民訴ゼロから民事訴訟法 論文

両負けの回避の書き方(前編)

ビルの外壁から落ちたタイルでけがをしたXが、ビルを借りて管理するY社と所有者Zのどちらかからは必ず260万円を回収したいという事例を素材に、通常共同訴訟のままでは両方に負ける危険が残ること、41条の同時審判の申出が使える「法律上併存しえない関係」とは何か、被告に順位をつける主観的予備的併合が許されるか、事実上の択一にとどまる別件ではどう訴えるかを、答案の順に確かめます。

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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

被害者X・占有者Y社・所有者Zの関係 図:被害者X・占有者Y社・所有者Zの関係

登場するのは3人です。事故の被害者のXと、ビルを借りて管理しているY社と、そのビルの所有者のZです。Xは会社員です。Y社は、雑居ビルの青葉ビルを、一棟まるごと借りている株式会社です。Zは、青葉ビルを所有する、個人の不動産賃貸業者です。上の図は、XがY社とZに、それぞれ260万円を請求する関係を表しています。以下、時間の順に見ていきます。

時系列:賃貸から提訴の予定まで 図:時系列:賃貸から提訴の予定まで

令和2年4月1日です。Zが、自分が所有する青葉ビルを、Y社に、一棟まるごと賃貸しました。地上4階建てで、平成5年の竣工です。Y社は、1階で飲食店を営み、2階から4階は貸事務所として転貸しています。外壁など共用部分の維持管理は、Y社が行う、と賃貸借契約で定めました。

令和6年10月21日です。Y社の従業員が、地上から外壁を目で見て、異常なし、と点検記録に書きました。専門業者による打診調査は、していません。

令和6年11月12日です。商店街の歩道を歩いていたXの右肩に、青葉ビル3階の外壁から剥がれ落ちたタイルが当たり、Xは右鎖骨を骨折しました。損害は、治療費が62万円、休業損害が108万円、慰謝料が90万円で、合計は260万円です。休業損害は、月収が36万円で、その3か月分です。

タイルの接着は、経年で劣化していました。外壁の保存に瑕疵があったことも、瑕疵と損害の因果関係も、争いがありません。争点は1つです。Y社が、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたといえるか、です。Y社は、毎年10月に目視点検をして記録している、と言います。Xは、目視だけでは足りない、と言います。Zは、外壁の管理はY社の責任だ、と言います。Xには、裁判所がどちらに認定するか、予想できません。

令和6年12月9日に、Xは弁護士に相談しました。Xの希望は、Y社とZのどちらかからは、必ず260万円を回収したい、です。民法717条は、占有者が先に責任を負う形なので、Xは、まずY社に求めて、Y社が責任を負わないなら、Zに求めたい、とも考えています。提訴の予定は、令和7年3月10日です。事故のあった地を管轄する裁判所で、管轄は問題になりません。

事実の整理:ア・イ・ウ・エ・オ・カ 図:事実の整理:ア・イ・ウ・エ・オ・カ

事実を、記号で整理します。事実アは、Y社が占有者で、青葉ビルを一棟借りて、外壁の維持管理を約定で負っていることです。事実イは、Zが所有者であることです。事実ウは、外壁の保存の瑕疵と、損害の260万円と、因果関係に、争いがないことです。事実エは、争点が、Y社が必要な注意をしたか、であることです。Y社の点検は目視だけで、打診調査はしていません。事実オは、Xが、その認定を予想できないことです。事実カは、提訴を、Y社とZを共同被告にして、令和7年3月10日に予定していることです。

問い:どう訴えれば両方に負けずに済むか 図:問い:どう訴えれば両方に負けずに済むか

問うのは2つです。Xは、どう訴えれば、Y社にもZにも負けずに済むのか。そして、Xが考える訴え方は、適法なのか。損害の額と、過失相殺と、管轄は、論じません。

条文と検討の順番

検討の順番 図:検討の順番

検討の順番は4つです。1つめは、Xの目的に対して、通常共同訴訟のままでは足りない理由です。2つめは、条文のある手段として、41条の同時審判の申出が使えるかです。3つめは、条文のない形として、Y社を先に、Zを後にという、順位をつける形が許されるかです。最後に、別件で、41条が使えない場面を当てます。この順番にする理由は、条文に書いてある手段を先に当てて、それで足りないときに、条文に書いていない形の許否を検討するからです。

