民訴ゼロから民事訴訟法 論文

将来給付の訴えの利益の書き方

共有ビルの賃料を独り占めする共有者に、もう1人の共有者が、まだ生じていない先の分まで不当利得の返還をまとめて請求した事例を素材に、口頭弁論終結の時点で現在の給付と将来の給付に分け、将来の分に請求適格があるかを最高裁の枠組みであてはめ、却下という結論までを、答案の順に確かめます。

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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

共有者のX・共有者のY・カフェ会社と、2本の債権 図:共有者のX・共有者のY・カフェ会社と、2本の債権

事例から入ります。登場するのは、共有者のXと、共有者のYと、カフェ会社です。共有者のXと共有者のYは、共同で出資して、3階建ての小さな貸しビルを買いました。持分は出資額の割合で登記して、共有者のXが3分の1、共有者のYが3分の2です。2人は、ビルから生じる収益は持分に応じて分ける、と取り決めていました。ビルの管理は、共有者のYが担当します。令和6年4月1日に、共有者のYが貸主になって、ビルの1階を、カフェ会社に貸しました。カフェ会社に貸すことは、共有者のXと共有者のYの2人で話し合って決めたもので、賃貸借契約が有効であることに争いはありません。期間は5年、令和11年3月31日までです。賃料は月額36万円で、カフェ会社は、毎月末日に、その月の分を、共有者のYの口座へ振り込みます。特約が1つあります。カフェ会社は、6か月前までに書面で通知すれば、期間の途中でも解約できます。また、令和7年12月分の賃料だけは、カフェ会社の資金繰りの都合で、10日遅れて入金されました。その後は、期日どおりです。

共有者のYは、カフェ会社から入った賃料を、共有者のXに分けていません。受け取った賃料を全額自分のものにして、令和6年4月分から、共有者のXに取り分を一度も渡していません。令和8年1月に、共有者のXが書面で取り分の支払を求めましたが、共有者のYは、「ビルの管理は自分が一手に担っているので、渡す義務はない」と述べて、応じませんでした。共有者のXの取り分は、36万円の3分の1で、月12万円です。持分に応じた取り分を渡さない共有者のYは、法律上の原因なく、その12万円を得ていることになります。ですから、共有者のXが求めるのは、この不当利得の返還です。不当利得が成立するかどうか、額が正しいかどうかは、請求の中身を判断する本案の問題で、ここでは問いません。

共有者のXが求める請求の内訳 図:共有者のXが求める請求の内訳

令和8年3月10日に、共有者のXは、地方裁判所に訴えを起こしました。請求の趣旨は、2つです。1つめは、令和6年4月分から令和8年2月分までの不当利得の返還、276万円です。2つめは、令和8年3月分から、賃貸借の終わる令和11年3月分まで、毎月末日限り、月12万円です。月数を数えます。令和6年4月分から令和8年2月分までは23か月で、12万円を掛けると276万円です。令和8年3月分から令和11年3月分までは37か月です。合わせて60か月、つまり5年分で、請求の総額は720万円になります。事実審の口頭弁論が終結したのは、令和8年9月15日です。判決の言渡しは、令和8年10月28日の予定です。

共有者のXは、訴えを起こした時にはまだ生じていない分まで、まとめて請求しています。問うのは1つです。共有者のXは、訴え提起の時にまだ生じていない分も含めて、不当利得の返還を求める訴えを起こせるか。これを、答案を書くときの頭の順に、当てていきます。

検討の順番

終結の時点で分けるところから、結論まで 図:終結の時点で分けるところから、結論まで

検討の順番は4つです。まず、口頭弁論の終結の時点で、請求を、現在の給付と将来の給付に分けます。現在の給付は、履行期の来た請求権を主張するものです。将来の給付は、終結の時点で、すぐに履行を求められないものです。次に、将来の給付の部分に、民事訴訟法135条を当てます。将来の給付の訴えは、あらかじめ請求する必要がある場合に限る、という条文です。3つめに、135条を当てる前提になる、請求としての適格を、判例の枠組みで検討します。最後に、結論を、適法なのか、却下なのか、言い切ります。

