行政法ゼロから行政法#77

許認可権限を背景にした行政指導

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第6章 行政契約・行政指導・行政計画 #77/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

許可を握る役所の「お願い」は断れるか

今日の問い(国の丙省/N社に事業の許可を与えている/担当者「業界団体の自主的な取組みに参加してください。ご協力いただけないと、次の更新は難しいかもしれません」〔取り消す理由は何もない〕/別の同種の会社は法令違反を続けている「是正されなければ改善命令を出します」/問い=①権限を持つ相手の「お願い」はなぜ断りにくいか②どこから許されないか③水を圧力にした2つの事件はどう裁かれたか) 図:今日の問い

  • 国の丙省
  • N社に事業の許可を与えている
  • 担当者「業界団体の自主的な取組みに参加してください。ご協力いただけないと、次の更新は難しいかもしれません」〔取り消す理由は何もない〕
  • 別の同種の会社は法令違反を続けている「是正されなければ改善命令を出します」
  • 問い=①権限を持つ相手の「お願い」はなぜ断りにくいか②どこから許されないか③水を圧力にした2つの事件はどう裁かれたか

許可をもらっている役所から「お願い」をされたら、断れないですよね。それって、お願いと言えるんですか。そこが今日の主題です。設例を置きます。国に、丙省という省があるとします。丙省は、N社に事業の許可を与えています。ある日、担当者がN社に言います。業界団体の自主的な取組みに、参加してもらえませんか。参加は、法令上の義務ではありません。そのうえで、こう続けます。ご協力いただけないと、次の更新は難しいかもしれません。ただし、N社の許可を取り消すような理由は、何一つありません。更新の要件も、満たしています。

次に、もう一つの場面です。N社と同じ種類の会社が、許可の条件に違反し続けているとします。担当者は、この会社に言います。是正されなければ、改善命令を出します。この二つの場面は、同じでしょうか、違うでしょうか。問いは三つです。一つ目、権限を持つ相手の「お願い」は、なぜ断りにくいのか。二つ目、どこから許されなくなるのか。ここで、行政手続法34条を読みます。三つ目、水を圧力に使った二つの事件は、どう裁かれたのか。先に答えの骨格を言います。使えない権限や、別の目的のための権限を、従わせる材料にして任意を損なえば、違法になります。細かい答えは、最後にまとめて回収します。

関係図(A=丙省〔許可する省〕/B=N社〔許可を受けた会社〕/C=同種の会社/A→B=「参加して」「更新は難しいかも」〔点線=応じるかは任意・圧力が重なる〕/A→C=「是正されなければ改善命令」〔実線=出せる権限〕) 図:関係図

  • A=丙省〔許可する省〕
  • B=N社〔許可を受けた会社〕
  • C=同種の会社
  • A→B=「参加して」「更新は難しいかも」〔点線=応じるかは任意・圧力が重なる〕
  • A→C=「是正されなければ改善命令」〔実線=出せる権限〕

関係を整理します。丙省をA、N社をB、違反を続ける同種の会社をCとします。AはBに許可を与えていて、許可に関する権限を持っています。AからBへの「取組みに参加して」は、応じるかどうかを決めるのはBですから、点線です。ところが、この点線に、更新は難しいかも、という圧力が、重なっています。AからCへの「是正しなければ改善命令」は、出せる権限を実際に持っているので、実線です。この絵が今日の設例です。

今日の道順(1 権限が背景にあると何が起きるか/2 行政手続法34条を読む/3 禁じていないこと/4 給水拒否を指導の側から見直す/5 教育施設負担金の判決/6 二つの事件を並べる/7 地方公共団体の場面と最後の答え) 図:今日の道順

  • 1 権限が背景にあると何が起きるか
  • 2 行政手続法34条を読む
  • 3 禁じていないこと
  • 4 給水拒否を指導の側から見直す
  • 5 教育施設負担金の判決
  • 6 二つの事件を並べる
  • 7 地方公共団体の場面と最後の答え

道順です。一つ目、権限が背景にあると何が起きるか。二つ目、34条を全文で読み、部品にほどきます。三つ目、34条が禁じていないことです。四つ目、水道の給水拒否を、指導の側から見ます。五つ目、教育施設負担金の判決を、三つの段で読みます。六つ目、二つの事件を並べます。最後に、地方公共団体の場面と、丙省の設例の答えです。

