共同訴訟人独立の原則の書き方
引越作業中の事故でけがをしたXが、作業員Yと引越会社Zを1つの訴えで共同被告にした事例を素材に、通常共同訴訟と確定して39条を当てたうえで、Yの自白がZに及ぶか、Zが出した書証をYへの請求の認定に使えるか、Yだけがした弁済の主張をZへの請求で使えるか、Yの分だけ弁論を分離して先に判決してよいかを、答案の順に確かめます。別件で、38条後段の共同訴訟の管轄も見ます。
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事例
図:原告X・被告Y・被告Zと請求の向き
登場するのは3人です。同じマンションの住人で会社員の、原告のX。引越会社に雇われている作業員の、被告のY。そして、有限会社の引越会社で、Yを使っている、被告のZです。図には、請求が2本と、使用の関係が1本あります。XからYへの、民法709条による180万円。XからZへの、民法715条1項による180万円。そして、ZがYを作業員として使っている、という関係です。時間の順に見ていきます。
図:時系列(1):事故から提訴まで
令和7年9月13日の午前10時ごろです。横浜市内の、4階建てで、エレベーターのないマンション。Zが請け負った引越作業の最中に、作業員のYが、約60キロの冷蔵庫を台車に載せて、3階から階段で降ろしていました。Yは、台車のストッパーをかけないまま手を離しました。冷蔵庫は滑り落ちて、2階の踊り場にいたXの右足に当たり、Xは右足首を骨折しました。Xの損害は、治療費が38万円、休業損害が42万円、慰謝料が100万円で、合計は180万円です。休業損害は、欠勤14日に、日額3万円を掛けた額です。遅延損害金は考えません。令和7年10月14日のことです。Yが40万円をXに持参しました。Xは受け取って、事故の損害賠償の内金とする、と書かれた受取書に署名しています。Xは、のちに、あれは見舞金だ、と言っています。令和7年12月16日に、Xが、裁判所に提訴しました。Yに対しては、民法709条により180万円、Zに対しては、民法715条1項で180万円を、Yと連帯して請求します。2人を、同じ訴えで、共同被告にしました。
図:時系列(2):口頭弁論から現在まで
令和8年2月17日の第1回口頭弁論です。Yは、ストッパーをかけずに手を離したことを認めました。治療費38万円も認めます。休業損害と慰謝料は争います。そして抗弁として、40万円を損害賠償の内金として支払った、と主張しました。Zは、YをZが使っていたことと、事故が事業の執行中だったことを認めました。ただ、Yの過失は争います。ストッパーはかかっていた、台車の不具合で外れた、という言い分です。治療費38万円は認めて、休業損害と慰謝料は争います。さらに、Yの選任と監督について相当の注意をした、という主張もしました。民法715条1項ただし書の、免責の主張です。Yが主張した40万円の支払には、何も触れていません。Xは、40万円を受け取ったことは認めますが、見舞金であって、賠償の内金ではない、と争いました。そして、書証として、マンション管理会社の防犯カメラ映像を出しました。Yがストッパーを操作せずに手を離す場面が映っています。令和8年3月24日の第2回口頭弁論です。Yは、書証として受取書を提出しました。Zは、書証として、Xの勤務先の勤怠一覧を提出しました。Xの欠勤14日のうち、10日は在宅勤務で、給与は全額支給された、と記録されています。Yは、この勤怠一覧について、何も援用していません。令和8年5月19日の第3回口頭弁論が、現在です。Yが、自分についての審理は終わった、弁論を分離して、先に自分の分の判決をしてほしい、と求めました。XとZは反対です。Zは、免責の立証として、研修担当者のQの証人尋問を申し出ました。次回の期日は、令和8年7月7日で、Qの尋問です。
図:事実の整理:ア・イ・ウ
記号で整理します。事実アは、Xが、YとZを共同被告にして、それぞれに180万円を請求したことです。事実イは、Yが、ストッパーをかけずに手を離したことを認めて、Zは争い、Xが映像を出したことです。事実ウは、Zが勤怠一覧を出して、Yは何も援用していないことです。
図:事実の整理:エ・オ・カ
事実エは、Yが40万円の支払を内金として主張して、受取書を出したことです。Zは、弁済に触れていません。事実オは、Zが免責を主張して、次回の期日にQを尋問すること。そして、Yが、自分の分を先に判決してほしいと求めて、XとZが反対していることです。事実カは、争点です。Yの過失、休業損害、慰謝料は、YとZに共通です。弁済は、Yだけが主張しています。なお、Zの免責は、Qの尋問のあとに判断されます。ここでは、免責が認められないときの額で書きます。
