行政法ゼロから行政法#87

任意調査の限界と所持品検査・一斉検問

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第7章 行政調査・義務履行確保・行政罰 #87/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

かばんを開けてよいか

夜の駅前(場面=通行人Bが、警察官Aに呼び止められた/A「かばんの中を見せてもらえますか」/B「お断りします」/問い=①Aは、承諾なしにかばんを開けてよいか ②開けて覗くのと、手を入れて取り出すのは同じか) 図:夜の駅前

  • 場面=通行人Bが、警察官Aに呼び止められた
  • A「かばんの中を見せてもらえますか」
  • B「お断りします」
  • 問い=①Aは、承諾なしにかばんを開けてよいか ②開けて覗くのと、手を入れて取り出すのは同じか

かばんの中を見せてほしい、と頼まれても、断れます。問題は、断ったあとです。警察官Aが、通行人Bのかばんを、Bの承諾なしに開けて覗いたとします。さらに、かばんに手を入れて、中の物を取り出したとします。この2つは、同じ扱いでしょうか。承諾が無いとき、どこまでなら許され、どこから違法になるか。その線の引き方が、今日の中心です。先に結論の一部を言います。判例には、開けて覗いた行為を適法とした例と、手を入れて取り出した行為を違法とした例があります。しかも、どちらの事件でも、調べる必要性そのものは認められています。必要性があっても、越えてはならない線があるのです。その線を決めるものは何か。2つの判例を並べて、自分の言葉で言えるようにします。あわせて、道路での一斉検問が、この問いとどうつながるかも見ます。

任意調査の建前と、限界の問い

前回の確認と今日の問い(任意調査=拒まれたら説得するだけ・何も起きない→法律の根拠は不要・ただし限界あり/建前=相手の承諾/困る場面=凶器を持つ疑いのある人が、黙って所持品を見せない/今日の問い=承諾が無いのに、どこまで踏み込んでよいか) 図:前回の確認と今日の問い

  • 任意調査=拒まれたら説得するだけ・何も起きない→法律の根拠は不要・ただし限界あり
  • 建前=相手の承諾
  • 困る場面=凶器を持つ疑いのある人が、黙って所持品を見せない
  • 今日の問い=承諾が無いのに、どこまで踏み込んでよいか

前の回の内容を思い出します。調査を拒まれたとき行政に何ができるか、で3つに分けました。応じなくても何も起きない調査は、何と呼びましたか。また、その調査に、法律の根拠は要りましたか。任意調査です。説得はできますが、実力で排除することも、応じない人を処罰することもできません。根拠は要らないけれど、限界がある、と聞きました。今日は、その限界の中身です。任意調査の建前は、相手の承諾です。お願いして、応じてもらう。断られたら、説得する。ここまでなら、何も問題は起きません。ところが、断られて引き下がるだけでは、目的が果たせない場面があります。たとえば、凶器を持っているかもしれない人が、黙ったまま、所持品を見せない。ここで引き下がれば、危険を見逃すかもしれません。

だからといって、承諾なしに開けてしまったら、それは強制ではないのですか。そこが、問いの核心です。承諾が無いのに踏み込むなら、実質は強制ではないのか。強制なら、法律の根拠が要るはずではないか。この問いを、警察官の所持品検査という具体的な場面で見ます。

職務質問の条文——所持品を調べる明文は無い

職務質問の条文の読み方(警察官職務執行法2条1項=①対象者〔異常な挙動等から合理的に判断して、犯罪を犯し・犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者/犯罪について知っていると認められる者〕②できること〔停止させて質問すること〕/3項=質問の相手は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束されず、意に反して連行されず、答弁を強要されない/所持品を調べることを定めた明文=無い) 図:職務質問の条文の読み方

  • 警察官職務執行法2条1項=①対象者〔異常な挙動等から合理的に判断して、犯罪を犯し・犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者/犯罪について知っていると認められる者〕②できること〔停止させて質問すること〕
  • 3項=質問の相手は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束されず、意に反して連行されず、答弁を強要されない
  • 所持品を調べることを定めた明文=無い

