委任命令の近時の3判例
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第3章 行為形式の地図と行政基準 ㊴/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の続き——販売の方法の省令2案
図:架空の屋上菜園登録制度の続き
- 実在の制度とは無関係
- 架空の法律の抜粋=登録を受けた屋上菜園の運営者が収穫物を販売する方法に関し必要な事項は、省令で定める。※条番号は付けない
- 設定=この制度ができる前から、収穫物は朝に採った当日でも数日かけた宅配でも自由に売られていた。法律のほかの規定は、鮮度や販売の時期に触れていない。国会の審議でも、鮮度や販売の時期が議論された形跡はない
- 大臣の省令2案=ア 収穫物を販売するときは、栽培した菜園の所在地と収穫日を表示しなければならない
- イ 収穫物は、収穫した日の翌日以降に販売してはならない
- 問い=どちらが任された範囲を超えるか
前回の最後に予告したとおり、今日は、前回の枠組みがどう厳しくなったかを、近時の3つの判例で読みます。前回は、命令が任された範囲を超えれば、法律に違反して無効になる、という枠組みを見ました。4つの事件を読んで、分かれ目は、法律がその事項を命令の判断に委ねたと読めるかどうか、と整理しました。今日新しく出てくるのは、その、読めるか、をどのくらいはっきり読めることまで求めるのか、という点です。先に頭の体操をします。前回の屋上菜園を、別の角度で使います。実在の制度とは関係のない、架空の話です。法律には、こう書いてあったとします。登録を受けた屋上菜園の運営者が収穫物を販売する方法に関し必要な事項は、省令で定める。板には、事情も書きました。この制度ができる前から、収穫物は、朝に採った当日でも、数日かけた宅配でも、自由に売られていました。法律のほかの規定は、鮮度や販売の時期に触れていません。国会の審議でも、鮮度や販売の時期が議論された形跡はありません。ここで大臣が、省令の案を2つ考えました。アは、収穫物を販売するときは、栽培した菜園の所在地と収穫日を表示しなければならない。イは、収穫物は、収穫した日の翌日以降に販売してはならない。
文言は、前回の手がかりの1つ目にすぎません。問いを置きます。アとイのうち、任された範囲を超えるのはどちらでしょうか。前回の手がかりだけで、決めきれるでしょうか。考えながら進んでください。答えは最後に確かめます。
前回の枠組みの確認
図:前回の読み筋の再掲
- 命令が委任の趣旨・範囲を超えれば法律に違反して無効〔憲法違反ではなく法律違反〕
- 読み筋=1 授権規定の文言
- 2 法律全体の趣旨・仕組み
- 3 命令が制約するものの性質〔重い自由の制限ほど、任せたと読める範囲は狭い方向〕
- 専門技術性〔幅が広い方向〕
- 右=今日の問い=「読めるか」を、どのくらい明確に読めることまで求めるか
前回の復習から入ります。前回の4件のうち、命令が適法とされたのはどれでしたか? 何が違いましたか?適法は刀剣の登録の1件だけで、残る3件は無効でした。枠組みを短く戻します。命令が委任の趣旨や範囲を超えれば、法律に違反して無効です。憲法違反ではありません。命令を作る側にも任された幅があるので、審査は、逸脱したかどうか、という形になります。見る場所は、前回整理した読み筋です。授権規定の文言。法律全体の趣旨と仕組み。命令が制約するものの性質。そして、専門技術性があれば幅が広くなる方向でした。前回の終わりに、重い自由を制限する命令ほど、任せたと読める範囲は狭くなる傾向がある、とも言いました。幼い子との面会の事件は、原則許可という法律の仕組みと、被勾留者の接見の自由の重さから、任された範囲を狭く読んだ事件でした。今日の3件は、この傾向が、判決の言葉になって現れる場面を含みます。今日の問いは1つです。読めるか、を、どのくらい明確に読めることまで求めるのか。3件は、前回と同じ順番で読みます。事案、法律の仕組み、命令がしたこと、判旨、なぜその結論か、です。一つ注意があります。3件は、一つの基準でそろえて括れるわけではありません。どこが共通で、どこが違うのかも、後で確かめます。
議員の解職請求の事件——準用が及ぶのは投票だけ
図:議員の解職請求の事件の線
- 2つの箱=左 請求の段階〔有権者の3分の1以上の署名を集め、代表者が選挙管理委員会に請求〕
- 右 投票の段階〔請求があれば選挙人の投票に付す〕
- 法の準用=公職選挙法の選挙に関する規定を準用するのは右の箱〔投票〕だけ
- 政令の資格制限=公務員は請求代表者になれない→左の箱〔請求〕にまで及んだ→及んだ限りで無効
- 注=地自法=地方自治法、公選法=公職選挙法
1件目は、議員の解職請求の事件です。最高裁の大法廷が判断しました。事案です。町議会議員の解職請求、いわゆるリコールの場面です。有権者が署名を集め、その議員を辞めさせるかどうかを、投票にかけさせる制度です。請求代表者は6人いましたが、そのうちの1人が、非常勤の公務員である農業委員会の委員でした。町の選挙管理委員会は、公務員は請求代表者になれない、として、集まった署名簿の署名をすべて無効とする決定をしました。異議も退けられたので、請求した人たちが、その決定の取消しを求めました。原審は、決定を適法としました。法律の仕組みです。議員の解職請求は、2つの段階に分かれています。まず請求です。有権者の3分の1以上の署名を集めて、代表者が選挙管理委員会に請求します。請求があれば、次に投票です。選挙管理委員会が、選挙人の投票にかけます。そして地方自治法は、公職選挙法の選挙に関する規定を、この解職の投票に準用すると定めています。政令で特別の定めをするものは除く、という書き方で、特別の定めは政令に任されていました。公職選挙法には、公務員は在職中、公職の候補者になれない、という規定があります。命令がしたことです。地方自治法施行令は、この公務員の制限を準用するとき、公職の候補者を、解職請求代表者と読み替えました。公務員は、請求代表者になれない。この資格制限は、署名集めを始める、請求の手続の段階にまで及んでいました。
