行政法ゼロから行政法#99

即時強制

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第7章 行政調査・義務履行確保・行政罰 #99/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

命じる暇のない急場

今日の4つの問い(問い1=命令を飛ばして実力を使う手段を何というか/問い2=直接強制とは何で見分けるか/問い3=条例で作れるか・どこまでの実力が許されるか/問い4=受けた側はどう争うか/設例=風下の空き家に火が迫る) 図:今日の4つの問い

  • 問い1=命令を飛ばして実力を使う手段を何というか
  • 問い2=直接強制とは何で見分けるか
  • 問い3=条例で作れるか・どこまでの実力が許されるか
  • 問い4=受けた側はどう争うか
  • 設例=風下の空き家に火が迫る

前に、代執行、強制徴収、直接強制、執行罰を見ました。どれも、まず義務を命じて、守られなければ、強制する、という流れでした。今日は、その最初の段を飛ばす手段です。設例から入ります。風の強い夜に、隣の町内で火の手が上がりました。風下には、持ち主の分からない空き家があり、火が迫っています。持ち主を探して、取り壊しなさいと命じ、従わないのを待ってから壊す。これでは、間に合いません。命令を飛ばして、いきなり実力で食い止める道が、あります。命令という歯止めを外した実力は、どこで止まるんでしょうか。そこが今日の中心です。問いは、4つあります。1つ目、命令を飛ばして実力を使う手段を、何というか。2つ目、直接強制とは、何で見分けるか。3つ目、条例で作れるのか、どこまでの実力が許されるのか。4つ目、受けた側は、どう争うのか。答えは、最後に回収します。

即時強制とは——義務を課さない

即時強制の定義(定義=相手の義務の存在を前提とせず・行政目的のために・人の身体や財産に直接実力を加えて・行政上望ましい状態をつくること/別名=即時執行/義務の履行を確保する手段ではない/認められる2つの場面=①命じる暇が無い緊急事態〔破壊消防〕②命じても目的を達しにくい〔泥酔者の保護〕) 図:即時強制の定義

  • 定義=相手の義務の存在を前提とせず・行政目的のために・人の身体や財産に直接実力を加えて・行政上望ましい状態をつくること
  • 別名=即時執行
  • 義務の履行を確保する手段ではない
  • 認められる2つの場面=①命じる暇が無い緊急事態〔破壊消防〕②命じても目的を達しにくい〔泥酔者の保護〕

定義です。即時強制とは、相手の義務の存在を前提とせずに、行政の目的のために、人の身体や財産に直接、実力を加えて、行政にとって望ましい状態をつくることです。即時執行とも呼ばれます。ポイントは、義務を前提にしない点です。ですから、義務の履行を確保する手段ではありません。前に見た地図で言えば、守らせる手段の、Cにあたります。義務を課さずに、実力を使う手段です。義務を命じるほうが、本人に自分で守る機会も与えられて、穏当に思えます。なぜ、その段を飛ばしてよいんでしょうか。そこが出発点です。義務を課す方式には、良さがありました。機会を与えれば、本人が自分で守ってくれます。行政も、実力を使うコストを払わずに済みます。この良さを犠牲にしてよいのは、場面が2つに限られるからです。1つ目は、義務を命じる暇が無い緊急事態です。設例の空き家です。延焼を防ぐために建物を壊す、破壊消防がその典型です。2つ目は、義務を命じても、目的を達しにくい場面です。路上で酔いつぶれて、動けなくなった人がいるとします。その人に、立ち去りなさいと命じても、意味がありません。警察官が、とりあえず保護するほうが、目的にかないます。問いです。命令が出せない場面と、出しても無意味な場面を、1つずつ挙げてください。

命令の相手がいないか、いても応じられないか、です。この2つの場面に当たらないのに、命令を飛ばすことは、許されにくくなります。この構造を、頭に置いてください。

直接強制との見分け——命じる段が先にあるか

見分けの問い(実力を使う→義務を命じる段が先にある?→はい=直接強制〔行政上の強制執行の1つ〕/いいえ=即時強制) 図:見分けの問い

  • 実力を使う→義務を命じる段が先にある?→はい=直接強制〔行政上の強制執行の1つ〕
  • いいえ=即時強制

前回までに、直接強制と条例の関係を見ました。ここで確かめます。直接強制は、条例で作れましたか?直接強制は、法律でしか作れませんでした。では、本題です。同じ実力を使う手段でも、直接強制と即時強制は、1つの問いで見分けられます。義務を命じる段が、先にあるか、です。命令を出し、守られず、そのうえで実力を使うなら、直接強制です。行政上の強制執行の1つでした。命令なしで、いきなり実力を使うなら、即時強制です。1つ注意があります。1つの条文に、命令と、行政が自ら動く措置が、並んで置かれることがあります。そのときは、項目ごとに分けて見ます。命じる部分は命令です。命令を経ずに、自ら実力を使う部分が、即時強制です。例を2つ見ます。1つ目は、違法駐車のレッカー移動です。道路交通法51条が定めます。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。

