権利能力なき社団の当事者適格の書き方
ビルに入居する事業者の会であるJ会が、元会長の個人名義で登記された乙地について、会員全員の総有に属することの確認を、会長のLを代表者として求めた事例を素材に、法人でない会が当事者になれるか、会員全員の土地の確認を会が原告になって求められるか、代表者に総会の議決による授権が要るかを、当事者能力・当事者適格・代表者の授権の順に検討し、答案の形にまとめます。
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事例
図:J会・会長のL・元会長のNと乙地の請求
Xは、ビルのオーナーです。令和元年4月、このビルに入居する事業者の有志が、J会という会を作りました。結成した時の会員は、28名です。共用の資材置場と駐車場を運営して、備品を共同で購入しています。J会は、法人ではありません。その後、新しく加わった人が14名、退会した人が6名いて、令和7年4月の時点で、会員は36名です。28足す14引く6で、36です。結成した時からの会員のうち、24名は、今も在籍しています。会員は、個人事業者か、会社です。
図:J会の会則の要点
J会には、結成の時に決めた会則があって、その後、改正していません。要点は四つです。一つめは総会です。年に1回、毎年6月に定時総会を開き、必要があれば臨時総会を開きます。会員の過半数が出席すれば成立し、議決は、出席した会員の過半数です。ただし、不動産の取得や処分は、出席した会員の4分の3以上の賛成が要ります。二つめは役員です。会長1名、会計1名、幹事若干名で、毎年の定時総会で選ばれ、任期は1年です。会長が会を代表します。三つめは会費で、月額1万円です。会計が、J会の預金口座で管理して、毎年の定時総会で決算を承認します。四つめは、新しく加わる時と退会の時の定めです。加わるには、幹事会の承認が要り、退会は届出で足ります。そして、会員は、会の財産について持分を持たず、分割を請求できません。退会しても、会の財産の返還を請求できません。
図:事件の時系列
令和3年3月、J会は、Xのビルの裏手にある空き地、乙地を、前の地主から買いました。買う時には、総会で議決をして、4分の3以上の賛成を得ています。代金500万円は、会費の積立金です。J会は、法人でなく、自分の名前では登記ができないので、当時の会長だった、Nの個人名義で、所有権移転登記をしました。購入のあと、会員は、乙地を資材置場として、共同で使ってきました。
令和6年6月の定時総会で、会長が、Nから、Lに替わりました。Lは、総会で選ばれています。翌月の7月に、Nは退会しました。令和7年2月、元会長のNは、「乙地は、私が自分の資金で買った私の土地だ。会のものではない」と言って、乙地の鍵を替えて、会員を立ち入らせなくなりました。
同年4月の臨時総会で、会員36名のうち27名が出席しました。過半数の出席です。議案は、「乙地がJ会の会員全員の総有に属することの確認を、元会長のNに求める訴えを、J会が原告となって提起し、会長のLが会を代表して追行する」です。総有は、会員全員が、団体として共同で持つ形のことです。賛成は22名、反対は5名で、可決されました。反対した会員の中には、「話し合いで済ませるべきだ」と述べた人もいました。令和7年5月、J会は、代表者の会長のLが、元会長のNを被告として、乙地が会員全員の総有に属することの確認を求める訴えを、地方裁判所に提起しました。
元会長のNは、乙地が誰のものかという中身に入る前に、この訴えそのものが許されない、と主張します。中身の審理である本案に、入る前の主張です。三つあります。一つめは、「J会は仲間の集まりにすぎず、訴訟の当事者になれる団体ではない」。二つめは、「乙地が会員全員のものだと言うなら、会員全員が原告になるべきで、J会は原告になれない」。三つめは、「会長のLには、会を代表して、この訴訟を追行する権限がない。会員の中にも、訴えに反対した者がいる」です。
問いは、この訴えは適法か、です。乙地が、本当に会員全員の総有かどうかは、本案の問題で、ここでは問いません。元会長のNの主張は三つありますから、どれから考えるか、順番を決めるところから、始めます。
