行政法ゼロから行政法#96

強制徴収・直接強制・執行罰

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第7章 行政調査・義務履行確保・行政罰 #96/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

代執行で届かない義務

設例(A町=行政/B=下水道使用料と町営住宅の家賃を滞納/C=A町の営業停止命令に従わない店/3つ目=建物からの立退きのように本人がするしかないことをしない人/問い=代執行では届かない3つの義務に、行政は何で応じるか) 図:設例

  • A町=行政
  • B=下水道使用料と町営住宅の家賃を滞納
  • C=A町の営業停止命令に従わない店
  • 3つ目=建物からの立退きのように本人がするしかないことをしない人
  • 問い=代執行では届かない3つの義務に、行政は何で応じるか

前回までに見た代執行は、他人が代わってできる作為、つまり代替的作為義務にしか使えませんでした。今日は、代執行では届かない義務を、行政がどうやって守らせるのかを見ます。場面を3つ並べます。1つ目、A町の下水道使用料や、町営住宅の家賃を、滞納するBがいます。お金を払う義務です。2つ目、営業停止命令に従わず、店を開け続けるCがいます。やめるという、しない義務です。3つ目、建物からの立退きのように、本人がするしかないことを、しない人がいます。廃材は、業者が代わりに運べました。お金を払うことも、店を閉めることも、代わりの人に運んでもらうわけにはいきません。そこで、代執行以外の3つの手段が出てきます。強制徴収、直接強制、執行罰です。どれが使えるかは、まず、守らせたい義務の種類で決まります。

今日の3つの問い(問い1=下水道使用料の滞納者から取り立てるのに裁判は要るか・町営住宅の家賃の滞納ではどうか/問い2=営業停止命令に従わない店の戸口を行政は閉鎖できるか/問い3=従うまで繰り返し過料を科す手段は現行法に有るか) 図:今日の3つの問い

  • 問い1=下水道使用料の滞納者から取り立てるのに裁判は要るか・町営住宅の家賃の滞納ではどうか
  • 問い2=営業停止命令に従わない店の戸口を行政は閉鎖できるか
  • 問い3=従うまで繰り返し過料を科す手段は現行法に有るか

問いは3つです。1つ目、A町が下水道使用料の滞納者から取り立てるのに、裁判を起こす必要はあるのか。町営住宅の家賃の滞納では、どうか。2つ目、営業停止命令に従わない店の戸口を、行政は閉鎖できるのか。3つ目、従うまで繰り返し過料を科す、という手段は、現行法に有るのか。答えは最後に回収します。

強制徴収——国税の流れ

国税の強制徴収の流れ(納税の告知または申告→納期限→①督促〔国税通則法37条1項〕→10日経過→②差押え〔国税徴収法47条1項〕→③換価〔同89条以下〕→④配当〔同128条以下〕/差押え・換価・配当=滞納処分(督促はその前の段)/判決は要らない) 図:国税の強制徴収の流れ

  • 納税の告知または申告→納期限→①督促〔国税通則法37条1項〕→10日経過→②差押え〔国税徴収法47条1項〕→③換価〔同89条以下〕→④配当〔同128条以下〕
  • 差押え・換価・配当=滞納処分(督促はその前の段)
  • 判決は要らない

まず、金銭の支払義務です。前に見たとおり、強制徴収は、行政が自分で滞納者の財産を差し押さえて、取り立てる手段でした。典型は国税の徴収で、手続の根拠は、国税通則法と国税徴収法です。設例です。個人事業を営むDが、申告した所得税を、納期限までに納めません。ここから、段を追います。入口は、納税の告知か申告です。納税の告知は、賦課課税方式、つまり税務署が税額を決めて知らせる方式の国税などについて行われます。Dのように、自分で税額を申告する国税は、申告した税額が納期限までに納まらないところから、話が始まります。入口の違いは、ここまでにして、本線は督促以降です。1段目が督促です。納期限を過ぎても納まらないとき、督促状で納付を促します。根拠は、国税通則法の37条1項です。2段目が差押えです。督促状を発した日から10日たっても完納されないと、徴収職員は財産を差し押さえます。3段目が換価です。差し押さえた財産を、公売などで売って、お金に換えます。4段目が配当です。売ったお金を、債権者に配ります。督促のあとの、差押え、換価、配当の一連の手続を、滞納処分と呼びます。前に見た、財産を差し押さえて取り立てる手続です。