条文道路交通法51条1項

道路交通法第51条第1項(違法駐車に対する措置) 車両が第四十四条第一項、第四十五条第一項若しくは第二項、第四十七条第二項若しくは第三項、第四十八条、第四十九条の三第二項若しくは第三項、第四十九条の四若しくは第四十九条の五後段の規定に違反して駐車していると認められるとき、又は第四十九条第一項のパーキング・チケット発給設備を設置する時間制限駐車区間において駐車している場合において当該車両に当該パーキング・チケット発給設備により発給を受けたパーキング・チケットが掲示されておらず、かつ、第四十九条の三第四項の規定に違反していると認められるとき(第五十一条の四第一項及び第七十五条の二十二第三項において「違法駐車と認められる場合」と総称する。)は、警察官等は、当該車両の運転者その他当該車両の管理について責任がある者(以下この条において「運転者等」という。)に対し、当該車両の駐車の方法を変更し、若しくは当該車両を当該駐車が禁止されている場所から移動すべきこと又は当該車両を当該時間制限駐車区間の当該車両が駐車している場所から移動すべきことを命ずることができる。

1項は、運転者等がいれば、警察官等は、移動などを命じることができる、という定めです。従わなければ、罰則があります。続いて、2項と3項です。

条文道路交通法51条2項・3項

道路交通法第51条第2項・第3項(違法駐車に対する措置) 2 車両の故障その他の理由により当該車両の運転者等が直ちに前項の規定による命令に従うことが困難であると認められるときは、警察官等は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な限度において、当該車両の駐車の方法を変更し、又は当該車両を移動することができる。 3 第一項の場合において、現場に当該車両の運転者等がいないために、当該運転者等に対して同項の規定による命令をすることができないときは、警察官等は、道路における交通の危険を防止し、又は交通の円滑を図るため必要な限度において、当該車両の駐車の方法の変更その他必要な措置をとり、又は当該車両が駐車している場所からの距離が五十メートルを超えない道路上の場所に当該車両を移動することができる。

道路交通法51条の3つの項(違反した車→1項=運転者等がいれば移動などを命じる〔従わなければ罰則・119条1項7号〕/2項=運転者等が直ちに従うことが困難なとき〔故障など〕は必要な限度で警察官等が駐車方法を変え・移動できる/3項=運転者等が現場にいなくて命令できないときも必要な措置・50メートル以内への移動ができる) 図:道路交通法51条の3つの項

  • 違反した車→1項=運転者等がいれば移動などを命じる〔従わなければ罰則・119条1項7号〕
  • 2項=運転者等が直ちに従うことが困難なとき〔故障など〕は必要な限度で警察官等が駐車方法を変え・移動できる
  • 3項=運転者等が現場にいなくて命令できないときも必要な措置・50メートル以内への移動ができる

2項は、故障などで運転者等がすぐには従えないとき、3項は、運転者等が現場にいないときです。どちらも、警察官等が自ら動かせます。3項の移動は、50メートル以内です。条文を読むと、強制的に動かせると書かれているのは、2項と3項で、命令できない場面、命令を待たない場面です。1項の命令は、罰則で担保されるだけです。命令に従わない車を動かすなら、理屈の上では、直接強制と見る余地があります。ただ、条文が自ら動かすことを認めているのは、すぐには従えない2項と、命令できない3項だけです。どちらも、命令の不履行を待って強いる形ではありません。ですから、レッカー移動は、即時強制と説明されます。

車の持ち主Aと警察官B(A=違法に停めた車の持ち主/B=警察官/B→車:探さずレッカーで移す/A「先に言ってくれれば自分で動かしたのに」/命令の段=自分で動く機会) 図:車の持ち主Aと警察官B

  • A=違法に停めた車の持ち主
  • B=警察官
  • B→車:探さずレッカーで移す
  • A「先に言ってくれれば自分で動かしたのに」
  • 命令の段=自分で動く機会

設例にします。違法に停められた車を、警察官Bが、持ち主Aを探さずに、レッカーで移しました。戻ってきたAは、先に言ってくれれば、自分で動かしたのに、と怒ります。この怒りが、命令の段の意味です。命令は、本人に、自分で動く機会を渡す手紙のようなものです。即時強制は、その手紙を出さずに、実力に入ります。だから、手紙を出せない場面や、出しても無意味な場面に、限られるのです。2つ目の例です。手段が3つ並ぶ例があります。同じ対象に向けられた、違反広告物です。屋外広告物法7条です。

違反広告物の3つの入口(違反の広告物→①措置命令→従わなければ行政代執行法の代執行〔1項・3項〕/②命令の相手方を過失なく確知できない→簡易代執行〔2項〕/③はり紙・はり札・広告旗・立看板など容易に取り外せる物→要件〔明らかな違反・放置が明らか〕を満たせば命令なしで除却〔4項〕=即時強制) 図:違反広告物の3つの入口

  • 違反の広告物→①措置命令→従わなければ行政代執行法の代執行〔1項・3項〕
  • ②命令の相手方を過失なく確知できない→簡易代執行〔2項〕
  • ③はり紙・はり札・広告旗・立看板など容易に取り外せる物→要件〔明らかな違反・放置が明らか〕を満たせば命令なしで除却〔4項〕=即時強制

1項は、違反した広告物の持ち主などに、措置を命じることができる、という定めで、従わなければ、3項で、行政代執行法の代執行に進みます。2項は、命令の相手方を、過失なく確知できないときの、簡易代執行です。前に見た、命令の相手が分からないときの手続です。掲出物件を除くときだけ、事前の公告が要ります。そして4項が、はり紙、はり札、広告旗、立看板のように、容易に取り外せる物について、一定の要件を満たせば、命令なしで除却できる、という定めです。これが即時強制です。同じ除却でも、入口が3つあります。4項の条文です。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。

条文屋外広告物法7条4項(定義のかっこ書きは…で省略)