検討の順番
図:団体が原告になる事件の3つの関門
順番は、当事者能力、当事者適格、代表者の授権です。当事者能力は、どんな請求かに関係なく、その団体が、そもそも当事者になれるかという、入口の資格です。当事者適格は、この請求について、誰が原告になるのが適切かを問います。J会が、そもそも当事者になれない団体なら、J会が適切かどうかを考えるまでもなく、訴えは、中身の審理に入らずに却下されます。ですから、当事者能力が先です。最後が、代表者の授権です。会長のLの権限は、J会の訴訟を動かす権限ですから、J会が原告になれると決まってから、問う意味があります。元会長のNの三つの主張は、順に、この三つに対応します。
入口の資格、この事件についての資格、訴訟を動かす人の権限の順に、三つの関門を通ります。では、当事者能力から見ていきます。
第1 当事者能力
図:J会は仲間の集まりにすぎないのか
元会長のNは、J会は仲間の集まりにすぎず、訴訟の当事者になれる団体ではない、と言います。当事者能力を欠けば、訴えは却下されます。J会は、当事者になれる団体でしょうか。条文を確認します。
条文民事訴訟法29条
民事訴訟法第29条(法人でない社団等の当事者能力)
法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。
29条です。法人でない社団で、代表者の定めがあるものは、その名前で、訴え、又は訴えられることができます。ここは、条文に書いてあるとおりの要件で、成立要件と呼びます。解釈で言葉を補わなくてよいので、答案には、条文番号を示せば足ります。この条文の主眼は、団体と取引した相手方の便宜です。構成員全員を探し出さなくても、団体を相手にすれば足りるからです。同時に、団体自身が、その名前で訴えることもできます。条文が、訴え、又は訴えられる、と両方書いているのは、そのためです。ですから、団体が原告になる、この事例にも使えます。
では、法人でない社団とは、どんな団体のことでしょうか。条文には書いてありません。社団といえる団体の範囲は、解釈で決まります。判例が言葉を示していて、これが規範です。
図:規範と答案の型|法人でない社団
規範は、こうです。法人でない社団といえるには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織において、代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していなければならない。要件は、四つです。組織、多数決、存続、主要な点の確定です。
判例最判平成14・6・7 民集56巻5号899頁
最高裁判所判決(預託金会員制のゴルフクラブが、民訴法29条の社団に当たるかが争われた事件)
民訴法29条にいう「法人でない社団」に当たるというためには,団体としての組織を備え,多数決の原則が行われ,構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定していなければならない
判決の原文です。ゴルフクラブが、当事者になれるかが争われた事件です。この四つの要素は、住民の団体についての別の最高裁の判決が挙げたものと、細かな言い回しの違いはあっても同じ中身で、ゴルフクラブの判決は、それを、29条の社団の基準として述べています。四つの要素には、学説が整理し直した呼び名もあります。中身は同じですから、答案には、もとになった判決の言葉で書きます。
なぜ、この四つなのでしょうか。団体の名前で判決を受ける以上、会員一人ひとりとは別に、団体として決めて、団体として続く実体が要るからです。組織と多数決は、団体として決める仕組みで、存続と主要な点の確定は、人が替わっても同じ団体でいるための仕組みだと考えられます。財産の面について、判決は、この四つの要素に続けて、こう述べています。固定資産がなくても、団体として活動するのに必要な収入を得る仕組みと、その収支を管理する体制があれば、他の事情と合わせて、総合的に、社団と認められる場合がある。J会は、預金口座を持っているので、この点は、深く立ち入らずに済みます。
