民訴ゼロから民事訴訟法 論文

債務不存在確認の訴えの書き方

水漏れ事故を起こしたとされる設備会社のXが、飲食店のYを相手に、金額を書かずに損害賠償債務の不存在確認を求めた事例を素材に、金額のない訴えが請求の特定を欠かないか、認定額が自認額を上回るときの主文をどう書くか、飲食店のYが一部請求の反訴を出したあと本訴の確認の利益がどの範囲で残るかを、答案の順に確かめます。

印刷用PDFを開く

ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

設備会社のXと飲食店のY、損害賠償債権の向き 図:設備会社のXと飲食店のY、損害賠償債権の向き

登場するのは、給排水設備の工事会社である設備会社のXと、雑居ビルの2階でラーメン店を営む飲食店のYです。令和7年11月11日、設備会社のXが、飲食店のYの店の給湯配管を交換する工事を終えました。その翌日の11月12日、配管の継手が外れて水があふれ、店の内装と厨房機器が水をかぶりました。飲食店のYは、2週間、営業を休みました。以下、これを本件事故と呼びます。

設備会社のXは、内装の復旧費180万円は、本件事故による損害で、自分に支払う義務があると認めています。まだ払っていないのは、保険会社の手続を待っているからです。一方で、厨房機器の損害と、営業を休んだ間の損害は、事故によるものではないと争っています。飲食店のYの言い分は、内装のほかに、厨房機器の損害も、営業を休んだ間の損害もある、というものです。ただし、その総額は、設備会社のXに示していません。

損害賠償を請求できると言っているのは、飲食店のYです。しかし、裁判を起こしたのは、飲食店のYではありません。起こしたのは、払う側とされた、設備会社のXです。

設備会社のXの本訴 図:設備会社のXの本訴

令和8年2月3日に、設備会社のXが、飲食店のYを被告として、地方裁判所に訴えを起こしました。これを、設備会社のXの本訴と呼びます。請求の趣旨は、令和7年11月12日の水漏れ事故に基づく、設備会社のXの飲食店のYに対する損害賠償債務は、存在しないことを確認する、というものです。金額は、書かれていません。請求の原因には、事故の日時と場所、工事の内容が書かれています。そして、内装の復旧費180万円は支払うべきものと認めるが、それを超える損害はない、とあります。

このように、債務を負うとされたほうが、その債務はない、と訴えると、債権の向きと、訴えの向きが逆になります。この形の訴えを、いくら払えと求める給付の訴えの反対の形で、債務不存在確認の訴えと呼びます。

審理が進み、令和8年9月15日に、口頭弁論は終結します。この設例で、問いは3つあります。1つめは、金額を書いていない設備会社のXの本訴は、適法なのか。2つめは、審理で債務の額が分かったとき、主文をどう書くのか。3つめは、判決の前に、飲食店のYが、逆に支払を求める反訴を出していたら、本訴はどうなるのか、です。これを、答案を書くときの頭の順に、当てていきます。

検討の順番

請求の特定から、反訴が出たあとの本訴まで 図:請求の特定から、反訴が出たあとの本訴まで

順番は3つです。まず、請求の特定です。134条2項を示して、金額のない本訴が適法かを検討します。次に、判決の内容です。反訴のない、もとの形で、認定した額から、主文を書き切ります。246条と判例を使います。最後に、そこへ反訴を足します。146条を示したうえで、本訴の確認の利益、つまり、確認判決をわざわざ出すだけの意味が、残るかを検討します。

請求の特定を先にするのは、入口の適法性だからです。訴えが審理に値しなければ、判決の内容を考える前に、そこで終わります。反訴を最後にするのも、理由があります。反訴を足すと、数字が動いて主文が変わります。先に、反訴のない形で主文を書き切っておくと、何がどう変わったかが、比べて見えます。では、請求の特定から入ります。

第1 請求の特定

金額のない本訴は、請求の特定を欠かないか 図:金額のない本訴は、請求の特定を欠かないか

債務不存在確認の訴えは、給付の訴えの反対の形です。審判対象にするのは、その債務、つまり債権の存否です。同じ債権をめぐって、給付の訴えは存在を、確認の訴えは不存在を、求めています。では、条文から入ります。

条文民事訴訟法134条2項

民事訴訟法第134条(訴え提起の方式)第2項
訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び原因

134条2項です。これは、音読すれば出てくる条文どおりの成立要件で、答案には条文番号を示せば足ります。条文が求めているのは、請求の趣旨と原因です。金額まで書け、とは書いていません。

