既判力の主観的範囲の書き方(前編)
ビルのオーナーXが、絵画の引渡しを命じる確定判決を得たあとに、被告のYからその絵を買ったTを訴えた事例を素材に、前の判決の既判力がTに及ぶか、Tが115条1項3号の口頭弁論終結後の承継人にあたるか、承継人にあたるとしてTが自分の即時取得の主張を後の訴えで出せるかを、答案の順に確かめます。
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事例
図:X・Y・Tと前訴P・後訴Q
Xは、ビルのオーナーです。ビルのエントランスに、風景画の油絵を飾っていました。大きさはF20号で、以下、本件絵画と呼びます。令和6年5月、2階の事務所を借りているデザイン会社Yが「応接室に飾りたい」と言い、Xはこれを認めました。そして令和7年6月30日、Yは事務所を退去するとき、本件絵画を持ち出しました。Xは「飾らせてやっただけで、私の絵だ」と言い、Yは「Xからもらった」と言います。
令和7年9月、Xは、Yを被告として、所有権にもとづき、「Yは、Xに対し、本件絵画を引き渡せ」と求めて訴えました。これを、前訴Pと呼びます。Yは、「贈与を受けた」と抗弁しました。抗弁とは、被告が、原告の請求を退けるために持ち出す、別の事実の主張です。裁判所は、贈与の事実は認められないとして、請求を認容しました。口頭弁論の終結は令和8年2月20日、判決は同年3月13日で、判決書は同じ日に双方に送達されました。控訴がなく、判決は、3月28日に確定しました。
判決が確定しても、Yは引渡しに応じません。それどころか、令和8年4月6日、YはYの知人Tに、本件絵画を10万円で売って、引き渡しました。Yは、Tに「事務所の整理で出てきた、自分の絵だ」と話し、Tはそれを信じています。Tは、前訴Pのことを知りません。Tは、本件絵画を自宅の居間に飾っています。令和8年5月、Xは、Tを被告として、所有権にもとづき、本件絵画の引渡しを求めて訴えました。これを後訴Qと呼びます。
Tは何も知らずに買っただけです。それでも、Xは、前訴Pの判決を、Tにも使えるのでしょうか。問いは2つです。前訴Pの確定判決の既判力は、Tに及ぶか。及ぶとして、Tは後訴Qで、何を争えるか。既判力は、確定した判断を、当事者も裁判所も、あとから争い直せなくする力です。
検討の順番
図:原則から結論まで、順に
検討の順番を決めます。既判力は、原則として、当事者にしか及びません。そこで、一つめに、Tが前訴Pの当事者でないことを確かめます。二つめに、条文が例外として既判力を広げている号のうち、どれにあたるかを特定します。その中で、承継が口頭弁論の終結の前なのか後なのかも、事実から確かめます。三つめに、承継人の範囲を決めます。条文は、承継人としか書いていないので、解釈が要ります。四つめに、承継人が、自分だけの主張を持っているときの扱いを決めます。ここも、解釈が要ります。最後の五つめで、既判力が及ぶ結果、後訴で何が争えなくなり、何が争えるのかまで、言い切ります。
号の特定を先にするのは、号によって、既判力が及ぶ理由が違うからです。どの号の話なのかが決まらないと、何を確かめればよいのかが決まりません。解釈が要るのは、三つめと四つめで、そこが検討の中心です。
第1 原則と号の特定
図:Tに前訴Pの既判力は及ぶか
はじめに、前提を1つ確かめます。確定判決の既判力は、いつの時点の判断について生じるのでしょうか。事実審の口頭弁論終結時で、これを基準時と呼びます。基準時までに主張できた事情は、あとから争えなくなります。この基準時が、あとで読む3号の起点になります。では、Tに既判力が及ぶかを、条文から順に見ていきます。
条文民事訴訟法115条1項
民事訴訟法第115条(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)第1項
確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者