問題は、準用の対象が何か、です。判旨を見ます。判旨に出てくる地自法は地方自治法、公選法は公職選挙法のことです。
判例最大判平21・11・18 民集63巻9号2033頁
議員の解職請求の事件——準用の範囲 このように,地自法は,議員の解職請求について,解職の請求と解職の投票という二つの段階に区分して規定しているところ,同法85条1項は,公選法中の普通地方公共団体の選挙に関する規定(以下「選挙関係規定」という。)を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているのであるから,その準用がされるのも,請求手続とは区分された投票手続についてであると解される。……したがって,地自法85条1項は,専ら解職の投票に関する規定であり,これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって,解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできない。
図:議員の解職請求 2つの段階と準用
- 左の箱 請求の段階〔有権者の3分の1以上の署名を集め、代表者が選挙管理委員会に請求〕
- 右の箱 投票の段階〔請求があれば選挙人の投票に付す〕
- 法の準用=公職選挙法の選挙に関する規定を準用するのは右の箱〔投票〕だけ
- 注=地自法=地方自治法、公選法=公職選挙法
手がかりに当てはめます。1つ目は文言です。法律が準用すると定めたのは、解職の投票でした。請求は、入っていません。2つ目は、法律の仕組みです。法律は、請求と投票を、はっきり2段階に分けています。投票は、公の投票という点で選挙と同じ性質なので、選挙の規定を準用するのにふさわしい。他方、請求は、有権者の側から投票を始めさせる手続で、公職選挙法に対応する制度がありません。準用できるだけの類似性がないのです。しかも、請求手続の中身は、法律が自分で定めるか、別に政令へ委任しています。ですから、任されたのは、投票の手続についての特別の定めです。請求の手続の資格まで引き直すことは、任されていません。この線引きが決め手です。投票の手続の資格制限なら範囲内ですが、請求の手続にまで及ぼせば範囲を超えます。この判決は、制約されるものの重さを決め手にしていません。文言と法律の仕組みで、決着がついています。もう一つの判旨を読みます。冒頭の、これは、の指す先は、公職選挙法の公務員の制限を、解職請求代表者の資格制限として及ぼした、施行令の定めです。
判例最大判平21・11・18 民集63巻9号2033頁
議員の解職請求の事件——結論 これは,既に説示したとおり,地自法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものであって,その資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで無効と解するのが相当である。
図:議員の解職請求 政令の資格制限
- 法の準用=準用するのは右の箱〔投票〕だけ
- 政令の資格制限=公務員は請求代表者になれない→左の箱〔請求〕にまで及んだ
- 結論=及んだ限りで無効
- 注=地自法=地方自治法、公選法=公職選挙法
無効になるのは、政令の規定全体ではありません。資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで、です。ですから、請求代表者に公務員がいることだけを理由に、署名の効力を否定することはできません。選挙管理委員会の決定は、取り消されました。この判決は、先例も変更しました。以前の最高裁の判決は、公務員は請求の最初から代表者になれない、という行政の長年の読み方を認めていました。大法廷は、それと抵触する限度で、その判例を改めたのです。その読み方は、もう判例としては通らない、ということです。判決は、資格を制限するなら、その範囲は法律の規定に基づいて、可能な限り明確に定められているのが望ましい、とも述べています。この一文は、覚えなくて構いません。なお、3人の裁判官が反対しました。請求と投票は解職の制度の一連のもので、投票の公正のために請求の段階から公務員を排除するのも、準用の範囲内だ、という意見です。その後の動きも一言だけ。地方自治法そのものが改正され、直接請求の代表者になれない人が、法律で定められました。政令の改正ではなく、法律の改正です。法律の根拠をもって、作り直したのです。この事件で覚えるのは2つです。準用の対象は投票であって、請求ではないこと。請求の手続に及ぼす限度で無効になったこと。なお、この判決は、明確に読み取れることを要する、という言葉を使っていません。
医薬品のネット販売の事件——明確に読み取れることを要する
図:医薬品のネット販売の事件の線
