民訴ゼロから民事訴訟法 論文

債権者代位訴訟の書き方(前編)

スタジオの貸主Xが、借主Yに代位して、Yの取引先Zに報酬320万円の支払を求めた訴訟を素材に、賃料は払ったと争うYがその訴訟にどの形で入れるか、審理の結果、賃料債権が存在しないと分かったとき判決はどうなるか、Yが賃料の未払を争わないときに入る形は同じかを、答案の順に確かめます。

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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

債権者X・債務者Y・第三債務者Zと債権の向き 図:債権者X・債務者Y・第三債務者Zと債権の向き

登場するのは3人です。撮影スタジオを貸している個人の債権者のX。フリーで映像を作っている債務者のY。そして、飲料メーカーの第三債務者のZです。3人の間には、債権が2本と、代位しての請求が1本あります。XがYに対して持つと主張する、賃料180万円の債権。YがZに対して持つ、報酬320万円の債権。そして、XがYに代位してZにする請求です。時間の順に見ていきます。

時系列(1):提訴まで 図:時系列(1):提訴まで

令和6年4月1日に、XはYに、撮影スタジオを貸しました。賃料は月額15万円で、毎月末日払いです。令和6年4月分から令和7年3月分までの12か月分、合わせて180万円が支払われていない、というのがXの主張です。債権者のXが、債務者のYに持つこの賃料債権が、被保全債権です。

令和7年2月3日に、YはZと、映像制作の請負契約を結びました。報酬は320万円で、支払期限は令和7年8月29日です。Yは、令和7年7月18日に納品しましたが、Zは払っていません。債務者のYが、第三債務者のZに持つこの報酬債権が、被代位権利です。Yには、ほかに見るべき財産がなく、ほかにも500万円の借金があって、報酬債権の320万円を入れても、債務を払いきれません。

ところが、Yは、賃料は令和7年4月14日に、現金で180万円を全額、Xに払った、と言っています。Xは、受け取っていない、と争います。

令和8年1月13日に、Xは、民法423条1項によってYに代位して、Zを被告に、報酬320万円の支払を求めて訴えました。金銭の支払を求める訴えなので、民法423条の3により、自分への支払を求められます。Xは、Xへの支払を求めました。この訴えを、訴訟1とします。

時系列(2):参加の申出まで 図:時系列(2):参加の申出まで

提訴の3日後、令和8年1月16日に、XはYに、訴訟告知をしました。Yは、同じ日に受け取っています。Yは、報酬320万円を、Xではなく、自分に払わせたいと考えています。令和8年2月ごろには、訴訟1とは別に、Zを被告にして、報酬320万円を請求する別訴も考えました。結局、令和8年3月10日に、Yは、訴訟1に参加の申出をしました。Xに対しては、賃料債務180万円が存在しないことの確認を求めます。Zに対しては、報酬320万円をYに支払うことを求めます。

事実の整理:ア・イ・ウ・カ 図:事実の整理:ア・イ・ウ・カ

記号で整理します。事実アは、Xが、賃料180万円を被保全債権として、報酬320万円を代位行使し、Xへの支払を求めたことです。事実イは、Xが、遅滞なくYに訴訟告知をしたことです。事実ウは、Yが、賃料は弁済したと争って、Xに賃料債務の不存在確認を、Zに報酬のYへの支払を求めて、参加の申出をしたことです。事実カは、Yが、別訴も考えたことです。事実エとオは第2で、事実キは第3で出てきます。

この事例で問うこと 図:この事例で問うこと

問うのは、3つです。1つめは、Yは、訴訟1にどの形で入れるか。2つめは、審理の結果、賃料180万円が存在しないと分かったとき、判決はどうなるか。3つめは、Yが賃料の未払を争わないとき、入る形は同じか、です。

条文と検討の順番

検討の順番 図:検討の順番

検討の順番は5つです。1つめは、Yに当事者適格があるか。2つめは、民事訴訟法47条1項後段の、権利主張参加に当たるか。3つめは、二重起訴にあたらないか。ここまでが、Yが入れるかどうかの検討です。4つめは、審理の結果、判決がどうなるか。最後の5つめは、別件として、Yが賃料を争わない場合に、同じ物差しを当てて、Yがどの形で訴訟1に入れるかを確かめます。このうち、1つめから3つめまでを第1に、4つめを第2に、5つめを第3にまとめます。

