訴訟承継の書き方(前編)
製麺機の所有者Xが借主Yに返還を求める訴訟の途中で、Yが機械をJに売って手放した事例を素材に、引受けの申立ての要件、義務そのものを引き受けていない買主が50条1項の承継人にあたるか、即時取得という自分だけの主張をもつ者も承継人に含まれるか、買主の側から入る参加承継の道があるかを、答案の順に確かめます。
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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
事例
図:原告X・被告Y・買主Jの関係
登場するのは3人です。X、Y、Jです。Xは、製麺機の甲を持っている個人で、甲の所有者です。Yは、Xから甲を借りて、ラーメン店で使っていた人です。Jは、Yから甲を買った、別のラーメン店の経営者です。上の図は、3人を結ぶ3本の線を表しています。XからYへの線は、所有権に基づく返還請求です。YからJへの線は、甲の売却と引渡しです。XからJへの線は、引受けの申立てです。この3本を、時間の順に見ていきます。
図:時系列:貸した日から引受けの申立てまで
令和5年5月8日です。Xが、自分の所有する甲をYに貸して、引き渡しました。期間の終わりは、令和6年4月30日です。令和6年4月30日に、期間が満了しました。Xは返すよう求めましたが、Yは「期間は更新された。令和7年4月30日まで借りられる」と言って、返しません。Xは、更新を否定しています。令和6年7月1日です。Xが、所有権に基づいて、Yに甲の返還を求めて、提訴しました。令和6年7月8日に、訴状がYに送達されました。訴訟が係属するのは、この日です。令和6年9月2日です。Yが、Jに、甲を代金60万円で売って、引き渡しました。Jは、Yの店で甲が長く使われてきたのを見ていました。Yから「自分で買った機械だ」と聞かされ、甲に所有者を示す表示もなかったので、Yの物だと信じていました。Jは、甲を自分の店で使い始めました。Yは、甲を手放しました。令和6年9月30日に、Xは、Jが甲を持っていることを知りました。令和6年10月28日に、Xは、裁判所に、Jに訴訟を引き受けさせる申立てをしました。
図:事実の整理:ア・イ・ウ・エ・オ
事実を、記号で整理します。事実アは、Xが甲の所有者で、期間が満了したのに、Yが返さないことです。事実イは、Xが令和6年7月1日に提訴し、訴状がYに送達されたのが、令和6年7月8日だったことです。事実ウは、Yが甲をJに売って、手放したことです。事実エは、JがYの物と信じて、甲を現に使っていることです。事実オは、Xが引受けの申立てをし、Jが「Xの機械だとは知らなかった」と言っていることです。Xの考えは、こうです。「Yだけを相手に返還を求め続けても、甲はもうYの手元にない。Jを訴訟に入れて、これまでの審理を使って、甲を取り戻したい」。Jの考えは、こうです。「自分は、Yから買って、現にこの店で使っている。Xの機械だとは知らなかった。なぜ今さら、自分が訴訟に引き込まれるのか」。
図:問い:Jを相手に、これまでの訴訟を続けられるか
問いは1つです。Yが甲を手放したあと、Xは、どうすれば、Jを相手に、これまでの訴訟を続けて、甲の返還を求められるでしょうか。事例の肝は、Yが占有を失ったことです。Yだけを相手にして、返還を求め続けても、甲は取り戻せません。Jに対する判決が要ります。けれども、Jを相手に新しく訴えを起こすと、これまでの審理が、使えなくなります。
検討の順番
図:検討の順番