- 法律の規定=当時の薬事法は郵便等販売の規制も対面の義務づけも書いていない〔厚生労働省令で定めるところにより、販売・情報提供をさせる〕→省令=第一類・第二類医薬品の郵便等販売を一律に禁止〔第三類は認める〕→判決=授権の趣旨が明確に読み取れず、一律に禁止する限度で無効
- 注=新薬事法=2006年改正後の薬事法、新施行規則=2009年改正後の薬事法施行規則、旧薬事法=改正前、郵便等販売=店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による販売・授与
2件目は、医薬品のネット販売の事件です。前に、国の関与の回で、ふるさと納税の判決を読んだとき、明確に読み取れることを要する、という言い回しを見ました。この判決は、今日の3件目で読み直します。同じ言い回しが、この事件にも出てきます。前に見た言い回しの正体を、ここで整理します。事案です。インターネットで、一般用医薬品を郵便などで売っていた事業者たちがいました。この人たちが、国を相手に、省令にかかわらず、郵便等販売をする権利ないし地位があることの確認を求めました。最高裁は国の上告を退け、事業者側が勝ちました。法律の仕組みです。ここは、当時の薬事法の話です。改正前の法律は、郵便等販売を禁じていませんでした。改正後の法律は、店舗で医薬品を売る業者に、薬剤師や登録販売者に販売させ、情報を提供させるよう、厚生労働省令で定めるところにより求めています。けれども、郵便等販売を規制する文言も、対面を義務づける文言も、ありません。一般用医薬品は、リスクの高い順に、第一類、第二類、第三類に分かれます。命令がしたことです。改正後の省令は、第一類と第二類について、店舗で対面で販売し、情報を提供させるものとして、郵便等販売を一律に禁止しました。第三類だけは、郵便等販売を認めました。第一類と第二類は、一般用医薬品の販売高の過半を占めていました。
安全のために規制すること自体が、悪いわけではありません。問題は、それを省令で決めてよい、と法律が任せたと読めるかどうかです。判旨を見ます。先に補足です。判旨の中の、これらの事情、は、郵便等販売への需要や反対意見、安全面の問題を示す知見が確立していないことなど、判決が先に認定した事情を指します。
判例最判平25・1・11 民集67巻1号1頁
医薬品のネット販売の事件——判断の基準 旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は,郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである。……これらの事情の下で,厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が,これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり,その委任の範囲を逸脱したものではないというためには,立法過程における議論をもしんしゃくした上で,新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て,そこから,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。
図:基準の3分解
- 引き金=旧法の下で適法だった活動への新たな規制が、職業活動の自由を相当程度制約する
- 何を見るか=法律の諸規定と立法過程の議論
- 何を求めるか=授権の趣旨が、規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れること
- 右に並べる=ふるさと納税の事件の引き金は別〔助言に従わなかったことを理由とする不利益取扱いの側面〕
この基準を、3つに割って読みます。1つ目は、引き金です。旧法の下で適法だった活動への、新たな規制が、事業者の職業活動の自由を、相当程度制約している。この場面で、基準が働きます。
図:基準の3分解 何を見るか
- 引き金=旧法の下で適法だった活動への新たな規制が、職業活動の自由を相当程度制約する
- 何を見るか=法律の諸規定と立法過程の議論
2つ目は、何を見るか、です。法律の諸規定と、立法過程の議論です。国会の審議や法案の方針まで、判断の材料に入りました。
図:基準の3分解 何を求めるか
- 何を見るか=法律の諸規定と立法過程の議論
- 何を求めるか=授権の趣旨が、規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れること
3つ目は、何を求めるか、です。授権の趣旨が、規制の範囲や程度に応じて、明確に読み取れること。規制が新しく重いほど、法律の側に、そこまで任せたというしるしが、はっきり見えなければならないのです。なぜ、規制が重いほど、はっきりしたしるしが要るのでしょうか。判決はそこまで書いていませんが、考え方としては、国民の自由を新しく重く縛るかどうかは、本来、国会が法律で決める事柄だからです。しるしもないのに大臣が決めれば、国会が決めるべきことを、行政が決めてしまいます。ただし、白紙委任と混ぜないでください。白紙委任は、法律の側が、何のために、何を、どこまで任せるのかを読み取れない問題で、憲法41条に反するかの話でした。今日の、明確に読み取れるか、は、法律そのものは有効だという前提で、その法律が、この重い命令まで任せたと読めるかを問う、命令の側の問題です。
図:基準の引き金と、並べる事件
- 引き金=旧法の下で適法だった活動への新たな規制が、職業活動の自由を相当程度制約する