この順番にする理由は、Yが入れると決まって初めて、判決の内容を考える意味が出るからです。参加の形は、条文の文言に沿って、当事者適格、47条1項後段、二重起訴の順に書きます。

開く条文は3つです。まず、代位できる場面を定めた、民法423条1項です。

条文民法423条1項

民法423条1項(債権者代位権の要件)
債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。

押さえるのは、自己の債権を保全するため必要があるとき、という部分です。債権者が他人の権利を自分の名で行使できる根拠は、被保全債権が存在することです。本件では、賃料180万円がそれにあたります。この根拠が、このあと、第1にも第2にも効いてきます。

2つめは、代位された債務者の立場を決める、民法423条の5です。

条文民法423条の5

民法423条の5(債務者の取立てその他の処分の権限等)
債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。

この条文により、Xが代位して訴えていても、Yは、自分で報酬を取り立てられます。Zも、Yに払ってかまいません。

3つめは、民事訴訟法47条1項です。

条文民事訴訟法47条1項

民事訴訟法47条1項(独立当事者参加)
訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者又は訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者は、その訴訟の当事者の双方又は一方を相手方として、当事者としてその訴訟に参加することができる。

この条文の前段は、訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者。後段は、訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者です。本件で見るのは、後段です。後段による参加の形は、独立当事者参加のうちの、権利主張参加と呼ばれます。

この3つの条文は、どれも、条文を読めば分かる内容です。条文をそのまま読めば出てくる内容は、成立要件で、条文番号を添えて書けば足ります。これに対して、解釈で立てる規範は、条文に書いていない読み方です。このノートで最初の規範になるのは、47条1項後段の、自己の権利であることを主張する、をどう読むか、です。

第1 Yの参加の形

第1の確認:Yは入る必要があるか 図:第1の確認:Yは入る必要があるか

Xが代位して訴えていても、Yは、自分で報酬を取り立てられます。それでも、Yが、訴訟1に入る必要はあるのでしょうか?Yが払ってほしいなら、Zに自分で請求すれば済み、わざわざ入る必要はないようにも見えます。しかし、Yは、賃料は払った、と言っています。訴訟1がこのまま進めば、賃料180万円が存在する前提で、Xが勝つ判決が出るおそれがあります。そうなれば、Zの払うお金が、存在しない賃料の名目で、Xに渡ってしまいます。Yには、賃料債務が存在しないことそのものを争う場が要ります。そこで、Yがどの形で入れるかが問題になります。

最初に、Yに当事者適格があるかを確かめます。当事者適格は、訴訟物である権利について、管理や処分の権限を持つ人に認められます。Yは、報酬債権の持ち主です。そして、民法423条の5により、Xが代位権を行使しても、Yは、自分で取立てなどをすることを妨げられません。ですから、Yには当事者適格があります。Xが告知をしたことは、この判断には影響しません。

判例の前提と民法423条の5の比較 図:判例の前提と民法423条の5の比較

ここで、判例との関係を整理します。このノートでは、このあと二重起訴のところと第2で、最高裁の判決(最判昭和48・4・24)を読みます。債権者の代位訴訟に、債務者が参加して訴えを起こした事件の判決です。この判決は、平成29年の民法改正より前の事件です。そのため、判決の理由づけには、改正前の民法のもとでの判例の考え方を前提にした部分があり、その部分は、改正のあとは使えません。当時の前提は、債権者が適法に代位権の行使に着手し、債務者が通知を受けるか了知したときは、債務者は処分する権能を失う、というものでした。今の民法423条の5では、債権者が代位権を行使しても、債務者は、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられません。

前提が変わっても、判決の中身がすべて使えなくなったわけではありません。今も使える点が2つあります。1つめは、債務者が参加する形なら、二重起訴にあたらないこと。2つめは、債権者に被保全債権がなければ、債権者の訴えは却下されることです。どちらも、このあと、判決の文言を読んで確かめます。1つめは第1の二重起訴のところで、2つめは第2で読みます。

では、理由づけの前提が変わったのなら、判決の結論も変わるのでしょうか。変わったのは、債務者の当事者適格を基礎づける筋道です。今は、債務者は、代位があっても当事者適格を失いません。ですから、答案は、Yには当事者適格がある、というところから書き始められます。判決の、参加なら二重起訴にあたらない、という部分と、代位原因、つまり債権者の被保全債権を欠けば却下、という部分は、この変更とは別の話なので、そのまま使えます。

