行政法ゼロから行政法#90

行政調査と犯罪捜査(調査資料の刑事手続への利用)

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第7章 行政調査・義務履行確保・行政罰 #90/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

2つの場面

2つの場面(場面A=税務署の職員Aが楽器の卸売会社Bで売上伝票の写しを受け取る〔質問検査・罰則つき〕→数か月後、同じ写しが社長の脱税事件の刑事裁判で証拠として出る〔C=検察〕/場面B=国税局の査察D〔犯則調査〕がBの資料を押収→税務署Aがその資料をもとに追加の税の処分/問い=AとBは同じ答えか) 図:2つの場面

  • 場面A=税務署の職員Aが楽器の卸売会社Bで売上伝票の写しを受け取る〔質問検査・罰則つき〕→数か月後、同じ写しが社長の脱税事件の刑事裁判で証拠として出る〔C=検察〕
  • 場面B=国税局の査察D〔犯則調査〕がBの資料を押収→税務署Aがその資料をもとに追加の税の処分
  • 問い=AとBは同じ答えか

楽器の卸売会社に、税務署の職員が来ました。売上伝票を見せてもらい、写しを受け取って帰ります。質問検査です。断れば罰則があります。数か月後、その写しが、会社の社長の脱税事件の刑事裁判に、証拠として出てきました。だまし討ち、という感覚は、今日の主題の中心です。もう1つ場面を置きます。今度は逆向きです。国税局の査察、つまり脱税を摘発する犯則調査で、同じ会社の資料が押収されました。その資料をもとに、税務署が、追加の税を課す処分をしたのです。感覚は合っています。前回の最後に、質問検査で集めた資料を、脱税の処罰に使ってよいのか、と問いました。令状も供述拒否権も一律には効かない調査で集めた資料が、刑事裁判の証拠に化けるなら、令状主義はどこへ行くのか。今日は、この問いに答えます。2つの場面の答えは、同じではありません。何が分け目か。判例と条文から線を取り出して、最後に、資料の動きを4本の矢印で整理します。自分の言葉で言えるようにしましょう。

前回までの受けと、今日の地図

今日の地図(これまで=3つの物差し〔何のための調査か/刑事責任追及の資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するか〔直結〕/強制の程度と態様が直接的物理的か〕・質問検査は38条1項の保障が及ばない側・犯則調査は及ぶ側/今日の問い=別の手続で集めた資料を、別の目的に使ってよいか/順=3つの手続の表→74条の8の読み直し→最決平16・1・20→逆向き〔最判昭63・3・31〕→4つの矢印→壁は絶対か) 図:今日の地図

  • これまで=3つの物差し〔何のための調査か/刑事責任追及の資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するか〔直結〕/強制の程度と態様が直接的物理的か〕・質問検査は38条1項の保障が及ばない側・犯則調査は及ぶ側
  • 今日の問い=別の手続で集めた資料を、別の目的に使ってよいか
  • 順=3つの手続の表→74条の8の読み直し→最決平16・1・20→逆向き〔最判昭63・3・31〕→4つの矢印→壁は絶対か

前の回までの道具を確認します。調査を見分ける3つの物差しを、覚えていますか?何のための調査か、刑事責任追及の資料の取得収集に直結するか、強制の程度と態様が直接的物理的か、の3つでした。そして憲法38条1項の側は、直結の1本が基準でした。質問検査は、保障が及ばない側。犯則調査は、保障が及ぶ側です。今日はその先です。手続ごとに、令状の有無も、黙る自由の有無も違いました。では、ある手続で集めた資料を、別の手続の目的に使ってよいのか。手続の壁をまたいで、資料が動けるかを見ます。順番は、こうです。まず3つの手続を1枚の表に並べます。次に、前回、権限の性格として読んだ条文を、使い方の線として読み直します。それから判例を2つ。最後に、資料の動きを4本の矢印で整理して、その壁が絶対なのかを考えます。

