民訴ゼロから民事訴訟法 論文

二重起訴の禁止の書き方(後編)

賃借人Yの債務不存在確認の訴え甲が係属している間に、賃貸人Xの債権者Vが、Xの壁紙の張り替え費用20万円の債権を代位行使して、別の裁判所に支払を求める訴え丁を起こした事例を素材に、当事者の同一性を判決の効力を受ける者かどうかで判断する規範と丁のあてはめを答案の順に確認し、142条違反が見落とされて抵触する2つの判決が確定したときの再審まで見ます。

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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

X・Y・Vと、訴え甲・丁 図:X・Y・Vと、訴え甲・丁

設例を、短く確かめます。Xは、ビルのオーナーです。デザイン会社Yに、ビルの2階の事務所を、賃料月額30万円で貸していましたが、令和7年6月30日にYは退去しました。そのあと、Yは、壁紙の張り替え費用20万円の債務が存在しないことの確認を求めて、A地方裁判所に訴えました。これが甲で、いまも係属しています。Yが原告、Xが被告です。

前編の乙は、XがB地方裁判所に起こした、同じ20万円の支払の訴えです。前編では、甲と乙を、同一の債権の存否を争うものとして、同じ事件と判断しました。

ここへ、新しい訴えが出てきます。丁です。Xには、建材の取引先のVがいて、VはXに貸金債権を持っています。Xは無資力、つまり、借金を全部返せるだけの財産を持っていない状態で、代位の要件は満たしているものとします。Vは、民法423条1項により、XがYに対して持つ壁紙の張り替え費用20万円の債権を、Xに代わって行使し、C地方裁判所に、Yを被告として、20万円の支払を求める訴えを起こしました。これが丁です。

Vが訴えているのは、V自身のお金ではなくて、Xの債権のほうです。訴えるのはVが自分の名で行いますが、請求している債権は、XのYに対する債権です。

前編を思い出してください。事件の同一性は、当事者と審判対象で見るのでしたね。では、原告が別の人でも、同じ当事者とみることはあるのでしょうか?

検討の順番

142条から、後訴の扱いまで 図:142条から、後訴の扱いまで

順番は、前編と同じです。142条を示し、問題の所在を挙げ、趣旨から規範を立て、あてはめて、結論を出します。後編では、形式上の当事者が違いますから、まず当事者の同一性を、判決の効力の面から判定します。そのあとで審判対象、つまり裁判所に判断を求めている中身を確かめて、結論を出します。審判対象が同じかどうかは、請求の同一性とも呼ばれます。

条文民事訴訟法142条

民事訴訟法142条(重複する訴えの提起の禁止)
裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない。

142条です。音読すれば出てくる成立要件でした。丁は、甲が係属している間に、更に起こされた訴えです。問題は、丁が、甲と同じ事件にあたるかどうか。とくに、原告がVで、甲の当事者はXとYですから、当事者の同一性が問われます。

第1 丁は、係属中の甲と同じ事件か——当事者の同一性

丁は、係属中の甲と同じ事件か 図:丁は、係属中の甲と同じ事件か

ここで、1つ問いです。Xの債権者Vが、Xに代わって訴えたら、Xと同じ当事者とみるのでしょうか?名前の上では、Vは別人です。ただ、142条が防ぎたいのは、名前が重なることではありません。何を基準にするのかを、確かめます。まず、手がかりになる条文を見ます。

条文民事訴訟法115条1項

民事訴訟法115条(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)第1項
確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者

115条1項です。確定判決の効力が及ぶ者を、並べた条文です。2号は、当事者が他人のために原告または被告となった場合の、その他人です。債権者代位訴訟では、債権者のVが、債務者のXの権利を、自分の名で行使します。これは、Vが、Xのために原告となった場合にあたり、判決の効力は、その他人のXに及びます。ここは、条文を音読すれば出てくる、成立要件です。

Xは訴えていないのに、丁の判決に縛られるのでしょうか。縛られます。それが、2号の定めです。ただ、条文には、「判決の効力が及ぶ者は、142条の当事者と同じに扱う」とまでは、書かれていません。そこを決めるのが、読みで立てる規範です。

