行政調査と令状主義
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第7章 行政調査・義務履行確保・行政罰 #88/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
3つの「開けて見せて」
図:3つの場面
- A=調査する側の職員
- B=相手。いずれも裁判官の令状は無い
- ①飲食店の主人B・税務署の職員A「帳簿を見せてください」②空港近くの建物〔使用禁止命令が出ている〕の所有者B・国の職員A「命令が守られているか確かめるため、中に入らせてください」③海外から届いた小包・税関の職員A=令状も発送人・名宛人の承諾も無く開けて、中の粉末を少し取り出して調べた
- 問い=それぞれ許されるか
海外から届いた小包を、税関の職員が、裁判官の令状も無く、発送人にも名宛人にも断らないまま、開けました。さらに、中の粉末を少し取り出して、調べました。これは、許されるでしょうか。刑事事件の捜索なら、令状が要るのは、そのとおりです。ところが、最高裁は、この小包の検査を、憲法35条に反しない、と判断しました。令状も承諾も無いのに、です。令状主義は、どこへ行ったのですか。そこが、今日の問いです。場面を3つ並べます。1つ目、飲食店の主人に、税務署の職員が、帳簿を見せてください、と求める。2つ目、使用禁止の命令が出ている、空港の近くの建物の所有者に、国の職員が、命令が守られているか確かめるため、中に入らせてください、と求める。3つ目が、さきほどの小包です。どれも、令状は無い。それぞれ、許されるのでしょうか。
令状が要るかどうかは、調査の種類によって一律には決まりません。何が分け目か。今日は、3つの判例と、許可状つきの犯則調査を、1枚の表に並べて、分け目を自分の言葉で言えるようにします。
前回までの受けと、今日の地図
図:今日の地図
- 前の回の3分類=①説得だけ〔任意調査〕②罰則で担保〔間接強制・質問検査〕③実力で排除〔強制調査・犯則調査は許可状つき〕
- 憲法の回で見たこと=刑事手続でないというだけでは35条の枠外にならない〔入口は開いている〕・川崎民商は違反しない
- 今日の問い=どういう事情があれば令状が要らないと言えるか
- 順=川崎民商の理由の中身→成田新法の立入り→税関検査→犯則調査と許可状→3つの物差しの表
前の回までを、思い出します。調査を拒まれたとき、行政に何ができるかで、3つに分けました。説得だけの任意調査。罰則で応じさせる、間接強制の調査。実力で排除できる、強制調査です。税務署の質問検査は、罰則で担保された調査でした。そして、脱税を摘発する犯則調査は、裁判官の許可状つきの強制調査でした。そこで見たのは、入口でした。刑事責任を追及する手続ではない、という理由だけでは、35条の保障から、締め出せません。入口は、開いています。そのうえで、川崎民商は、違反しないと判断されました。今日は、その先です。入口をくぐったあと、どういう事情があれば、令状が要らないと言えるのか。逆に、どういう事情があれば、要るのか。個別法の調査権限の条文と、判例で読んでいきます。順番はこうです。川崎民商の理由の中身、成田新法の立入り、税関検査、そして犯則調査の許可状。最後に、4つを3つの物差しで、1枚の表に並べます。
条文 憲法35条
図:憲法35条の読み方
- 35条=住居・書類・所持品について、侵入・捜索・押収を受けない権利
- 33条の場合〔33条に従って逮捕される場合=現行犯逮捕にも令状による逮捕にも伴う捜索・押収〕を除き、正当な理由に基づき、場所と物を明示した令状が要る
- 2項=各別の令状
- 書き方は刑事手続に限っていない→行政調査にも及ぶかが問いになる
出発点の条文です。35条1項です。
条文日本国憲法35条1項
日本国憲法第35条第1項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
条文日本国憲法35条2項
日本国憲法第35条第2項 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
33条の場合とは、33条に従って逮捕される場合です。現行犯逮捕でも、令状による逮捕でも、その逮捕に伴う捜索や押収には、別の令状が要りません。それ以外で、住居、書類、所持品に踏み込むには、正当な理由に基づいて、場所と物を明示した令状が要る。2項は、捜索や押収を行うのは、裁判官などの司法官憲が出した、令状ごとに、と定めています。帳簿は書類、建物は住居、小包は所持品に当たる、という前提で進みます。ここで、条文の書きぶりを見てください。35条には、刑事事件の場合に限る、とは書かれていません。だから、行政の調査にも及ぶのか、という問いが成り立ちます。入口は、憲法の回で済ませたとおりです。