権限が背景にあると、任意性が崩れる

構造(純粋な説得=圧力がなく、受け入れも断りも自由/権限を背景にした指導=従わなければ権限が発動されるかもしれない→諾否の自由が事実上ない/行政機関もそれを承知で効果的に指導しようとする/→相手方の自由への脅威/法の対応=行手法34条) 図:構造

  • 純粋な説得=圧力がなく、受け入れも断りも自由
  • 権限を背景にした指導=従わなければ権限が発動されるかもしれない→諾否の自由が事実上ない
  • 行政機関もそれを承知で効果的に指導しようとする
  • →相手方の自由への脅威
  • 法の対応=行手法34条

たとえ話から入ります。倉庫の鍵を握っている管理人がいるとします。管理人が、住民に言います。掃除当番に出ないなら、鍵はもう貸せなくなるかもしれませんね。規則には、当番に出ない人に鍵を貸さない、という定めはありません。それでも住民は、鍵が無いと困りますから、当番に出ます。純粋な説得なら、相手は圧力を感じずに、受け入れるか断るかを自由に決められます。ところが行政機関は、規制の権限を背景に指導する形になりがちです。受け手は、指導に従わなければ、その権限を使われるかもしれない、と考えます。そうなると、形は任意でも、断る自由は事実上ありません。しかも行政機関の側も、それを承知で、効果的に指導しようとします。これが相手方の自由への脅威で、法はこの類型について、34条を置きました。ここで、前回までの二つの線を思い出しておきます。行政指導は、相手の任意の協力によって成り立ちます。これが32条1項の後段です。そして、従わなかったことを理由に不利益に扱ってはなりません。これが32条2項です。34条は、これらと時点が違います。32条2項は、断った後の不利益の禁止です。34条は、断る前に、権限をちらつかせて圧力をかけることの禁止です。この違いは、後の節で、もう一度整理します。

⭐ 論文で書く規範:権限を背景にした指導は、形は任意でも、事実上の強制になりやすい。だから34条がある (短答・論文共通)

行政手続法34条を全文で読む

行政手続法34条(許認可等の権限に関連する行政指導)の全文と、5つの部品への区切り 図:行政手続法34条の全文と、5つの部品への区切り

条文を読みます。長い一文ですから、あとで部品にほどきます。

条文行政手続法34条

行政手続法第34条 許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。

部品は五つです。一つ目、許認可等をする権限、または、許認可等に基づく処分をする権限を持つ行政機関。許認可等は、許可や認可を出したり取り消したりすることを指します。ここには、許可を前提に出せる、取消しや停止の処分の権限も入ります。二つ目、その権限を、行使することができない場合、または、行使する意思がない場合です。三つ目、その場合にする行政指導です。四つ目、その権限を行使し得る旨を、殊更に示すことによって。五つ目、相手方に、その指導に従うことを余儀なくさせるようなことを、してはならない。34条の核心は、二つ目の部品による限定にあります。この条文は、権限を示すこと自体を禁じていません。権限を、行使できない、あるいは行使する気がない。それなのに、殊更に示して、従わせる。これが禁止です。殊更に、というのは、単に権限の存在を述べるのでなく、従わせる材料として強く押し出す、という語感です。設例の一つ目の場面に当てはめます。丙省は、N社の許可を取り消す理由が何もありません。更新を認めるかどうかも、許可を出すかどうかの判断ですから、一つ目の部品の、許認可等をする権限に入ります。取り消す理由がなく、更新の要件も満たしている会社ですから、更新を拒む理由もありません。つまり、権限を行使することができない場合です。それなのに、更新は難しいかもしれない、と示して、取組みへの参加を迫っています。N社は、参加を余儀なくされます。34条に当たります。

管理人は、鍵を貸さない権限を、規則の上で持っていません。持っていない権限を、ちらつかせて当番に出させています。この形が、34条の典型です。

⭐ 論文で書く規範:行手法34条=権限を行使できない・行使する意思がないのに、行使し得る旨を殊更に示して、指導に従うことを余儀なくさせてはならない。禁じるのは、できない、または行使する意思がないのに示すこと (短答・論文共通)

