民訴ゼロから民事訴訟法 論文

任意的訴訟担当の書き方

組合の業務執行組合員Xが、取引先Yに梨の代金480万円を自分の名で請求した事例を素材に、権利の持ち主ではないXが原告になれるか、組合の外で訴訟だけを任された者や組合財産でない債権の場合と何が違うか、Xが受けた判決の効力が組合員に及ぶかを、完成答案まで順に書きます。

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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

原告のX、被告のY、組合員のP・Q・R 図:原告のX、被告のY、組合員のP・Q・R

事例から入ります。登場するのは、果樹農家で原告のXと、青果卸売会社で被告のY、それにXの仲間の組合員のP、Q、Rです。Xを含む果樹農家の4人は、梨を共同で出荷して売るために、民法上の組合を作りました。組合を作って、数年がたっています。4人は、組合の規約を作り、4人とも署名しています。その第5条が、この先の話の中心になります。

組合規約第5条 図:組合規約第5条

規約の第5条です。Xが業務執行組合員で、組合財産の管理、取引先との契約、代金の請求と受領、そして組合財産に関する訴訟の追行を、自分の名で行う権限があります。契約から訴訟までが、ひと続きで書かれています。出荷用の倉庫と選果機、それに組合の口座は組合財産で、実際にXが管理しています。この訴訟の部分が、あとで効いてきます。

時系列:組合の設立から提訴まで 図:時系列:組合の設立から提訴まで

経過です。Xは、規約に基づいて、組合の業務執行組合員として、Yと梨の継続的な売買契約を結んでいます。ある年の秋、Xは組合の梨を納品しました。代金は480万円です。支払期が来ても、Yは支払いません。Yとのやりとりは、ほとんどXがしていて、納品書も請求書も帳簿もXが持っています。P、Q、Rは、取引にほとんど関わっていません。年が明けて、Xは、自分の名で提訴しました。請求の趣旨は、Yは、Xに対し、480万円を支払え、です。請求の原因は、組合の売買、納品、支払期の到来です。Yの主張は、こうです。代金債権は組合員4人に帰属していて、Xは単独の権利者ではない。Xには当事者適格がなく、訴えは不適法だ。

P、Q、Rが自分たちで原告にならなかったのには、事情があります。それぞれ自分の果樹園の作業があり、Rは県外に住んでいます。4人が並んで原告になるのは負担が大きい。提訴を話し合ったとき、P、Q、Rは、規約のとおりXに任せる、と答えて、反対した人はいませんでした。売買の成否や代金の額は、この事例では争点ではありません。争うのは、当事者適格だけです。

事実の整理:ア・イ・ウ・エ・オ 図:事実の整理:ア・イ・ウ・エ・オ

記号で整理します。事実アは、代金債権の480万円が、組合員4人に帰属する組合財産で、Xはその4人の一人にすぎないことです。事実イは、Xが、規約第5条で、管理から訴訟の追行までの権限を、自分の名で与えられていることです。事実ウは、Xが実際に、Yと契約を結び、納品し、帳簿を持ち、倉庫と口座を管理していることです。事実エは、P、Q、Rに、それぞれの作業があり、Rは県外に住んでいて、反対した人もいないことです。事実オは、Xの請求が、Yは、Xに対し、480万円を支払え、であること。そして、Xが弁護士ではないことです。

この事例で問うこと 図:この事例で問うこと

問うのは1つです。原告のXに、当事者適格はあるか。Xが請求しているのは、自分ひとりの権利ではなく、組合員全員の権利です。それを、自分の名前で請求しています。権利の持ち主ではないのに、原告になれるのでしょうか。そこが、出発点になります。

条文と検討の順番

検討の順番 図:検討の順番

検討の順番は5つです。1つめは、Xが権利の持ち主ではないという、原則からのズレ。2つめは、明文の規定に当たるか。3つめは、明文が無い場合の許容基準。4つめは、その基準へのあてはめで、本件と、2つの対比を見ます。最後に、Xが受けた判決の効力です。この順番にする理由は、当事者適格が、誰が原告になれるかという入口の問題だからです。判決の効力をどう考えるかは、その入口を通ってからの話ですから、最後に置きます。また、1つめと2つめで、明文の根拠が無いと確かめて、はじめて3つめの基準が必要になります。明文があれば、基準を立てる必要がありません。先に、明文の規定の一つを開きます。