給付の訴えでは、いくら払えと金額を書きます。給付の訴えは、いくら払えと求めることが、そのまま審判対象だからです。金額を示さなければ、何を判断すればよいのか決まりません。債務不存在確認は、事情が違います。求めるのは支払ではなく、債務がないことの確認だからです。そこで、請求の特定の趣旨に戻って考えます。問題は、請求の趣旨に金額が書かれていない設備会社のXの本訴が、請求の特定を欠いて、不適法にならないかです。規範を確かめます。

規範と答案の型|債務不存在確認の請求の特定 図:規範と答案の型|債務不存在確認の請求の特定

規範は、すぐあとに引用する最高裁の判決をこう読んで、導きます。債務不存在確認の訴えの申立ての範囲、つまり訴訟物は、請求の趣旨および請求の原因ならびに本件一件記録から確定されます。請求の趣旨、請求の原因、一件記録という3つが、判決の言葉です。一件記録は、訴状や書面、証拠のたぐいです。この設例で読むのは、請求の趣旨と原因です。

そのうえで、考え方です。債務の発生原因が特定されていれば、請求の趣旨に金額が無くても、請求は特定されていると考えられます。原告が、ここまでは債務があると自分で認めている額を、自認額と呼びます。自認額があるときは、債務の総額から自認額を除いた部分が、範囲になります。自認額も書かれていなければ、債務の総額が、範囲になります。

原因さえ書いてあれば特定されている、と言える理由は、請求の特定の趣旨に戻ると分かります。裁判所は、申し立てられたことについてだけ、判決をします。被告は、何が申し立てられたのかが分からなければ、反論の用意ができません。ですから、特定されているかは、被告が防御の仕方を決められるか、裁判所が審判対象を明確にできるか、この2つで測ります。債務不存在確認では、どの債務かが、原因で1つに決まれば、被告は、どの債務の不存在が問われているかが分かります。裁判所も、その債務がいくらまであるのかを審理すればよい、と分かります。金額が趣旨に無くても、この2つは満たせる、ということです。判決の原文を見ます。

判例最判昭和40・9・17 民集19巻6号1533頁

最高裁判所判決(貸金債務の一定額を超える債務の不存在確認を求めた事件)
本件請求の趣旨および請求の原因ならびに本件一件記録によると、上告人らが本件訴訟において本件貸金債務について不存在の確認を求めている申立の範囲

これは、債務者らが、貸金債務について、残存元本を超えて存在しないことなどの確認を求めた事件の判決です。引用した部分の外になりますが、事案はこうです。一人の債務者は、残額の上限を請求の趣旨に書いていました。他の債務者は、趣旨に、債務の不存在を確認する、とだけ書いていました。それでも、判決は、請求の趣旨、原因、一件記録から、貸金債務の元金から自認額を除いた残額を基礎に、不存在確認の範囲を読んでいます。あてはめに入ります。

本訴の範囲は、趣旨と原因から読む 図:本訴の範囲は、趣旨と原因から読む

事実です。請求の趣旨には、金額がありません。請求の原因には、令和7年11月12日の事故の日時、場所、給湯配管の交換工事という工事の内容と、内装の復旧費180万円は支払うべきものと認める、とあります。どの債務かは、日付と場所のある1つの事故で決まります。飲食店のYは、争われているのが、その事故に基づく損害賠償債務のうち、設備会社のXが認める180万円を除いた部分だと分かります。ですから、飲食店のYは、防御の仕方を決められます。裁判所も、180万円を超える部分に債務があるかを審理すればよい、と分かります。本訴の範囲は、本件事故に基づく損害賠償債務の総額から、自認額180万円を除いた部分、つまり180万円を超える部分です。この範囲で、特定されています。

金額が趣旨に無くても、答案では、適法と書き切ってよいのです。結論です。設備会社のXの本訴は、請求の趣旨に金額が無くても、請求が特定されていて、適法です。

第2 判決の内容

審理の結果は、認定額250万円 図:審理の結果は、認定額250万円

審理の結果です。内装の復旧費180万円は、争いがありません。厨房機器の損害は、事故によるものと認められて、70万円です。営業を休んだ間の損害は、事故との因果関係が認められず、0円です。ですから、認定した債務の総額は、180万円と70万円で、250万円です。以下、これを認定額と呼びます。設備会社のXの自認額は180万円でした。認定額250万円は、自認額180万円を上回ります。