禁じていないこと、32条2項との読み分け

禁じていないこと(権限を行使できる+行使する意思がある場面で、その旨を伝えて是正を促すことは、34条に反しない/丙省とN社・同種の会社の2つの場面を並べる/場面1=取り消す理由なし・更新をほのめかす→②に当たり34条違反/場面2=改善命令を出せる要件を満たす・伝える→違反でない) 図:禁じていないこと

  • 権限を行使できる+行使する意思がある場面で、その旨を伝えて是正を促すことは、34条に反しない
  • 丙省とN社・同種の会社の2つの場面を並べる
  • 場面1=取り消す理由なし・更新をほのめかす→②に当たり34条違反
  • 場面2=改善命令を出せる要件を満たす・伝える→違反でない

冒頭の二つの場面に、答えを出します。二つ目の場面は、同種の会社が、許可の条件に違反し続けています。丙省は、改善命令を出せる要件を満たしています。この場合、是正されなければ改善命令を出します、と伝えることは、34条に反しません。権限を、行使できるからです。しかも、出す気もあります。分かれ目は、示した権限が、本当に使えるものかどうかです。鍵の管理人で言えば、規則に、違反者には鍵を貸さない、と書いてあるとします。その規則違反を続ける住民に、このままなら鍵は貸せなくなります、と告げる。これは、規則の定めの説明で、圧力ではありません。

読み分けの1枚(32条2項=指導に従わなかったことを理由に不利益に扱う〔事後〕/34条=権限を殊更に示して従わせる〔事前の圧力〕/是正指導のあと実際に改善命令を出す=理由は法令違反そのもの→32条2項にも反しない) 図:読み分けの1枚

  • 32条2項=指導に従わなかったことを理由に不利益に扱う〔事後〕
  • 34条=権限を殊更に示して従わせる〔事前の圧力〕
  • 是正指導のあと実際に改善命令を出す=理由は法令違反そのもの→32条2項にも反しない

32条2項との読み分けに入ります。その前に、前回までの復習を一問。32条2項が禁じるのは、指導に従わなかったことを理由とする、何でしたか?不利益な取扱い、です。ここで二つの条文を並べます。32条2項は、従わなかったことを理由に、不利益に扱うことを禁じます。いわば事後です。34条は、権限を殊更に示して従わせることを禁じます。いわば、断る前の圧力です。是正指導のあとに、実際に改善命令を出す場合を考えます。同種の会社が、是正に応じなかったので、改善命令を出した。これは、32条2項に反するでしょうか。反しません。命令の理由は、指導に従わなかったことではなく、法令違反そのものだからです。同じ言い方を、前に、法令違反だから処分する、という形で見ました。

一つの行為が、両方に当たることもありますか。あります。たとえば、取り消す理由がないのに、従わないなら許可を取り消す、と告げる。これは、できない権限を示していますから、34条に当たります。実際に、従わなかったことを理由に取り消せば、その取消しは32条2項にも当たります。ですから、暗記は二行で持ってください。34条は、できない、あるいは、する気がないのに示す。32条2項は、従わなかったことを理由にする。確認の問いです。同種の会社が許可の条件に違反しているとき、是正されなければ改善命令を出します、と伝えるのは、34条に反するでしょうか?

反しません。命令を出せる場面だからです。もう一つ、35条2項に触れておきます。権限を行使し得る旨を示すときは、その根拠条項、要件、そして、要件に当てはまる理由、の三つを、示さなければならない、と定められています。相手方が、権限が本当にあるのか、ちらつかせているだけなのか、判別できないためです。

給水拒否を、指導の側から見直す

給水拒否の決定の想起(水道事業者が、要綱に従わない事業者・購入者からの給水契約の申込みを拒絶/水道法15条1項違反で起訴された刑事事件/結論=要綱を守らせる圧力手段として給水を拒むことは、公序良俗違反を助長する事情がない限り「正当の理由」に当たらない) 図:給水拒否の決定の想起

  • 水道事業者が、要綱に従わない事業者・購入者からの給水契約の申込みを拒絶
  • 水道法15条1項違反で起訴された刑事事件
  • 結論=要綱を守らせる圧力手段として給水を拒むことは、公序良俗違反を助長する事情がない限り「正当の理由」に当たらない