- 右に並べる=ふるさと納税の事件の引き金は別〔助言に従わなかったことを理由とする不利益取扱いの側面〕
ここで、冒頭の問いに戻れます。屋上菜園のイは、従来自由にできた宅配まで、一律に禁じる規制でした。引き金に当たる形をしています。ただ、答え合わせは最後にします。当てはめを読みます。判旨は、二つに分けて読みます。
判例最判平25・1・11 民集67巻1号1頁
医薬品のネット販売の事件——当てはめ① 新薬事法36条の5及び36条の6は,いずれもその文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売,授与及び情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れているわけでもなく,医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。また,新薬事法の他の規定中にも,店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店舗における対面によるものに限るべきであるとか,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。
後半を読む前に補足します。後半の、いずれも、は、直前の、新施行規則のうち、第一類と第二類について対面での販売や情報提供を義務づけ、郵便等販売を禁じた各規定を指します。
判例最判平25・1・11 民集67巻1号1頁
医薬品のネット販売の事件——当てはめ②と結論 ……そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。……いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において,新薬事法の趣旨に適合するものではなく,新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。
手がかりに当てはめます。1つ目、文言です。郵便等販売の規制も、対面の義務づけも、書いてありません。柱書きの、厚生労働省令で定めるところにより、は、販売や情報提供のやり方を省令に委ねる書き方で、郵便等販売を禁じるとまでは書いていません。判決も、文言からは、そうした規制まで任せる趣旨が明確には読み取れない、としました。2つ目、法律の仕組みです。ほかの規定にも、そうした趣旨を示すものがなく、販売の方法の制限を定める条文は、旧法から実質的に変わっていません。そして立法過程です。郵便等販売の安全性に慎重な意見は出ていましたが、法律が郵便等販売にどういう立場をとるのかは、はっきりしませんでした。国会が禁止の意思を持っていたとは、言い難いのです。3つ目の、制約されるものの性質が、明確さの度合いを決めました。職業活動の自由を相当程度制約する、新しい、一律の規制だから、授権の趣旨が明確に読み取れることが必要になる。そして、文言にも仕組みにも立法過程にも、そのしるしがないから、明確に読み取れず、一律に禁止する限度で無効、となりました。第三類の扱いなどは、問題になっていません。
判決も、規制の具体化には、厚生労働大臣の医学的、薬学的な知見に相当程度依拠する必要がある、と認めています。それでも結論は動きませんでした。専門技術的な事項でも、新しく相当程度制約する、一律の禁止まで任せたと読めるかは、別の問題だからです。前回の刀剣は、専門的な鑑定の基準を任せたもので、従来自由だった活動を新たに禁じる話ではありませんでした。その後の動きです。法律そのものが改正され、一般用医薬品は、全品目でインターネット販売ができるようになりました。リスクの高い、要指導医薬品が新設され、こちらは対面です。省令で禁じるのではなく、法律の枠で作り直したのです。時期や制度名は、暗記不要です。つまずきを一つ。この事件は、憲法22条1項に違反して無効になったのではありません。判決が憲法22条1項に触れるのは、規制の制約の程度を測る事情としてだけです。無効の理由は、法律違反、つまり委任の範囲の逸脱です。
ふるさと納税の事件——告示にも及ぶ
図:ふるさと納税の事件の線
- 時間軸の板=法改正の前〔返礼品に法令上の規制は無く、総務大臣は従う義務のない技術的な助言を出していただけ〕|法改正の後〔返礼品の基準=割合・地場産品が法律に入り、守らなければ指定取消し、その後2年は再指定を受けられない〕
- 告示=法改正の施行前の募集・受領を理由に、一律に指定の基準を満たさないとした→前に遡って不利益を課す矢印
- 注=本件告示=総務省告示、募集適正基準=指定の基準のうち募集の適正な実施に係る基準、法定返礼品基準=割合と地場産品の基準
3件目は、ふるさと納税の事件です。この判決は、前に2度読みました。国の関与の側から、関与の法定主義と助言の扱いを読み、争いの出口の経路を読みました。今日は同じ判決を、委任された命令、つまり告示の側から読みます。その前に、条文を1つ再掲します。この判決の引き金になる条文です。
条文地方自治法247条3項
地方自治法第247条第3項 国又は都道府県の職員は、普通地方公共団体が国の行政機関又は都道府県の機関が行つた助言等に従わなかつたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