川崎民商事件 令状が要らないとした理由の中身
図:川崎民商事件の事案と前半の2点
- 事案=確定申告に過少申告の疑い→税務署が売上帳・仕入帳の呈示を求める→事業者が拒む→検査拒否の罪で起訴
- ①目的=もっぱら所得税の公平確実な賦課徴収のための資料収集・性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない②資料の結び付き=検査の範囲は、賦課徴収に必要な事項・帳簿等に限られ、脱税などの刑事責任の嫌疑を基準に定められていない
最初は、川崎民商事件の、35条の側です。憲法の回で見た、帳簿の検査を拒んで起訴された、事業者の事件です。令状が無いのは35条違反だ、という主張でした。当時の旧所得税法の収税官吏の検査は、今の国税通則法の質問検査と、同じ型です。前の回で見た、74条の2と、罰則の128条です。憲法の回では、判決が挙げた4つの点を、1つずつ短く確かめました。今日は、判決の言葉で、その中身を読みます。特に見るのは、なぜ刑事の資料集めに直結しないと言えるのか、罰則があるのに、なぜ直接的な強制ではないのか、の2つです。まず、1つ目と2つ目です。
判例最大判昭47・11・22 刑集26巻9号554頁
川崎民商事件 目的と、刑事責任追及の資料との結び付き たしかに、旧所得税法七〇条一〇号の規定する検査拒否に対する罰則は、同法六三条所定の収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴なうものであるが、同法六三条所定の収税官吏の検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない。また、右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。けだし、この場合の検査の範囲は、前記の目的のため必要な所得税に関する事項にかぎられており、また、その検査は、同条各号に列挙されているように、所得税の賦課徴収手続上一定の関係にある者につき、その者の事業に関する帳簿その他の物件のみを対象としているのであつて、所得税の逋脱その他の刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められているのではないからである。
1つ目、目的は、憲法の回のとおりです。税を集めるための資料集めで、刑事責任の追及を目的とする手続ではありません。2つ目が、暗記の核です。検査の結果、脱税が発覚する可能性は、あります。しかし、それだけでは、刑事責任追及の資料の取得収集に直接結びつく作用を、一般的に有する、とは言えない。理由は、検査の範囲です。範囲が、税に関する事項と、事業の帳簿などに限られていて、脱税の嫌疑を基準に決められているのではないからです。たとえば、こう考えます。税務署が、売上帳や仕入帳など、商売の帳簿だけを見る。これは、税額を正しく決めるのに必要な範囲です。しかも、対象は、税額を決める手続に関係する人の帳簿などに限られます。これに対して、説明のための仮の例ですが、脱税していそうだから、という疑いを出発点にして、家中の私信や預金の記録まで、探して回る。これは、範囲を決める物差しが、嫌疑になっています。この場合は、刑事責任追及の資料に直結する性質が強まります。判決は、前者の型だと見たのです。
図:川崎民商事件の後半の2点
- ③強制の態様=罰則による間接的心理的な受忍の強制・刑罰は必ずしも軽微とはいえないが、自由な意思をいちじるしく拘束して直接的物理的な強制と同視すべき程度にまでは達していない
- ④必要性=徴税権の適正な運用・公平確実な賦課徴収のため実効性のある検査制度は欠くべからざる・その程度の強制は不均衡・不合理とはいえない/対比=罰則で受忍を迫る〔従うか罰を受けるか本人が選べる〕と、鍵を壊して入る〔本人の意思と関係なく手が入る〕
判例最大判昭47・11・22 刑集26巻9号554頁
川崎民商事件 強制の態様と、必要性 さらに、この場合の強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、同法七〇条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたいところである。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定しがたいものであるところ、その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。
