民訴ゼロから民事訴訟法 論文

裁判上の自白の書き方(前編)

ビルのオーナーXが、借主Yの従業員Wのテーブル搬入で床に傷が付いたとして補修費80万円を請求した事例を素材に、Yが準備書面で述べた2つの陳述について、自白の成立を4つの要件で順に当て、Yが先に述べた事実がXの援用で自白になる先行自白、成立した自白を撤回できる3つの場合と反真実・錯誤のあてはめまでを、答案の順に確認します。

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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

X・Y・W・Zと訴訟の経緯 図:X・Y・W・Zと訴訟の経緯

Xは、ビルのオーナーです。令和6年4月1日、デザイン会社Yに、ビルの2階の事務所を、賃料月額30万円、毎月末日払いで貸し、同じ日に鍵を引き渡しました。以前の事例と同じ、Xのビルの事務所です。前の事例では、賃料の支払が争われました。

今回は、同じ当事者のあいだの、別の争いです。令和7年3月5日、Yは、会議用の大型テーブルを事務所に運び込みました。重さは約80キログラム。運んだのは、Yの従業員Wです。

そして令和7年6月30日にYが退去したあと、7月3日に、Xは仲介会社の担当者Zの立会いで事務所を確認します。すると、入口から窓際まで続く、長さ約3メートルの床の傷が見つかりました。補修業者の見積書は80万円です。

テーブルを運んだときに付いた傷だと、Xは考えました。そこで、Yに対し、補修費80万円の支払を求めて訴えを起こします。根拠は、使用者責任です。

条文民法715条1項

民法715条(使用者等の責任)第1項
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

715条1項です。従業員が仕事の中で他人に損害を与えたとき、使う側のYが責任を負う、という条文です。ただし、この前提として、従業員Wの側に、不法行為が成立している必要があります。

条文民法709条

民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

709条です。Wに「過失」があったと言えなければ、使用者責任も出てきません。ここは、条文に書かれているとおりの要件です。条文に書かれていない基準(規範)を、覚えておいて書く場面ではありません。だから、Xは、訴状で、Wの過失を根拠づける事実を述べています。

訴状とYの準備書面 図:訴状とYの準備書面

訴状には、3月5日にWが搬入の際、テーブルを床の上で引きずったこと、Wには不注意があったこと、この搬入で床に傷が生じたこと、が書かれています。傷が、入口から窓際まで、搬入の経路に沿って続いていて、引渡しのときの立会いで、床に傷がないことは確認されている、とも書かれています。ただし、Wが携帯電話を使っていたことは、どこにも書かれていません。

Yの準備書面です。ここに、2つの陳述があります。①「Wが3月5日の搬入の際、テーブルを床の上で引きずったことは認める」。②「Wは、搬入作業中、携帯電話を操作していた」。Yは、そのうえで、「窓際の約1メートルは、引渡し前からあった傷であり、補修費は過大だ」と争っています。

訴訟の経過 図:訴訟の経過

手続は、こう進みました。第1回の口頭弁論で、Yが、この準備書面を、陳述します。準備書面は、期日で陳述して、はじめて弁論に出たことになります。第2回の弁論準備手続の期日で、Xが「②を援用する」と陳述します。援用とは、相手が出した事実を、自分の主張としても持ち出すことです。そして第4回の期日で、Yが、「②を撤回する」と陳述しました。Xは、この撤回に異議を述べています。撤回の理由や証拠は、撤回できるかを検討する段階で見ます。

問いは、2つです。①と②の陳述は、裁判上の自白になるか。そして、②は撤回できるか。準備書面には、ほかにも陳述がありますが、ここでは、この2つに絞ります。

検討の順番

陳述ごとに、自白の成立を順に当てる 図:陳述ごとに、自白の成立を順に当てる

順番を決めます。まず、陳述ごとに、自白が成立するかどうかを、4つの要件で順に当てます。1つ目は、口頭弁論や弁論準備手続の期日で陳述されたか。2つ目は、相手方の主張と、ぴったり一致するか。3つ目は、自分に不利益な事実か。4つ目は、対象が主要事実か。成立したものについてだけ、最後に、撤回できるかを見ます。