図:この事例で問うこと
問うのは、2つです。1つめは、YとZのそれぞれについて、判決はいくらになるか。2つめは、裁判所は、Yの求めどおり弁論を分離して、先にYの分を判決してよいか、です。このほかに、別件として、管轄の問題を1つ当てます。
条文と検討の順番
図:検討の順番
検討の順番は5つです。1つめは、共同訴訟の成立と類型、そして39条。2つめは、証拠共通。3つめは、共同訴訟人間の主張共通と、Zの救済。4つめは、弁論の分離。最後に、別件で、管轄を見ます。この順番にする理由は、まず共同訴訟が成り立つか、通常共同訴訟か必要的共同訴訟かを決めないと、39条が当たるのか40条が当たるのかが決まらないからです。39条を当てると、各自が独立になるので、その穴になりうる、証拠と主張を順に見ます。最後に、束ねた手続をどう切り分けるかと、管轄を見ます。条文は、まず、共同訴訟が成り立つ入口の、民事訴訟法38条を開きます。ほかの条文は、使う場面で開きます。
条文民事訴訟法38条
民事訴訟法38条(共同訴訟の要件)
訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。
前段は、同一の事実上及び法律上の原因に基づくとき。後段は、同種の権利又は義務が、事実上及び法律上同種の原因に基づくときです。本件は、同じ事故から、YとZへの請求が出ているので、前段です。136条の、同種の訴訟手続も満たすので、1つの訴えにできます。条文を読めば分かる部分と、解釈で立てる部分は、次のように分けます。条文を音読すれば出てくる内容は、成立要件です。条文番号を添えて書けば足ります。条文に書いていない読み方が、規範です。この事例で立てる規範は3つです。証拠共通、共同訴訟人間の主張共通、そして弁論の分離の裁量です。
第1 共同訴訟の成立と類型と39条
図:第1の確認:Yの自白はZに及ぶか
第1は、類型の確定と、39条です。Yは、ストッパーをかけずに手を離したことを認めました。Zは、ストッパーはかかっていたと争っています。Yの自白は、XのZに対する請求でも、ストッパーをかけずに手を離した、という事実を、争いのない事実にするでしょうか?同じ事故の、同じ過失の話ですが、Yが認めたからといって、Zにも当然及ぶとは、まだ言えません。決めるのは、この共同訴訟が、どの類型かです。通常共同訴訟か、必要的共同訴訟かで、1人の行為の効き方が変わります。類型の確定を、一言ずつ書きます。XのYに対する請求は、Yだけを被告にしても訴えられます。XのZに対する請求も、Zだけを被告にして訴えられます。それぞれが、別々に成り立つ請求です。Yに対する判決の結論が、Zに対する判決の結論を、法的に縛る関係にもありません。全員に必ず同じ結論を出さなければならない、という要請を、合一確定の要請と呼びます。本件にはそれが無いので、通常共同訴訟です。たまたま1つの手続に束ねられた請求、ということです。民法715条は、Yの不法行為が成り立つことが前提になる条文です。でも、それは実体法上の依存の話で、合一確定の要請ではありません。この区別は、第4で効いてきます。通常共同訴訟なので、民事訴訟法39条が当たります。必要的共同訴訟なら40条で別の規律になりますが、ここでは、通常共同訴訟と確定して進みます。
条文民事訴訟法39条
民事訴訟法39条(共同訴訟人の地位)
共同訴訟人の一人の訴訟行為、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為及び共同訴訟人の一人について生じた事項は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさない。
Yの自白は、共同訴訟人の一人の訴訟行為にあたります。他の共同訴訟人、つまりZに、影響を及ぼしません。
図:あてはめ:類型とYの自白
あてはめます。事実アです。1つの訴えで共同被告にして、同じ事故が原因なので、38条前段にあたり、共同訴訟は適法です。709条と715条1項は、別々の請求で、合一確定の要請がないので、通常共同訴訟です。事実イです。Yは、ストッパーをかけずに手を離したと認めて、Zは争っています。Yの自白は、共同訴訟人の一人の訴訟行為なので、39条により、Zには及びません。結論です。XのYに対する請求では、ストッパーをかけずに手を離した、という過失の根拠事実は、自白で争いのない事実になります。もっとも、争いがなくなるのは、この根拠事実までです。過失があるかどうかそのものは評価なので、その事実を前提に、裁判所が判断します。XのZに対する請求では、この根拠事実は、争いのある事実のままです。Xが証拠で証明する必要があり、映像で認定されます。