ここからは、水を使った二つの事件です。まず復習を一問。水道事業者が、要綱を守らせる圧力手段として、給水を拒むことは、水道法の正当の理由に当たるでしょうか?当たらない、でした。この章の、給水契約の回で読んだ決定です。要綱に従わない事業者や購入者からの、給水契約の申込みを、水道事業者の側が拒みました。申込みを正当の理由なく拒むことを禁じる、水道法15条1項に違反するとして、刑事事件になりました。結論は、要綱を守らせる圧力手段として給水を拒むことは、公序良俗違反を助長する事情がない限り、正当の理由には当たらない、というものです。前に見たときは、水道法の読み方の側から見ました。今回は見方を変えて、指導の側から見ます。要綱に従わせたい行政が、手元にある別の権限、つまり水を、従わせるための圧力にした。これを、権限の連結と呼びます。

権限の連結(市=要綱〔宅地開発の指導〕→事業者/市の手元の別の権限=給水/要綱に従わなければ給水を拒む→権限が連結される/権限はそれぞれの法律の目的のために与えられている/水道=水を供給するための事業・宅地開発の要綱を守らせる目的のためには与えられていない) 図:権限の連結

  • 市=要綱〔宅地開発の指導〕→事業者
  • 市の手元の別の権限=給水
  • 要綱に従わなければ給水を拒む→権限が連結される
  • 権限はそれぞれの法律の目的のために与えられている
  • 水道=水を供給するための事業・宅地開発の要綱を守らせる目的のためには与えられていない

水道の権限を要綱のために使えないのは、権限は、それぞれの法律が、その法律の目的のために与えているからです。水道は、水を供給するための事業です。宅地開発の要綱を守らせるという別の目的のために、与えられた権限ではありません。給水契約の回で置いた決め手、要綱を守らせるという目的は、水道事業そのものの目的ではない、というのも、この考え方から出てきます。倉庫の鍵で言えば、鍵を貸すのは、倉庫を使いたい人に使わせるための仕事です。それを、自治会費を払わせるための道具にしてはいけない、ということです。水道法の枠の中で考えられる正当の理由は、たとえば、給水契約の回で見た、近い将来の水不足が確実な場合の大口の申込みのようなものです。水道法と直接関係のない指導への不服従を理由に、給水を拒むことはできません。もっとも、別の目的を持ち込めないという考えを、絶対の規範にはしません。決定は、公序良俗違反を助長する事情もない、という留保をつけていました。論じられているのは、水を出すことが、重大な違反を直接に後押しするような場合です。この留保は、忘れないでください。

要綱に従わせるための手段として、氏名の公表や、上下水道などのサービスの拒否は、法的な権限がない中で、行政指導の実効性を確保しようとした、地方公共団体なりの工夫です。しかし、実効性を高めようとすること自体が、不服従を理由とする不利益取扱いを禁じる、32条2項の趣旨にそぐわない面があります。従わなければ不利益が来る、という仕組みで指導を通そうとすれば、従わなかったことを理由に不利益に扱うのと、同じ働きをするからです。

教育施設負担金の判決

事案の前半(ある市〔マンション建築が相次ぎ、日照障害・騒音・学校等の不足で財政を圧迫〕/議会の全員協議会に諮って宅地開発等に関する指導要綱を制定/一定規模以上の事業主に公共施設の整備・費用負担を求める/教育施設負担金=15戸以上の建設計画で学校用地の提供または用地取得費の負担など〔計画が15〜113戸なら1戸につき54万4000円〕/従わない事業主には上下水道等必要な施設その他の協力を行わないことがある) 図:事案の前半

  • ある市〔マンション建築が相次ぎ、日照障害・騒音・学校等の不足で財政を圧迫〕
  • 議会の全員協議会に諮って宅地開発等に関する指導要綱を制定
  • 一定規模以上の事業主に公共施設の整備・費用負担を求める
  • 教育施設負担金=15戸以上の建設計画で学校用地の提供または用地取得費の負担など〔計画が15〜113戸なら1戸につき54万4000円〕
  • 従わない事業主には上下水道等必要な施設その他の協力を行わないことがある

