後訴β 通知の後は、確認の利益が備わった

後訴βです。Xは、前訴Bの確定の後に、壁紙の張替費用20万円を請求すると通知しました。この通知は、基準時の後に生じた、新しい事情です。XがYに請求を主張しているので、20万円の債務があるかどうかについて、両者の間に争いが生じました。いま確定する必要が生まれたわけですから、即時確定の利益が備わりました。

前訴Bの既判力は、基準時の時点で利益が無かったことにだけ生じます。基準時の後に備わった利益には、及びません。したがって、後訴βの訴えは、適法です。Yは、前訴の既判力に妨げられずに、訴えることができます。

さらに、もう1つ大事なことがあります。却下された前訴Bは、壁紙の債務があるかどうかを、一度も判断していません。ですから、後訴βでは、その債務があるかないかを、Yも、Xも、あらためて争えます。裁判所は、本案、つまり、債務の存否を審理して、判断します。

結論 βは適法。本案を審理し、債務の存否を判断する 図:結論 βは適法。本案を審理し、債務の存否を判断する

結論です。通知の後に起こされた訴えは、前訴Bの既判力が及ばず、適法です。裁判所は、壁紙の張替費用20万円の債務が存在するかどうかを審理します。債務が存在しないと判断すれば、Yの請求を認容します。債務が存在すると判断すれば、請求を棄却します。後訴βは、却下ではなく、中身を見て、認容か棄却かが決まります。

2つの後訴は、基準時の後に新しい事情があるかどうかで、分かれます。

まとめ

規範と答案の型|訴訟判決の既判力 図:規範と答案の型|訴訟判決の既判力

結論を、規範ごとに確かめます。却下判決にも既判力が生じ、却下の理由とされた訴訟要件の欠缺の判断について生じます。本案の当否には生じません。

規範と答案の型|却下後の再訴 図:規範と答案の型|却下後の再訴

基準時の後に欠缺が解消されれば、再訴は適法で、既判力に妨げられません。解消がない再訴は、既判力により却下されます。

完成答案:第1 前訴Bの既判力(問題の所在・規範) 図:完成答案:第1 前訴Bの既判力(問題の所在・規範)

こちらが、完成答案です。答案の第1の、前訴Bの既判力から見ていきます。図と同じ文面を、本文でも置きます。

第1 前訴Bの既判力

1 問題の所在

 Yは、壁紙の張替費用20万円の債務が存在しないことの確認を求めて前訴Bを提起したが、裁判所は、争いがなく確認の利益を欠くとして訴えを却下し、確定した。そこで、却下判決に既判力が生じるか、生じるとして何について生じるかが問題となる。

2 規範

 訴えを却下した確定判決にも既判力が生じる。判例も、訴えを却下する判決が確定している場合には、その既判力により、同じ当事者による同じ請求の申出は却下されるべきとする。既判力は、却下理由とされた訴訟要件の欠缺、すなわち基準時にその要件を欠いていたことについて生じ、本案の当否については生じない。同じ理由による却下を繰り返さず紛争を解決する必要があり、原告は基準時までに要件の存在を主張・立証する機会があったからである。

完成答案:第1 前訴Bの既判力(あてはめ・結論) 図:完成答案:第1 前訴Bの既判力(あてはめ・結論)

答案の第1の、あてはめと結論です。既判力が生じる判断と、生じない判断を、分けて書いているところを読んでみてください。

3 あてはめ

 前訴Bは、争いがなく即時確定の利益を欠くとして訴えを却下した。したがって、既判力は、基準時にその利益が無かったことについて生じる。壁紙の張替費用20万円の債務の存否については、前訴Bは判断しておらず、既判力は生じない。

4 結論

 よって、前訴Bの既判力は、基準時に確認の利益が無かったとの判断に生じ、債務の存否には生じない。

完成答案:第2 後訴の適法性(問題の所在・規範) 図:完成答案:第2 後訴の適法性(問題の所在・規範)

続いて、答案の第2の、後訴の適法性です。問題の所在と規範を確かめてください。

第2 後訴の適法性

1 問題の所在

 Yが前訴Bと同じ確認の訴えを再び起こした場合(Xが請求の通知をする前を後訴α、後を後訴βとする)に、前訴Bの既判力が及ぶかが問題となる。

2 規範

 却下判決の確定後、基準時の後に欠缺が解消されれば、再訴は適法であり、前訴の既判力に妨げられない。解消がない再訴は、既判力により却下される。既判力は基準時の判断であり、基準時の後に生じた事情は前訴が判断していないからである。

完成答案:第2 後訴の適法性(あてはめ・結論) 図:完成答案:第2 後訴の適法性(あてはめ・結論)

答案の第2の、あてはめと結論です。結論の一文まで、目で追ってください。

3 あてはめ

(1) 後訴α

 Xの通知の前は、基準時の後に確認の利益を備えさせる新しい事情は無く、前訴Bで判断された利益の欠缺が続いている。したがって、既判力が及ぶ。

(2) 後訴β

 Xが壁紙の張替費用20万円を請求すると通知したことは、基準時の後に生じた新しい事情であり、争いが生じて即時確定の利益が備わった。したがって、既判力は及ばない。前訴Bは債務の存否を判断していないから、後訴βでも債務の存否を争える。

4 結論

 よって、後訴αの訴えは既判力により却下される。後訴βの訴えは適法であり、裁判所は本案を審理して、債務が存在しなければ請求を認容し、存在すれば請求を棄却する。

参照条文

  • 民事訴訟法114条1項

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