屋外広告物法第7条第4項(違反に対する措置) 4 都道府県知事は、第三条から第五条までの規定に基づく条例(以下この項において「条例」という。)に違反した広告物又は掲出物件が、はり紙、はり札等…、広告旗…又は立看板等…であるときは、その違反に係るはり紙、はり札等、広告旗又は立看板等を自ら除却し、又はその命じた者若しくは委任した者に除却させることができる。ただし、はり紙にあつては第一号に、はり札等、広告旗又は立看板等にあつては次の各号のいずれにも該当する場合に限る。

ただし書が指す号は、次の2つです。

条文屋外広告物法7条4項1号・2号

屋外広告物法第7条第4項第1号・第2号 一 条例で定める都道府県知事の許可を受けなければならない場合に明らかに該当すると認められるにもかかわらずその許可を受けないで表示され又は設置されているとき、条例に適用を除外する規定が定められている場合にあつては当該規定に明らかに該当しないと認められるにもかかわらず禁止された場所に表示され又は設置されているとき、その他条例に明らかに違反して表示され又は設置されていると認められるとき。 二 管理されずに放置されていることが明らかなとき。

貼り紙なら、明らかな違反であれば足ります。貼り札や広告旗、立看板は、それに加えて、放置が明らかなことも要ります。問いです。屋外広告物法7条の4つの項は、それぞれ、命令、代執行、簡易代執行、即時除却の、どれにあたるでしょうか。1項が命令で、3項が代執行です。2項が簡易代執行で、4項が即時除却です。命令の段がつながる代執行と、命令の段が無い即時除却が、同じ条文に並んでいます。簡易代執行も、相手方を探すなどの手続を経て除却するので、手続が重いのです。剥がせば済む貼り紙1枚に、その手続を踏むのは割に合いません。そこで、命令なしに除却できる4項が置かれている、と説明されます。前の回で見た、必要が即時強制に流れる事情と同じです。最後に、残る問いを1つ。行政処分で義務を課せる場面で、あえて命令を飛ばす即時強制を、条例で定めたらどうなるか。代執行なら、命令、戒告、令書という手続を踏みます。条例の即時強制なら、その手続を通らずに、同じ除却ができてしまいます。これが、行政代執行法の潜脱、つまり、その縛りをすり抜けることにならないか、という問いです。事案ごとに、慎重な検討が要る、とされています。

法律の根拠と、どこまでの実力か

比例原則の確認(問い=比例原則の4つの問いのうち、もっと軽い手段は無いかを問うのはどれ?/目的→適合性→必要性→均衡性) 図:比例原則の確認

  • 問い=比例原則の4つの問いのうち、もっと軽い手段は無いかを問うのはどれ?
  • 目的→適合性→必要性→均衡性

話を進める前に、確認です。比例原則の4つの問いのうち、もっと軽い手段は無いか、を問うのは、どれでしたか?3つ目の、必要性でした。この問いが、あとで効いてきます。

根拠と条例(身体・財産に不利益を与える実力=侵害留保→法律の根拠が要る/即時強制は義務の履行確保の手段ではない→行政代執行法1条の縛りは及ばない→法律〔条例を含む〕の根拠でよい/残る問い=「退去させることができる」とだけある授権規定は強制力の行使まで許すか) 図:根拠と条例

  • 身体・財産に不利益を与える実力=侵害留保→法律の根拠が要る
  • 即時強制は義務の履行確保の手段ではない→行政代執行法1条の縛りは及ばない→法律〔条例を含む〕の根拠でよい
  • 残る問い=「退去させることができる」とだけある授権規定は強制力の行使まで許すか

まず根拠です。身体や財産に不利益を与える実力ですから、法律の根拠が要ります。侵害留保の考え方です。次に、条例です。前に見た行政代執行法1条は、義務の履行確保の手段についての定めでした。即時強制は、義務の履行を確保する手段ではありません。ですから、1条の縛りは及ばず、法律、条例を含む根拠で足ります。穏当な直接強制は条例で作れず、即時強制は作れる、という前に見た不均衡は、ここからきています。難しいのは、その先です。個別の規定が、退去させることができる、と書くだけのとき、強制力の行使まで認めているのか、が問われました。事案を、私の言葉で言い直します。国鉄の労働組合員らが、列車の運行のかなめになる信号所に入り込み、階段に座り込みました。鉄道公安職員が、手や腕をとって引きおろして排除すると、水を浴びせた者が、公務執行妨害で起訴されました。排除は適法な職務だったのか、が争点です。根拠は、鉄道営業法の42条1項です。鉄道係員は、一定の場合に、旅客や公衆を、車外や鉄道地外に退去させることができる、という定めです。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。

条文鉄道営業法42条1項

鉄道営業法第42条第1項 左ノ場合ニ於テ鉄道係員ハ旅客及公衆ヲ車外又ハ鉄道地外ニ退去セシムルコトヲ得 一 有効ノ乗車券ヲ所持セス又ハ検査ヲ拒ミ運賃ノ支払ヲ肯セサルトキ 二 第三十三条第三号ノ罪ヲ犯シ鉄道係員ノ制止ヲ肯セサルトキ又ハ第三十四条ノ罪ヲ犯シタルトキ 三 第三十五条、第三十七条ノ罪ヲ犯シタルトキ 四 其ノ他車内ニ於ケル秩序ヲ紊ルノ所為アリタルトキ