出発点の条文を見ます。警察官が、街で人を呼び止めて質問する権限の根拠です。

条文警察官職務執行法2条1項

警察官職務執行法第2条第1項 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。

押さえる点は2つです。1つ目、対象者。異常な挙動などから合理的に判断して、犯罪を犯し、または犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者。あるいは、犯罪について知っていると認められる者です。2つ目、できること。停止させて質問することです。権限は、ここまでです。答えを強いることはできません。同じ条の3項が、質問を受ける者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束されたり、意に反して警察署などに連行されたり、答弁を強要されたりしない、と定めています。ここで、条文をもう一度見てください。書いてあるのは、停止させて質問する、までです。所持品を調べてよい、とは書いてありません。

所持品について質問する、見せてくださいと頼む。ここまでは、2条1項の範囲です。ただし、相手が断ったときに、開けて調べる行為は、条文に書かれていません。なお、同じ条の4項に、調べる定めがありますが、逮捕された者の凶器の有無を調べるだけです。街で呼び止めた人への、一般的な定めではありません。所持品を調べてよいと定めた条文は無い。判例は、そこから出発します。次の節で見ます。

所持品検査の判断の枠組み

所持品検査の判断の流れ(①職務質問に付随して行える〔質問と密接に関連し、効果をあげるうえで必要性・有効性がある〕②任意手段だから、所持人の承諾を得てその限度で行うのが原則③承諾が無くても、一切許されないわけではない→入口の2条件〔捜索に至らない程度の行為/強制にわたらない〕をくぐったうえで、秤〔必要性・緊急性 と 害される個人の法益/保護されるべき公共の利益 の権衡〕にかけ、具体的状況のもとで相当と認められる限度でのみ許される) 図:所持品検査の判断の流れ

最高裁は、3段で考えました。まず1段目と2段目です。

判例最判昭53・6・20 刑集32巻4号670頁

所持品検査の根拠と原則 警職法は、その二条一項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。

1段目。所持品検査は、質問と密接に関連し、質問の効果をあげるのに必要で有効だから、職務質問に付随して行える場合がある。付随とは、本体の質問のおまけとして、くっついて行える、という意味です。「何を持っていますか」と質問するなら、「見せてください」と頼む動作は、質問の延長にあります。2段目。任意の手段だから、所持人の承諾を得て、その限度で行うのが原則です。ここまでは、任意調査の建前のままです。承諾が無ければ一切できない、とは、判例はしませんでした。3段目です。

判例最判昭53・6・20 刑集32巻4号670頁

承諾が無くても許される場合 しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であつて、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。

承諾が無い限り一切許されない、と解するのは相当でない、としました。理由は、警察の責務です。犯罪の予防や鎮圧を目的として、次々に起きる事態に、迅速に対応しなければならない。たとえば、凶器を持っているかもしれない人が、黙って立ち去るのを、ただ見送るしかない、という場面を考えてみてください。ただし、無制限ではありません。続きを読みます。

判例最判昭53・6・20 刑集32巻4号670頁

許される範囲の限定 もつとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法三五条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であつてもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであつて、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。

順に分けます。憲法35条は、所持品について捜索や押収を受けない権利を保障しています。捜索に至らない程度の行為でも、受ける人の権利を害します。だから、どんな状況でも許される、とは言えません。判決が「限定的な場合において」「のみ」許容される、と言っている点に注意してください。ここから、判断の物差しが見えてきます。喩えます。駅の改札と、天秤です。この改札が、入口の2条件です。1つ目、捜索に至らない程度の行為であること。2つ目、強制にわたらないこと。この改札をくぐれない行為は、承諾なしにはそもそも許されません。くぐれた行為だけが、天秤に乗ります。天秤の片方は、必要性と緊急性。もう片方は、害される個人の法益です。守るべき公共の利益との釣り合い、つまり権衡を見ます。必要性と不利益を量る点で、前に扱った比例原則と同じ発想です。そのうえで、具体的な状況のもとで、相当と認められる限度かどうかを決めます。

