民訴ゼロから民事訴訟法 論文

証明責任の分配と主張責任の書き方

万年筆の売主Xが買主Yに代金62万円を請求し、売買は認定できたが手渡しがあったかは決められない事例を素材に、言い分を請求原因・抗弁・再抗弁のどこに置くか、真偽不明のときや主張がなかったときに主文がどうなるかを、答案の順に確かめます。最後に、条文が推定を置いている取得時効の件で、同じ物差しを当て直します。

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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

売主のXと買主のY、3つの言い分 図:売主のXと買主のY、3つの言い分

登場するのは、万年筆の収集家が2人です。売主のXと買主のYです。売主のXはヴィンテージの万年筆を数本持っています。買主のYも同じく収集家で、2人の取引は個人間の売買です。目的物は古い型の万年筆1本で、これを本件万年筆と呼びます。代金は62万円です。売主のXは買主のYに対して、売買代金62万円の支払を求めて訴えを起こしました。2人の間の言い分は3つです。1つめは、売主のXから買主のYへの、3月4日の売買の合意です。2つめは、買主のYから売主のXへの、受け取るまで払わないという主張です。3つめは、売主のXから買主のYへの、3月11日に手渡したという主張です。

同じ2人の間で、言い分が行ったり来たりしているのです。この3つの言い分を、あとで1つずつ置き場所に分けていきます。

取引の経過 図:取引の経過

時間の順に見ます。令和7年3月4日の火曜日に、売主のXと買主のYは喫茶店で会って、本件万年筆の話をしました。その夜の21時40分に、買主のYが売主のXにLINEで「62万円で買います」と送りました。3月5日には、売主のXが「ありがとうございます。来週の火曜日に持っていきます」と送り、買主のYが「了解です」と返しました。引渡しの予定日は3月11日の火曜日です。ここで言い分が分かれます。売主のXは、午後4時ごろ同じ喫茶店で手渡したと言います。買主のYは、約束どおり行ったが売主のXは来なかった、受け取っていないと言います。3月20日には、売主のXが「代金62万円をお願いします」と送りました。買主のYは「受け取っていないので払えません」と返しました。

訴訟の経過 図:訴訟の経過

提訴は6月5日です。買主のYの答弁書が7月8日、売主のXの準備書面が8月5日です。9月9日の弁論準備手続で、争点は売買の成否と引渡しの有無だと確認されました。11月25日には売主のXと買主のYの本人尋問があり、この日に弁論を終える予定です。弁論を終えたあとに、裁判所が主文を書きます。

当事者と主張の一覧:事実アとイ 図:当事者と主張の一覧:事実アとイ

言い分を記号で整理します。争点は、売買の成否と引渡しの有無の2つです。事実アは、3月4日に売主のXが買主のYへ、この万年筆を代金62万円で売ったという売買です。売主のXが訴状で主張し、買主のYは否認しています。否認の理由は、3月4日は値段を聞いただけで買うと決めていない、というものです。値引きの返事を待っていて、LINEの「62万円で買います」は返事を待つつなぎに書いただけだと言います。ただ、LINEとその返信は書証になっています。買主のYも自分が送ったと認めています。裁判所は、売買の成立を認定できるとの心証です。事実イは、買主のYの答弁書にある、受け取るまで代金は払わないという言い分です。売買があったと仮定した場合の主張です。

当事者と主張の一覧:事実ウとエ 図:当事者と主張の一覧:事実ウとエ

事実ウは、3月11日に売主のXが買主のYへ、この万年筆を手渡したという事実です。売主のXが準備書面で主張し、買主のYは否認しています。証拠は、売主のXと買主のYの本人の供述だけです。受領書も領収書も作っておらず、同席者もいません。喫茶店の店員も覚えていません。事実エは、9月9日の弁論準備手続の調書です。争点が売買の成否と引渡しの有無だと確認されたことが書かれています。

裁判所の問い 図:裁判所の問い

売買は認定できました。引渡しは、手渡したともなかったとも決められません。買主のYは、売買はなかったと言い、仮にあっても受け取るまで払わないと言います。売主のXは手渡したと言います。裁判官は主文を書こうとしています。主文はどうなるのでしょうか。そのために、まずそれぞれの言い分をどこに置くかを整理します。言い分を置くとは、請求原因、抗弁、再抗弁のどれに当たるかを決めることです。順に見ていきます。

条文と検討の順番

主文を書く順に、6つの問い 図:主文を書く順に、6つの問い

裁判官が主文を書く順に検討します。まず、原告の請求を根拠づける事実は何かを決めます。次に、被告の言い分がそれを否定するのか、別の事実で妨げるのかを分けます。そして、その事実が決められなかったとき、どちらの不利益になるかで結論を出します。順番にすると6つです。1つめに、請求原因を立てる。2つめに、被告の応答を仕分ける。3つめに、原告の再反論を置く。4つめに、真偽不明のときの結論を出す。5つめに、主張がなかったときを考える。最後の6つめに、条文が推定を置いている別の件で、同じ物差しを確かめます。同じ言い分でも、請求原因をどう立てるかで否認になったり抗弁になったりします。だから請求原因が先です。その請求原因は、実体法の条文から導きます。売買の条文を開きます。

