訴訟承継の書き方(後編)
製麺機の返還を求める訴訟で、被告Yが、原告XがメーカーのK社から製麺機を買ったことを認めたあと、Yから製麺機を買ったJが訴訟を引き受けた事例を素材に、承継人が、入る前にされた前主の自白に拘束されるか、原告と前主が示し合わせた陳述でも拘束されるか、入ったあとの陳述は参加承継と引受承継でどう扱われるかを、答案の順に確かめます。
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事例
図:原告X・被告Y・買主Jと、Yの陳述
前編と同じ、製麺機の甲の話です。前編の結論を、一言で確認します。買主のJは、承継人にあたります。そして、即時取得という自分だけの主張も、引受けのあとで出せます。後編は、そのJが訴訟に入ったあとの話です。入る前に、前の当事者がしていた陳述を、Jは争い直せるのか。入ったあとの陳述は、どう扱われるのか。この2つを、結論まで書き切ります。登場するのは、前編と同じ3人です。原告のX、被告のY、買主のJです。Xは甲の所有者で、Yに甲を貸しました。Yは、貸した期間は更新されたと言って、返しません。Jは、Yから甲を買った人です。もう1社、甲を作ったメーカーのK社が、話の中に出てきます。上の図は、この3人の関係を、4本の線で表しています。1本めは、XからYへの線で、XがYに甲の返還を求めていることを表します。2本めは、YからXへの線で、Yが、XがK社から甲を買ったことは認める、と陳述したことを表します(陳述の中身はこのあと見ます)。3本めは、YからJへの線で、YがJに甲を売ったことを表します。4本めは、XからJへの線で、XがJについて引受けの申立てをしたことを表します。この4つを、時間の順に見ていきます。
図:時系列:購入から、Jが争おうとした日まで(1)
令和4年の9月12日です。Xが、メーカーのK社から、甲を買いました。これはXの主張で、訴状にも書いてあります。Xが甲の所有者だと言う、根拠です。令和5年の5月8日に、Xが、甲をYに貸して、引き渡しました。期間は、令和6年の4月30日までです。Yは、期間は更新されたと言って、返しません。ここまでは、前編と同じです。令和6年の7月1日に、Xが、所有権に基づいて、Yに甲の返還を求めて、提訴しました。7月8日に、訴状がYに送達されて、訴訟が係属しました。
図:時系列:購入から、Jが争おうとした日まで(2)
ここからが、後編の事例です。令和6年の8月5日、第1回の口頭弁論の期日で、Yが、こう陳述しました。「Xが令和4年の9月12日にK社から甲を買ったことは認めます。ただし、貸した期間は更新されたので、返しません」。このとき、Yは、まだ甲を持っていました。令和6年の9月2日に、Yは、Jに甲を売って、引き渡しました。10月28日に、Xが引受けの申立てをして、11月25日に、裁判所が引受けの決定をしました。Jは、当事者になりました。そして、次の期日の12月16日に、Jが、こう言い出しました。「Xが甲をK社から買ったという話は、本当か。甲は、前からYの物だったのではないか。Yの陳述は、自分に関係がない」。
図:事実の整理:ア・イ・ウ・エ・オ
ここまでの事実を、記号で整理します。事実アは、Xが、令和4年の9月12日にK社から甲を買った、と訴状で主張していることです。事実イは、Yが、8月5日の期日で、その経緯を認めたうえで、賃貸借は更新されたので返さない、と陳述したことです。事実ウは、Yが認めた理由です。Yは、自分が借りる権利を主張する前提として認めました。Yは、当時、甲を持っていました。XとYの間に、示し合わせはありません。事実エは、Jが9月2日にYから買い、11月25日に引受けの決定を受けて、12月16日に、Xの購入を争おうとしたことです。事実オは、Jには、即時取得の主張があることです。前編で確かめたとおり、これはJだけの主張で、引受けのあとでも出せます。Xの考えは、こうです。「Yが、K社から買ったことを、認めている。Jが入っても、それは動かせないはずだ」。Jの考えは、こうです。「Yが何を言ったかは、Yの話だ。自分は、その場にいなかった。甲は、前からYの物だった、と言い直したい」。