ここで問題になるのは、裁判所は、設備会社のXの本訴を、理由なしとして、単純に棄却してよいか、です。250万円まで債務があるのだから、設備会社のXの言い分は通らない、と考えれば、棄却でよいようにも見えます。しかし、単純に棄却すると、180万円と250万円の差が判決のどこにも出ず、債務がいくらまであるのかが、判決に表れません。この点を、条文と判例で確かめます。

条文民事訴訟法246条

民事訴訟法第246条(判決事項)
裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。

246条です。これも条文どおりの成立要件で、答案には条文番号を示せば足ります。設備会社のXの申立ては、自認額180万円を超える部分の債務は存在しない、というものです。判決は、この申立ての範囲の中で書かなければなりません。問題は、認定額250万円が自認額180万円を上回るとき、申立ての範囲に収まる主文は何か、単純に棄却してよいのか、です。規範を確かめます。

規範と答案の型|一部認容の主文 図:規範と答案の型|一部認容の主文

規範は、こうです。債務不存在確認の申立ての範囲は、債権額から自認額を除いた残額の不存在確認で、裁判所は、貸金残額の存否ないしその限度を明確に判断しなければならない。存否ないしその限度を明確に、という部分が、判決の言葉です。貸金の事案です。

そのうえで、考え方です。損害賠償債務にも、同じ考え方が当てはまると考えられます。認定額が自認額を上回るときは、申立ての一部だけが理由がある、つまり一部認容です。認定額を限度に、それを超えて存在しない、と書きます。申立てを超える判断は、246条により許されません。主文の言い回しは、実務の書き方です。

一部認容にするなら、全部棄却にはなりません。判決の原文を見ます。

判例最判昭和40・9・17 民集19巻6号1533頁

最高裁判所判決(貸金債務の一定額を超える債務の不存在確認を求めた事件)
本件申立の範囲(訴訟)である前記貸金残額の存否ないしその限度を明確に判断しなければならないのに

判例最判昭和40・9・17 民集19巻6号1533頁

最高裁判所判決(貸金債務の一定額を超える債務の不存在確認を求めた事件)
残存額の不存在の限度を明確にしなかつたことは、上告人らの本件訴訟の申立の範囲(訴訟物)についての解釈をあやまり、ひいては審理不尽の違法をおかしたものというべく

引用した2つの部分の前後を補うと、こうなります。原審は、自認額を超えて債務が残ることは明らかだと述べて、請求を全部排斥しました。最高裁は、申立ての範囲である貸金残額の存否ないしその限度を、明確に判断しなければならないのに、残存額の不存在の限度を明確にしなかったのは、審理を尽くしていない違法、つまり審理不尽の違法だとして、破棄して差し戻しました。

ここに、単純棄却が誤りである理由があります。債務が残ると言うだけでは、いくらまで残っているのかが、判決から分かりません。この設例でも、飲食店のYは、損害の総額を示していません。争いの中心は、いくらなのかです。単純に棄却すれば、その争いが、決着しないまま残ります。限度を示さなければなりません。あてはめに入ります。

反訴がない場合の主文 図:反訴がない場合の主文

事実です。設備会社のXの申立ては、自認額180万円を超える債務は存在しない、というものです。認定額は、内装180万円と厨房機器70万円で、250万円です。認定額250万円は、180万円を上回ります。70万円分、つまり180万円を超え250万円までの部分は、債務が存在しますから、申立てのうち、この部分は理由がありません。250万円を超える部分は、債務が存在しません。この部分は、理由があります。つまり、申立ての一部だけが、認められます。

主文は、こうなります。設備会社のXの、本件事故に基づく飲食店のYに対する損害賠償債務は、250万円を超えて存在しないことを確認する。その余の請求を棄却する。

その余の請求として棄却されるのは、70万円分、つまり180万円を超え250万円までの部分です。債務が、250万円まであることが、主文から読み取れます。

場合分け:主文の書き分け 図:場合分け:主文の書き分け

認定額と自認額の関係で、主文の書き方が変わります。3つの場合を、表にまとめます。

1つめは、この設例の場合です。自認額180万円、認定額250万円で、一部認容です。

2つめは、仮に、設備会社のXが270万円まで認めていたとします。自認額が270万円で、認定額は250万円です。この場合の申立ては、270万円を超える部分は存在しない、というものです。そして認定額250万円は、270万円を下回りますから、申立ては、全部理由があります。全部認容で、主文は、270万円を超えて存在しないことを確認する、です。認定額は250万円ですが、主文に、250万円を超えて、とは書きません。認定額の250万円を限度に書けば、250万円を超え270万円までの20万円分についても、債務は無い、と判断することになります。そこは、設備会社のXが自分で認めていて、確認を求めていない部分です。申立てを超えることになると、考えられます。ですから、自認額を限度に書きます。

