行政法ゼロから行政法#85

計画担保責任と行政計画の争い方

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第6章 行政契約・行政指導・行政計画 #85/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

計画を信じて動いた2社——救われるのはどちらか

今日の問い(緑川町が工業団地の計画を公表/町長はA社を個別に訪ねて「ここに工場を」と頼んだ→A社は土地を買い機械を発注/B社は新聞で計画を知り、誰にも頼まれずに近くの用地を買った/選挙で町長が代わり計画は中止/2社とも損をした→救われるのはどちらか) 図:今日の問い

  • 緑川町が工業団地の計画を公表
  • 町長はA社を個別に訪ねて「ここに工場を」と頼んだ→A社は土地を買い機械を発注
  • B社は新聞で計画を知り、誰にも頼まれずに近くの用地を買った
  • 選挙で町長が代わり計画は中止
  • 2社とも損をした→救われるのはどちらか

今日は、計画を信じて動いた側の話です。設例を作ります。緑川町が、工業団地の計画を公表しました。町長は、A社を何度も訪ねて、この団地に工場を出してほしい、と頼みました。A社は、団地ができるものと考えて、土地を買い、機械を発注しました。一方、B社は、新聞で計画を知りました。誰にも頼まれていませんが、いずれ団地ができると見込んで、近くに社員寮の用地を買いました。そこへ選挙があり、町長が代わって、計画は中止になりました。2社とも、損をしました。先に答えを言います。救われる余地があるのは、A社です。B社は、判例の枠では、守られません。分かれ目は、損害の大きさではなく、誰に何を言われたかです。今日は、そこへ要素を1つずつ当てて、自力で結論が出せるところまで進みます。

計画を争う道は3本

計画を争う3本の道(1本目=計画そのものを取消訴訟で争う〔処分性があるか〕/2本目=後の処分の取消訴訟の中で、計画の違法を言う〔窓口は事業認可〕/3本目=計画が変わった・やめたあとの金銭的救済〔国家賠償・損失補償〕/今日の中心は3本目、1本目は結論の一覧まで) 図:計画を争う3本の道

  • 1本目=計画そのものを取消訴訟で争う〔処分性があるか〕
  • 2本目=後の処分の取消訴訟の中で、計画の違法を言う〔窓口は事業認可〕
  • 3本目=計画が変わった・やめたあとの金銭的救済〔国家賠償・損失補償〕
  • 今日の中心は3本目、1本目は結論の一覧まで

今日の話を整理する、最初の地図です。行政計画に不満があるとき、争う道は3本あります。前の回で見たことを、思い出しましょう。計画が決まった段階では、裁判所に持ち込みにくいことがありました。そのとき、窓口になる次の処分は、何だったでしょうか?事業認可でした。計画は地図に引いた線で、認可は、その線どおりに工事を始める許可証です。許可証の取消しを求める中で、線の誤りを言えました。これが2本目の道です。後の処分の取消訴訟の中で、計画の違法を言います。1本目は、計画そのものを取消訴訟の対象にする道です。取消訴訟の対象になる行為を、処分と呼び、その資格があるかどうかを、処分性と言います。そして3本目が、計画が変わったり、やめになったりしたあとの、金銭による救済です。

どうして3本も道があるんですか。1本ではだめなんですか。計画は、段階ごとに、人に与える影響が違うからです。前回のXさんで考えます。波野市が、駅前通りの延伸の計画を決めた段階では、Xさんの家の前に、まだ工事は来ていません。この段階で訴えられるなら、1本目です。訴えられないなら、事業認可が出た段階で、2本目に回ります。そして、計画が中止になって、取り消すべき処分が何も無いのに、計画を信じて動いた人が損をした場合は、お金の話、つまり3本目になります。道は、どの段階の何が、その人に実害を与えたかで選びます。今日の中心は、3本目です。1本目は、結論の一覧までにします。

計画そのものを争えるか——処分性の結論一覧

計画と処分性の結論一覧(土地区画整理事業の事業計画決定〔かつて〕=否定/同〔判例変更後〕=肯定/用途地域の指定=否定/第二種市街地再開発事業の事業計画決定=肯定/土地区画整理組合の設立認可=肯定/土地改良事業の施行認可=肯定/出典=最大判昭41・2・23 民集20巻2号271頁/最大判平20・9・10 民集62巻8号2029頁/最判昭57・4・22 民集36巻4号705頁/最判平4・11・26 民集46巻8号2658頁/最判昭60・12・17 民集39巻8号1821頁/最判昭61・2・13 民集40巻1号1頁) 図:計画と処分性の結論一覧