図:問い:入る前の陳述と、入ったあとの陳述
問いは2つです。1つめ。Yが、Jの入る前に認めたことを、あとから入ったJは、争い直せるか。2つめ。もし、Yの陳述が、Jの入ったあとだったら、結論は変わるか。事例の肝は、Yが認めた中身です。Xが甲を買ったことをYが認めると、Xは、それを証明しなくてよくなります。その一方で、Jは、「甲は前からYの物だった」という筋を、とれなくなるかもしれません。Jにとっては、大きな分かれ目です。
検討の順番
図:検討の順番
検討の順番は、時間の順です。最初は、Jが入る前の陳述です。ここは、原則と例外の2段で書きます。原則が第1、例外が第2です。次は、Jが入ったあとの陳述で、これが第3です。ここは、参加承継か、引受承継かで、使う条文が変わります。この順番にする理由は、前の当事者の陳述が、承継人の入る前にされたか、入ったあとにされたかで、使う規律が変わるからです。入る前なら、訴訟状態の引継ぎの問題です。入ったあとなら、入り方に応じた審理の原則、つまり、条文の問題です。なお、Jは承継人にあたる、というところから始めます。
どれが条文で、どれが規範かも、先に分けておきます。条文どおりの成立要件は、179条、2条、47条4項、40条1項、50条3項、39条です。音読すれば出てくる内容なので、番号を添えて書けば足ります。条文に書いていない規範は、1つです。承継人は、前の当事者の陳述に縛られるか、という、訴訟状態帰属効とその例外です。これは、通説の考え方で立てる規範で、最高裁が自白の拘束まで述べたものではありません。
第1 入る前の陳述に拘束されるか
図:第1の確認:前編の復習
第1は、Jが入る前の陳述です。始める前に、前編の内容を1つ確かめます。固有の防御方法を持つ承継人は、承継後に、その防御方法を、当事者として、提出できます。後編では、その力と、前の当事者の陳述に縛られる範囲が、どう関わるかを見ます。では、本題です。Yが認めたことを、あとから入ったJは、争い直せるのでしょうか?先に、Yの陳述の性質を、1文で確かめます。Yは、口頭弁論の期日で、相手方Xの主張と一致する、自己に不利益な事実を認めました。Xが証明責任を負う、Xの購入という事実です。これは、裁判上の自白です。成立の細かい要件には、入りません。条文を開きます。179条です。
条文民事訴訟法179条
民事訴訟法179条(証明することを要しない事実)
裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。
自白した事実は、証明することを要しません。Xは、K社から買ったことを、証明しなくてよくなります。裁判所も、その事実と違う認定はできません。Yも、原則として、撤回できません。これらが、自白の回で見た、自白の拘束力です。問題の所在です。条文が言うのは、「当事者が自白した事実」です。自白したのは、Yで、Jは自白していません。Jが当事者になる前にされた自白に、Jは拘束されるのか。承継人の拘束を定めた条文は、ありません。条文から決まらないので、解釈で決めます。
Jが入る前の話なのに、なぜJが縛られるのか、という疑問が出ます。Jを縛るのは、Jに責任を負わせるためではありません。承継は、それまでの訴訟を引き継いで続ける制度です。引き継ぐ以上、何をどこまで引き継ぐかが、問題になります。両側から考えてみます。もし、Jが、最初から全部やり直せるなら、どうなるか。Xは、Yとの間で認めてもらった事実を、承継人が入るたびに、一から証明し直します。引受けは、従前の訴訟資料を使って、紛争を一回で解決する制度です。その意味が、薄れます。逆に、何でも引き継がせるなら、どうか。Jは、自分が一度も口を出せなかった場面の陳述に、縛られます。この2つの間に線を引くのが、規範です。
図:規範と答案の型|訴訟状態帰属効とその例外