1号から見ます。既判力が及ぶのは、原則として当事者だけです。前訴Pの当事者は、XとYで、Tは当事者ではありません。争う機会を与えられたのは当事者だけなので、その結果を引き受けるのも当事者だけ、というのが原則です。2号は、当事者が他人のために原告や被告になった場合のその他人で、Yは自分のために被告になっていますから、Tは当たりません。ここまでは、条文を読めば出てくる話で、成立要件です。
図:どの号にあたるか
3号です。前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人。Yは、1号の当事者ですから、前二号に掲げる者にあたります。TはそのYから、本件絵画を買いました。そこで、3号を検討します。
Tは、本件絵画を持っています。それなら、4号の、請求の目的物を所持する者には、あたらないのでしょうか。4号は、Yのために目的物を所持している人の話です。自分の利益のためではなく、もっぱらYのために持っているだけの人は、Yと別に争う機会を与えなくても不当ではないので、Yと同じに扱われます。Tは、自分で買って、自分のために、自宅の居間に飾っているので、4号を検討の中心にはしません。3号で進めます。
3号で確かめることは、2つです。1つは、承継が口頭弁論の終結の後であること。もう1つは、Tが承継人にあたること。前者は事実から確かめられます。後者の、承継人とは誰なのかが、解釈の問題です。
第2 Tは承継人にあたるか
図:義務を引き受けていないTは、承継人か
問題はここです。3号は、承継人としか書いていません。Tは、Yが負っている、本件絵画をXに引き渡す義務そのものを、引き受けたわけではありません。売買で、本件絵画の所有権と占有を得ただけです。それでも、Tは承継人にあたるのでしょうか。
承継人というのは、前の人の義務を引き受けた人のことではないか、とも思えます。しかし、もし、義務を引き受けた人に限るとすると、どうなるかを考えてみてください。Yは、判決が確定したあとに、本件絵画を誰かに売るだけで、判決を逃れられます。Xは、買った人を相手に、また一から訴え直さなくてはなりません。しかも、次々に売られれば、そのたびに訴え直しです。これでは、せっかくの確定判決が、紛争を終わらせる役に立ちません。
図:規範と答案の型|口頭弁論終結後の承継人の範囲
規範は、こうです。口頭弁論終結後の承継人とは、前主から、紛争の主体たる地位を基準時後に承継した者をいい、訴訟物たる権利義務そのものを承継した者に限られません。この規範は、条文には書かれていません。承継人の範囲を、解釈で立てた規範です。通説の考え方で、答案では、規範として書きます。
紛争の主体たる地位とは、前訴で争われた紛争の、当事者の席のことです。前訴Pの紛争は、Yが占有していて、自分の絵だと言い張っている本件絵画を、Xに返すべきか、というものでした。その争いの当事者としての立場を、基準時のあとで引き継いだ人が、承継人です。
このように考える理由は2つあります。1つは、先ほどのとおり、譲渡で判決をすり抜けられると、紛争を解決する実効性が損なわれることです。もう1つは、前訴Pに関わっていないTに既判力を及ぼしても、不当ではないことです。前訴Pで、この絵について最も強く争う利害を持ち、主張や証拠を出して争う機会を与えられたのは、前主のYでした。この、争う機会が与えられていることを、手続保障といいます。Tは、Yが争い終えたあとの席を引き継いだのですから、前主が受けた手続保障の結果も、席ごと引き継ぐ、と考えます。
輪郭を、境目の例で確かめておきます。Tが買ったのが本件絵画なら、前訴Pで争われた絵の占有を引き継いでいますから、紛争の主体たる地位を承継しています。ところが、Yが持っていた別の絵を、Tが買ったのなら、前訴Pの紛争とは関わりがないので、承継していません。決め手は、前訴で争われた対象を、引き継いだかどうかです。
この、紛争の主体たる地位という言葉は、判例から借りたものです。ただし、次の判決は、訴訟の途中で承継があった場合の判決で、3号について述べた判決ではありません。同じ見方を、3号の承継人にも使う、という位置づけです。