  • 土地区画整理事業の事業計画決定〔かつて〕=否定
  • 同〔判例変更後〕=肯定
  • 用途地域の指定=否定
  • 第二種市街地再開発事業の事業計画決定=肯定
  • 土地区画整理組合の設立認可=肯定
  • 土地改良事業の施行認可=肯定
  • 出典=最大判昭41・2・23 民集20巻2号271頁
  • 最大判平20・9・10 民集62巻8号2029頁
  • 最判昭57・4・22 民集36巻4号705頁
  • 最判平4・11・26 民集46巻8号2658頁
  • 最判昭60・12・17 民集39巻8号1821頁
  • 最判昭61・2・13 民集40巻1号1頁

1本目の道の結論を、板の一覧で並べます。処分性が認められた計画と、認められなかった計画です。土地区画整理事業の事業計画の決定は、かつて、処分性が否定されていました。大法廷の判決は、事業計画は青写真、つまり、まだ設計図の段階で、誰の土地がどうなるかは決まっていない、と見たのです。しかし、のちに大法廷で判例が変更され、今は肯定です。通称、浜松市の判決です。理由は、決定の時点で、住民が、換地処分を受けるべき地位に立たされ、後の処分まで待つのでは、救済が足りないから、です。換地処分とは、区画整理で、土地を割り当て直す最後の処分のことです。用途地域の指定は、否定です。法令が制定されたのと同じように、不特定多数に向けた、一般的、抽象的な効果にとどまるからです。後の建築の拒否などの個別の処分を争う中で、指定の違法を言う道が残っています。残りの3つは、肯定です。第二種市街地再開発事業の事業計画の決定は、土地収用の事業認定と同じ法的効果を生むからです。土地区画整理組合の設立認可は、施行地区内の権利者を、強制的に組合員にして、組合に事業をする権限を与えるからです。市町村が行う土地改良事業の施行認可も、肯定です。土地改良法は、国や都道府県が行う事業では、事業計画の決定を取消訴訟で争えることを前提にしています。判決は、市町村の施行認可を、その事業計画の決定と、手続の中で同じ位置と役割のものと見たのです。

一言で言います。その決定の時点で、持ち主の法的な地位が、もう決まってしまうか、です。

分かれ目は「決定の時点で、持ち主の地位が決まるか」(事業型=後の手続が控えている〔区画整理・再開発・組合設立・土地改良〕→決定で持ち主の地位が具体的に決まる→肯定/後の手続が控えるだけでは足りない=都市計画道路の決定は否定〔区域の誰にでも一律の制限〕/完結型=地域全体への土地利用の規制そのもので続く行為が予定されない〔用途地域〕→法令と同じ一般的・抽象的な効果→否定/落とし穴=区画整理は否定のままではなく肯定に変わった・用途地域は今も否定) 図:分かれ目は「決定の時点で、持ち主の地位が決まるか」

  • 事業型=後の手続が控えている〔区画整理・再開発・組合設立・土地改良〕→決定で持ち主の地位が具体的に決まる→肯定
  • 後の手続が控えるだけでは足りない=都市計画道路の決定は否定〔区域の誰にでも一律の制限〕
  • 完結型=地域全体への土地利用の規制そのもので続く行為が予定されない〔用途地域〕→法令と同じ一般的・抽象的な効果→否定
  • 落とし穴=区画整理は否定のままではなく肯定に変わった・用途地域は今も否定

区画整理や再開発のように、決定のあとに事業が確実に進む計画は、事業型と呼ばれます。ただし、後の手続が控えているだけでは足りません。前回のXさんの道路の決定も、あとに事業の認可が控えていますが、区域の誰にでも一律に掛かる制限にとどまるので、処分には当たらない、と見ました。区画整理が違うのは、決定で、地区内の地主が、換地を受ける立場に具体的に置かれるからです。残りの3つも、この物差しで読めます。再開発の決定で、地区内の持ち主は、土地を収用されうる立場に置かれます。組合の設立認可で、本人の意思と関係なく、組合員の立場に置かれます。土地改良の施行認可は、そのあと工事に進む運びになり、判決は、認可が公告されたあとに土地の形を変えても、その損失は原則として補償されない、とも指摘しました。認可の時点で、地区内の持ち主の立場が決まるわけです。一方、用途地域は、続く行為が予定されていない、完結型です。学説は、この2つに分けて整理します。完結型は、地域全体への規制そのもので、法令に近い。だから否定です。身近な形に置き直します。区画整理の事業計画が決まると、施行地区の中のあなたの土地は、いずれ形を変えて割り当て直されることが決まり、それまでは建物を新しく建てるのにも許可が要ります。一方、ある一帯が工業専用地域に指定されると、住宅は建てられなくなりますが、それは一帯の誰にでも一律に掛かるルールです。あなたの土地について、何かを個別に決めたわけではありません。家を建てようとして止められたとき、その処分を争う中で、指定の違法を言います。