規範は、通説の考え方で立てます。承継人は、前主と相手方の間で形成された訴訟状態を引き継ぎ、前主がすることのできなくなった訴訟行為は、承継人もすることができない。これを、訴訟状態帰属効といいます。前主の訴訟追行によって、承継人の手続保障が代わりに満たされているからである。もっとも、前主と相手方の馴れ合い的・詐害的な処分的訴訟行為が信義則に反する場合は、手続保障が代わりに満たされているとはいえず、帰属効は否定される。後半の例外は、前主が相手方と示し合わせて、自白のように訴訟の結果を左右する行為をした場合のことで、第2で使います。第1では、前半の原則を見ます。言葉を、確認します。訴訟状態とは、それまでの弁論や証拠調べ、自白など、前主と相手方の訴訟追行で形づくられたものです。前主とは、前の当事者で、この事例ではYです。手続保障とは、争う機会が与えられていることです。Jは、入る前の場面では、争えませんでした。けれども、その場面では、Yが争える立場にいました。しかも、Yは甲を返したくない当事者で、Jが守りたいのも、同じ甲です。Xの言い分を崩したいという利害が、YとJで重なっています。Yの追行が、Jの争う機会を、代わりに満たしている。そう考えて、Jにも引き継がせます。引き継がれる訴訟状態は、自白に限りません。時機に後れた攻撃防御方法の扱いや、証拠調べの結果も、帰属効の対象です。この事例では、自白だけを取り上げます。
判例も、1つだけ見ます。ただし、使い方に注意が要ります。
判例最判昭和52・3・18 集民120号295頁
最高裁判所判決(権利の承継人に対する訴訟引受けが許され、引受けを命じられた承継人が時効中断の効力を受けるかが争われた事件)
訴訟引受を命ぜられた承継人は、被承継人と相手方との間の既存の訴訟状態をそのまま利用することができる地位に立つのであるから、第一審原告の本訴提起による時効中断の効力は被上告人についても生ずる。
この判決の事件は、製麺機の設例とは別です。ある権利をめぐる訴訟の途中で、その権利を引き継いだ人に、引受けを命じることが許されるか。そして、引受けを命じられた人にも、元の原告が訴えを起こしたことによる、時効中断の効力が及ぶか。これが争われました。最高裁は、及ぶとしました。この事件で使われた当時の引受けの条文は、今の50条にあたります。注意点です。この判決が述べたのは、引受けを命じられた承継人は、既存の訴訟状態を、そのまま利用できる地位に立つ、ということです。そのうえで、時効中断の効力を、承継人にも認めました。自白の拘束までは、述べていません。ですから、答案では、この判決は、承継人が既存の訴訟状態の上に立つ、という出発点を支える材料として、添えるだけにします。自白に縛られる、という結論は、通説の考え方で立てます。判決が言ったこと、とは書きません。
決め手として、反対の見方も1つ押さえます。参加や引受けがあれば、例外なく引き継ぐ、とする見方です。ただ、それでは、承継人の手続保障を害します。規範の後半で例外を認めるのは、このためです。
図:境目の例:拘束される事実と、拘束されない事実
Jが縛られる範囲の輪郭を、境目の例で確かめます。縛られるのは、Yが認めて、もうYが争えなくなっている事実です。たとえば、Xが令和4年の9月12日にK社から甲を買った、という事実です。一方、Yがまだ認めていない事実は、争いが続いています。Jも、その争いの中で、争えます。たとえば、貸した期間が更新されたかどうかは、Yが争っている点です。つまり、縛られるのは、Yが認めたことだけです。決め手は、前主がもう争えなくなっているかどうかです。Yが認めて、争えなくなったものだけが、Jにも引き継がれます。
図:あてはめ:入る前の陳述
あてはめます。まず、事実イ(Yの陳述)と、事実ウ(Yが認めた理由)です。Yは、令和6年の8月5日に、Xの購入を認めて、貸した期間は更新されたと主張しました。Yは、当時、甲を持っていました。評価です。Yが認めたのは、自分が借りる権利を主張する前提だからです。Yの言い分は、Xから借りた、というものです。Xを貸主と認める筋なので、Xが甲を買ったことを争う理由が、Yにはありません。そのうえで、更新されたから返さない、と主張する。勝つための、正当な防御活動の一環です。Xと示し合わせた事情も、ありません。しかも、8月5日の時点では、Yは、まだ甲を売っていません。Jは、現れてもいませんでした。