刑事手続で使われる物差しが、行政調査の側で借りられています。捜索は、プライバシーを強く害する探索。強制は、強い実力の行使、というイメージです。この言葉の中身は、刑事訴訟法の側で詳しく扱われます。今日は、物差しとして使えれば足ります。前の回の3分類でいえば、所持品検査も一斉検問も、任意調査の側に置かれます。強制にわたらない、とは、その枠を越えて強制の側に入らない、という意味です。

⭐ 論文で書く規範:【規範】捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、承諾がなくても、限定的な場合において、必要性、緊急性、害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容される (判例が立てた規範(条文に無い基準)/所持品検査の判断の核心)

この規範は、条文には書いていません。判例が立てた基準です。この形で、骨子を覚えてください。

事案1 バッグのチャックを開けて一べつ——適法

事案1の関係(A〔警察官〕とB〔所持人〕/銀行強盗事件が発生・犯人逃走中・猟銃とナイフを持つ4人組/深夜の検問で、手配人相に似た若い男2人を職務質問/2人は黙秘・再三の開披要求を拒否/Aが承諾なく、施錠されていないチャックを開けて内部を一べつ→大量の紙幣が見えた) 図:事案1の関係

  • A〔警察官〕とB〔所持人〕
  • 銀行強盗事件が発生・犯人逃走中・猟銃とナイフを持つ4人組
  • 深夜の検問で、手配人相に似た若い男2人を職務質問
  • 2人は黙秘・再三の開披要求を拒否
  • Aが承諾なく、施錠されていないチャックを開けて内部を一べつ→大量の紙幣が見えた

枠組みを、事案に当てはめます。1つ目の事案です。猟銃とナイフを持った4人組が、銀行を襲って現金を奪い、逃走中でした。緊急の配備がしかれ、深夜の検問の現場で、手配の人相に似た若い男2人が、乗用車に乗っているのが見つかりました。警察官が、職務質問をします。2人は、黙秘しました。警察署でも、バッグを開けるよう再三求められましたが、拒み続けました。そこで巡査長が、承諾を得ないまま、バッグの、施錠されていないチャックを開けて、中を見ました。すると、大量の紙幣が見えた、という事案です。

判例最判昭53・6・20 刑集32巻4号670頁

あてはめ(適法) これを本件についてみると、所論のB巡査長の行為は、猟銃及び登山用ナイフを使用しての銀行強盗という重大な犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において、深夜に検問の現場を通りかかつたA及び被告人の両名が、右犯人としての濃厚な容疑が存在し、かつ、兇器を所持している疑いもあつたのに、警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の開披要求を拒否するなどの不審な挙動をとり続けたため、右両名の容疑を確める緊急の必要上されたものであつて、所持品検査の緊急性、必要性が強かつた反面、所持品検査の態様は携行中の所持品であるバツグの施錠されていないチヤツクを開披し内部を一べつしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく、上述の経過に照らせば相当と認めうる行為であるから、これを警職法二条一項の職務質問に附随する行為として許容されるとした原判決の判断は正当である。

結論は、適法です。理由は、天秤で説明できます。必要性と緊急性は、強いです。重大な犯罪で、濃厚な容疑があり、凶器を持っている疑いもある。しかも、黙秘し、再三の要求を拒み続けました。反対側の、害される法益は、小さいです。施錠されていないチャックを開けて、内部を一べつしたにすぎないからです。強い必要性と、軽い態様。だから、相当と認められました。施錠されたケースをこじ開けるなら、態様が重くなるので、天秤の片方が変わります。なお、この事件には、得た物を証拠として使えるかという、刑事裁判の論点もあります。それは刑事訴訟法の論点です。行政法の問いは、所持品検査として相当かどうか、までです。では、確認です。同じ事件で、巡査長が、バッグを開けて見るだけでなく、上着の内ポケットに手を入れて、中の物を取り出して調べたら、どうでしょう。適法でしょうか、違法でしょうか。

必要性が強ければ適法になるのか。その答えを、次の事案で確かめましょう。

事案2 内ポケットに手を入れて取り出す——違法

事案2の関係(A〔警察官〕とB〔運転者〕/夜・ホテル街の警ら中に、不審な挙動のBを職務質問/運転免許証は他人名義〔後に偽造と判明〕・覚せい剤中毒を疑わせる様子/所持品の提示を拒否・周囲の男が絡み、職務質問に妨害が入りかねない状況/上着の外から触ると、内ポケットに堅い物/Aは「それなら出してみるぞ」と言い、承諾なく内ポケットに手を入れて取り出した) 図:事案2の関係