撤回は、成立した自白を取り消す話です。そもそも自白が成立していなければ、撤回の問題は出てきません。それに、撤回できるかどうかは、陳述が自白かどうかで、結論が大きく変わります。成立しない陳述なら、相手方が援用するまでは、自由に言い直せるからです。だから、先に成立を当てて、成立した陳述だけを撤回で検討します。4つ目は、自白の効力が主要事実にしか及ばない、という線を、成立の段階で確かめるものです。この事例の2つは、主要事実を認める陳述ですから、4つ目は、確認で足ります。何が主要事実にあたるかは、①のあてはめで見ます。

第1 ①の陳述——自白の成立を順に当てる

引きずったと認めた陳述は、自白か 図:引きずったと認めた陳述は、自白か

まず、①です。答案では、第1(自白の成否)で①と②を続けて扱い、第2で②の撤回を扱います。Yは、準備書面で、Wが搬入の際にテーブルを床の上で引きずったと認めました。そこで、この陳述が、裁判上の自白にあたるかが問題になります。

条文民事訴訟法179条

民事訴訟法179条(証明することを要しない事実)
裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

179条です。自白した事実は、証明が要らなくなります。これが、自白の効果です。ここは、条文に書いてあるとおりの話です。けれども、自白の定義は、条文に書かれていません。だから、ここは、通説の考え方で立てて、覚えておく規範です。

規範と答案の型|自白の成立 図:規範と答案の型|自白の成立

規範は、こうです。裁判上の自白とは、口頭弁論又は弁論準備手続の期日において、相手方が主張する自己に不利益な事実を、そのとおりと認める弁論としての陳述をいう。自己に不利益とは、相手方が証明責任を負う事実であることをいう。自白の対象は、主要事実である。

「自己に不利益」の基準は、古い大審院の判例が、相手方が証明責任を負う事実か、で決めています。定義と要件の整理は、通説です。

「自己に不利益」の判断が、一番の落とし穴です。損か得かという感覚で決めません。相手方が証明責任を負う事実かどうか、という、はっきりした線で決めます。理由は、自白の効果にあります。自白されると、証明が要らなくなります。つまり、証明の負担を負っている相手方が、その負担を免れる。この利益を相手方に与える陳述だけが、自白の名に値します。

境目を、事例で見ましょう。Yが「搬入のとき、床に傷が付いた」と認めたなら、傷の発生は、Xが証明責任を負う事実ですから、Xを楽にする陳述で、不利益です。ところが、Yが「窓際の約1メートルは、引渡し前からあった傷だ」と述べたなら、どうでしょう。窓際の傷が搬入で付いたことは、Xが証明しなければならない事実です。Yのこの言い分は、それを認めるのではなく、否定して争っています。Xの証明の負担は、少しも軽くなりません。だから不利益ではなく、自白の問題にはなりません。

もうひとつ、弁論での陳述かどうかにも、注意があります。準備書面は、書面を出しただけでは、まだ弁論になりません。期日で陳述して、はじめて弁論に出たことになります。

引きずったと認めた陳述に要件を当てる 図:引きずったと認めた陳述に要件を当てる

あてはめます。準備書面は、第1回の口頭弁論で陳述されています。弁論での陳述の要件は、満たします。Xの訴状にも、Wがテーブルを引きずったと書かれています。Xの主張と一致しています。Xは、Wの過失で床が傷ついたとして、賠償を求めています。その過失を根拠づける事実は、請求する側のXが証明しなければなりません。Wが引きずったことは、まさにその事実で、Xが請求原因として証明責任を負います。Yが認めれば、Xは証明を免れます。ですから、Yにとって不利益です。そして、過失そのものは、不注意だった、という評価です。主要事実になるのは、その評価を支える具体的な事実のほうで、引きずったことは、まさにそれにあたります。4つの要件がそろいました。