条文は、請求の根拠になる、民法717条1項から開きます。

条文民法717条1項

民法717条1項(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

本文は、占有者のY社が、まず責任を負うと書いています。ただし書は、Y社が必要な注意をしたときは、所有者のZが責任を負うと書いています。この条文だけを読んでも、Y社の責任とZの責任は、両方が同時に成り立つことはない、と分かります。Y社が必要な注意をしたら、Y社は免責されてZが負い、しなかったら、Y社が負ってZは負いません。責任を負うのはY社かZのどちらか一方だけ、というこの形が、第2の同時審判の申出で効きます。

第1 通常共同訴訟のままでは足りない

第1の確認:通常共同訴訟で1人の自白は他に及ぶか 図:第1の確認:通常共同訴訟で1人の自白は他に及ぶか

第1は、通常共同訴訟のままでは足りない、という話です。先に、その前提になる、共同被告の各自が独立であることを、共同訴訟人独立の原則の回で見た問いで、1つ思い出します。通常共同訴訟の共同被告の1人が、相手方の主張する事実を認めたとき、その自白は、ほかの共同被告にも及ぶでしょうか。同じ事故の話なら、ほかの共同被告にも及ぶ気がするかもしれません。しかし、及びません。39条により、共同訴訟人の一人の訴訟行為は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさないからです。各自が独立です。この独立が、Xの目的に、どう響くかを見ます。

問題の所在です。Xの目的は、Y社かZのどちらかからは、確実に回収することです。別々に訴えても、共同被告として訴えても、通常共同訴訟のままで、この目的を果たせるのか。

通常共同訴訟の規律:39条と152条1項 図:通常共同訴訟の規律:39条と152条1項

規律は、共同訴訟の回で見た結論だけを使います。共同被告にしても、通常共同訴訟です。39条で、訴訟行為の効力は人ごとに別です。152条1項で、弁論を分離するかどうかは、裁判所の裁量です。

あてはめ:両負けの図 図:あてはめ:両負けの図

あてはめます。拾うのは、事実エの争点、つまりY社が必要な注意をしたかです。まず、Y社への請求とZへの請求が、別々に判断される場合です。Y社への請求で、裁判所が、Y社は点検をしていて、必要な注意をした、と認定したとします。するとY社は免責されて、Y社への請求は棄却です。一方、Zへの請求では、別の裁判所の判断で、Y社は必要な注意をしていなかった、と認定されたとします。するとY社が責任を負うので、Y社が必要な注意をしたときに所有者のZが責任を負う、というただし書の要件を欠き、Zへの請求は棄却です。同じ争点が、別々に判断されて、Xは両方に負けます。これが、両負けです。

では、Y社とZを共同被告にして、同じ裁判所が審理すれば、同じ認定になるのでしょうか。共同被告にしても、Y社への請求とZへの請求は、39条のとおり、それぞれ独立した請求です。裁判所が弁論を分離すれば、別々の訴訟と同じです。そして、通常共同訴訟には、41条のような、分離しないことを義務づける定めがありません。分離されるかどうかを、Xの側では保障できません。ですから、共同被告にしても、両負けの危険は残ります。

第1の結論です。通常共同訴訟のままでは、両負けを防げません。そこで、条文のある手段、41条を検討します。

第2 同時審判の申出

第2の問い:同じ事実が一方では勝たせ他方では負かす 図:第2の問い:同じ事実が一方では勝たせ他方では負かす

第2は、同時審判の申出です。同時審判の回で見た条文を、この設例に当てます。Y社への請求とZへの請求で、同じ事実が、一方では原告を勝たせ、他方では負かす。そういう関係を、41条は、法律上併存しえない関係と呼んでいます。条文を開きます。