Yは、Xと向き合う当事者として、甲を守る立場から、自分の判断で認めました。Jを害するためのものではなく、甲を守りたいJの利益を映した追行です。ですから、Jの手続保障は、代わりに満たされています。馴れ合い的・詐害的とは、いえません。次に、事実エ(Jが争おうとしたこと)です。Jは、9月2日にYから買い、引受けの決定を受けて、次の期日に、Xの購入を争おうとしました。Xの購入は、Jが入る前に、Yが自白したものです。その期日のJの主張は、Yの自白と矛盾します。帰属効が及びます。結論です。Jは、Xが甲をK社から買ったことを、争えません。ただし、答案は、ここで止めてはいけません。事実オ、つまり、Jの即時取得の主張を、見落とさないでください。
図:争えないもの・出せるもの
Jが争えないものと、出せるものを、並べます。争えないのは、Xが甲をK社から買ったこと。そして、甲は前からYの物だった、という筋です。Jが入る前に、Yが自白したからです。出せるのは、即時取得の主張です。これは、Jが自分の取引で持つ主張で、Yの追行では、争われていません。Yの追行が代わりに満たしたのは、Yが争える事項についての手続保障です。Jだけの主張は、その外にあります。帰属効に妨げられず、Jは、固有の防御方法として、出せます。
では、Xの購入を争えなくなって、甲がXの物だと決まってしまうと、Jは負けるのでしょうか。Jの負けが決まるわけではありません。即時取得は、Xが元の所有者であることを、認めたままでも、成り立つ主張です。Yが無権利者だったとしても、Jが善意で無過失で、取引によって平穏公然に占有を始めたなら、Jが所有権を取得します。争えないのはXの購入、出せるのは即時取得です。この両者は、両立します。即時取得の成否は、本案で審理されます。
第2 例外:馴れ合い的・詐害的な陳述
図:別件の設例:売却のあとで、Yが認めた
第2は、例外です。第1で見たYは、自分の防御のために認めた人でした。では、Yの陳述が、XとYが示し合わせて、Jを害する目的のものだったら、どうでしょうか? 同じように、Jを縛ってよいのでしょうか。別件の設例で考えます。ここからは、第1で見た経過(以下、本線と呼びます)とは別の経過を仮定します。令和6年の7月22日に、Yは、訴訟の係属中に、Jに甲を売って、引き渡しました。7月29日に、Xは、Jが甲を持っていることを知りました。そして、Yに、こう持ちかけました。「Jが不利になるよう、K社から買ったことを、はっきり認めてくれ。20万円払う」。Yは、応じました。8月5日の期日で、Yは、本線と同じ陳述をしました。Yは、甲を売ったことを知っていました。8月19日に、Xが引受けの申立てをして、9月9日に、引受けの決定がありました。この経過を、事実カとしてまとめます。売却は7月22日。Xは、7月29日にJの存在を知り、Yに20万円を約束して、認めるよう持ちかけました。Yは、売却済みと知りながら、8月5日に陳述しました。この陳述は、Jに不利になります。条文を開きます。2条です。
条文民事訴訟法2条
民事訴訟法2条(裁判所及び当事者の責務)
裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。
2条は、信義則を定める条文で、条文どおりの成立要件です。当事者は、信義に従い、誠実に訴訟を追行しなければならない。相手方と示し合わせて、第三者を害する訴訟行為は、この責務の反対側にあります。規範は、第1で立てたものの、後半を、そのまま使います。前主と相手方の馴れ合い的・詐害的な処分的訴訟行為が、信義則に反する場合は、手続保障が代わりに満たされているとはいえず、帰属効は否定される。新しい規範は、立てません。処分的訴訟行為とは、自白のように、訴訟の結果を左右する行為のことです。決め手は、帰属効の根拠です。帰属効が及ぶのは、前主の追行が、承継人の手続保障を代わりに満たしているからでした。示し合わせた行為は、承継人の利益を映した追行どころか、承継人を害するための行為です。これでは、代わりに満たされているとはいえません。根拠が崩れるので、帰属効も、否定されます。