10日の猶予があります。まず、督促から10日たったあとに、税務署長が滞納処分を行う、という定めを読みます。国税通則法の40条です。

条文国税通則法40条

国税通則法第40条 税務署長は、第三十七条(督促)の規定による督促に係る国税がその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納されない場合、第三十八条第一項(繰上請求)の規定による請求に係る国税がその請求に係る期限までに完納されない場合その他国税徴収法に定める場合には、同法その他の法律の規定により滞納処分を行なう。

差押えの根拠は、国税徴収法の47条1項です。

条文国税徴収法47条1項

国税徴収法第47条第1項 次の各号の一に該当するときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない。 一 滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき。 二 納税者が国税通則法第三十七条第一項各号(督促)に掲げる国税をその納期限(繰上請求がされた国税については、当該請求に係る期限)までに完納しないとき。

号は、ほかにもあります。中心は1号です。注目は、差し押さえることができる、ではなく、差し押えなければならない、という書き方です。ここで問いです。Dが、督促状を受けて10日たっても払わないとします。次に、行政は何ができるでしょうか。判決は要りません。ここが、強制徴収の核心です。行政が、裁判所を通さずに、自分で差押えと換価まで進められます。民間の貸し借りなら、勝手に相手の財産を持っていくのは、自力救済として禁じられていました。強制徴収は、その禁止に対する、法律が認めた例外です。設例に当てはめます。Dの預金や売掛金が差し押さえられ、差し押さえた財産が換価されて、国税に充てられます。前回、代執行の費用は、行政代執行法6条1項で、国税滞納処分の例により徴収できる、と読みました。あの「例による」で借りてくる手続が、今見た、督促から配当までの流れです。

他の金銭債権と強制徴収

「国税滞納処分の例による」と書かれた債権(地方税=国税徴収法の滞納処分の例/国民年金の保険料その他の徴収金=国民年金法95条「国税徴収の例によつて徴収する」/代執行の費用=行政代執行法6条1項/分担金・加入金・過料・法律で定める使用料=地方自治法231条の3第3項) 図:「国税滞納処分の例による」と書かれた債権

  • 地方税=国税徴収法の滞納処分の例
  • 国民年金の保険料その他の徴収金=国民年金法95条「国税徴収の例によつて徴収する」
  • 代執行の費用=行政代執行法6条1項
  • 分担金・加入金・過料・法律で定める使用料=地方自治法231条の3第3項

国税以外の金銭債権はどうでしょうか。国や自治体が持つ債権は、国税ではありません。そのままでは、国税徴収法は使えません。強制徴収が使えるのは、法律が、国税滞納処分の例による、国税徴収の例による、などと書いたときだけです。国税の手続を借りる、という意味です。債権ごとに手続を作り直さず、督促、差押え、換価、配当という、国税の型を、そのまま使います。例を並べます。地方税は、国税徴収法の滞納処分の例によります。国民年金の保険料その他の徴収金は、国民年金法95条が、国税徴収の例によって徴収すると定めます。代執行の費用は、さきほどの行政代執行法6条1項です。自治体の、地方税以外の債権には、地方自治法231条の3第3項があります。

条文地方自治法231条の3第3項

地方自治法第231条の3第3項 普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入(以下この項及び次条第一項において「分担金等」という。)につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該分担金等並びに当該分担金等に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。この場合におけるこれらの徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。