条文民事訴訟法41条

民事訴訟法41条(同時審判の申出がある共同訴訟)
共同被告の一方に対する訴訟の目的である権利と共同被告の他方に対する訴訟の目的である権利とが法律上併存し得ない関係にある場合において、原告の申出があったときは、弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない。
2 前項の申出は、控訴審の口頭弁論の終結の時までにしなければならない。
3 第一項の場合において、各共同被告に係る控訴事件が同一の控訴裁判所に各別に係属するときは、弁論及び裁判は、併合してしなければならない。

成立要件は3つです。1つめは、共同被告であること。2つめは、一方への権利と他方への権利が、法律上併存しえない関係にあること。3つめは、控訴審の口頭弁論の終結の時までに、原告が申し出ることです。

この3つは、覚えておくものなのでしょうか。条文を音読すれば出てくる内容は、成立要件です。条文番号を添えて書けば足ります。覚えるのは、条文に書いていない読み方、つまり規範です。1つめと3つめは、設例に当てはめるだけです。山は2つめです。

問題提起です。Y社への請求とZへの請求は、法律上併存しえない関係にあたるでしょうか。条文は、法律上、の意味を書いていません。成立要件の語の意味を、解釈で決めるので、ここで規範を立てます。

規範と答案の型|法律上併存しえない関係 図:規範と答案の型|法律上併存しえない関係

規範は、判例の定式ではなく、通説の定義に沿って、条文の趣旨から立てます。

法律上併存しえない関係とは、実体法の上で、ある事実が一方の請求では請求を基礎づけ、他方の請求ではそれを妨げる事実になる関係、すなわち主張のレベルで両方の請求が同時には成り立たない関係をいう。どちらか一方にしか請求できないはずだという事実上の択一では、足りない。

決め手は、3つあります。1つめは、条文が、法律上、と限っていることです。

2つめは、3項で、控訴審の併合強制という強い効果を課す以上、適用範囲は、主張のレベルで、線引きできなければならないことです。主張のレベルとは、証拠を調べる前に、請求を基礎づける請求原因と、それを妨げる抗弁の組み立てだけを見て、という意味です。申出は提訴と同時にもできます。申出があれば、裁判所は、その時から、分離ができなくなります。分離してよいかが、証拠を調べた後でないと分からない基準では、裁判所は、審理の始めに、どう進めるかを決められません。

3つめは、証明責任の分配から見て、どの訴訟経過でも原告がどちらかには勝てる関係だけが、両負けの回避を、法律で保障する対象になることです。事実上の択一では、真偽不明のとき、同じ手続で審理しても、原告は両方に負けます。分離を禁じても防げない両負けまで、41条は約束できません。

請求原因と抗弁の表裏 図:請求原因と抗弁の表裏

Y社への請求とZへの請求について、請求原因と抗弁を並べます。Y社への請求の請求原因は、瑕疵と損害と因果関係と、Y社が占有者であることです。これに対してY社の抗弁が、Y社が必要な注意をした、です。717条1項ただし書で、立証責任はY社が負います。ただし書に書かれた事実は、本文の効果を妨げたい側が証明します。Y社は、この事実で、自分の責任を免れたい側です。

Zへの請求の請求原因は、瑕疵と損害と因果関係と、Zが所有者であること。そして、Y社が必要な注意をした、ことです。Zへの請求では、Y社が必要な注意をしたことが、請求原因になります。ただし書は、占有者が必要な注意をしたときに、所有者が責任を負う、と書いているからです。Zへの請求を基礎づける事実です。

あてはめ:法律上併存しえない関係 図:あてはめ:法律上併存しえない関係

あてはめます。まず、事実ア、イ、エです。Y社が占有者でZが所有者であること、争点がY社が必要な注意をしたかであることを拾います。Y社が必要な注意をしたという同じ事実が、Y社への請求では抗弁で、Xを負かします。Zへの請求では請求原因で、Xを勝たせます。主張のレベルで、両方の請求が、同時には成り立ちません。