骨格だけ言い直します。助言に従わなかったことを理由に、不利益な取扱いをしてはならない。事案です。ふるさと納税は、自治体に寄附をすると、寄附した額に応じて、住民税などが軽くなる仕組みです。この税の軽減、つまり特例控除の対象になる地方団体を、総務大臣が指定する制度が、地方税法の改正で作られました。指定の基準のひとつ、募集の適正な実施に係る基準は、総務大臣が告示で定めることになりました。告示は、法改正の前に、返礼割合の高い返礼品などで、他の団体に比べて著しく多額の寄附を集めた団体を、基準を満たさないとしました。泉佐野市が争った事件です。総務大臣は、同市を指定しませんでした。最高裁は原判決を破棄し、指定をしない決定を取り消しました。
図:ふるさと納税 時間軸
- 法改正の前〔返礼品に法令上の規制は無く、総務大臣は従う義務のない技術的な助言を出していただけ〕|法改正の後〔返礼品の基準=割合・地場産品が法律に入り、守らなければ指定取消し、その後2年は再指定を受けられない〕
- 注=募集適正基準=指定の基準のうち募集の適正な実施に係る基準、法定返礼品基準=割合と地場産品の基準
法律の仕組みを、時間の順に並べます。法改正の前は、返礼品について、法令上の規制はありませんでした。総務大臣が、技術的な助言、つまり従う義務のない通知を出していただけです。法改正の後は、返礼品の基準、つまり割合と地場産品の基準が法律に入り、守らなければ指定を取り消され、その後2年は再び指定を受けられません。施行の前後で、団体の行動を評価する前提が変わっているのです。
図:ふるさと納税 告示がしたこと
- 告示=法改正の施行前の募集・受領を理由に、一律に指定の基準を満たさないとした→前に遡って不利益を課す矢印
- 注=本件告示=総務省告示
命令がしたことです。告示は、施行前の募集や受領を理由に、一律に、指定の基準を満たさないとしました。施行後に、基準に沿って募集するかどうかは、問いません。従う義務の無い助言に従わなかったことが、指定をしない理由に使われた。そこが、この事件の引き金です。前に読んだ判旨を、一行で思い出します。この告示は、指定を受けられないという不利益を定める側面を持ち、それは実質的には、助言に従わなかったことを理由とする不利益取扱いの側面でした。だから、247条3項の趣旨も考慮して、委任の範囲内と言うには、授権の趣旨が、法律の規定等から明確に読み取れることを要する、とされました。今日読むのは、新しい区間です。なぜ、読み取れなかったのか、です。判旨は、文言と仕組み、任せた理由、立法過程の順に、読み取れない理由を重ねていきます。
判例最判令2・6・30 民集74巻4号800頁
ふるさと納税の事件——文理 これによれば,募集適正基準とは,文理上,指定対象期間における寄附金の募集の態様に係る基準であって,指定対象期間において寄附金の募集を適正に実施する地方団体か否かを判定するためのものであると解するのが自然である。……他方,地方税法37条の2第2項柱書きの募集適正基準について,同項の文理上,他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から,本件改正規定の施行前における募集実績自体をもって指定を受ける適格性を欠くものとすることを予定していると解するのは困難であり,同法の他の規定中にも,そのように解する根拠となるべきものは存在しない。
補足です。冒頭の、これによれば、は、直前の、当時の地方税法37条の2の文理の分析を指します。本件改正規定は、指定制度を導入した、地方税法の改正規定です。1つ目は文言、判旨の言う文理です。基準は、これからの募集の態様を見るものだ、と読むのが自然です。過去の実績だけで適格性を否定する基準を予定しているとは、読み難い。ほかの規定にも、根拠はありません。2つ目の法律の仕組みも同じ向きです。法律は、基準を守らずに指定を取り消された団体でも、2年たてば、もう一度指定を受けられるようにしています。ところが告示は、まだ規制の無かった法改正の前の実績を理由に、これから基準を守るかどうかを問わず、一律に締め出します。基準に違反した団体より重い扱いになりかねず、法律の仕組みと釣り合いません。これが、均衡を欠く、という意味です。
判例最判令2・6・30 民集74巻4号800頁
ふるさと納税の事件——委任の趣旨 また,そのような基準は,上記地方団体について,本件指定制度の下では,新たに定められた基準に従って寄附金の募集を行うか否かにかかわらず,一律に指定を受けられないこととするものであって,指定を受けようとする地方団体の地位に継続的に重大な不利益を生じさせるものである。そのような基準は,総務大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄とはいい難いし,状況の変化に対応した柔軟性の確保が問題となる事柄でもないから,その策定についてまで上記の委任の趣旨が妥当するとはいえず,地方税法が,総務大臣に対し,同大臣限りでそのような基準を定めることを委ねたものと当然に解することはできないというべきである。
図:判旨の読み方の補足
- そのような基準=法改正の施行前に、制度の趣旨に反する方法で著しく多額の寄附金を受領していた団体を、他の団体との公平性を確保する観点から、特例控除の対象としない基準
- 上記の委任の趣旨=具体的な基準の策定は、地方行政・地方財政・地方税制や団体の実情に通じた総務大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当で、状況の変化に対応した柔軟性も要るという趣旨