3つの手続を1枚の表に

3つの手続の違い(行政調査・犯則調査・犯罪捜査の比較表)。行=だれが/何のために/令状/供述拒否権/拒否したら、列=行政調査〔質問検査〕・犯則調査・犯罪捜査/質問検査=税務署などの当該職員・税額の確定・令状は一律には要らない・保障は及ばない・拒否は罰則〔通則法128条2号〕/犯則調査=国税局の査察などの当該職員・犯則事件の調査〔脱税の摘発・告発〕・強制の調査は裁判官の許可状〔132条1項・法律の定め〕・保障が及ぶ〔告知は立法政策〕・質問〔131条〕は任意で罰則なし/犯罪捜査=警察官・検察官・犯罪の捜査と起訴・令状主義・黙秘権が及ぶ 図:3つの手続の違い(行政調査・犯則調査・犯罪捜査の比較表)。行=だれが/何のために/令状/供述拒否権/拒否したら、列=行政調査〔質問検査〕・犯則調査・犯罪捜査/質問検査=税務署などの当該職員・税額の確定・令状は一律には要らない・保障は及ばない・拒否は罰則〔通則法128条2号〕/犯則調査=国税局の査察などの当該職員・犯則事件の調査〔脱税の摘発・告発〕・強制の調査は裁判官の許可状〔132条1項・法律の定め〕・保障が及ぶ〔告知は立法政策〕・質問〔131条〕は任意で罰則なし/犯罪捜査=警察官・検察官・犯罪の捜査と起訴・令状主義・黙秘権が及ぶ

同じ脱税を調べる場面でも、だれが、何のために、どの手続で調べるかで、道具が違います。3つの手続の違いを、表で確認します。1つ目は行政調査、ここでは税務署の質問検査です。調べるのは税務署などの職員で、目的は税額の確定です。令状は一律には要りません。供述拒否権の保障は及びません。答えなければ、国税通則法128条2号の罰則があります。2つ目は犯則調査です。調べるのは国税局の査察などの職員で、目的は脱税の摘発、つまり犯則事件の調査です。出頭を求めて質問する131条の調べは任意で、罰則はありません。臨検、捜索、差押えのような強制の調査には、裁判官の許可状が要ります。これは132条1項の定めで、法律の仕組みです。答案で、憲法が要求している、と断定はしません。令状主義の回で見たとおりです。供述拒否権の保障は及びます。黙ってよいと事前に告げるかは、法律に任されていました。3つ目は犯罪捜査です。警察官や検察官が、刑事訴訟法に従って行います。令状主義も、黙秘権、つまり刑事手続での黙る自由も及びます。

つながっています。供述拒否権が及ぶ手続は、答えを強制できません。逆に、質問検査は罰則で答えを迫れる。この違いが、今日の問いの下敷きです。表の1列目の質問検査は、令状も供述拒否権も一律には効かない、軽い手続です。3列目は、どちらも効く、重い手続です。この、重い、軽い、は理解のためのたとえで、判決の言葉ではありません。軽い手続で集めた資料を、重い手続の目的に使うと、何が起きるか。それが問題になります。重い手続は、集める段階で、裁判官のチェックや黙る自由という歯止めを通ってきています。軽い手続は、その歯止めを通っていません。歯止めを通っていない資料が、歯止めの必要な場面で使われるなら、歯止めの意味が薄れてしまいます。ここが、今日の緊張の中心です。

国税通則法74条の8 使い方の線

74条の8を使い方の線として読む(条文=質問検査権等の権限は犯罪捜査のために認められたものと解してはならない/前回=権限の性格を定める規定として読んだ/今回=どこまで犯則調査や捜査の手段に使えるかの線/判決当時は旧法人税法156条→現行の国税通則法74条の8へ引き継がれた〔中身は同じ禁止〕) 図:74条の8を使い方の線として読む