次に、事実エとオです。必要な注意をしたかどうかは、Xには予想できません。ですが、真偽不明のままなら、立証責任を負うY社に不利に扱われ、Y社への請求が認められます。どう認定されても、Xは、Y社かZのどちらかには勝てます。法律上併存しえない関係です。

最後に、提訴の予定についての事実カです。Y社とZは共同被告で、同じ事故に基づく請求なので、38条前段の共同訴訟の要件も満たします。提訴と同時に申し出れば、控訴審の口頭弁論の終結の時までに、間に合います。要件1つめの共同被告であることと、3つめの申出の時期も、満たします。申出ができます。

効果と限界:一方だけの控訴 図:効果と限界:一方だけの控訴

次に、効果を、条文どおりに見ます。1項で、弁論と裁判は、分離しないですることになります。同じ手続で審理して、同時に判決をします。3項で、各共同被告に係る控訴事件が、同じ控訴裁判所に別々に係属するときは、併合してすることになります。

分離されないので、Y社が必要な注意をしたかは、同じ証拠から、1回で認定されます。その1つの認定が、Y社への請求では抗弁に、Zへの請求では請求原因に効きます。第1で見た、別々の判断の食い違いは、事実上、起きなくなります。

ただし、限界があります。41条は、通常共同訴訟の特則で、共同訴訟人独立の原則は、生きています。同じ結論にしなさい、とは書いていません。

設例で見ます。第一審で、裁判所が、Y社は必要な注意をしなかったと認定して、XはY社には勝ち、Zには負けたとします。ここで、Y社だけが控訴すると、控訴審に移るのは、Y社への請求だけです。Zへの請求は、棄却で確定します。控訴審が、Y社は必要な注意をした、と認定して、Y社への請求を棄却すると、両負けが、再び浮かびます。41条3項が働くのは、両方の控訴事件が、同じ控訴裁判所にあるときだからです。

ですから、Xは、負けたZへの請求についても、念のため控訴しておきます。一方だけの控訴には、通常共同訴訟どおりで、41条の効果が及ばない、という限界だけを、押さえます。

第2の結論です。Xは、Y社とZを共同被告として訴え、41条の申出をします。

第3 順位をつける形

第3の問い:順位をつけて訴えられるか 図:第3の問い:順位をつけて訴えられるか

第3です。Xは、まずY社に請求して、Y社に請求が認められないときに備えて、予備的にZに請求する、という形で訴えたいとも考えていました。41条があれば、Xは、順位をつけて訴えることもできるのでしょうか。41条の申出で両負けを防げるなら、順位をつけても構わない気もします。しかし、41条で両負けを防げることと、被告に順位をつけてよいかは、別の問題です。順位をつけるとは、主位的被告と、予備的被告を決める、主観的予備的併合のことです。主位的被告への請求の認容を、解除条件にして、予備的被告への請求を併合する形です。明文がありません。

対比:客観的予備的併合と主観的予備的併合 図:対比:客観的予備的併合と主観的予備的併合

対比を1つだけ置きます。同じ被告に対して、請求の間に順位をつけるのは、客観的予備的併合で、被告は1人です。客観的予備的併合は、客観的併合の回で見たとおり、認められています。どちらの請求が審理されても、相手は同じ被告1人で、その被告の立場は不安定になりません。これに対して、主観的予備的併合は、被告そのものに順位をつけます。Xの形は、Y社を主位的被告、Zを予備的被告とする、主観的予備的併合です。

問題提起です。Xは、被告に順位をつけて訴えられるでしょうか。

規範と答案の型|主観的予備的併合は不適法 図:規範と答案の型|主観的予備的併合は不適法

規範は、最高裁の判決で立てます。

訴えの主観的予備的併合は、不適法であって許されない。

ここに、答案での注意があります。この判決は、結論だけを述べていて、理由を述べていません。ですから、理由は、判決の言葉としては書きません。理由は、こう説明される、と書きます。判決の言葉で確かめます。