板に補足を出しました。そのような基準、とは、法改正の前に、制度の趣旨に反する方法で多額の寄附金を受けた団体を、特例控除の対象としない基準です。上記の委任の趣旨、とは、具体的な基準の策定は、専門技術的な裁量に委ねるのが適当で、柔軟性も要る、という趣旨です。3つ目の手がかりです。法律が大臣に任せたのは、専門技術的で柔軟な細目でした。細目を任せた理由は、判決も認めています。けれども、過去の実績で排除するかどうかは、立法者が政策的に決める事柄です。しかも、団体の地位に、継続的に重大な不利益を与える。だから、細目を任せた趣旨が、そこまで及ぶとは当然には読めない、となりました。ここで、前回の刀剣の事件と並べます。どちらも、基準を任せた授権です。分かれ目は、任せた理由、つまり専門技術性や柔軟性が、その基準の中身にまで及ぶかどうかでした。刀剣では、どの刀剣を文化財として価値のあるものとして登録するかの判断に、専門的な鑑定が要りました。だから、日本刀に限る基準には、任せた理由が及びました。過去の実績による排除は、専門的な鑑定で決まる話ではないので、及ばなかったのです。次に、立法過程と結論です。
判例最判令2・6・30 民集74巻4号800頁
ふるさと納税の事件——立法過程と結論 そうすると,本件法律案につき,国会において,募集適正基準が上記観点から本件改正規定の施行前における募集実績自体をもって指定を受ける適格性を欠くものとする趣旨を含むことが明確にされた上で審議され,その前提において可決されたものということはできない。……以上によれば,地方税法37条の2第2項につき,関係規定の文理や総務大臣に対する委任の趣旨等のほか,立法過程における議論をしんしゃくしても,……授権の趣旨が明確に読み取れるということはできない。そうすると,本件告示2条3号の規定のうち,本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は,地方税法37条の2第2項及び314条の7第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。
補足です。判旨で省いた部分には、法改正前の募集実績を理由に指定しない基準の策定を委任する、という趣旨が入ります。上記観点、とは、他の団体との公平性を確保して、その納得を得る観点です。最後に、立法過程です。国会で、過去の実績自体を理由に指定しない趣旨が、明確にされたうえで審議されたわけではありません。文理、委任の趣旨、立法過程を合わせても、授権の趣旨は明確に読み取れない。だから、告示のうち、施行前の募集と受領を定めた部分は、委任の範囲を逸脱して無効です。結論を整理します。不指定の理由のうち、告示を理由にした部分は無効でした。ほかに挙げられた理由も認められず、指定をしない決定は違法で、取り消されました。つまずきを2つ。1つ目、告示も、法律の委任を受けて基準を定めるなら、命令と同じように委任の範囲が問われます。入れ物の名前では中身が決まらない、と前に見たとおりです。2つ目、同じ、明確に読み取れることを要する、でも、引き金は医薬品の事件と違います。医薬品は、新しい規制が職業活動の自由を相当程度制約する場面でした。こちらは、助言に従わなかったことを理由とする不利益取扱いの側面がある場面です。入口が2つあるのです。
3件に共通する読み筋
図:3件の共通点と差
- 共通する向き=任された幅を、法律の文理と仕組みから狭く読んだ
- 今日の新しさ=1 読めるか→明確に読み取れるか〔医薬品・ふるさと納税〕2 判断の材料に立法過程が加わった〔同〕3 明確さの度合いは規制の範囲や程度に応じる〔医薬品の言葉〕
- 解職請求=「明確に」の語は使わず、文理と仕組みで読み切った
- 重さの測り方は学習用の整理〔判決の言葉ではない〕
問いです。3件のうち、判決自身が、明確に読み取れることを要する、と言葉にしたのはどれでしょうか?言葉にしたかどうかで、答案に判旨として書ける言い回しが変わります。3件の共通点と違いを整理します。共通する向きは、任された幅を、法律の文理と仕組みから狭く読んだことです。解職請求は、文理が投票で、請求と投票の区別がありました。医薬品は、文理にも他の規定にもなく、立法過程でもはっきりしませんでした。ふるさと納税は、文理にもなく、他の規定と均衡を欠き、立法過程でも明確ではありませんでした。今日の新しさは3つです。1つ目は、読めるか、が、明確に読み取れるか、になったことです。2つ目は、判断の材料に、立法過程が加わったことです。3つ目は、明確さの度合いが、規制の範囲や程度に応じて決まる、という医薬品の言葉です。そして、この3つは、医薬品とふるさと納税の2件の話で、解職請求は文理と仕組みで足りました。重さの測り方も触れます。ここは、判決の言葉ではなく、学習用の整理です。医薬品は、従来適法だった活動を、新たに、一律に禁じます。ふるさと納税は、過去の行為を理由に、継続的に重大な不利益を課します。重い制約ほど厳しく読む、というのは、前回の傾向の確認であって、判決が一般則として述べた文ではありません。ですから、覚えるのは、判決の言葉と、事件ごとの引き金です。
合鍵の喩えが分かりやすいと思います。前回の大家さんと管理人さんは、頼まれた枠の外かどうかの話でした。今度は、どこまで頼まれたと読めるか、の話です。旅行中に家の合鍵を預けて、家のことは任せる、と言ったとします。郵便物の整理や、植木の水やりなら、任されたと素直に読めます。でも、古い家具を全部処分したとなれば、そこまで任せたとは読めません。取り返しのつかない、重いことほど、事前の相談やメモなど、はっきり頼んだ形跡が必要になります。これが、明確に読み取れる、のイメージです。もう一つ。専門技術的な細目を任せた授権では、命令を作る側の幅は広いままです。ふるさと納税の事件も、細目を任せた理由は認めたうえで、過去の実績での排除は、そこに入らない、としました。