四つの要件は、どう見分けるのでしょう。毎週集まる飲み会の仲間のように、人が定期的に集まっているというだけでは、社団にはなりません。例えば、会則も役員もなく、毎回、集まる人も、決め方も違う、飲み会の幹事グループは、組織も、存続も、主要な点の確定も欠けて、社団とはいえません。J会は、会則と役員があり、人が入れ替わっても同じ会として続いている点で、このような集まりとは違います。
図:あてはめ、法人でない社団
あてはめます。組織です。J会には、会則があり、総会と、会長、会計、幹事の役員がいます。意思決定のルールと、役員が定まっています。多数決の原則です。総会は、過半数の出席で成立して、議決は、出席した会員の過半数、不動産は4分の3以上で、多数決で決めています。存続です。結成時の28名が、新しく加わった人と退会した人で、36名に変わり、会長も、Nから、Lに替わりました。それでも、同じJ会として続いていて、結成時の会員も、24名が在籍しています。人が入れ替わっても、会の同一性が保たれています。主要な点の確定です。会長が会を代表し、総会の運営は会則で定まり、会計がJ会の預金口座で会費を管理して、毎年決算を承認します。代表、総会、財産の管理が、会則で確定しています。ですから、J会は、親睦の集まりではなく、会員とは別に、団体として動く実体を持ちます。四つの要件を、すべて充たします。
条文の要件も、見ます。会長が会を代表すると会則にあり、現会長は、Lですから、代表者の定めがあります。したがって、J会は、29条の法人でない社団で、当事者能力があります。元会長のNの主張の一つめは、認められません。なお、問題文に、当事者能力を有することを前提とする、と書いてあれば、当事者能力の検討は一行で済ませられます。
第2 当事者適格
図:会員全員のものなら、会員全員が原告か
当事者能力と当事者適格の違いを、もう一度確かめます。当事者能力が先で、入口の資格です。当事者適格は、この事件についての資格です。ですから、J会に、当事者能力があっても、この請求で、J会が原告になってよいかは、別に問われます。これが、元会長のNの二つめの主張です。Nは、会員全員のものなら、会員全員が原告になるべきだ、と言います。
まず、前提です。法人でない団体は、団体そのものが、財産の持ち主になることができません。そうすると、会の財産の持ち主は、会員ということになります。ただ、会員一人ひとりが取り分を持つのではなく、会員全員が、団体の規律に従って、共同で持ちます。この形を、総有といいます。最高裁も、権利能力のない社団の資産は、構成員に総有的に帰属する、と述べています。権利能力のない社団は、法人でない社団を、民法の側から呼ぶ名前で、同じものです。J会の会則の四つめが、持分なし、分割請求できない、退会しても返還を請求できない、という定めで、総有の事実にあたります。
図:規範と答案の型|総有権確認の原告適格
規範は、こうです。当事者適格は、誰が当事者として訴訟を追行し、誰に対して本案判決をするのが、紛争の解決のために必要で有意義か、という観点から決まります。そのうえで、権利能力のない社団は、構成員全員の総有に属する不動産について、これを争う者を被告とする、総有権確認の訴訟を追行する原告適格を有すると解されます。理由として、判決は、入会権が、持分のない、団体的色彩の濃い共同所有の形であることを挙げ、団体が当事者になって判決を受けるのが、紛争を複雑化、長期化させずに解決するために適切だとしています。
判例最判平成6・5・31 民集48巻4号1065頁
最高裁判所判決(村落の住民が作る入会団体が、土地の総有権の確認を求めた事件)