次に、47条1項後段に当たるかです。Yは、自分の請求を立てて参加します。Xと同じ訴訟に入る形には、共同訴訟参加もあります。それなのに、共同訴訟参加ではなく、権利主張参加なのは、なぜでしょうか。Yは、Xに対して、賃料債務が存在しないことの確認を求めたい。Xを相手方にした請求です。共同訴訟参加は、当事者の一方と同じ側に並ぶ形なので、その当事者を相手に不存在確認を立てる形は、想定されていません。そこで、Xの請求を否定する請求を立てるなら、47条1項後段の、権利主張参加を検討します。

規範と答案の型|権利主張参加 図:規範と答案の型|権利主張参加

規範は、47条1項後段の文言の解釈と、改正後の学説の整理で立てます。規範の文面は、こうです。権利主張参加は、訴訟の目的についての権利をめぐる三者間の法律関係を矛盾なく解決する制度であるから、参加人の請求と本訴請求が、論理的に両立しえない関係に立つときに、この参加は認められる。債権者代位訴訟では、債務者が被保全債権の存在を争うときは、債権者の請求と債務者の請求は論理的に両立しえない。

この規範の決め手は、3つあります。設例では、規範のいう本訴請求がXの請求、参加人の請求がYの請求です。1つめは、Xの請求が認められる前提です。Xの請求が認められるには、被保全債権が存在しなければなりません。YがXに、賃料債務の不存在確認を求めて勝てば、Xは、代位の前提を失います。逆に、Xの請求が認められるなら、賃料は存在するので、Yの請求は認められません。どちらか一方が認められれば、他方は認められない。これが、両立しえない、ということです。

2つめは、Yが、Xの訴えを、前提から崩せる立場に立つ必要があることです。Yが争わなければ、Xは、賃料の存在を前提に勝てます。Yは、請求を立てて入ることで、被保全債権の存否そのものを、この訴訟の争点にできます。

3つめは、条文の文言です。訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する、という言葉を、三者間の矛盾のない解決という参加の趣旨に沿って、両立しえない、と読みます。請求が両立するなら、三者の間で矛盾した判決が出るおそれが、そもそも無いからです。

判例が、この整理をはっきり述べたとは言えません。債務者が被保全債権を争う場合は権利主張参加だ、という整理は、改正後の学説のものです。ですから、答案では、判例がこう言った、と書かずに、規範として立てます。

境目も見ておきます。Yが被保全債権を争うなら、請求は両立しえません。Yが賃料の未払を争わず、報酬を自分に払ってほしいだけなら、Xと向き合う請求がないので、事情が変わります。それは、第3で見ます。

続いて、第1の中の3つめ、二重起訴です。Yは、令和8年2月ごろ、別訴も考えました。民事訴訟法142条は、裁判所にかかっている事件と同じ事件について、重ねて訴えることを禁じています。当事者が同じかどうかは、判決の効力を受ける者かどうかで判断します。訴訟1で、Xは、Yの報酬債権を自分の名で行使していて、Yは告知を受けて、参加する機会もあります。ですから、Yには、民事訴訟法115条1項2号で、訴訟1の判決の効力が及びます。判決の効力を受けるYが起こす別訴は、訴訟1と同じ当事者の訴えとして、142条の二重起訴にあたりえます。

では、参加の形なら、どうでしょうか。民事訴訟法47条4項は、必要的共同訴訟の審理の規律を定めた40条1項から3項までを、準用しています。40条は、1人がした訴訟行為を、全員の利益になるときだけ効かせるなどして、全員の手続を1つにそろえる規律です。その結果、Yの請求は、訴訟1と同じ手続で一緒に審理される併合審理が強制されて、判決の内容も、食い違わないように合一に確定されます。最高裁の判決の文言で確かめます。