3項の行き先と下水道使用料(分担金・使用料なども督促して払わなければ地方税と同じ手続→国税徴収法の手続に行き着く/分担金=特定の人が得をする事業の費用をその人たちから集めるお金/下水道使用料=下水道法20条が徴収を定め・地方自治法附則6条3号が3項の対象に挙げる→督促のうえ滞納処分の例) 図:3項の行き先と下水道使用料

  • 分担金・使用料なども督促して払わなければ地方税と同じ手続→国税徴収法の手続に行き着く
  • 分担金=特定の人が得をする事業の費用をその人たちから集めるお金
  • 下水道使用料=下水道法20条が徴収を定め・地方自治法附則6条3号が3項の対象に挙げる→督促のうえ滞納処分の例

つまり、自治体の使用料なども、督促しても払わなければ、地方税と同じ手続で取り立てられる、ということです。地方税の滞納処分は、国税徴収法の滞納処分の例によりますから、結局は、さきほどの国税徴収法の手続に行き着きます。条文に並ぶ分担金は、前に見たとおり、特定の人が得をする事業の費用を、その人たちから集めるお金です。法律で定める使用料の一つが、下水道使用料です。下水道法20条が使用料の徴収を定め、地方自治法の附則6条3号が、この使用料を、いま読んだ3項の対象に挙げています。設例のA町が、下水道使用料を滞納したBから取り立てるときは、督促をしたうえで、滞納処分の例により進められます。

専用の窓口と一般の窓口(水道料金・公営住宅の家賃=強制徴収を認める規定なし→民事訴訟/強制徴収の道がある債権=民事訴訟・民事執行で取り立てられない〔決め手=立法の趣旨・簡易迅速な取立ての手段〕/家賃=判決を得てから強制執行) 図:専用の窓口と一般の窓口

  • 水道料金・公営住宅の家賃=強制徴収を認める規定なし→民事訴訟
  • 強制徴収の道がある債権=民事訴訟・民事執行で取り立てられない〔決め手=立法の趣旨・簡易迅速な取立ての手段〕
  • 家賃=判決を得てから強制執行

使用料に似ていても、ここに線引きがあります。上水道の水道料金や、公営住宅の家賃は、公の施設を使う対価ですが、下水道使用料の附則のような、強制徴収を認める規定が、置かれていないとされます。規定が無いので、自治体は、民事訴訟で回収します。ここで、前に見た最高裁の大法廷判決を、思い出してください。強制徴収の道が法律で用意されている債権は、民事訴訟や民事執行で取り立てることができない、という判断でした。決め手は、立法の趣旨です。法は、税金に準じた、簡易迅速な取立ての手段を、わざわざ与えました。それを使わずに、一般の債権と同じ訴えに進むのは、趣旨に反する、という理屈でした。専用の窓口があれば、一般の窓口は使えない、という言い方でした。では、専用の窓口が与えられていない債権は、どうか。前に見た、町が貸した住宅資金の返済と同じで、一般の窓口、つまり民事訴訟で取り立てます。下水道使用料は、専用の窓口があるので、判決の考え方では、訴えは許されません。家賃には、専用の窓口が無いので、訴えて判決を得て、民事執行へ進みます。ここで問いです。A町は、町営住宅の家賃を滞納した人の財産を、自分で差し押さえられるでしょうか。

強制徴収の規定が無いので、自分では差し押さえられないと思います。自分で差し押さえる根拠が無いので、ふつうの債権者と同じく、裁判所で判決を得てから、強制執行に進むしかありません。

債権の例×強制徴収の可否(国税・地方税・国民年金の保険料・分担金・下水道使用料=強制徴収〔判決の考え方では訴えは不可〕/水道料金・公営住宅の家賃=強制徴収の定めなし→民事訴訟→判決→民事執行) 図:債権の例×強制徴収の可否

  • 国税・地方税・国民年金の保険料・分担金・下水道使用料=強制徴収〔判決の考え方では訴えは不可〕
  • 水道料金・公営住宅の家賃=強制徴収の定めなし→民事訴訟→判決→民事執行