図:あてはめ:馴れ合い的・詐害的な陳述(別件)
別件の事実カに、あてはめます。評価は、2点です。1点め。なぜ認めたか。本線のYは、自分が借りる権利を主張する前提として、認めました。別件のYは、違います。認める理由が、自分の防御ではなく、20万円の約束にあります。2点め。誰が何を知っていたか。別件のYは、売却済みと知っていました。Xも、Jが甲を持っていると知っていました。XとYは、示し合わせて、Jを不利にする結果を知りながら、自白をしたことになります。別件のYの陳述は、Jの争う機会を代わりに満たす追行とは、いえません。馴れ合い的・詐害的で、信義則の2条に反します。
図:本線と別件の対比:分かれ目の事実
本線と別件を、並べます。陳述の中身は、同じです。「Xが令和4年の9月12日にK社から甲を買ったことは認めます」。違うのは、なぜ認めたかと、誰が何を知っていたかです。本線のYは、借りる権利を主張する前提として認めました。8月5日は、まだ売却の前で、Jは現れていません。示し合わせもありません。結論は、帰属効が及びます。別件のYは、20万円の約束で認めました。売却済みと知っていて、XもJの存在を知っていました。結論は、帰属効の否定です。
では、20万円の約束が無ければ、馴れ合いにはならないのでしょうか。金銭の授受の有無だけで、決まるわけではありません。Jを害すると知りながら、自分の防御ではない理由で認めたか。そこを、事実から評価します。答案は、分かれ目の事実を拾って書きます。拾うのは、なぜ認めたかと、誰が何を知っていたか、の2点です。結論です。別件では、帰属効は否定されます。Jは、Xが甲をK社から買ったことを、自分の立場から、争えます。
第3 入ったあとの陳述
図:第3の確認:入ったあとの陳述
第3は、Jが入ったあとの陳述です。第1と第2は、入る前の陳述でした。では、Yが認めたのが、Jが入ったあとだったら、結論は変わるのでしょうか?ここでも、本線とは別の経過を仮定します。本線と変えるのは、Yが認めた時期です。本線のYは、8月5日の期日で、Xの購入を認めました。ここでは、Yは、8月5日の期日では、Xの購入についての陳述をしておらず、Jが入ったあとの期日で、はじめて認めた、と仮定します。Jの入り方が2通りあるので、場面を2つに分けます。場面イが、Jが自分から入る参加承継、場面ウが、本線と同じくXの申立てで入る引受承継です。
図:事実の整理:場面イ・場面ウ
事実キが、場面イ、参加承継です。令和6年の10月28日に、Jが、自分から、参加承継で参加しました。Yは、脱退していません。11月25日の期日で、Yが、「Xが令和4年の9月12日にK社から甲を買ったことは認めます」と陳述しました。事実クが、場面ウ、引受承継です。本線と同じ10月28日に、Xが引受けの申立てをして、その後、引受けの決定がありました。決定のあとの期日で、Yが、場面イと同じ陳述をしました。どちらの場面でも、Yの陳述は、Jが入ったあとです。Jは、その場にいます。自分で争えます。第1では、Jが入る前の場面ではJは争えなかったので、Yの追行が、Jの争う機会を代わりに満たしている、と考えました。入ったあとは、Jが自分で争えるので、Jの争う機会を、Yが代わりに満たす必要が、そもそもありません。ですから、答案は、帰属効ではなく、入り方に応じた条文で書きます。場面イの参加承継から、条文を開きます。参加承継は、51条前段で、47条から49条までを準用します。つまり、独立当事者参加の形式で参加します。47条4項です。
条文民事訴訟法47条4項
民事訴訟法47条4項(独立当事者参加)
第四十条第一項から第三項までの規定は第一項の訴訟の当事者及び同項の規定によりその訴訟に参加した者について、第四十三条の規定は同項の規定による参加の申出について準用する。
独立当事者参加の訴訟の当事者と、参加した者について、40条1項から3項が準用されます。つまり、必要的共同訴訟の規律がかかります。参加承継では、Jが、自分の請求を掲げて入ってきます。X・Y・Jの3人が互いに向き合う形になるので、3人の結論をばらばらにせず、そろえる要請がかかります。これを、合一確定の要請といいます。40条1項です。