判例最判昭和43・3・8 民集22巻3号551頁

最高裁判所判決(訴えの主観的予備的併合の適否が争われた事件)
訴の主観的予備的併合は不適法であつて許されないとする原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法は存しない。

この判決は、主観的予備的併合は不適法だとする原審の判断を、正当とした判決です。なお、41条が新設される前の判決です。41条ができた後も、この判断を変えた最高裁判所の判決は、見当たりません。答案は、この判例に従います。

理由は、3つ説明されます。1つめは、予備的被告のZの地位が、不安定になることです。Zは、Y社への請求の結果が出るまで、自分への請求が生きているのか、分かりません。応訴の目標が、定まりません。2つめは、共同訴訟人独立の原則のもとでは、上訴のときに、審判の統一を図れないことです。たとえば、第一審でY社への請求が認容されると、Zへの予備的な請求は判断されません。Y社だけが控訴して、控訴審がY社への請求を棄却すると、Zへの請求を、どこで、どう判断するのかが、宙に浮きます。3つめは、原告の便宜に偏ることです。Xは1回の訴えで済みますが、その便宜の代わりに、Zが、不安定な立場で応訴を強いられます。

あてはめ:Xの順位をつける形 図:あてはめ:Xの順位をつける形

あてはめます。まず、事実ア、イ、カです。Y社が占有者でZが所有者であること、Y社とZを共同被告にして提訴を予定していることを拾います。Xの形は、Y社を主位的被告、Zを予備的被告にして、Y社に求め、認められなければZに求める形です。被告に順位をつける形で、主観的予備的併合にあたります。

次に、所有者のZの立場、事実イです。Zは、Y社への請求が認容されれば、自分への請求が消えます。棄却されれば、自分への請求が審理されます。結果が出るまで、自分への請求が生きているか分からず、応訴の目標が定まりません。不適法です。

41条と主観的予備的併合の同じ点・違う点 図:41条と主観的予備的併合の同じ点・違う点

41条との関係を見ます。Xの目的は、どちらかには勝ちたい、でした。この目的は、順位をつけずに、分離を禁じる41条で、果たせます。41条では、Zへの請求も、初めから、Y社への請求と並んで審理されます。Zは、自分が訴えられている前提で、応訴できます。Zの地位も、不安定になりません。

ただし、41条では、順位はつけられません。上訴の段階の統一も、不十分です。第2で見たとおり、41条は、一方だけの控訴には、効かないからです。41条があるから、予備的併合は不要だ、という考え方は、判例の言葉ではなく、学説の評価です。順位がつけられないこと、上訴の段階の統一が不十分なことを理由に、なお必要とする見解もあり、見解が分かれます。答案は、判例に従って、不適法と書きます。

第3の結論です。主観的予備的併合は、不適法です。Xは、順位をつけず、Y社とZの両方に、全額を請求して、41条の申出をします。Y社とZを共同被告として訴え、41条の申出をする、という第2の結論は、維持されます。

第4 別件:事実上の択一

別件の設例:ウェブサイト制作の前払金 図:別件の設例:ウェブサイト制作の前払金

第4は、別件です。ここまでの青葉ビルの件とは別の件で、41条が使えない場面を当てます。人物も、金額も、別物です。

別件の設例です。Pが、自分の店のウェブサイトの制作を依頼して、令和6年7月8日に、前払金として84万円を振り込みました。依頼のやりとりは、メールだけで、契約書はありません。メールの名義は、R個人です。ところが、請求書の発行元は、Rが代表を務める、Q合同会社です。

納期は、令和6年9月30日でしたが、納品はありません。Pは、令和6年10月15日に契約を解除して、前払金84万円の返還を求めます。Rは、個人として引き受けたとも、Q合同会社の代表としてしたとも、言っていません。Q合同会社も、Rが代表として契約した、とは言っていません。互いに、契約の相手方は相手だ、と言うだけです。Pには、契約の相手方が、Q合同会社なのか、R個人なのか、分かりません。争点は、契約の相手方だけです。Pは、Q合同会社とRを共同被告にして、41条の申出ができるでしょうか。