  • A〔警察官〕とB〔運転者〕
  • 夜・ホテル街の警ら中に、不審な挙動のBを職務質問
  • 運転免許証は他人名義〔後に偽造と判明〕・覚せい剤中毒を疑わせる様子
  • 所持品の提示を拒否・周囲の男が絡み、職務質問に妨害が入りかねない状況
  • 上着の外から触ると、内ポケットに堅い物
  • Aは「それなら出してみるぞ」と言い、承諾なく内ポケットに手を入れて取り出した

もう1つの事案です。夜、ホテル街を警ら中の巡査が、挙動の不審な運転者を見つけ、職務質問をしました。出された運転免許証は、他人の名義で、あとで偽造と分かりました。覚せい剤の中毒を疑わせる様子もありました。所持品の提示を求めても、拒まれました。周りには、男が集まって絡んできて、職務質問に妨害が入りかねない状況でした。巡査が、上着の外から触ると、内ポケットに、堅い物があります。提示を求めても、黙ったままです。そこで巡査は、それなら出してみるぞ、と言って、承諾なく内ポケットに手を入れ、中の物を取り出しました。

判例最判昭53・9・7 刑集32巻6号1672頁

あてはめ(違法) 原判決の認定した事実によれば、B巡査が被告人に対し、被告人の上衣左側内ポケツトの所持品の提示を要求した段階においては、被告人に覚せい剤の使用ないし所持の容疑がかなり濃厚に認められ、また、同巡査らの職務質問に妨害が入りかねない状況もあつたから、右所持品を検査する必要性ないし緊急性はこれを肯認しうるところであるが、被告人の承諾がないのに、その上衣左側内ポケツトに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査した同巡査の行為は、一般にプライバシイ侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類するものであるから、上記のような本件の具体的な状況のもとにおいては、相当な行為とは認めがたいところであつて、職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱したものと解するのが相当である。

結論は、違法です。許される限度を逸脱した、とされました。必要性は、認められているのに、ですか。そこが、この事案の最大のポイントです。判決は、必要性ないし緊急性を、肯認しうる、と認めています。覚せい剤の容疑がかなり濃厚で、妨害が入りかねない状況もありました。それでも違法としたのは、態様です。手を差し入れて取り出して検査する行為は、一般にプライバシー侵害の程度が高く、その態様において捜索に類する、と言いました。改札と天秤のたとえで整理すると、判決が挙げた理由は、2か所に響くと読めます。改札の側では、捜索に類する、という点。天秤の側では、プライバシー侵害の程度が高い、という点です。自前の喩えで確かめます。机の上に置かれた荷物を見ることと、引き出しの奥に手を入れて、中の物を取り出して調べることは、同じではありません。前者は、中に入らず、見るだけ。後者は、相手の持ち物の内側に踏み込みます。内ポケットは、身につけた物の内側です。相手の私的な領域に、深く入ります。

必要性が強くても、態様が重すぎれば、天秤は傾きません。

山場 2つの判例を並べる

2件の比較(軸=①何をしたか:チャックを開けて内部を一べつ/内ポケットに手を差し入れて取り出して検査 ②容疑:銀行強盗+凶器を持つ疑い/覚せい剤の使用・所持の濃厚な容疑 ③必要性・緊急性:強い/肯認しうる ④相手の出方:黙秘・再三の開披要求を拒否/提示を求められても黙ったまま ⑤結論:適法/許容限度を逸脱し違法/分け目=一べつにとどまるか、手を差し入れて取り出して検査するか) 図:2件の比較

  • 軸=①何をしたか:チャックを開けて内部を一べつ/内ポケットに手を差し入れて取り出して検査
  • ②容疑:銀行強盗+凶器を持つ疑い/覚せい剤の使用・所持の濃厚な容疑
  • ③必要性・緊急性:強い/肯認しうる
  • ④相手の出方:黙秘・再三の開披要求を拒否/提示を求められても黙ったまま
  • ⑤結論:適法/許容限度を逸脱し違法/分け目=一べつにとどまるか、手を差し入れて取り出して検査するか