いちばん先に分けるのは、検討の厳しさが、現在の給付と将来の給付で、逆だからです。現在の給付は、訴えの利益が通常は問題になりません。訴えの利益は訴訟要件で、欠けていれば、訴えは却下されます。将来の給付には、135条が絞りをかけています。分けずに全部を厳しく見ると、問題のない部分まで巻き込んでしまいます。

さらに、将来の給付の中では、135条の「あらかじめ請求する必要」の手前に、判例が絞りをかけている、請求としての適格があります。これは、将来の分を今のうちにまとめて請求できる資格のことです。先に判決を出しても、あとで事情が変わったときに、被告に酷な負担をかけない請求かどうかを見ます。この資格は、請求の性質の問題です。必要性は、義務者が争っているなどの、個別の事情の問題です。性質として資格を欠く請求なら、個別の事情を見るまでもありません。ですから、答案の運びとしては、適格を先に、必要性を後に当てます。つまり、分け方から始めて、絞りを手前から順に当てていきます。

現在の給付と将来の給付

事実審の口頭弁論終結で、現在の給付と将来の給付に分ける 図:事実審の口頭弁論終結で、現在の給付と将来の給付に分ける

まず、終結の時点で、請求を分けます。現在の給付の訴えは、訴えの利益が通常は問題にならない、と言われます。上で述べたとおり、履行期の来た請求権を主張するものだからです。履行されないままなら、判決をもらう意味が、はっきりしています。そこで、この事例の請求の、どこまでが現在の給付なのかを考えます。問題は、請求の趣旨に、訴え提起の時にまだ生じていない分が含まれていることです。まず、判例の定義を確認します。

判例最判昭和63・3・31 集民153号627頁

最高裁判所判決(共有地の賃料収益の持分超過分を、将来分も含めて請求した事件)
将来の給付の訴えは、現在すなわち事実審の口頭弁論終結の時点では即時履行を求めることのできない請求権について予め給付判決を求める訴えであつて、予め請求をする必要があるときに限り提起することが許されるもの

これは判決の原文です。共有地を、第三者に専用駐車場として貸している共有者に対して、他の共有者が、持分を超える部分の不当利得の返還を、原審の口頭弁論終結後の分も含めて請求した事件です。区別の基準は、事実審の口頭弁論終結の時点です。訴え提起の時でも、判決言渡しの時でもありません。当事者が主張や証拠を出せるのは口頭弁論の終結までで、裁判所は、その時点の権利の有無を判断するからです。終結の時点で、すぐに履行を求められなければ将来の給付です。ですから、訴えを起こした時にまだ生じていなくても、終結までに生じていれば、現在の給付になります。

ここで、不当利得に特有の点があります。不当利得の返還請求権は、共有者のYがカフェ会社から賃料を受け取った時に、生じます。賃料を受け取って初めて、共有者のYに利得が生じるからです。受け取る前には、返すべきものが、まだありません。受け取りは毎月末日です。ですから、令和8年8月31日の受領分までは、終結の日の前に、すでに生じています。令和8年9月分は、9月30日に受け取る分です。終結の令和8年9月15日より後で、判決言渡しの前になります。9月分以降は、共有者のYがまだ賃料を受け取っておらず、請求権そのものが、まだ生じていません。履行期が来ていない場合だけでなく、請求権がまだ生じていない場合も、終結の時点で、すぐに履行を求められません。ですから、将来の給付です。