判例最判昭和48・4・24 民集27巻3号596頁

最高裁判所判決(債権者の代位訴訟に、債務者が参加して訴えを起こした事件)
思うに、債権者が民法四二三条一項の規定により代位権を行使して第三債務者に対し訴を提起した場合であつても、債務者が民訴法七一条により右代位訴訟に参加し第三債務者に対し右代位訴訟と訴訟物を同じくする訴を提起することは、民訴法二三一条の重複起訴禁止にふれるものではないと解するのが相当である。けだし、この場合は、同一訴訟物を目的とする訴訟の係属にかかわらず債務者の利益擁護のため訴を提起する特別の必要を認めることができるのであり、また、債務者の提起した訴と右代位訴訟とは併合審理が強制され、訴訟の目的は合一に確定されるのであるから、重複起訴禁止の理由である審判の重複による不経済、既判力抵触の可能性および被告の応訴の煩という弊害がないからである。

この事件は、設例とは別です。土地の賃借人が、賃貸人の土地所有権に基づく請求権を代位行使して、土地の上に建物を持つ人に、建物の収去と土地の明渡しを求めました。そこへ、賃貸人が参加して、賃借権が存在しないことの確認と、同じ建物収去土地明渡しを求めた、という事件です。

判決の民訴法71条は、今の47条です。231条は、今の142条です。判決は、債務者が参加して同じ訴訟物の訴えを起こしても、二重起訴の禁止にふれない、と述べています。理由は2つです。1つめは、債務者の利益を守るために訴えを起こす特別の必要があること。2つめは、併合審理が強制され、合一に確定されるので、審判の重複、既判力の抵触、被告の応訴の煩、という弊害がないことです。

判決が述べたのは、参加という形なら二重起訴にふれない、というところまでです。債務者が別訴で請求できるかどうかは、判断していません。参加なら二重起訴にふれない、というこの部分は、改正で前提が変わった部分ではないので、今も使えます。

あてはめ:Yの参加の形 図:あてはめ:Yの参加の形

あてはめます。まず、事実アとイです。Xは代位して訴訟1を起こし、Yに告知もしていますが、民法423条の5により、Yは、取立てなどの処分ができるので、当事者適格があります。

次に、事実ウです。Yは、賃料は弁済したと争って、Xに賃料債務の不存在確認を、Zに報酬のYへの支払を求めます。Xの請求は、賃料の存在が前提です。Yの請求が認められれば、Xは、その前提を失います。ですから、Xの請求とYの請求は、論理的に両立しえません。

最後に、事実カです。Yは、別訴ではなく、参加の形で請求します。47条4項と40条により、併合審理が強制されて、合一に確定します。二重起訴の弊害はないので、二重起訴にはあたりません。

結論です。Yは、Xに対する賃料債務の不存在確認と、Zに対する報酬の支払請求を立てて、47条1項後段の、権利主張参加ができます。

第2 判決の内容

第2の確認:当事者適格を基礎づけるもの 図:第2の確認:当事者適格を基礎づけるもの

第2に入る前に、前提を1つ確かめます。債権者代位の訴えで、原告の当事者適格を基礎づけるのは、被保全債権が存在することです。民法423条1項の、自己の債権を保全するため、という部分です。本件では、その賃料180万円が存在するかどうかが、審理の結果で決まります。ここからは、判決の中身を見ます。

事実の整理:エ・オ 図:事実の整理:エ・オ

審理が終わりました。事実エは、Zが、報酬債権320万円の存在を争っていないことです。事実オは、令和7年4月14日、賃料180万円の全額が弁済されていて、存在しない、と裁判所が認めたことです。判決の言渡しは、令和8年5月19日です。

問題提起です。審理の結果、被保全債権の賃料180万円が、弁済で存在しないと判断されたとき、Xの訴えと、Yの請求は、それぞれどう扱われるでしょうか。賃料が存在しないなら、Xの請求は、棄却になるようにも思えます。しかし、棄却ではなく、却下です。その区別を、規範で確かめます。

規範と答案の型|被保全債権が存在しないときの処理 図:規範と答案の型|被保全債権が存在しないときの処理

規範は、最高裁の判決の判旨と、民法の条文で立てます。ただし、判決の事件は、被保全債権が弁済で消えたものではありません。ですから、判決の言葉を使いながら、設例には、その命題を応用して当てる形になります。規範の文面は、こうです。債権者が代位できるのは、被保全債権が存在するときである。被保全債権を欠くとき、その代位訴訟は却下を免れず、債務者の請求は適法となる。債務者は、民法423条の5により処分権限を失っていないから、その請求は、理由があれば認容される。