条文民事訴訟法30条1項

民事訴訟法30条1項(選定当事者)
共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告又は被告となるべき一人又は数人を選定することができる。

30条1項です。共同の利益を持つ多数の者は、その中から、全員のために原告や被告となる人を選ぶことができます。これが選定当事者です。本件の組合員は、この選び方をしていません。それが、第1の話につながります。

第1 原則からのズレと、明文の規定

第1:当事者適格の原則 図:第1:当事者適格の原則

第1に入る前に、復習を1つ。当事者適格とは、何についての資格でしたか?当事者適格を、財産権上の請求の原告で、誰に認めるのが原則なのか。ここから入ります。本件の訴訟物は、代金債権です。この権利の持ち主は、組合員4人で、Xはその一人にすぎません。それでも、Xは原告になれるのでしょうか。最高裁の大法廷の判決が、まず原則を述べています。

判例最大判昭和45年11月11日 民集24巻12号1854頁

最高裁判所大法廷判決(当事者適格の原則)
訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について、何人をしてその名において訴訟を追行させ、また何人に対し本案の判決をすることが必要かつ有意義であるかの観点から決せられるべきものである。したがつて、これを財産権上の請求における原告についていうならば、訴訟物である権利または法律関係について管理処分権を有する権利主体が当事者適格を有するのを原則とするのである。しかし、それに限られるものでないのはもとよりであつて、たとえば、第三者であつても、直接法律の定めるところにより一定の権利または法律関係につき当事者適格を有することがあるほか、本来の権利主体からその意思に基づいて訴訟追行権を授与されることにより当事者適格が認められる場合もありうるのである。

原則から外れる2つの型とXの位置 図:原則から外れる2つの型とXの位置

原則は、訴訟物である権利について、管理処分権、つまりその権利を管理し処分する権限を持つ権利主体が、当事者適格を持つ、ということです。ただし、判決は、それに限られないとして、例外を2つ挙げています。1つめは、法律が直接定めて、第三者に当事者適格を与える場合です。これが法定訴訟担当です。もう一方は、本来の権利主体が、自分の意思で、第三者に訴訟追行権を授ける場合です。こちらが任意的訴訟担当です。あてはめます。事実アとイです。代金債権は、組合員4人に帰属していて、Xはその一人です。Xの訴訟追行権は、法律が与えたものではありません。4人が、規約で、自分たちの意思で与えたものです。2つを分ける物差しは、明文の有無ではなく、本人の意思です。ですからXは、2つめの、任意的訴訟担当にあたります。

選定当事者は、任意的訴訟担当のうち、30条が明文で認めている形です。本件で、その選定の手続を踏んだ事実はありません。ですからXは、同じ任意的訴訟担当でも、明文の規定が無いほうにあたります。明文に当たらなくても、否定されるとは限りません。同じ判決が、30条について、続けてこう述べています。

判例最大判昭和45年11月11日 民集24巻12号1854頁

最高裁判所大法廷判決(選定当事者の手続と任意的訴訟信託)
そして、このようないわゆる任意的訴訟信託については、民訴法上は、同法四七条が一定の要件と形式のもとに選定当事者の制度を設けこれを許容しているのであるから、通常はこの手続によるべきものではあるが、同条は、任意的な訴訟信託が許容される原則的な場合を示すにとどまり、同条の手続による以外には、任意的訴訟信託は許されないと解すべきではない。

判決が任意的訴訟信託と呼んでいるのは、任意的訴訟担当のことです。判決当時の条番号で、民訴法47条と書かれているのは、いまの30条にあたります。判決は、30条は、任意的訴訟担当が許される原則的な場合を示すにとどまる、と述べています。選定の手続によらない任意的訴訟担当も、直ちに許されないとは言えない、ということです。結論です。Xは、明文の規定が無い任意的訴訟担当です。これが許されるのかを、第2で確かめます。