3つめは、請求の趣旨にも原因にも、債務の額も自認額も書いていない場合です。この場合の範囲は、第1で見たとおり、債務の総額です。控除する自認額が無いからです。認定額が250万円なら、250万円を超えて存在しないことを確認する、その余の請求を棄却する、と書きます。言葉は1つめと同じですが、棄却されるのは、0円から250万円までの全部です。認定額が0円なら、存在しないことを確認する、全部認容です。

結論です。反訴がない場合の設備会社のXの本訴は、一部認容です。主文は、250万円を超えて存在しないことを確認する、その余の請求を棄却する、です。申立ての範囲内ですから、246条に反しません。

第3 反訴が提起された場合の本訴

事故から口頭弁論の終結まで 図:事故から口頭弁論の終結まで

では、判決の前に、飲食店のYが反訴を出していたら、どうなるでしょうか。時系列を表で確認します。令和7年11月12日が本件事故、令和8年2月3日が設備会社のXの本訴です。ここに、令和8年4月14日、飲食店のYの反訴が加わります。令和8年9月15日に、口頭弁論が終結します。

設備会社のXの本訴と、飲食店のYの反訴 図:設備会社のXの本訴と、飲食店のYの反訴

飲食店のYの反訴は、設備会社のXが認める180万円を除いた、本件事故による損害の一部として、300万円を支払え、というものです。一部であることを、明示しています。審理の結果は、同じです。認定額は250万円です。

条文民事訴訟法146条1項

民事訴訟法146条(反訴)第1項
被告は、本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合に限り、口頭弁論の終結に至るまで、本訴の係属する裁判所に反訴を提起することができる。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 反訴の目的である請求が他の裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属するとき。
二 反訴の提起により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき。

146条1項です。要するに、被告は、本訴の目的である請求と関連する請求であれば、口頭弁論の終結に至るまで、本訴の係属する裁判所に、反訴を提起できます。ただし、他の裁判所の専属管轄に属するとき、著しく訴訟手続を遅滞させることになるときは、できません。条文どおりの成立要件です。

あてはめます。飲食店のYの反訴は、設備会社のXの本訴と、同じ事故に基づく請求ですから、関連しています。口頭弁論の終結前に、本訴の係属する裁判所へ提起されています。専属管轄や、手続を著しく遅らせる事情は、事例にありません。反訴は適法です。142条が禁じる二重起訴は、同じ事件について、別の訴えを更に起こすことです。反訴は、本訴と同じ手続の中で審理されますから、142条の問題にもなりません。

次に、本訴の確認の利益です。確認の利益を判断する観点はいくつかあり、そのうち、確認判決には強制執行する力が無いことを問題にするのは、方法選択の適否です。確認という方法を選ぶことが、紛争の解決にとって、適切かどうかを見る観点です。この観点が働く典型は、原告が、自分で給付の訴えを起こせるのに、確認を選んだ場合です。設備会社のXは、払う側ですから、給付の訴えは起こせません。本訴を起こすときは、確認を選ぶほかありませんでした。

ところが、飲食店のYの反訴で、同じ債務について、給付判決が出るようになります。給付判決は、強制執行ができます。そうすると、確認の訴えのままで、設備会社のXの本訴が意味を保てるのかが、問われます。反訴の給付判決で、最後まで決着が付くなら、確認の本訴を続ける意味は、薄れそうです。けれども、この設例の反訴は、一部の300万円だけです。

反訴が債務の一部しか請求していないときに、本訴がどうなるかが、ここでの論点です。反訴が出た場合については、最高裁の判例があります。ただ、その事案の反訴は、債権の一部だけを請求する一部請求とは書かれていません。この設例の反訴は、明示した一部請求です。本訴は、債務の総額のうち、180万円を超える部分を対象にしています。ですから、判例の射程の問題として、どの範囲で確認の利益を失うかを、立てます。規範を確かめます。