Yが認めたのに、Zとの関係ではその事実が認められない、という可能性は、理屈の上ではあります。通常共同訴訟では、判断が食い違うこと自体は、法律上許されます。ただ、本件は映像があるので、Zとの関係でも過失が認められます。
第2 証拠共通
図:第2の確認:Zが出した書証はYの請求に使えるか
第2に入ります。Zが出した勤怠一覧は、Yが何も言っていなくても、XのYに対する請求の、事実認定に使えるでしょうか?39条によれば、1人の行為は他の人に影響しません。そうすると、Yが援用していないなら使えないのではないか、という疑問が出ます。そこが問題です。39条を、証拠の出し入れにまで及ぼすなら、1人が出した証拠は、その人の請求のためだけで、ほかの共同訴訟人は、援用しなければ使えないことになります。本件でいえば、欠勤14日のうち10日は在宅で給与も全額、という勤怠一覧の記録を、XのYに対する請求の、休業損害の認定に使えるか、という問題です。そこで、共同訴訟人間の証拠共通が問題になります。
図:規範と答案の型|共同訴訟人間の証拠共通
規範は、最高裁の判決で立てます。共同訴訟人の一人が提出した証拠は、その相手方に対するばかりでなく、他の共同訴訟人とその相手方に対する関係においても証拠として認定資料に供することができる。裁判所の心証は1つだからである。この最後の理由は、判決の文面にはなく、通説の説明です。決め手は、3つあります。1つめは、裁判官の心証は1つ、ということです。同じ書証を、Zに対する請求のときだけ見て、Yに対する請求のときは見なかったことには、できません。条文を開きます。
条文民事訴訟法247条
民事訴訟法247条(自由心証主義)
裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。
判決をするにあたり、証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により判断します。心証は、裁判所に1つだけ生まれます。証人が法廷で話したことを、Zの請求の判断では聞いて、Yの請求の判断では聞かなかったことにして、耳をふさぐことはできない、ということです。2つめは、弁論主義とぶつからないことです。主要事実は、当事者が主張して初めて、証拠で認定する対象になります。主張は、各自の訴訟で、別に決まっています。証拠共通は、出てきた証拠をどう評価するか、という段階の話です。3つめは、共通にしない場合の不都合です。同じ書証から、Zに対する請求とYに対する請求とで、別々の事実を認定することになり、判決が食い違います。
では、証拠が共通になるなら、主張が無い事実でも、証拠があれば認定できるのでしょうか。それはできません。ここに限界があります。証拠共通が使えるのは、その事実についての主張が、使う側の訴訟にあるときです。本件では、XのYに対する請求にも、休業損害14日分の主張があって、Yが争っています。だから、勤怠一覧を使えます。逆に、主要事実は、主張が無ければ、証拠があっても認定できません。この限界が、第3で効いてきます。判決の言葉で確かめます。
判例最判昭和45・1・23 集民98号43頁
最高裁判所判決(共同訴訟人の一人が提出した証拠を、他の共同訴訟人の請求の認定資料に使えるかが争われた事件)
共同訴訟人の一人が提出した証拠は、その相手方に対するばかりでなく、他の共同訴訟人とその相手方に対する関係においても証拠として認定資料に供することができる。
この事件は、設例とは別です。土地建物の明渡しなどを求める事件と、建物の所有権移転登記手続を求める事件が、第一審から、弁論を併合して審理されました。併合された事件の一方の当事者が出した証拠を、他方の事件の請求の認定に使ったことが、証拠の使い方として違法か、と争われました。最高裁は、使ってよいとしました。判決は、この結論を述べて、理由は述べていません。答案では、判例は、証拠として認定資料に供することができる、と述べた、と書きます。そして、理由は、心証は1つだから、と書きます。
図:証拠共通:Zが出した書証の届く先
図で確かめます。Zが出した勤怠一覧は、XのZに対する請求の認定に使われます。それと同時に、XのYに対する請求の認定にも届きます。Yが援用していなくても、です。
図:あてはめ:証拠共通