落とし穴が2つあります。区画整理は、否定のまま覚えないでください。肯定に変わりました。そして用途地域は、同じ時期に変わったと思わないでください。今も否定です。判例の中身は、区画整理と用途地域の回で、詳しく見ます。

計画は変わるもの——変更そのものは原則自由

計画の変更と信頼の保護(計画は社会情勢の変化で変わることが予定されている→変更そのものは原則として自由/別の問題=信頼して動いた人の不利益をどうするか/この問題に付いた学説上の呼び名=計画担保責任〔判決自身はこの語を使わない〕/判例の枠組み=信義衡平の原則+不法行為責任) 図:計画の変更と信頼の保護

  • 計画は社会情勢の変化で変わることが予定されている→変更そのものは原則として自由
  • 別の問題=信頼して動いた人の不利益をどうするか
  • この問題に付いた学説上の呼び名=計画担保責任〔判決自身はこの語を使わない〕
  • 判例の枠組み=信義衡平の原則+不法行為責任

ここから3本目の道です。まず、前提を確認します。計画は、時間や状況に応じて変わることが予定されています。ですから、計画は変えてはいけない、とは言えません。A社が梯子を外されたように見える点が、この問題の本体です。変更が許されるかどうかとは、別の問いです。変更は許される。そのうえで、信頼して動いた人の不利益を、どうするか。この問題に学説が付けた呼び名が、計画担保責任です。担保という字から、計画を守る約束のように聞こえますが、そうではありません。不利益を埋め合わせる責任を指す、学説上の言い方です。注意が1つあります。最高裁の判決自身は、計画担保責任という言葉を使っていません。信義則の回で見た、密接に交渉した当事者どうしの関係を律する、信義衡平の原則と、不法行為責任で処理しています。答案の中身は、判例の枠組みで決まります。呼び名は、それに学説が付けた名前として、添えるだけです。設例に戻ります。選挙で計画が中止された。これ自体は、違法とは言えません。同じ回で見た、住民自治の原則、つまり、町の施策は住民の意思に基づいて行う、という原則があるからです。選挙で住民が別の道を選べば、施策が変わるのは当然です。問題は、A社の損をどう扱うかです。

山場——要素を1つずつA社に当てはめる

判断の5つの問い(問い1=個別的・具体的な勧誘があったか/問い2=相当長期の施策の継続を前提とする活動か/問い3=社会観念上看過できない程度の積極的損害か/問い4=代償的措置があったか/問い5=やむをえない客観的事情があるか/問い1・2=信頼が法的に保護される条件/問い3・4・5=責任が生じる条件) 図:判断の5つの問い

  • 問い1=個別的・具体的な勧誘があったか
  • 問い2=相当長期の施策の継続を前提とする活動か
  • 問い3=社会観念上看過できない程度の積極的損害か
  • 問い4=代償的措置があったか
  • 問い5=やむをえない客観的事情があるか
  • 問い1・2=信頼が法的に保護される条件
  • 問い3・4・5=責任が生じる条件

使う直前に、思い出します。信義則の回で見た、村が製紙工場の誘致を決めた事件です。村長が工場建設に全面的に協力すると言明し、会社が機械を発注したのに、選挙で代わった村長が協力を拒みました。判決は、どんなときに村の責任を認めたのでしたか。5つの問いで、言えますか?1つ目は、町が個別に、具体的に誘ったか。2つ目は、長い期間の施策の継続を前提にした活動か。3つ目が、見過ごせない損害か。4つ目が、補償などの代わりの措置を取ったか。最後は、やむをえない客観的な事情があるか、です。板のとおりです。最初の2つがそろうと、信頼が法的に保護されます。町が自分から相手を動かし、しかも長い年月を掛けて回収する投資をさせたのなら、その信頼を、相手の自己責任だと突き放すことはできないからです。残りの3つで、責任が生じるかが決まります。