規範と答案の型|反訴後の本訴の確認の利益 図:規範と答案の型|反訴後の本訴の確認の利益

図の規範は、3行に分かれています。

1行めは、判例です。債務の不存在確認の訴えは、その債務の支払を求める反訴が提起されている以上、もはや確認の利益を認めることはできない。

2行めは、考え方です。判決は、理由を述べていません。理由は、こう説明されます。確認判決が持つのは、既判力、つまり、確定した判断を後から争えなくする力だけです。給付判決は、それに加えて、執行力、つまり、払われないときに強制執行で取り立てられる力を持ちます。給付の反訴で、紛争を最後まで解決できるなら、確認という方法を選ぶ適切さが、失われる、という説明です。

3行めは、一部請求の反訴の場合です。判決は、一部請求の反訴について、判断していません。この点は、判例の射程の問題として、本訴と反訴の重なる範囲に限って失うと考えられます。まず、判決の原文を見ます。

判例最判平成16・3・25 民集58巻3号753頁

最高裁判所判決(保険金支払債務の不存在確認の本訴に、保険金の支払を求める反訴が提起された事件)
保険金等の支払を求める反訴が提起されている以上,もはや確認の利益を認めることはできない

これは、生命保険金の支払債務の不存在確認を求める本訴に、同じ保険金の支払を求める反訴が提起されていた事件の判決です。引用した一文の外にある事件の結論を補うと、最高裁は、職権で、反訴が提起されている以上、本訴は確認の利益を欠くとして、訴えを却下しました。

では、この設例のように、反訴が明示された一部の300万円のときも、本訴は全部が却下になるのでしょうか。最高裁の判決は、反訴が一部請求の場合に本訴がどうなるかまでは、判断していません。そこで、考え方で詰めます。

債権の一部だけを請求する、と明示して訴えたときは、訴訟物になるのは、その一部だけです。これは、一部請求についての判例の立場です。ですから、反訴の訴訟物は、300万円分に限られます。執行力のある給付判決が得られるのは、その範囲だけです。その範囲では、確認判決を重ねて出す意味がありません。逆に、反訴の届かない部分は、反訴の判決の主文では、判断されません。そこに債務があるかどうかを、既判力をもって確定できるのは、本訴だけです。ですから、確認の利益を失うのは、本訴と反訴が重なる範囲に限ると、考えられます。仮に、飲食店のYが、損害の全部を請求していれば、判例のとおり、本訴は全体が却下になります。

ただし、この点は、判例の言明が無く、結論が分かれうるところです。本訴を全体として維持する答案も、ありえます。反訴が一部にとどまる以上、債務の全体を一度に確定できる本訴を、丸ごと残す意味がある、という理由づけです。どの立場でも、理由づけを書くことが要ります。ここでは、本訴と反訴が重なる範囲に限って失う、という立場で書き切ります。

金額の数直線:重なる範囲 図:金額の数直線:重なる範囲

数直線で見ます。0から、自認額の180万円まで。ここは、設備会社のXが認めている部分で、本訴の対象ではありません。本訴の対象は、180万円を超える部分です。飲食店のYの反訴は、自認額を除いた損害の一部として、300万円を請求しています。180万円までは、請求に入っていません。ですから、300万円は、180万円の上に積みます。180万円から480万円までの帯です。上の帯が本訴、下の帯が反訴です。重なるのは、180万円から480万円までの300万円分です。480万円を超える部分には、反訴の帯が届きません。この帯の置き方は、反訴の請求に、自認額を除いて、と書かれていることからの整理です。判決の言葉ではありません。

事実です。反訴は、300万円の一部請求で、一部であることを明示しています。本訴の範囲は、債務の総額から自認額を除いた部分です。

評価です。重なる300万円分は、反訴の給付判決で、最後まで決着が付きます。一方、480万円を超える部分は、反訴の判決の既判力が及びません。そこに債務が無いことは、反訴では確定されません。

