課徴金と加算税
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第7章 行政調査・義務履行確保・行政罰 #98/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
罰金を払っても利益が残る
図:今日の3つの問い
- 問い1=違反で得た利益を取り上げる仕組みを何というか
- 問い2=申告を少なく書いた納税者に行政は何を課せるか
- 問い3=同じ行為に刑罰と両方科されたら二重処罰ではないのか
- 設例=談合の事業者A・B・C・個人事業者F・不当表示の小売店
前に、代執行、強制徴収、直接強制、執行罰を見ました。前回は、名前を出す公表と、水を止める給付拒否も見ました。今日は、お金の負担で違反を抑える手段です。設例から入ります。入札で競争するはずの事業者A、B、Cが、示し合わせて、落札の値段を高く決めました。こうして上乗せした利益が、罰金より大きければ、どうなるでしょうか。罰金の額が、違反で得た利益より小さければ、払った後も利益が手元に残り、違反が割に合ってしまいます。しかも刑罰は、警察と検察が動いて、はじめて科されます。前に刑罰の弱点として見たとおり、行政が自分で科せる手段ではありません。そこで、行政が自分で、違反で得た利益を取り上げる仕組みが作られました。もうひとつ、税の世界には、申告を怠ったり偽ったりした人に、税額への上乗せを課す仕組みがあります。この2つが、今日の主役の、課徴金と加算税です。問いは3つです。1つ目、違反で得た利益を取り上げる仕組みを、何というか。2つ目、申告を少なく書いた納税者に、行政は何を課せるのか。3つ目、同じ行為に、刑罰と、こうした金銭の負担の両方を科したら、二重処罰にならないのか。3つ目だけ、先に結論を言います。二重処罰には、なりません。刑罰とは、趣旨と性質が違うからです。理由は、本編で確かめます。
課徴金とは——利得を残させない
図:課徴金の定義
- 定義=違法行為で法の予定しない利得を得た者に、その利益を帰属させないために国が徴収する金銭
- 刑罰ではない
- 代表例=独占禁止法〔カルテル・談合〕・金融商品取引法〔インサイダー取引など〕・公認会計士法・景品表示法〔不当表示〕
- 出発点=刑罰だけでは利益が手元に残る
課徴金の定義です。違法な行為で得た、法の予定しない利益を、国が取り上げて、手元に残させないための金銭です。刑罰ではありません。違反を抑える、行政上の手段として働きます。代表例は、独占禁止法の、カルテルや談合です。ほかに、金融商品取引法の、インサイダー取引など、公認会計士法、景品表示法の、不当表示にも、課徴金があります。独占禁止法に課徴金が入ったのは、刑罰だけでは、カルテルを抑える効果が十分でなかったからです。罰金を払っても利益が残る。この弱点を、行政が自分で利益を取り上げることで埋めました。同じ「課徴金」でも、財政法の課徴金とは別の言葉です。財政法3条の課徴金は、国が国権に基づいて収納する金銭の負担のうち、租税を除いたものを広く指す語です。今日の課徴金は、違反を抑えるための金銭ですから、区別してください。
図:談合の3社と公正取引委員会
- A・B・C=事業者
- D=公正取引委員会
- A・B・C→示し合わせて値段を決める
- D→A・B・C:課徴金の納付を命じる
設例に戻ります。事業者A、B、Cの談合に対して、公正取引委員会が、違反の期間の売上額に応じた額を、国に納めなさいと命じます。ここが刑罰との違いで、裁判所を通さずに、行政が自分で命じます。問いです。課徴金は、刑事裁判で科されるのでしょうか。刑罰ではないので、刑事裁判ではなく、公正取引委員会が命じるのだと思います。行政機関が、行政の手続で命じます。では、条文を読みます。独占禁止法の規定ですから、個別の法律として、骨格だけ読みます。
条文独占禁止法7条の2第1項
独占禁止法第7条の2第1項 事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約であつて、商品若しくは役務の対価に係るもの又は商品若しくは役務の供給量若しくは購入量、市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、第一号から第三号までに掲げる額の合計額に百分の十を乗じて得た額及び第四号に掲げる額の合算額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