検討の順番は4つで、このあとの第1から第4までに対応します。1つめ(第1)は、引受けの申立ての要件を、条文どおりに当てることです。2つめ(第2)は、承継人の範囲、つまり、「承継した」とは何かです。3つめ(第3)は、Jが自分だけの主張を持っているとき、承継人にあたるかです。4つめ(第4)は、Jの側から入る道があるかを、条文の向きで確かめることです。この順番にする理由は、答案は、まず条文の要件を順に当てるからです。当てていくと、「承継した」の意味が、条文から決まらないところで、解釈の問題が出ます。承継人にあたるとしても、Jが自分だけの主張を持つときの扱いが、次の問題になります。最後に、Jの側から入る道を、確かめます。前提を1つだけ置きます。訴訟の途中で当事者の地位が移ったとき、承継人を新しい当事者として加えて、それまでの手続を引き継がせる。それが、訴訟承継の考え方です。ここでは、当事者の行為で地位が移った場合を扱います。Jが訴訟に入ったあと、前の当事者であるYの陳述に縛られるかは、後編で扱います。
条文を読めば分かる部分と、解釈で立てる部分の分け方も、先に確かめておきます。条文を音読すれば出てくる内容は、成立要件です。条文番号を添えて書けば足ります。条文に書いていない基準を、判例や解釈で立てるものが、規範です。ここで立てる規範は2つです。承継人の範囲(第2)と、固有の防御方法を持つ者の扱い(第3)です。これに対して、民事訴訟法50条1項(第1)と、民事訴訟法51条(第4)と、民法192条(第3)の3つの条文は、条文どおりなので、成立要件です。
第1 引受けの申立ての要件
図:第1の確認:引受けの申立ての要件
第1は、引受けの申立ての要件です。Xは、Jに訴訟を引き受けさせる申立てをしました。この申立てが認められるための要件は、何でしょうか。条文を開きます。民事訴訟法50条1項です。
条文民事訴訟法50条1項
民事訴訟法50条1項(義務承継人の訴訟引受け)
訴訟の係属中第三者がその訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したときは、裁判所は、当事者の申立てにより、決定で、その第三者に訴訟を引き受けさせることができる。
要件を拾います。1つめは、訴訟の係属中であること。2つめは、第三者が、訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したこと。3つめは、当事者の申立てがあること。この3つです。これは条文どおりの成立要件です。なお、裁判所は、申立てがあると、当事者と第三者の審尋をして決めます。これは、50条2項です。1つめの要件にいう訴訟の係属は、訴状が被告に送達された時に始まります。通説です。
図:あてはめ:引受けの申立ての要件
設例にあてはめます。1つめの要件、訴訟の係属中です。訴訟が係属したのは、訴状がYに送達された、令和6年7月8日です。Yが甲を売って引き渡したのは、令和6年9月2日です。係属のあとなので、満たします。3つめの要件、当事者の申立てです。Xは原告で、当事者です。令和6年10月28日に、申立てをしています。満たします。残るのは、2つめの要件、義務の承継です。訴訟の目的である義務は、Yが負う、甲の返還義務です。Jは、Yから甲を買って、占有を得ただけで、この義務そのものを引き受けたわけではありません。ここが山です。「承継した」とはどういう意味かを、第2で決めます。
第2 承継人の範囲
図:第2の確認:承継人とは、前の当事者の何を引き継いだ人か
第2は、承継人の範囲です。先に、既判力の主観的範囲で使う見方を、1つ確かめます。判決が出たあとで、被告から目的物を買った人に、既判力が及ぶかを決めるとき、承継人とは、前の当事者から、紛争の主体たる地位を引き継いだ人のことです。争いの当事者の席を、引き継いだ人です。ここで扱うのは、判決のあとではなく、訴訟の途中です。時期が違うだけで、同じ見方を使います。Jは、Yの返還義務そのものを引き受けたわけではありません。それでも、義務を承継した者といえるのでしょうか。義務を引き受けていないなら、条文の文言からは、外れそうにも見えます。ここが、問題の所在です。50条1項は、「義務の全部又は一部を承継したとき」と書いています。義務そのものを引き受けた者だけを指すのか、それより広いのか、条文から決まりません。もし、義務を引き受けた者に限ると、被告が占有だけを第三者に移して、訴訟を空振りにできてしまいます。そこで、解釈で決めます。
