行政法ゼロから行政法#79

行政指導の争い方

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第6章 行政契約・行政指導・行政計画 #79/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

自由ですと言われたのに

今日の問い(県の担当課が事業者Xに「施設の建設を見合わせてください。従うかどうかは自由です」/Xの3つの場面=①見合わせて損をした②今後は従わない、義務が無いとはっきりさせたい③指導そのものを取り消してほしい/問い=裁判で何ができるか) 図:今日の問い

  • 県の担当課が事業者Xに「施設の建設を見合わせてください。従うかどうかは自由です」
  • Xの3つの場面=①見合わせて損をした②今後は従わない、義務が無いとはっきりさせたい③指導そのものを取り消してほしい
  • 問い=裁判で何ができるか

争いようがないのか、あるのか。それが今日の主題です。設例を置きます。ある県の担当課が、事業者Xの廃棄物処理施設の建設計画に対して、県の要綱にもとづき、建設を見合わせてください、と指導します。従うかどうかは自由です、という言い方つきです。Xには、三つの場面があります。まず一つ目、見合わせたら、工事が遅れて損をした。二つ目、今後は従うつもりがない。ただ、従う義務が無いことを、はっきりさせたい。三つ目、この指導そのものを、取り消してほしい。先に、答えの骨だけを言います。三つは、道が別々です。しかも、どの道にも壁があります。壁の正体を、順に見ていきます。

今日の道順(1 なぜ取消訴訟は入口で止まるか/2 損害を埋める=国家賠償/3 義務が無いことの確認/4 取り消せる例外/5 背後の処分・裁判の前の手段・国と地方の対比/6 行政指導のこれから/7 設例の答えと第6章前半のまとめ) 図:今日の道順

  • 1 なぜ取消訴訟は入口で止まるか
  • 2 損害を埋める=国家賠償
  • 3 義務が無いことの確認
  • 4 取り消せる例外
  • 5 背後の処分・裁判の前の手段・国と地方の対比
  • 6 行政指導のこれから
  • 7 設例の答えと第6章前半のまとめ

道順です。まず、取消訴訟がなぜ入口で止まるか。次に、損害を埋める国家賠償。三つ目に、義務が無いことの確認。四つ目に、取り消せる例外の型。五つ目に、背後の処分と、国と地方の対比。最後に、行政指導のこれからと、設例の答えです。

取消訴訟は入口で止まる

入口の条件(取消訴訟の対象=行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為/行政指導=行手法2条6号で「処分に該当しないもの」と定義→事実行為で法的効果を生まない→原則、対象にならない/処分性の本体は第12章) 図:入口の条件

  • 取消訴訟の対象=行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為
  • 行政指導=行手法2条6号で「処分に該当しないもの」と定義→事実行為で法的効果を生まない→原則、対象にならない
  • 処分性の本体は第12章

まず、指導の取消しを求めたい場面です。取消訴訟には、入口の条件があります。条文です。

条文行政事件訴訟法3条2項

行政事件訴訟法第3条第2項 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

取消訴訟の対象は、処分その他公権力の行使に当たる行為です。ところで行政指導は、行政手続法2条6号で、処分に該当しないもの、と定義されていました。以前に読んだとおりです。指導は、従わなくてもよい、と建前では言う事実行為で、相手の権利義務を直接変える効果がありません。だから原則として、取消訴訟の対象になりません。入場券にたとえるなら、取消訴訟の窓口で配るのは処分という券で、指導は券を持っていません。何が処分に当たるかの定義そのものは、第12章で扱います。ここでは、入口の条件がある、とだけ押さえてください。ただ、券が無いからといって、困りごとが消えるわけではありません。取消し以外の道と、取り消せる例外を、地図にします。

争い方の地図(Xの立場から何を求めたいか→①損害を埋めたい=国家賠償〔壁=因果関係〕/②義務が無いと確認したい=当事者訴訟〔壁=確認の利益〕/③指導を取り消したい=原則×、例外=処分性が認められる型〔壁=処分性〕/④背後の処分を争う/⑤裁判の前=中止等の求め〔法律が根拠の是正を求める指導だけ〕) 図:争い方の地図