図:課徴金の算定の骨格
条文の、不当な取引制限とは、事業者A、B、Cのように、示し合わせて値段などを決めることです。骨格だけ押さえます。違反行為の実行期間の売上額に、10パーセントをかけた額が、課徴金です。条文は、命じなければならない、と書いていますから、公正取引委員会が、やるかやらないかを選ぶ形ではありません。額が100万円未満のときだけ、命じられません。2項に、中小企業の特例があります。一定の規模以下の事業者は、10パーセントではなく、4パーセントです。事業者A、B、Cに戻します。談合の期間の売上が、それぞれ10億円なら、課徴金はそれぞれ1億円、と計算します。数字は、骨格をつかむための単純な例です。実際の算定は、政令で定める細かい方法に従います。
利益ではなくて、売上に10パーセントなんですか。そこが特徴です。実際の利益を細かく計算せず、売上額を基準にして、機械的に算定します。だから、利益を取り上げる仕組みですが、額は、利益と一致するとは限りません。この食い違いが、次の節の主題につながります。
利得のはく奪から制裁へ
図:はく奪から制裁へ
- もと=儲けすぎた分を取り上げる→今=利得を超える額まで引上げ→制裁の性格が強まった〔と指摘される〕
- かつては利得を超えると制裁になり39条の二重処罰にあたるという考えから低く抑えられた
- 結論はこの回の後半で
課徴金は、もとは、儲けすぎた分を取り上げる、という趣旨でした。ところが、その額は、利得を超える水準まで引き上げられてきました。そのため、規定を守らせるための制裁としての性格が強まった、と指摘されています。事業者Aで言えば、談合で上乗せした利益が5000万円だったとしても、課徴金は売上の10パーセントで、1億円です。取り上げる額が、得た利益を超えます。これが、制裁の色が濃くなる、ということです。かつては、額が利得を超えれば、それは制裁になり、憲法39条の二重処罰にあたる、という考えがありました。この考えから、額が低く抑えられてきた、と説明されます。この緊張は、あとの節で結論を確かめます。その前に、課徴金の周りに置かれた仕組みを3つ見ます。ひとつ目は、減免です。
図:課徴金の減免
- 調査開始前に最初に申告=命じられない〔7条の4第1項〕
- 2番目=20%減額
- 3番目から5番目=10%減額
- 6番目以降=5%減額〔同条2項〕
- 申告を競わせて談合の発見を助ける設計
自分から違反を申告し、資料を出した事業者は、課徴金が減らされたり、免除されたりします。リーニエンシーと呼ばれます。独占禁止法7条の4です。調査が始まる前に、最初に申告した事業者は、課徴金を命じられません。2番目は20パーセントの減額、3番目から5番目までは10パーセントの減額、6番目以降は5パーセントの減額です。設計の狙いは、順位で差をつけることです。談合は、外から見えません。だから、仲間を出し抜いてでも、先に申告したほうが得になるようにして、申告を競わせ、談合の発見を助けます。問いです。談合の3社のうち、調査が始まる前に、最初に申告した会社の課徴金は、どうなるでしょうか。
減額ではなくて、命じられない、でした。調査開始前の最初の申告者は、課徴金を全額免除されます。ただし、調査開始日以後は違反行為をしていないことも条件です。ふたつ目は、罰金との調整です。同じ事件で、罰金刑が確定している場合のために、独占禁止法が、自分で調整の規定を置いています。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。
条文独占禁止法7条の7第1項
独占禁止法第7条の7第1項 公正取引委員会は、第七条の二第一項の場合において、同一事件について、当該事業者に対し、罰金の刑に処する確定裁判があるときは、同条、第七条の三、第七条の四第二項若しくは第三項又は第七条の五第三項の規定により計算した額に代えて、その額から当該罰金額の二分の一に相当する金額を控除した額を課徴金の額とするものとする。ただし、第七条の二、第七条の三、第七条の四第二項若しくは第三項若しくは第七条の五第三項の規定により計算した額が当該罰金額の二分の一に相当する金額を超えないとき、又は当該控除後の額が百万円未満であるときは、この限りでない。