よって、①の陳述は、裁判上の自白として成立します。裁判所は、この事実を判決の基礎としなければならず、証拠調べもできないし、反対の認定もできません。

第1 ②の陳述——先行自白

携帯電話の操作を、先に述べた陳述 図:携帯電話の操作を、先に述べた陳述

次は、②です。手がかりは、前に見た事例です。

前の事例では、Xが主張していない鍵の引渡しを、Y自身が準備書面で述べていました。どちらが述べた事実でも、弁論に出ていれば判決の基礎にできる。これが主張共通の原則で、Xが援用しなくても使える、というのが、そこでの結論でした。では、Xが援用したら何が変わるのでしょうか?実は、変わります。使えるかどうかではなく、誰が、どこまで縛られるかが、変わるのです。

Yは、Xが主張していない「Wが搬入作業中に携帯電話を操作していた」という事実を、自分から述べました。そこで、この陳述が自白にあたるか、Xの援用の前と後で扱いが変わるかが問題になります。

規範と答案の型|先行自白 図:規範と答案の型|先行自白

先に述べた陳述が自白になる場合、つまり先行自白の規範は、こうです。当事者の一方が、自己に不利益な事実を先に述べた場合も、相手方がこれを援用したときは、主張が一致するから、自白が成立する。相手方が援用するまでは、自白は成立せず、陳述した当事者は、自由に撤回できる。援用がなくても、裁判所は、主張共通の原則により、この事実を判決の基礎にできる。

これも、条文には書かれていません。通説の整理です。出発点は、自白の定義にある、相手方の主張と一致するという要件です。先に述べただけでは、まだ、相手方の主張と一致していません。Xが援用して、はじめて、2人の主張が揃います。揃った瞬間に、自白が成立します。さきほどの問いに戻ります。Xが援用する前と後で、何が違うか。ここが、答案で一番大事な比較です。

援用の前と後で、何が変わるか 図:援用の前と後で、何が変わるか

援用の前は、自白がまだ成立していません。裁判所は、主張共通の原則で、この事実を判決の基礎にできます。ただし、あくまで、「できる」にとどまります。弁論に出た事実として取り上げられますが、本当にあったかは、証拠で確かめて決めることになります。そして、相手方が援用するまでは、Yは自由に撤回できます。

援用のあとは、自白が成立します。裁判所は、この事実を、判決の基礎としなければなりません。そして、Yは、もう原則として撤回できません。

決め手は、相手方の信頼です。Xが援用すると、Xは、この事実は証明しなくていいと考えて、証拠の準備や主張の組み立てを進めます。その信頼を、あとから裏切ることを許さないために、自白は、本人も縛ります。援用前は、Xはまだ何も頼りにしていませんから、Yは、撤回していいのです。

ここで、いまの比較を、問いの形で確かめます。Xがまだ何も言っていない段階で、Yは、②を撤回できるでしょうか?Yが自分で言ったことなのに、戻せるのでしょうか。

戻せます。さきほどの比較で、援用前は、自白が成立していません。成立していない以上、撤回の制限もかかりません。Yは、自由に取り消せます。Xの側から見ると、これが、援用を急ぐ理由です。援用する前にYが撤回してしまえば、その事実は弁論から消え、主張共通の原則でも使えなくなるからです。