規範と答案の型|当事者の同一性 図:規範と答案の型|当事者の同一性

規範は、こうです。当事者の同一性は、形式上の当事者が同じかどうかではなく、判決の効力を受ける者かどうかで判断します。原告と被告の立場が入れ替わっても同一であり、他方の訴訟の判決の効力が及ぶ者は、当事者と同一とみます。これは、通説の整理です。

どうして、名前ではなく、判決の効力を受けるかどうかで見るのでしょうか。前編で見た3つの弊害は、審判の重複による不経済、既判力の抵触の可能性、被告の応訴の負担でした。このうち、既判力の抵触と、被告の応訴の負担は、判決の効力が及ぶ人たちの間で起きるからです。既判力は、確定した判断の中身を、もう争い直せなくする力です。

丁で確かめます。丁の判決の効力は、Xにも及びます。丁で「Yは20万円を支払え」と確定すれば、その判子は、訴えていないXの債権にも押され、Xは、その判断に縛られます。一方、甲では、XとYの間で、「20万円の債務は存在しない」と確定するかもしれません。Xにとって、同じ債権について、正反対の判断が並びます。しかも、Yは、甲では原告、丁では被告として、2つの裁判所に出ることになります。名前がVだからといって、弊害は消えません。

Vが自分のお金のことで訴えたのなら、どうなるのでしょうか。そこが、同じ当事者とみる境界のすぐ外側です。たとえば、VがYに、自分で持っている別の債権、たとえば納品の代金を、自分の名で請求した場合です。丁なら、判決の効力はXにも及びます。一方、この訴えの判決の効力は、VとYの間にとどまり、Xには及びません。甲の当事者のXとは、重なりません。決め手は、Xに判決の効力が及ぶかどうかです。

同じVと同じYの訴えでも、Xに効力が及ぶか及ばないかで、分かれます。丁は、Xの債権を代位行使する訴えですから、効力が及ぶ側にあたります。なお、代位訴訟にXがどう関わるかは、別の回で扱います。ここでは、判決の効力がXに及ぶ、という一点で足ります。

丁に要件を当てる(当事者の事実と評価) 図:丁に要件を当てる(当事者の事実と評価)

あてはめます。丁は、Vが、民法423条1項により、XのYに対する債権を、自分の名で行使する訴えです。その判決の効力は、115条1項2号により、Xに及びます。

丁に要件を当てる(当事者の結論) 図:丁に要件を当てる(当事者の結論)

そうすると、VはXと同一とみることができます。丁の判決の効力を受ける者は、XとYです。甲の当事者も、XとYで、原告と被告の立場は入れ替わっていますが、同じ2人です。したがって、当事者は同一です。形式上の原告はVでも、判決の効力を受ける目で見れば、XとYの争いになります。

丁に要件を当てる(審判対象) 図:丁に要件を当てる(審判対象)

次に、審判対象です。ここは、前編の規範を、そのまま使います。審判対象の同一性は訴訟物によって判断しますが、訴訟物が別であっても、2つの訴えが同じ権利関係の存否を審理の中身にしているときは、審判対象は同一です。

丁の請求は、XがYに対して持つ、壁紙の張り替え費用20万円の債権の支払です。甲の請求は、同じ20万円の債務が存在しないことの確認です。債務不存在確認は、給付の反対の形です。丁が確定すれば「20万円の債権はある」、甲が確定すれば「ない」と、同じ1つの債権に判子が押されますから、同一の債権の存否を争っています。したがって、審判対象は同一です。ですから、丁は、係属する甲と同一の事件について、更に起こされた訴えです。

結論 丁は142条に反し、却下される 図:結論 丁は142条に反し、却下される

結論です。丁は、142条に反して不適法です。裁判所は、丁を却下します。甲は、そのまま残ります。先に係属している甲を使えば足りますから、後から出された丁が、退けられます。