図:規範と答案の型|承継人の範囲
承継人の範囲の規範は、最高裁の判決を使って立てます。訴訟承継の承継人とは、前主から、紛争の主体たる地位を、訴訟の係属中に承継した者をいい、訴訟物たる権利義務そのものを承継した者に限られない。前主とは、前の当事者のことです。この規範のうち、「紛争の主体たる地位」は判決の言葉です。「訴訟物たる権利義務そのものを承継した者に限られない」のほうは、判決の事案から導く、答案の定式です。まず、判決の言葉を確かめます。
判例最判昭和41・3・22 民集20巻3号484頁
最高裁判所判決(建物収去土地明渡訴訟の係属中に、賃借人から建物の一部を賃借して占有を承継した者への訴訟引受けが争われた事件)
賃貸人が、土地賃貸借契約の終了を理由に、賃借人に対して地上建物の収去、土地の明渡を求める訴訟が係属中に、土地賃借人からその所有の前記建物の一部を賃借し、これに基づき、当該建物部分および建物敷地の占有を承継した者は、民訴法七四条にいう「其ノ訴訟ノ目的タル債務ヲ承継シタル」者に該当すると解するのが相当である。けだし、土地賃借人が契約の終了に基づいて土地賃貸人に対して負担する地上建物の収去義務は、右建物から立ち退く義務を包含するものであり、当該建物収去義務の存否に関する紛争のうち建物からの退去にかかる部分は、第三者が土地賃借人から係争建物の一部および建物敷地の占有を承継することによつて、第三者の土地賃貸人に対する退去義務の存否に関する紛争という型態をとつて、右両者間に移行し、第三者は当該紛争の主体たる地位を土地賃借人から承継したものと解されるからである。
先に、条番号の読み替えです。判決に出てくる民訴法七四条は、旧法の条番号で、今の民事訴訟法50条1項にあたります。この判決の事件は、製麺機の設例とは別の事件です。土地の賃貸人が、賃貸借の終了を理由に、賃借人に対して、地上の建物の収去と、土地の明渡しを求めて、訴えました。その訴訟の係属中に、賃借人から、建物の一部を借りて、その部分と敷地の占有を引き継いだ人がいました。この人に、訴訟を引き受けさせることができるかが、争われました。最高裁は、できるとしました。判決の理由は、こうです。建物を収去する義務は、建物から立ち退く義務を含んでいます。立ち退きに関する争いは、占有を引き継いだ人と土地の貸主の間の、退去義務をめぐる争いという形で、両者の間に移った。だから、占有を引き継いだ人は、紛争の主体たる地位を、前の賃借人から承継したといえる。争いの当事者の席が、占有を引き継いだ人に移った、ということです。答案での注意があります。判決は、建物の収去義務ではなく、その中の、退去にかかる紛争部分が移った、と述べています。「訴訟物たる権利義務そのものを承継した者に限られない」という言い方は、この事案から導く、答案の定式です。判決が一般論として言い切った言葉ではありません。また、この判決の事件で占有を引き継いだのは、建物の一部の賃借人で、設例のJは、動産の買主です。事案の種類は違いますが、同じ見方を当てはめます。
判例最判昭和41・3・22 民集20巻3号484頁
同上(既存の訴訟を第三者に承継させる要請について述べた部分)
土地賃貸人が、第三者を相手どつて新たに訴訟を提起する代わりに、土地賃借人との間の既存の訴訟を第三者に承継させて、従前の訴訟資料を利用し、争いの実効的な解決を計ろうとする要請は、民訴法七四条の法意に鑑み、正当なものとしてこれを是認すべきであるし、これにより第三者の利益を損うものとは考えられない