この規範の決め手は、2つあります。1つめは、被保全債権が、債権者の当事者適格の根拠だということです。たとえ話で確かめます。他人の口座の払戻しを、委任状を持たずに窓口で求めても、窓口は、払戻しの理由を調べる前に断ります。被保全債権は、この委任状にあたるものです。委任状はあるのに、払い戻す理由が無いなら、窓口は中身を調べたうえで断ります。中身を調べたうえで断るこちらが、棄却です。被保全債権という根拠がなければ、当事者適格がなく、訴訟要件を欠きます。ですから、請求に理由がないとして負ける棄却ではなく、訴えそのものが不適法だとして退けられる、却下になります。

2つめは、Yが、Xの代位とは関係なく、報酬債権を処分できることです。民法423条の5です。ですから、Yの請求が適法かどうかは、賃料が存在するかどうかに左右されません。Yの請求は、適法です。そして、報酬債権が存在して、Zが争わないなら、認められます。

判決の言葉で確かめます。二重起訴のところで読んだ最高裁の判決の、別の部分です。

判例最判昭和48・4・24 民集27巻3号596頁

最高裁判所判決(代位原因の賃借権が解除で消えた事件)
原告の代位原因たる本件土地の賃借権は、その発生原因である賃貸借契約が原告において被告に対してした無断転貸を理由として参加人により解除されたため消滅したものということができるから、原告の代位訴訟はその代位原因を欠くものとして却下を免れず、したがつて、参加人が本訴に参加し被告に対して所有権にもとづいて本件建物収去本件土地明渡を求めた訴は適法というべきである。

判決文の原告は、代位して訴えた土地の賃借人です。被告は、土地の上に建物を持つ人です。参加人は、参加した賃貸人です。判決のいう代位原因は、設例の言葉では、被保全債権にあたります。この事件では、代位原因の賃借権が、解除で消えていました。そこで判決は、債権者の代位訴訟は、代位原因を欠くものとして却下を免れない、と述べています。

注意点が1つあります。規範を立てるときに触れたとおり、判決の事件は、権利が解除で消えたもので、設例の、弁済で消えた場合とは違います。判決が述べたのは、代位原因を欠けば却下、という命題までです。ですから、弁済で消えた設例には、この命題を応用して当てます。判決が弁済の場合まで述べた、とは書きません。

改正との関係です。被保全債権の存在が、債権者の当事者適格の基礎になる点は、民法423条1項の文言で、改正のあとも変わりません。

あてはめ:被保全債権が存在しないとき 図:あてはめ:被保全債権が存在しないとき

あてはめます。まず、事実オです。賃料180万円は、令和7年4月14日に全額弁済済みで、存在しません。ですから、Xは、代位原因を欠きます。

次に、事実アです。Xは、代位して訴訟1を起こしました。被保全債権がないので、当事者適格を欠き、訴訟要件を欠きます。Xの訴えは、却下です。

続いて、事実ウとオです。Yの、賃料債務の不存在確認は、賃料債務が弁済で存在しないので、認容されます。

最後に、事実エです。Zは、報酬債権320万円の存在を争っていません。被代位権利は存在するので、YのZに対する請求も、認容されます。

判決の内容 図:判決の内容

結論です。令和8年5月19日の判決は、Xの訴えを却下します。Yの、賃料債務が存在しないことの確認の請求は、認容されます。そして、ZはYに、報酬320万円を支払え、とされます。答案の要点は、Xの訴えが、棄却ではなく却下になることです。

Xの訴えが却下されても、Yの請求は残ります。Yが自分の名で立てた請求だからです。Yの請求は、Xの訴えの却下とは別に判断されます。

第3 別件

第3の確認:別件に、同じ物差しを当てる 図:第3の確認:別件に、同じ物差しを当てる

第3は、別件です。訴訟1の設定は同じで、Yの言い分だけを入れ替えます。Yは、賃料の未払は確かにある、と認めます。ただ、Zの報酬は、自分の名で請求して、自分で受け取りたい、と考えています。これを、事実キとします。

賃料を争わないなら、Yは、Xの請求を否定する請求は立てません。Yが立てたいのは、Zに対する報酬の請求だけです。Xと同じ側に並んで、Zに請求する形になります。そこで、共同訴訟参加を検討します。条文を開きます。