3つ目、強制の態様です。拒むと罰則がある。つまり、間接的、心理的に、受忍を迫るものです。判決は、この刑罰が、必ずしも軽微とは言えない、と認めています。そのうえで、相手の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまでは、達していない、と評価しました。罰則があること自体で決まるのではなく、実質で見る、ということです。拒めば罰金を払うことになるかもしれない、と迫るのと、拒んでも鍵を壊して入ってくる、のとは違います。前者は、従うか、罰を受けるか、本人が選べます。後者は、本人の意思とは関係なく、手が入ります。前の回で、罰則を間接強制、実力排除を強制調査と分けたことの、憲法上の意味づけが、ここで出てきます。4つ目、必要性です。徴税権の適正な運用のために、実効性のある検査制度は、欠くべからざるものだ。その目的と必要性に照らすと、この程度の強制は、不均衡、不合理とは言えない、としました。最後に、結論です。
図:川崎民商事件の結論
- 4点〔目的・資料の結び付き・強制の態様・必要性〕を挙げて「総合して判断」
- 令状をあらかじめ一般的要件としなくても35条の法意に反しない
- 言い方=35条側の語は「総合判断」・31条の「総合較量」とは別
判例最大判昭47・11・22 刑集26巻9号554頁
川崎民商事件 結論 しかしながら、前に述べた諸点を総合して判断すれば、旧所得税法七〇条一〇号、六三条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとすることはできず、前記規定を違憲であるとする所論は、理由がない。
判決の言葉は、諸点を総合して判断すれば、です。4つの事情を挙げて、まとめて判断した、と言っています。天秤に載せて比べた、という形ではありません。結論の、35条の法意に反しない、の法意は、条文の趣旨のことです。
成田新法事件 一般基準と立入りへのあてはめ
図:成田新法事件の35条
- 事案=国が、暴力主義的破壊活動者の集合の用などに供される建物の所有者に使用禁止命令〔3条1項〕→命令の履行を確保するため、職員が建物に立入り・質問できる〔3条3項〕が令状の定めは無い
- 一般基準=立入りにすべて令状が要るとは言えない→①行政目的の達成のため欠くべからざるか②刑事責任追及の資料収集に直接結び付くか③強制の程度・態様が直接的かなどを総合判断して令状の要否を決める
- 31条側の語=総合較量
- 35条側の語=総合判断
2つ目の判例は、成田新法事件です。事前の告知や弁解の機会という、31条の部分は、前に扱いました。今日は、同じ判決の、35条の部分です。判決が使う言葉が、違います。31条のときは、制限される権利利益と、達成しようとする公益とを、天秤で比べる、総合較量でした。35条のときは、3つの点を挙げて、令状が要るかを決める、総合判断です。比べるのか、点を挙げて決めるのか、で言葉が分かれています。事案を確認します。国が、暴力主義的破壊活動をする者の集合の用などに供される建物の所有者に、使用禁止命令を出しました。命令が出たあと、国の職員が、命令の履行を確保するために、建物に立ち入り、関係者に質問できる、という定めがあります。令状は、定めに書かれていません。これは、35条に反しないか。最高裁は、まず、一般的な基準を示しました。
判例最大判平4・7・1 民集46巻5号437頁
成田新法事件 35条の一般基準 ……行政手続における強制の一種である立入りにすべて裁判官の令状を要すると解するのは相当ではなく、当該立入りが、公共の福祉の維持という行政目的を達成するため欠くべからざるものであるかどうか、刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものであるかどうか、また、強制の程度、態様が直接的なものであるかどうかなどを総合判断して、裁判官の令状の要否を決めるべきである。
⭐ 論文で書く規範:【規範】行政手続における立入りに、すべて裁判官の令状を要するのではない。行政目的の達成のため欠くべからざるものか、刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものか、強制の程度、態様が直接的なものかなどを総合判断して、令状の要否を決める (判例が立てた規範(条文に無い基準)/35条の判断枠の核心)