図:罰金との調整
- 課徴金の額から罰金額の1/2を控除
- 算定額が罰金の1/2以下→命じない
- 控除後100万円未満→命じない〔2項〕
- 刑罰と課徴金が重なる場面に法が自分で調整を置いた
事業者Aに、課徴金が1億円と算定され、さらに罰金2000万円の確定裁判があるとします。課徴金の額は、罰金の半分の1000万円を引いた、9000万円になります。刑罰と課徴金が重なる場面に、法律が自分で調整を置いている。これは、両方を科すことが、重い負担になりうると、法が意識している表れだと読めます。細かい除外は、条文の骨格を押さえれば足ります。みっつ目に、景品表示法の課徴金を見ます。
図:景品表示法の課徴金
- 不当表示〔優良誤認・有利誤認〕→対象期間の売上額×3%
- 相当の注意を怠らなかった者には命じない・150万円未満は命じない
- 返金措置〔認定を受けた計画で被害者へ返金〕→交付額が課徴金から減額
- 抑止+被害者救済を促す
別の設例です。ある小売店が、実際より著しく安いかのように、価格を表示して売ったとします。景品表示法の不当表示にあたります。この場合の課徴金は、対象の期間の売上額の3パーセントです。景品表示法8条1項です。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。
条文景品表示法8条1項
景品表示法第8条第1項 事業者が、第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。以下「課徴金対象行為」という。)をしたときは、内閣総理大臣は、当該事業者に対し、当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、当該事業者が当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が次の各号のいずれかに該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき、又はその額が百五十万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
図:景品表示法の課徴金
- 不当表示〔優良誤認・有利誤認〕→対象期間の売上額×3%
- 相当の注意を怠らなかった者には命じない・150万円未満は命じない
- 返金措置〔認定を受けた計画で被害者へ返金〕→交付額が課徴金から減額
- 抑止+被害者救済を促す
違反を知らず、相当の注意も怠っていなかった事業者には、命じません。また、150万円に満たない額のときも、命じません。特徴は、返金措置です。この店が、被害を受けた客に返金する計画を立て、認定を受けて実施すると、返した額が、課徴金から減額されます。独占禁止法では、違反を抑止する、という性格が前面にありましたが、景品表示法は、被害者の救済を促す仕組みも組み込んでいます。課徴金の算定の本則は独占禁止法で10パーセント、景品表示法では3パーセントです。ここまでは、課徴金の話でした。
加算税——申告納税制度を支える特別の負担
図:前回までの確認
話が税に移ります。前に通達を見たとき、国税通則法65条の過少申告加算税を見ました。正当な理由があるときは課されない、という定めがありました。通達の取扱いを変えたときに、何が欠けていたでしょうか?国民に、変更が周知されていなかった点でした。今日は、この加算税を、4種類の体系に広げます。
図:申告納税制度と加算税
- 申告納税制度=納税者が自分で申告して納める
- 徴収納付制度=源泉徴収した税を徴収義務者が納める
- 義務違反→加算税〔附帯税・名前は税でも実質は行政上の不利益措置〕