  • Xの立場から何を求めたいか→①損害を埋めたい=国家賠償〔壁=因果関係〕
  • ②義務が無いと確認したい=当事者訴訟〔壁=確認の利益〕
  • ③指導を取り消したい=原則×、例外=処分性が認められる型〔壁=処分性〕
  • ④背後の処分を争う
  • ⑤裁判の前=中止等の求め〔法律が根拠の是正を求める指導だけ〕

地図です。何を求めたいかで分けます。損害を埋めたいなら国家賠償、壁は因果関係、つまり損害が指導から生じたと言えるか。義務が無いことを確かめたいなら、当事者訴訟、壁は確認の利益、つまり今それを確かめる必要があるか。取り消したいなら、原則できず、例外が壁の先にあります。ほかに、背後の処分を争う道と、裁判の前の手段もあります。

損害を埋めたい——国家賠償と因果関係の壁

国家賠償の壁(国賠法1条1項=公権力の行使に当たる公務員が故意又は過失で違法に他人に損害を加えたとき/壁=因果関係:従ったのはXの判断ではないか/任意性が失われた場面が中心=明確に拒んだのに続けた・事実上の強制) 図:国家賠償の壁

  • 国賠法1条1項=公権力の行使に当たる公務員が故意又は過失で違法に他人に損害を加えたとき
  • 壁=因果関係:従ったのはXの判断ではないか
  • 任意性が失われた場面が中心=明確に拒んだのに続けた・事実上の強制

一つ目の場面、見合わせて損をした、です。ここで使うのが国家賠償です。条文を読みます。

条文国家賠償法1条1項

国家賠償法第1条第1項 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

行政指導が公権力の行使に入るか、という問いはありますが、判例は入ることを前提に判断しています。範囲の本体は、国家賠償の回で見ます。今日の焦点は壁です。指導が違法でも、すぐに賠償とはいきません。因果関係という壁があります。Xは、従うかどうかは自由と言われたのに、自分で見合わせました。署名した契約書にたとえます。自分でサインしたなら、損は自分のサインの結果だ、と見られます。指導を違法だと言えても、損害は指導から生じたのか、それともXが自分で決めたからなのか、が問われます。任意性が失われていた場合は別です。サインを強いられたような場面です。そこで、第6章で読んだ二つの判決を思い出してください。建築確認を留保した品川マンション事件では、事業者が協力できないとはっきり表明したのに、確認の留保を続けた点が問題でした。教育施設負担金の判決では、制裁を背景に事実上強制した点が問題で、行政指導の限度を超えた違法な公権力の行使とされました。

判例最判平5・2・18 民集47巻2号574頁

教育施設負担金の判例——限度を超えた寄付金の要求は違法な公権力の行使 右行為は、本来任意に寄付金の納付を求めるべき行政指導の限度を超えるものであり、違法な公権力の行使であるといわざるを得ない。

この二つの形は、第6章で見てきた限界と同じです。任意性を侵す、不利益に扱う、権限を連結する。限界を越えた指導は、国賠でも違法の判断に使われます。限界を学ぶことが、そのまま国賠の違法の線を学ぶことになる。一本の線です。

⭐ 論文で書く規範:【国家賠償の壁と線】従った相手方の意思が間に入るため、因果関係が問われる。国賠が認められやすいのは、任意性が失われた場面(明確に拒んだのに続けた・事実上の強制) (論文の骨格。限界=#6-6〜#6-8 とつなぐ)

確認の問いです。従った人の損害でも国賠が認められるのは、どんな場面でしょうか?断ったのに続けられたり、事実上の強制だったりした場面ですね。なお、要綱に従わない事業者への給水を拒んで、水道法違反で起訴された事件の決定は、刑事事件なので、国賠の例には数えません。

義務が無いことをはっきりさせたい——確認の訴え

当事者訴訟(行訴法4条後段=公法上の法律関係に関する確認の訴え/例=指導に従う義務が無いことの確認/壁=確認の利益〔今その確認を求める必要があるか〕/確実に使える道ではない/本体は第17章) 図:当事者訴訟

  • 行訴法4条後段=公法上の法律関係に関する確認の訴え
  • 例=指導に従う義務が無いことの確認
  • 壁=確認の利益〔今その確認を求める必要があるか〕
  • 確実に使える道ではない
  • 本体は第17章