条文民事訴訟法52条1項

民事訴訟法52条1項(共同訴訟参加)
訴訟の目的が当事者の一方及び第三者について合一にのみ確定すべき場合には、その第三者は、共同訴訟人としてその訴訟に参加することができる。

条文は、合一にのみ確定すべき場合、としか書いていません。この中身が、解釈になります。

規範と答案の型|共同訴訟参加 図:規範と答案の型|共同訴訟参加

規範は、一般的な整理で立てます。判例が、債権者代位訴訟への共同訴訟参加の要件を言葉にしたわけではありません。規範の文面は、こうです。共同訴訟参加には、参加人に当事者適格があることと、訴訟の目的が当事者の一方と参加人について合一にのみ確定すべき場合、つまり、本訴の判決の効力が参加人と相手方の間にも及ぶ場合であることが必要である。

この規範の決め手は、3つあります。1つめは、共同訴訟参加人は、当事者として並ぶことです。自分の請求を立てられるだけの当事者適格が要ります。

2つめは、判決の効力が及ぶ関係なら、別々に争うと、矛盾した判決が出てしまうことです。Yには訴訟1の判決の効力が及ぶので、Yが別に受けた判決と、同じ報酬債権について結論が食い違えば、既判力どうしがぶつかります。それを防ぐために、1つの手続で合一に確定する必要があります。これが、条文の、合一にのみ確定すべき場合の中身です。この場合は、各自が単独でも訴えられるけれど、一緒になったら結論をそろえる、類似必要的共同訴訟になります。

3つめは、Yは賃料を争わないので、Xと向き合う請求がなく、Xと利害が一致することです。ですから、Xと対立する形ではなく、同じ側に並べます。

あてはめます。まず、当事者適格です。Yは、被代位権利の主体で、民法423条の5により、取立てその他の処分の権限を失いません。ですから、当事者適格があります。次に、合一にのみ確定すべき場合かどうかです。訴訟1は、債務者の権利を、債権者が自分の名で行使する訴訟で、Yは告知を受けて参加の機会もあるので、判決の効力は、民事訴訟法115条1項2号でYに及びます。そして、Yは賃料を争わず、Xと利害が一致するので、決め手の3つめのとおり、Xと対立する形ではなく、同じ側に並べます。ですから、合一にのみ確定すべき場合にあたります。

結論です。Yは、共同訴訟参加ができます。Yは、自分への支払を求める請求を、Zに対して立てます。

Yが争う場合と争わない場合 図:Yが争う場合と争わない場合

権利主張参加と共同訴訟参加の違いは、被保全債権の不存在確認を、請求として立てられるかどうかです。賃料を争うなら、Xに対する請求を立てるので、権利主張参加になります。賃料を争わないなら、Zに対する請求だけなので、共同訴訟参加になります。

Yが賃料を争う場合も、争わない場合も、Yに当事者適格がある点は共通です。民法423条の5で、Yは、被代位権利を処分する権限を失わないからです。違いが出るのは、そのあとの、争うかどうかで決まる参加の要件です。

なお、このノートでは、第1でも第3でも、訴訟1の判決の効力は、民事訴訟法115条1項2号でYに及ぶ、としました。XとYの利害が対立しうる場面でも判決の効力がYに及ぶのか、そしてYのほかの債権者がどう関われるのかは、後編で扱います。

まとめ

完成答案:第1 Yの参加の形(当事者適格・規範) 図:完成答案:第1 Yの参加の形(当事者適格・規範)

こちらが、完成答案です。図と同じ文面を、本文でも置きます。それぞれの文面の前に、読むときに見てほしいところを、先に挙げます。第1は、Yの参加の形です。当事者適格を、民法423条の5の条文から書いて、そのあとに規範を立てているところを、見てみてください。

第1 Yの参加の形

1 当事者適格

 Yは被代位権利の主体であり、民法423条の5により、Xが代位権を行使しても、取立てその他の処分をすることを妨げられない。よって、Yには当事者適格がある。

2 権利主張参加に当たるか

(1) 問題の所在

 Yは、賃料債務の不存在の確認をXに、報酬の支払をZに求めて参加する。Yが「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者」(民事訴訟法47条1項)にあたるかが問題となる。