条文民法555条

民法555条(売買)
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

条文は、約束だけで売買が成立すると書いています。万年筆を渡すことは要件に書かれていません。

第1 請求原因を立てる

請求原因に入るのは、どちらか 図:請求原因に入るのは、どちらか

1つめの検討です。売主のXは代金62万円の支払を求めています。このとき売主のXが請求原因として主張して証明すべき事実は何でしょうか。候補は2つあります。3月4日の売買と、3月11日の手渡しです。手渡しも請求原因に入ると考える人は多いです。代金は品物と引き換えに払うもの、という感覚があるからです。ただ、何を請求原因に入れるかは感覚では決まりません。基準が必要になります。そこで、証明責任をどう分けるか、その基準が問題となります。証明責任を負う側とは、あとの第4で見るとおり、その事実が決められなかったときの不利益を受ける側のことです。

規範と答案の型|証明責任の分配 図:規範と答案の型|証明責任の分配

規範は、通説である法律要件分類説で立てます。実務も同じ考え方です。この説によれば、証明責任は、自分に有利な法律効果を発生させる法律要件に当たる事実について、その効果を求める当事者が負います。したがって、権利の発生を根拠づける事実は、権利を主張する側が負います。権利の発生を妨げる事実、いったん生じた権利を消滅させる事実、権利の行使を阻止する事実は、これを争う側が負います。順に、権利根拠事実、権利障害事実、権利消滅事実、権利阻止事実と呼びます。どれにあたるかは、条文の書き方を基礎に公平も考慮して決めます。条文の書き分けだけでは決まらない場面は、公平の観念で補います。答案に入れる理由の一文は、こうです。分配の基準が実体法の条文の構造から導けるので明確で、実体法の趣旨とも調和するからです。

あてはめ:事実ア、3月4日の売買 図:あてはめ:事実ア、3月4日の売買

あてはめます。まず、事実アである3月4日の売買です。売主のXが訴状で主張し、買主のYは否認しています。555条のとおり、売買は約束だけで成立します。売主のXの代金支払請求権が生まれることを根拠づける事実です。だから権利根拠事実です。権利を主張する売主のXが、主張して証明します。請求原因に入ります。買主のYが否認しているのに、請求原因になるのか、という疑問が出るかもしれません。否認は請求原因を争う応答で、請求原因になるかどうかとは別の話です。請求原因かどうかは、その事実が権利の発生を根拠づけるかで決まります。

あてはめ:事実ウ、3月11日の手渡し 図:あてはめ:事実ウ、3月11日の手渡し

次に、事実ウの3月11日の手渡しです。売主のXは訴状でこの事実に触れていません。555条は、引渡しを売買の成立の要件に書いていません。代金債権が生まれるのに、品物を渡すことは要りません。だから、手渡しは権利根拠事実ではありません。請求原因に入らず、売主のXが請求原因で主張して証明する必要はありません。売買の約束ができた時点で、代金債権は生まれています。品物を渡すのはその約束を果たす問題で、請求原因とは別です。売買の約束は請求原因に入り、引渡しは入りません。この線は、権利の発生を根拠づけるかどうかで引かれます。

結論:請求原因は、3月4日の売買だけ 図:結論:請求原因は、3月4日の売買だけ

結論です。売主のXが請求原因で主張して証明するのは、令和7年3月4日に売主のXが買主のYへ、この万年筆を代金62万円で売ったという事実だけです。引渡しは請求原因ではありません。引渡しの問題は、買主のYが応答したあとに、また出てきます。続いて、買主のYの応答を否認と抗弁に仕分けます。

第2 Yの応答を仕分ける

買主のYの2つの言い分 図:買主のYの2つの言い分

2つめの検討です。買主のYは答弁書で2つのことを言っています。1つめは、3月4日は値段を聞いただけで買うと決めていない、という言い分です。2つめは、仮に売買があったとしても、受け取っていないから受け取るまで払わない、という言い分です。ここで確かめます。買主のYは、万年筆を受け取っていないと言っています。これは、請求原因に対する否認でしょうか。請求原因に対する否認ではありません。引渡しは請求原因の事実ではないので、受け取っていないと述べても請求原因は崩れません。受け取るまで払わないと主張して、はじめて別の働きをする言い分になります。そこで、買主のYの2つの言い分が否認か抗弁かが問題となります。

規範と答案の型|否認と抗弁の区別 図:規範と答案の型|否認と抗弁の区別

規範は通説で立てます。ただし、否認に理由を付ける点だけは条文です。相手方が証明責任を負う事実を、そのまま否定することを否認といいます。抗弁とは、相手方の主張する事実と両立する別の事実を持ち出すことです。相手方の主張する事実から生じる法律効果を障害、消滅、阻止するもので、自分が証明責任を負う事実として主張します。したがって、請求原因事実と両立しない事実を述べるのは否認です。両立する事実で効果を妨げるのは抗弁です。見分けるのは、事実が両立するかです。法律効果が両立するかではありません。抗弁は、請求原因の事実と並び立ったまま、その効果だけを妨げるものだからです。答案に入れる理由の一文は、こうです。否認は原告に証明を求め、抗弁は被告に新しい事実の証明を求めます。どちらの事実を誰に証明させるかで、審理の中身が変わるからです。否認に理由を付ける点は、民事訴訟規則79条3項です。開きます。