A社への当てはめ表(問い1=個別的・具体的な勧誘→町長が何度も訪ねて頼んだ=あり/問い2=長期の継続を前提とする活動→工場の土地と機械=何年も操業して初めて元が取れる=あり/問い3=社会観念上看過できない積極的損害→土地や機械の代金など実際に出た損害=程度を審理する点/問い4=代償的措置→町は補償の申し出をしていない=なし/問い5=やむをえない客観的事情→選挙で町長が代わっただけでは足りない=なし) 図:A社への当てはめ表

  • 問い1=個別的・具体的な勧誘→町長が何度も訪ねて頼んだ=あり
  • 問い2=長期の継続を前提とする活動→工場の土地と機械=何年も操業して初めて元が取れる=あり
  • 問い3=社会観念上看過できない積極的損害→土地や機械の代金など実際に出た損害=程度を審理する点
  • 問い4=代償的措置→町は補償の申し出をしていない=なし
  • 問い5=やむをえない客観的事情→選挙で町長が代わっただけでは足りない=なし

A社に当てはめます。1つ目、個別的、具体的な勧誘。相手を特定して、何をしてほしいかまで示して誘ったか、です。町長は、A社を何度も訪ね、この団地に工場を、と頼んでいます。あります。もし町が、企業向けの説明会で、どこの会社でも歓迎します、と呼びかけただけなら、相手も中身も特定されていないので、個別的、具体的とは言いにくくなります。2つ目、長期の継続を前提とする活動。施策が長く続いて初めて、出したお金に見合う効果が出る活動か、です。工場の土地と機械は、何年も操業して初めて元が取れます。あります。この時点で、A社の信頼は、法的に保護されます。3つ目、社会観念上看過できない程度の積極的損害です。積極的損害とは、機械の代金のように、実際に出ていった損害のことです。得られたはずの利益ではありません。設例では、金額を決めていません。ですから、ここは、程度を審理する点として残ります。4つ目、代償的措置。町は、補償の申し出をしていません。ありません。5つ目、やむをえない客観的事情です。選挙で町長が代わっただけでは、足りません。判決は、政治情勢の変化だけでは、やむをえない客観的事情にならない、としています。住民自治は、住民の意思で動けば、責任が一切ない、という意味ではないからです。

勝てる、とは言えません。保護の条件は満たしますが、3つ目の損害の程度が残ります。元になった事件でも、最高裁は、保護の条件は満たすとしたうえで、損害の程度などを審理させるために、事件を差し戻しました。勝訴が確定したわけではありません。

当てはめの変形(町が機械代金の補償を申し出ていた場合→問い4で代償的措置あり→違法とされる理由が消える方向/災害で団地の予定地が使えなくなった場合→問い5のやむをえない客観的事情に近づく) 図:当てはめの変形

  • 町が機械代金の補償を申し出ていた場合→問い4で代償的措置あり→違法とされる理由が消える方向
  • 災害で団地の予定地が使えなくなった場合→問い5のやむをえない客観的事情に近づく

理解の確認に、設例を少し変えます。町が、機械の代金の補償を申し出ていたら、どうなるでしょうか?4つ目の、代償的措置があることになります。信頼を不当に壊した、とは言いにくくなって、違法になる理由が消える方向です。では、団地の予定地が、災害で使えなくなったために、計画を中止した場合は?選挙とは違って、町にはどうにもできない事情なので、5つ目の、やむをえない客観的事情に近づきます。同じ中止でも、理由と、穴埋めの有無で、結論が動きます。この動き方が、当てはめの練習になります。

B社はなぜ違うか——公表された計画を見ただけ

町と2社の線(町→A社=個別の勧誘の線がある/町→B社=勧誘の線がない〔B社は公表された計画を新聞で知っただけ〕/分かれ目=線が引かれているか) 図:町と2社の線

  • 町→A社=個別の勧誘の線がある
  • 町→B社=勧誘の線がない〔B社は公表された計画を新聞で知っただけ〕
  • 分かれ目=線が引かれているか

次に、B社に、同じ5つの問いを当てます。1つ目から、止まります。個別的、具体的な勧誘は、ありません。町は、B社の存在を知りません。B社は、新聞で知って、自分の判断で動いただけです。1つ目がなければ、信頼は、この判決の枠では保護されません。2つ目以降は、判断に入りません。決め手は、行政の側が、相手を動かしたかどうかです。計画を信じただけでは、足りません。学説には、勧誘が無くても、公表された計画への信頼を、もっと広く保護すべきだという見方もあります。しかし、判例の枠は、いま見たとおりです。受験では、個別の働きかけが無い事案は、否定と整理してください。

