行政法ゼロから行政法#84

都市計画決定の裁量審査(高架か地下か・代替案と環境利益)

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第6章 行政契約・行政指導・行政計画 #84/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

地上案か、地下案か——裁判所は「地下にせよ」と言うのか

今日の問い(波野市の都市計画道路=駅前通りの延伸/地上案=安い・早い/地下案=静か・高い/市は地上案を選んだ/Xさん「騒音がひどくなる」/裁判所は「地下にすべきだった」と言ってくれるのか) 図:今日の問い

  • 波野市の都市計画道路=駅前通りの延伸
  • 地上案=安い・早い
  • 地下案=静か・高い
  • 市は地上案を選んだ
  • Xさん「騒音がひどくなる」
  • 裁判所は「地下にすべきだった」と言ってくれるのか

設例を進めます。波野市の駅前通りの延伸には、二つの案がありました。道路を地上に通す案と、トンネルで地下に通す案です。地上案は、安くて早い。地下案は、静かですが、高くつきます。市は、地上案を選びました。Xさんは、騒音がひどくなる、と訴えます。裁判所は、Xさんの言い分を聞いて、地下案のほうが良かったですね、と言ってくれるのでしょうか。先に答えを言うと、言ってくれません。裁判所が見るのは、どちらの案が良いかではなく、比べ方の道筋です。それを確かめる材料は、前回の終わりに出てきた、小田急線の高架化の判決です。

前回の入口と、同じ判決をもう一度読む理由

判決が確認した入口(都市計画法〔略〕は、都市計画事業認可の基準の一つとして、事業の内容が都市計画に適合することを掲げているから〔61条〕、都市計画事業認可が適法であるためには、その前提となる都市計画が適法であることが必要である/今日=入ったあとの審査の中身) 図:判決が確認した入口

  • 都市計画法〔略〕は、都市計画事業認可の基準の一つとして、事業の内容が都市計画に適合することを掲げているから〔61条〕、都市計画事業認可が適法であるためには、その前提となる都市計画が適法であることが必要である
  • 今日=入ったあとの審査の中身

想起の問いです。認可の取消訴訟の中で、なぜ計画の違法を言えるのでしょうか。認可の要件に、計画に適合することがあって、前提の計画が違法なら、認可も適法とは言えないからです。計画は地図に引いた線、認可はその線どおりに工事を始める許可証でした。線の誤りは、許可証の取消しを求める中で言えます。板の一行は、判決が冒頭で確認した、まさにその部分です。今日は、その入口から入ったあとの話です。もう一度読みますが、使い道が違います。裁量の章では、審査の物差しを取り出すために読みました。裁判所は、広い裁量を認めながら、どんな言葉で点検するのか。今日は、その物差しが、計画の判断に実際どう当てはまるのかを見ます。順番は、条文、裁量の広さ、物差し、当てはめです。

なぜ広い裁量か——13条1項を読む

都市計画の基準の抽象性(13条1項柱書=国の計画・公害防止計画に適合/当該都市の特質・自然的環境の整備又は保全の重要性を考慮/11号=現状及び将来の見通しを勘案して適切な規模で必要な位置に配置/何が適切・必要かは法律が決めていない→総合判断→広範な裁量) 図:都市計画の基準の抽象性

  • 13条1項柱書=国の計画・公害防止計画に適合
  • 当該都市の特質・自然的環境の整備又は保全の重要性を考慮
  • 何が適切・必要かは法律が決めていない→総合判断→広範な裁量

条文からです。前回、13条1項の11号を見ました。都市施設は、現状と将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置する、という号です。今日は、その手前の柱書を見ます。

条文都市計画法13条1項柱書

都市計画法第13条第1項(柱書) 都市計画区域について定められる都市計画(区域外都市施設に関するものを含む。次項において同じ。)は、国土形成計画、首都圏整備計画、近畿圏整備計画、中部圏開発整備計画、北海道総合開発計画、沖縄振興計画その他の国土計画又は地方計画に関する法律に基づく計画(当該都市について公害防止計画が定められているときは、当該公害防止計画を含む。第三項において同じ。)及び道路、河川、鉄道、港湾、空港等の施設に関する国の計画に適合するとともに、当該都市の特質及び当該都市における自然的環境の整備又は保全の重要性を考慮して、次に掲げるところに従つて、土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを、一体的かつ総合的に定めなければならない。