村落住民が入会団体を形成し、それが権利能力のない社団に当たる場合には、当該入会団体は、構成員全員の総有に属する不動産につき、これを争う者を被告とする総有権確認請求訴訟を追行する原告適格を有するものと解するのが相当である。けだし、訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について、誰が当事者として訴訟を追行し、また、誰に対して本案判決をするのが紛争の解決のために必要で有意義であるかという観点から決せられるべき事柄であるところ、入会権は、村落住民各自が共有におけるような持分権を有するものではなく、村落において形成されてきた慣習等の規律に服する団体的色彩の濃い共同所有の権利形態であることに鑑み、入会権の帰属する村落住民が権利能力のない社団である入会団体を形成している場合には、当該入会団体が当事者として入会権の帰属に関する訴訟を追行し、本案判決を受けることを認めるのが、このような紛争を複雑化、長期化させることなく解決するために適切であるからである。
判決の原文です。村落の住民が作る、入会団体についての判決です。途中の、けだし、は、なぜなら、という意味です。注意してほしいのは、事案が、入会団体だということです。ですから、判決が直接言っているのは、入会団体に原告適格がある、というところまでです。
では、J会のような、ビルの事業者の会にも、同じことが言えるのでしょうか。入会団体以外の社団にまで、判決が直接言っているわけではありません。ただ、決め手は、理由の部分にあります。総有で、会員に持分がなく、団体的色彩が濃い点は、入会団体も、J会も同じです。そうである以上、一般の権利能力のない社団にも、同様に解されると考えられます。答案には、判例の主語で断定せず、同様に解される、と書きます。
境界の外側も、考えておきます。会員が各自の持分を持つ共有の土地なら、団体的色彩は薄く、社団が原告になる理由は弱くなる、と考えられます。J会の乙地は、持分がなく、分割も返還も請求できない点で、こちらではありません。
もう一つ、判決が述べていないことがあります。社団が原告になる、その法律構成です。社団が、自分自身の資格として訴えるのか、構成員に代わって訴えるのかを、判決は述べていません。学説も、見方が分かれます。どちらの見方でも、当事者になるのは、社団自身です。答案には、社団自身が当事者になる、と書けば足ります。
図:あてはめ、総有権確認の原告適格
あてはめます。乙地は、会費の積立金で買い、会員は、持分を持たず、分割も、返還も請求できません。会員が、共同で資材置場に使ってきました。J会が主張しているのは、会員全員の総有という、団体的色彩の濃い権利です。そして、登記名義は元会長のN個人で、Nは、自分の土地だと争っています。会員は36名です。乙地が会員全員のものかどうかを、争っているNとの間で、一度に決めるには、36名全員を原告にそろえるよりも、J会が当事者になって、本案判決を受けるほうが、紛争を複雑化、長期化させずに解決できます。したがって、J会は、乙地の総有権確認訴訟を追行する原告適格を有すると考えられます。判例は入会団体の事案ですが、J会にも同様に解されます。元会長のNの二つめの主張は、認められません。
第3 代表者の授権
図:会長のLに、この訴訟を追行する権限はあるか
29条で当事者能力が認められた団体の訴訟を、実際に追行するのは、代表者です。法定代理人の規定が準用されて、代表者が法定代理人として訴訟を追行します。条文を確認します。
条文民事訴訟法37条
民事訴訟法第37条(法人の代表者等への準用)
この法律中法定代理及び法定代理人に関する規定は、法人の代表者及び法人でない社団又は財団でその名において訴え、又は訴えられることができるものの代表者又は管理人について準用する。
37条です。法定代理人の規定は、法人でない社団で、その名前で訴え、又は訴えられることができるものの代表者について、準用されます。ここも、条文どおりの成立要件です。代表者が、訴訟を動かします。ただ、代表権の範囲は、団体ごとに違います。J会の会則には、会長が会を代表する、とだけあります。それでも、元会長のNは、会長のLに権限がない、と言い、会員の中にも、訴えに反対した人がいる、と指摘します。代表権のほかに、特別の授権が要るのか。構成員の一部が反対していても足りるのか。これが問題です。
図:規範と答案の型|代表者の授権