請求の内訳を、終結の日で分ける 図:請求の内訳を、終結の日で分ける

内訳を表で確認します。令和6年4月分から令和8年2月分までの23か月分、276万円は、訴えを起こす前に受け取った分です。令和8年の3月分から8月分までの6か月分、72万円は、訴えを起こしたあとですが、終結の日の前に受け取っています。この2つを足した、令和6年4月分から令和8年8月分までの29か月分、348万円が、現在の給付です。令和8年9月分から令和11年3月分までの31か月分、372万円が、将来の給付です。348万円と372万円を足すと、請求の総額の720万円です。令和8年3月分から8月分は、訴えを起こした時には未発生でも、将来の給付ではありません。終結の日までに受け取っていますから、現在の給付です。逆に、判決言渡しの前に受け取る9月分も、終結の日より後ですから、将来の給付に入ります。損害賠償が求められた別の事件ですが、最高裁の多数意見は、口頭弁論終結の翌日以降の分は、判決言渡しの日までの分も含めて、将来の給付の訴えを提起できる請求としての適格を欠く、と述べています。不当利得でも、判決言渡しの前に受け取る分は、同じように扱われると考えられます。

ここまでの結論です。令和8年8月分までの348万円は、現在の給付で、訴えの利益は通常問題にならず、適法です。不当利得が本当に成立するかは、本案の問題です。問題は、将来の給付の372万円です。

将来の給付の訴えと135条

将来の給付の訴えの検討の運び 図:将来の給付の訴えの検討の運び

将来の給付の372万円に、135条を当てます。条文を確認します。

条文民事訴訟法135条

民事訴訟法第135条(将来の給付の訴え)
将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。

135条は、音読すれば出てくる条文で、条文どおりの成立要件です。答案には、条文番号を示せば足ります。将来の給付だけが、このように絞られている趣旨は、衡平にあると考えられます。将来の給付は、判決のあとに事情が変わって、権利が成立しなくなったり、内容が変わったりするおそれがあります。それでも先に判決を出すと、被告は、自分で訴えを起こし、事情が変わったことを証明して、執行を止めなければなりません。この訴えを、請求異議の訴えと言います。原告が先に判決を得ておく利益と、被告に課す負担との衡平から、「あらかじめその請求をする必要がある場合」に限った、という理解です。請求異議の訴えについての条文も、見ておきます。

条文民事執行法35条2項

民事執行法第35条(請求異議の訴え)第2項
確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。

民事執行法35条2項です。これも、条文どおりで、暗記の対象ではありません。35条1項は、債務者が強制執行をやめさせるために起こす訴えを定めていて、それが請求異議の訴えです。将来の給付の判決が出たあとに、事情の変動が起きたら、債務者は、この訴えで、変動を証明して執行を止めます。この負担をどう見るかが、あとで見る請求適格の核心になります。

では、将来の給付の訴えは、135条の必要性だけを見ればよいかというと、そうではありません。答案の運びとしては、2つに分けます。1つめは、将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格です。答案では、これを略して、請求適格と書きます。判例が、将来の給付の訴えに、さらに絞りをかけているところです。2つめは、あらかじめ請求する必要性で、義務者が争っているなどの、個別の事情を見ます。請求適格を欠けば、必要性まで進まずに、訴えを却下します。ただし、この2つに分ける運びは、判決がそう言っているのではなく、答案の整理です。「判例は2段階と言う」と書いてはいけません。

請求適格

不法占有者の賃料相当額と、カフェ会社の賃料の分け前 図:不法占有者の賃料相当額と、カフェ会社の賃料の分け前

ここからが中心です。不法占有者に、明渡しまでの賃料相当額を請求するときは、将来分まで認められると言われます。カフェ会社から入る賃料の分け前を、将来分まで請求することは、同じように認められるでしょうか。どちらも、毎月入ってくる賃料に関わる請求なので、同じように認められそうに見えます。不法占有者への請求と、賃料の分け前の請求を分けるものを、判例の言葉で、見つけにいきます。問題は、令和8年9月分以降の372万円について、請求適格があるかどうかです。つまり、将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格が、あるかどうかです。継続的な不法行為ではなく、不当利得にあてはめる場面です。規範を確かめます。