第2 明文の無い任意的訴訟担当の許容基準

第2:本人が任せれば足りるか 図:第2:本人が任せれば足りるか

組合員が任せると言いさえすれば、誰でも、本人に代わって原告になれるのでしょうか?本人の意思は、必要な条件です。けれども、それだけで足りるのかを、条文から確かめます。

条文民事訴訟法54条1項

民事訴訟法54条1項(訴訟代理人の資格)
法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。

条文信託法10条

信託法10条(訴訟信託の禁止)
信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない。

54条1項です。法令で認められた代理人のほかは、弁護士でなければ、訴訟代理人になれません。簡易裁判所で許可を得た場合は、例外です。これが、弁護士代理の原則です。信託法10条は、訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を、禁止しています。権利を預けるという形を取って、訴訟だけを他人にさせることを、封じる規定です。本人の授権だけで誰でも当事者になれるなら、この2つが骨抜きになるからです。弁護士でない人が、報酬を得て、権利の持ち主の代わりに訴訟を動かせてしまいます。それでは、弁護士代理の原則の抜け道です。また、権利を預けて訴訟だけを他人にさせる形を取れば、訴訟信託の禁止も、意味を失います。本人の授権があっても、無制限には認められません。最高裁が扱った事案を見ます。建設工事を共同で請け負う組合の代表者が、請負契約を解除した相手方に、その解除による組合の損害の賠償を、自分の名で請求しました。原審は、組合規約に基づく訴訟追行権の授与は、選定の手続によらない任意的訴訟担当で、許されないとして、訴えを却下しました。最高裁は、原審を破棄して、差し戻しました。その判断の中で、こう述べています。

判例最大判昭和45年11月11日 民集24巻12号1854頁

最高裁判所大法廷判決(任意的訴訟信託の許容基準)
すなわち、任意的訴訟信託は、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法一一条が訴訟行為を為さしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、一般に無制限にこれを許容することはできないが、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないと解すべきである。

判決当時の条番号で、信託法11条とあるのは、いまの信託法10条にあたります。判決の言う制限は、弁護士代理の原則と、訴訟信託の禁止の、2つです。同じ基準を現行の条番号で述べた判決も見ておきます。

判例最判平成28年6月2日 民集70巻5号1157頁

最高裁判所判決(現行の条番号での判示)
任意的訴訟担当については,本来の権利主体からの訴訟追行権の授与があることを前提として,弁護士代理の原則(民訴法54条1項本文)を回避し,又は訴訟信託の禁止(信託法10条)を潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的必要性がある場合には許容することができると解される……。

規範と答案の型|明文の無い任意的訴訟担当の許容基準 図:規範と答案の型|明文の無い任意的訴訟担当の許容基準

規範は、最高裁の大法廷の判決の言葉で立てます。任意的訴訟担当は、訴訟代理人を原則として弁護士に限る弁護士代理の原則と、訴訟信託の禁止の趣旨に照らし、一般に無制限にこれを許容することはできないが、これらの制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には、許容するに妨げない。1つめの要件は、制限を回避、潜脱するおそれがないこと。2つめの要件は、認める合理的必要があることです。答案では、理由を、次のように整理します。1つめの要件を置くのは、制限の趣旨を守るためです。授権があっても、抜け道になるものは認められません。2つめの要件を置くのは、必要が無いのに認める理由が無いからです。本人が自分で訴えるか、弁護士に代理を頼めば足りるのに、あえて他人が原告になる意味は、通常は小さいと考えます。結論です。明文が無くても、この2つの要件を満たすなら、任意的訴訟担当は許されます。

第3 あてはめ 本件

第3:Xの任意的訴訟担当は許されるか 図:第3:Xの任意的訴訟担当は許されるか

第3は、Xのあてはめです。Xの任意的訴訟担当は、2つの要件を満たすのでしょうか。決め手は、Xに与えられた権限の中身です。同じ大法廷の判決は、組合についても判断しています。

判例最大判昭和45年11月11日 民集24巻12号1854頁

最高裁判所大法廷判決(民法上の組合の業務執行組合員)
そして、民法上の組合において、組合規約に基づいて、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合には、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権、対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されているのであるから、業務執行組合員に対する組合員のこのような任意的訴訟信託は、弁護士代理の原則を回避し、または信託法一一条の制限を潜脱するものとはいえず、特段の事情のないかぎり、合理的必要を欠くものとはいえないのであつて、民訴法四七条による選定手続によらなくても、これを許容して妨げないと解すべきである。