骨格です。都市計画は、国の計画や公害防止計画に適合して、都市の特質と、自然的環境の整備や保全の重要性を考慮して、土地利用や都市施設を、一体的かつ総合的に定めなければならない。公害防止計画とは、騒音や振動などで、人の健康や生活環境に著しい被害が出るおそれのある地域で、被害を防ぐために総合的な施策を講ずる計画です。この言葉は、あとで効いてきます。もう一点、条文の番号です。判決文では、都市施設の基準は5号ですが、いまの条文では11号です。答案では、いまの11号で書きます。何が適切な位置かを条文が決めていない。そこが核心です。適切な規模、必要な位置、と言うだけで、基準になる数字も手順もありません。そのため、判決は、都市施設の規模や配置を決めるには、諸般の事情を総合的に考慮して、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠で、それは決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられる、と導きました。基準が抽象的、だから総合判断、だから広範な裁量。この一本の筋です。

審査の物差し——裁量を認めたうえで、何を点検するか

判決の物差し(前提=当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたこと/違法となる場合=①重要な事実の基礎を欠く〔基礎とされた重要な事実の誤認等〕②社会通念に照らし著しく妥当性を欠く〔事実に対する評価が明らかに合理性を欠く・判断の過程で考慮すべき事情を考慮しない等による〕) 図:判決の物差し

  • 前提=当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたこと
  • 違法となる場合=①重要な事実の基礎を欠く〔基礎とされた重要な事実の誤認等〕②社会通念に照らし著しく妥当性を欠く〔事実に対する評価が明らかに合理性を欠く・判断の過程で考慮すべき事情を考慮しない等による〕

裁量の章でも読んだ判決の物差しを、カードで確認します。

判例最判平18・11・2 民集60巻9号3249頁

都市施設に関する都市計画の決定と、広範な裁量 このような基準に従って都市施設の規模,配置等に関する事項を定めるに当たっては,当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,政策的,技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると,このような判断は,これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきであって,裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては,当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。

違法になるのは、二つの場合です。一つは、重要な事実の基礎を欠く場合。判断の土台にした大事な事実が、間違っていた場合です。そしてもう一つは、社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合。事実の評価がおよそ筋の通らないものだったり、考えるべき事情を落としたりして、世の中の常識から見て、ひどくおかしい中身になった場合です。行政庁の判断の道筋を点検するこの審査は、裁量の章で見た、判断過程審査です。今日、新しく見てほしいのは、書き出しです。当該決定が裁量権の行使としてされたことを前提として、とあります。まず、裁量があることを認める。そのうえで、道筋を点検する。この順番です。たとえるなら、採点者です。採点者は、自分ならこの答えにする、とは書きません。答えに至る計算の前提が間違っていないか、書くべき条件を飛ばしていないかを見ます。広いのは、答えを選ぶ自由。点検されるのは、答えに至る道筋です。問いです。この判決で、裁判所は、裁量を認めたうえで、何を点検するのでしょうか。

前提の事実、評価の筋、考慮の漏れ。以後の当てはめは、この三つの点検として読めます。

当てはめその一——比べられた三つの案

判決の事案(小田急小田原線の喜多見駅付近〜梅ヶ丘駅付近/鉄道と道路の連続立体交差化/決定段階で比べた三案=①高架式〔成城学園前付近のみ一部掘割〕②高架と地下の併用③地下式/三つの条件=計画的条件〔踏切の除去・駅の移動等〕・地形的条件〔地形と線形〕・事業的条件〔事業費〕/事業費=高架式 約1900億円・地下式〔2線2層方式〕 約3000億円・地下式〔1層4線並列〕 約3600億円) 図:判決の事案

  • 小田急小田原線の喜多見駅付近〜梅ヶ丘駅付近
  • 鉄道と道路の連続立体交差化
  • 決定段階で比べた三案=①高架式〔成城学園前付近のみ一部掘割〕②高架と地下の併用③地下式
  • 三つの条件=計画的条件〔踏切の除去・駅の移動等〕・地形的条件〔地形と線形〕・事業的条件〔事業費〕
  • 事業費=高架式 約1900億円・地下式〔2線2層方式〕 約3000億円・地下式〔1層4線並列〕 約3600億円