あてはめます。事実ウです。Zが出した勤怠一覧で、裁判官の心証は1つ生まれています。Yが援用していなくても、XのYに対する請求の認定資料にできます。次に、主張の存在です。Xは、休業損害を14日分、主張していて、Yは争っています。主張が、XのYに対する請求の中にあるので、証拠共通を使えます。勤怠一覧によると、14日の欠勤のうち10日は、在宅勤務で、給与も全額出ています。休業の実質は4日です。休業損害は、4日に日額3万円で、12万円です。この勤怠一覧は、Yにとって有利な内容です。では、もしYにとって不利な内容だったら使えない、ということはあるでしょうか。それはありません。提出した人の目的には、縛られません。Yにとって有利でも不利でも、使える範囲は変わりません。心証は、裁判所に1つだからです。結論です。Yが援用しなくても、勤怠一覧は、XのYに対する請求の認定にも使えます。休業損害は、YにもZにも、同じ12万円です。
第3 共同訴訟人間の主張共通とZの救済
図:第3の確認:当事者の間の主張共通の原則は誰と誰の話か
第3に入る前に、復習です。弁論主義の回で見た、当事者の間の主張共通の原則は、誰と誰の間の話でしたか?原告と被告の間の話です。相手方が言った事実でも、弁論に出ていれば、判決の基礎にできる、という原則でした。今回は、共同訴訟人の間の話です。同じ側に並んだ別の訴訟の当事者の主張が、自分の訴訟でも使えるか、を問います。答えは、当事者の間の場合と逆になります。当事者の間なら、相手方が言った事実は、援用がなくても効きます。これに対して、共同訴訟人の間は、援用、つまり他の人の主張を自分の主張としても持ち出すことがなければ、効きません。理由は、訴訟そのものが、人ごとに別々だからです。以後は、共同訴訟人間の主張共通と呼びます。
図:第3の問題:Yだけの弁済の主張はZに届くか
本件です。Yだけが、40万円を損害賠償の内金として払った、と主張して、受取書も出しました。Zは、弁済に何も触れていません。Yの主張を、XのZに対する請求でも、使えるでしょうか?受取書という証拠が共通になることと、弁済の主張が共通になることは、別の話です。そこが分かれ目です。証拠は共通でも、主張は共通しません。ここで、民法の前提を一言入れます。Yが払った40万円は、同じ損害に当てた支払いです。実体法上は、弁済は他の債務者にも及ぶので、Zの賠償義務も、40万円ぶん減っています。けれども、訴訟でその事実が主張されなければ、Zの判決には反映されません。ここが、第3の落とし穴です。
図:規範と答案の型|共同訴訟人間の主張共通
規範は、最高裁の判決で立てます。通常の共同訴訟においては、共同訴訟人の一人のする訴訟行為は他の共同訴訟人のため効力を生じない。共通の利害関係があるときでも同様で、相互に補助しようとするときは、補助参加の申出を要する。独立の原則は、行使しない自由を含む自己責任の現れで、判決の基礎にできる事実は、その請求の当事者が主張したものに限られるからである。判決は、主張共通という言葉は使っていません。当然の補助参加の関係を認めなかった、という形です。ですから答案は、判旨のとおりに、共同訴訟人の訴訟行為は他の共同訴訟人のために効力を生じず、助け合うなら補助参加の申出を要する、と書きます。決め手は、3つあります。1つめは、判例自身の理由です。補助参加の申出もないのに、当然に補助参加があったのと同じ効果を認めると、どんな関係があるときに認めるのか、基準が明確でなく、訴訟を混乱させます。2つめは、自己責任です。独立の原則は、権利を行使する自由だけでなく、行使しない自由も含みます。隣の席の人が、会計でクーポンを出しても、自分が何も出さなければ、自分の会計にクーポンはつきません。弁済を主張するかどうかは、Zが決めることです。黙っているZは、Yの主張を、自分のものにしていません。3つめは、弁論主義です。XのZに対する請求の判決の基礎にできる事実は、その請求の当事者である、XとZが主張したものに限られます。Yは、同じ法廷にいても、この請求の当事者ではありません。
証拠共通との違いも押さえます。証拠は、出された証拠をどう評価するかという段階の話で、心証は1つです。主張は、どの事実を判決の基礎に置くか、そのものの話で、弁論主義が正面からはたらきます。同じ受取書でも、証拠としては使えます。けれども、弁済を主張する人がいなければ、弁済は認定できません。判決の言葉で確かめます。
判例最判昭和43・9・12 民集22巻9号1896頁
最高裁判所判決(共同被告の一方の主張を、他の共同被告のためにも認めた原審が破棄された事件)