7件の比較表を完成させる
図:7件の比較表(今日の3列・前回と同じ行の軸)(列=議員の解職請求/医薬品のネット販売/ふるさと納税、行=法が任せたこと〔選挙の規定を解職の投票に準用するときの特別の定め/販売・情報提供のしかたを省令で定めるところにより/募集の適正な実施に係る基準を総務大臣が定めること〕・法の趣旨と仕組み〔請求と投票を2段階に区別、請求手続は法律が自ら定めるか政令に委任/郵便等販売の規制も対面の義務づけも、法にも立法過程にも明確に示されない/指定対象期間の募集の態様を見る制度、取消し後は2年で再指定〕・命令がしたこと〔資格制限を請求の段階にまで及ぼした/第一類・第二類の郵便等販売を一律に禁止/法改正前の募集・受領を理由に一律に指定を認めない〕・制約されるもの〔請求代表者になる資格/郵便等販売を柱にしてきた者の職業活動の自由/指定を受けようとする団体の地位〕・専門技術性〔低い/薬学的知見に依拠しても無効は動かず/細目には認められるが過去の実績での排除には及ばず〕・結論〔無効〔請求手続に及ぼす限度〕/無効〔一律に禁止する限度〕/無効〔法改正前の募集・受領に関する部分〕〕)
前回の4件の表に、今日の3件を足して、7件で完成させます。表を出す前に、問いです。7件のうち、命令が適法とされたのは何件ですか? どれですか?1件で、刀剣の登録の事件です。残る6件は無効でした。まず、今日の3件の表を見ます。表の左端の項目は、前回と同じです。解職請求は、法が任せたのが投票の特別の定めで、命令は請求の段階にまで資格制限を及ぼしました。医薬品は、販売のしかたを任せたのに、命令は郵便等販売を一律に禁止しました。ふるさと納税は、募集の適正な基準を任せたのに、命令は、法改正の前の実績を理由に、一律に排除しました。結論は、3件とも無効です。ただし、無効の範囲は、いずれも一部です。請求手続に及ぼす限度、一律に禁止する限度、法改正前の募集と受領の部分でした。
図:7件の結論と決め手
- 結論=無効6・適法1
- 分かれ目=1 法律が自分で決めていた線を引き直した〔農地の売払い・幼い子との面会・児童扶養手当・議員の解職請求〕
- 2 法律が任せた事項に、新たに重く制約する中身まで含まれると明確に読めなかった〔医薬品のネット販売・ふるさと納税〕
- 3 専門技術的な基準で法の趣旨に沿っていた〔刀剣の登録=適法〕
7件を1列にまとめます。分かれ目は3通りでした。1つ目は、法律が自分で決めていた線を、命令が引き直した型です。農地では、法が売払いの対象と予定していたものを、政令が外しました。面会では、法が原則許可としていた線を、規則が原則禁止に引き直しました。児童扶養手当では、法が並べた類型と同じ状態の児童を、政令が外しました。そして今日の解職請求では、法が投票に限っていた準用を、政令が請求にまで及ぼしました。2つ目は、法律が任せた事項に、新たに重く制約する中身まで含まれる、と明確に読めなかった型です。医薬品とふるさと納税がこれです。3つ目は、専門技術的な基準で、法の趣旨に沿っていた型で、刀剣の登録の事件だけが適法でした。分かれ目は、前回と同じで、法律がその事項を命令の判断に委ねたと読めるか、です。今日の2件は、その、読めるか、を、明確に読めることまで求めた場面です。解職請求の事件は、文理と仕組みで読み切った場面です。
もう1つの型——判断の過程を問う
図:2つの型
- 上段=範囲を超えたか〔前回と今日の型:命令が法律の委任の範囲を超えていないか〕
- 下段=範囲の内側の判断の過程〔もう1つの型:任された幅の内側で、判断の過程に過誤や欠落が無いか〕
- 例=生活保護基準の改定〔老齢加算の廃止の事件〕
最後に、もう1つの型を紹介します。名前と位置づけだけです。前回と今日は、命令が、委任の範囲を超えたか、を問う型でした。もう1つの型は、範囲の内側で、命令を作る側が任された幅をどう使ったか、その判断の過程に、過誤や欠落が無いかを問います。例は、生活保護基準の改定です。憲法の回でも見ました。基準は、厚生労働大臣が告示で定めます。そのうち、老齢加算を廃止した改定が争われた、2つの最高裁判決があります。一方は、改定は裁量権の範囲の逸脱や濫用とはいえないとして、上告を退けました。もう一方は、原審が審理を尽くさずに違法とした点を破棄して、差し戻しました。行政庁が処分をするとき、法律が、どう判断するかの幅を任せていることがあります。これを処分の裁量と呼びます。裁判所は、結論を自分で決め直すのではなく、その判断の過程や手続に、過誤や欠落が無いかを点検します。これが判断の過程の審査です。命令を作る側にも任された幅がある、と今日の初めに確認しました。幅を任されている点は処分と同じなので、行政立法の裁量も、同じ道具で見るのです。中身には入りません。裁量の回で扱います。
答案での動き方とつまずきどころ
図:答案の型
- 1 問題の立て方=命令が法律の委任の趣旨・範囲を逸脱しないか〔逸脱すれば法律違反で無効〕
- 2 授権規定の特定と文言
- 3 法律全体の趣旨・仕組み〔周りの規定・立法過程〕
- 4 命令が何をどこまで制約するか〔新たに・相当程度制約するか/助言に従わなかったことを理由とする不利益取扱いの側面があるか〕