文語の条文ですので、私の言葉で読みます。一定の場合に、鉄道係員は、旅客や公衆を、車外や鉄道地外に、退去させることができる。その3号が、鉄道地内にみだりに立ち入った場合を含みます。本件の信号所への立入りと座り込みがここに当たるとされました。条文は、退去させることができる、と書くだけです。実力を使ってよいのか、使うならどこまでか、は書かれていません。判決を読みます。

判例最大判昭和四十八年四月二十五日 刑集27巻3号418頁

鉄道営業法42条1項の退去と強制力 同条項は、鉄道事業の公共性にかんがみ、事業の安全かつ確実な運営を可能ならしめるため、とくにかかる運営につき責任を負う鉄道事業者に直接にこの排除の権限を付与したものである。 ……まず退去を促して自発的に退去させるのが相当であり、また、この方法をもつて足りるのが通常であるが、自発的な退去に応じない場合、または危険が切迫する等やむをえない事情がある場合には、警察官の出動を要請するまでもなく、鉄道係員において当該具体的事情に応じて必要最少限度の強制力を用いうる。 ……このような行為が必要最少限度のものかどうかは、労働組合員らの抵抗の状況等の具体的事情を考慮して決定すべきものである。

判例から取り出す規範(①まず退去を促す〔自発的な履行の機会〕②応じない・危険が切迫するなどやむをえないときに限り③その具体的事情に応じて必要最小限度の強制力④程度は相手の抵抗など具体的事情で判断/警察官の出動を待たなくてよい=鉄道事業者に直接付与された権限だから) 図:判例から取り出す規範

  • ①まず退去を促す〔自発的な履行の機会〕②応じない・危険が切迫するなどやむをえないときに限り③その具体的事情に応じて必要最小限度の強制力④程度は相手の抵抗など具体的事情で判断
  • 警察官の出動を待たなくてよい=鉄道事業者に直接付与された権限だから

判旨から、次の4つを取り出します。1つ目は、まず退去を促す。自発的に動く機会を、先に渡します。2つ目、応じないとき、または危険が切迫するなど、やむをえないときに限って、強制力に進みます。3つ目、その具体的事情に応じて、必要最少限度の強制力にとどめます。4つ目、程度は、相手の抵抗の状況など、具体的事情で判断します。判決は、鉄道事業の公共性を理由に挙げます。列車を安全に、確実に動かす責任は、鉄道事業者にあります。警察官を待つあいだにも、運行の危険は進みます。だから、事業者自身に、直接、排除の権限を与えた、と読むのです。結論として、実力行使が必要最少限度の範囲に収まっていたと認められれば、適法な職務の執行になり、原判決は破棄され、差し戻されました。憲法31条にも反しないとされています。ここで、比例原則に結びます。必要最少限度とは、もっと軽い手段は無いか、という必要性の問いの具体化です。まず促す、という段が、軽い手段を先に試す、という意味を持ちます。注意です。この判例は、国鉄、つまり鉄道事業者の権限の事案で、警職法の話ではありません。警職法には、別の歯止めがあります。次に見ます。問いです。授権規定に、退去させることができる、とだけあるとき、強制力の行使は、どこまで許されるでしょうか。

警察官職務執行法の5つ

警職法の5つ(保護=3条1項/避難等の措置=4条1項/犯罪の予防と制止=5条1項/立入り=6条1項/武器の使用=7条1項/共通の歯止め=1条2項/2条の職務質問・所持品検査は任意調査でこの5つに入らない) 図:警職法の5つ

  • 保護=3条1項
  • 避難等の措置=4条1項
  • 犯罪の予防と制止=5条1項
  • 立入り=6条1項
  • 武器の使用=7条1項
  • 共通の歯止め=1条2項
  • 2条の職務質問・所持品検査は任意調査でこの5つに入らない

警察官職務執行法は、即時強制を定める代表的な法律です。3条から7条までの、5つを押さえます。2条の職務質問と所持品検査は、任意調査として見ました。この5つには入りません。共通の歯止めから読みます。1条2項です。

条文警察官職務執行法1条2項

警察官職務執行法第1条第2項 この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。

さきほどの必要最小限度が、ここでは条文になっています。1つ目は、3条の保護です。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。

条文警察官職務執行法3条1項

警察官職務執行法第3条第1項 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して次の各号のいずれかに該当することが明らかであり、かつ、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見したときは、取りあえず警察署、病院、救護施設等の適当な場所において、これを保護しなければならない。 一 精神錯乱又は泥酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼすおそれのある者 二 迷い子、病人、負傷者等で適当な保護者を伴わず、応急の救護を要すると認められる者(本人がこれを拒んだ場合を除く。)

警職法3条の保護(対象=①精神錯乱・泥酔で危害を及ぼすおそれのある者②迷い子・病人・負傷者などで保護者がなく応急の救護を要する者〔本人が拒めば除く〕/場所=警察署・病院・救護施設など/時間の歯止め=24時間をこえてはならない〔3項〕/簡易裁判所の裁判官の許可状があれば延長・通じて5日まで〔4項〕) 図:警職法3条の保護

  • 対象=①精神錯乱・泥酔で危害を及ぼすおそれのある者②迷い子・病人・負傷者などで保護者がなく応急の救護を要する者〔本人が拒めば除く〕
  • 場所=警察署・病院・救護施設など
  • 時間の歯止め=24時間をこえてはならない〔3項〕
  • 簡易裁判所の裁判官の許可状があれば延長・通じて5日まで〔4項〕