次は、負担金の事件です。教育施設負担金の指導要綱の事件として、要綱の性質を見た回で、少しだけ触れた判決です。今回は本体を読みます。ある市では、マンションの建築が相次いで、日照の障害や騒音が生じ、学校なども足りなくなって、財政を圧迫していました。そこで市は、議会の全員協議会に諮って、宅地開発に関する指導要綱を定めます。一定規模以上の事業主に、公共施設の整備や、費用の負担を求める内容です。教育施設負担金は、その一つです。15戸以上の建設計画で、学校用地の提供か、用地を取得する費用の負担などを求めます。金額は、計画が15戸から113戸の場合、一戸につき54万4000円と定められていました。そして要綱は、従わない事業主に対しては、市は上下水道など必要な施設その他の協力を行わないことがある、とも定めていました。

事案の後半(運用=事前協議→負担金の寄付願を添えた事業計画承認願→審査会の承認→承認後20日以内に納付/承認書を建築確認申請書と一緒に出す流れ/要綱は定着し、従えない事業主は事実上開発を断念・ほぼ完全に遵守・減免の例もなし/別の建設会社が従わず着工→水道メーターの取付けを拒否→仮処分で給水が命じられ、和解で負担金相当額を支払う→再び従わず着工→給水契約を拒絶〔市長が起訴・有罪=先ほどの事件〕・報道された) 図:事案の後半

  • 運用=事前協議→負担金の寄付願を添えた事業計画承認願→審査会の承認→承認後20日以内に納付
  • 承認書を建築確認申請書と一緒に出す流れ
  • 要綱は定着し、従えない事業主は事実上開発を断念・ほぼ完全に遵守・減免の例もなし
  • 別の建設会社が従わず着工→水道メーターの取付けを拒否→仮処分で給水が命じられ、和解で負担金相当額を支払う→再び従わず着工→給水契約を拒絶〔市長が起訴・有罪=先ほどの事件〕・報道された

運用の実態です。事業主は、事前に市と協議をして、負担金の寄付願を添えた事業計画の承認願を、市長に出します。審査会が承認すると、承認から20日以内に納付します。承認書は、建築確認の申請書と一緒に出す流れでした。要綱は年を追って定着して、従えない事業主は、事実上、開発を断念せざるをえませんでした。ほぼ完全に守られ、減免や分納の例もありませんでした。例外が、一つの建設会社です。この会社が従わずに着工したところ、市は、水道メーターの取付けを拒否しました。仮処分、つまり裁判所の仮の命令で給水が命じられ、裁判上の和解で、負担金に相当する額を支払います。次に再び従わずに着工すると、市は給水契約の締結や下水道の使用を拒み、入居者からの給水の申込みも拒否しました。その結果、市長が水道法15条1項違反で起訴され、有罪になりました。さきほどの決定の事件です。これは新聞などで報道されました。

本件の事案(事業主〔故人〕が賃貸マンション〔3階建〕を計画/設計事務所の代表者から負担金1523万2000円の寄付が必要と聞き、強い不満/市の担当者に減免・延納を懇請→「前例がない」と拒絶/同じ代表者が、要綱に従わないと上下水道が使えず建てられなくなると説明/やむなく寄付願を提出→承認→建築確認→納付/遺族が提訴/原審=違法とはいえない・請求棄却/最高裁=予備的請求〔国家賠償〕部分を破棄差戻し・その余の上告棄却) 図:本件の事案

  • 事業主〔故人〕が賃貸マンション〔3階建〕を計画
  • 設計事務所の代表者から負担金1523万2000円の寄付が必要と聞き、強い不満
  • 市の担当者に減免・延納を懇請→「前例がない」と拒絶
  • 同じ代表者が、要綱に従わないと上下水道が使えず建てられなくなると説明
  • やむなく寄付願を提出→承認→建築確認→納付
  • 遺族が提訴
  • 原審=違法とはいえない・請求棄却
  • 最高裁=予備的請求〔国家賠償〕部分を破棄差戻し・その余の上告棄却

本件です。事業主は、賃貸マンションを計画しました。亡くなった本人の事業主を、Fと呼びます。設計事務所の代表者から、負担金として1523万2000円の寄付が必要だと聞いて、強い不満を持ちました。市の担当者に、減免や延納を頼みましたが、前例がないと断られました。そのうえで、その代表者から、要綱に従わないと、上下水道が使えず、マンションが建てられなくなる、と説明されます。やむなく寄付願を出して承認を得て、建築確認がされ、負担金を納めました。遺族が提訴しました。ここで、つまずきやすい点が、二つあります。一つ目、最高裁が破棄して差し戻したのは、国家賠償を求めた部分です。二つ目、原審は、違法とはいえないとして請求を退けましたが、最高裁は、その部分を破棄して、差し戻しました。差し戻しは、原審の裁判所に、審理をやり直させることです。つまり、要綱が無効だと言った判決ではありません。判決を読む場所は三つです。まず、前提の段です。