判例最判昭和41・3・22 民集20巻3号484頁
最高裁判所判決(訴訟の途中で土地賃借人から占有を承継した第三者について、訴訟の引受けが認められるかが争われた事件)
当該建物収去義務の存否に関する紛争のうち建物からの退去にかかる部分は、第三者が土地賃借人から係争建物の一部および建物敷地の占有を承継することによつて、第三者の土地賃貸人に対する退去義務の存否に関する紛争という型態をとつて、右両者間に移行し、第三者は当該紛争の主体たる地位を土地賃借人から承継したものと解されるからである。
判決は、こう言っています。紛争のうち、建物からの退去にかかる部分は、第三者が、土地賃借人から、建物の一部と敷地の占有を承継することによって、第三者と土地賃貸人との間の、退去義務の存否の紛争という形で、両者の間に移る。だから、第三者は、その紛争の主体たる地位を、土地賃借人から承継した。つまり、占有を引き継ぐと、紛争が移る、ということです。この見方で、Tを見ていきます。
図:承継の時期は、終結のあとか
あてはめます。まず、承継の時期の事実を拾います。YからTへの売却と引渡しは、令和8年4月6日です。前訴Pの口頭弁論の終結は、令和8年2月20日ですから、終結のあとです。確定の日の3月28日と比べても、あとですが、境目は確定日ではなく、終結時です。終結の前の承継なら、訴訟の途中の承継の問題になり、3号の話ではなくなります。
図:Tは、紛争の主体たる地位を承継したか
ほかの事実です。Tは、本件絵画を現に占有しています。この絵は、前訴Pで、XのものかYのものかを争った、まさにその絵です。一方、Tは、Yの引渡義務を、引き受けてはいません。買っただけです。
評価です。前訴Pの紛争は、Yが占有し、自分の絵だと主張していた絵を、Xに返すべきか、でした。Tは、売買によって、その絵の占有と帰属を争う立場に、Yから入れ替わりました。義務を引き受けていなくても、紛争の主体が移っています。したがって、Tは、紛争の主体たる地位を、基準時後に承継した者にあたります。
結論です。Tは、3号の口頭弁論終結後の承継人にあたります。
第3 Tの即時取得の主張は、既判力で止まるか
図:承継人Tは、何も言い返せないのか
Tは承継人だと分かりました。それなら、Tは、前訴Pの判断に縛られて、何も言い返せないのでしょうか?ここが、一番の山場です。Tには、Yとは別に、自分だけの主張があります。「Xの絵だとしても、私は、取引で買い、よく知らずに占有を始めた。だから、即時取得で、私のものになった」という主張です。これは、Yが前訴Pで出した贈与の主張とは、別のものです。
このように、承継人が、前主とは別に、相手方に対して自分だけで持っている実体法上の主張を、固有の防御方法といいます。固有の抗弁とも呼びます。問題は2つです。前主とは別に自分だけの防御方法をもつ者まで、承継人に含まれるのか。含まれるとして、後訴Qで、その主張を出せるのか。
即時取得は、Yの権利を引き継ぐのではなく、Tが自分で新たに取得する形をとります。それでも、Tは、前訴Pで争われた本件絵画の占有をYから引き継いでいますから、承継人にあたるかどうかは、これまでどおり、紛争の主体たる地位の承継で決めます。
条文民法192条
民法192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
192条です。取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。これも、条文どおりの成立要件です。
Tの事実を、条文の要件に重ねておきます。10万円で買ったのは、取引行為です。自宅の居間に飾ったのは、平穏、公然の占有の開始にあたります。Yの話を信じていたことは、善意の基礎になります。ただし、無過失かどうかを含めて、要件が満たされるかは、後訴Qの本案で審理される、民法の問題です。ここで確かめたいのは、この主張を、後訴Qで出せるのか、という点です。