二つ目の場面です。今後は従わない。そのうえで、義務が無いことをはっきりさせたい。使うのは、当事者訴訟の確認の訴えです。条文です。

条文行政事件訴訟法4条

行政事件訴訟法第4条 この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。

後半の、公法上の法律関係に関する確認の訴え、です。Xは、県に対して、この指導に従う義務が無いことの確認を求める、という形になります。指導は任意なんですから、義務が無いのは当たり前でしょう。確認までする必要があるんですか。そこが壁です。確認の利益といって、今その確認を裁判で求める必要があるか、が問われます。裁判所は、争いがまだ形になっていない段階で、先回りして答えを出す場ではないからです。たとえば、Xが従わずにいても、県が何もしてこない段階なら、確かめる必要がまだ無い、と判断されるかもしれません。逆に、従わなければ不利益な扱いをする、と県が具体的に告げてきたような、不利益が確実に来る事情があれば、必要性が認められやすくなります。ただし、これは使える可能性がある、という程度の道です。確実に使える道ではありません。中身は、第17章で見ます。取消しの道は、原則として入口で閉じています。そのぶん、事実行為の相手に向けて義務の不存在を確かめるこの道が、意味を持ってきます。

取り消せる例外——処分性が認められた2つの型

例外の2型(輸入食品の通知=検疫所長が食品衛生法違反と通知→輸入届出済証が出ず、税関の確認が受けられず、輸入の許可も受けられない/病院開設中止勧告=医療法上は任意だが、従わないと相当程度の確実さで保険医療機関の指定が受けられず、病院開設を断念せざるを得ない/共通=後続の仕組みとつながって法的不利益が確実に来る) 図:例外の2型

  • 輸入食品の通知=検疫所長が食品衛生法違反と通知→輸入届出済証が出ず、税関の確認が受けられず、輸入の許可も受けられない
  • 病院開設中止勧告=医療法上は任意だが、従わないと相当程度の確実さで保険医療機関の指定が受けられず、病院開設を断念せざるを得ない
  • 共通=後続の仕組みとつながって法的不利益が確実に来る

三つ目の場面です。指導そのものを取り消したい。原則はできません。ただし、行政指導の名前でも処分だと最高裁が認めた例が、二つあります。一つ目。輸入食品の通知です。冷凍スモークマグロを輸入しようとした業者に、検疫所長が、食品衛生法に違反する、と通知しました。下級審は、行政指導にすぎないとして訴えを退けました。最高裁は処分だと認めました。

判例最判平16・4・26 民集58巻4号989頁

輸入食品の通知の判例 本件通知により,上告人は,本件食品について,関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」を税関に証明し,その確認を受けることができなくなり,その結果,同条3項により輸入の許可も受けられなくなるのであり ……本件通知は,上記のような法的効力を有するものであって,取消訴訟の対象となると解するのが相当である。

ここで大事なのは、なぜ例外か、です。通知を出されると、税関での確認が受けられず、輸入の許可も受けられなくなります。通知が、後に続く手続と結びついて、直接の不利益になっているのです。二つ目。病院開設中止勧告です。これは行政指導の最初の回で、名前と結論を見ました。県知事が、病院を開設しようとする者に、医療法にもとづいて中止を勧告した場面です。

判例最判平17・7・15 民集59巻6号1661頁

病院開設中止勧告の判例 医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告は,医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められているけれども,当該勧告を受けた者に対し,これに従わない場合には,相当程度の確実さをもって,病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。 ……保険医療機関の指定を受けることができない場合には,実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる。

建前は指導のままで、従う義務はありません。ただ、従わなければ保険医療機関の指定が受けられなくなる見込みが、相当程度確実で、そうなれば実際に病院を開けられません。行政指導の最初の回では、従う義務があり、従わないと不利益につながる仕組みがあれば処分、と見ました。この勧告には、従う義務がありません。それでも、不利益につながる仕組みが相当程度確実に働くことを重く見て、最高裁は処分としたのです。あの回で、勧告でも処分とされた例がある、と添えたのが、この判決です。後で指定の拒否を争えるとしても、結論は変わらない、と最高裁は述べています。判旨の読み込みは、処分性の回で行います。

⭐ 論文で書く規範:【見分けの目】名前が行政指導でも、後に続く仕組み(輸入の許可・保険医療機関の指定)とつながって、相当程度の確実さで法的な不利益が来るなら、処分と見る余地がある (例外2型の共通点)