第2 既判力との関係——判決の前は142条、判決のあとは既判力

判決の前と後|重複を止める道具 図:判決の前と後|重複を止める道具

最後に、142条と既判力の関係を、1つの答案として書く形で見ます。前編の乙を思い出してください。XがB地方裁判所に起こした、同じ20万円の支払の訴えです。本来は却下されるべき訴えですが、裁判所が142条に気づかないまま、審理が進んだとします。142条の違反が見落とされたまま、審理が進むことは、実際にあります。そして、乙の判決が、先に確定したとします。内容は、「Yは、Xに、20万円を支払え」です。そのあとで、甲の判決も確定します。内容は、「20万円の債務は存在しない」です。同じ債権について、正反対の判決が、2つ確定しました。この場合、どうなるのでしょうか。

条文民事訴訟法114条1項

民事訴訟法114条(既判力の範囲)第1項
確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。

まず、整理をします。142条が働くのは、判決が確定する前、事件が係属している間の重複です。後から出された訴えを、却下して止めます。既判力が働くのは、判決が確定したあとです。114条1項により、主文に包含するものについて、確定した判断と食い違う主張が、遮断されます。同じ、矛盾や抵触を防ぐという目的を、時間軸の前と後で、別々の道具が分担しています。判決の前は142条、確定したあとは既判力、ということです。

乙の判決が先に確定していれば、甲の裁判所は、その確定した判断に食い違う判断をしないよう、既判力のはたらきを考えるべきでした。ところが、それも見落とされて、甲も確定してしまった。道具が2つとも働かなかった場面です。その場合は、確定した判決を、あとから動かせないのでしょうか。

条文民事訴訟法338条1項

民事訴訟法338条(再審の事由)第1項柱書・第10号
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
十 不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。

338条1項10号です。確定した判決は、前に確定した判決と抵触するときは、再審の訴えで不服を申し立てられます。ただし、控訴や上告でその事由を主張したとき、知りながら主張しなかったときは、できません。条文を読めば出てくる、成立要件です。

大事なのは、142条に反していたことを見落として、判決が確定した、というだけでは、再審事由にならないことです。338条1項は再審事由を挙げていますが、142条違反は、その中にありません。再審事由になるのは、前に確定した判決と、内容が抵触した場合です。

抵触した場合、どちらの判決が、再審の対象になるのでしょうか。後に確定したほうです。事例では、あとから確定した甲の判決が、乙の判決と抵触しますから、甲の判決が、再審の対象になります。先に確定した乙の判決には、すでに既判力が生じていて、関係する人たちは、それを前提に動いています。たとえば、Yは、乙の判決に従って、もう20万円を払っているかもしれません。先を動かすと、確定した判決は動かない、という土台そのものが揺らぎます。ですから、先を動かさず、あとの判決を直します。

あてはめます。乙の判決が先に確定して、Yに20万円の支払を命じました。あとから確定した甲の判決は、20万円の債務は存在しないと判断していて、同じ債権について、前に確定した判決と抵触します。Xが、甲の控訴や上告で、乙の判決との抵触を主張したことも、知りながら主張しなかったことも、ない、とします。したがって、甲の確定判決は、338条1項10号により、再審の対象になります。

結論 抵触したときは、後に確定した判決が再審の対象 図:結論 抵触したときは、後に確定した判決が再審の対象

結論です。142条違反の見落としだけでは、再審事由になりません。ただし、見落とされたまま、2つの判決が確定して抵触したときは、後に確定した判決が、再審の対象になります。

まとめ

規範と答案の型|当事者の同一性 図:規範と答案の型|当事者の同一性

結論を、規範の図で確かめます。当事者の同一性は、通説に従い、判決の効力を受ける者かどうかで判断します。Vが代位して訴えた丁は、判決の効力がXに及ぶので、甲と同じ当事者で、審判対象も同じですから、却下です。そして、判決の前は142条、判決のあとは既判力が、重複を止めます。

完成答案:第3 後訴丁(問題の所在・規範) 図:完成答案:第3 後訴丁(問題の所在・規範)