想起の問いです。前回、計画決定そのものでなく、事業認可を争ったのは、認可のどの要件を通じて計画の違法を言うためでしたか?61条1号の、事業の内容が都市計画に適合すること、です。その入口から入った、判決の事案を見ます。設例の道路とは別物で、鉄道の話です。小田急線の喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの区間を、線路と道路が交差しない形にする、連続立体交差化の計画でした。踏切をなくし、渋滞を減らし、街づくりを一体で進めるものです。決定の段階で、都は、三つの案を比べました。一つ目は、高架式。成城学園前駅の付近だけ、地面を掘り下げた掘割式にする案です。二つ目は、高架と地下の併用。三つ目は、地下式です。比べる物差しは三つ。計画的条件、つまり踏切を除けるか、駅を動かすかなど。地形的条件、つまり地形に合う線形か。事業的条件、つまり事業費です。

判決が認定した数字は、高架式が約1900億円、地下式は、二つの線を上下の二層にする方式で約3000億円、一層に四本並べる方式では、約3600億円でした。結論として、高架式が三つの条件のすべてで優れる、と評価されました。環境への影響や空間の使い方を考えても、特段問題はない、という判断です。なお、この前には、いくつかの案を、工期や工費、環境面などから総合的に比べた事前の調査があり、そこで高架式が適切とされていました。三つの案の比較は、それを踏まえたものです。

当てはめその二——何を点検し、何を重く見たか

裁判所が点検した3点(案×三つの条件の比較表+「裁判所が点検した所」列/①事業費の算定=既に取得した用地の取得費・鉄道事業者の受益分を入れない→今後必要となる支出の予測として合理的/②地下式の事業費=全区間をシールド工法とする検討をしなかった→当時は駅部の約30m幅のトンネルをシールド工法で施工できなかった/③下北沢区間を地表式とする前提→当時の計画が地表式/判決=裁判所は地下式の方が良かったかは決めていない) 図:裁判所が点検した3点

  • 案×三つの条件の比較表+「裁判所が点検した所」列
  • ①事業費の算定=既に取得した用地の取得費・鉄道事業者の受益分を入れない→今後必要となる支出の予測として合理的
  • ②地下式の事業費=全区間をシールド工法とする検討をしなかった→当時は駅部の約30m幅のトンネルをシールド工法で施工できなかった
  • ③下北沢区間を地表式とする前提→当時の計画が地表式/判決=裁判所は地下式の方が良かったかは決めていない

ここが、今日の山場です。住民側は、この比べ方に、いくつか疑問を出しました。判決は、三つの点を実際に点検しています。一つ目は、事業費の算定です。高架式の事業費を出すとき、すでに買った用地の取得費と、鉄道会社の受益分、たとえば高架の下を使って得られる利益を、入れていませんでした。次のカードの被上告参加人は、この計画を決めた東京都知事のことです。

判例最判平18・11・2 民集60巻9号3249頁

事業費の算定と、シールド工法 既に取得した用地の取得費や鉄道事業者の受益分を考慮せずに事業費を算定しているところ,このような算定方法は,当該都市計画の実現のために今後必要となる支出額を予測するものとして,合理性を有するというべきである。また,平成5年当時,本件区間の一部で想定される工事をシールド工法により施工することができなかったことに照らせば,被上告参加人が本件区間全体をシールド工法により施工した場合における2線2層方式の地下式の事業費について検討しなかったことが不相当であるとはいえない。

判決は、すでに買った用地の費用も、鉄道会社の受益分も入れない算定を、合理性がある、と評価しました。この計画をこれから実現するのに、今後いくら要るか。その予測として筋が通る、ということです。これは、評価の仕方を点検した例です。シールド工法とは、機械で地中を掘り進めながら、トンネルを造る工法です。さて、二つ目の点検は、これに関わります。住民側は、地下式は全区間をこの工法で造る前提で、事業費を検討すべきだった、と言いました。しかし判決は、当時、駅の部分に必要な、幅が約30メートルにもなるトンネルは、その工法で造れなかった、という事実に照らして、検討しなかったことが不相当とは言えない、としました。これは、比べるときの前提の事実を点検した例です。三つ目は、下北沢の区間です。高架式のほうが優れる、という判断は、この区間を、地面の高さを走る地表式にする前提に立っていました。地表を走る区間の近くでは、地下式だと、踏切を一部なくせません。踏切をなくすのが計画の目的なので、地下式に不利な点です。あとになって、都が下北沢の区間を地下にする方針を表明した、という事情があります。しかし、判断が筋として成り立つかは、決定のときの事情で見ます。決定のときの都市計画は地表式で、地下式にすると川の下を通るため深くなる、などの問題もあった。判決は、その前提に立って高架式が優れると判断したことだけをもって、合理性を欠くとは言えない、としました。