条文民事訴訟規則79条3項

民事訴訟規則79条3項(準備書面・法第百六十一条)
準備書面において相手方の主張する事実を否認する場合には、その理由を記載しなければならない。

準備書面で相手方の主張する事実を否認するときは、その理由を書かなければなりません。

あてはめ:1つめの言い分は否認 図:あてはめ:1つめの言い分は否認

あてはめます。1つめの言い分は、3月4日は値段を聞いただけで買うと決めていない、です。3月4日の売買を否定しています。しかも、値引きの返事を待っていたという理由が付いています。売買の約束をしたという請求原因の事実と両立しません。売主のXが証明責任を負う事実を、そのまま否定しています。だから否認です。理由が付いているので理由付否認と呼びます。実務では積極否認とも呼びます。理由を付けて事情を述べているので、新しい事実を持ち出しているようにも見えます。しかし、理由が付いていても、1つめの言い分は抗弁ではありません。値引きの返事を待っていたという理由は、売買の約束がなかったことの裏付けです。売買の約束と並び立つ事実ではないので、否認です。

あてはめ:2つめの言い分は抗弁 図:あてはめ:2つめの言い分は抗弁

2つめの言い分は、仮に売買があっても受け取っていないから受け取るまで払わない、です。売買があったことを前提に、権利を使うと主張しています。売買と両立します。条文は民法533条です。開きます。

条文民法533条

民法533条(同時履行の抗弁)
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ここが権利阻止の条文です。発生した代金債権の行使を一時止める事実で、同時履行の抗弁と呼びます。権利を持つ側がその権利を使うと述べて、はじめて効く抗弁なので、権利抗弁と呼びます。受け取っていないと事実を述べるだけでは足りません。払わないと主張することが要ります。買主のYは売買が成立したことも証明するのか、という疑問が出るかもしれません。売買の成立を、買主のYが証明する必要はありません。売買は請求原因ですでに現れています。買主のYは、行使すると主張すれば足ります。買主のYは、1つめで否認し、2つめで抗弁を同時に主張しています。

否認と抗弁の対比表:①と② 図:否認と抗弁の対比表:①と②

ほかの言い分も、同じ物差しで仕分けます。表の①と②は、買主のYの1つめと2つめの言い分で、ここまでに見たとおりです。1つめは請求原因と両立しない否認で、2つめは請求原因と両立して効果を妨げる抗弁です。

否認と抗弁の対比表:③と④ 図:否認と抗弁の対比表:③と④

表の③と④は、買主のYが実際に述べた言い分ではなく、仮に置いた言い分です。③は、仮に買主のYに、代金62万円は3月25日に現金で売主のXに渡したという言い分があったとします。この言い分は売買と両立し、いったん生じた代金債権を消します。弁済で権利消滅事実です。買主のYが証明責任を負う抗弁です。④は、仮に買主のYの言い分が、買ったことは認める、ただし受け取るまで払わない、というものだったとします。売買を認めた部分は自白になり、証明が要らなくなります。足した事実で争うので、自白と抗弁です。認めて別の事実を足す陳述は、制限付自白と呼ばれることがあります。見分ける軸はどれも同じです。請求原因と両立しない事実は否認、両立して効果を妨げる事実は抗弁です。

結論:1つめは否認、2つめは抗弁 図:結論:1つめは否認、2つめは抗弁

結論です。1つめの言い分は否認です。売買の事実について、売主のXが証明責任を負います。2つめの言い分は、抗弁、つまり同時履行の抗弁です。買主のYが行使を主張します。決め手は、事実が両立するかです。売買を否定すれば否認、売買を前提に、別の事実で代金の請求を妨げれば抗弁です。否認する事実は相手方が証明責任を負い、抗弁の事実は自分が証明責任を負います。だから、証明責任がどちらにあるかで分けても、同じ仕分けになります。

買主のYは、売買はなかった、仮にあっても払わない、と並べています。売買を争う主張と、売買を前提にした主張は、同時に出すことができます。売買が認められた場合に備える後ろの主張を、仮定的主張と呼びます。この2つの言い分どうしは両立しません。両立すると言ったのは、抗弁と請求原因の事実の間のことです。