設例です。祭りの帰りに、階段で泥酔して、眠り込んだ人がいます。1号です。取りあえず、警察署や病院などで保護します。保護には、時間の歯止めがあります。3項で、24時間をこえてはならない、と定められています。ただし、簡易裁判所の裁判官の許可状があれば、延ばせます。4項で、延長は通じて5日までです。問いです。泥酔者の保護は何時間までで、延ばすには何が要るでしょうか。24時間までで、延ばすには、簡易裁判所の裁判官の許可状が要ります。通じて5日まで、ですね。保護のように、身柄を押さえる状態が長く続く類型には、時間の上限や裁判官の許可という歯止めが付きます。長く続くほど、失われる自由が大きいからです。2つ目は、4条の避難等の措置です。

条文警察官職務執行法4条1項

警察官職務執行法第4条第1項 警察官は、人の生命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼす虞のある天災、事変、工作物の損壊、交通事故、危険物の爆発、狂犬、奔馬の類等の出現、極端な雑踏等危険な事態がある場合においては、その場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に必要な警告を発し、及び特に急を要する場合においては、危害を受ける虞のある者に対し、その場の危害を避けしめるために必要な限度でこれを引き留め、若しくは避難させ、又はその場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に対し、危害防止のため通常必要と認められる措置をとることを命じ、又は自らその措置をとることができる。

天災、交通事故、危険物の爆発、極端な雑踏のような、危険な事態で、警告を発し、特に急を要するときは、引き留めたり、避難させたり、必要な措置を命じたり、自らおこなったりできます。ここでも、関係者に措置を命じる部分は命令で、自ら引き留める、避難させる、措置をとる部分が、即時強制です。設例は、倒木で道がふさがれて、車が通れない場面で、通行人を引き留める場合です。3つ目は、5条の、犯罪の予防と制止です。

条文警察官職務執行法5条1項

警察官職務執行法第5条第1項 警察官は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときは、その予防のため関係者に必要な警告を発し、又、もしその行為により人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があつて、急を要する場合においては、その行為を制止することができる。

犯罪がまさに行われようとするのを認めたら、まず警告です。生命、身体への危険や、財産の重大な損害があって、急を要するときは、制止ができます。設例は、けんか腰の2人が、殴りかかりそうなところを、制止する場面です。4つ目は、6条の立入りです。

条文警察官職務執行法6条1項

警察官職務執行法第6条第1項 警察官は、前二条に規定する危険な事態が発生し、人の生命、身体又は財産に対し危害が切迫した場合において、その危害を予防し、損害の拡大を防ぎ、又は被害者を救助するため、已むを得ないと認めるときは、合理的に必要と判断される限度において他人の土地、建物又は船車の中に立ち入ることができる。

4条と5条の危険な事態で、危害が切迫し、やむを得ないときに、合理的に必要な限度で、他人の土地や建物、船や車の中に立ち入れます。たとえば、隣の部屋からガスのにおいがして、呼んでも返事がないときです。最後の5つ目は、7条の武器の使用です。

条文警察官職務執行法7条1項

警察官職務執行法第7条第1項 警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。ただし、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十六条(正当防衛)若しくは同法第三十七条(緊急避難)に該当する場合又は次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。

武器を使えるのは、合理的に必要な限度です。そして、人に危害を与えてよいのは、正当防衛や緊急避難のほか、次の2つの号の場合に限られます。

条文警察官職務執行法7条1項1号・2号

警察官職務執行法第7条第1項第1号・第2号 一 死刑又は無期若しくは長期三年以上の拘禁刑に当たる凶悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる充分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合 二 逮捕状により逮捕する際又は勾引状若しくは勾留状を執行する際その本人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合

1号は、凶悪な罪の犯人など、2号は、逮捕状で逮捕する相手などが、抵抗したり、逃げようとしたりする場合です。

警職法の5つの表(保護3条=泥酔者・病人などを取りあえず保護・24時間/避難等の措置4条=危険な事態で警告・引き留め・避難・危害防止の措置/犯罪の予防と制止5条=犯罪がまさに行われようとするとき警告・急を要するとき制止/立入り6条=危害が切迫しやむを得ないとき他人の土地・建物へ/武器の使用7条=逮捕・逃走防止・防護・抵抗の抑止のため必要な相当の理由があるとき/新設6条の2=サイバー危害防止措置〔2026年10月1日施行〕) 図:警職法の5つの表

  • 保護3条=泥酔者・病人などを取りあえず保護・24時間
  • 避難等の措置4条=危険な事態で警告・引き留め・避難・危害防止の措置
  • 犯罪の予防と制止5条=犯罪がまさに行われようとするとき警告・急を要するとき制止
  • 立入り6条=危害が切迫しやむを得ないとき他人の土地・建物へ
  • 武器の使用7条=逮捕・逃走防止・防護・抵抗の抑止のため必要な相当の理由があるとき
  • 新設6条の2=サイバー危害防止措置〔2026年10月1日施行〕

5つを表にします。保護が3条、避難等の措置が4条、犯罪の予防と制止が5条、立入りが6条、武器の使用が7条です。6条の2が新設されて、2026年10月1日から施行されています。不正な通信に使われるコンピュータについて、重大な危害を防ぐため、記録の消去などの措置を命じたり、自らおこなったりできます。構造は、4条と同じで、管理者に措置を命じる部分は命令、警察官の中から指名された執行官が、自ら記録を消すような部分が、即時強制です。