この規範は、条文には書いていません。判例が立てた基準です。3つの点を見て、総合判断します。今日の3つの物差しの原型は、ここにあります。憲法の回で見た令状は、事件の外にいる裁判官が、強制の前に、一度確認する仕組みでした。集めた資料が刑事責任に直結し、強制が直接的になるほど、調査は捜査に近づき、この確認が要る場面に近づきます。ただ、判決は、行政手続は刑事手続と性質が違い、行政目的に応じて多種多様だ、と言います。だから、一律に令状を求める形にはせず、3つの点を見て、総合判断するのです。たとえば、使用禁止命令が出た建物に、命令がきちんと守られているかを確かめるために入る。これは、資料収集が刑事責任の追及に直結する側には、寄りません。これに対して、命令とは関係なく、関係者の自宅まで、捜査の手がかりを探して回る。こうなると、直結する側に寄り、令状が要る方向へ傾きます。
川崎民商の4点は、その事件の理由でした。成田新法は、立入り一般に使える基準として、3つの点を挙げています。判決自身が対応づけたわけではありませんが、整理すると、こうです。成田新法の1つ目、行政目的の達成に欠くべからざるか、には、川崎民商の1つ目、目的と、4つ目、必要性が入ります。2つ目の、資料収集に直接結び付くか、は川崎民商の2つ目に当たります。川崎民商の1つ目のうち、刑事責任の追及を目的としない、という部分も、ここと重なります。3つ目の強制の程度は、川崎民商の3つ目です。最後の表は、この対応で並べます。では、あてはめです。まず、立入りの根拠の条文を読みます。成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法の3条3項です。
条文成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条3項
成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法第3条第3項 国土交通大臣は、第一項の禁止命令をした場合において必要があると認めるときは、当該命令の履行を確保するため必要な限度において、その職員をして、当該工作物に立ち入らせ、又は関係者に質問させることができる。
立入りと質問ができる、とだけ書いてあり、令状の定めはありません。ただし、歯止めが、続く条文に置かれています。4項は、立入りをする職員は、身分を示す証明書を携帯して、関係者に提示しなければならない、と定めます。そして、5項です。
条文成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条5項
成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法第3条第5項 第三項の規定による立入り又は質問の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
図:成田新法3条の歯止め
- 立入りの根拠=3条3項
- 歯止め①必要な限度=使用禁止命令の履行確保に必要な限度のみ〔3項〕②身分証明書の携帯・提示〔4項〕③犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない〔5項〕④拒否等には罰金〔9条2項・5万円以下〕=直接的物理的な強制ではない
これらを材料にして、判決は、こう判断しました。
判例最大判平4・7・1 民集46巻5号437頁
成田新法事件 立入りへのあてはめ 本法三条三項は、運輸大臣は、同条一項の禁止命令をした場合において必要があると認めるときは、その職員をして当該工作物に立ち入らせ、又は関係者に質問させることができる旨を規定し、その際に裁判官の令状を要する旨を規定していない。しかし、右立入り等は、同条一項に基づく使用禁止命令が既に発せられている工作物についてその命令の履行を確保するために必要な限度においてのみ認められるものであり、その立入りの必要性は高いこと、右立入りには職員の身分証明書の携帯及び提示が要求されていること(同条四項)、右立入り等の権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないと規定され(同条五項)、刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものではないこと、強制の程度、態様が直接的物理的なものではないこと(九条二項)を総合判断すれば、本法三条一、三項は、憲法三五条の法意に反するものとはいえない。