  • 条文=質問検査権等の権限は犯罪捜査のために認められたものと解してはならない
  • 前回=権限の性格を定める規定として読んだ
  • 今回=どこまで犯則調査や捜査の手段に使えるかの線
  • 判決当時は旧法人税法156条→現行の国税通則法74条の8へ引き継がれた〔中身は同じ禁止〕

前回読んだ条文を、もう一度読みます。前回は、閉じておいた条文です。今日は、開きます。

条文国税通則法74条の8

国税通則法第74条の8 第七十四条の二から第七十四条の七まで(当該職員の質問検査権等)又は前条の規定による当該職員又は国税局長の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。飛ばした部分は、質問検査の権限などを指す部分です。前回は、この規定を、権限の性格の話として読みました。刑事責任追及の資料に直結しない、という評価を支える規定です。今回は、使い方の線として読みます。質問検査の権限は、犯罪捜査のためのものではない。ならば、犯罪捜査の手段として使ってはならない、という禁止になります。前回の直結は、質問検査という手続が、普段の姿として刑事の材料集めに働くか、という手続全体の問いでした。今日の線は、この調査で、何のために権限を使ったか、という個々の調査の問いです。

判決が出たころも、この条文だったのですか。違います。次に見る判決の事案は、旧法人税法156条です。法人税の質問検査権について、同じ内容の禁止を置いていました。その後、質問検査権が国税通則法に統合され、禁止も74条の8に引き継がれました。中身は同じ禁止です。ですから、判決の旧法人税法を、現行の74条の8に読み替えて理解して構いません。残る問いは、2つです。この規定は、何を禁じているのか。そして、何を禁じていないのか。この線を、判例が引きました。

法人税の質問検査の決定 手段として行使したか

最決平16・1・20の事案(法人税法違反の刑事事件/争点=質問検査権の行使が犯則調査の手段にあたり違法か・集めた資料に証拠能力があるか/原審〔高松高裁〕=質問検査権が、犯則事件の調査を担当する者から依頼されるか、その調査に協力する意図の下に、証拠資料を保全するために行使された可能性を排除できず、一面で手段として行使されたと評せるとしつつ、証拠能力は肯定/最高裁=原審のこの部分は是認できない・結論は是認して棄却) 図:最決平16・1・20の事案

  • 法人税法違反の刑事事件
  • 争点=質問検査権の行使が犯則調査の手段にあたり違法か・集めた資料に証拠能力があるか
  • 原審〔高松高裁〕=質問検査権が、犯則事件の調査を担当する者から依頼されるか、その調査に協力する意図の下に、証拠資料を保全するために行使された可能性を排除できず、一面で手段として行使されたと評せるとしつつ、証拠能力は肯定
  • 最高裁=原審のこの部分は是認できない・結論は是認して棄却

判決を見る前に、考えてみてください。質問検査で集めた資料が、後で脱税の証拠に使われるだろう、と調査の時点で分かっていました。それだけで、74条の8に反するでしょうか。分かれ目は、何でしょう。気持ちは分かります。ただ、そこが線を引く場所です。判決を読みます。事案は、法人税法違反、つまり脱税の刑事事件です。争点は、質問検査権の行使が犯則調査の手段にあたり違法ではないか、そして、集められた資料に証拠能力、つまり裁判で証拠として使える資格があるか、でした。原審は、質問検査権が、犯則事件の調査を担当する者から依頼されるか、その調査に協力する意図の下に、証拠資料を保全するために行使された可能性を排除できない、と述べました。そして、一面では手段として行使されたものと評せる、としながら、証拠能力は認めました。最高裁は、この原審の部分は是認できない、としつつ、結論は是認して、棄却しました。最高裁の判断は、2つに分かれます。線を引く規範の部分と、本件への当てはめの部分です。まず、規範の部分です。