通常の共同訴訟においては、共同訴訟人の一人のする訴訟行為は他の共同訴訟人のため効力を生じないのであつて、たとえ共同訴訟人間に共通の利害関係が存するときでも同様である。したがつて、共同訴訟人が相互に補助しようとするときは、補助参加の申出をすることを要するのである。
この事件は、設例とは別です。土地の所有者が、建物を占有する人たちに、建物の収去と土地の明渡しを求めました。別に、土地を不法に占有したとして、被告の1人に損害賠償を求めています。共同被告のうち2人が、賃料を弁済した、と主張しました。原審は、その主張は、損害賠償を求められた別の共同被告のためにも効力がある、として、請求を退けました。最高裁は、補助参加の申出がないのに、その主張を、別の共同被告のための補助参加人の主張として認めたのは違法だとして、破棄しました。1人の主張が、他の人にとって有利なだけなら、認めてもよさそうにも見えます。そういう考えも、あります。1人の主張が、他の共同訴訟人にとって利益で、その人がそれと抵触する行為をしていなければ、効力を認める説です。ただ、援用という積極的な訴訟活動を要しないとすると、行使しない自由を認める独立の原則と合いません。利益か抵触かの線引きも、はっきりしません。判決は、補助参加の申出を要するとしているので、答案は、判決の立場で書きます。
図:受取書の図:証拠は届き、主張は届かない
図にします。Yが出した受取書は、証拠なので、XのZに対する請求にも届きます。ところが、Yの弁済の主張は、壁にぶつかって届きません。壁を越えるには、Zの援用か、補助参加の申出が要ります。
図:あてはめ:共同訴訟人間の主張共通
数字を確かめます。裁判所の心証は、こうです。治療費は38万円。休業損害は、第2で見た12万円。慰謝料は、100万円が相当です。合わせて150万円です。そして、40万円の支払は、受取書の文言どおり、損害賠償の内金と認めます。Xが言う見舞金だという言い分は、採りません。あてはめます。事実エです。Yは、40万円の弁済を主張して、受取書も出しています。これは、XのYに対する請求の訴訟資料です。150万円から40万円を引いて、Yに対しては110万円が認められます。Zは、弁済に何も触れず、援用していません。行使しない自由を選んだ形です。そして、YがZを補助する補助参加の申出も、していません。ですから、Yの主張は、XのZに対する請求の訴訟資料になりません。受取書は、証拠としては出ているので、証拠共通で使えます。けれども、弁済の主張が、XのZに対する請求に無いので、受取書があっても、弁済は認定できません。
図:判決の額:YとZと、Zが援用したとき
判決の額をまとめます。Yに対しては110万円です。Zに対しては、Zが援用しなければ、150万円です。Zが援用すれば、110万円です。YとZで、40万円の差が出ます。ただし、Zの免責が認められないときの額です。Zの賠償義務は、実体法上は40万円ぶん減っているのに、判決は150万円になります。それでは、Zが困ります。そこで、否定して終わらない書き方が要ります。答案には、Zが何をすればよいかまで、書きます。
図:Zの救済:3つの方法
救済は3つあります。1つめは、Zが援用することです。最も素直な方法です。Yの弁済の主張を、自分の主張として陳述します。受取書は、すでに証拠として出ているので、援用だけで足ります。援用すれば、XのZに対する請求は、110万円です。2つめは、裁判所が尋ねることです。裁判所が、149条1項の釈明として、Zに、Yの弁済を援用するかを確かめます。まだ出ていない主張を促す釈明で、積極的釈明にあたります。尋ねるべき義務になるかは、別の問題です。3つめは、補助参加の申出です。判決のとおり、助け合うなら、補助参加の申出が要ります。Yは、Zが負ければ、民法715条3項で、Zから、Zが払った分を請求される立場、つまり求償される立場です。補助参加の回で見たとおり、その訴訟の判決によって、参加する人の私法上・公法上の地位や利益が左右されるおそれがあるなら、補助参加の利益があります。Zが負ける判決は、Yが求償を受ける前提になるので、Zを補助する補助参加の利益があります。参加すれば、Yの主張は、Zのための補助参加人の主張になります。答案では、この3つを短く並べて、結論を、Zが援用すれば110万円、とします。
第4 弁論の分離
図:第4の確認:Yだけ先に判決してよいか