日本の税は、納税者が自分で税額を計算して、申告して納める、申告納税制度が基本です。給与から天引きする源泉徴収のように、徴収した人が、国に納める仕組みもあります。どちらも、本人や徴収する人が、義務を守ることが前提です。その義務を守らせる仕組みが、加算税です。加算税は、納税義務者の義務違反に対して課される、特殊な税です。名前は税ですが、本来の意味での租税ではなく、実質は、行政上の不利益措置です。国税通則法は、延滞税などと並べて、附帯税、つまり本来の税に付け加えて課される税として、定めています。
図:加算税4種と義務違反の対応
- 過少申告加算税=65条・申告した額が少なかった・基本10%
- 無申告加算税=66条・申告しなかった・基本15%
- 不納付加算税=67条・源泉徴収した税を納めなかった・基本10%
- 重加算税=68条・隠ぺい仮装があった場合に通常の加算税に代えて課す・35%と40%
4種類を、どの義務違反に対応するかで整理します。過少申告加算税は、65条で、申告した額が少なかった場合です。無申告加算税は、66条で、そもそも申告しなかった場合です。不納付加算税は、67条で、源泉徴収した税を納めなかった場合です。最後に、重加算税が68条で、隠ぺいや仮装があった場合です。基本の率は、過少申告と不納付が10パーセント、無申告が15パーセントです。重加算税は、隠ぺい、仮装があった場合に、通常の加算税に代えて課されます。過少申告や不納付に代わる場合は35パーセント、無申告に代わる場合は40パーセントです。率には、加重や除外の細かい定めがありますが、基本の率で足ります。
図:個人事業者Fと税務署長
- F=個人事業者/G=税務署長/F→G:確定申告
- ①計算を誤って少なく申告→過少申告加算税
- ②申告しなかった→無申告加算税
- ③帳簿を作り替えて売上を隠した→重加算税
設例です。個人事業者Fの確定申告です。1つ目、計算を間違えて、少なく申告した。これは、過少申告加算税です。2つ目、そもそも申告しなかった。これは、無申告加算税です。3つ目、取引の帳簿を作り替えて、売上を隠したうえで申告した。これは、重加算税です。問いです。帳簿を偽って申告額を減らした場合の加算税は、何でしょうか。過少申告加算税ではなくて、重加算税ですね。条文を読みます。個別の法律ですから、骨格だけ読みます。
条文国税通則法68条1項
国税通則法第68条第1項 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、かつ、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書又は第二十三条第三項(更正の請求)に規定する更正請求書(次項において「更正請求書」という。)を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
要点は2つです。ひとつは、隠蔽し、又は仮装し、かつ、その偽ったところに基づいて申告した、という要件です。もうひとつは、過少申告加算税に代え、と書いていることです。重加算税は、過少申告加算税と並べて足すのではなく、置き換わります。この、代えて、が、次の節の判例の鍵になります。
重加算税は通常の加算税を含む
図:重加算税の包含
- 問い=隠ぺい・仮装が認められなかったら重加算税の決定は全部取り消されるか
- 重加算税=通常の加算税〔過少申告加算税〕+加重事由〔隠ぺい・仮装〕の上乗せ
- 加重事由が認められなければ通常の加算税の額の範囲では適法に残る=超える部分だけ取消
- 単純化=基礎100万円・重35万円・通常10万円→25万円分を取消
問題です。個人事業者Fが、重加算税の決定を受けました。Fは、隠ぺいも仮装もしていない、と争い、その主張が認められたとします。このとき、重加算税の決定は、全部取り消されるのでしょうか。それとも、過少申告加算税の分は残るのでしょうか。隠ぺいが否定されれば決定がまるごと消える、と考えたくなりますが、判例の理解は違います。最高裁は、重加算税と通常の加算税を、別々の独立した処分とは見ず、重加算税の賦課処分、つまりいま言った、重加算税を課す決定は、通常の加算税の賦課に当たる部分を含んでいる、と解したとされています。この結論を理解する筋は、判例の言葉ではなく、先ほどの68条1項の、代えて、という構造から説明できます。代える、といっても、別の税を持ってくるのではありません。