条文民事訴訟法40条1項
民事訴訟法40条1項(必要的共同訴訟)
訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる。
一人の訴訟行為は、全員の利益になるときだけ、効力を生じます。一人の行為で、他の一人を害することはできない、という働きです。あてはめます。場面イの、Yの陳述は、Xの利益になります。Xが、K社から買ったことを、証明しなくてよくなるからです。けれども、Jにとっては、不利益です。ですから、全員の利益にはなりません。結論です。40条1項により、Yの陳述は、効力を生じません。XとYの間でも、生じません。Jは、Xが甲をK社から買ったことを、争えます。
図:場面ウ:引受承継の経過と条文
次に、場面ウ、引受承継です。結論を先に言うと、場面ウでは、39条により、Yの陳述はJに影響しません。準用される条文から、順に確かめます。50条3項を開きます。
条文民事訴訟法50条3項
民事訴訟法50条3項(義務承継人の訴訟引受け)
第四十一条第一項及び第三項並びに前二条の規定は、第一項の規定により訴訟を引き受けさせる決定があった場合について準用する。
引受けの決定があった場合に、41条1項と3項が準用されます。あわせて、前二条、つまり、48条と49条も準用されますが、この事例では使いません。41条は、同時審判申出共同訴訟の規定です。両立しない2つの請求を、原告の申出で、一緒に審理してもらう共同訴訟です。41条の働きは、弁論と裁判を分離しない、というところまでです。結論の統一までは、強制されません。では、Yの陳述がJに効くかどうかは、何で決まるのか。引受承継の構造から考えます。引受承継の構造は、Xから見て、Yへの請求に、Jへの請求が加わった形です。参加承継と違い、Jは自分の請求を掲げて入るわけではありません。XがYとJを、別々に訴えているのと同じ形なので、合一確定の要請はかかりません。通常共同訴訟にあたります。通常共同訴訟では、39条が働きます。39条を開きます。
条文民事訴訟法39条
民事訴訟法39条(共同訴訟人の地位の独立)
共同訴訟人の一人の訴訟行為、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為及び共同訴訟人の一人について生じた事項は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさない。
共同訴訟人の一人の訴訟行為は、他の共同訴訟人に、影響を及ぼしません。共同訴訟人独立の原則です。共同被告の一人の自白が、他の共同被告に及ばないのと、同じ働きです。あてはめます。場面ウの、Yの陳述は、Yの訴訟行為です。Jに対して、影響を及ぼしません。XとYの間では、Yの自白として、そのまま働きます。けれども、XとJの間では、働きません。結論です。Yの陳述は、Jに影響を及ぼしません。Jは、Xが甲をK社から買ったことを、争えます。41条の準用で、弁論と裁判は分離されませんが、XとYの間では購入が認められ、XとJの間では争われる、という形もありえます。
図:場面イ・場面ウの比較
2つの場面を、並べます。場面イの参加承継は、40条1項で、Yの陳述が効力を生じません。場面ウの引受承継は、39条で、Yの陳述がJに影響しません。書き方の向きは違いますが、Jが争える、という結論は同じです。参加承継と引受承継で、使う条文が違うのは不自然ではないか、という疑問も出ます。参加の形が違うだけで、合一確定の強さが変わるのは不自然だ、という指摘は、確かにあります。ただ、答案では、その指摘に一言触れるにとどめ、条文の向きで書きます。参加承継は40条、引受承継は39条です。
図:時間軸:入る前と、入ったあと
分かれ目は、Jが当事者として入った時点です。入る前の陳述は、帰属効で、原則としてJを拘束します。馴れ合い的・詐害的なら、帰属効は否定されます。入ったあとの陳述は、参加承継なら40条1項で効力を生じず、引受承継なら39条でJに影響しません。この違いは、手続保障の考え方とも合います。入る前は、Jが口を出せないので、Yの追行が代わりに満たします。入ったあとは、Jが自分で争えるので、代わりは要りません。Jを害する陳述なら、効かせない。そういう向きです。