規範と答案の型|民法上の組合の業務執行組合員への授権 図:規範と答案の型|民法上の組合の業務執行組合員への授権

規範は、この判決の言葉で立てます。民法上の組合で、組合規約に基づいて、業務執行組合員に、自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合には、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権、対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されているので、弁護士代理の原則を回避し、または信託法の制限を潜脱するものとはいえず、特段の事情のないかぎり、合理的必要を欠くものとはいえない。決め手は、訴訟追行権だけでなく、実体上の管理権と対外的業務執行権が、セットで授与されていることです。

お店にたとえます。店の鍵と帳簿と仕入先との取引を、ひとまとめに預かって店を回している店長が、仕入先に自分の名前で代金を催促するのは、自然です。店の実体を担っている人が、自分の仕事として、訴訟もするからです。訴訟だけを取り出して、他人にさせているわけではありません。

あてはめ:Xの授権の中身 図:あてはめ:Xの授権の中身

あてはめます。まず、授権の中身です。事実ウとイです。規約第5条は、組合財産の管理、取引先との契約、代金の請求と受領、そして訴訟の追行を、Xの名でまとめて与えています。Xは、実際に倉庫と口座を管理し、Yと契約を結び、帳簿を持っています。ですから、Xに与えられたのは、訴訟追行権だけではありません。実体上の管理権と、対外的業務執行権とともに、訴訟追行権が授与されています。1つめの要件です。実体上の権限とともに授与されていますから、弁護士代理の原則を回避したり、訴訟信託の禁止を潜脱したりするおそれはありません。2つめの要件です。判決は、このような授権は、特段の事情のないかぎり、合理的必要を欠くものとはいえない、としています。

判決は、合理的必要を、独立に一つずつ認定してはいません。実体上の管理権とともに授与されているのだから、特段の事情のないかぎり、必要を欠くとはいえない、と、1つめの要件と同じ理由から、まとめて判断しています。Xは、代金の請求と受領を任されて、組合の取引を担ってきました。払われない代金を訴訟で請求するのは、その仕事の続きです。本件の事実を添えます。事実エのとおり、Rは県外に住んでいて、4人が並んで原告になる負担もあります。本件では、特段の事情は見当たりません。ですから、合理的必要が認められます。結論です。Xは、組合財産に関する本件訴訟について、組合員から任意的訴訟担当として、訴訟追行権を授与されています。Xに、当事者適格があります。

Yの、Xは単独の権利者ではない、という主張は、Xが、管理処分権を有する権利主体としての原則どおりの当事者ではない、と指摘しているにすぎません。任意的訴訟担当の基準を満たす以上、当事者適格を否定する理由にはなりません。

第4 対比 訴訟だけを任された者

事実の整理:カ 組合の外のZ 図:事実の整理:カ 組合の外のZ

ここで、一つ考えてください。Xと同じように組合員の全員が任せたのに、原告になれない人がいるとしたら、何が違うのでしょうか?事実カとして、場合を変えます。同じ組合が、別の取引先のW社に納めた梨の代金200万円を、回収できずにいたとします。年が明けて、4人は全員の合意で、この回収を、組合の外の個人のZさんに任せました。Zさんは、もと青果卸の営業担当で、いまは債権回収の代行をしています。弁護士ではありません。委任契約書には、こう書かれています。Zさんは、自己の名で、W社に対する代金200万円の訴訟を追行する。Zさんは、回収額の3割を報酬として受け取る。Zさんは、組合の取引にも、帳簿にも、口座にも関わったことがありません。W社との取引は、これまでどおり、Xが組合規約に基づいて担ってきました。P、Q、Rに、自分で訴えられない特別な事情はなく、手間を省きたいだけです。Zさんは、自分の名で、W社に対して、200万円の支払を求めて提訴し、W社は、Zさんに当事者適格はない、と争いました。