規範は、こうです。社団の代表者が、構成員全員の総有に属する不動産について、総有権確認の訴訟を、原告の代表者として追行するには、規約等において、その不動産を処分するのに必要とされる、総会の議決等の手続による授権が要ると解されます。理由は三つです。確定判決の効力が、構成員全員に及ぶこと。社団が負ければ、構成員全員の総有権を失わせる処分をしたのと、事実上同じ結果になること。そして、代表権の範囲は団体ごとに異なり、当然には、一切の裁判上、裁判外の行為に及ぶとは考えられないことです。
判例最判平成6・5・31 民集48巻4号1065頁
最高裁判所判決(村落の住民が作る入会団体の代表者が、土地の総有権確認の訴えを追行できるかが争われた事件)
そして、権利能力のない社団である入会団体の代表者が構成員全員の総有に属する不動産について総有権確認請求訴訟を原告の代表者として追行するには、当該入会団体の規約等において当該不動産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要するものと解するのが相当である。けだし、右の総有権確認請求訴訟についてされた確定判決の効力は構成員全員に対して及ぶものであり、入会団体が敗訴した場合には構成員全員の総有権を失わせる処分をしたのと事実上同じ結果をもたらすことになる上、入会団体の代表者の有する代表権の範囲は、団体ごとに異なり、当然に一切の裁判上又は裁判外の行為に及ぶものとは考えられないからである。
判決の原文です。授権の中身は、規約等で、不動産を処分するのに必要とされる、総会の議決等の手続です。全員一致とも、構成員全員の同意とも、言っていません。この判決の事案では、訴えを起こした団体の代表者である組合長が、訴えの提起に先立って、財産処分に規約上必要な総会の議決による承認を得ていました。
会長が会を代表するのに、なぜ総会の議決まで必要なのでしょうか。訴えを起こすこと自体は、土地を売ることではありません。けれども、確定した判決の効力は、会員全員に及びます。負ければ、会員全員が、その結論に縛られ、事実上、総有権を失わせる処分をしたのと、同じ結果になります。そこで、判決は、土地を処分するときに要る手続を、訴えるときにも求めました。しかも、会長の代表権は、会員全員の総有だと主張する土地を賭ける裁判にまで、当然に及ぶとは限りません。会長が総会を通さず、独断で起こした訴えなら、授権を欠くことになります。J会の会則では、不動産の処分に4分の3以上の議決が要りますから、総有権確認の訴えにも、この手続による授権が要ると考えられます。
ここも、判例は入会団体の事案です。総有で、敗訴が処分と同じ結果になる点は、J会も同じですから、同様に解されると考えられます。また、提訴に反対した会員がいる場合を、判決は直接判断していません。ただ、判決が求めたのは、処分に必要な手続で、全員の同意ではありませんでした。土地を売ること自体が、規約の多数決で決められるのなら、負ければ処分と事実上同じ結果になる訴えも、同じ手続で決められるはずです。ですから、反対者がいても、規約の手続を満たしていれば足りると考えられます。答案では、入会団体でない社団にも同様に解されることと、反対者がいても規約の手続を満たしていれば足りることの二つは、判例の主語で言い切らず、と考える、で結びます。
図:あてはめ、代表者の授権
あてはめます。会則は、不動産の処分に、出席会員の4分の3以上の賛成を求めています。令和7年4月の臨時総会には、36名中27名が出席して、賛成は22名、反対は5名でした。出席27名の4分の3は、20名と少しですから、必要なのは21名以上で、足りています。提訴は、その翌月の5月で、総会のあとです。訴えの提起に先立って、議決がありました。議案も、J会が原告となり、会長のLが会を代表して追行する、というものです。乙地で負ければ、会員全員の総有権を失うので、処分と事実上同じ結果になり、処分に必要な手続が要ります。決議は、その要件を充たしています。
反対した5名には、話し合いで済ませるべきだ、と述べた人もいました。けれども、J会の会則は、不動産を処分することも、出席した会員の4分の3以上の賛成で決められるとしていて、全員の同意までは求めていません。一人の反対で訴えられなくなるなら、全員一致を求めるのと同じになってしまいます。ですから、反対した5名も、会則の多数決で決まった以上、会としての意思決定に服すると考えられます。したがって、会長のLは、規約上必要な総会の議決による授権を得て、訴訟を追行していて、授権の要件を満たします。元会長のNの三つめの主張も、認められません。