第4です。Yは、自分についての審理は終わった、と言って、弁論の分離を求めています。通常共同訴訟なら、裁判所は、Yだけ先に判決してよいのでしょうか?通常共同訴訟は、たまたま束ねられただけの請求ですから、いつでも分けてよいようにも見えます。分離できること自体は、共同訴訟の回で見たとおりです。ただ、本件には事情があります。民法715条は、被用者の不法行為が前提です。Yの過失と損害額は、XのZに対する請求と共通です。分離して、判断を食い違わせてよいのか、が問題です。そこで、弁論の分離の裁量が問題になります。条文は、こうです。
条文民事訴訟法152条1項
民事訴訟法152条1項(口頭弁論の併合等)
裁判所は、口頭弁論の制限、分離若しくは併合を命じ、又はその命令を取り消すことができる。
分離を命じることができる、と定めています。ただ、できる、といっても、無制限なのかが問われます。
図:規範と答案の型|弁論の分離の裁量
規範は、判例ではなく、条文と、通常共同訴訟の性質から立てます。ですから、判例はこう言った、とは書きません。通常共同訴訟は合一確定が要請されないので、裁判所は裁量により弁論を分離でき、実体法上の依存関係は考慮事情にとどまる。ただし、当事者の権利の適正な実現と、訴訟経済と、真実発見を大きく損なう分離は、裁量を逸脱し許されない。決め手は、2つあります。1つめは、条文が、分離を命じることができる、と定めていて、通常共同訴訟には、合一確定の要請がないことです。実体法上の依存関係だけでは、分離を禁じる根拠になりません。依存関係は、裁量を行使するときの考慮事情です。2つめは、束ねた目的です。通常共同訴訟を1つの手続に束ねるのは、審理の重複と、判断の矛盾を避ける利益のためです。その利益を失わせる分離は、目的に反します。だから、裁量には限界があります。規範の3つの物差しも、この目的から出てきます。審理の重複を避けるのが、訴訟経済です。同じ事実を1つの心証で判断して、食い違わせないのが、真実発見です。原告が、同じ損害について食い違わない判決を得るのが、当事者の正当な権利の実現です。限界は、3つの考慮事情を比べて見ます。審理の大部分が重複するか。判断が食い違うおそれが大きく、原告に不利益か。分離する利益が小さいか、です。なお、明文で分離が許されない場合もあります。原告が、両方の被告に負けるのを避けるために出す、同時審判の申出があるときは、41条1項で、弁論を分離できません。必要的共同訴訟なら、40条の規律になります。
図:分離の考慮事情
図に、いま挙げた3つの考慮事情、つまり、審理の重複、判断の食い違い、分離する利益を並べました。それぞれについて、分離を許さない方向と、許す方向を分けています。あてはめで、本件がどちらに寄るかを見ます。
図:あてはめ:弁論の分離
あてはめます。事実カです。争点のうち、休業損害と慰謝料とYの過失は、YとZに共通です。分離すれば、同じ争点を2回判断するので、審理の大部分が重複します。訴訟経済に反します。次に、判断の食い違いです。Yは、ストッパーをかけずに手を離したと認めて、Zは争っています。休業損害の認定も、別々に審理すれば、分かれるおそれがあります。民法715条は、Yの不法行為が前提なので、YとZで判断が食い違えば、真実発見に反して、Xにも不利益です。事実オです。Yについての審理は終わっていて、次回の期日に残るのは、Zの免責のための、Qの尋問だけです。先に判決を受ける利益は、小さいです。分離の必要性は、乏しいです。
通常共同訴訟でも、本件では、分離しない、というのが結論です。通常共同訴訟なので、分離そのものは許されます。実体法上の依存関係があっても、分離を禁じる理由にはなりません。けれども本件で分離するのは、審理の大部分が重複し、判断が食い違うおそれが大きく、Yの利益は小さいので、裁量を逸脱します。裁判所は分離せず、7月7日の尋問のあと、一括して判決します。なお、裁判所は、Yの求めに必ず従うわけではありません。152条1項の分離は、裁判所の命令です。Yの求めは、職権の発動を促すものです。申出があっても、裁判所は拘束されません。
第5 別件
図:第5の確認:別件、後段の共同訴訟の管轄
第5は、別件です。引越の件とは別の件で、管轄を当てます。人物も金額も、別物です。引越の件は38条前段で、管轄が争点になりませんでした。ここでは、後段と比べます。
図:別件:原告のM・被告のN・被告のPと請求の向き