本件とZの対比 図:本件とZの対比

本件と並べます。同じ組合で、同じ種類の債権で、全員の授権もあります。違うのは、授権の中身です。Xには、管理から訴訟までが、セットで与えられていました。Zさんに与えられたのは、W社への代金の訴訟追行と、回収額の3割の報酬だけです。先ほどのお店にたとえると、帳簿を一度も見たことのない人が、催促だけを頼まれたような形です。授権の中身が、分かれ目です。規範は、第2の基準と、第3の判決の言葉を使います。ただし、判決が組合の場合に言ったのは、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権などとともに授与されている、ということです。訴訟追行権のみが授与された場合を、判決が判断したわけではありません。答案では、実体上の権限を伴わず、訴訟追行権だけを取り出して授けるものなら、弁護士代理の原則や、訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがある、と整理します。判決が、実体上の権限とともに授与されていることを、潜脱にあたらない理由にしているからです。

あてはめ:Zの授権の中身 図:あてはめ:Zの授権の中身

あてはめます。授権の中身です。Zさんは、組合の取引にも、帳簿にも、口座にも関わったことがなく、実体上の管理権も、対外的業務執行権も持ちません。ですから、Zさんに与えられたのは、訴訟追行権のみです。1つめの要件です。Zさんは弁護士ではなく、報酬を得て、他人の債権について訴訟を行います。弁護士代理の原則を回避し、訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがあります。2つめの要件です。P、Q、Rには、Zさんに任せる特別な事情がなく、手間を省きたいだけです。同じ債権の訴訟は、組合財産に関する訴訟として、Xが規約に基づいて追行できます。組合員が弁護士に訴訟代理を委任することもできます。ですから、Zさんに訴訟追行権を認める合理的必要がありません。結論です。Zさんに、当事者適格は認められません。Zさんの訴えは不適法で、却下されます。

分かれ目は、授権の中身が、実体上の権限を伴うかどうかです。

第5 対比 組合財産でない債権

事実の整理:キ Pの個人の貸金 図:事実の整理:キ Pの個人の貸金

対比をもう1つ見ます。同じ規約でも、権限の範囲の外の債権ならどうなるのか、という場面です。事実キです。Pは、組合とは関係なく、自分個人で、知人のVに90万円を貸しています。この貸金は、Pの個人財産で、組合の帳簿に載っていません。支払期が過ぎても、Vは返しません。Pは、Xに、組合のよしみで、Xの名でVを訴えてくれと頼み、Xが承諾して、自分の名で訴えました。Xは、この貸金の管理も、Vとのやりとりもしていません。Xに、この訴訟について当事者適格はあるでしょうか?規範は、第3の判決の言葉を使います。ただし、判決が許容したのは、組合財産に関する訴訟について、組合規約に基づいて、自己の名で組合財産を管理し、訴訟を追行する権限が授与されている場合です。判決が言うのは、実体上の管理権とともに授与されている、ということです。実体上の管理権が及ばない債権には、この理由が当てはまりません。

あてはめ:組合財産の範囲 図:あてはめ:組合財産の範囲

あてはめます。規約第5条のXの権限は、組合財産に関するものに限られます。Pの貸金は、組合財産ではなく、Pの個人財産です。Xは、この貸金の管理も、Vとのやりとりもしていません。ですから、Pが貸金についてXに授けたのは、訴訟追行権のみです。第4と同じ理由で、1つめの要件を満たしません。結論です。Xに、Pの貸金についての当事者適格は認められません。Xが業務執行組合員だという地位は、授権の範囲の中でだけ意味を持ちます。その範囲は、組合財産です。

第6 判決の効力

第6:Xが受けた判決の効力 図:第6:Xが受けた判決の効力

第6に入る前に、復習を1つ。確定判決の効力は、誰に及ぶのでしたか?判決の効力が及ぶ者の範囲を、115条1項の条文で確かめます。Xに当事者適格があるとして、Xが受けた判決は、P、Q、Rにも及ぶのでしょうか。