判例最判平5・2・18 民集47巻2号574頁

負担金の納付を求めること自体は、任意性を損なわない限り違法ではない 前記1(一)の指導要綱制定に至る背景、制定の手続、被上告人が当面していた問題等を考慮すると、行政指導として教育施設の充実に充てるために事業主に対して寄付金の納付を求めること自体は、強制にわたるなど事業主の任意性を損うことがない限り、違法ということはできない。

カードの被上告人は、市のことです。ここで言っているのは、寄付を求めること自体は、違法ではない、ということです。市が、学校の不足などの問題を抱えていて、要綱を議会の協議を経て定めた。そういう背景のもとでは、お金の協力を頼む行為そのものは、とがめられません。ただし、強制にわたって、任意性を損なえば、話は別です。二つ目の段です。要綱が法令の根拠に基づかない点は、すでに見ました。その次の段階、運用の実態を見たうえでの当てはめです。

判例最判平5・2・18 民集47巻2号574頁

運用の実態から見ると、市は制裁措置を背景に要綱を守らせようとしていた 右のような指導要綱の文言及び運用の実態からすると、本件当時、被上告人は、事業主に対し、法が認めておらずしかもそれが実施された場合にはマンション建築の目的の達成が事実上不可能となる水道の給水契約の締結の拒否等の制裁措置を背景として、指導要綱を遵守させようとしていたというべきである。

給水を拒むことは、水道法が認めていません。その措置を背景に、要綱を守らせようとしていた、と判決は言っています。しかも、その措置が実施されると、マンションを建てるという目的が、事実上達成できなくなります。重い不利益です。三つ目の、結論の段です。カードの中の省略の記号は、指導要綱に基づく行政指導が、市民の生活環境を守る目的で、多くの住民に支持されていたことを考えても、という挿入句です。

判例最判平5・2・18 民集47巻2号574頁

負担金の納付を事実上強制しようとしたもので、行政指導の限度を超え、違法な公権力の行使である 被上告人がFに対し指導要綱に基づいて教育施設負担金の納付を求めた行為も、被上告人の担当者が教育施設負担金の減免等の懇請に対し前例がないとして拒絶した態度とあいまって、Fに対し、指導要綱所定の教育施設負担金を納付しなければ、水道の給水契約の締結及び下水道の使用を拒絶されると考えさせるに十分なものであって、マンションを建築しようとする以上右行政指導に従うことを余儀なくさせるものであり、Fに教育施設負担金の納付を事実上強制しようとしたものということができる。……右行為は、本来任意に寄付金の納付を求めるべき行政指導の限度を超えるものであり、違法な公権力の行使であるといわざるを得ない。

カードの被上告人は市、Fは事業主のことです。結論の筋道は、こうです。水道の給水契約を拒まれ、下水道も使えないと考えさせるに十分で、しかも担当者が前例がないと減免を拒んだ。マンションを建てようとする以上、指導に従うことを余儀なくさせた。だから、事実上の強制です。そして、本来任意に求めるべき行政指導の限度を超えて、違法な公権力の行使である、と判断しました。なぜ限度を超えると違法なのか。行政指導は、もともと相手の任意の協力によってだけ成り立つものです。従うほかない状態に追い込めば、それはもう指導ではなく、法律の根拠のない強制になるからです。

判決の読み方(①寄付を求めること自体は適法〔任意性を損なわない限り〕②しかし、水道の給水契約の締結拒否等の制裁措置を背景にしていた〔法が認めない措置〕③その措置が実施されると建築の目的が事実上不可能・運用の実態〔従えば開発断念・従わなかった事業主は1社だけで、実際に給水を拒否され報道された〕④担当者が「前例がない」と減免を拒んだ態度〔任意の寄付として求める姿勢が見えない〕⑤→従うことを余儀なくさせ、事実上強制しようとした⑥→行政指導の限度を超え、国家賠償法上の違法な公権力の行使) 図:判決の読み方