図:規範と答案の型|固有の防御方法を有する承継人
規範は、こうです。自分だけの防御方法をもつ者も、承継人に含まれます。もっとも、既判力が及ぶ承継人は、前訴で確定した、前主と相手方の間の権利関係を争えませんが、承継人が相手方との間で自ら有する固有の防御方法の提出は、既判力に妨げられません。この事例でいえば、前主はY、相手方はX、承継人はTです。この規範も、条文には書かれていません。通説が立てている規範で、形式説と呼ばれます。答案では、規範として書きます。
決め手は、既判力が及ぶのが、前訴でYが争い、手続保障を受けた範囲だという点です。Tの即時取得は、Tが自分の取引で得た事情にもとづくもので、前訴Pでは争われておらず、Tはその点について、まだ一度も、争う機会を与えられていません。手続保障を受けていないのです。
それなら、固有の主張があるのだから、Tは承継人ではない、と書いても同じではないか、という疑問が出ます。しかし、承継人にあたるとして固有の防御方法を認める書き方(これが、いま見た形式説です)と、そもそも承継人にあたらないと書く書き方とでは、後訴で遮断される範囲が同じにはなりません。そもそも承継人にあたらないと書く考え方もあり、こちらは実質説と呼ばれます。固有の防御方法を持つ者は、そもそも承継人にあたらない、という説明です。ただし、固有の防御方法を後訴で出せる点は、実質説でも形式説でも変わりません。
違いが出るのは、遮断される範囲、つまり、後訴で争えなくなる範囲です。実質説では、Tは承継人でない、つまり既判力を受けない人になります。既判力を受けない人は、前訴の判断に縛られません。そうすると、XがYに引渡しを求める権利を持つという、前訴で確定した判断まで、Tとの間では自由に争えてしまいかねません。後訴で何が遮断され、何が争えるのかの輪郭が、ぼやけます。形式説なら、Tはいったん承継人として既判力を受けるので、確定した判断は争えず、争えるのは、固有の防御方法の部分だけです。
輪郭を、境目の例で確かめます。Tが「Yは、もともとXから、この絵をもらっていた」と言う場合は、Yが前訴Pで争って、認められなかった事柄です。Yの席に載っていた主張ですから、固有の防御方法ではなく、既判力で争えません。これに対して、Tが「私が買ったときに、即時取得した」と言う場合は、Tの席にだけある事情ですから、固有の防御方法で、後訴Qで出せます。
答案の失敗は、2つあります。1つは、「既判力が及ぶ」と書いて、そのままXの請求を認容してしまうことです。Tの即時取得を見落としています。もう1つは、「固有の主張があるから、承継人ではない」と書いて、そこで止まることです。既判力が、どこまで作用するのかが、書けていません。
図:Tの即時取得の主張に、要件を当てる
あてはめます。事実を拾います。Tは、Yから10万円で買いました。自宅の居間に飾って、平穏に、公然と、占有を始めています。Tは、Yの「自分の絵だ」という説明を信じ、前訴Pのことは知りません。この事情は、X・Y間の前訴Pで争われた、贈与の有無とは別の、T自身の取引と認識です。
評価です。Tの主張は、Tが自分で得た事情にもとづく、Xに対する実体法上の主張で、固有の防御方法にあたります。前訴Pでは、Tは審理に関わっておらず、この点について手続保障を受けていません。したがって、Tは、固有の防御方法を有します。ただし、Tは、前訴Pで確定した、XがYに本件絵画の引渡しを求める権利は、争えません。
図:Tの結論 争えないこと、争えること
結論です。前訴Pの既判力は、Tに及びます。Tは、XがYに本件絵画の引渡しを求める権利を持つことを、Yが贈与を受けたという主張も含めて、争えません。争う主張は、遮断されます。他方、Tが、自分の取引で即時取得したという主張は、既判力に妨げられず、後訴Qで出せます。後訴Qでは、192条の要件、つまり、取引行為、平穏と公然、善意、無過失の成否が審理されます。
では、結局、Xは後訴Qで勝てるのでしょうか。即時取得が認められれば、Xの請求は棄却されます。認められなければ、認容されます。どちらになるかは、後訴Qの本案で決まります。大事なのは、既判力が及ぶことと、固有の防御方法が出せることを、分けて書くことです。