携帯電話の操作の陳述に要件を当てる 図:携帯電話の操作の陳述に要件を当てる

あてはめます。携帯電話の操作は、Wの過失を根拠づける具体的な事実で、Xが証明責任を負う主要事実です。Yにとって不利益です。ただ、Xは、訴状で、これを主張していません。Yが先に述べただけですから、Xが援用するまでは、主張が一致せず、自白は成立しません。第2回の弁論準備手続の期日で、Xが、Yの陳述を援用しました。この時点で、主張が一致します。よって、②の陳述は、Xの援用の時点で、自白として成立します。裁判所は、この事実を判決の基礎としなければならず、反対の認定はできません。援用前であれば、Yは自由に撤回でき、裁判所も、主張共通の原則で、基礎にできるにとどまりました。

①は、最初から自白で、②は、援用してから自白になります。入口は違いますが、どちらも、裁判所を縛ります。ここまでが、成立の段階です。ここからが、本番です。成立した②の自白を、Yは、もう撤回できないのでしょうか。

第2 ②の撤回——問題提起と規範

取り違えを理由にした撤回 図:取り違えを理由にした撤回

Yが、第4回の期日で撤回の理由に挙げたのは、こうです。②の陳述は、準備書面を作った総務担当者が、同じ時期に、Yの別の拠点で別の従業員が携帯電話を見ながら搬入して床を傷つけた件と、取り違えて書いてしまったものだ、というのです。取り違えたことは、社内の連絡メールに残っています。

さらに、搬入に立ち会った家具店の配送担当者が、「Wは両手でテーブルを持っていて、携帯電話は操作していなかった」と証言しました。配送の作業日報にも、同じ記載があります。Xは、撤回に異議を述べています。そこで、問題になります。成立した自白を、Yは撤回できるでしょうか。

規範と答案の型|撤回 図:規範と答案の型|撤回

規範は、こうです。自白は、相手方の信頼を保護するため、原則として撤回できない。もっとも、1つ目、相手方が同意した場合、2つ目、自白が刑事上罰すべき他人の行為によってされた場合、3つ目、自白の内容が真実と食い違い、しかも錯誤に基づいてされたときは、撤回できる。

撤回の3つの場合は、判例が、一つずつ認めてきたものを、まとめた規範です。そして、上の図では、3つ目のあとに、判例の言葉が太字で付け加えられています(文面は、このあとの3つ目の説明で引きます)。反真実が証明されれば、錯誤が認められる、という趣旨です。

なぜ、原則として撤回できないのでしょうか。さきほどの、相手方の信頼です。Xは、②を証明しなくていいと考えて、動いています。自白をあとから自由に取り消せるなら、証明不要と信じたXの準備が、すべて無駄になりかねません。だから、原則は、撤回できません。逆に言えば、例外は、相手方がもう信頼していない場合か、本人の責任とはいえない場合です。3つの場合は、すべて、この理由で説明がつきます。

撤回できる3つの場合 図:撤回できる3つの場合

1つ目は、相手方が同意した場合です。相手方自身が撤回を認めているなら、守るべき信頼がありません。2つ目は、自白が、刑事上罰すべき他人の行為によってされた場合です。たとえば、第三者に脅されたり、だまされたりして、思ってもいない自白をさせられたような場合です。本人に責任を問えません。

条文民事訴訟法338条1項5号

民事訴訟法338条1項5号(再審の事由・抜粋)
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。
五 刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。

これが、再審の事由を定める338条1項5号です。ただし、再審の訴えは、この事由に当たるだけでは足りず、同条2項が、有罪判決の確定などを求めています。そうした条件は付きますが、確定した判決でさえ、こうして自白させられていたなら、やり直しの道があります。それなら、判決が出る前のいまなら、なおさら、撤回を認めてよい、という理由づけです。この条文は、撤回の要件そのものではなく、この2つ目の場合の理由づけに使います。

3つ目が、自白の内容が真実と食い違い、しかも錯誤に基づいてされたときです。真実に反することを反真実といいます。ここでいう錯誤は、真実に反することを知らずに、思い違いで陳述した、という意味で使われます。思い違いなので、ここでも、本人に責任を問えません。