請求原因の表:契約の相手方 図:請求原因の表:契約の相手方

第2で立てた、法律上併存しえない関係の規範を当てます。Q合同会社への請求の請求原因は、PとQ合同会社の間の契約の締結です。Rへの請求の請求原因は、PとRの間の契約の締結です。どちらも、Pが立証する事実です。

この別件には、青葉ビルの件と、違いがあります。Q合同会社が、契約の相手方はRだ、と言い、Rが、相手方はQ合同会社だ、と言ったとしても、本件では、一方の請求原因が、他方の抗弁になる関係には、なりません。どちらの契約が成立したかが真偽不明なら、Pは、両方の請求原因を証明できず、両方に負けます。事実上、どちらか一方にしか請求できないはずだ、というだけで、法律上併存しえない関係では、ありません。41条の、法律上、を満たさないので、本件では申出はできません。

もっとも、本件とは違って、仮に、Rが会社の代表として契約した、つまり、会社のためにすると示して契約した、という構成が前面に出る事案なら、話が変わります。その構成では、一方の請求原因が他方の抗弁になる型で、41条の余地があります。本件は、その構成が争点になっていません。

では、順位をつけて、まずQ合同会社に、認められなければRに、と訴えるのはどうでしょうか。順位をつける形は、ここでも不適法です。主観的予備的併合は、判例が許していません。ですから、使えるのは、順位をつけない、通常共同訴訟だけです。Q合同会社とRへの請求を、併せて訴えます。争点の、契約の相手方が共通で、審理の大部分が重なるので、裁判所に、弁論を分離しない運用を促します。

分離するかどうかは、裁判所の裁量です。ただ、その裁量にも限界があることを、使用者と被用者を共同被告にした件で見ました。当事者の権利の適正な実現と、訴訟経済と、真実発見を大きく損なう分離は、裁量の逸脱です。Pの件で分離すれば、契約の相手方という同じ争点が、別々に判断されて、Pが両方に負けるおそれがあります。ですから、分離は裁量の逸脱になりうる、と主張します。

もう1つ、41条を類推適用できないか、という問題があります。判例はなく、見解が分かれます。認める見解は、両負けを避ける趣旨は、事実上の択一でも同じだ、と言います。認めない見解は、条文が、法律上、と限っていること、広げると適用範囲が不明確になること、いずれかに勝てることが実体法上保障された原告だけを守れば足りること、事実上の併合で対応できることを理由にします。答案は、類推を認めない、と書きます。

第4の結論です。事実上の択一では、41条も、主観的予備的併合も、使えません。通常共同訴訟で訴えて、分離しない訴訟指揮を促します。

まとめ

完成答案:第1 両負けの危険 図:完成答案:第1 両負けの危険

こちらが、完成答案です。第1の、両負けの危険です。図と同じ文面を、本文でも置きます。

第1 両負けの危険

1 問題の所在

 Xの目的は、Y社かZのどちらかからは確実に260万円を回収することである。Y社とZを共同被告として訴えても、通常共同訴訟にとどまり、この目的を果たせないのではないか。

2 通常共同訴訟の規律

 共同被告にしても、共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響を及ぼさず(民事訴訟法39条)、弁論を分離するかは裁判所の裁量による(同法152条1項)。

3 あてはめ

 (1) Y社への請求では、Y社が必要な注意をしたと認定されれば、Y社は免責され、棄却される。

 (2) Zへの請求では、Y社が必要な注意をしていなかったと認定されれば、民法717条1項ただし書の要件を欠き、棄却される。

 (3) 同じ争点が別々に判断されうる。分離されれば別訴と変わらない。

4 結論

 よって、通常共同訴訟のままでは、両負けを防げない。

完成答案:第2 同時審判の申出 図:完成答案:第2 同時審判の申出

第2の、同時審判の申出です。規範と、あてはめで拾う事実を、確かめてください。

第2 同時審判の申出(民事訴訟法41条)