論文の骨格として、判決を六つの手順で持ってください。一つ目、寄付を求めること自体は適法。二つ目、しかし、水道の給水契約の拒否などの制裁措置を背景にしていた。三つ目、その措置が実施されると、建築の目的が事実上不可能になる。運用の実態も、従えば開発を断念し、従わなかった会社は実際に給水を拒まれた。四つ目、担当者が前例がないと減免を拒んだ態度も、任意の寄付として求める姿勢が見えない。五つ目、だから、従うことを余儀なくさせ、事実上強制しようとした。六つ目、行政指導の限度を超え、国家賠償法上の、違法な公権力の行使にあたる。

この判決には、34条の話は出てこないんですか。出てきません。この判決は、行政手続法ができる前のものです。ですから、判決に34条を当てはめて語ることはしません。ただ、制裁措置を背景に、余儀なくさせる、という考え方は、のちに34条が条文にした考え方と、同じ筋にあります。そう置いてください。もう一つ。国家賠償法1条は、公権力の行使に当たる公務員が、故意又は過失によって違法に損害を加えたとき、国や公共団体が賠償する、と定めています。判決の、違法な公権力の行使、という言葉は、この条文の言葉です。その「公権力の行使」に行政指導が入るのか、という点は、別の回で扱います。今日は、国家賠償で違法とされた、というところまでです。確認です。寄付や負担金を求めること自体は、違法でしょうか?

任意性を損なわない限り、違法ではありません。水を背景にして、任意を損なったから違法になった、というのが、この判決の筋です。

二つの事件を並べる

二つの事件の比較表(行:争われ方/違法とされた行為/共通/列:給水拒否の決定・負担金の判決/争われ方=水道法違反の刑事事件・国家賠償の民事/違法とされた行為=水を断ったこと〔15条1項の正当の理由に当たらない〕・水を背景に金銭を求めたこと〔行政指導の限度を超える〕/共通=水の権限を、別の目的の指導に従わせる圧力にした) 図:二つの事件の比較表

  • 行:争われ方
  • 違法とされた行為
  • 共通
  • 列:給水拒否の決定・負担金の判決
  • 争われ方=水道法違反の刑事事件・国家賠償の民事
  • 違法とされた行為=水を断ったこと〔15条1項の正当の理由に当たらない〕・水を背景に金銭を求めたこと〔行政指導の限度を超える〕
  • 共通=水の権限を、別の目的の指導に従わせる圧力にした

二つの事件を並べます。給水拒否の決定は、水道法違反の刑事事件でした。違法とされたのは、水を断ったことです。15条1項の、正当の理由に当たらないとされました。負担金の判決は、国家賠償の民事です。違法とされたのは、水を背景に、金銭を求めたことです。行政指導の限度を超えるとされました。共通点は、水の権限を、要綱という別の目的の指導に従わせる圧力にした、ということです。つながっています。水を、要綱を守らせる圧力として拒むことは、15条1項の正当の理由がなく許されない。だから、その拒否は、制裁措置として使えない。使えない制裁を背景に、お金を求めれば、相手の任意性を損なう。この一本の線で、負担金の判決は、先ほどの決定を前提にしています。

権限の連結が議論される場面(違法建築への給水=最高裁の判断として覚えない・公序良俗違反を助長する事情の余地/税の滞納と給水停止=別の回で扱う/申込みの受理の留保の例=前回見た) 図:権限の連結が議論される場面

  • 違法建築への給水=最高裁の判断として覚えない・公序良俗違反を助長する事情の余地
  • 税の滞納と給水停止=別の回で扱う
  • 申込みの受理の留保の例=前回見た

権限の連結が議論になる場面を、名前だけ挙げます。一つ目、違法な建築への給水です。給水を拒む事情として、決定が残した、公序良俗違反を助長する、という留保の余地があります。ただし、違法な建築なら拒める、と最高裁が判断したわけではありません。余地が論じられる、までです。二つ目、税の滞納と給水停止。これは、別の回で扱います。三つ目、申込みを受け取らない型の例は、前回、ある市の給水課長の事案で見ました。ここでは、見直しません。