一覧にします。国税、地方税、国民年金の保険料、分担金、下水道使用料は、強制徴収です。水道料金と、公営住宅の家賃は、民事訴訟です。迷ったら、条文に「例による」の一句があるか、で見分けます。

強制徴収の現場

強制徴収の現場(制度はあるが動かない/原因=①強硬な取立てがためらわれる②人員の不足③ノウハウの蓄積がほとんど無い/民事訴訟で回収する債権〔公営住宅の滞納家賃など〕も円滑に使われているとは言えない) 図:強制徴収の現場

  • 制度はあるが動かない
  • 原因=①強硬な取立てがためらわれる②人員の不足③ノウハウの蓄積がほとんど無い
  • 民事訴訟で回収する債権〔公営住宅の滞納家賃など〕も円滑に使われているとは言えない

制度があっても、現場で動いているとは限りません。地方税、とくに固定資産税の徴収では、強制徴収が、制度ほどには使われていない、という指摘があります。挙げられる原因は、3つです。まず、職員が強硬な取立てをするのが、ためらわれること。顔見知りの町民の預金を差し押さえるのは、気が重いものです。2つ目、人員が足りないこと。最後に、ノウハウの蓄積が、ほとんど無いことです。では、強制徴収ではない債権のほうは順調かというと、そうでもありません。公営住宅の滞納家賃などの、民事訴訟で回収する債権も、円滑に訴訟が使われているわけではない、と言われます。行政上の債権を、早く確実に回収するという問題意識が薄く、回収の制度全体の改善が必要だ、という見方です。金銭の支払義務でさえ、こうです。では、金銭以外の義務はどうか。次の節で、直接強制を見ます。

直接強制

直接強制(定義=義務者の身体または財産に直接有形力を行使し義務が履行されたのと同じ状態を実現/使える義務=代替的作為・非代替的作為・不作為のすべて/戦後は一般法に置かれず個別法もごくわずか) 図:直接強制

  • 定義=義務者の身体または財産に直接有形力を行使し義務が履行されたのと同じ状態を実現
  • 使える義務=代替的作為・非代替的作為・不作為のすべて
  • 戦後は一般法に置かれず個別法もごくわずか

前回までに見た、他人が代わってできる作為とは何でしたか? 営業をやめない店に、代執行は使えたでしょうか?廃材の山のように、代わってできる作為が、代替的作為義務でした。営業をやめるのは、しない義務なので、代執行は使えませんでした。そこで直接強制です。定義を深めます。義務者の身体または財産に、直接、有形力、つまり物理的な力を加えて、義務が履行されたのと同じ状態を、つくり出す手段です。特徴は、義務の種類を問わないことです。代替的作為義務、非代替的作為義務、しない義務の、どれにでも使えます。廃材の撤去のような義務にも、立退きのような義務にも、営業をやめる義務にも、向けられる手段です。代替的作為義務にも使えるので、代執行と対象が重なります。身体や財産に実力を加える点で、相手への影響が大きい手段です。ところが、法律にはほとんど置かれていません。戦前の旧行政執行法は、厳格な要件のもとで、直接強制を認めていました。しかし、国民の身体に強制を加えたり、財産を壊したりするので、人権侵害のおそれが高いとされ、戦後は一般法に置かれませんでした。現在これを認める法律は、ごくわずかです。その数少ない例を、2つ見ます。

条文成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条1項

成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法第3条第1項 国土交通大臣は、規制区域内に所在する建築物その他の工作物について、その工作物が次の各号に掲げる用に供され、又は供されるおそれがあると認めるときは、当該工作物の所有者、管理者又は占有者に対して、期限を付して、当該工作物をその用に供することを禁止することを命ずることができる。 一 多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用 二 暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用 三 成田国際空港又はその周辺における航空機の航行に対する暴力主義的破壊活動者による妨害の用