承継人の範囲をこのように立てる決め手は、3つあります。1つめは、1つめの引用で確かめた、判決の理由です。争いの当事者の席が、前の当事者から、占有を引き継いだ人に移っています。2つめは、すぐ上に引いた部分の前半です。同じ判決は、新しく訴えを起こす代わりに、既存の訴訟を第三者に承継させて、従前の訴訟資料を利用し、争いを実効的に解決する要請は、正当だとしています。設例でいえば、Jを新しく訴えると、Yが貸したか、期間が満了したか、といった、これまでの審理が、使えません。引受けなら、使えます。3つめは、同じ部分の後半です。同じ判決は、既存の訴訟を承継させても、第三者の利益を損なうものではない、としています。第三者は、当事者として加わり、自分の主張を出せるからです。手続保障が、損なわれません。
図:境目の例:Jが買ったのが別の同型機だったら
承継人の輪郭を、境目の例で確かめます。設例の事実を1つ変えて、もし、Jが買ったのが、甲ではなく、Yが別に持っていた、同型の別の製麺機だったとします。このとき、甲をXに返すべきか、という争いは、Jに移っていません。Jは、承継人ではありません。甲を買ったJも、別の同型機を買ったJも、Yから製麺機を買った人である点は同じです。それでも結論が分かれる決め手は、争われている対象を引き継いだかです。同型でも、甲でなければ、争いの席に、座っていません。
図:あてはめ:承継人の範囲
設例にあてはめます。まず、事実ウ(Yが甲をJに売って手放したこと)と、事実エ(Jが甲を現に使っていること)です。JはYから甲を買い、引渡しを受けて、現に占有して使っています。甲をXに返すべきか、という争いの席に、Yに代わってJが座っています。Yは、もう甲を持っていません。Jは、紛争の主体たる地位を、Yから承継しています。次に、事実イ(訴状の送達が令和6年7月8日だったこと)です。この承継は、訴訟の係属中に起きました。従前の訴訟資料、つまり、Yが貸したか、期間が満了したか、といった審理を、Jにも使わせれば、紛争を一回で、実効的に解決できます。第2の結論です。Jは、50条1項の、義務を承継した第三者にあたります。Jは、義務そのものを引き受けていなくても、紛争の主体たる地位を、承継しています。
第3 固有の防御方法を持つ者
図:第3の問い:自分だけの主張を持っていても承継人か
第3は、固有の防御方法を持つ者です。Jは、Yから買ったとき、Yの物だと信じていて、疑う事情もありませんでした。ここで、民法192条の、即時取得を考えます。条文を開きます。
条文民法192条
民法192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
要件は、取引行為によること、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めたこと、善意であり、かつ、過失がないことです。条文どおりの成立要件です。Jの売買は取引行為にあたります。ただし、即時取得が成立するかどうかは、ここでは決めません。引受けのあとの、本案で審理されます。Jの即時取得の主張は、Jが自分の取引で持つ、Xに対する自分だけの主張です。これを、固有の防御方法といいます。承継人が、前主とは別に、相手方に対して、自分だけで持っている実体法上の主張のことです。固有の防御方法は、既判力の主観的範囲では、判決のあとの場面で出てきます。ここで扱うのは、訴訟の途中の、引受けの場面です。Jは、Xに対して、自分だけの言い分を持っています。Yの言い分と違うのだから、JはYの代わりではない、という気もします。そうだとすると、Jは、そもそも承継人ではない、といえるのでしょうか。
ここが、問題の所在です。前主とは別に自分だけの防御方法をもつ者まで、承継人に含まれるのかが問われます。含まれるとして、引受けのあとで、その主張を出せるのかも問われます。この論点は、答案の失敗が起きやすいところです。固有の主張があるから承継人でない、と書いて止める失敗と、承継人にあたる、と書いて、Jの主張を見落とす失敗です。
図:規範と答案の型|固有の防御方法を有する者