当てはめです。重なる180万円から480万円までの部分は、方法選択が適切でなく、確認の利益を失います。480万円を超える部分は、確認の利益が残ります。

結論:本訴と反訴の主文 図:結論:本訴と反訴の主文

結論を、主文まで書き切ります。まず、本訴です。重なる180万円から480万円までの部分は、訴えを却下します。確認の利益がないからです。480万円を超える部分は、適法で、本案に進みます。認定額は250万円で、480万円に届きません。480万円を超える債務は存在しませんから、この部分は認容します。本訴の主文は、一例として、こう書きます。設備会社のXの、本件事故に基づく飲食店のYに対する損害賠償債務は、480万円を超えて存在しないことを確認する。本訴のうち、反訴請求に係る部分、つまり、180万円を超え480万円までの部分に係る訴えを却下する。

次に、反訴です。自認額を除く認定額は、250万円から180万円を引いた、70万円です。請求は300万円ですから、そのうち70万円を認容して、残りの230万円を棄却します。主文は、設備会社のXは、飲食店のYに70万円を支払え。飲食店のYのその余の請求を棄却する。です。

審理で分かった債務は、250万円まででした。250万円から480万円までの部分は、反訴では、300万円のうち230万円の棄却として現れる、と整理できます。180万円から250万円までは、70万円の認容です。250万円から480万円までは、230万円の棄却です。重なる範囲は、反訴の判決が、債務のある部分と無い部分を分けている、と考えられます。

反訴がなければ、本訴の主文は、250万円を超えて、でした。反訴があると、本訴は、反訴と重なる範囲の訴えが却下になりますから、認容される範囲が、250万円を超える部分から、480万円を超える部分へ動きます。却下されるのは訴え、棄却されるのは請求、と書き分けます。

まとめ

完成答案:第1 請求の特定 図:完成答案:第1 請求の特定

こちらが、完成答案です。第1は、請求の特定です。請求の趣旨に金額が無いことを問題にして、規範を、判決の言葉を使って書いています。あてはめでは、請求の原因の事実から、自認額を除いた部分が範囲だと、導いています。図と同じ文面を、本文でも置きます。

第1 請求の特定

1 問題の所在

 本訴の請求の趣旨には、債務の額が記載されていない。民事訴訟法134条2項は、訴状に請求の趣旨及び原因を記載すべきことを定めるが、金額までは求めていない。そこで、本訴の請求が特定されているかが問題となる。

2 規範

 債務不存在確認の訴えの申立ての範囲(訴訟物)は、請求の趣旨および請求の原因ならびに本件一件記録から確定される(最判昭和40年9月17日)。債務の発生原因が特定されていれば、請求の趣旨に金額がなくても、請求は特定されていると考える。自認額があるときは、債務の総額から自認額を除いた部分が範囲となる。

3 あてはめ

 (1)請求の趣旨は、令和7年11月12日の水漏れ事故に基づく損害賠償債務の不存在の確認であり、金額の記載はない。しかし、請求の原因には、事故の日時、場所及び工事の内容が記載され、内装の復旧費180万円は支払うべきものと認める旨が記載されている。

 (2)よって、被告である飲食店のYは、本件事故に基づく損害賠償債務のうち、自認額180万円を除く部分が争われていると理解でき、防御の仕方を決めることができる。裁判所も、審判の対象を明確にすることができる。本訴の範囲は、債務の総額から180万円を除いた部分である。

4 結論

 したがって、本訴は請求が特定されており、適法である。

完成答案:第2 判決の内容(反訴がない場合) 図:完成答案:第2 判決の内容(反訴がない場合)

第2は、反訴がない場合の判決の内容です。認定額が自認額を上回るのに、単純に棄却しない理由を書いています。規範は、貸金残額の存否ないしその限度という、判決の言葉で書いています。あてはめでは、70万円と、250万円を超える部分に、振り分けています。結論の主文にある「債務は」は、設備会社のXの、本件事故に基づく飲食店のYに対する損害賠償債務のことです。図と同じ文面を、本文でも置きます。

第2 判決の内容(反訴がない場合)

1 問題の所在

 審理の結果、本件事故に基づく損害賠償債務の額は250万円と認められ、自認額180万円を上回る。裁判所は、当事者が申し立てていない事項について判決をすることができない(民事訴訟法246条)。そこで、申立ての範囲に収まる主文をどう書くか、単純に請求を棄却してよいかが問題となる。

2 規範

 債務不存在確認の訴えの申立ての範囲は、債権額から自認額を除いた残額の不存在確認であり、裁判所は、貸金残額の存否ないしその限度を明確に判断しなければならない(最判昭和40年9月17日)。この考え方は、損害賠償債務の不存在確認にも当てはまると考える。認定額が自認額を上回るときは、申立ての一部のみが理由があるから一部認容とし、認定額を超えて存在しないことを確認する。