判例最決平16・1・20 刑集58巻1号26頁

法人税の質問検査の決定 手段として行使することの禁止と、その線 法人税法(平成13年法律第129号による改正前のもの)156条によると,同法153条ないし155条に規定する質問又は検査の権限は,犯罪の証拠資料を取得収集し,保全するためなど,犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使することは許されないと解するのが相当である。しかしながら,上記質問又は検査の権限の行使に当たって,取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても,そのことによって直ちに,上記質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならないというべきである。

2文でできています。1文目は原則です。質問検査の権限を、犯罪の証拠資料を取得収集し、保全するためなど、犯則事件の調査や捜査の手段として行使することは許されない。2文目が線です。取得した資料が、後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても、直ちに、手段として行使されたことにはならない。先ほどの問いの答えが出ました。使われると想定できた、というだけでは、足りません。

⭐ 論文で書く規範:【規範】質問検査の権限を、犯則事件の調査あるいは捜査の手段として行使することは許されない。ただし、取得した資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても、直ちに手段として行使されたことにはならない (判例が立てた規範(条文に無い基準)/74条の8の使い方の線)

この規範は、条文には書いていません。判例が立てた基準です。答案では、判決の言葉のまま書いてください。分けているのは、2つです。手段として行使した、つまり初めから犯則調査や捜査のために使ったのか。それとも、後で証拠に使われることが想定できただけ、つまり見込みにとどまるのか。結果として使われたかどうかではなく、初めからそのために使ったかどうかです。調査の目的で分けています。令状主義の回の税関検査の判決も、捜査の手段として行われたものではない、と確かめていました。

判断の流れ(質問検査の権限の行使→初めから犯則調査・捜査の手段として行使したか→はい=許されない〔74条の8・最決平16・1・20〕/いいえ=後で証拠に使われることが想定できただけ→許される) 図:判断の流れ

  • 質問検査の権限の行使→初めから犯則調査・捜査の手段として行使したか→はい=許されない〔74条の8・最決平16・1・20〕
  • いいえ=後で証拠に使われることが想定できただけ→許される

判断の流れを図にします。質問検査の権限を行使した。初めから、犯則調査や捜査の手段として行使したのか。手段として行使したのなら、許されません。後で証拠に使われることが想定できただけなら、許されます。

結果で線を引かない理由(判決の文ではなく一般にされる説明/①禁止の理由=質問検査を捜査の代わりに使えば令状と供述拒否権の歯止めを飛ばせる〔潜脱〕/②線を想定の外に引く理由=調査で疑いが見えるのは避けられない・見込みだけで違法にすると調べられない・後から違法になる不安定さ/たとえ=健康診断の結果か、診断書を取る目的の受診か) 図:結果で線を引かない理由

  • 判決の文ではなく一般にされる説明
  • ①禁止の理由=質問検査を捜査の代わりに使えば令状と供述拒否権の歯止めを飛ばせる〔潜脱〕
  • ②線を想定の外に引く理由=調査で疑いが見えるのは避けられない・見込みだけで違法にすると調べられない・後から違法になる不安定さ/たとえ=健康診断の結果か、診断書を取る目的の受診か

結果で線を引かない理由を、2つ説明します。ただし、これは一般にされる説明で、判決が理由として述べた文ではありません。まず、なぜ手段として使うことを禁じるのか。刑事手続には、2つの歯止めがあります。1つは令状です。捜査機関が家の中を調べるには、疑いの根拠を裁判官に示して、令状をもらわなければなりません。もう1つは供述拒否権です。自分に不利なことは、黙っていてよいのです。一方、質問検査には、令状は要りません。しかも、答えなければ罰則があります。もし捜査機関が、税務署の職員に頼んで、質問検査の名目で帳簿を出させ、社長に説明させたらどうでしょう。裁判官の審査も、黙る自由も、まるごと飛ばせてしまいます。これが、調査の規律の潜脱です。だから、初めからそのために使うことは、禁じるのです。