第3 再抗弁と攻撃防御の構造

あてはめ:事実ウは再抗弁 図:あてはめ:事実ウは再抗弁

3つめの検討です。買主のYが同時履行の抗弁を出したあと、売主のXは3月11日に手渡したと反論しています。この言い分はどこに置くのでしょうか。ここで新しい言葉を1つ使います。再抗弁です。再抗弁とは、抗弁と両立し、抗弁の効果を妨げて請求原因の効果を復活させる事実の主張です。抗弁に当てた物差しを、もう一段先にそのまま当てます。両立する事実で効果を妨げ、自分が証明責任を負う事実です。事実ウは、売主のXが準備書面で主張し、買主のYは否認しています。第2で見たとおり、同時履行の抗弁は、受け取っていないと事実を述べるだけでは足りず、受け取るまで払わないという権利を使うと主張して、はじめて効く抗弁です。事実ウの手渡しは、この権利を使うという主張と両立します。しかも、売主のXが引き渡したことで同時履行の抗弁権を失わせ、代金の請求を復活させます。売主のXが証明責任を負う事実なので、事実ウは再抗弁です。引渡しは請求原因ではなく、買主のYが同時履行の抗弁を出したあとの再抗弁として、主張して証明するものです。

攻撃防御の構造:3段のブロック 図:攻撃防御の構造:3段のブロック

3つを並べます。請求原因は事実アで、売主のXが主張し証明します。その効果を妨げるのが事実イの抗弁で、買主のYが主張します。さらに、その効果を妨げるのが事実ウの再抗弁で、売主のXが主張し証明します。この3段は規則にも出てきます。民事訴訟規則79条2項です。

条文民事訴訟規則79条2項

民事訴訟規則79条2項(準備書面・法第百六十一条)
準備書面に事実についての主張を記載する場合には、できる限り、請求を理由づける事実、抗弁事実又は再抗弁事実についての主張とこれらに関連する事実についての主張とを区別して記載しなければならない。

請求を理由づける事実、抗弁事実、再抗弁事実を区別して書くと定めています。規則の文言にも、この3段が出てきます。3つの事実について、証拠調べでどうなったかも並べます。事実アは書証で売買を認定できます。事実イは買主のYが行使を主張しています。事実ウは供述だけで決められていません。結論です。請求原因は売買、抗弁は同時履行、再抗弁は引渡しです。

第4 真偽不明のときの結論

真偽不明のとき、主文はどうなるか 図:真偽不明のとき、主文はどうなるか

4つめの検討です。証拠を調べても決められなかった事実は、裁判では、無かったものとして扱われます。その不利益を、客観的証明責任と呼びます。客観的証明責任は、この検討の軸になります。売買は認定できましたが、事実ウの手渡しは供述だけで、あったともなかったとも決められません。主文はどうなるでしょうか。

真偽不明の不利益は、誰が受けるか 図:真偽不明の不利益は、誰が受けるか

規範は新しく作りません。第1で見た分配の基準と、真偽不明の扱いを使います。裁判所は、事実を決められないからといって、判決を拒むことはできません。そこで、真偽不明の事実は無かったものとして扱うと、あらかじめ決められています。無かったものとして扱われると、その事実を要件とする法律効果が発生しません。効果が発生しないことが、証明すべき側の不利益です。この不発生の不利益は、その事実について証明責任を負う側が受けます。誰が負うかは、請求原因を立てたときに決めた分配に従います。

あてはめ:事実ごとの結果 図:あてはめ:事実ごとの結果

あてはめます。事実アの売買は認定できました。請求原因が認められて、代金債権が発生しています。事実イの同時履行の主張は、買主のYが行使しました。売買と両立し、発生した債権の行使を止めるので、抗弁も認められます。事実ウの手渡しは、供述だけで真偽不明です。再抗弁は売主のXが証明責任を負います。決められないので無かったものとして扱われ、売主のXの不利益になります。再抗弁は認められません。手渡しがあったか決められないときは、あったと決めるのではなく無かったと決めます。その不利益を売主のXが受けます。再抗弁が認められないので、抗弁の効果が残ります。買主のYの代金支払義務は、売主のXが万年筆を引き渡すまで止まります。

結論:主文 図:結論:主文

結論は主文で書きます。被告は、原告から、本件万年筆の引渡しを受けるのと引換えに、原告に対し62万円を支払え、です。請求棄却でも全部認容でもありません。引換給付の一部認容です。同時履行の抗弁が認められるときの形です。抗弁が認められても、請求が全部退けられるわけではありません。同時履行の抗弁は、引渡しを受けるまで払わないという権利です。だから請求は棄却されず、引換えに払えという形で認められます。

もし〜なら:結論が変わる4つの場合 図:もし〜なら:結論が変わる4つの場合

事実が変わると結論も変わります。4つの場合を見ます。1つめに、もし売買が真偽不明だったら、請求原因を売主のXが証明できないので請求棄却です。2つめに、もし手渡しが認定できたら、再抗弁が成り立ち、抗弁の効果が妨げられて全部認容です。3つめに、もし買主のYが同時履行の主張をしていなかったら、抗弁が無いので全部認容です。権利抗弁は行使が要るからです。4つめに、もし買主のYの言い分が、同時履行ではなく、3月25日に現金で払ったという弁済だったとします。その事実が真偽不明なら買主のYの不利益で、抗弁が成り立たず全部認容です。どの結論も、事実を請求原因、抗弁、再抗弁に置いて、決められなかった事実を誰が負うかで決まります。必ず引換給付になるわけではありません。