1つ目は、成田新法です。1項で、大臣が工作物の使用の禁止を、期限を付けて命じます。

条文成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条8項

成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法第3条第8項 国土交通大臣は、第一項の禁止命令に係る工作物が当該命令に違反して同項各号に掲げる用に供されている場合においては、当該工作物の現在又は既往の使用状況、周辺の状況その他諸般の状況から判断して、暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれが著しいと認められ、かつ、他の手段によつては同項の禁止命令の履行を確保することができないと認められるときであつて、第一条の目的を達成するため特に必要があると認められるときに限り、当該工作物を除去することができる。

8項です。その命令に違反しているとき、他の手段によっては履行を確保できないなど、特に必要があるときに限って、工作物を除去できます。1項の命令は、工作物を使うな、というしない義務で、壊せという命令ではありません。命令という義務が先にあり、それが守られないときに、実力で状態を実現する。直接強制の例です。要件が厳しく絞られている点が、要所です。

条文学校施設の確保に関する政令21条

学校施設の確保に関する政令第21条 この政令の規定により命ぜられ、又はこの政令の規定に基いて管理者により命ぜられた行為を義務者が履行しない場合において、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)による代執行によつては義務の履行を確保することができないときは、管理者は、直接にこれを強制することができる。 行政代執行法第三条及び第四条の規定は、前項の規定により直接強制をする場合に準用する。

2つ目は、学校施設の確保に関する政令21条です。名前は政令ですが、法律と同じ効力を持つものとされています。代執行ではうまくいかないときに、管理者が直接に強制できる、という定めです。ここでの直接強制は、代執行が使えない、または足りないときに、はじめて出番が来る手段です。

店Cの戸口(営業停止命令=しない義務→代執行は使えない/直接強制を認める個別の法律が無い→閉鎖できない/残るのは罰則/成田新法の工作物との違い=実力を認める個別の法律の有無) 図:店Cの戸口

  • 営業停止命令=しない義務→代執行は使えない
  • 直接強制を認める個別の法律が無い→閉鎖できない
  • 残るのは罰則
  • 成田新法の工作物との違い=実力を認める個別の法律の有無

さて、営業停止命令の店Cに戻ります。ここで問いです。営業停止命令に従わない店の戸口を、行政が閉鎖できるでしょうか。できません。営業をやめるのは、しない義務で、代執行は使えません。そして、直接強制を認める個別の法律が、無いからです。直接強制は、人権への侵害が大きいと考えられ、一般法に置かれませんでした。個別の法律が無ければ、使えません。前に見たとおり、強制する根拠は、法律でなければならないからです。残るのは、罰則、つまり刑罰による担保です。前に見た結論の、理由はここにあります。成田新法の工作物も、店Cも、やめろという命令に従わない点は同じです。違いは、実力を認める個別の法律が、あるかどうかです。

直接強制の立法論(民事執行では直接的で効果的な方法/物の引渡し・明渡しは一律に否定する理由が見当たらない/入口の閉鎖程度は実務上の必要が高い/刑事罰に代えて整備する余地) 図:直接強制の立法論

  • 民事執行では直接的で効果的な方法
  • 物の引渡し・明渡しは一律に否定する理由が見当たらない
  • 入口の閉鎖程度は実務上の必要が高い
  • 刑事罰に代えて整備する余地

戸口の閉鎖のような実力の必要は、立法論としても指摘されています。民事執行では、直接強制は、直接的で効果的な方法と理解されています。物の引渡しや、土地建物の明渡しのように、民事の事例に近いものは、行政の場面でも一律に否定する実質的な理由が見当たらない、と言われます。不作為義務は、刑事罰で間接的に担保するのが通例です。しかし、刑事罰の抑止効果に頼っても、行政目的の達成の面では、期待どおりとは限りません。入口の閉鎖程度は、実務上の必要が高く、利益の比較の面でも許されうる、との見方もあります。目的との関係で合理性があれば、刑事罰に代えて直接強制を整備する余地もあると考えられています。前に見た、庁舎のような施設の明渡しにも、執行罰や直接強制の規定が無く、形式の線引きだけでなく、実態に合った措置かを論じるべきだ、という指摘も、同じ流れの話です。