共通点は一つです。その行為だけを見ずに、後ろの仕組みとつながって、法的な不利益が確実に来るかを見る。通知や勧告のように、指導か処分か判別が難しいものでは、この見方で争い方が変わりえます。ただし、最高裁が処分としたのは、この二つの仕組みの中の通知と勧告で、行政指導一般を処分としたわけではありません。設例の見合わせの指導も、従わなかったら後に続く許可などが受けられなくなる、という仕組みが無いなら、原則どおり処分ではありません。確認の問いです。二つの例に共通する見分けの目は、何でしょうか?指導の後ろにつながる仕組みを通して、確実に法的な不利益が来るかどうか、です。

背後の処分・裁判の前の手段・国と地方

残る2つの道と対比表(④背後の処分を争う=指導を理由に止められている処分の側〔例=申請への返事を止められている→不作為の違法確認訴訟・申請型義務付け訴訟〕/⑤裁判の前=中止等の求め〔法律が根拠の是正を求める指導の相手方が申し出る/対応は処分でない〕|国と地方=行手法の行政指導の規定は地方の機関の指導に適用されない/行訴法・国賠法に除外は無く、訴訟の道は国も地方も同じ) 図:残る2つの道と対比表

  • ④背後の処分を争う=指導を理由に止められている処分の側〔例=申請への返事を止められている→不作為の違法確認訴訟・申請型義務付け訴訟〕
  • ⑤裁判の前=中止等の求め〔法律が根拠の是正を求める指導の相手方が申し出る/対応は処分でない〕|国と地方=行手法の行政指導の規定は地方の機関の指導に適用されない/行訴法・国賠法に除外は無く、訴訟の道は国も地方も同じ

残る二つの道を、一言ずつ見ます。四つ目、指導そのものでなく、指導を理由に止められている処分の側を争う道です。たとえば、もしXが許可を申請していて、指導に従うまで返事を出さない、と止められているなら、この道です。返事が出ないままなら不作為の違法確認訴訟、応答を求めるなら申請型義務付け訴訟、という地図を、申請に関連する指導の回で出しました。五つ目、裁判の前の手段として、中止等の求めがあります。法律に根拠がある、違反を正すよう求める指導の相手方が、その指導をした機関に申し出て、やめるよう求めるものです。ただし、申出への対応は処分ではないので、申し出ても止まらなければ、結局ここまでの裁判の道に戻ります。次は、つまずきやすい対比です。まず条文です。

条文行政手続法3条3項

行政手続法第3条第3項 地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(前条第七号の通知の根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定は、適用しない。

前に見たとおり、地方公共団体の機関がする行政指導には、行政手続法の指導の規定は適用されません。県の担当課の指導を受けたXには、行手法の35条や、中止等の求めを定めた36条の2は使えません。しかも、Xへの指導は要綱が根拠で、違反を正すよう求める型でもありません。国の機関の指導だったとしても、中止等の求めの対象から外れます。だったら、地方の指導は争えない、ということになりませんか。なりません。行政事件訴訟法にも国家賠償法にも、地方の機関を外す定めはありません。裁判で争う道は、国の機関の指導でも、地方の機関の指導でも、同じです。今まで見た二つの国賠の判例も、病院開設中止勧告も、地方の機関の指導でした。適用が外れるのは、行手法の指導の規定だけです。

行政指導のこれから——要綱行政から条例へ

要綱行政の行方(かつて=地方公共団体の法的な規制権限が限られ、要綱による指導に頼った→実効性を上げる工夫=従わない者の氏名の公表・給付の拒否→相手方に従わないと不利になる/32条2項の趣旨とぶつかる→権限移譲が進んだ今=法律の枠内で規制権限を条例にして運営する方向〔従う義務を条例で課す/法令に違反しない限り〕) 図:要綱行政の行方

  • かつて=地方公共団体の法的な規制権限が限られ、要綱による指導に頼った→実効性を上げる工夫=従わない者の氏名の公表・給付の拒否→相手方に従わないと不利になる
  • 32条2項の趣旨とぶつかる→権限移譲が進んだ今=法律の枠内で規制権限を条例にして運営する方向〔従う義務を条例で課す/法令に違反しない限り〕