第5 主張がなかったとき

仮定:手渡しを主張していなかったら 図:仮定:手渡しを主張していなかったら

5つめの検討です。仮に、売主のXが手渡したという再抗弁を弁論で主張していなかったとします。売主のX本人は尋問で手渡したと述べました。裁判所はその供述を信用できると感じました。それでも、再抗弁を認めて全部認容にできるでしょうか。供述を使えるかどうかは、信用できるかどうかとは別の問題です。主張責任を誰が負うかが問題となります。

規範と答案の型|主張責任の分配 図:規範と答案の型|主張責任の分配

規範は2文です。1文めは弁論主義の第1テーゼで、判決の基礎にする事実は、当事者が弁論で主張したものに限る、という決まりです。規範の文面は、こうです。証拠調べによって現れた主要事実は、当事者が弁論で主張して訴訟資料とならない限り、判決の基礎とすることができない。2文めです。主張責任は、その事実について証明責任を負う当事者が原則として負います。原則としてと付けるのは、例外を認める議論があるからです。例外の中身はここでは扱いません。この2文のほかに、もう1つ、主張共通の原則を使います。弁論主義は、裁判所と当事者の間の役割分担です。だから、当事者のどちらが主張したかは問いません。責任を負わない側が言った事実でも、弁論に現れていれば判決の基礎にできます。答案に入れる理由の一文は、こうです。主張のない事実で判断すれば、相手方は反論の機会のないまま不利益を受けるからです。

あてはめ:主張されていない手渡し 図:あてはめ:主張されていない手渡し

あてはめます。事実ウの手渡しは再抗弁の事実で、主要事実です。第3で見たとおり売主のXが証明責任を負うので、主張責任も売主のXが負います。ところが、この仮の事例では、売主のXは主張しておらず、買主のYも手渡しを述べていません。売主のX本人の供述は証拠です。手渡しは、証拠調べによってその供述にだけ出ていて、当事者が弁論で主張した事実としては現れていません。訴訟資料になっていないので判決の基礎にできません。買主のYが手渡しを述べていたなら使えました。述べていないので使えません。再抗弁は無いものとして扱われ、抗弁の効果が残ります。主文は第4と同じ引換給付です。

結論:主張責任と証明責任は、同じ側 図:結論:主張責任と証明責任は、同じ側

結論です。売主のXが再抗弁を主張しなければ、供述が信用できても判決の基礎にできません。主張しなかった不利益は売主のXが受けます。請求原因は売主のX、抗弁は買主のY、再抗弁は売主のXが、主張責任も証明責任も原則として負います。裁判所が売主のXに尋ねるべきかは、ここでは問いません。判決の基礎にできるかだけを見ました。

第6 条文が推定を置いているとき

ここまでの2つの物差し 図:ここまでの2つの物差し

別の件に入る前に、ここまでの2つの物差しを確かめます。請求原因に入る事実かどうかは、条文の書き方を手がかりに決めました。否認と抗弁は、相手方が証明責任を負う事実の否定か、両立する事実で効果を妨げるのかで分けました。その物差しを別の件で当て直します。万年筆の件とは別の件です。

土地を使うXと登記名義のY、請求の向き 図:土地を使うXと登記名義のY、請求の向き

当事者は、土地を使うXと登記名義のYです。土地を使うXは、平成17年4月1日からこの土地を使い続けてきました。目的物は駐車場にできる広さの空き地で、本件土地と呼びます。土地を使うXは、この土地が自分の所有であることの確認を求めて訴えを起こしました。2人の間の請求と主張は、2つです。土地を使うXから登記名義のYへは、所有権の確認の請求です。登記名義のYから土地を使うXへは、無償で貸していたという主張です。

別の件の経過 図:別の件の経過

経過です。平成17年4月1日に、土地を使うXが、本件土地を使い始めました。柵を立てて舗装し、駐車場にしています。以後、令和7年6月の提訴まで途切れず占有しています。土地を使うXは、令和7年6月19日に提訴し、訴状で取得時効を援用しました。登記名義のYの答弁書は8月26日です。10月14日の弁論準備手続で、争点は、平成17年4月1日ごろに登記名義のYが土地を無償で貸したか、だけだと確認されました。11月18日に本人尋問があり、この日に弁論を終える予定です。

当事者と主張の一覧:事実オ・カ・キ 図:当事者と主張の一覧:事実オ・カ・キ

言い分を記号で整理します。事実オは占有の開始と継続で、土地を使うXが訴状で主張し、登記名義のYは認めています。事実カは取得時効の援用です。これも争いがありません。事実キは、土地を使うXが訴状で所有の意思を主張していない、ということです。占有と援用だけが書かれています。

当事者と主張の一覧:事実ク 図:当事者と主張の一覧:事実ク

事実クは、登記名義のYが答弁書で主張する、期限を定めずに無償で貸したという事実で、使用貸借です。土地を使うXは、借りた覚えはなく更地を整地して使い始めたと否認しています。証拠は両者の供述だけで、書面も同席者もいません。貸したのかどうかは決められません。真偽不明です。