そのうえで、結論です。重要な事実の基礎を欠く、または社会通念に照らし著しく妥当性を欠く、と認めるに足りる事情は見当たらない。だから、裁量権の逸脱や濫用はなく、認可も違法にならない、としました。ここで、決定的に大事な点があります。判決が認めたのは、高架式の採用は違法ではない、というところまでです。高架式が地下式より優れている、とは言っていません。つまり、裁判所は、地下式のほうが良かったかどうかは、決めていないんです。問いです。裁判所が点検したのは、高架式が地下式より良かったかでしょうか。それとも、比べ方の事実と評価でしょうか。

比べ方の事実と評価です。用地の取得費の扱い、工法が当時できたか、前提にした区間の計画、を見ました。広い裁量でも、点検はします。ただ、答えには立ち入りません。13条1項は何が適切かを決めず、その判断を、政策的、技術的な見地からの総合判断として、行政庁にゆだねているからです。点検する場所は、答えではなく道筋です。

環境利益——どこまで配慮が求められるか

環境への配慮の根拠(2条=健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動の確保/13条1項柱書=公害防止計画に適合/11号=良好な都市環境を保持/環境影響評価条例=評価書・知事の写しの送付と十分な配慮の要請→周辺住民に健康又は生活環境に係る著しい被害が生じないよう配慮することが要請される) 図:環境への配慮の根拠

  • 2条=健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動の確保
  • 13条1項柱書=公害防止計画に適合
  • 11号=良好な都市環境を保持
  • 環境影響評価条例=評価書・知事の写しの送付と十分な配慮の要請→周辺住民に健康又は生活環境に係る著しい被害が生じないよう配慮することが要請される

判決の環境の話は、三段です。どこまでの配慮が求められるか。実際にどう配慮したか。比べる場に環境の欄が無かった点を、どう見るか。まず、判決は、環境への配慮が求められる根拠を、条文から積み上げています。都市計画法の2条は、健康で文化的な都市生活と機能的な都市活動の確保を、基本理念にしています。その下で、柱書は、公害防止計画への適合を求めます。都市施設の号は、良好な都市環境の保持を求めます。さらに、東京都の条例では、事業者が環境影響評価の評価書を作り、知事は、都市計画を決める側に写しを送って、十分に配慮するよう求めます。環境影響評価とは、事業が環境に与える影響を、あらかじめ予測して評価する手続です。そこから、判決は、こう結論づけます。

判例最判平18・11・2 民集60巻9号3249頁

環境への配慮の要請 そうすると,本件鉄道事業認可の前提となる都市計画に係る平成5年決定を行うに当たっては,本件区間の連続立体交差化事業に伴う騒音,振動等によって,事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境に係る著しい被害が発生することのないよう,被害の防止を図り,東京都において定められていた公害防止計画である東京地域公害防止計画に適合させるとともに,本件評価書の内容について十分配慮し,環境の保全について適正な配慮をすることが要請されると解される。

問いです。環境への配慮が求められるのは、どの程度の被害を防ぐ観点からでしょうか。健康や生活環境に、著しい被害が出ないように、ということですね。ここは、判決の言葉のまま覚えます。求められるのは、著しい被害を生じさせない配慮です。いちばん静かな案を選べ、とまでは書いていません。Xさんの、静かなほうがいい、という言い分も、この線で測られます。

判決が重ねた事実(事前の調査=環境面も含め高架案が適切/条例に基づく環境影響評価=確立した科学的方法で予測/予測値=高架橋の端から1.5m・地上10〜30mで88ホン以上・地上15mで93ホン→鉄道に極めて近い地点の値・実際は車体に遮られて低くなる/地上1.2mではおおむね現況並みかそれ以下=当時の公的基準も地上1.2mで測る/構造物の重量化などで低減の見込み/公害防止計画に適合) 図:判決が重ねた事実

  • 事前の調査=環境面も含め高架案が適切
  • 条例に基づく環境影響評価=確立した科学的方法で予測
  • 予測値=高架橋の端から1.5m・地上10〜30mで88ホン以上・地上15mで93ホン→鉄道に極めて近い地点の値・実際は車体に遮られて低くなる
  • 地上1.2mではおおむね現況並みかそれ以下=当時の公的基準も地上1.2mで測る
  • 構造物の重量化などで低減の見込み
  • 公害防止計画に適合