固有の防御方法を持つ者の扱いの規範は、通説で立てます。この点を一般論として述べた最高裁判決は、答案には引けません。規範は、こうです。自分だけの防御方法をもつ者も、承継人に含まれる。承継人は、承継後に、固有の防御方法を提出することができる。この規範の決め手は、2つあります。1つめは、承継人を広くとらえるほうが、従前の訴訟資料を利用して、紛争を一回で解決するという、引受けの趣旨に合うことです。2つめは、承継人は、承継後に、固有の防御方法を出せるので、手続保障を害さないことです。第2で引いた最高裁の判決(最判昭和41・3・22)も、既存の訴訟を承継させても第三者の利益を損なわない、と述べていました。第三者は、当事者として、自分の主張を出せるからです。この通説に対して、固有の防御方法があるなら承継人にあたらない、とする見方があります。実質説といいます。通説の、自分だけの防御方法をもつ者も承継人に含まれるとする見方は、形式説といいます。実質説は、引受けの段階で、固有の防御方法があるかという、本案の中身を判断することになりかねません。だから、答案では形式説で立てます。
図:あてはめ:固有の防御方法
設例にあてはめます。まず、事実エ(JがYの物と信じて、甲を現に使っていること)です。Jは、甲が長く使われているのを見て、Yから「自分で買った」と聞かされ、所有者の表示もなかったので、Yの物と信じていました。Jの即時取得の主張は、Jが自分の取引で持つ、Xに対する主張で、固有の防御方法にあたります。それでも、Jが紛争の主体たる地位を承継した事実は、動きません。Jは、承継人にあたります。次に、事実オ(Xが引受けの申立てをし、Jが「Xの機械だとは知らなかった」と言っていること)です。引受けの決定のあと、Jは当事者として、即時取得を主張できます。即時取得の成否は、本案で審理されます。第3の結論です。Jは承継人にあたり、引受けの決定のあとで、即時取得の主張を出せます。
第4 もう一つの入り方
図:第4の確認:Jが自分から入る道はあるか
第4は、もう一つの入り方です。第1から第3までは、Xが、Jを訴訟に入れる道でした。Jの側から、自分で訴訟に入る道はあるでしょうか。条文を開きます。民事訴訟法51条です。
条文民事訴訟法51条
民事訴訟法51条(義務承継人の訴訟参加及び権利承継人の訴訟引受け)
第四十七条から第四十九条までの規定は訴訟の係属中その訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したことを主張する第三者の訴訟参加について、前条の規定は訴訟の係属中第三者がその訴訟の目的である権利の全部又は一部を譲り受けた場合について準用する。
51条の前段は、義務を承継したことを主張する第三者の訴訟参加に、47条から49条までを準用する、という定めです。Jが、自分は甲の承継人だと主張して、自分から入る。これが、参加承継です。2つの入り方を、誰が動くかという向きで整理します。
図:入り方の比較:向きで分ける
Xが「Jを入れたい」なら、引受けです。50条1項です。Jが「自分から入りたい」なら、参加承継です。51条前段です。引受けは、裁判所が当事者と第三者を審尋して、決定で判断します。参加承継は、承継したことを主張すれば足ります。独立当事者参加の形で、書面で申し出て、当事者になります。参加するJと前主のYとの間に争いがなければ、Xだけを相手にする、片面的な参加でもかまいません。独立当事者参加で認められている、片面的な参加の形です。
脱退も、一言だけ触れます。脱退とは、承継人が入ったあと、前主のYが、訴訟から抜けることです。参加承継では、Yは、48条により、相手方の承諾を得て、脱退できます。引受けでも、50条3項が、48条を準用しています。Yが訴訟から抜けても、判決はYに効力を持ちます。判決の効力がYに及ばないとすると、XとJの間で決着がついても、Yとの間では、甲をめぐる争いが残ってしまうからです。