規範と答案の型|将来給付の訴えの請求適格 図:規範と答案の型|将来給付の訴えの請求適格

規範は、こうです。将来の給付の訴えは、現在すなわち事実審の口頭弁論終結の時点では、即時履行を求めることのできない請求権について、あらかじめ給付判決を求める訴えです。将来発生すべき債権についても、その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、債務者に有利な将来における事情の変動が、あらかじめ明確に予測し得る事由に限られ、しかも、請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を、債務者に課しても、当事者間の衡平を害することがなく、格別不当とはいえない場合には、提起することができます。答案では、この規範を、3つの視点に分けて当てます。1つめは、基礎になる事実関係と法律関係が存在して、その継続が予測できること。2つめは、債務者に有利な事情の変動が、あらかじめ明確に予測し得る事由に限られること。3つめは、請求異議の訴えで証明させる負担を、債務者に課しても、格別不当でないことです。この3つの視点は、継続的な不法行為についての枠組みと、同じ形です。

その枠組みは、不当利得にも使えます。出どころは、継続的な不法行為の事件で示された、大法廷の判決です。それを、将来発生すべき債権一般の形に直して、不当利得にあてはめたのが、共有物の賃料収益についての判決です。同じ事案の型を、のちの判決が確認しています。ですから、答案の規範は、将来発生すべき債権一般について述べた、共有物の賃料収益の判決の文言で書きます。

判例最判昭和63・3・31 集民153号627頁

最高裁判所判決(共有地の賃料収益の持分超過分を、将来分も含めて請求した事件)
将来発生すべき債権についても、その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、右債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動が予め明確に予測し得る事由に限られ、しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても、当事者間の衡平を害することがなく、格別不当とはいえない場合には、これにつき将来の給付の訴えを提起することができるものと解するのが相当である

これが判決の原文です。上で確かめた規範は、この一節に沿っています。この事件で、最高裁は、原審の口頭弁論終結後の期間にかかる請求部分は、適格を欠くとして、その部分の訴えを却下しました。結論を分けたのは、2つめと3つめの視点でした。そこで、継続的な不法行為の事件に戻って、2つめの視点が、どう働いていたかを見ます。

判例最大判昭和56・12・16 民集35巻10号1369頁

最高裁判所大法廷判決(航空機騒音の事件で、不法占有を例に挙げた部分)
継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権についても、例えば不動産の不法占有者に対して明渡義務の履行完了までの賃料相当額の損害金の支払を訴求する場合のように、右請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、右請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動としては、債務者による占有の廃止、新たな占有権原の取得等のあらかじめ明確に予測しうる事由に限られ、しかもこれについては請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止しうるという負担を債務者に課しても格別不当とはいえない点において前記の期限付債権等と同視しうるような場合には、これにつき将来の給付の訴えを許しても格別支障があるとはいえない

大阪国際空港事件と呼ばれる事件の判決の原文です。この判決は、騒音の将来分の請求については、訴えを却下しました。その理由の中で、不動産の不法占有者に、明渡しまでの賃料相当額を請求する場合を、許される例として挙げています。債務者に有利な事情の変動は、占有の廃止や、新たな占有権原の取得です。どちらも、債務者である占有者自身の事情ですから、あらかじめ明確に予測できます。しかも、占有をやめたかどうかは、占有者がいちばんよく知っています。請求異議の訴えで証明させても、酷ではありません。

では、共有者のYの場合に、何が事情の変動になるかというと、カフェ会社の解約と、賃料の入金の遅れです。規範の言う債務者は、この設例では、取り分を返す義務を負う共有者のYです。共有者のXの請求権は、共有者のYが賃料を受け取った時に、初めて生じます。カフェ会社が解約したり、支払を遅らせたりすれば、その間、共有者のYは賃料を受け取りません。受け取るまでは、共有者のYに利得がなく、共有者のXの請求権も生じません。ですから、解約と入金の遅れは、債務者である共有者のYに有利な、事情の変動にあたります。共有物の賃料収益の判決が、これをどう見たかを、原文で確認します。