所有の意思は、誰が証明するか 図:所有の意思は、誰が証明するか

取得時効の条文は民法162条1項です。開きます。

条文民法162条1項

民法162条1項(所有権の取得時効)
二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

要件に所有の意思が入っています。条文の書き方どおりなら、時効を主張する土地を使うXが、請求原因で主張して証明する事実に見えます。ところが、186条1項が別のことを定めています。

条文民法186条1項

民法186条1項(占有の態様等に関する推定)
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。

占有者は所有の意思をもって占有するものと推定すると、本文で定めています。前提事実の証明なしに、条文の本文で推定が置かれています。こういう型は、暫定真実と呼ばれることがあります。そこで問題です。土地を使うXは、請求原因で所有の意思を主張して証明しなければならないでしょうか。登記名義のYの、無償で貸したという言い分は、請求原因の否認か、抗弁か。186条1項の推定で証明責任の分配がどう変わるかが問題となります。

規範:分配の基準と、推定を争う側の負担 図:規範:分配の基準と、推定を争う側の負担

規範は新しく作りません。第1の分配の基準と、第2の否認と抗弁の区別を使います。分配の基準は、条文の書き方を基礎に決めます。ここでは、186条1項が所有の意思を推定している点が基礎になります。推定を争う側の負担について、最高裁の判決の言葉を読みます。

判例最高裁判所第三小法廷判決 平成8年11月12日 民集50巻10号2591頁

最高裁判所判決(他主占有の立証責任は時効を争う側)
一般的には、占有者は所有の意思で占有するものと推定されるから(民法一八六条一項)、占有者の占有が自主占有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、右占有が他主占有に当たることについての立証責任を負う

最高裁は、占有者の占有が自主占有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、他主占有に当たることについての立証責任を負うと述べています。立証責任は、証明責任と同じ意味です。この判決が実際に扱ったのは、相続が絡む別の場面です。ここで読んだのは、その前に置かれた一般論の部分です。自主占有とは所有の意思のある占有、他主占有とは所有の意思のない占有です。使用貸借のように、性質上、所有の意思のない権原、つまり占有の根拠に基づいて占有を始めたことを示すのは、他主占有に当たることを示す方法の一つです。否認と抗弁の区別は第2のとおりです。相手方が証明責任を負う事実の否定は否認、両立する事実で効果を妨げ、自分が証明責任を負う事実として主張するのが抗弁です。

あてはめ:事実オ・カと、事実キ 図:あてはめ:事実オ・カと、事実キ

あてはめます。事実オの占有と、事実カの援用です。土地を使うXが主張し、登記名義のYも認めています。取得時効による所有権取得を根拠づける権利根拠事実なので、請求原因です。争いはありません。事実キで見たとおり、所有の意思は、土地を使うXが訴状に書いていません。162条1項は、要件に所有の意思をもってと書いています。しかし186条1項が所有の意思を推定しています。だから土地を使うXは、所有の意思を請求原因で主張して証明しなくてよいのです。平穏と公然も、同じ条文で推定されます。条文に要件として書いてあるのに、訴状に書かなくてよい理由は、こうです。分配の基準は、条文の書き方を基礎にします。書き方は要件と推定の組み合わせで、所有の意思を争う側に証明責任が置かれているのです。

あてはめ:事実ク、無償で貸した 図:あてはめ:事実ク、無償で貸した

事実クの、無償で貸したという言い分です。土地を使うXが占有した事実とは両立します。借りて占有した場合にも占有はあるからです。しかも、占有を他主占有にして所有の意思の推定を覆し、時効取得の効果を妨げます。推定を争う側の登記名義のYが、証明責任を負う事実です。だから否認ではなく抗弁です。理由付否認に見えますが、土地を使うXが証明責任を負う事実の否定ではありません。借りていただけという言い分は、否認に聞こえます。しかし、条文の書き方で見え方が変わります。186条1項があるので、所有の意思は請求原因に入っていません。だから、借りていたという事実は請求原因の否定にはなりません。別の事実で占有の性質を変えて、請求原因の効果を妨げるのです。

結論:請求認容と、もし〜なら 図:結論:請求認容と、もし〜なら

事実クの、無償で貸したという言い分は、貸したともそうでないとも決められず、真偽不明です。登記名義のYが証明責任を負う事実が決められないので、無かったものとして扱われ、登記名義のYの不利益になります。所有の意思の推定は覆りません。取得時効が成立し、主文は、本件土地が土地を使うXの所有であることを確認する、です。事実が変わると結論も変わります。もし186条1項がなく、所有の意思が162条1項の書き方どおり、土地を使うXの証明すべき事実だったとします。所有の意思は決められないので、土地を使うXの不利益です。もし事実クの、無償で貸したことが認定できたら、占有は他主占有で推定が覆り、時効は成立せず請求棄却です。もし登記名義のYが貸したと主張していなかったら、抗弁が無いので、推定どおり所有の意思があるものとして請求認容です。主張責任も登記名義のYが負います。