2件を、5つの軸で並べます。何をしたか。容疑。必要性と緊急性。相手の出方。結論です。判決自身が言っていることを、先に整理します。2つの事件とも、必要性と緊急性は、認められています。違いは、態様です。1つ目は、チャックを開けて内部を一べつしたにすぎない。2つ目は、手を差し入れて取り出して検査した。ここが、判決が示した分け目です。容疑の重さは、どう効くのか。判決の文言として言っているのは、態様の違いです。そのうえで、こう読めます。犯罪の重大さと、凶器による危害の切迫度は、天秤の必要性の側を重くする、と読めます。1つ目は、強盗で凶器の疑い。2つ目は、覚せい剤です。ただ、これは判決の言葉ではなく、読み方です。答案では、判決がそう言った、とは書かないでください。試験では、どの行為が、どの理由で適法か、違法か、を1行で言えることが大切です。1行にします。同じ物差しで、開けて見るだけなら、強い必要性のもとで許され、手を差し入れて取り出して検査するなら、必要性があっても、プライバシー侵害の程度が高く、捜索に類するので、限度を超える。

導入のかばんに戻ります。断られても、チャックを開けて一べつするのは、強い必要性があれば、許される場合がある。内ポケットに手を入れて取り出すのは、必要性が認められても、越える。これが、導入の2つの問いへの、今の時点の答えです。

自動車の一斉検問

所持品検査と一斉検問の違い(所持品検査=出発点は、疑いのある個人/職務質問の要件に乗る〔警察官職務執行法2条1項〕/一斉検問=外見から不審かどうか分からない車を、一律に止める/職務質問の要件に乗らない・道路交通法にも、そのまま当てはまる条文が無い/共通=任意の協力を求める形で、承諾なしに踏み込むかが問われる) 図:所持品検査と一斉検問の違い

  • 所持品検査=出発点は、疑いのある個人
  • 職務質問の要件に乗る〔警察官職務執行法2条1項〕
  • 一斉検問=外見から不審かどうか分からない車を、一律に止める
  • 職務質問の要件に乗らない・道路交通法にも、そのまま当てはまる条文が無い
  • 共通=任意の協力を求める形で、承諾なしに踏み込むかが問われる

もう1つの場面です。自動車の一斉検問は、前に判示を読みました。覚えているでしょうか。最高裁は、任意手段なら一般的に許容されるが、無制限ではない、としたうえで、一斉検問が適法となる条件を示しました。何に照らして、そう言ったのでしたか。警察の責務を定めた、警察法の2条1項でした。交通の取締、という責務です。条文を再掲します。

条文警察法2条1項

警察法第2条第1項 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。

一斉検問の判示の、条件の部分も、同じ言葉で再掲します。

判例最決昭55・9・22 刑集34巻5号272頁

一斉検問が適法となる条件 しかしながら、自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものであること、その他現時における交通違反、交通事故の状況などをも考慮すると、警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである。

今日の中心は、所持品検査との違いです。所持品検査の出発点は、疑いのある個人です。職務質問の要件に乗った人に対して、付随して行います。ところが、一斉検問は違います。外から見て不審かどうか分からない車を、一律に止めます。個別の容疑が、ありません。一斉検問は、職務質問の要件に乗りません。しかも、道路交通法にも、一斉検問にそのまま当てはまる条文が、見当たりません。ここが、所持品検査との分かれ目です。所持品検査は、職務質問の条文にぶら下げて始められました。一斉検問は、ぶら下げる条文が無い。そこで、組織の定めに照らして任意手段として認めてよいか、という問いになります。注意点があります。以前の回で読んだ判示の前半は、警察法2条1項が交通の取締を責務と定めていることに「照らすと」、任意手段なら一般的に許される、という書き方でした。組織の定めを、権限を与える根拠にしたのではなく、手がかりにした、という読み方です。限度のほうは、運転者が公道を使うことに伴う協力の負担などから、組み立てています。ですから答案でも、警察法2条1項を、止める権限の根拠としては書きません。限度を、自前の設例で当てはめます。飲酒運転の多い地点で、全部の車に、短い停止を求めて、質問する。任意の協力を求める形で、短時間にとどまる。これは、許される側です。反対に、道路に障害物を置いて、強制的に停めさせる。窓から車内を調べる。これは、任意の協力を求める形を超えています。法律の根拠が要る側です。