過少申告加算税と同じ基礎の税額に、10パーセントの代わりに、35パーセントを掛けるのです。ですから、隠ぺい、仮装があった部分については、重加算税の額の中に、過少申告加算税の額が、まるごと入っています。重加算税は、通常の加算税に、隠ぺい、仮装という悪質さの事由が上乗せされたものです。上乗せの事由が認められなくても、土台の部分は、適法に残ります。取り消されるのは、土台を超える、上乗せの部分だけです。単純化のため、基本の率だけで考えます。Fの過少申告の基礎になる税額が100万円なら、重加算税は35万円です。隠ぺいが認められず、単なる過少申告だったなら、過少申告加算税にあたる10万円までは残り、超える25万円分が取り消されます。
逆に、そもそも申告額が正しく、過少申告が無かったなら、土台の部分も無いので、重加算税の決定は全部取り消されます。残るのは、過少申告という土台がある場合だけです。
刑罰と併せて科してよいか——憲法39条
図:併科の論理
- 脱税=重加算税+罰金〔刑罰〕の両方を科せるか
- 憲法39条=刑事上の責任を重ねて問うことを禁じる
- 加算税が刑事上の責任=刑罰なら問題
- 刑罰でなく行政上の措置なら39条の問題は生じない→問いは「加算税は刑罰か」
脱税は、所得税法や法人税法で、刑罰の対象でもあります。Fが帳簿を偽って脱税し、罰金を科されたうえで、さらに重加算税も課されたら、憲法39条の二重処罰の禁止に反しないでしょうか。その前に、思い出してください。憲法の回で見た、憲法39条の前段後半と後段は、何を禁じていましたか?同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問うことでした。条文を、全文で読み直します。
条文日本国憲法 39条
日本国憲法第39条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
39条が禁じるのは、刑事上の責任を、重ねて問うことです。ですから、問いの組み立ては、こうなります。重加算税が、刑事上の責任、つまり刑罰なら、罰金との併科は問題になります。刑罰ではなく、行政上の措置なら、39条の問題は、そもそも生じません。だから、問いは、加算税は刑罰か、です。この問いに答えたのが、最高裁の大法廷判決です。憲法の回で見た、追徴税と罰金の判決です。追徴税は、今の加算税の前身にあたる制度です。この事件で問われた追徴税は、今でいう重加算税にあたるものでした。当時の法人税法の43条が定めていた追徴税が、法人に課されたうえ、罰金も科されるのは二重処罰だと争われた事件です。判旨を読みます。
判例最大判昭和三十三年四月三十日 民集12巻6号938頁
追徴税と罰金の併科 法四三条の追徴税は、単に過少申告・不申告による納税義務違反の事実があれば、同条所定の已むを得ない事由のない限り、その違反の法人に対し課せられるものであり、これによつて、過少申告・不申告による納税義務違反の発生を防止し、以つて納税の実を挙げんとする趣旨に出でた行政上の措置であると解すべきである。 法が追徴税を行政機関の行政手続により租税の形式により課すべきものとしたことは追徴税を課せらるべき納税義務違反者の行為を犯罪とし、これに対する刑罰として、これを課する趣旨でないこと明らかである。追徴税のかような性質にかんがみれば、憲法三九条の規定は刑罰たる罰金と追徴税とを併科することを禁止する趣旨を含むものでないと解するのが相当であるから…
そして、刑罰の側は、同じ判決が、脱税者の不正行為の反社会性ないし反道義性に着目して、これに対する制裁として科されるもの、と位置づけています。着目点が違う、ということです。次は、国税通則法ができたあとの、重加算税についての判決です。最高裁の第二小法廷の判決で、先ほどの大法廷判決を引いて、その趣旨を重加算税に及ぼしました。脱税について、重加算税のほかに刑罰も科されるのは二重処罰だと争われた事件です。
判例最判昭和四十五年九月十一日 刑集24巻10号1333頁