では、実際に環境をどう見たのか。判決は、事実を重ねました。事前の調査で、環境面も含めて高架案が適切とされたこと。東京都の条例に基づく環境影響評価が行われたこと。予測は、確立した科学的方法によったこと。予測値は、高架橋の端から1.5メートル、地上10メートルから30メートルの地点で88ホン以上、地上15メートルで93ホンでした。ホンは、騒音の大きさの単位です。ただ判決は、これは鉄道に極めて近い地点の数値で、実際には車体に遮られて低くなる、と見ました。地上1.2メートルの高さでは、おおむね今と同じ程度か、それより低い予測でした。当時の公的な基準も、この1.2メートルの高さで測るものでした。構造物を重くするなどの対策で、低減も見込まれます。公害防止計画にも、適合していました。

判例最判平18・11・2 民集60巻9号3249頁

環境面の当てはめ そうすると,平成5年決定は,本件区間の連続立体交差化事業に伴う騒音等によって事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境に係る著しい被害が発生することの防止を図るという観点から,本件評価書の内容にも十分配慮し,環境の保全について適切な配慮をしたものであり,公害防止計画にも適合するものであって,都市計画法等の要請に反するものではなく,鉄道騒音に対して十分な考慮を欠くものであったということもできない。

結論です。環境の保全に適切な配慮をし、公害防止計画にも適合している。だから、考慮すべき事情を考慮しなかった、とは言えないし、判断の内容が明らかに合理性を欠く、とも言えません。比べるときの条件に環境の欄が無かった点は、判決も取り上げています。

判例最判平18・11・2 民集60巻9号3249頁

比較の段階と、環境への影響 なお,被上告参加人は,平成5年決定に至る検討の段階で,本件区間の構造について三つの方式の比較検討をした際,計画的条件,地形的条件及び事業的条件の3条件を考慮要素としており,環境への影響を比較しないまま,本件高架式が優れていると評価している。しかしながら,この検討は,工期・工費,環境面等の総合的考慮の上に立って高架式を適切とした本件調査の結果を踏まえて行われたものである。加えて,その後,本件高架式を採用した場合の環境への影響について,本件条例に基づく環境影響評価が行われ,被上告参加人は,この環境影響評価の結果を踏まえた上で,本件高架式を内容とする平成5年決定を行っているから,平成5年決定が,その判断の過程において考慮すべき事情を考慮しなかったものということはできない。

比較表に環境の欄が無い点と、騒音被害の事情(三条件の比較=環境の欄なし→その前の調査で環境面も含め高架式が適切/その後に条例に基づく環境影響評価→結果を踏まえて決定→考慮すべき事情を考慮しなかったとはいえない/公害等調整委員会=決定前の騒音被害が受忍限度を超える→鉄道騒音への十分な考慮が特に要請→それでも十分な考慮を欠くとはいえない) 図:比較表に環境の欄が無い点と、騒音被害の事情

  • 三条件の比較=環境の欄なし→その前の調査で環境面も含め高架式が適切
  • その後に条例に基づく環境影響評価→結果を踏まえて決定→考慮すべき事情を考慮しなかったとはいえない
  • 公害等調整委員会=決定前の騒音被害が受忍限度を超える→鉄道騒音への十分な考慮が特に要請→それでも十分な考慮を欠くとはいえない

その場の比較表に、環境の欄がなくても、判断の過程の全体で環境を見ていれば、考慮すべき事情を考慮しなかった、とは言えない。調査で環境面を含めて検討し、その後に環境影響評価を行い、その結果を踏まえて決めた、という流れが決め手です。一方、住民側には、別の事情もありました。公害等調整委員会が、この計画の決定より前の騒音被害について、受忍限度、つまり社会生活の中でがまんすべき限度を、超えると判断したのです。決定のときすでに、この線路の騒音で、がまんの限度を超える被害が、現に出ていたわけです。そのため、鉄道騒音への十分な考慮が、とくに要請されていました。それでも判決は、先ほどの配慮の積み重ねを見て、十分な考慮を欠くとは言えない、としました。

代替案を、裁判所はどこまで見るか

代替案の見方(判決が見たもの=比べるときの前提事実と評価の仕方/環境を考慮に入れていたか/見ていないもの=地下式のほうが環境に良い・案として優れるかの決め直し/対比=公園の区域の事件〔国有地を使わない理由を事実で確かめないまま合理性を認めた原審→破棄差戻し〕=代替案を秤にのせなかった例/今日の判決=秤にのせて比べた結果を尊重した例) 図:代替案の見方