地方公共団体の場面と最後の答え

適用範囲の線(国の機関の行政指導=行手法第4章〔32条〜36条の2〕が適用される・34条もそのまま当たる/地方公共団体の機関の行政指導=3条3項により適用されない→その団体の行政手続条例による〔多くが同趣旨の定め〕/給水拒否・負担金は市の事案で、行手法より前の事件) 図:適用範囲の線

  • 国の機関の行政指導=行手法第4章〔32条〜36条の2〕が適用される・34条もそのまま当たる
  • 地方公共団体の機関の行政指導=3条3項により適用されない→その団体の行政手続条例による〔多くが同趣旨の定め〕
  • 給水拒否・負担金は市の事案で、行手法より前の事件

最後に、適用範囲の線です。地方公共団体の機関がする行政指導には、行政手続法の指導の規定、つまり32条から36条の2までが、適用されません。3条3項です。条文は、前回、全文で読みました。地方の自治を重んじたうえで、指導は根拠が無くても行えるので、根拠ごとに切り分けられません。そこで、地方の機関の指導はまとめて外し、その団体が自分で定める、行政手続条例に任せたのです。ですから、今日の二つの事件は、どちらも市の事案で、しかも行政手続法ができる前の事件です。34条を当てはめる事例では、そもそもありません。34条は、いわば、使えない権限を背景に、従うことを余儀なくさせてはいけない、という考え方を条文にしたものです。その34条が直接当たるのは、国の機関の指導です。今の市町村が同じことをした場合は、その団体の条例で読みます。多くの行政手続条例は、同じ趣旨の定めを置いています。

ここまでを踏まえて、冒頭の問いに答えます。

今日の答え(丙省・N社=①権限を握る相手の指導は、断ると権限を使われるかもしれず任意性が崩れる→34条②できない・する気がないのに殊更に示して従わせるのが禁止/出せる場面で是正を促すのは可〔根拠・要件・理由を示す=次回〕③水を背景にした要綱の履行確保=決定では水道法違反〔刑事〕・判決では行政指導の限度超過〔国家賠償〕/場面1=34条違反・場面2=違反でない) 図:今日の答え

  • 丙省・N社=①権限を握る相手の指導は、断ると権限を使われるかもしれず任意性が崩れる→34条②できない・する気がないのに殊更に示して従わせるのが禁止
  • 出せる場面で是正を促すのは可〔根拠・要件・理由を示す=次回〕③水を背景にした要綱の履行確保=決定では水道法違反〔刑事〕・判決では行政指導の限度超過〔国家賠償〕
  • 場面1=34条違反・場面2=違反でない

一つ目の問い。権限を持つ相手の「お願い」は、なぜ断りにくいのか。断ると、権限を使われるかもしれないからです。形は任意でも、事実上の強制になります。だから34条があります。二つ目の問い。どこから許されないのか。丙省が、取り消す理由がないのに、更新は難しいかもしれない、とほのめかして、取組みへの参加を迫るのは、できない権限を殊更に示す形で、34条に当たります。他方、同種の会社に、是正されなければ改善命令を出す、と伝えるのは、出せる権限を伝えるだけで、34条に反しません。是正の指導のあとに命令を出しても、理由は法令違反そのものですから、32条2項にも反しません。三つ目の問い。水を圧力に使った二つの事件はどう裁かれたか。給水拒否は、水道法の正当の理由がなく、刑事事件として違法でした。負担金は、水を背景に任意性を損ない、国家賠償で、行政指導の限度を超えると判断されました。

今日のまとめ(つまずきどころ=①34条は権限を示すこと自体を禁じていない(できない・する意思がないのに示すのが禁止)②寄付・負担金を求めること自体は違法でない③負担金の判決は国家賠償で行政指導が違法とされた判決で、要綱が無効と言った判決ではない④市の事案に34条を直接当てない) 図:今日のまとめ

つまずきどころを四つ、確認します。一つ目、34条は、権限を示すこと自体を禁じていません。できない、または行使する意思がないのに、殊更に示すのが禁止です。二つ目、寄付や負担金を求めること自体は違法ではありません。任意性を損なう制裁を背景にしたから、違法になりました。三つ目、負担金の判決は、国家賠償で行政指導が違法とされた判決で、要綱が無効だと言った判決ではありません。四つ目、市の事案には、34条を直接当てません。

参照条文

  • 行政手続法34条

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