読み方は、物差しごとに分かれます。必要性が高い。命令の履行確保に必要な限度に限られ、身分証明書も要る。5項が、犯罪捜査のためと解してはならない、と置いているから、資料収集に直接結び付かない。拒否には罰金があるだけで、直接的物理的な強制ではない。そこで、令状の定めが無くても、35条の法意に反しない、としました。こうした条文上の歯止めが、結論を支える材料として、数えられています。ほかの法律の調査権限を読むときも、この歯止めがあるかどうかが、手がかりになります。前に見た、国税通則法74条の8も、質問検査の権限について、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない、と置いています。同じ型の歯止めです。
税関検査 令状も承諾も無いまま開けてよいか
図:税関検査の流れ
- イランから都内の外国人宛の国際郵便物→税関職員が品名が分からなかったことなどから外装箱を開けて目視→ボトルの検査で覚せい剤反応→税関の担当職員が内容物を取り出し、微量で仮鑑定→分析部門で鑑定→覚せい剤と判明→その後、差押許可状で差押え
- 問題=差押許可状を得る前の検査は、令状も発送人・名宛人の承諾も無いまま行われた
3つ目の判例は、冒頭の小包の事件です。国際郵便物の税関検査です。事案を、流れで説明します。イランから、都内の外国人に宛てた郵便物が届きました。税関の職員が、品名がよく分からなかったことなどから、外側の箱を開けて、中を目で見ました。ボトルを検査すると、覚せい剤の反応が出ました。そこで、税関の担当の職員が、内容物を取り出し、微量で仮の鑑定をして、さらに分析部門で鑑定すると、覚せい剤でした。ここまでが、令状も、発送人や名宛人の承諾も無い段階です。そのあとに、差押えの許可状で、差し押さえました。問題は、許可状を得る前の、検査です。ここで、判決を見せる前に、考えてみてください。令状も承諾も無いのに、開けてよいと言えるために、判決が見そうな点は何でしょうか。川崎民商の物差しを、使うなら、です。
刑事責任の追及を目的にした手続ではない、というところと、あとは、拒まれたときに力ずくで来るわけではない、というところでしょうか。よい線です。その前に、根拠の規定です。郵便物の検査について定める関税法76条と、税関職員が貨物を検査し、見本を採れると定めていた、改正前の105条1項。判決は、この規定が、令状も承諾も要件にしていないことを、まず確かめます。そのうえで、目的と、強制の態様の2点を、実際に挙げます。さらに、郵便物の特質が加わります。読みます。
図:税関検査が見た点
- 根拠=関税法76条〔郵便物の検査〕・改正前の105条1項〔検査・見本の採取〕=令状も承諾も要件としていない
- 川崎民商の物差しと同じ型=行政上の目的の手続・刑事責任追及の資料の取得収集に直接結び付く作用を一般的に有しない
- 郵便物の特質=国際郵便物の税関検査は国際社会で広く行われ、国内郵便物と異なりプライバシー等への期待がもともと低い
- 提示を義務づけられるのは検査時に郵便物を占有している郵便事業株式会社=発送人・名宛人の占有状態を直接的物理的に排除しない→権利が制約される程度は相対的に低い
判例最判平28・12・9 刑集70巻8号806頁
税関検査 目的と、権利が制約される程度 しかしながら,本件各規定による検査等は,前記のような行政上の目的を達成するための手続で,刑事責任の追及を直接の目的とする手続ではなく,そのための資料の取得収集に直接結び付く作用を一般的に有するものでもない。また,国際郵便物に対する税関検査は国際社会で広く行われており,国内郵便物の場合とは異なり,発送人及び名宛人の有する国際郵便物の内容物に対するプライバシー等への期待がもともと低い上に,郵便物の提示を直接義務付けられているのは,検査を行う時点で郵便物を占有している郵便事業株式会社であって,発送人又は名宛人の占有状態を直接的物理的に排除するものではないから,その権利が制約される程度は相対的に低いといえる。
順に分けます。1つ目、行政上の目的の手続で、刑事責任追及の資料の取得収集に、直接結び付く作用を一般的に有するものでもない。川崎民商と同じ物差しです。2つ目と3つ目が、国際郵便物の特質です。国際郵便物の税関検査は、国際社会で広く行われていて、国内郵便とは違い、発送人や名宛人の、内容物へのプライバシーへの期待が、もともと低い。しかも、提示を義務づけられているのは、検査の時点で郵便物を預かっている、当時の郵便事業株式会社、つまり郵便物を運ぶ側の会社です。発送人や名宛人が持っている状態を、力ずくでどける、わけではありません。だから、権利が制約される程度は、相対的に低い、としました。