原告のMは、仙台市で食材の卸売りをしています。Nは札幌市の居酒屋を営む個人、Pは福岡市のそば店を営む個人です。MはNに食材を180万円、Pに食材を160万円で、別々の契約で売りました。支払期は、どちらも令和7年12月26日です。代金は、取引先の店で集金する約束でした。NもPも、払いません。Mは、令和8年2月3日に、Nの住所地の札幌地方裁判所に、NとPを共同被告として、訴えを提起しました。合意管轄の定めも、ほかの管轄の原因も、ありません。条文を順に読みます。まず、38条の入口です。別々の売買契約による代金債権で、同種の権利、同種の原因です。前段ではなく、後段です。次に、管轄です。Nに対しては、Nの住所地の札幌に普通裁判籍があるので、民事訴訟法4条により、管轄があります。Pに対しては、Pの住所は福岡で、代金は福岡のPの店で集金する約束でした。財産権上の訴えは義務履行地にも提起できますが、集金の約束なので、履行地も福岡です。札幌には、管轄がありません。そこで、7条で管轄を借りられないかを考えます。
条文民事訴訟法7条
民事訴訟法7条(併合請求における管轄)
一の訴えで数個の請求をする場合には、第四条から前条まで(第六条第三項を除く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る。
本文は、1つの訴えで数個の請求をするとき、1つの請求について管轄がある裁判所に、全部を訴えられる、という定めです。けれども、ただし書があります。数人に対する訴えは、38条前段の場合に限ります。本件は後段なので、管轄を借りられません。前段と後段で差が付くのは、請求どうしのつながりの濃さが違うからです。前段は、同じ事実を争うので、まとめても、被告が巻き込まれる不利益は小さい。後段は、契約が別々で、請求どうしに具体的なつながりがありません。それなのに、管轄のない遠くの裁判所で受けて立たせると、被告の負担が重すぎます。本件でいえば、Pは、自分と関係のないNの取引のために、福岡から札幌まで来させられることになります。
それなら、Pに対する訴えは却下されるのかというと、却下ではありません。Pに対する請求の弁論を分離して、福岡地方裁判所に移送します。
条文民事訴訟法16条1項
民事訴訟法16条1項(管轄違いの場合の取扱い)
裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。
16条1項は、訴訟の一部が管轄に属しないと認めるときは、申立てか職権で、管轄裁判所に移送する、と定めています。Nに対する請求は、札幌で審理が続きます。
図:管轄の流れ
図の流れで確認します。結論です。後段の共同訴訟では、管轄を借りられません。Pの分は分離して、福岡地裁へ移送されます。変形も見ておきます。NとPが、主債務者と保証人だったなら、原因が同一で、前段です。7条本文で管轄を借りられて、まとめて審理できます。入口の濃さが、管轄に返ってくる、ということです。
まとめ
図:完成答案:第1 共同訴訟の成立と類型と39条
こちらが、完成答案です。第1の、共同訴訟の成立と類型、そして39条です。図と同じ文面を、本文でも置きます。
第1 共同訴訟の成立と類型
1 共同訴訟の成立
XのYに対する請求とZに対する請求は、同一の事故という同一の事実上及び法律上の原因に基づくから(民事訴訟法38条前段)、同種の訴訟手続(同法136条)でもあり、共同訴訟として適法である。
2 類型
各請求は別々に成り立ち、YとZに同一の結論が法律上要請されない。合一確定の要請がないから、通常共同訴訟である。
3 Yの自白の効力
(1) Yの自白がZにも及ぶかが問題となる。
(2) 通常共同訴訟では、共同訴訟人の一人の訴訟行為は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさない(民事訴訟法39条)。
(3) Yの自白は共同訴訟人の一人の訴訟行為であり、Zは、ストッパーをかけず手を離した事実を争っているから、Zには及ばない。よって、XのZに対する請求では、この事実は争いのある事実であり、映像により認定される。
図:完成答案:第2 証拠共通
第2の、証拠共通です。問題の所在から結論までを、読んでみてください。
第2 証拠共通
1 問題の所在
Zが提出した勤怠一覧を、Yが援用していないのに、XのYに対する請求の認定に使えるか。共同訴訟人間の証拠共通が問題となる。
2 規範
共同訴訟人の一人が提出した証拠は、その相手方に対するばかりでなく、他の共同訴訟人とその相手方に対する関係においても証拠として認定資料に供することができる(最判昭和45・1・23)。裁判所の心証は1つだからである(民事訴訟法247条)。
3 あてはめ
(1) 勤怠一覧による心証は裁判所に1つであるから、Yが援用していなくても、XのYに対する請求の認定資料にできる。