令状の審査を受けずに、同じことができてしまうのです。次に、なぜ線を、想定できただけ、の外側に引くのか。税務調査で、犯罪の疑いが見えてしまうことは、避けられません。たとえば、売上の伝票と銀行の入金を突き合わせて、二重に帳簿をつけている形跡が見えた。調査の資料が、犯則事件の端緒、つまり調べ始めるきっかけや、証拠になること自体は、排除できないのです。ここで、後で証拠に使われると想定できただけで違法とすると、どうなるか。疑いを見つけた職員は、その先を調べられなくなります。税額を正しく確定する、という本来の仕事ができません。さらに、調査の時点では適法かどうか分からず、後の成り行きで遡って違法になる、という不安定さも生まれます。ですから、線は結果ではなく、調査の目的に引くのです。たとえを置きます。健康診断で病気が見つかり、後で保険金の争いの証拠になった。これは、診断の目的が健康の確認だったなら、結果です。一方、初めから診断書を取る目的で受診させたなら、診断の名を借りた別の手続です。答案では、このたとえではなく、判決の言葉で書いてください。次に、当てはめの判決の部分です。

判例最決平16・1・20 刑集58巻1号26頁

法人税の質問検査の決定 本件は想定できたにとどまる 原判決は,本件の事実関係の下で,上記質問又は検査の権限が,犯則事件の調査を担当する者から依頼されるか,その調査に協力する意図の下に,証拠資料を保全するために行使された可能性を排除できず,一面において,犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたものと評することができる旨判示している。しかしながら,原判決の認定及び記録によると,本件では,上記質問又は検査の権限の行使に当たって,取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたにとどまり,上記質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたものとみるべき根拠はないから,その権限の行使に違法はなかったというべきである。そうすると,原判決の上記判示部分は是認できないが,原判決は,上記質問又は検査の権限の行使及びそれから派生する手続により取得収集された証拠資料の証拠能力を肯定しているから,原判断は,結論において是認することができる。

原審は、可能性を排除できない、という言い方で、手段として行使されたと評価できる面がある、と言いました。最高裁は、ここを是認しませんでした。本件は、想定できたにとどまり、手段として行使されたとみるべき根拠はない。だから、権限の行使に違法はない、としたのです。判決の言葉では、手段として行使されたとみるべき根拠はない、です。最後の一文も大事です。原判決の一部は是認できなくても、証拠能力を認めた結論は是認できる、としています。結論は、同じ棄却です。

設例で線を確かめる(判決は手段の例を挙げていない=断定しない/①査察部から帳簿の確保を頼まれ質問検査の名目で預かる=手段と評価される側に寄る/②通常の売上確認→後で脱税が見つかり査察へ=想定・端緒=許される側/③②で担当者が内心「使える」と思っていた=想定にとどまる/移行=調査中に犯則が見つかり犯則調査へ移るのは禁止の外〔最判昭51・7・9〕) 図:設例で線を確かめる

  • 判決は手段の例を挙げていない=断定しない
  • ①査察部から帳簿の確保を頼まれ質問検査の名目で預かる=手段と評価される側に寄る
  • ②通常の売上確認→後で脱税が見つかり査察へ=想定・端緒=許される側
  • ③②で担当者が内心「使える」と思っていた=想定にとどまる/移行=調査中に犯則が見つかり犯則調査へ移るのは禁止の外〔最判昭51・7・9〕

判決は、手段として行使した例を具体的には挙げていません。ですから、断定は避けます。そのうえで、設例で線を確かめます。1つ目。査察部の担当者から、この帳簿を確保してほしい、と頼まれた税務署の職員が、質問検査の名目で帳簿を預かった。もしそうなら、原審が言った、依頼を受けて証拠資料を保全する型に近く、手段として評価される側に寄ると考えられます。調べる目的が、税額の確定ではなく、証拠の確保にあることになるからです。2つ目。通常の売上確認の調査で帳簿を見て、後で脱税が見つかり、査察に回った。これは、想定できただけ、または端緒にとどまり、許される側です。調べた目的は、税額の確定のままです。3つ目。2つ目で、調査担当者が内心、もし脱税なら使える、と思っていた。それだけでは足りず、想定できたにとどまる、の範囲だろうと考えられます。頭の中で見込みを持つことと、その目的で権限を使うことは、別だからです。