条文民事訴訟法115条1項

民事訴訟法115条1項(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者

115条1項です。1号は当事者です。2号は、当事者が他人のために原告または被告となった場合の、その他人です。

あてはめ:Xの判決はP・Q・Rにも及ぶ 図:あてはめ:Xの判決はP・Q・Rにも及ぶ

あてはめます。事実イとウです。Xは、自分の名で原告になりました。これは1号の当事者です。同時に、組合員のP、Q、Rのために原告となっています。ですから、2号により、判決の効力はP、Q、Rにも及びます。結論です。Xが受けた判決は、勝訴も敗訴も、P、Q、Rに効力が及びます。したがって、Xが敗訴すれば、P、Q、Rが同じ代金債権について、改めて訴えることは、既判力によって遮断されます。既判力は、確定した判断を、あとから争い直せなくする効力です。2号には、勝った判決と負けた判決を区別する文言がありません。そして、本人たちが授権して、任せた訴訟だからです。P、Q、Rは、規約に署名して訴訟の追行をXに与え、提訴のときも、Xに任せると答えました。そのXは、Yと契約を結び、帳簿を持って、この取引を担ってきた人です。実体上の権限も持つ立場で、充実した訴訟追行をすることも期待できます。

まとめ

完成答案:第1 Xの当事者適格(1/4) 図:完成答案:第1 Xの当事者適格(1/4)

完成答案です。第1の、問題の所在と、規範の前半から見ていきます。図と同じ文面を、本文でも置きます。

第1 Xの当事者適格

1 問題の所在

 本件の訴訟物である代金債権は、P、Q、R及びXの組合員全員に帰属しており、Xはその一人にすぎない。Xは、自己の名で給付を求めているから、Xに当事者適格があるかが問題となる。

2 規範

 (1) 当事者適格は、特定の訴訟物について、何人をしてその名において訴訟を追行させ、また何人に対し本案の判決をすることが必要かつ有意義であるかの観点から決せられる。財産権上の請求における原告については、訴訟物である権利について管理処分権を有する権利主体が当事者適格を有するのが原則である(最大判昭和45年11月11日)。

 (2) もっとも、本来の権利主体からその意思に基づいて訴訟追行権を授与された者にも、当事者適格が認められる場合がある。民事訴訟法30条は選定当事者の制度を設けているが、同条の手続によらない任意的訴訟担当が許されないわけではない(同判決)。

完成答案:第1 Xの当事者適格(2/4) 図:完成答案:第1 Xの当事者適格(2/4)

第1の、規範の後半です。2枚の規範カードを、答案の文にした部分です。

 (3) ただし、任意的訴訟担当を無制限に許容すると、訴訟代理人を原則として弁護士に限る民事訴訟法54条1項と、訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁止する信託法10条の趣旨が損なわれる。そこで、これらの制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合に限り、明文の規定がなくても任意的訴訟担当は許容されると解する(同判決、最判平成28年6月2日参照)。

 (4) 民法上の組合で、組合規約に基づき、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されているときは、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権、対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されている。この場合は、弁護士代理の原則を回避し、又は信託法10条の制限を潜脱するものとはいえず、特段の事情のない限り、合理的必要を欠くものともいえない(最大判昭和45年11月11日)。

完成答案:第1 Xの当事者適格(3/4) 図:完成答案:第1 Xの当事者適格(3/4)

第1の、あてはめの前半です。事実の拾い方を、ゆっくり読んでみてください。

3 あてはめ

 (1) Xは、権利主体の一人にすぎず、法律の規定により当事者適格を与えられたものでもない。Xの訴訟追行権は、組合員が組合規約によって授与したものであり、Xは民事訴訟法30条の選定の手続も経ていない。したがって、本件は明文の規定のない任意的訴訟担当である。

 (2) 組合規約第5条は、組合財産の管理、取引先との契約の締結、代金の請求及び受領、並びに組合財産に関する訴訟の追行を、自己の名で行う権限をXに与えている。Xは、これに基づき、Yと契約を結び、倉庫や組合の口座を管理し、帳簿を保管している。

 (3) したがって、Xには、訴訟追行権のみでなく、実体上の管理権及び対外的業務執行権とともに、訴訟追行権が授与されている。

完成答案:第1 Xの当事者適格(4/4) 図:完成答案:第1 Xの当事者適格(4/4)