A社とB社の比較(問い1=勧誘:A社あり/B社なし→B社はここで止まる/問い2〜5=A社だけが判断に入る/損害の大きさ・計画の重要性=分かれ目ではない) 図:A社とB社の比較

  • 問い1=勧誘:A社あり
  • B社なし→B社はここで止まる
  • 問い2〜5=A社だけが判断に入る
  • 損害の大きさ・計画の重要性=分かれ目ではない

A社とB社で、損害の大きさが逆なら、結論は変わりますか。変わりません。差は、損害の大きさでも、計画の重要性でもありません。個別の働きかけがあったか、それだけです。たとえば、駅前ビルのオーナーに、ここで店を開いてください、と頼まれて内装を整えた店と、オーナーの広告を見て、自分で近くに出店した店を比べてください。オーナーが責任を負うのは、頼んだ店に対してであって、広告を読んだ全員に対してではありません。

相対的違法と損失補償——責任の筋は2つある

責任の2つの筋(判決の筋=計画の変更そのものは適法なまま、その人との関係でだけ違法〔相対的違法〕→国家賠償〔不法行為〕で損害を賠償/違法の中身=勧誘で生じさせた信頼を、補償もなく不当に壊したこと/別の見方=計画変更で特別の犠牲を受けた人への損失補償〔適法な行為による損失の補償〕/どちらの筋でも要は「誰がどれだけ信頼してよかったか」) 図:責任の2つの筋

  • 判決の筋=計画の変更そのものは適法なまま、その人との関係でだけ違法〔相対的違法〕→国家賠償〔不法行為〕で損害を賠償
  • 違法の中身=勧誘で生じさせた信頼を、補償もなく不当に壊したこと
  • 別の見方=計画変更で特別の犠牲を受けた人への損失補償〔適法な行為による損失の補償〕
  • どちらの筋でも要は「誰がどれだけ信頼してよかったか」

変更が適法なのに、責任が出るのは、やっぱり矛盾しませんか。矛盾しません。判決の筋は、こうです。計画の変更そのものは、適法なままです。ただ、A社との関係でだけ、違法になります。勧誘で生じさせた信頼を、補償もなく不当に壊したからです。これを、相対的違法と呼びます。全員に対してではなく、特定の人との関係でだけ違法、という意味です。そして、その違法を原因に、国家賠償で、不法行為として、損害を賠償させます。暗記の軸は、これです。変更が違法になるのではありません。変更の適法性と、その人への責任は、別です。そういう見方も、あります。計画の変更で、特別の犠牲、つまり、特定の人だけが、我慢すべき限度を超えて負わされた損失を受けた人に、適法な行為による損失として補償する、という筋です。もっとも、計画を信じて動いた人に補償する、と定めた法律は見当たりません。判決は、不法行為の形で、この人を救いました。ただし、損失補償の根拠や、特別の犠牲の中身は、損失補償の回で見ます。国家賠償法1条の違法の判断も、国家賠償の回で扱います。どちらの筋でも、要は同じです。誰が、どれだけ、信頼してよかったか。

都市計画法の手当て(土地の買取請求=52条の4・57条の5/損失の補償=52条の5・57条の6/都市計画で土地の使い方を制限された人のための規定/中身・長期の制限と補償は別の回) 図:都市計画法の手当て

  • 土地の買取請求=52条の4・57条の5
  • 損失の補償=52条の5・57条の6
  • 都市計画で土地の使い方を制限された人のための規定
  • 中身・長期の制限と補償は別の回

判決の枠では守られない、というだけです。都市計画の地図の回で見たように、計画が決まると、土地の使い方が制限されます。都市計画法には、そうした制限を受けた人のための規定があります。土地の買取請求と、損失の補償です。ただし、守られるのは、土地の使い方を制限された人です。B社のように、ただ計画を信じて動いた人への補償を定めた法律は、さきほど見たとおり、ありません。要件や、長期の制限と補償は、別の回で扱います。