3 あてはめ

 (1)設備会社のXの申立ては、自認額180万円を超える債務が存在しないことの確認である。認定額は、内装の復旧費180万円と厨房機器の損害70万円の合計250万円で、営業を休んだ間の損害は事故との因果関係が認められない。認定額250万円は自認額180万円を上回る。

 (2)180万円を超え250万円までの70万円分は債務が存在するから、申立てのうちその部分は理由がない。250万円を超える部分は債務が存在しないから、理由がある。単純に請求を棄却すると、債務がいくらまで存在するのかが判決から明らかにならず、限度を明確にしたことにならない。

4 結論

 よって、主文は、「債務は、250万円を超えて存在しないことを確認する。その余の請求を棄却する。」となる。申立ての範囲内であり、246条に反しない。

完成答案:第3 反訴が提起された場合の本訴(問題の所在・規範) 図:完成答案:第3 反訴が提起された場合の本訴(問題の所在・規範)

第3は、反訴が提起された場合の本訴です。まず、問題の所在と規範です。反訴の適法性を、条文番号つきで短く確認してから、確認の利益の問題に入ります。規範は、アの判例と、イの一部請求の反訴に分けて、書いています。図と同じ文面を、本文でも置きます。

第3 反訴が提起された場合の本訴

1 問題の所在

 飲食店のYは、自認額180万円を除く本件事故による損害の一部として300万円の支払を求める反訴を提起した。反訴は、本訴の目的である請求と関連する請求であり、口頭弁論の終結前に、本訴の係属する裁判所に提起され、専属管轄や著しい手続の遅滞の事情もないから、適法である(民事訴訟法146条1項)。そこで、給付の反訴が提起された場合に、債務不存在確認の本訴の確認の利益が保たれるか、反訴が一部請求のときにどの範囲で失うかが問題となる。

2 規範

 ア 債務の不存在確認の訴えは、その債務の支払を求める反訴が提起されている以上、もはや確認の利益を認めることはできない(最判平成16年3月25日)。給付判決は確認判決にない執行力を持ち、給付の反訴で紛争を最後まで解決できるから、確認という方法を選ぶ適切さが失われるためと説明される。

 イ 反訴が明示的な一部請求のときは、反訴の訴訟物は明示された一部に限られる。執行力のある給付判決が得られるのはその範囲に限られるから、本訴と反訴が重なる範囲に限って確認の利益を失うと考える。

完成答案:第3 反訴が提起された場合の本訴(あてはめ・結論) 図:完成答案:第3 反訴が提起された場合の本訴(あてはめ・結論)

第3の続きで、あてはめと結論です。あてはめでは、反訴の300万円を、本訴の範囲に重ねて、180万円から480万円までの帯を導いています。結論では、本訴は、反訴と重なる部分の訴えを却下、480万円を超える部分を認容、反訴は、70万円を認容して230万円を棄却、と振り分けています。480万円を超える部分を認容するのは、認定額が250万円で、480万円を超える債務は存在しないからです。却下は訴え、棄却は請求、と書き分けています。図と同じ文面を、本文でも置きます。

3 あてはめ

 (1)反訴は、自認額180万円を除く損害の一部として300万円を請求するもので、一部であることが明示されている。したがって、反訴の訴訟物は300万円分に限られる。

 (2)本訴の範囲は、債務の総額から180万円を除いた部分である。そのうち、反訴と重なるのは、180万円を超え480万円までの300万円分である。この部分は、反訴の給付判決で解決できるから、確認の利益を欠く。480万円を超える部分は、反訴の判決の既判力が及ばず、反訴では確定されないから、確認の利益が残る。

4 結論

 よって、本訴のうち、180万円を超え480万円までの部分に係る訴えは却下する。480万円を超える部分は、認定額250万円が480万円に届かないから、480万円を超えて存在しないことを確認する。反訴は、自認額を除く認定額が70万円であるから、70万円の支払を命じ、その余の230万円の請求を棄却する。

最後に、全体を通して、請求の特定から、反訴がない場合の主文、反訴が出たあとの主文まで、1本の線でつながっているかを、見直してみてください。

参照条文

  • 民事訴訟法134条2項
  • 民事訴訟法246条
  • 民事訴訟法146条1項

民事訴訟法 全体ロードマップへ →