重加算税と刑罰の併科 国税通則法六八条に規定する重加算税は、同法六五条ないし六七条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が課税要件事実を隠ぺいし、または仮装する方法によつて行なわれた場合に、行政機関の行政手続により違反者に課せられるもので、これによつてかかる方法による納税義務違反の発生を防止し、もつて徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であり、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科せられる刑罰とは趣旨、性質を異にするものと解すべきであつて、それゆえ、同一の租税逋脱行為について重加算税のほかに刑罰を科しても憲法三九条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判決の趣旨とするところである
図:併科が許される理由
- ①刑罰=反社会性・反道義性に着目した制裁
- ②加算税=納税義務違反の発生を防ぎ納税の実を挙げる行政上の措置
- ③手続=行政機関が行政手続で課す→趣旨・性質・手続が違う→併科は39条に反しない/決め手=何に着目して科すか
理由づけを3つにまとめます。ひとつ目、刑罰は、反社会性、反道義性に着目した制裁です。ふたつ目、加算税は、納税義務違反の発生を防いで、納税の実を挙げる行政上の措置です。みっつ目、手続も違い、加算税は行政機関が、行政の手続で課します。趣旨、性質、手続が違うので、併科しても39条に反しない、という筋です。決め手は、何に着目して科すか、です。罰金は、その行為がどれだけ悪いか、という非難を向けて科します。加算税は、申告という義務の履行を確保するために、義務違反に対して上乗せをします。同じ脱税という出来事に、別々の目的で、別々の機関が、別々の手続で、金銭の負担を課している、というわけです。Fで言えば、罰金は、帳簿を作り替えたFの悪さを非難するものです。重加算税の35万円は、自分で正しく申告するという仕組みを、Fが壊したことへの上乗せです。逆の側も置きます。もし加算税が、行為の悪さを非難する刑罰だったなら、罰金と重ねて科すことは、同じ犯罪を重ねて罰することになり、39条の問題が生じます。判例は、加算税はその型の制裁ではない、と見たわけです。たとえば、Fが同じ脱税で、もう一度刑事裁判にかけられ、2度目の罰金を科されたら、それは39条が禁じる、重ねての処罰です。問いです。重加算税を課された脱税者に、さらに罰金を科すのは、憲法39条違反でしょうか。
趣旨、性質が違うから、違反ではない、ですね。判例は、違反でないとします。ここは論文でも論点になりうる部分で、2つの判決から整理すると、39条の刑事上の責任にあたるかは、その制裁の趣旨、性質、手続で判断する、という枠組みです。ただし、この2つの判決が判断したのは、加算税やその前身と、罰金の組み合わせです。課徴金と罰金については、次の節で見ます。
課徴金と罰金の併科と、残る問い
図:課徴金と罰金
- 独禁法違反で罰金刑が確定+国から不当利得の返還を求める民事訴訟も提起された事業者に課徴金の納付を命じても、憲法39条・29条・31条に反しない=最高裁は理由を詳しく述べず先の大法廷判決の趣旨に徴して明らかとした
- 学説の説明=課徴金も違反抑止を目的とする行政上の措置→刑罰とは趣旨・目的・手続が違う
課徴金にも、同じ筋が使われました。最高裁は、独占禁止法違反で罰金刑が確定し、国から不当利得の返還を求める民事訴訟も起こされている事業者に、さらに課徴金の納付を命じても、憲法39条、財産権の29条、適正手続の31条に反しないことは、先ほどの大法廷判決の趣旨に徴して明らかだ、としたとされています。ただし、最高裁は、理由を詳しく述べていません。学説は、課徴金も、違反を抑えることを目的とする行政上の措置で、刑罰とは、趣旨、目的、手続が違う、と説明します。さきの大法廷判決の筋に乗せた説明です。
図:残る問い
- 趣旨・目的・手続が違うから二重処罰ではない→金額が大きくなり制裁の性格が強くなったとき、どこまで保つか
- 法が自分で置いた調整=独禁法7条の7〔罰金の1/2を控除〕
- 学説=39条を二重訴追の禁止に限り併科の当否は罪刑の均衡〔比例原則〕で見る