判例最判昭和63・3・31 集民153号627頁

最高裁判所判決(共有地の賃料収益の持分超過分を、将来分も含めて請求した事件)
賃貸借契約の解約が、賃貸人たる上告人の意思にかかわりなく、専ら賃借人の意思に基づいてされる場合もあり得るばかりでなく、賃料の支払は賃借人の都合に左右される面が強く、必ずしも約定どおりに支払われるとは限らず、賃貸人はこれを左右し得ないのであるから、右のような事情を考慮すると、右請求権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動が予め明確に予測し得る事由に限られるものということはできず、しかも将来賃料収入が得られなかつた場合にその都度請求異議の訴えによつて強制執行を阻止しなければならないという負担を債務者に課すことは、いささか債務者に酷であり、相当でないというべきである

この一節を、3つの視点に並べると、こうなります。1つめの視点については、賃貸借契約が現に存続していて、賃料による収益がある以上、その継続は、一応予測できる、と述べています。2つめの視点については、解約が賃貸人の意思にかかわりなく、専ら賃借人の意思でされる場合もあり、賃料の支払も賃借人の都合に左右されて、賃貸人はこれを左右できない、と述べています。ですから、事情の変動が、あらかじめ明確に予測し得る事由に限られるとはいえない、という判断です。3つめの視点については、賃料が得られなかったその都度、請求異議の訴えで強制執行を阻止しなければならない負担を、債務者に課すのは、酷で、相当でない、と述べています。

事情の変動を左右するのは誰か 図:事情の変動を左右するのは誰か

2つの場面を、並べます。分かれ目は、同じ賃料でも、将来の事情の変動を、誰の意思や都合が左右するか、です。不法占有者の場合は、変動を左右するのが、債務者自身です。債務者に、占有をやめたことを証明させても、自分の事情ですから、酷ではありません。共有者のYの場合は、変動を左右するのが、カフェ会社です。共有者のYは、カフェ会社がいつ解約するか、支払がいつ遅れるかを、自分では決められません。決められないのに、その都度、他人の都合を証明して、執行を止めなければならないのは、酷です。同じ賃料でも、誰の都合で動くかで、結論が逆になります。ここで、同じ事案の型を、のちの最高裁が確認した判決を見ます。

判例最判平成24・12・21 集民242号117頁

最高裁判所判決(共有者の1人が第三者に賃貸して得る収益の持分超過分を、将来分も含めて請求した事件)
共有者の1人が共有物を第三者に賃貸して得る収益につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものである

これは、共有者の1人が、共有物を第三者に賃貸して得る収益について、持分割合を超える部分の不当利得の返還を、他の共有者が求めた事件の判決です。事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は、請求としての適格を有しない、と述べました。ですから、この設例は、2つの最高裁判決と、同じ事案の型です。あてはめに入ります。

3つの視点のあてはめ 図:3つの視点のあてはめ

事実を拾います。共有者のYは、カフェ会社から受け取る賃料を全額自分のものにして、共有者のXの取り分を渡していません。賃貸借は令和11年3月31日までの5年で、賃料は月36万円、共有者のXの取り分は月12万円です。カフェ会社には、6か月前の通知で、期間の途中でも解約できる特約があります。令和7年12月分は、10日遅れて入金されました。賃料が払われるかどうかは、共有者のYではなく、カフェ会社にかかっています。

1つめの視点です。賃貸借は現に存続していて、賃料による収益があります。契約が続く限り、同じ収益が得られると、一応予測できます。判決も「一応」と言っていますから、答案でも、一応予測できる、と書きます。この1つめの視点は、満たします。

2つめの視点です。事情の変動を左右するのは、共有者のYではなく、カフェ会社の意思と都合です。6か月前の通知で解約できるのですから、5年の期間が、そのまま続く保証はありません。実際に、資金繰りで入金が遅れた月もあります。解約や入金の遅れが、いつ起こるかは、あらかじめ明確に予測できる事由に限られません。2つめの視点は、満たしません。

3つめの視点です。賃料が入らなくなっても、先に出た判決は残ります。そのたびに、共有者のYは、請求異議の訴えで、カフェ会社の解約や不払いを証明して、執行を止めなければなりません。自分では左右できない他人の都合を、その都度証明させる負担は、共有者のYに酷で、相当でないと言えます。3つめの視点も、満たしません。