義務ではなく、権利のほうが移った場合も見ます。設例とは別に、仮に、訴訟の途中で、Xが甲をKに売ったとします。今度は、返還を求める権利の側が移っています。権利を譲り受けたKが自分から入るなら、参加で、49条です。Yが、Kを引き込むなら、引受けで、51条後段です。参加と引受けを分ける軸は、誰が動くかです。承継人が自分の意思で入るなら参加、当事者が申し立てて裁判所が入れるなら引受けです。権利か義務かで、参加か引受けかが決まるのではありません。承継人は、自分の権利を守るために入りたい。相手方は、承継人との間でも決着をつけたい。だから、権利と義務のどちらが移っても、参加と引受けの両方の道があります。
製麺機の設例に戻ります。Xが引受けを申し立てました。Jが自分から参加する道もあります。どちらの道でも、Jは、承継人として、当事者になります。
まとめ
図:完成答案:第1 引受けの申立て・第2 承継人の範囲
結論を確認します。Jは、義務そのものを引き受けていなくても、紛争の主体たる地位を承継した者として、承継人にあたります。固有の防御方法として即時取得を持っていても、承継人であり、引受けの決定のあとで、その主張を出せます。Xは、Jに訴訟を引き受けさせる申立てができます。こちらが、完成答案です。第1の引受けの申立てと、第2の承継人の範囲です。図と同じ文面を、本文でも置きます。
第1 引受けの申立て
1 問題の所在
YがJに甲を売って手放した。Xは、Jに訴訟を引き受けさせることができるか。民事訴訟法50条1項が問題となる。
2 要件
訴訟の係属中であること、第三者が訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したこと、当事者の申立てがあること。
3 あてはめ
訴訟は令和6年7月8日の訴状送達で係属し、Yの売却と引渡しは同年9月2日で、係属中である。申立ては原告Xが同年10月28日にしている。Jは、Yの返還義務そのものを引き受けていないため、義務を承継したといえるかが問題となる。
第2 承継人の範囲
1 問題の所在
50条1項の「承継した」の意味が条文から決まらない。
2 規範
訴訟承継の承継人とは、前主から、紛争の主体たる地位を訴訟の係属中に承継した者をいい、訴訟物たる権利義務そのものを承継した者に限られない(最判昭和41・3・22)。従前の訴訟資料を利用して紛争を実効的に解決する要請は正当で、第三者の利益を損なわない。
3 あてはめ
JはYから甲を買って引渡しを受け、現に占有している。甲をXに返すべきかという争いの席に、Yに代わって座っている。訴訟の係属中の承継である。
4 結論
よって、Jは承継人にあたる。
図:完成答案:第3 固有の防御方法・結論
第3の、固有の防御方法と、全体の結論です。規範のあとに置いた理由づけまで、確かめてください。
第3 固有の防御方法
1 問題の所在
Jは、民法192条の即時取得という、Xに対する自分だけの主張を持つ。前主とは別に自分だけの防御方法をもつ者まで、承継人に含まれるのかが問われる。
2 規範
自分だけの防御方法をもつ者も、承継人に含まれる。承継人は、承継後に、固有の防御方法を提出することができる。承継人を広くとらえるほうが、従前の訴訟資料を利用して紛争を一回で解決するという引受けの趣旨に合い、承継後に主張を出せるので手続保障を害さない。固有の防御方法があれば承継人にあたらないとする見方は、引受けの段階で本案の中身を判断することになりかねないから採らない。
3 あてはめ
Jの即時取得の主張は、Jが自分の取引で持つ主張で、固有の防御方法にあたる。それでも、紛争の主体たる地位の承継は妨げられない。引受けの決定のあと、Jは当事者として民法192条の即時取得を主張できる。
4 結論
よって、Jは承継人にあたり、即時取得の主張を出せる。
結論
Xは、Jに訴訟を引き受けさせる申立てができる。Jは承継人にあたる。
参照条文
- 民事訴訟法50条1項
- 民法192条
- 民事訴訟法51条