停止を求めることと、止めさせることは、違うのです。協力を求めるのか、従わせるのか。そこが、境目です。

行政法の論点 組織規範だけで足りるのか

行政法の論点(問い=組織規範〔警察の責務を定めた定め〕は活動の範囲を示すだけで、権限を与える根拠規範ではない→任意手段なら、根拠が無くても許されるのか/肯定の説明=任意だから自由を制約しない→侵害留保が働かない/疑問=止められた車の運転者は走り去りにくい・所持品検査も、承諾なく手が出るなら実質は強制の契機を伴う→任意の建前と実態にずれ/指摘=立法による手当てを求める) 図:行政法の論点

  • 問い=組織規範〔警察の責務を定めた定め〕は活動の範囲を示すだけで、権限を与える根拠規範ではない→任意手段なら、根拠が無くても許されるのか
  • 肯定の説明=任意だから自由を制約しない→侵害留保が働かない
  • 疑問=止められた車の運転者は走り去りにくい・所持品検査も、承諾なく手が出るなら実質は強制の契機を伴う→任意の建前と実態にずれ
  • 指摘=立法による手当てを求める

規範の種類を見た回では、組織規範で行えるのは任意の活動に限られる、と整理しました。この整理に疑問の筋がある、というのが、行政法として論文でも論点になりうる部分です。問いは、こうです。警察法2条1項のような組織規範は、警察の担当を決めるだけで、権限を与える根拠規範ではありません。任意手段なら、根拠が無くても許されるのか。肯定する側の説明は、前の回の骨格のままです。任意なら、相手の自由を制約しない。権利を制限し義務を課す活動にだけ法律の根拠を求める、侵害留保の考え方からすると、任意の活動に、法律の根拠は要らない。判例の限度も、この発想にあります。

検問で止められたら、運転者は、そのまま走り去りにくいです。そこが、疑問の筋です。止められた車の運転者は、現実には、走り去りにくい。所持品検査も、承諾なしに手が出るなら、実質は強制の契機を伴います。任意という建前と、実態に、ずれがあります。だから、立法で手当てすべきだ、という指摘があります。一方で、所持品検査の枠組みは、任意調査の建前を保ちつつ、現実の必要性にも配慮した基準だ、と評されることがあります。建前と実態の間で、判例が秤を使って折り合いをつけている、という見方です。

海上では強制調査になる

道路と海上の対比(道路の一斉検問=止まらなくても強制できない→任意の側/海上=海上保安庁法17条1項〔船長に書類の提出を命じ、船を停止させて立入検査をし、乗組員などに質問できる〕・停止そのものを実力で行える仕組みが法定〔18条・20条2項〕→強制の側/20条2項=要件は限定的〔外国船舶と思料され、領海・内水で無害通航でない航行、将来の繰り返し、重大凶悪犯罪の準備の疑い、立入検査でしか防げない、の全てに該当と長官が認めた場合〕) 図:道路と海上の対比

  • 道路の一斉検問=止まらなくても強制できない→任意の側
  • 海上=海上保安庁法17条1項〔船長に書類の提出を命じ、船を停止させて立入検査をし、乗組員などに質問できる〕・停止そのものを実力で行える仕組みが法定〔18条・20条2項〕→強制の側
  • 20条2項=要件は限定的〔外国船舶と思料され、領海・内水で無害通航でない航行、将来の繰り返し、重大凶悪犯罪の準備の疑い、立入検査でしか防げない、の全てに該当と長官が認めた場合〕