以上から、請求適格を欠きます。令和8年9月分以降の372万円は、将来の給付の訴えを提起することができません。

ただし、賃料の不当利得なら、将来分は常に請求できない、と書くのは言い過ぎです。最高裁が判断したのは、共有物を第三者に貸して得る賃料の取り分についてです。ほかの種類の不当利得まで、同じだと言い切ることはできません。答案では、この設例の事案の型に、判例の枠組みをあてはめた、という形で書きます。後の判決(平成24年の判決)の補足意見も、先の判決(昭和63年の判決)はその事案についての判断、つまり事例判断で、射程を広げすぎるべきではない、と述べています。ですから、答案では、判例の結論を引くだけで終わらせず、解約の特約と入金の遅れという、この設例の事実で判断します。ほかの種類の不当利得が出たときも、同じ3つの視点を、その事案の事実に当てます。この設例については、請求適格を欠く、と言い切ります。

あらかじめ請求する必要

あらかじめ請求する必要と、答案の順序 図:あらかじめ請求する必要と、答案の順序

最後に、135条の「あらかじめその請求をする必要がある場合」、つまり必要性です。内容は条文どおりの成立要件で、義務者の態度や義務の性質などから、個別に判断します。義務者が争っている場合などが、典型の場面です。あてはめます。共有者のYは、取り分を渡す義務を争っていて、すでに発生した分も、一度も払っていません。受領の時が来ても、任意の履行は期待しにくいですから、必要性は、認められうると考えられます。

もっとも、必要性があるなら、請求適格がなくても、訴えを起こしてよい、とはなりません。必要性は、請求適格があるときに、初めて効く絞りです。適格を欠けば、必要性まで進まずに、訴えを却下します。すでに発生した分を払っていないことは、先の分も払われないだろうという、必要性を支える事情です。けれども、請求適格を欠けば、その事情までは届きません。ですから、この設例の答案で、払っていないから将来分も請求できる、と結ぶことはできません。請求適格で止まります。答案では、必要性は、仮に請求適格があったとしても、という位置づけで、短く書けば足ります。

結論と、終結後に生じる分

結論の内訳 図:結論の内訳

結論の形を確かめます。訴えの利益は訴訟要件ですから、欠けていれば、裁判所は訴えを却下します。請求の中身を判断して、棄却するのではありません。

この設例の結論です。令和6年4月分から令和8年8月分までの348万円は、適法で、本案の審理に進みます。令和8年9月分以降の372万円は、請求適格を欠きますから、不適法で、訴えを却下します。請求棄却ではありません。2つの最高裁判決も、将来分の請求にかかる訴えを却下しています。

却下されても、令和8年9月分以降が、もう請求できなくなるわけではありません。却下されるのは訴えであって、令和8年9月分以降の不当利得が実際に生じたかどうかの、実体の判断ではありません。ですから、共有者のYが9月分以降の賃料を受け取って、不当利得が現実に生じたときは、そのとき改めて、現在の給付の訴えとして請求できると考えられます。控訴審まで進んだときは、基準になる終結の時点は、控訴審の口頭弁論の終結の時点と考えられます。その時までに共有者のYが受け取った分は、請求の趣旨にもう含まれていますから、現在の給付として判断されます。

まとめ

完成答案:第1 現在の給付(区別・結論) 図:完成答案:第1 現在の給付(区別・結論)

こちらが、完成答案です。第1は、令和8年8月分までの、現在の給付で、区別と結論を書いています。終結の時点を基準にして、訴えを起こしたあとに受け取った72万円まで、現在の給付に入れています。図と同じ文面を、本文でも置きます。

第1 令和8年8月分までの不当利得返還請求(現在の給付)の適否

1 区別

 将来の給付の訴えは、現在すなわち事実審の口頭弁論終結の時点では即時履行を求めることのできない請求権について、あらかじめ給付判決を求める訴えである。本件の口頭弁論終結の時点は令和8年9月15日であり、不当利得返還請求権は共有者のYがカフェ会社から賃料を受け取った時に生じる。令和8年8月分までは令和8年8月31日までに受け取っているから、口頭弁論終結の時点で履行を求めることができる。訴え提起の時に生じていなかった令和8年3月分から8月分の72万円も含め、令和6年4月分から令和8年8月分までの348万円(29か月分)は、現在の給付である。