同じ事件を3つの行為形式で——第6章の締め

同じ事件を3つの行為形式で見る(信義則・信頼保護=勧誘への信頼、個別・具体的な勧誘と長期の継続を前提とした活動/行政指導=働きかけに従った人の損害は国家賠償で争う〔壁=因果関係〕/行政契約=約束が契約として成立していれば約束を守る義務、成立していなければ契約としては争えない/見るべきは行為形式の名前より「何を信頼させたか」) 図:同じ事件を3つの行為形式で見る

  • 信義則・信頼保護=勧誘への信頼、個別・具体的な勧誘と長期の継続を前提とした活動
  • 行政指導=働きかけに従った人の損害は国家賠償で争う〔壁=因果関係〕
  • 行政契約=約束が契約として成立していれば約束を守る義務、成立していなければ契約としては争えない
  • 見るべきは行為形式の名前より「何を信頼させたか」

第6章の締めです。この章では、行政の行為形式を3つ見ました。行政契約、行政指導、行政計画です。今日の設例は、その3つのどれとしても語れます。問いです。町長の、ここに工場を出してほしい、という言葉は、行政指導でしょうか。契約の申込みでしょうか。計画の一部でしょうか?行政指導とも契約とも、一つには決めきれないのが、この設例の特徴です。名前を決めなくても、争い方は組み立てられます。行政指導として見れば、従った人の損害を、国家賠償で争う形になり、壁は因果関係でした。指導に従うかどうかは、相手が自分で決めるので、損害は、指導からではなく、自分の判断から生じた、と見られやすいからです。契約として見れば、成立していれば、約束を守る義務が出ます。しかし、この設例では、町が何を引き受けるのか、約束の中身までは決まっていません。だから、契約が成立したとは言えず、契約としては争えません。だからこそ、信義則の話になりました。結論です。行政指導の筋では、自分の判断で動いた、という点が壁になりました。信義則の筋は、問いが違います。町が自分から個別に誘い、長期の投資をさせたのなら、その判断は、町が生じさせた信頼の上にあります。だから、前半で見たとおり、自己責任だと突き放せません。行為形式の名前より、何を信頼させたかを見ます。町が、個別の働きかけで、相手に長期の投資をさせた。その信頼を壊したことが、責任の中身です。

今日の地図(保存版)

今日の持ち帰り(計画を争う道は3本/処分性は「決定の時点で地位が決まるか」〔区画整理は否定から肯定へ・用途地域は否定・再開発・組合設立・土地改良は肯定〕/計画は変えてよい、ただし個別に誘われて長期の投資をした人は信義衡平で保護/変更は適法のまま、その人との関係でだけ違法〔相対的違法〕・損失補償と見る見解もある/同じ事件は信義則・指導・契約のどれでも語れる/設例=A社は救済の余地・B社は勧誘がなく判決の枠では保護されない) 図:今日の持ち帰り

  • 計画を争う道は3本
  • 処分性は「決定の時点で地位が決まるか」〔区画整理は否定から肯定へ・用途地域は否定・再開発・組合設立・土地改良は肯定〕
  • 計画は変えてよい、ただし個別に誘われて長期の投資をした人は信義衡平で保護
  • 変更は適法のまま、その人との関係でだけ違法〔相対的違法〕・損失補償と見る見解もある
  • 同じ事件は信義則・指導・契約のどれでも語れる
  • 設例=A社は救済の余地・B社は勧誘がなく判決の枠では保護されない

まとめます。1つ目、計画を争う道は3本です。計画そのもの、後の処分の中、そして変わったあとの金銭救済。2つ目、処分性は、決定の時点で、持ち主の地位が決まるかで分かれます。区画整理は否定から肯定へ変わり、用途地域は否定、再開発、組合設立、土地改良は肯定です。3つ目、計画は変えてよい。ただし、個別に誘われて長期の投資をした人は、信義衡平の原則で保護されます。4つ目、変更は適法なまま、その人との関係でだけ違法になります。損失補償と見る見解もあります。5つ目、同じ事件は、信義則、行政指導、行政契約のどれとしても語れます。名前より、何を信頼させたかです。設例の答えです。A社は、町長に個別に誘われ、長期の投資をしました。信頼は保護され、補償もなく、選挙だけでは足りないので、救済の余地があります。損害の程度は、残ります。B社は、公表された計画を見ただけで、個別の勧誘がありません。判決の枠では、保護されません。

救われるかどうかは、損害の大きさじゃなくて、町に誘われたかどうか、なんですね。行政に信頼させられたかどうかで、結論は分かれます。ここは、論文でも論点になりえます。

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