立法されない直接強制の行き先(必要は即時強制でまかなわれる=義務を課さずに実力/義務を前提とする直接強制のほうが穏当→いびつとの批判) 図:立法されない直接強制の行き先

  • 必要は即時強制でまかなわれる=義務を課さずに実力
  • 義務を前提とする直接強制のほうが穏当→いびつとの批判

必要があるのに立法されないと、どうなるか。必要は、即時強制の形でまかなわれています。即時強制は、義務を課さずに実力を使う手段で、前に見た守らせる手段の地図でいうと、3つ目の方向でした。前回見た、簡易代執行から即時強制の立法が増えている、という流れとも、つながります。ただ、義務の存在を前提とする直接強制のほうが、相手にとって穏当なはずです。それを避けて即時強制に流れる現状は、いびつだ、という批判があります。

条例の可否(直接強制=義務の履行確保の手段→行政代執行法1条により条例では作れない/即時強制=義務を前提としない→同法の射程の外→条例で作れると解される/つまり直接強制は作れず即時強制は作れる→不均衡) 図:条例の可否

  • 直接強制=義務の履行確保の手段→行政代執行法1条により条例では作れない
  • 即時強制=義務を前提としない→同法の射程の外→条例で作れると解される
  • つまり直接強制は作れず即時強制は作れる→不均衡

条例との関係では、もっといびつな点があります。行政代執行法1条を、全文で読み直します。

条文行政代執行法1条

行政代執行法第1条 行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。

義務の履行確保の手段は、法律で定めるものを除き、この法律の定めによる。前に見たとおり、2条の「法律」には、条例を含む、という括弧書きがあり、1条には、それがありません。ですから、1条の法律に条例は含まれない、と解されています。直接強制は、義務の履行確保の手段です。ですから、条例では作れません。他方、即時強制は、義務の履行確保ではありません。義務を前提としないので、この法律の射程の外にあり、条例で作れると解されています。整理します。義務を課して強制する直接強制は、条例では作れない。義務を課さずに実力を使う即時強制は、条例で作れる。たとえば、A町が条例で、営業停止命令に従わない店の戸口を閉める、と定めることはできません。穏当なほうが作れず、強いほうが作れるという、不均衡になっています。行政目的、権利の性質、事前手続を踏まえて、法律と条例それぞれで、直接強制と即時強制をどう振り分けるかを、整理し直すべきだ、という指摘があります。即時強制の本体と、直接強制との見分け方は、別の回で扱います。

執行罰

執行罰(定義=義務不履行なら過料と予告し不履行のつど過料を徴収して履行を促す間接強制/現行法は砂防法36条だけ/民事執行法の間接強制に当たる/条例では作れない) 図:執行罰

  • 定義=義務不履行なら過料と予告し不履行のつど過料を徴収して履行を促す間接強制
  • 現行法は砂防法36条だけ
  • 民事執行法の間接強制に当たる
  • 条例では作れない

最後の手段が、執行罰です。定義を深めます。義務者に、自分で履行させるために、あらかじめ、履行しないなら過料を科す、と予告します。それでも履行しなければ、そのつど過料を徴収して、履行を促す。間接強制の方法です。代替的作為義務にも使えますが、効用が大きいのは、代執行の対象にならない、しない義務や、非代替的作為義務の履行強制です。たとえば、法律に執行罰の定めがあれば、店Cに、営業をやめるまで、期限を過ぎるたびに過料を科す、と予告できます。ただ、そうした定めは、ほとんどの法律にありません。現行法の例は、砂防法の36条だけです。

条文砂防法36条

砂防法第36条 私人ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依ル義務ヲ怠ルトキハ国土交通大臣若ハ都道府県知事ハ一定ノ期限ヲ示シ若シ期限内ニ履行セサルトキ若ハ之ヲ履行スルモ不充分ナルトキハ五百円以内ニ於テ指定シタル過料ニ処スルコトヲ予告シテ其ノ履行ヲ命スルコトヲ得