1 問題の所在

 XがY社とZに対する各請求について同時審判の申出(同法41条1項)をするには、両請求が「法律上併存しえない関係」にある必要がある。Y社への請求とZへの請求がこれにあたるかが問題となる。

2 規範

 「法律上併存しえない関係」とは、実体法の上で、ある事実が一方の請求では請求を基礎づけ、他方の請求ではそれを妨げる事実になる関係、すなわち主張のレベルで両方の請求が同時には成り立たない関係をいう。どちらか一方にしか請求できないはずだという事実上の択一では足りない。条文が「法律上」と限り、3項で控訴審の併合強制という強い効果を課す以上、適用範囲は主張のレベルで線引きできなければならないからである。

3 あてはめ

 (1) Y社が必要な注意をしたという事実は、Y社への請求では民法717条1項ただし書によるY社の抗弁であり、Zへの請求では請求原因になる。

 (2) Y社が必要な注意をしたかが真偽不明のときは、立証責任を負うY社に不利に扱われ、Y社への請求が認められる。どう認定されても、XはY社かZのどちらかには勝てるから、法律上併存しえない関係にある。

 (3) Y社とZは共同被告であり(同法38条前段)、提訴と同時に申出ができる。

4 効果と限界

 申出により弁論及び裁判は分離できず(同法41条1項)、控訴審で併合される(同条3項)。もっとも通常共同訴訟であり、一方だけの控訴では両負けが再び生じうるため、Xは負けた側にも念のため控訴する。

5 結論

 よって、XはY社とZを共同被告として訴え、41条1項の申出をする。

完成答案:第3 順位をつける形 図:完成答案:第3 順位をつける形

第3の、順位をつける形です。規範の書き方と、41条との関係を、確かめてください。

第3 順位をつける形(主観的予備的併合)

1 問題の所在

 Xは、Y社を主位的被告、Zを予備的被告として、被告に順位をつけて訴えられるか。主観的予備的併合には明文がなく、その許否が問題となる。

2 規範

 訴の主観的予備的併合は不適法であつて許されない(最判昭和43・3・8)。同判決は理由を述べていないが、予備的被告の地位が不安定になること、共同訴訟人独立の原則のもとで上訴のときに審判の統一を図れないこと、原告の便宜に偏ることから、不適法と解される。

3 あてはめ

 Xの形は、被告に順位をつける形である。Zは、Y社への請求の結果が出るまで、自分への請求が生きているか分からず、応訴の目標が定まらない。

4 41条との関係

 Xの「どちらかには勝ちたい」という目的は、順位をつけずに分離を禁じる41条で実現できる。ただし順位はつけられず、上訴の段階の統一は十分でない。

5 結論

 よって、不適法である。Xは順位をつけず、41条の申出をする。

完成答案:第4 別件 事実上の択一 図:完成答案:第4 別件 事実上の択一

第4の、別件です。青葉ビルの件のあてはめとの違いを、確かめてください。

第4 別件(事実上の択一)

1 問題の所在

 Pは、Q合同会社とRを共同被告として、41条1項の申出ができるか。両請求が「法律上併存しえない関係」にあたるかが問題となる。

2 規範

 第2の2のとおり。

3 あてはめ

 (1) Q合同会社への請求の請求原因はP・Q合同会社間の契約の締結であり、Rへの請求の請求原因はP・R間の契約の締結である。

 (2) いずれも原告が立証する事実であり、本件では一方の請求原因が他方の抗弁になる関係にない。契約の相手方が真偽不明のときは、Pは両方に負ける。事実上どちらか一方にしか請求できないだけで、法律上併存しえない関係にない。

4 他の手段

 主観的予備的併合は不適法である(最判昭和43・3・8)。41条の類推適用も認めない。Pは、両請求を併せた通常共同訴訟で訴え、争点が共通で審理が重なることから、弁論を分離しない訴訟指揮を促す。

5 結論

 よって、41条も主観的予備的併合も使えず、通常共同訴訟で訴える。

参照条文

  • 民法717条1項
  • 民事訴訟法41条

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