(2) 規範

 権利主張参加は、訴訟の目的についての権利をめぐる三者間の法律関係を矛盾なく解決する制度であるから、参加人の請求と本訴請求が、論理的に両立しえない関係に立つときに、この参加は認められる。債権者代位訴訟では、債務者が被保全債権の存在を争うときは、債権者の請求と債務者の請求は論理的に両立しえない。

完成答案:第1 Yの参加の形(あてはめ・二重起訴・結論) 図:完成答案:第1 Yの参加の形(あてはめ・二重起訴・結論)

第1の続きで、あてはめと、二重起訴と、結論です。賃料の弁済という事実から、両立しえない、までつなげているところを、確かめてみてください。

(3) あてはめ

 Yは、賃料180万円は弁済により存在しないとして、その不存在の確認を求める。Xの請求は、賃料債権の存在が前提であり、Yの請求が認められればXは前提を失う。よって、両者は論理的に両立しえない。

3 二重起訴にあたらないか

 Yの請求は、別訴ではなく、訴訟1への参加の形で立てられる。民事訴訟法47条4項、40条1項から3項までにより、併合審理が強制され、合一に確定するから、審判の重複や既判力の抵触などの弊害がない(最判昭和48・4・24)。よって、二重起訴(同法142条)にあたらない。

4 結論

 よって、Yは、権利主張参加ができる。

完成答案:第2 判決の内容(問題の所在・規範) 図:完成答案:第2 判決の内容(問題の所在・規範)

第2は、判決の内容です。まず、問題の所在と、規範です。規範の中で、債権者の訴えが却下になる理由と、債務者の請求が適法になる理由を、別の条文から書き分けているところを、見てみてください。

第2 判決の内容

1 問題の所在

 審理の結果、被保全債権である賃料180万円が存在しないと判断されたとき、Xの訴えとYの請求はそれぞれどう扱われるか。

2 規範

 債権者が代位できるのは被保全債権が存在するときであり(民法423条1項)、被保全債権を欠くとき、その代位訴訟は却下を免れず(最判昭和48・4・24)、債務者の請求は適法となる。債務者は、民法423条の5により処分権限を失っていないから、その請求は、理由があれば認容される。

完成答案:第2 判決の内容(あてはめ・結論) 図:完成答案:第2 判決の内容(あてはめ・結論)

第2の続きで、あてはめと結論です。Xの訴えが、棄却ではなく却下になる点を、確かめてみてください。

3 あてはめ

 (1) 賃料180万円は、令和7年4月14日に全額弁済されており、存在しない。よって、Xは被保全債権を欠き、当事者適格がない。

 (2) Yの賃料債務不存在確認の請求は、弁済により理由がある。

 (3) Zは報酬債権320万円の存在を争っておらず、被代位権利は存在する。Yは処分権限を失っていないから、ZにYへの支払を求める請求も理由がある。

4 結論

 よって、Xの訴えは却下され、Yの請求は認容される。

完成答案:第3 別件(問題の所在・規範・あてはめ・結論) 図:完成答案:第3 別件(問題の所在・規範・あてはめ・結論)

第3は、別件です。当事者適格と、合一にのみ確定すべき場合を、1つずつ当てて、権利主張参加との違いまで書いているところを、見てみてください。

第3 別件(Yが被保全債権を争わないとき)

1 問題の所在

 Yが被保全債権の存在を争わず、Zに対して自己への支払を求めて参加するとき、共同訴訟参加ができるかが問題となる。

2 規範

 共同訴訟参加(民事訴訟法52条1項)には、参加人に当事者適格があることと、訴訟の目的が当事者の一方と参加人について合一にのみ確定すべき場合(本訴の判決の効力が参加人と相手方の間にも及ぶ場合)であることが必要である。

3 あてはめ

 Yは被代位権利の主体であり、民法423条の5により処分の権限を失わないから、当事者適格がある。訴訟1の判決の効力は、民事訴訟法115条1項2号によりYに及び、Yは被保全債権を争わず、Xと利害が一致する。よって、合一にのみ確定すべき場合にあたる。

4 結論

 よって、Yは、共同訴訟参加ができる。権利主張参加と異なり、被保全債権の不存在確認は請求として立てられない。

参照条文

  • 民法423条1項
  • 民法423条の5
  • 民事訴訟法47条1項
  • 民事訴訟法52条1項

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