  • 判決が見たもの=比べるときの前提事実と評価の仕方
  • 環境を考慮に入れていたか
  • 見ていないもの=地下式のほうが環境に良い・案として優れるかの決め直し
  • 対比=公園の区域の事件〔国有地を使わない理由を事実で確かめないまま合理性を認めた原審→破棄差戻し〕=代替案を秤にのせなかった例
  • 今日の判決=秤にのせて比べた結果を尊重した例

裁判所が、代替案のほうが良かったと判断し直すことはありません。今日の判決も、そうしませんでした。見たのは、地下式という代替案を落とすときの、前提の事実と、評価の仕方です。それに、環境を考慮に入れていたか。地下式のほうが環境に良い、とか、案として優れている、という点には、立ち入っていません。対比で、裁量の章で見た、公園の区域の事件を思い出してください。公園を造る都市計画で、隣に国有地があるのに、民有地が区域に入れられた事件です。最高裁は、公園の南の門を今の位置のままにする判断が合理性を欠くと言える場合には、さらに、民有地と国有地の利用の今の状況や将来の見通しなども見て、民有地を区域に入れた判断の合理性を確かめる、という筋道を示しました。一つ前の裁判所、つまり原審は、国有地を使わない理由が成り立つかを、事実で確かめないまま、合理性を認めていました。そこで最高裁は、原審の判決を取り消し、審理をやり直させるために差し戻しました。これを、破棄差戻しと言います。代替案を、事実で確かめないまま秤にのせなかった例です。今日の判決は、秤にのせて比べた結果を、道筋が筋として成り立つかを点検したうえで、尊重した例です。注意があります。公園の事件は、差戻しです。違法と確定したわけではありません。代替案を検討しなければいつも違法、とは言えません。ただ、考えるべき代替案を考えなかったことが考慮不尽に当たれば、違法になりえます。暗記は一本です。代替案の比較は、最善案を選び直す審査ではなく、比較の前提の事実、評価、考慮の漏れの点検です。

今日の地図(保存版)

今日の持ち帰り(条文=13条1項柱書+11号→基準が抽象的→広範な裁量→物差し=重要な事実の基礎/評価・考慮の道筋→当てはめ3点=事業費の算定・シールド工法・下北沢区間→環境=周辺住民に著しい被害が生じないよう配慮が要請される→代替案=最善案の選び直しではなく比べ方の点検/設例=波野市の地上案か地下案か) 図:今日の持ち帰り

  • 条文=13条1項柱書+11号→基準が抽象的→広範な裁量→物差し=重要な事実の基礎
  • 評価・考慮の道筋→当てはめ3点=事業費の算定・シールド工法・下北沢区間→環境=周辺住民に著しい被害が生じないよう配慮が要請される→代替案=最善案の選び直しではなく比べ方の点検
  • 設例=波野市の地上案か地下案か

まとめます。一つ目、条文は、適切な規模、必要な位置、と抽象的に書くだけで、判断は広範な裁量にゆだねられます。二つ目、裁判所は、裁量を前提に、重要な事実の基礎を欠くか、評価や考慮の道筋が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くかを点検します。三つ目、当てはめでは、事業費の算定、工法の前提、区間の前提という、比べ方の事実と評価を見ました。判決が認めたのは、高架式の採用が違法ではない、というところまでです。四つ目、環境は、周辺住民に健康や生活環境の著しい被害が生じないよう配慮することが要請される。比較の場に環境の欄がなくても、調査と環境影響評価を経て決めていれば、考慮不尽ではありません。そして五つ目、代替案は、最善案の選び直しではなく、比べ方の点検です。ここは、論文でも論点になりえます。設例の答えです。Xさんが、認可の取消訴訟で、地上案を選んだのは違法だ、と争えば、裁判所は、広い裁量を前提に、次の点を見ます。地上案が安いと言うなら、その算定が、今後の支出の予測になっているか。地下案を落とした理由の事実、たとえば技術的にできたか、が正しいか。環境への影響を調べて、その結果を踏まえたか。周辺住民に著しい被害が生じないよう配慮したか。そして、比べ方が筋として成り立つか。地下案のほうが良かった、とは言いません。ただし、Xさんにその訴えを起こす資格があるのかは、別の問題です。原告適格の回で、扱います。

裁判所は、最善の案を選ぶのではなくて、比べ方が不合理でないかを見る、ということですね。裁量の章で見た、結果が最善かではなく、最善を尽くしたかを見る、という目線が、計画の審査でも同じように働きました。

参照条文

  • 都市計画法13条1項柱書

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