期限までにやらなければ過料だ、と前もって告げて、やるよう命じる仕組みです。設例です。砂防法に基づく義務を怠る人に、知事が「何日までに履行せよ、履行しなければ過料に処する」と予告して命じます。期限が過ぎても履行しなければ、過料を科します。それでも履行しなければ、また過料です。過料は、義務が履行されるまで、繰り返されます。民事執行法の間接強制に当たります。作為や不作為の債務で、直接の強制執行ができないものについて、一定の期間内に履行しないときは、金銭の支払を命じて、履行を促す方法です。行政法でも、直接力を加えない間接の強制、と言われます。ここで問いです。同じ過料でも、過去の違反に1回科すのと、履行まで繰り返し科すのとで、何が違うでしょうか。

違いは、科す回数ではありません。回数は結果で、違いの根っこは目的です。

2つの過料の対比(執行罰の過料=目的は将来の履行を確保/予告→期限→不履行→過料→履行まで何度でも/行政罰〔秩序罰〕の過料=目的は過去の違反への制裁/違反行為1つにつき1回) 図:2つの過料の対比

  • 執行罰の過料=目的は将来の履行を確保
  • 予告→期限→不履行→過料→履行まで何度でも
  • 行政罰〔秩序罰〕の過料=目的は過去の違反への制裁
  • 違反行為1つにつき1回

執行罰の過料は、将来の履行を確保する手段です。履行されるまで、何度でも科せます。金額は、制裁としての罰金とは別物で、目的を達するために合理的な額が、定められます。行政罰としての過料、つまり秩序罰は、過去の違反に対する制裁です。違反した行為1つにつき、1回です。同じ過料という名でも、性質は全く異なります。喩えるなら、執行罰は、期限を過ぎるたびに鳴る目覚ましです。鳴らす狙いは、責めることではなく、起きさせることです。秩序罰は、遅刻の記録です。過ぎたことを記録して、制裁として科します。行政罰の全体は、別の回で扱います。執行罰は、罰と付きますが、制裁ではありません。そのため、刑罰との混同を避けて、強制金と呼び替えるべきだ、という考え方もあります。

そこで、活用論があります。しない義務の確保は、刑罰が一般的です。しかし、刑罰権を発動するかどうかは、警察や検察の判断にかかり、行政側の意向や必要に合うとは限りません。執行罰は、刑罰より柔軟に使え、金額しだいで実効性も期待できます。違法行為の抑制に、活用すべきだという考え方です。執行罰は罰金より低くなければならないから消極的だ、という見解に対しては、反論があります。執行罰は、制裁の罰金とは目的も性質も別なので、均衡を問題にする根拠が無い、という反論です。最後に、条例との関係です。直接強制と同じく、行政代執行法1条との関係で、条例では作れません。前に見た結論です。

義務の種類と手段の対応——まとめ

義務の種類×使える手段(行=お金を払う義務・他人が代わりにできる作為義務・本人しかできない作為義務・しない義務/列=代わりにやる手段〔代執行〕・身体や財産に実力を加える手段〔直接強制〕・過料で履行を促す手段〔執行罰〕・財産を差し押さえて取り立てる手段〔強制徴収〕/他人が代わりにできる作為義務=代執行・直接強制・執行罰/本人しかできない作為義務としない義務=直接強制・執行罰/お金を払う義務=強制徴収) 図:義務の種類×使える手段

  • 行=お金を払う義務・他人が代わりにできる作為義務・本人しかできない作為義務・しない義務
  • 列=代わりにやる手段〔代執行〕・身体や財産に実力を加える手段〔直接強制〕・過料で履行を促す手段〔執行罰〕・財産を差し押さえて取り立てる手段〔強制徴収〕
  • 他人が代わりにできる作為義務=代執行・直接強制・執行罰
  • 本人しかできない作為義務としない義務=直接強制・執行罰
  • お金を払う義務=強制徴収