身体と財産に対する具体例

身体に対するもの(入管法の収容〔不法入国者などの退去強制手続で収容令書に基づき入国警備官が収容・39条の2第1項、2項〕/退去強制令書は入国警備官が執行して送還〔52条1項・3項〕/送還できないときは収容するか収容に代わる監理措置に付すかを主任審査官が審査〔現行〕) 図:身体に対するもの

  • 入管法の収容〔不法入国者などの退去強制手続で収容令書に基づき入国警備官が収容・39条の2第1項、2項〕
  • 退去強制令書は入国警備官が執行して送還〔52条1項・3項〕
  • 送還できないときは収容するか収容に代わる監理措置に付すかを主任審査官が審査〔現行〕

警職法の外の具体例を、身体と財産に分けて見ます。身体に対するものから始めます。1つ目は、入管法の収容です。不法入国者などの、退去強制の手続で、収容令書に基づいて、入国警備官が容疑者を収容します。入管法39条の2です。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。

条文出入国管理及び難民認定法39条の2

出入国管理及び難民認定法第39条の2(収容) 主任審査官は、前条第二項の規定による審査において容疑者を収容する旨の判断をしたときは、収容令書を発付し、これを入国警備官に交付するものとする。 2 入国警備官は、前項の規定により収容令書の交付を受けたときは、収容令書により、容疑者を収容するものとする。

令書を発付するのは主任審査官で、令書により容疑者を収容するのは入国警備官です。退去強制令書は、入国警備官が執行して、送還します。52条です。たとえば、在留の期限を過ぎて暮らしていた人を、入国警備官が、令書を示して施設に収容します。本人に、自分で入りなさい、と義務を課す段はありません。送還できないときは、現行法では、収容するか、収容に代わる監理措置、つまり施設に入れずに、監理人の監督のもとで暮らしてもらう仕組みに付すかを、主任審査官が審査します。収容や送還は、即時強制と整理されるのが通例です。令書は、本人に宛てた命令ではありません。主任審査官が、入国警備官に、収容してよいと許す書面です。本人に命じる段が無いので、即時強制にあたります。

感染症法の入院(一類感染症などのまん延防止のため必要があるとき→都道府県知事が入院を勧告〔19条1項〕→従わなければ入院させる措置〔3項〕/入院の期間は72時間まで〔4項〕/続けるなら改めて10日以内の入院を勧告〔20条1項〕・以後10日以内ごとに延長〔4項〕・勧告と延長の前にあらかじめ感染症診査協議会の意見を聴く〔5項〕・勧告の前に患者側に意見を述べる機会〔6項以下〕/二類感染症などは準用〔26条〕) 図:感染症法の入院

  • 一類感染症などのまん延防止のため必要があるとき→都道府県知事が入院を勧告〔19条1項〕→従わなければ入院させる措置〔3項〕
  • 入院の期間は72時間まで〔4項〕
  • 続けるなら改めて10日以内の入院を勧告〔20条1項〕・以後10日以内ごとに延長〔4項〕・勧告と延長の前にあらかじめ感染症診査協議会の意見を聴く〔5項〕・勧告の前に患者側に意見を述べる機会〔6項以下〕
  • 二類感染症などは準用〔26条〕

2つ目は、感染症法の入院です。正式には、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律です。都道府県知事は、一類感染症などのまん延を防ぐために必要があるとき、患者に入院を勧告します。19条1項です。従わなければ、入院させる措置ができます。3項です。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。

条文感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律19条1項・3項

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第19条第1項・第3項 都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症の患者に対し特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関に入院し、又はその保護者に対し当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるものに入院し、又は当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。 3 都道府県知事は、第一項の規定による勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、当該勧告に係る患者を特定感染症指定医療機関又は第一種感染症指定医療機関(同項ただし書の規定による勧告に従わないときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院又は診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるもの)に入院させることができる。

入院の期間は、72時間までです。4項の定めです。それを超えて続けるには、改めて10日以内の入院を勧告し、その後も10日以内ごとに延長します。20条です。勧告と延長の前には、あらかじめ感染症診査協議会の意見を聴きます。勧告の前には、患者側に、意見を述べる機会もあります。二類感染症などには、準用されます。健康診断も同じで、勧告し、従わなければ職員が実施します。問いです。感染症法の入院は、いきなり入院させるのでしょうか。まず勧告で、従わなければ、入院させる措置です。72時間までで、延長は協議会の意見を聴きます。即時強制に、勧告という事前の手続がはさまる例です。勧告は、従う義務を課すものではありません。ですから、命令の段にはあたらず、従わない人を入院させる措置は、即時強制です。長く続く類型に付く、手続の歯止めです。精神保健福祉法の措置入院も、医師の診察を経て、知事が入院させる、同じ系統の仕組みです。

財産に対するもの(銃砲刀剣類の仮領置=銃刀法11条8項・取消事由が生じ、危険の防止に必要と認めるとき公安委員会は取消し前でも提出を命じて仮領置できる・許可が取り消されなかったら速やかに返還〔11項〕/破壊消防=消防法29条・1項消防吏員・団員が火災が発生しそうな・発生した対象物と土地を使用・処分・制限/2項消防長等が延焼のおそれがある対象物と土地を使用・処分・制限/3項緊急の必要があるとき1・2項の対象以外の物にも及ぶ・損失補償の規定があるのは3項) 図:財産に対するもの