まとめ
図:3つの関門の結論
結論です。J会には、当事者能力があり、乙地の総有権確認の原告適格があると考えられ、会長のLには、反対した会員がいても、規約上必要な総会の議決による授権があると考えられます。三つの関門を通りましたから、J会の訴えは、適法です。乙地が、本当に会員全員の総有かどうかは、本案で判断されます。
図:完成答案:第1 当事者能力(1問題の所在・2規範)
こちらが、完成答案です。第1は、J会の当事者能力で、元会長のNの、仲間の集まりにすぎない、という主張を受ける部分です。まず、問題の所在と、規範です。29条の条文の要件と、判例の四つの要素が、一続きに書かれています。図と同じ文面を、本文でも置きます。
第1 J会に当事者能力は認められるか
1 問題の所在
J会は法人でない団体であり、Nは、仲間の集まりにすぎないと主張する。J会が民事訴訟法29条の「法人でない社団」に当たり、当事者能力が認められるかが問題となる。
2 規範
同法29条は、法人でない社団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができると定める。「法人でない社団」といえるには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していなければならないと解する。
※ 問題文が当事者能力を前提とする旨を指示しているときは、第1は省いてよい
図:完成答案:第1 当事者能力(3あてはめ・4結論)
第1の続きで、あてはめと結論です。四つの要件に、事実が一つずつ対応しています。組織、多数決、存続、主要な点の確定の順に、事実が拾われています。結論には、代表者の定めも入っています。図と同じ文面を、本文でも置きます。
3 あてはめ
(1)J会には会則があり、総会と、会長・会計・幹事の役員が置かれているから、団体としての組織を備えている。
(2)総会は会員の過半数の出席で成立し、議決は出席会員の過半数(不動産の取得・処分は4分の3以上)によるから、多数決の原則が行われている。
(3)結成時の28名から、入退会により36名となり、会長もNからLに交代したが、同じJ会として続いているから、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続している。
(4)会長が会を代表し、総会の運営は会則で定まり、会計がJ会の預金口座で会費を管理して毎年決算を承認するから、主要な点が確定している。
4 結論
よって、J会は同法29条の「法人でない社団」に当たり、会長が会を代表する旨の定めもあるから、当事者能力が認められる。
⇒ 29条の社団→当事者能力あり
図:完成答案:第2 当事者適格(1問題の所在・2規範)
第2は、当事者適格で、元会長のNの、会員全員が原告になるべきだ、という主張を受ける部分です。まず、問題の所在と、規範です。一般準則、判例の結論と理由、そして、入会団体でない社団への、同様に解されると考える、で結ぶ一文が、順に並んでいます。判例の部分と、考え方の部分の境目に注意して読みます。図と同じ文面を、本文でも置きます。
第2 J会に当事者適格(原告適格)は認められるか
1 問題の所在
Nは、乙地が会員全員のものならば会員全員が原告になるべきで、J会は原告になれないと主張する。J会は、乙地が会員全員の総有に属することの確認を求める訴えについて、当事者適格を有するかが問題となる。
2 規範
(1)当事者適格は、特定の訴訟物について、誰が当事者として訴訟を追行し、また、誰に対して本案判決をするのが紛争の解決のために必要で有意義であるかという観点から決せられる。
(2)最高裁は、入会団体が権利能力のない社団に当たる場合には、構成員全員の総有に属する不動産につき、これを争う者を被告とする総有権確認請求訴訟を追行する原告適格を有するとした(最判平成6年5月31日)。入会権は持分のない団体的色彩の濃い共同所有の形であり、団体が当事者として本案判決を受けることが紛争を複雑化、長期化させることなく解決するために適切だからである。