全体を、1枚で整理します。義務の種類を縦に、使える手段を横に並べます。代執行は、代替的作為義務だけです。直接強制と執行罰は、代替的作為義務、非代替的作為義務、しない義務の、すべてに使えます。強制徴収は、金銭の支払義務です。代執行は代替的作為義務だけで、直接強制と執行罰は何にでも、強制徴収は金銭だけ。この対応は、頻出です。1つ補います。明渡しや立退きは、前に見たとおり、行政が所有権や管理権に基づいて、民事訴訟で求める道もあります。この表の手段とは別の道です。

手段ごとの一般法と条例(代執行=一般法あり〔行政代執行法〕/強制徴収=国税は国税徴収法・他は個別法が「滞納処分の例による」と書いたときだけ/直接強制・執行罰=一般法なし・個別法もほとんど無い・条例では作れない) 図:手段ごとの一般法と条例

  • 代執行=一般法あり〔行政代執行法〕
  • 強制徴収=国税は国税徴収法・他は個別法が「滞納処分の例による」と書いたときだけ
  • 直接強制・執行罰=一般法なし・個別法もほとんど無い・条例では作れない

次に、根拠です。代執行は、一般法があります。行政代執行法です。強制徴収は、国税なら国税徴収法があり、ほかは個別の法律が、滞納処分の例によると書いたときだけです。直接強制と執行罰は、一般法が無く、個別の法律もほとんど無く、条例では作れません。つまり、使える手段は義務の種類で決まり、代執行のほかは、法律が個別に根拠を置いたときだけ使えます。冒頭の3つの問いに戻ります。まず、下水道使用料の滞納は、強制徴収です。督促のうえ、滞納処分の例で進められ、訴えは要りません。町営住宅の家賃の滞納は、強制徴収の規定が無いので、民事訴訟です。2つ目、営業停止命令に従わない店の戸口の閉鎖は、直接強制の個別の法律が無ければ、できません。罰則に頼ることになります。最後に、繰り返す過料は、執行罰です。現行法では、砂防法36条だけです。

まとめ(1=強制徴収は国税なら督促→差押え→換価→配当/2=他の金銭債権は「国税滞納処分の例による」と定めたときだけ・強制徴収がある債権は民事訴訟で取れない/3=直接強制はすべての義務に使えるが一般法が無く個別法もわずか・条例で作れない/4=即時強制は条例で作れる→不均衡との指摘/5=執行罰は将来の履行のため繰り返す過料・砂防法36条だけ・過去の制裁の過料とは別) 図:まとめ

  • 1=強制徴収は国税なら督促→差押え→換価→配当
  • 2=他の金銭債権は「国税滞納処分の例による」と定めたときだけ・強制徴収がある債権は民事訴訟で取れない
  • 3=直接強制はすべての義務に使えるが一般法が無く個別法もわずか・条例で作れない
  • 4=即時強制は条例で作れる→不均衡との指摘
  • 5=執行罰は将来の履行のため繰り返す過料・砂防法36条だけ・過去の制裁の過料とは別

まとめます。1つ目、強制徴収は、国税なら、督促、差押え、換価、配当の順です。判決は要りません。2つ目、国税以外の金銭債権は、国税滞納処分の例による、と法律が定めたときだけ、強制徴収が使えます。強制徴収がある債権は、最高裁の判決の考え方では、民事訴訟では取り立てられません。3つ目、直接強制は、すべての義務に使えますが、一般法が無く、個別法もわずかで、条例では作れません。4つ目、即時強制は条例で作れるため、不均衡だという指摘があります。5つ目、執行罰は、将来の履行のために繰り返す過料です。現行法では砂防法36条だけで、過去の違反への制裁の過料とは、別物です。ここは論文でも論点になりうる部分です。強制執行が動かない隙間を埋める、新しい手段を見ます。

参照条文

  • 国税通則法40条
  • 国税徴収法47条1項
  • 地方自治法231条の3第3項
  • 成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条1項
  • 成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条8項
  • 学校施設の確保に関する政令21条
  • 行政代執行法1条
  • 砂防法36条

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