2 結論

 現在の給付の訴えは、履行期の到来した請求権を主張するものであり、訴えの利益は通常問題とならず、適法である。

完成答案:第2 将来の給付(問題の所在・規範) 図:完成答案:第2 将来の給付(問題の所在・規範)

第2は、令和8年9月分以降の、将来の給付です。ここは、問題の所在と規範です。135条を示したうえで、その前提として、請求適格があるかを問題にする流れと、規範を判決の文言で書く形を、確かめてください。

第2 令和8年9月分以降の不当利得返還請求(将来の給付)の適否

1 問題の所在

 令和8年9月分以降の372万円(31か月分)は、口頭弁論終結の時点では即時履行を求めることができない請求権であり、将来の給付の訴えである。将来の給付の訴えは、民事訴訟法135条により、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。その前提として、将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格(以下「請求適格」)があるかが問題となる。

2 規範

 将来発生すべき債権についても、その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、債務者に有利な将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られ、しかも請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても、当事者間の衡平を害することがなく、格別不当とはいえない場合には、将来の給付の訴えを提起することができる(最判昭和63年3月31日)。

完成答案:第2 将来の給付(あてはめ) 図:完成答案:第2 将来の給付(あてはめ)

第2の続きで、あてはめです。3つの視点が、どの事実に対応しているかを、確かめてください。1つめは一応予測できる、と書いて、2つめと3つめで、カフェ会社の意思と都合を理由に、満たさないとしています。

3 あてはめ

 (1)共有者のYは、カフェ会社に貸した共有ビルの賃料を全額受け取っており、令和11年3月31日までの5年の賃貸借が存続している。賃料による収益は現に存在し、契約が続く限り、同様の収益が得られると一応予測できる。

 (2)もっとも、カフェ会社は、6か月前の書面通知により、期間の途中でも解約でき、令和7年12月分の賃料は10日遅れて入金された。解約や入金の遅れを左右するのは、共有者のYではなく、カフェ会社の意思と都合であり、これらの変動は、あらかじめ明確に予測し得る事由に限られない。

 (3)賃料が入らなくなるたびに、共有者のYは、請求異議の訴えにより、カフェ会社の解約や不払いを証明して、強制執行を阻止しなければならない。自ら左右できない他人の都合を、その都度証明させる負担を課すことは、共有者のYに酷であり、相当でない。

完成答案:第2 将来の給付(結論)と第3 結論 図:完成答案:第2 将来の給付(結論)と第3 結論

最後は、第2の結論と、全体の結論です。必要性に触れたうえで、請求適格を欠く以上、訴えは不適法、と結んでいます。348万円は適法、372万円は却下、という振り分けを書いています。最後の一文は、却下されるのは訴えにとどまり、不当利得があるかどうかの実体の判断ではないので、9月分以降の不当利得が現実に生じたときは、改めて現在の給付として請求できる、という趣旨です。

4 結論

 よって、令和8年9月分以降の372万円は、請求適格を欠く。なお、あらかじめその請求をする必要は、共有者のYが取り分を渡す義務を争っていることから認められうるが、請求適格を欠く以上、将来の給付の訴えは不適法である。

第3 結論

 令和8年8月分までの348万円の請求は適法である。令和8年9月分以降の372万円の請求にかかる訴えは、請求適格を欠き不適法であるから、却下される。却下されるのは訴えであって、令和8年9月分以降の不当利得が現実に生じたときは、そのとき改めて、現在の給付として請求できると考えられる。

最後に、事例の請求を終結の時点で分けるところから、結論と、終結後に生じる分の扱いまで、1本の線でつながっているかを、通して見直してみてください。

参照条文

  • 民事訴訟法135条
  • 民事執行法35条2項

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