判決自身が、国内郵便物の場合とは異なる、と対比しています。同じ結論が出る、とは言えません。国内の郵便物なら、成田新法の一般基準に戻り、3つの点を当て直すことになる、と考えられます。次に、必要性と、限度です。
図:税関検査の必要性と限度
- 高い公益性・大量の国際郵便物を適正迅速に検査する必要→承諾を得なくても、具体的な状況の下で目的の実効性の確保のために必要かつ相当と認められる限度の検査方法は許容される
- あてはめ=箱を開けて目視→疑いが強まった→内容物を特定するため必要最小限度の見本を採取して鑑定
- 対比=許される側=見本を少量採る・許されにくい側=疑いも無いのに中身を全部持ち出す
判例最判平28・12・9 刑集70巻8号806頁
税関検査 必要かつ相当な限度 また,税関検査の目的には高い公益性が認められ,大量の国際郵便物につき適正迅速に検査を行って輸出又は輸入の可否を審査する必要があるところ,その内容物の検査において,発送人又は名宛人の承諾を得なくとも,具体的な状況の下で,上記目的の実効性の確保のために必要かつ相当と認められる限度での検査方法が許容されることは不合理といえない。
⭐ 論文で書く規範:【規範】税関検査の目的の実効性の確保のために、具体的な状況の下で必要かつ相当と認められる限度での検査方法は、発送人又は名宛人の承諾を得なくとも許容されることは不合理といえない (判例が立てた規範(条文に無い基準)/税関検査の判断の核心)
高い公益性があり、大量の郵便物を、適正、迅速に検査する必要がある。だから、具体的な状況の下で、目的の実効性のために必要かつ相当と認められる限度なら、承諾が無くても許される、と言って不合理ではない。この言い方は、条文には無い基準です。判例が立てました。たとえば、箱を開けて目で見て、疑いが強まったので、中身を特定するために、見本をほんの少し採って鑑定に回す。これは、必要かつ相当な限度に収まる側です。これに対して、疑いも無いのに、中身をすべて持ち出して、捜査の証拠のように保管する。こうなると、限度を超えたと評価される方向に傾きます。
言葉は似ていますが、文脈が違います。前の回は、承諾の無い任意調査が、どこまで許されるかの限度でした。今回は、法律そのものが、令状も承諾も要件としていない調査権限が、憲法35条に反しないか、という問いの中で、必要かつ相当な限度が、最後の関門になっています。答案でも、前の回の型は任意調査の限界として、今回の型は35条に反しないか、として論じます。書く場所が違うのです。
判例最判平28・12・9 刑集70巻8号806頁
税関検査 あてはめと結論 前記認定事実によれば,税関職員らは,輸入禁制品の有無等を確認するため,本件郵便物を開披し,その内容物を目視するなどしたが,輸入禁制品である疑いが更に強まったことから,内容物を特定するため,必要最小限度の見本を採取して,これを鑑定に付すなどしたものと認められ,本件郵便物検査は,前記のような行政上の目的を達成するために必要かつ相当な限度での検査であったといえる。このような事実関係の下では,裁判官の発する令状を得ずに,郵便物の発送人又は名宛人の承諾を得ることなく,本件郵便物検査を行うことは,本件各規定により許容されていると解される。このように解しても,憲法35条の法意に反しないことは,当裁判所の判例(……)の趣旨に徴して明らかである。
あてはめです。箱を開けて、目で見た。疑いが強まったので、中身を特定するために、必要最小限度の見本を採って、鑑定に回した。この流れが、必要かつ相当な限度だった。だから、令状も承諾も無く行うことは、関税法の規定により許容されていて、35条の法意に反しない。結論の最後に、川崎民商と成田新法を引いています。補足を2つ。判決は、この検査が、犯則事件の調査や捜査の手段として行われたものではないことも明らかだ、と述べています。行政の検査を、捜査の代わりに使ってはいない、という確認です。もう1つ。憲法の回で見た、位置情報を使う捜査の判例は、捜査そのものの場面で、令状が要る強制処分だとされました。今日の3件は、行政の調査なので、令状が要るかを、物差しで決めます。ここで、少し前の成田新法の判決を、思い出してください。この判決が、令状の定めが無くても35条の法意に反しないとした材料のうち、条文が置いていた歯止めを、2つ挙げられますか?