攻撃防御の構造:別の件 図:攻撃防御の構造:別の件

構造で見直します。請求原因は事実オと事実カの、占有と援用です。ここに所有の意思は入りません。その効果を妨げるのが事実クの抗弁で、登記名義のYが主張し証明します。他主占有であることがその中身です。物差しは万年筆の件と同じです。条文の書き方で、どちらが負うかが決まります。

まとめ

完成答案:第1 請求原因(問題の所在・規範) 図:完成答案:第1 請求原因(問題の所在・規範)

こちらが、完成答案です。図と同じ文面を、本文でも置きます。それぞれの文面の前に、読むときに見てほしいところを、先に挙げます。第1は請求原因です。問題の所在では、3月4日の売買だけでなく3月11日の引渡しも請求原因に入るかを立てています。そこを見てみてください。規範が、証明責任の原則と4つの事実の振り分けに分けて書かれている点にも注目です。

第1 請求原因

1 問題の所在

 Xは、売買代金62万円の支払を求める。請求原因として、Xが主張・証明すべき事実に、3月4日の売買だけでなく、3月11日の引渡しも入るか。そこで、証明責任をどう分けるか、その基準が問題となる。

2 規範

 ア 証明責任は、自分に有利な法律効果を発生させる法律要件に当たる事実について、その効果を求める当事者が負う。

 イ したがって、権利の発生を根拠づける事実は権利を主張する側が、権利の発生を妨げる事実、いったん生じた権利を消滅させる事実、権利の行使を阻止する事実は、これを争う側が負う。どれにあたるかは、条文の書き方を基礎に、公平も考慮して決める。分配の基準が実体法の条文の構造から導け、明確で、実体法の趣旨とも調和するからである。

完成答案:第1 請求原因(あてはめ・結論) 図:完成答案:第1 請求原因(あてはめ・結論)

第1の続きで、あてはめと結論です。売買と引渡しを1つずつ拾って条文の書き方に当てているところを、確かめてみてください。引渡しが権利根拠事実ではないと評価してから結論へ進んでいる流れにも注目です。

3 あてはめ

 (1) 3月4日の売買は、民法555条により約束だけで成立し、代金債権の発生を根拠づける権利根拠事実であるから、Xが主張・証明すべき請求原因である。

 (2) 3月11日の引渡しは、555条の要件に書かれておらず、権利根拠事実ではないから、請求原因に入らない。

4 結論

 よって、請求原因は、3月4日の売買だけである。

完成答案:第2 Yの応答(問題の所在・規範) 図:完成答案:第2 Yの応答(問題の所在・規範)

第2は買主のYの応答です。ここは問題の所在と規範です。否認と抗弁が、事実が両立するかで分けられているところを、見てみてください。否認に理由を付ける条文が規範の中に入っている点にも注目です。

第2 Yの応答

1 問題の所在

 Yは、「買うと決めていない」と述べ、さらに「受け取るまで払わない」と述べる。この2つの言い分は、否認か抗弁か。そこで、否認と抗弁の区別が問題となる。

2 規範

 ア 相手方が証明責任を負う事実を、そのまま否定することを否認といい、否認には理由を付ける(民事訴訟規則79条3項)。

 イ 抗弁とは、相手方の主張する事実と両立する別の事実で、その事実から生じる法律効果を障害・消滅・阻止するものを、自己が証明責任を負う事実として主張することをいう。

 ウ したがって、請求原因事実と両立しない事実を述べるのは否認であり、両立する事実で効果を妨げるのは抗弁である。どちらの事実を誰に証明させるかで、審理の中身が変わるからである。

完成答案:第2 Yの応答(あてはめ・結論) 図:完成答案:第2 Yの応答(あてはめ・結論)

第2の続きで、あてはめと結論です。2つの言い分を否認と抗弁に分けているところを確かめてみてください。受け取るまで払わないという権利の主張が同時履行の抗弁になる理由を書いている点にも注目です。

3 あてはめ

 (1) 「買うと決めていない」は、値引きの返事を待っていたという理由を付けて、3月4日の売買を否定するものである。請求原因事実と両立せず、Xが証明責任を負う事実のそのままの否定であるから、否認(理由付否認)である。

 (2) 「受け取るまで払わない」は、売買を前提に、発生した代金債権の行使を止めると主張するものである。売買と両立し、権利阻止事実として、Yが主張する同時履行の抗弁(民法533条)である。

4 結論

 よって、前者は否認、後者は抗弁である。

完成答案:第3 Xの再反論 図:完成答案:第3 Xの再反論

第3は売主のXの再反論です。ここに問題の所在から結論までが入っています。再抗弁の定義が、抗弁の定義と同じ形で書かれているところを見てみてください。結論で請求原因、抗弁、再抗弁の3段をそろえている点にも注目です。