第1の、あてはめの後半と、結論です。結論の一文まで、目で追ってください。

 (4) よって、弁護士代理の原則を回避し、又は信託法10条の制限を潜脱するおそれはない。

 (5) また、Xは、組合の取引を担ってきた者であり、P、Q及びRは自らの作業があってRは県外に住むなど、全員で訴える負担も大きく、特段の事情もない。よって、合理的必要も認められる。

4 結論

 よって、Xは、組合財産に関する本件訴訟について、任意的訴訟担当として当事者適格を有する。

完成答案:第2 対比 Zの当事者適格(1/2) 図:完成答案:第2 対比 Zの当事者適格(1/2)

続いて、第2の、Zさんの当事者適格です。問題の所在と規範です。

第2 対比 Zの当事者適格

1 問題の所在

 仮に、組合員全員が、W社に対する代金債権200万円の訴訟追行を、組合の外のZに任せ、Zが自己の名で訴えたとして、Zに当事者適格があるかが問題となる。

2 規範

 第1の2(3)の規範による。

完成答案:第2 対比 Zの当事者適格(2/2) 図:完成答案:第2 対比 Zの当事者適格(2/2)

第2の、あてはめと結論です。第1の規範を使って、どう運んでいるかを、目で追ってください。

3 あてはめ

 (1) Zに与えられたのは、W社に対する代金の訴訟追行と、回収額の3割の報酬のみである。Zは、組合の取引、帳簿及び口座に関わったことがなく、実体上の管理権も対外的業務執行権も有しない。したがって、Zには、訴訟追行権のみが授与されている。

 (2) Zは弁護士ではなく、報酬を得て他人の債権について訴訟を行うものである。よって、弁護士代理の原則を回避し、又は訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがある。

 (3) また、組合員には、Zに任せる特別な事情がなく、組合財産に関する訴訟は、Xが規約に基づいて追行でき、組合員が弁護士に訴訟代理を委任することもできる。よって、Zに訴訟追行権を認める合理的必要も認められない。

4 結論

 よって、Zは当事者適格を有せず、Zの訴えは不適法である。

完成答案:第3 対比 組合財産でない債権(1/2) 図:完成答案:第3 対比 組合財産でない債権(1/2)

次は、第3の、組合財産でない債権です。問題の所在と規範です。

第3 対比 組合財産でない債権

1 問題の所在

 仮に、Xが、Pの個人の貸金債権90万円について、Pの頼みで自己の名でVを訴えたとして、Xに当事者適格があるかが問題となる。

2 規範

 第1の2(3)及び(4)の規範による。(4)は、組合財産に関する訴訟について、実体上の管理権とともに訴訟追行権が授与されていることを理由とする。

完成答案:第3 対比 組合財産でない債権(2/2) 図:完成答案:第3 対比 組合財産でない債権(2/2)

第3の、あてはめと結論です。結論の一文まで、ゆっくり読んでみてください。

3 あてはめ

 (1) 組合規約第5条のXの権限は、組合財産に関するものに限られる。Pの貸金債権は、Pの個人財産であり、組合財産ではない。

 (2) Xは、この貸金債権を管理したことも、Vとのやりとりをしたこともない。したがって、Pが貸金債権についてXに授与したのは、訴訟追行権のみである。

 (3) よって、第1の2(4)の理由が当てはまらず、弁護士代理の原則を回避し、又は訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがあるから、許容されない。

4 結論

 よって、Xは、Pの貸金債権について当事者適格を有しない。

完成答案:第4 Xが受けた判決の効力 図:完成答案:第4 Xが受けた判決の効力

最後の、第4です。Xが受けた判決の効力を、最後の一文まで確かめてください。

第4 Xが受けた判決の効力

1 問題の所在

 Xが当事者適格を有するとして、Xが受けた判決の効力は、P、Q及びRにも及ぶかが問題となる。

2 規範

 確定判決は、当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人に対しても、その効力を有する(民事訴訟法115条1項2号)。

3 あてはめ

 Xは、組合員のP、Q及びRのために、任意的訴訟担当として原告となっている。

4 結論

 よって、Xが受けた判決の効力は、P、Q及びRにも及ぶ。

参照条文

  • 民事訴訟法30条1項
  • 民事訴訟法54条1項
  • 信託法10条
  • 民事訴訟法115条1項

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