こちらが、完成答案です。答案の番号は、前編の答案の第1・第2に続けて、第3・第4と振っています。本文の第1にあたるのが答案の第3、本文の第2にあたるのが答案の第4です。答案の第3の、問題の所在と規範から見ていきます。答案の文面を、本文でも置きます。

第3 後訴丁

1 問題の所在

 Xの債権者Vは、民法423条1項により、XのYに対する壁紙の張り替え費用20万円の債権を代位行使して、C地方裁判所に、20万円の支払を求める訴え丁を提起した。丁は、係属する甲(Y→X・壁紙の張り替え費用20万円の債務不存在確認)と同一の事件について更に提起された訴えとして、142条に反しないか。丁の原告はVであり、甲の当事者はXとYであるから、形式上の当事者が異なる場合に、当事者の同一性が認められるかが問題となる。

2 規範

 142条は、審判の重複による不経済、既判力の抵触の可能性、被告の応訴の負担を防ぐ趣旨であり、「事件」の同一性は、当事者の同一性と審判対象の同一性により判断する。当事者の同一性は、形式上の当事者が同じかではなく、判決の効力を受ける者かどうかで判断する。原告と被告の立場が入れ替わっても同一であり、他方の訴訟の判決の効力が及ぶ者は、当事者と同一とみる。審判対象の同一性は訴訟物によって判断するが、訴訟物が別であっても、2つの訴えが同じ権利関係の存否を審理の中身にしているときは、審判対象は同一である。

完成答案:第3 後訴丁(あてはめ・結論) 図:完成答案:第3 後訴丁(あてはめ・結論)

答案の第3の続きで、あてはめと結論です。結論の一文まで、目で追ってください。

3 あてはめ

 (1)当事者=代位訴訟は、債権者が自己の名で債務者の権利を行使する訴訟であり、その判決の効力は、115条1項2号により、債務者Xに及ぶ。したがって、VはXと同一とみる。丁の判決の効力を受ける者はXとYであり、甲の当事者であるXとYと、原告と被告の立場が入れ替わっていても同一である。

 (2)審判対象=丁は、XのYに対する壁紙の張り替え費用20万円の債権の存在を、甲は、その不存在を求めるものであり、同一の債権の存否を審判対象とする。したがって、審判対象は同一である。

4 結論

 よって、丁は142条に反し不適法であり、却下される。

完成答案:第4 既判力との関係(問題と規範) 図:完成答案:第4 既判力との関係(問題と規範)

答案の第4の、既判力との関係です。問題の所在と規範を確かめてください。

第4 既判力との関係

1 問題の所在

 Xが別にB地方裁判所に提起した同じ20万円の支払請求の訴え乙が、却下されずに審理が進み、乙と甲の判決がいずれも確定した場合に、判決はどのように扱われるかが問題となる。

2 規範

 142条は、判決の確定前に事件が係属している間の重複を止める。確定判決は、主文に包含するものに限り既判力を有し(114条1項)、確定した判断と食い違う主張は遮断される。142条違反を看過して判決が確定しても、それだけでは再審事由にならない。もっとも、不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触するときは、再審の訴えをもって不服を申し立てることができる(338条1項10号)。

完成答案:第4 既判力との関係(あてはめ・結論) 図:完成答案:第4 既判力との関係(あてはめ・結論)

答案の第4の続きで、あてはめと結論です。最後の一文まで、目で追ってください。

3 あてはめ

 乙で「Yは20万円を支払え」との判決が先に確定し、甲で「20万円の債務は存在しない」との判決が後に確定すれば、同一の債権について、前に確定した判決と後に確定した判決が抵触する。Xが控訴又は上告によりこれを主張し、又は知りながら主張しなかったという事情はない。

4 結論

 よって、後に確定した甲の判決は、338条1項10号により、再審の対象となる。先に確定した乙の判決の既判力は動かさず、後の判決を是正する。

参照条文

  • 民事訴訟法142条
  • 民事訴訟法115条1項
  • 民事訴訟法114条1項
  • 民事訴訟法338条1項

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