第3 Xの再反論

1 問題の所在

 Xは、Yの抗弁に対し、3月11日に手渡したと反論する。この言い分は、請求原因・抗弁・再抗弁のどこに置くか。

2 規範

 再抗弁とは、抗弁と両立し、抗弁の効果を妨げて請求原因の効果を復活させる事実を、自己が証明責任を負う事実として主張することをいう。

3 あてはめ

 3月11日の手渡しは、抗弁と両立し、Xの引渡義務の履行によって同時履行の抗弁権を失わせ、代金支払請求を復活させる。Xが証明責任を負う。

4 結論

 よって、3月11日の手渡しは再抗弁である。請求原因は売買、抗弁は同時履行、再抗弁は引渡しの3段になる。

完成答案:第4 真偽不明の場合 図:完成答案:第4 真偽不明の場合

第4は真偽不明の場合です。認定できた事実と真偽不明の事実を、請求原因、抗弁、再抗弁の順に拾っているところを確かめてみてください。結論が請求棄却でも全部認容でもなく引換給付になる理由を書いている点にも注目です。

第4 真偽不明の場合

1 問題の所在

 売買は認定できたが、引渡しは真偽不明である。主文はどうなるか。

2 規範

 真偽不明の事実は無かったものとして扱われ、その不利益は、その事実について証明責任を負う側が受ける。

3 あてはめ

 (1) 請求原因(売買)は認定できた。

 (2) 抗弁(同時履行)は、Yが行使を主張した。

 (3) 再抗弁(引渡し)は、Xが証明責任を負い、真偽不明であるから、無かったものとして扱われ、Xの不利益となる。

4 結論

 よって、抗弁の効果が残り、被告は、原告から本件万年筆の引渡しを受けるのと引換えに、62万円を支払え、との引換給付の一部認容となる。

完成答案:第5 主張がない場合 図:完成答案:第5 主張がない場合

第5は主張がなかった場合です。弁論主義の第1テーゼと主張責任の所在を2文に分けて書いているところを見てみてください。あてはめで、主張責任を証明責任と同じ売主のXに置いている点にも注目です。

第5 主張がない場合

1 問題の所在

 仮に、Xが再抗弁を弁論で主張せず、X本人の供述にだけ手渡しが出ており、裁判所がその供述を信用できると感じたとする。それでも再抗弁を認められるか。そこで、主張責任を誰が負うかが問題となる。

2 規範

 ア 証拠調べによって現れた主要事実は、当事者が弁論で主張して訴訟資料とならない限り、判決の基礎とすることができない。

 イ 主張責任は、その事実について証明責任を負う当事者が原則として負う。主張のない事実で判断すれば、相手方は反論の機会のないまま不利益を受けるからである。

3 あてはめ

 手渡しは再抗弁事実で、主要事実である。Xが証明責任を負うから、主張責任もXが負う。供述にだけ出ており、弁論に現れていないから、訴訟資料となっていない。

4 結論

 よって、再抗弁は判決の基礎にできず、無いものとして扱われる。その不利益はXが受け、主文は第4と同じ引換給付となる。

完成答案:第6 別件・取得時効(問題の所在・規範) 図:完成答案:第6 別件・取得時効(問題の所在・規範)

第6は別件の取得時効です。ここは問題の所在と規範です。規範で、第1の分配の基準、186条1項の推定と判例の言葉、第2の否認と抗弁の区別が順に重ねられているところを、見てみてください。条文の推定と判例の言葉が、別々の文として書かれている点にも注目です。

第6 別件・取得時効

1 問題の所在

 Xは所有権の確認を求め、取得時効(20年)を援用する。Xは請求原因で所有の意思を主張・証明すべきか。Yの「無償で貸した」は否認か抗弁か。そこで、186条1項の推定のもとで証明責任をどう分配するかが問題となる。

2 規範

 ア 分配の基準は、第1のとおり、条文の書き方を基礎に決める。

 イ 民法186条1項は、占有者は所有の意思をもって占有するものと推定する。そこで、占有者の占有が自主占有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、その占有が他主占有に当たることについての立証責任を負う(最判平成8年11月12日)。

 ウ 否認と抗弁の区別は、第2のとおりである。

完成答案:第6 別件・取得時効(あてはめ・結論) 図:完成答案:第6 別件・取得時効(あてはめ・結論)

第6の続きで、あてはめと結論です。占有と援用、所有の意思、無償貸与を1つずつ拾っているところを確かめてみてください。無償貸与が否認に見えて抗弁になる理由を書いているところにも注目です。

3 あてはめ

 (1) 占有と援用は、Xが主張し、Yも認めており、取得時効による所有権取得を根拠づける請求原因である。

 (2) 所有の意思は、186条1項が推定するから、Xが請求原因で主張・証明する必要はない。

 (3) 無償貸与は、占有と両立し、占有を他主占有にして推定を覆し、時効取得の効果を妨げる事実で、Yが証明責任を負うから、否認ではなく抗弁である。これは真偽不明であり、Yの不利益となるから、推定は覆らない。

4 結論

 よって、取得時効が成立し、本件土地がXの所有であることを確認する。

最後に全体を通して、請求原因、抗弁、再抗弁が1本の物差しで置かれているかを見直してみてください。万年筆の件でも別件でも同じ物差しで置けているかを確かめてみてください。

参照条文

  • 民法555条
  • 民事訴訟規則79条3項
  • 民法533条
  • 民事訴訟規則79条2項
  • 民法162条1項
  • 民法186条1項

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