(3)この理由は、入会団体でない権利能力のない社団にも当てはまるから、同様に解されると考える。
図:完成答案:第2 当事者適格(3あてはめ・4結論)
第2の続きで、あてはめと結論です。総有の事実が一つめ、紛争を解決する観点からの評価が二つめに置かれています。登記名義と、会員の人数が、どう使われているかを、確かめてみてください。図と同じ文面を、本文でも置きます。
3 あてはめ
(1)乙地は会費の積立金で買ったもので、会員は持分を持たず、分割も、退会しての返還も請求できず、会員が共同で資材置場として使ってきた。J会が主張するのは、会員全員の総有という、団体的色彩の濃い権利である。
(2)Nは、乙地を自分の土地だと争っており、登記名義もN個人にある。会員は36名おり、乙地の帰属を争うNとの間で一度に決するには、全員を原告にそろえるよりも、J会が当事者として本案判決を受けるのが、紛争を複雑化、長期化させずに解決するために適切である。
4 結論
よって、J会は、乙地の総有権確認請求訴訟を追行する原告適格を有すると考える。
⇒ 総有で団体が当事者になるのが適切→原告適格あり
図:完成答案:第3 代表者の授権(1問題の所在・2規範)
第3は、代表者の授権で、元会長のNの、会長のLに権限がない、という主張を受ける部分です。まず、問題の所在と、規範です。37条による代表者の訴訟追行から入り、授権が要る理由を先に挙げて、判例の規範に進みます。理由が、規範の前に置かれています。図と同じ文面を、本文でも置きます。
第3 会長のLは訴訟を追行する権限を有するか
1 問題の所在
民事訴訟法37条により、法人でない社団の代表者は、法定代理人として訴訟を追行する。Nは、会長のLに権限がなく、会員の中にも訴えに反対した者がいると主張する。代表者が総有権確認訴訟を追行するのに、代表権のほかに特別の授権が必要か、構成員の一部が反対していても足りるのかが問題となる。
2 規範
総有権確認請求訴訟の確定判決の効力は構成員全員に及び、社団が敗訴すれば構成員全員の総有権を失わせる処分をしたのと事実上同じ結果をもたらす。また、代表権の範囲は団体ごとに異なり、当然に一切の裁判上又は裁判外の行為に及ぶものとは考えられない。そこで、代表者が構成員全員の総有に属する不動産について総有権確認請求訴訟を原告の代表者として追行するには、規約等において当該不動産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要する(最判平成6年5月31日)。入会団体でない社団にも同様に解されると考える。
図:完成答案:第3 代表者の授権(3あてはめ・4結論)
第3の続きで、あてはめと結論です。会則の定め、総会の人数、提訴の時期、反対者の扱いの順に並んでいます。出席、賛成、必要な人数が、どこで出てくるかを、確かめてみてください。最後の一行で、三つの関門の結論が、一つにまとまっています。図と同じ文面を、本文でも置きます。
3 あてはめ
(1)J会の会則は、不動産の取得・処分に、総会の出席会員の4分の3以上の賛成を要するとしている。乙地についての敗訴は、会員全員の総有権を失わせる処分と事実上同じ結果になるから、この手続による授権が必要である。
(2)令和7年4月の臨時総会は、会員36名中27名が出席して成立し、乙地の総有確認の訴えをJ会が提起し、会長のLが追行する旨の議案を、賛成22名、反対5名で可決した。4分の3以上(21名以上)の賛成があり、提訴(同年5月)に先立って議決されている。
(3)会則は、不動産の処分自体を出席会員の4分の3以上の賛成で決められるとしており、全員の同意を求めていない。反対した会員がいても、規約の手続を満たす総会の議決がある以上、会としての意思決定に服するから、授権は足りると考える。
4 結論
よって、会長のLは授権を有する。以上より、J会の訴えは適法である。
⇒ 議決あり→授権あり→訴えは適法
参照条文
- 民事訴訟法29条
- 民事訴訟法37条