  • 銃砲刀剣類の仮領置=銃刀法11条8項・取消事由が生じ、危険の防止に必要と認めるとき公安委員会は取消し前でも提出を命じて仮領置できる・許可が取り消されなかったら速やかに返還〔11項〕
  • 破壊消防=消防法29条・1項消防吏員・団員が火災が発生しそうな・発生した対象物と土地を使用・処分・制限
  • 2項消防長等が延焼のおそれがある対象物と土地を使用・処分・制限
  • 3項緊急の必要があるとき1・2項の対象以外の物にも及ぶ・損失補償の規定があるのは3項

次は、財産に対するものです。まず1つ目は、銃砲刀剣類の仮領置です。銃刀法11条8項です。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。

条文銃砲刀剣類所持等取締法11条8項

銃砲刀剣類所持等取締法第11条第8項(許可の取消し等) 8 都道府県公安委員会は、第一項各号のいずれか又は第二項から第四項までの事由が発生した場合において、人の生命、身体又は財産に対する危険を防止するため必要があると認めるときは、第二十七条第一項の規定の適用がある場合を除き、取消し前において、当該許可を受けている者(当該許可を受けている者の所在が不明である場合において、同居の親族等があるときは、当該同居の親族等)に対し当該銃砲等若しくは刀剣類の提出を命じ、提出された銃砲等若しくは刀剣類を仮領置し、又は第十三条の三第一項の規定により既に保管している銃砲等若しくは刀剣類にあつてはこれを仮領置することができる。

許可を取り消すべき事由が生じて、危険を防止するため必要があると認めるとき、公安委員会は、取消しの前でも、提出を命じて、仮領置、つまり仮に預かることができます。許可が取り消されなければ、速やかに返します。提出を命じる部分は、命令です。けれど、仮領置は、提出された物を、取消しの判断が出るまで預かる措置で、命令に従わないことを受けて強いるものではありません。危険な物を、早く手元から離すための実力として、即時強制の例に挙げられます。命令の段がある点で、直接強制との境目の例でもあります。2つ目が、破壊消防です。消防法29条です。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。

条文消防法29条1項〜3項

消防法第29条第1項から第3項 消防吏員又は消防団員は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために必要があるときは、火災が発生せんとし、又は発生した消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。 2 消防長若しくは消防署長又は消防本部を置かない市町村においては消防団の長は、火勢、気象の状況その他周囲の事情から合理的に判断して延焼防止のためやむを得ないと認めるときは、延焼の虞がある消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。 3 消防長若しくは消防署長又は消防本部を置かない市町村においては消防団の長は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために緊急の必要があるときは、前二項に規定する消防対象物及び土地以外の消防対象物及び土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。この場合においては、そのために損害を受けた者からその損失の補償の要求があるときは、時価により、その損失を補償するものとする。

1項は、燃えている、または燃えそうな物、2項は、延焼のおそれがある物、3項は、その外側の物です。1項は消防吏員や消防団員が、2項と3項は消防長などが行います。火が迫る空き家は、延焼のおそれがある物ですから、2項にあたります。そして、損失補償の規定があるのは、3項です。つまり、補償されるのは、その外側の物を壊したときです。3項の物は、本来は安全な物を、周りを守るために壊すので、補償する、という整理だと考えられます。ほかにも、道路交通法81条2項の違法工作物の除去、災害の応急措置の妨げになる、壊れた工作物などを除く、災害対策基本法64条2項、食品衛生法59条の廃棄など、例は多くあります。

行政調査との関係

調査との切り分け(かつて強制的な調査を即時強制の枠で論じた→今は区別/立入りの目的が情報を集める→行政調査/危害をなくす→即時強制/警職法6条1項=即時強制・6条2項の公開時間中の立入り要求=危害予防のための調査的な性格も併せ持つ/2条の所持品検査=任意調査) 図:調査との切り分け

  • かつて強制的な調査を即時強制の枠で論じた→今は区別
  • 立入りの目的が情報を集める→行政調査
  • 危害をなくす→即時強制
  • 警職法6条1項=即時強制・6条2項の公開時間中の立入り要求=危害予防のための調査的な性格も併せ持つ
  • 2条の所持品検査=任意調査

話を移す前に、確認です。かつて、強制的な調査は、何という枠で論じられましたか?かつては、即時強制の表題のもとで、行政目的の直接の実現と、調査の内容が、一緒に論じられました。今は区別します。区別の基準は、目的です。立入りが、情報を集める目的なら、行政調査です。危害をなくす目的なら、即時強制です。前に見た、税務署の職員が帳簿を見に店に来るのは、情報を集める立入りです。さきほどの、ガスのにおいがする部屋に警察官が入るのは、危害をなくす立入りです。同じ立入りでも、目的で分かれます。警職法6条1項の立入りは、危害の予防や救助のための立入りですから、即時強制です。2項の、公開時間中の立入りの要求は、危害予防のための調査的な性格も併せ持ちます。たとえば、旅館や駅のように、多くの人が集まる場所に、営業中に入らせてもらう場面です。境目の例として、押さえてください。2条の所持品検査は、任意調査でした。

手続と救済

手続と救済のフロー(事前手続=緊急なら一律には要求できない/時間のある類型〔収容・入院〕は保障を考える〔感染症法の勧告・協議会・意見陳述/警職法3条の24時間と許可状〕/行手法は適用されない〔2条4号イ〕/続くもの→処分として取消訴訟・審査請求〔行訴法3条2項〕+執行停止/一瞬で終わるもの→国家賠償・適法なら損失補償) 図:手続と救済のフロー