立入りの職員に、身分証明書の携帯と提示を求めていること。それと、立入りの権限を、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない、と置いていることです。加えて、命令の履行確保に必要な限度に限られること、罰則が罰金にとどまることも、材料に数えられていました。税関検査では、条文の歯止めのかわりに、必要かつ相当な限度という関門が置かれていた、と整理できます。
犯則調査と許可状 強制調査の側
図:犯則調査と許可状
- 国税通則法=131条〔出頭を求めて質問・任意に提出された物の領置〕
- 132条1項〔裁判官があらかじめ発する許可状により、臨検・捜索・差押え〕
- 旧国税犯則取締法の質問調査は今の131条以下に当たる
- 許可状が要るのは法律の仕組み=実質的に租税犯の捜査としての機能を営み、刑事責任追及の資料収集に直結する性質に合わせて法律が置く
- 物差しを当てると令状が要る側に寄る・今日の3判決は犯則調査の許可状を決めていない=憲法の要請とまでは断定しない
逆側も見ます。前の回で見た、犯則調査です。国税通則法の131条は、出頭を求めて質問する、任意の調べです。そして132条1項が、裁判官があらかじめ発する許可状による、臨検、捜索、差押えの根拠でした。税務署の質問検査とは違い、令状に当たるものが、法律の条文で要求されています。許可状が憲法35条の要求だ、と言い切れるかは、言い方に注意が要ります。許可状が要るのは、法律の仕組みです。国税通則法132条が、そう定めています。犯則調査は、実質的に租税犯の捜査としての機能を営み、刑事責任追及の資料の取得収集に直結する性質を持ち、強制の面でも実力を伴います。その性質に合わせて、法律が、裁判官の許可状を、前に置いているのです。ですから、令状が要る側に寄る、とは言えても、憲法が要求する、と断定はしないでください。今日の3つの判決は、どれも令状が要らないとされた側の事件で、犯則調査に許可状が要るかを決めた判決ではないからです。
物差しを当てると、向きは出ます。犯則調査は、直結の物差しが強く、強制の面でも実力行使を伴います。ですから、許可状を欠けば、35条上の問題が出る、と論じることになります。ただ、それは物差しを当てはめた結論で、判決が示した結論ではありません。さきほど断定しない、と言ったのは、この違いです。答案では、法律が許可状を要件としているから問題にならない、という形で効いてきます。
今日の地図(保存版)
図:35条側の4件を3つの物差しで比較する表
- 物差しへの当てはめは整理であり判決自身の対応づけではない
- 物差し=①何のための調査か〔目的・必要性〕②刑事責任追及の資料の取得収集に直接結び付く作用を一般的に有するか③強制の程度・態様が直接的物理的か
- 川崎民商〔質問検査〕=賦課徴収の資料収集・実効性ある検査制度が欠くべからざる
- 一般的には有さない〔範囲は嫌疑でなく賦課徴収の必要〕
- 罰則=間接的心理的
- 令状不要|成田新法〔立入り・質問〕=空港の安全確保・履行確保に欠くべからざる・必要性高い
- 直結しない〔捜査目的に使うなの規定〕
- 罰金=直接的物理的でない
- 令状不要|税関検査〔国際郵便物〕=高い公益性・大量・適正迅速
- 一般的には有さない
- 占有を直接排除せず・プライバシー期待が低い
- 必要かつ相当な限度で令状・承諾不要|犯則調査〔質問・臨検・捜索・差押え〕=脱税の摘発