まとめ
結論を確認します。入る前の陳述には、原則どおり、拘束されます。ただし、即時取得のような固有の防御方法は、出せます。馴れ合い的・詐害的な陳述なら、拘束されません。入ったあとの陳述は、参加承継なら40条で、引受承継なら39条で、Jに効きません。
図:完成答案:第1 入る前の陳述
こちらが、完成答案です。第1の、入る前の陳述に拘束されるかです。図と同じ文面を、本文でも置きます。
第1 入る前の陳述に拘束されるか
1 問題の所在
Yは、令和6年8月5日、Xが令和4年9月12日にK社から甲を買ったことを認める陳述をした(裁判上の自白、民事訴訟法179条)。Jは、その後に承継人として入り、この事実を争おうとしている。承継人は、入る前の前主の自白に拘束されるかが問題となる。
2 規範
承継人は、前主と相手方の間で形成された訴訟状態を引き継ぎ、前主がすることのできなくなった訴訟行為は、承継人もすることができない。前主の訴訟追行によって、承継人の手続保障が代わりに満たされているからである。もっとも、前主と相手方の馴れ合い的・詐害的な処分的訴訟行為が信義則(2条)に反する場合は、手続保障が代わりに満たされているとはいえず、帰属効は否定される。
3 あてはめ
Yの陳述は、自分の借りる権利を主張する前提でされた正当な防御活動で、Xと示し合わせた事情は無い。したがって、馴れ合い的・詐害的とはいえず、帰属効が及ぶ。ただし、Jの即時取得(民法192条)の主張は、Jが自分の取引で持つ固有の防御方法で、帰属効に妨げられない。
4 結論
よって、Jは、Xが甲をK社から買ったことを争えない。即時取得は主張できる。
図:完成答案:第2 例外(馴れ合い・詐害)
第2の、例外です。別件の陳述に帰属効が及ぶかを、確かめてください。
第2 例外(馴れ合い・詐害)
1 問題の所在
別件で、XがYに20万円を約束して認めるよう持ちかけ、Yは売却済みと知って陳述した。この陳述にも帰属効が及ぶか。
2 規範
第1の規範のうち、前主と相手方の馴れ合い的・詐害的な処分的訴訟行為が信義則(2条)に反する場合は、帰属効は否定される。
3 あてはめ
Yが認めた理由は、防御ではなく金銭の約束にある。XとYは、Jを不利にする結果を知りながら、示し合わせて陳述した。Jの争う機会を代わりに満たす追行とはいえず、信義則に反する。
4 結論
よって、帰属効は否定され、Jは、Xの購入を争える。
図:完成答案:第3 入ったあとの陳述・結論
第3の、入ったあとの陳述と、全体の結論です。参加承継と引受承継を分けて、読んでみてください。
第3 入ったあとの陳述
1 問題の所在
Yは、Jが入ったあとに、Xが令和4年9月12日にK社から甲を買ったことを認める陳述をした。この陳述は、Jに対して効力を生じるか。参加承継か引受承継かで、検討する。
2 参加承継の場合
参加承継は、独立当事者参加の形式で参加する(民事訴訟法51条前段)から、47条4項により40条1項が準用される。一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみ効力を生ずる。Yの陳述は、Xの利益であるが、Jにとって不利益であり、全員の利益にならない。よって、効力を生じない。
3 引受承継の場合
引受けの決定があると、XのYに対する請求に、Jに対する請求が加わり、通常共同訴訟となる。50条3項により41条1項・3項が準用されるが、結論の統一までは強制されず、共同訴訟人独立の原則(39条)が働く。よって、Yの陳述は、Jに影響を及ぼさない。
4 結論
よって、Jは、入ったあとの陳述については、参加承継でも引受承継でも、Xの購入を争える。
結論
Jは、入る前の陳述は争えないが、即時取得は主張できる。入ったあとの陳述は、いずれもJに効かない。
参照条文
- 民事訴訟法179条
- 民事訴訟法2条
- 民事訴訟法47条4項
- 民事訴訟法40条1項
- 民事訴訟法50条3項
- 民事訴訟法39条