  • 事前手続=緊急なら一律には要求できない
  • 時間のある類型〔収容・入院〕は保障を考える〔感染症法の勧告・協議会・意見陳述/警職法3条の24時間と許可状〕
  • 行手法は適用されない〔2条4号イ〕
  • 続くもの→処分として取消訴訟・審査請求〔行訴法3条2項〕+執行停止
  • 一瞬で終わるもの→国家賠償・適法なら損失補償

最後に、手続と救済です。まず、事前の手続です。緊急の場面では、事前の手続を、一律には求められません。ただ、事前の手続を全くとれないほど緊急ではない類型、たとえば収容や入院では、手続の保障を考えるべきだとされます。感染症法の勧告や協議会の意見、警職法3条の24時間と許可状は、その実例でした。行政手続法の、不利益処分の手続は、使えないんでしょうか。適用されません。即時強制は事実上の行為で、行政手続法の2条4号イが、不利益処分から、事実上の行為を除いているからです。争い方は、2つに分かれます。まず1つ目は、続くものです。人の収容や、物の留置のように、内容が継続的な性質を持つ権力的事実行為、つまり、行政行為の回で見た、義務を命じずに実力で押さえる事実の行為は、行政庁の公権力の行使に当たる行為として、処分に含まれると解されます。行政事件訴訟法3条2項です。ですから、取消訴訟や審査請求の対象になります。ただ、実際には、取消しだけでは足りず、執行停止と合わせて求めます。判決を待つあいだにも、入院や収容は続いてしまうからです。審査請求が認められれば、事実上の行為の撤廃や変更が命じられます。設例は、入院の措置を受けた人が、措置の取消しと、執行停止を求める場面です。2つ目は、一瞬で終わるものです。制止や、その場の立入りは、取消しを求めても、実益が乏しいのです。警察官に強く腕を引かれて転倒し、けがをした人は、国家賠償を求めます。破壊消防のように、適法な措置で財産に損失が出る場合は、損失補償です。消防法29条3項と、憲法29条3項が根拠になります。なお、差止訴訟、つまり、されようとしている行為を前もって止めてもらう訴えが設けられたことで、継続的でない事実行為も、処分として争われる余地がある、とされています。

問いです。保護や入院のように続くものと、制止のように一瞬のものでは、争い方は、どう分かれるでしょうか。続くものは、取消訴訟と執行停止で、一瞬のものは、国家賠償や損失補償です。

今日の地図(保存版)

まとめ(問い①=義務を課さず実力を使う手段は即時強制〔即時執行〕/②見分けは義務を命じる段の有無〔レッカー・違反広告物〕/③法律の根拠が要る・条例でも作れる・実力は必要最小限度〔昭48〕/④続くものは取消訴訟+執行停止・一瞬のものは国家賠償・損失補償) 図:まとめ

  • 問い①=義務を課さず実力を使う手段は即時強制〔即時執行〕
  • ②見分けは義務を命じる段の有無〔レッカー・違反広告物〕
  • ③法律の根拠が要る・条例でも作れる・実力は必要最小限度〔昭48〕
  • ④続くものは取消訴訟+執行停止・一瞬のものは国家賠償・損失補償

冒頭の4つの問いに戻ります。まず1つ目は、義務を課さずに実力を使う手段は、即時強制です。即時執行とも言います。2つ目、見分けは、義務を命じる段が先にあるか、です。レッカー移動も、違反広告物も、この問いで整理しました。3つ目、法律の根拠が要ります。義務の履行確保の手段ではないので、条例でも作れます。ただし実力は必要最小限度で、まず促し、応じないなどやむをえないときに、具体的事情に応じて用います。4つ目、続くものは、取消訴訟を執行停止と合わせて、一瞬のものは、国家賠償、適法な損失は損失補償です。

持ち帰る型(命令の段が無い=即時強制/長く続く類型には時間の上限・勧告などの手続/実力は必要最小限度=鉄道係員の判決/続くものは取消訴訟+執行停止・一瞬のものは国家賠償・適法な損失は損失補償) 図:持ち帰る型

  • 命令の段が無い=即時強制
  • 長く続く類型には時間の上限・勧告などの手続
  • 実力は必要最小限度=鉄道係員の判決
  • 続くものは取消訴訟+執行停止・一瞬のものは国家賠償・適法な損失は損失補償

覚えておきたいのは、型です。命令の段が無いのが、即時強制です。長く続く類型には、時間の上限や事前の勧告のような手続が付きます。実力は必要最小限度で、鉄道係員の判決がその基準を示しました。適法な措置で外側の物を壊せば、損失補償です。地図に戻ります。守らせる手段のAは、義務の履行を強制する方向、Bは、過去の違反への制裁、そして今日、Cが埋まりました。

参照条文

  • 道路交通法51条1項
  • 道路交通法51条2項・3項
  • 屋外広告物法7条4項(定義のかっこ書きは…で省略)
  • 屋外広告物法7条4項1号・2号
  • 鉄道営業法42条1項
  • 警察官職務執行法1条2項
  • 警察官職務執行法3条1項
  • 警察官職務執行法4条1項
  • 警察官職務執行法5条1項
  • 警察官職務執行法6条1項
  • 警察官職務執行法7条1項
  • 警察官職務執行法7条1項1号・2号
  • 出入国管理及び難民認定法39条の2
  • 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律19条1項・3項
  • 銃砲刀剣類所持等取締法11条8項
  • 消防法29条1項〜3項

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