反真実と錯誤の2つを、別々に証明するのでしょうか。ここが、判例の大事なところです。判例は、当事者の自白した事実が真実に合致しないことの証明がある以上、その自白は、錯誤に出たものと認めることができるとしています。要件は、反真実と錯誤の2つのままです。ただ、証明は、反真実で足ります。反真実が証明されれば、錯誤も、通常は認められます。

なぜ、反真実だけで足りるのでしょうか。人は、事実と違うと知っていれば、ふつう、自分に不利益なことを、わざわざ認めたりはしません。だから、真実に反する自白があれば、思い違いで言ったのだろう、と見るのが自然です。この経験則から推し量るので、錯誤が事実上推定される、と説明されます。推定ですから、覆ることがあります。Xの側で、Yが事実と違うと知りながら述べたことを示せば、思い違いではなく、自分の意思で言ったことになり、錯誤は認められません。この場合は、3つ目の場合にはあたりません。

答案では、「反真実が証明された以上、錯誤が認められる」と書きます。そのうえで、事例に取り違えの事情があれば、補強として添えます。

第2 ②の撤回——あてはめと結論

②の撤回に、3つの場合を当てる 図:②の撤回に、3つの場合を当てる

あてはめます。順に、3つの場合を当てます。まず、1つ目の、Xの同意です。Xは、撤回に異議を述べています。同意は、ありません。次に、2つ目です。②の陳述は、他人の刑事上罰すべき行為によるものでしょうか。Yの総務担当者が、別の件と取り違えて書いただけで、誰かに脅されたり、だまされたりしたわけではありません。2つ目の場合は、あてはまりません。

残るのは、3つ目だけです。そこで、反真実と錯誤を検討します。まず、反真実です。搬入に立ち会った配送担当者は、「Wは両手でテーブルを持っていて、携帯電話は操作していなかった」と証言しました。作業日報にも、同じ記載があります。立ち会った人の証言と、その場で付けた記録が、一致しています。これらから、Wは、搬入作業中、携帯電話を操作していなかったと認められます。よって、②の陳述は、真実に反します。

次に、錯誤です。総務担当者は、同じ時期にYの別拠点で起きた、別の従業員の件と取り違えて書いています。事実が違うと知っていて書いたのではなく、知らずに、思い違いで陳述したということです。そして、反真実が証明された以上、錯誤も認められます。

取り違えの事情がなくても、反真実が証明されれば、錯誤は認められます。このあてはめで、社内の連絡メールに残っている取り違えの事情に触れたのは、錯誤を別に証明する必要があるからではなく、錯誤を、さらに裏づけるためです。

結論 ②の自白は撤回できる 図:結論 ②の自白は撤回できる

結論です。②の自白は、撤回できて、効力を失います。自白が効力を失うので、証明が要らない状態は、なくなります。裁判所は、Wが携帯電話を操作していたかどうかを、証拠調べで認定します。それから、撤回の対象は、②だけです。①は、Yが撤回すると述べた対象ではなく、自白のまま、裁判所を縛り続けます。

まとめ

規範と答案の型|自白の成立 図:規範と答案の型|自白の成立

結論を、規範カードで確かめます。①の陳述は、4つの要件がそろうので、裁判上の自白として成立します。

規範と答案の型|先行自白 図:規範と答案の型|先行自白

②は、Yが先に述べたものですから、Xが援用するまでは自白ではなく、援用の時点で成立します。

規範と答案の型|撤回 図:規範と答案の型|撤回

そして、成立した②の自白は、反真実が証明され、錯誤が認められるので、撤回できます。

完成答案:第1 自白の成否(問題の所在・規範) 図:完成答案:第1 自白の成否(問題の所在・規範)

こちらが、完成答案です。答案の第1の、自白の成否の、問題の所在と規範から見ていきます。答案の文面を、本文でも置きます。

1 問題の所在

 Yは、準備書面で、①Wが搬入の際にテーブルを床の上で引きずったこと、②Wが搬入作業中に携帯電話を操作していたことを述べた。そこで、①②が裁判上の自白にあたるかが問題となる。