まとめ
結論を、振り返ります。Tは、前訴Pの口頭弁論終結後に、紛争の主体たる地位を承継した者で、3号の承継人にあたります。義務を引き受けていなくても同じです。既判力はTに及び、XがYに引渡しを求める権利を持つことは、争えません。しかし、Tの即時取得の主張は、固有の防御方法として、後訴Qで出せます。
図:完成答案:第1 既判力が及ぶか
こちらが、完成答案です。第1の、Tに前訴Pの既判力が及ぶかです。図と同じ文面を、本文でも置きます。
第1 Tに前訴Pの既判力が及ぶか
1 原則
確定判決の既判力は、原則として当事者にしか及ばない(民事訴訟法115条1項1号)。Tは、前訴Pの当事者ではない。
2 例外の号の特定
Tは、前訴Pの当事者であるYから、口頭弁論終結後に本件絵画を譲り受けた者である。そこで、同項3号の口頭弁論終結後の承継人にあたるかが問題となる。
図:完成答案:第2 Tは承継人にあたるか
第2は、承継人の範囲です。図と同じ文面を、本文でも置きます。
第2 Tは「承継人」にあたるか
1 問題の所在
3号は承継人としか定めない。Tは、Yの引渡義務そのものを引き受けておらず、売買で本件絵画の所有権と占有を得たにすぎない。このようなTも承継人にあたるかが問題となる。
2 規範
口頭弁論終結後の承継人とは、前主から紛争の主体たる地位を基準時後に承継した者をいい、訴訟物たる権利義務そのものを承継した者に限られない。
3 あてはめ
(1)承継の時期=YからTへの売却・引渡しは令和8年4月6日であり、前訴Pの口頭弁論終結(令和8年2月20日)の後である。
(2)承継したもの=前訴Pの紛争は、Yが占有し自己の所有を主張する本件絵画をXに引き渡すべきかであった。Tは、売買により、本件絵画の占有と帰属を争う立場をYから承継した。義務を引き受けていなくても、紛争の主体たる地位の承継がある。
4 結論
よって、Tは3号の承継人にあたる。
図:完成答案:第3 後訴Qで何を争えるか(上)
第3は、後訴Qで何を争えるか、です。図と同じ文面を、本文でも置きます。問題の所在の結びと、規範の書き出しだけ、図と言い回しを変えています。
第3 Tは後訴Qで何を争えるか
1 問題の所在
Tは、Yとは別に、Xに対し民法192条の即時取得という自己固有の実体法上の主張を有する。前主とは別に自分だけの防御方法をもつ者まで、承継人に含まれるのか、また、後訴Qでその主張を提出できるのかが問われる。
2 規範
自分だけの防御方法をもつ者も、承継人に含まれる。もっとも、既判力が及ぶ承継人は、前訴で確定した前主と相手方の間の権利関係を争えないが、承継人が相手方との間で自ら有する固有の防御方法の提出は、既判力に妨げられない。
図:完成答案:第3 後訴Qで何を争えるか(下)
第3の続きで、あてはめと結論です。図と同じ文面を、本文でも置きます。
3 あてはめ
(1)固有の防御方法の有無=Tは、Yから10万円で本件絵画を買い(取引行為)、自宅の居間に飾って平穏・公然に占有を始め、Yの説明を信じて前訴Pを知らない。これは、Tが自己の取引により得た事情に基づく、Xに対する実体法上の主張であり、前訴Pで争われた贈与の有無とは別個のものである。Tは前訴Pの審理に関与しておらず、この点の手続保障を受けていない。したがって、Tは固有の防御方法を有する。
(2)争えないもの・争えるもの=Tは、前訴Pで確定した、XがYに本件絵画の引渡しを求める権利(Yの贈与の主張を含む)を争えない。他方、即時取得の主張は、既判力に妨げられない。
4 結論
よって、前訴Pの既判力はTに及ぶ。⇒Tは、XがYに引渡しを求める権利を争えない。⇒Tは、後訴Qで、即時取得(民法192条)の要件の成否を主張できる。
前訴Pの同じ判決のあとに、Yが、本件絵画を売るのではなく、人に贈ったり、預けたりした場合にどうなるかは、後編で扱います。
参照条文
- 民事訴訟法115条1項
- 民法192条