- 5 制約が重ければ、授権の趣旨が規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れるかを立てる
- 6 読み取れなければ委任の範囲を逸脱して無効→その命令に基づく処分は根拠を欠いて違法
- 7 専門技術的な事項なら任された幅を考慮
答案での動き方です。覚える規範は、前回の規範に、1段足したものです。委任命令が、法律の委任の趣旨や範囲を逸脱していれば、法律に違反して無効である。逸脱したかは、授権規定の文言、法律全体の趣旨と仕組み、命令が制約するものの性質から、法律がその事項を命令に委ねたと読めるかで判断する。国民の権利を新たに相当程度制約する命令や、助言に従わなかったことを理由とする不利益取扱いの側面を持つ基準では、授権の趣旨が、規制の範囲や程度等に応じて、法律の規定や立法過程から明確に読み取れることを要する。これは、条文に書いてある要件ではありません。法律の優位と、行政手続法38条1項の趣旨、そして判例の積み重ねから立てる規範です。後段は、医薬品とふるさと納税の2件の言葉から立てた、学習用の定式です。判決が一般則として述べた文ではありません。ですから、判例の規範、と書き切らず、判例から立てる規範、と書き分けるのが安全です。手順です。まず、命令が委任の範囲を超えないか、という問題を立てます。授権規定を特定して、文言を確かめます。法律全体の趣旨や仕組み、立法過程を見ます。命令が何を、どこまで制約するか、新たに、相当程度制約するか、不利益を課すか、を見ます。制約が重ければ、授権の趣旨が明確に読み取れるか、を立てます。読み取れなければ、委任の範囲を逸脱して無効で、その命令に基づく処分は、根拠を欠いて違法です。専門技術的な事項なら、任された幅も考慮します。
図:つまずき4つ
- 1 医薬品の事件は憲法22条1項違反ではなく法律違反〔委任の範囲の逸脱〕
- 2 「明確に読み取れることを要する」はどんな委任命令にも求められる基準ではない〔新たに・相当程度制約する、不利益を課す場合〕
- 3 告示も委任を受けて定めれば同じ型。ただし引き金が違う〔医薬品=新たな規制が職業活動の自由を相当程度制約/ふるさと納税=助言に従わなかったことを理由とする不利益取扱いの側面〕
- 4 解職請求の事件は「明確に」の語を使わず、文理と仕組みで読み切った=3件を同じ基準と書かない
つまずきどころが4つあります。1つ目、医薬品の事件は、憲法22条1項違反で無効になったのではなく、法律違反です。憲法22条1項は、制約の程度を測る事情です。2つ目、明確に読み取れることを要する、は、どんな委任命令にも求められる基準ではありません。新たに相当程度制約する場合や、不利益を課す場合の話です。前回の刀剣のように、専門技術的な細目を任せた命令には、そこまで求められません。3つ目、告示も、委任を受けて定めれば、同じ型で見ます。ただし、引き金が違います。そして4つ目、3件を、同じ基準だと書かないでください。今日の内容は、論文で論点になりうるところです。
今日のまとめ
図:今日の地図
- 保存版
- (1 命令の側の問題=委任の範囲を超えれば法律違反で無効/2 3件=無効〔議員の解職請求・医薬品のネット販売・ふるさと納税〕/3 解職請求=準用の対象は投票だけ・先例変更・後に法律で作り直し/4 医薬品=新たで重い制約では授権の趣旨が明確に読み取れることを要する/5 ふるさと納税=告示も同じ型・引き金は不利益取扱いの側面/6 7件の分かれ目=法律がその事項を命令に委ねたと読めるか〔今日の2件は「明確に」〕/7 もう1つの型=範囲の内側の判断の過程〔裁量の回で〕)
冒頭の答えを、理由と一緒に確かめます。任された範囲を超えるのは、イです。アは、範囲内です。アは、栽培した菜園の所在地と収穫日の表示です。販売に伴って情報を出すしかたで、従来の販売を禁じません。販売のときに何を示すかは、まさに販売の方法の細目なので、授権の通常の範囲に収まります。新たに重く制約するものではないので、明確に、までは求められません。イは、収穫の翌日以降の販売の禁止です。従来自由にできた宅配や、翌日以降の直売まで、一律に禁じる、新しく重い制約です。授権規定は販売の方法としか言わず、ほかの規定にも鮮度や販売の時期への言及はなく、国会の審議にも議論がありません。だから、授権の趣旨が、制約の範囲や程度に応じて、明確に読み取れません。範囲を超えます。医薬品の事件と同じ型です。同じ、販売の方法、という文言でも、文言だけでは決まりません。命令の重さが、求められる明確さを決めるのです。前回の手がかりだけでは決めきれなかった理由は、ここにありました。今日の内容を整理します。1つ目、命令の側の問題です。委任の範囲を超えれば、法律に違反して無効です。2つ目、3件とも無効でした。解職請求の事件は、準用の対象は投票だけで、請求の手続に及ぼす限度で無効になりました。先例を変更した大法廷判決で、その後は法律で作り直されました。3つ目、医薬品の事件は、新しく重い制約では、授権の趣旨が明確に読み取れることを要する、としました。4つ目、ふるさと納税の事件は、告示も同じ型で、引き金は、助言に従わなかったことを理由とする不利益取扱いの側面でした。
5つ目、7件の分かれ目は、法律がその事項を命令に委ねたと読めるか、です。今日の2件は、それを明確に、まで求めました。6つ目、もう1つの型は、範囲の内側の判断の過程を問うもので、裁量の回で扱います。
参照条文
- 地方自治法247条3項