2 規範

 裁判上の自白とは、口頭弁論又は弁論準備手続の期日において、相手方が主張する自己に不利益な事実を、そのとおりと認める弁論としての陳述をいう。自己に不利益とは、相手方が証明責任を負う事実であることをいう。自白の対象は主要事実である。

 また、当事者の一方が自己に不利益な事実を先に述べた場合も、相手方がこれを援用したときは、主張が一致するから自白が成立する。相手方が援用するまでは自白は成立せず、陳述した当事者は自由に撤回できる。援用がなくても、裁判所は主張共通の原則によりこの事実を判決の基礎にできる。

完成答案:第1 自白の成否(あてはめ・結論) 図:完成答案:第1 自白の成否(あてはめ・結論)

答案の第1の、あてはめと結論です。①と②を、要件に順に当てているところを、読んでみてください。

3 あてはめ

 (1)① Yの準備書面は第1回口頭弁論で陳述されている。Xの訴状の主張と一致している。Wの引きずった事実は、Xが請求原因として証明責任を負う事実であり、Yが認めればXは証明を免れる。この事実は過失を根拠づける具体的事実であり、主要事実にあたる。

 (2)② 携帯電話の操作は、Wの過失を根拠づける具体的事実であり、Xが証明責任を負う主要事実で、Yにとって不利益である。ただし、Xは訴状でこれを主張しておらず、Yが先に述べただけであるから、Xが援用するまでは主張が一致せず、自白は成立しない。第2回の弁論準備手続の期日で、XがYの陳述を援用したから、主張が一致した。

4 結論

 よって、①は自白が成立する。②は、Xの援用の時点で自白が成立する。いずれも、裁判所はこの事実を判決の基礎としなければならず、証拠調べも反対認定もできない。

完成答案:第2 ②の撤回(問題の所在・規範) 図:完成答案:第2 ②の撤回(問題の所在・規範)

続いて、答案の第2の、②の撤回です。問題の所在と規範を確かめてください。規範の中の①②③は、撤回できる3つの場合の番号で、陳述の①②とは別です。

1 問題の所在

 ②の自白は、Xの援用で成立している。Yはこれを撤回すると述べたが、Xは異議を述べている。そこで、成立した自白を撤回できるかが問題となる。

2 規範

 自白は、相手方の信頼を保護するため、原則として撤回できない。もっとも、①相手方が同意した場合、②自白が刑事上罰すべき他人の行為によってされた場合、③自白の内容が真実と食い違い、しかも錯誤に基づいてされたときは、撤回できる。判例は、当事者の自白した事実が真実に合致しないことの証明がある以上その自白は錯誤に出たものと認めることができるとする。

完成答案:第2 ②の撤回(あてはめ・結論) 図:完成答案:第2 ②の撤回(あてはめ・結論)

答案の第2の、あてはめと結論です。結論の一文まで、目で追ってください。

3 あてはめ

 ②の陳述は、他人の刑事上罰すべき行為によるものではなく、Xの同意もない。そこで、反真実と錯誤を検討する。配送担当者の証言と作業日報から、Wは両手でテーブルを持っており、携帯電話を操作していなかったと認められる。よって、②は真実に反する。担当者は、同時期にYの別拠点で起きた別の従業員の件と取り違えて書いており、真実に反することを知らずに陳述している。反真実が証明された以上、錯誤も認められる。

4 結論

 よって、②の自白は撤回でき、効力を失う。裁判所は、携帯電話の操作の有無を証拠調べで認定する。

後編では、同じ事例で、認めた中身が主要事実ではないときにも、自白として縛られるのかを考えます。

参照条文

  • 民法715条1項
  • 民法709条
  • 民事訴訟法179条
  • 民事訴訟法338条1項5号

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