ここで、確認の問いです。前の回の3分類で、拒まれても実力で排除できる調査は、何と呼びましたか?強制調査です。許可状が要るものが多い、と言っていました。その軸で、道路と海上を対比します。道路の一斉検問は、止まらなくても強制できません。だから、任意調査の限界の問題でした。海上では、事情が違います。海上保安庁法の17条1項は、海上保安官が、船長に書類の提出を命じ、船を停止させて立入検査をし、乗組員などに質問できる、と定めています。個別の法律なので、条文は暗記しません。船を止めて調べる仕組みが法律に書かれている、という点だけ押さえます。

実力での停止は、17条1項そのものではなく、ほかの条文が受けています。18条は、危険な事態があるときや、犯罪が行われることが明らかな場合に、船を停止させる等の措置を定めます。20条2項は、停止を繰り返し命じても従わず、抵抗や逃亡をする場合の、武器の使用による停止です。ただし、20条2項は、今の条文では、要件がとても限定的です。外国の船であることなど、いくつもの要件がすべてそろったと、長官が認めた場合に限られます。従わない船なら何でも実力で止められる、とまでは、言い過ぎないでください。位置づけを言います。同じ、止めて聞く、でも、道路では、止まらなくても強制できず、任意の側でした。海上では、停止そのものを実力で行える仕組みが、法律に置かれています。だから、この場面の質問や立入検査は、強制調査の側に位置づけられます。根拠の有無と、拒まれたあとの手段が、違うのです。

今日の地図(保存版)

今日の持ち帰り(①問い=承諾が無いのに、どこまでの有形力が許されるか/②枠組み=職務質問に付随・承諾が原則・承諾なしでも入口の2条件〔捜索に至らない・強制にわたらない〕+秤〔必要性・緊急性 と 害される法益/公共の利益 の権衡〕で具体的状況のもとで相当な限度/③2件の線=一べつ=適法・手を差し入れて取り出す=必要性があっても違法/態様が分け目/④一斉検問=個別の容疑が無く、任意の協力を求める形・短時分・自由を不当に制約しない方法態様/⑤行政法の論点=任意の建前と実態・立法の要請/海上=停止を実力で行える仕組みが法定=強制の側) 図:今日の持ち帰り

  • ①問い=承諾が無いのに、どこまでの有形力が許されるか
  • ②枠組み=職務質問に付随・承諾が原則・承諾なしでも入口の2条件〔捜索に至らない・強制にわたらない〕+秤〔必要性・緊急性 と 害される法益/公共の利益 の権衡〕で具体的状況のもとで相当な限度
  • ③2件の線=一べつ=適法・手を差し入れて取り出す=必要性があっても違法/態様が分け目
  • ④一斉検問=個別の容疑が無く、任意の協力を求める形・短時分・自由を不当に制約しない方法態様
  • ⑤行政法の論点=任意の建前と実態・立法の要請/海上=停止を実力で行える仕組みが法定=強制の側

まとめます。1つ目、問いです。任意調査は承諾が建前です。しかし、断られて引き下がれば目的が果たせない場面で、承諾なしにどこまで踏み込めるかが、任意調査の限界の問いです。2つ目、枠組みです。所持品検査は、職務質問に付随して行え、承諾を得て行うのが原則です。承諾が無くても、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、必要性、緊急性と、害される法益との権衡を考えて、具体的な状況のもとで相当な限度でのみ許されます。入口の2条件と、天秤です。3つ目、2件の線です。チャックを開けて一べつした行為は適法、手を差し入れて取り出して検査した行為は、必要性が認められても違法でした。分け目は、態様です。4つ目、一斉検問です。個別の容疑が無く、職務質問の要件に乗りません。任意の協力を求める形で、自由を不当に制約しない方法、態様の限りで許されます。ここから、組織規範だけで足りるのか、という行政法の問いが出ます。建前と実態のずれがあり、立法で手当てすべきだ、という指摘もあります。海上では、停止を実力で行える仕組みが法律にあり、強制の側に入ります。導入のかばんに戻ります。断られても、開けて一べつするのは、場合によっては許されます。内ポケットに手を入れて取り出すのは、必要性が認められても、越えます。

参照条文

  • 警察官職務執行法2条1項
  • 警察法2条1項

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