- 直結する性質〔租税犯の捜査としての機能〕
- 許可状つきの実力を伴う強制調査
- 許可状が法律で要求される
まとめます。35条側の4件を、物差し3つで、1枚の表に並べました。物差しは、何のための調査か、刑事責任追及の資料の取得収集に直接結び付く作用を一般的に有するか、強制の程度と態様が直接的物理的か、の3つです。川崎民商。目的は賦課徴収の資料収集で、実効性のある検査制度が欠くべからざるもの。直結は、一般的には有さない。範囲が嫌疑でなく、賦課徴収の必要で決まるからです。強制は、罰則による間接的心理的なものです。結論は、令状不要。成田新法。空港の安全確保のために、命令の履行確保が欠くべからざる、必要性が高い。直結は、しません。捜査目的に使うなと、条文が置いています。強制は罰金で、直接的物理的ではない。結論は、令状不要です。税関検査。高い公益性があり、大量の郵便物を適正迅速に検査する必要がある。直結は、一般的には有さない。占有を直接排除せず、プライバシーの期待も低い。結論は、必要かつ相当な限度で、令状も承諾も不要です。犯則調査。目的は脱税の摘発で、租税犯の捜査としての機能を営み、直結する性質が強い。強制も、実力を伴います。だから、許可状が、法律で要求されています。ただし、憲法の要求だと断定しない点は、さきほどのとおりです。
見比べると、令状が要る側に寄るのは、どんなときですか。直結が強く、強制が直接的なときです。この2つが強いほど、令状が要る側に寄ります。ただし、川崎民商と成田新法の判決は、物差しを挙げて総合判断しています。税関検査の判決は、必要かつ相当な限度か、で見ています。点数を足し算して決める、機械的な計算ではありません。この表を使って、個別法の調査権限の合憲性を論じる形は、論文で論点になりうる部分です。
図:導入の3場面の答え
- ①帳簿=罰則つきの質問検査・間接的心理的な強制・範囲は賦課徴収の必要で決まる→令状は要らない
- ②空港近くの建物=必要な限度・身分証明書・犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない・罰金→歯止めつきで令状は要らない
- ③小包=必要かつ相当な限度の検査→令状も承諾も要らない/反対側=脱税を摘発する犯則調査は許可状つき/問い=令状は行政調査で一律には効かない
導入の3つの場面に戻ります。飲食店の帳簿は、罰則つきの質問検査です。範囲が賦課徴収の必要で決まり、強制も間接的心理的なので、令状は要りません。空港の近くの建物への立入りは、必要な限度、身分証明書、捜査に使うなという規定、罰金という歯止めがあり、令状は要りません。海外からの小包は、必要かつ相当な限度の検査で、令状も承諾も要りません。反対側に、許可状をつけた捜索を行う犯則調査があります。令状は、行政調査では、一律には効きません。何のための調査か、直結するか、強制はどの程度か。川崎民商と成田新法の判決は、この3つを挙げて、総合して判断しています。では、答えない自由、憲法38条1項は、行政の調査でどう働くのか。これが、次の問いです。
参照条文
- 日本国憲法35条1項
- 日本国憲法35条2項
- 成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条3項
- 成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条5項