ここまでが争い方です。最後に、行政指導のこれからです。設例のように、県が要綱で指導するやり方は、要綱行政と呼ばれ、地方で広がりました。どうして、そこまで広がったんでしょうか。かつては、地方公共団体に与えられた法的な規制権限が、限られていたからです。開発や施設の建設に歯止めをかけたくても、使える権限が少ない。そこで、要綱を作って、行政指導で対応するしかなかった、という事情があります。指導だけだと、従わない人が出ます。そこで、実効性を上げる工夫が足されました。従わない者の氏名を公表する。上下水道などの給付を断る。第6章の前半で見た工夫です。ところが、実効性を上げようとするほど、任意という建前から離れます。ここで効いてくるのが、32条2項です。

条文行政手続法32条2項

行政手続法第32条第2項 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

この規定自体は、地方の機関には直接適用されません。ただ、不服従を理由に不利益を与えない、という趣旨は、地方の指導でも尊重されるべきです。実効性を求めるほど、この趣旨とぶつかります。だから向かう先は、権限移譲が進んだ今、法律の枠内で、規制権限を条例にして運営する方向です。ただし、要綱の指導を、そのまま条例の中の指導に書き写すだけでは足りません。条例に書いても、指導である限り、従うかどうかは相手の自由のままだからです。そこで、従う義務そのものを、条例で課すことになります。義務を課すなら条例で、というのが第2章で見た線です。ただし、条例は、法律の範囲内で、法令に違反しない限りでしか定められない、という限界があります。要綱については、第3章で見ました。

設例の答えと第6章前半のまとめ

設例の答え(①見合わせて損をした→国賠〔壁=因果関係:任意性が失われたか〕/②従う義務が無いと確認→当事者訴訟〔壁=確認の利益〕/③指導を取り消したい→原則×、後続の仕組みとつながるなら処分性〔壁=処分性〕/④背後の処分を争う〔申請への返事を止められたとき〕/⑤中止等の求め=Xは使えない〔要綱が根拠・県の指導〕/県の指導でも訴訟の道は同じ) 図:設例の答え

  • ①見合わせて損をした→国賠〔壁=因果関係:任意性が失われたか〕
  • ②従う義務が無いと確認→当事者訴訟〔壁=確認の利益〕
  • ③指導を取り消したい→原則×、後続の仕組みとつながるなら処分性〔壁=処分性〕
  • ④背後の処分を争う〔申請への返事を止められたとき〕
  • ⑤中止等の求め=Xは使えない〔要綱が根拠・県の指導〕/県の指導でも訴訟の道は同じ

冒頭の設例に答えます。一つ目、見合わせて損をした。国家賠償です。壁は因果関係で、従ったのは自分の判断では、と言われます。任意性が失われていた、つまり、明確に拒んだのに続けられた、事実上の強制だった、と言えるかが決め手です。二つ目、義務が無いことをはっきりさせたい。当事者訴訟の確認の訴えです。壁は確認の利益で、使える可能性がある道、という程度です。三つ目、指導そのものを取り消したい。原則はできません。ただ、後ろの仕組みとつながって、法的な不利益が確実に来るなら、処分性が認められる余地があります。中止等の求めは、要綱が根拠の県の指導なので、Xには使えません。県の指導でも、訴訟の道は同じです。

第6章前半の総ざらい(「合意」「任意」の建前を崩すものを見分ける目=行政契約:契約の締結の強制/行政指導:権限の連結〔33条・34条〕・事実上の強制〔限界〕・処分とつながる勧告〔処分性〕/争い方=国賠・確認の訴え・処分性の例外) 図:第6章前半の総ざらい

  • 「合意」「任意」の建前を崩すものを見分ける目=行政契約:契約の締結の強制
  • 行政指導:権限の連結〔33条・34条〕・事実上の強制〔限界〕・処分とつながる勧告〔処分性〕
  • 争い方=国賠・確認の訴え・処分性の例外

第6章の前半全体を一枚で見ます。契約も指導も、合意や任意という建前で行われます。その建前を崩すものを見分ける目が、ここまでの収穫です。契約では、締結の強制。指導では、権限を連結させること、事実上の強制、そして処分とつながる勧告。この見分け方が、そのまま争い方の壁の高さを決めます。指導は任意という建前なのに、争うときには、その建前が崩れた場面に焦点が当たる、ということなんですね。

参照条文

  • 行政事件訴訟法3条2項
  • 国家賠償法1条1項
  • 行政事件訴訟法4条
  • 行政手続法3条3項
  • 行政手続法32条2項

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