課徴金が、利益を超える額まで大きくなってきたのに、それでも制裁ではない、と言えるんでしょうか。そこが、残る問いです。判例の説明は、趣旨、目的、手続が違うから、二重処罰ではない、というものでした。ところが、課徴金は、利益のはく奪から、制裁の色が濃い額へ引き上げられてきた、と指摘されます。事業者Aでは、利益5000万円に対して、課徴金は1億円でした。金額が大きくなり、制裁の性格が強くなったとき、この説明は、どこまで保つのか、という問いです。この問いに関わる規定が、さきの独占禁止法7条の7です。罰金が確定したときは、課徴金の額から、罰金の半分を引く。法が、自分で調整を置いたのです。ほかに、39条を、憲法の回で見た二重の危険の禁止として、同じ行為で刑事裁判に二度かけられないこと、つまり二重訴追の禁止に限って読み、併せて科してよいかは、39条ではなく、罪の重さと負担の重さが釣り合っているか、つまり比例原則で見る、と整理する学説もあります。問われるのは、合わせた額が重すぎないか、です。問いです。課徴金は、利得を超える額でも、39条に反しないのでしょうか。
判例は、行政上の措置として、反しないとします。ただし、額が大きいほど制裁性が問われます。調整の規定も置かれています。過料と刑罰の併科は、別の回で扱います。
制裁の一覧表とまとめ
図:制裁の一覧
- 行政刑罰=科す者は裁判所・手続は刑事裁判・目的は反社会性への制裁
- 過料=裁判所または長・非訟事件手続または長の処分・秩序の維持
- 課徴金=行政機関〔公取委など〕・行政の手続・利得のはく奪と違反抑止
- 加算税=税務署長など・行政の手続・納税義務の履行確保
- 制裁的公表=行政機関〔条例などによる〕・条例などの手続・従わせる圧力
最後に、制裁を1枚の表にします。軸は、だれが科すか、どの手続か、何のためか、の3つです。行政刑罰は、裁判所が、刑事裁判で科します。目的は、反社会性への制裁です。過料は、刑罰ではない、お金の制裁です。法律に違反したときは、裁判所が、刑事裁判ではない、簡単な手続、非訟事件の手続で科します。条例に違反したときは、市長や知事といった、自治体の長が、処分で科します。目的は、届出を怠るような軽い違反を防いで、秩序を保つことです。課徴金は、公正取引委員会などの行政機関が、行政の手続で命じます。目的は、利得のはく奪と、違反の抑止です。加算税は、税務署長などが、行政の手続で課します。目的は、納税義務の履行の確保です。制裁的公表は、前回の、命令に従わない店の名前を出す公表です。行政の事実行為で、条例などの手続に基づき、従わせる圧力として働きます。
図:まとめ
- 1=課徴金は違反で得た利得を残させないための行政上の金銭・独禁法10%〔中小4%〕・景表法3%・減免と罰金との調整
- 2=加算税4種=過少65・無申告66・不納付67・重加算68〔代えて〕
- 3=重加算税は通常の加算税を含む
- 4=趣旨・性質・手続が違うから刑罰と併科しても39条に反しない
- 5=課徴金と罰金の併科も同じ筋・金額が大きいと制裁性が問われる
では、冒頭の3つの問いに戻ります。1つ目、違反で得た利益を取り上げる仕組みは、課徴金です。公正取引委員会などの行政機関が、行政の手続で命じます。独占禁止法では売上額の10パーセント、景品表示法では3パーセントです。2つ目、申告を少なく書いた納税者には、過少申告加算税が課されます。帳簿を偽るなど、隠蔽や仮装があれば、過少申告加算税に代えて、重加算税です。加算税は、過少申告、無申告、不納付、重加算税の4種類です。3つ目、刑罰と併せて科しても、憲法39条に反しません。刑罰は、反社会性、反道義性に着目した制裁で、加算税は、違反の発生を防ぐ行政上の措置だからです。課徴金と罰金の併科も、最高裁は、同じ大法廷判決の趣旨に徴して明らかだとしました。学説は、趣旨、性質、手続が違うと説明します。ただし、金額が大きいとき、制裁性が問われますので、独占禁止法7条の7のような調整規定も置かれています。暗記では、課徴金は、はく奪から制裁へ、加算税は4種、重加算税は通常の加算税を含む、そして、趣旨、性質が違うから39条に反しない、の4点を押さえてください。
参照条文
- 独占禁止法7条の2第1項
- 独占禁止法7条の7第1項
- 景品表示法8条1項
- 国税通則法68条1項
- 日本国憲法 39条