(2) XのYに対する請求にも、休業損害14日分の主張とYの争いがあるから、主張を前提に使える。
(3) 欠勤14日のうち10日は在宅勤務で給与が全額支給されているから、休業損害は4日の12万円である。
4 結論
よって、勤怠一覧はXのYに対する請求の認定にも使え、休業損害は、YにもZにも12万円と認定される。
図:完成答案:第3 共同訴訟人間の主張共通(問題の所在・規範)
第3の、共同訴訟人間の主張共通です。問題の所在と規範を、読んでみてください。
第3 共同訴訟人間の主張共通
1 問題の所在
Yは、40万円の弁済を主張し、受取書を提出した。Zは弁済に触れていない。Yの主張を、XのZに対する請求でも使えるか。当事者間の主張共通の原則とは別に、共同訴訟人間の主張共通が問題となる。
2 規範
通常の共同訴訟においては、共同訴訟人の一人のする訴訟行為は他の共同訴訟人のため効力を生じない。共通の利害関係があるときでも同様であり、相互に補助しようとするときは補助参加の申出を要する(最判昭和43・9・12)。
独立の原則は、行使しない自由を含む自己責任の現れであり、判決の基礎にできる事実は、その請求の当事者が主張したものに限られるからである。
図:完成答案:第3 共同訴訟人間の主張共通(あてはめ・結論・救済)
第3の、あてはめと結論、そしてZの救済です。金額の出し方を、確かめてください。
3 あてはめ
(1) Yの弁済の主張は、XのYに対する請求の訴訟資料である。
(2) Zは弁済を援用しておらず、Yも補助参加の申出をしていない。よって、Yの主張は、XのZに対する請求の訴訟資料にならない。
(3) 受取書は証拠共通により認定資料にできるが、弁済の主張がXのZに対する請求にないから、弁済は認定できない。
4 結論
よって、XのYに対する請求は、150万円から40万円を引いた110万円が認められる。XのZに対する請求は、弁済を判断できず、150万円が認められる(Zの免責が認められない場合)。
5 Zの救済
Zは、Yの弁済の主張を援用することができ、援用すれば110万円となる。ほかに、裁判所の釈明(民事訴訟法149条1項)を促すこと、Yの補助参加の申出(YはZから求償される立場にある。民法715条3項)がある。
図:完成答案:第4 弁論の分離
第4の、弁論の分離です。3つの考慮事情の当て方を、目で追ってください。
第4 弁論の分離
1 問題の所在
Yは、自分の審理は終わったとして、弁論の分離を求めている。通常共同訴訟で、実体法上の依存関係があり、判断が食い違うおそれがあるとき、裁判所は弁論を分離して一部の共同訴訟人にだけ判決できるか。弁論の分離の裁量の限界が問題となる。
2 規範
通常共同訴訟は合一確定が要請されないので、裁判所は、裁量により弁論を分離でき(民事訴訟法152条1項)、実体法上の依存関係は考慮事情にとどまる。ただし、当事者の権利の適正な実現・訴訟経済・真実発見を大きく損なう分離は、裁量を逸脱し許されない。
3 あてはめ
(1) 休業損害・慰謝料・Yの過失は、YとZに共通であり、分離すれば同じ争点を2回判断するから、審理の大部分が重複する。
(2) Yは、ストッパーをかけず手を離したと認め、Zは争っており、民法715条は被用者の不法行為が前提であるから、判断が食い違うおそれが大きく、Xにも不利益である。
(3) Yについての審理は終わっているが、次回のQの尋問の1期日を待てば足りるから、先に判決を受ける利益は小さい。
4 結論
よって、分離は裁量を逸脱し許されない。7月7日の尋問のあと、一括して判決する。
図:完成答案:第5 別件
第5の、別件です。管轄の条文を当てる順番を、確かめてください。
第5 別件
1 38条の入口
MのNに対する請求とPに対する請求は、別々の売買契約による同種の代金債権であり、事実上及び法律上同種の原因に基づくから、民事訴訟法38条後段の共同訴訟である。
2 管轄
札幌地方裁判所は、Nに対しては普通裁判籍により管轄を有する(民事訴訟法4条)。Pに対しては、普通裁判籍も義務履行地(民事訴訟法5条1号)も福岡であり、管轄を有しない。民事訴訟法7条ただし書は、数人に対する訴えについて管轄を借りられるのは38条前段の場合に限るとしているから、後段である本件では借りられない。
3 結論
よって、Pに対する請求は弁論を分離し、福岡地方裁判所に移送される(民事訴訟法16条1項)。Nに対する請求は札幌地方裁判所で審理される。
参照条文
- 民事訴訟法38条
- 民事訴訟法39条
- 民事訴訟法247条
- 民事訴訟法152条1項
- 民事訴訟法7条
- 民事訴訟法16条1項