調査の途中で査察に切り替わる場合は、その移行を扱った別の判決が答えています。税務調査中に犯則事件が見つかり、それが端緒になって、犯則調査に移行することまで、旧法人税法156条は禁じていない、というものです。質問検査から犯則調査への切り替え、つまり移行は、許されます。74条の8が禁じるのは、初めから手段として使うことです。結果的に端緒になることではありません。

査察資料を課税に使った判決 逆向きの資料の動き

犯則調査の資料を課税処分に使えるか(最判昭63・3・31/事案の型=収税官吏が犯則嫌疑者に国税犯則取締法に基づく調査を行い、課税庁がその資料を課税処分・青色申告承認の取消処分に利用/旧国税犯則取締法=廃止され今の国税通則法131条以下に編入/判決=許される/判決は結論のみ・理由の説明は別/説明①慎重な手続で集めた資料②許可状は取得の統制で使い道の制限ではない) 図:犯則調査の資料を課税処分に使えるか

  • 最判昭63・3・31
  • 事案の型=収税官吏が犯則嫌疑者に国税犯則取締法に基づく調査を行い、課税庁がその資料を課税処分・青色申告承認の取消処分に利用
  • 旧国税犯則取締法=廃止され今の国税通則法131条以下に編入
  • 判決=許される
  • 判決は結論のみ・理由の説明は別
  • 説明①慎重な手続で集めた資料②許可状は取得の統制で使い道の制限ではない

逆向きです。冒頭の、場面Bです。犯則調査で集めた資料を、課税処分に使えるのか。査察の資料を課税に使った、最高裁の判決です。判決当時の国税犯則取締法に基づく調査は、今の国税通則法の犯則調査に当たります。判決の収税官吏は、犯則調査を行う職員のことです。

判例最判昭63・3・31 集民153号643頁

犯則調査の資料を課税処分に使うこと 収税官吏が犯則嫌疑者に対し国税犯則取締法に基づく調査を行つた場合に、課税庁が右調査により収集された資料を右の者に対する課税処分及び青色申告承認の取消処分を行うために利用することは許されるものと解するのが相当であり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。

課税庁が、犯則調査で集められた資料を、課税処分や、青色申告の承認、つまり帳簿をきちんとつける代わりに税の特典を受けられる承認を取り消す処分に使うことは許される。これが判決の言葉です。判決は、結論だけを述べています。理由は、一般に2つに説明されます。ここから先は、判決の文ではなく、説明です。1つ目。犯則調査の資料は、許可状や供述拒否権の保障がある、刑事手続に準ずる慎重な手続で集めたものです。裁判官のチェックを通り、本人は黙る自由も持っていた。そういう手続で集めた資料なら、税額の確定という行政の目的に使っても、手続の面での問題は少ない、という説明です。2つ目。許可状は、調査権限の行使そのものを統制する仕組みです。裁判官が許可するのは、この場所で、この物を調べてよい、という取得の場面です。取った後で、その資料をどこで使ってよいか、まで縛るものではありません。たとえるなら、入場券は入るときの審査で、中で見たものを後でどこで話すかは、入場券の仕事ではない、ということです。令状主義は、取得の統制であって、利用の制限ではない、という整理です。

資料が、刑事の側から行政の側へ流れています。気づいてほしいのは、1つ目の説明が、向きによって効き方が変わる点です。慎重な手続で集めた資料は、軽い目的に回しても、慎重さは失われません。ところが、慎重でない手続で集めた資料を、重い目的に回すと、その慎重さの不足が、そのまま持ち込まれてしまいます。だから、次の整理で、条件が付く矢印が1本だけ現れます。

4つの矢印 資料の行き来

4つの矢印の図(A=質問検査、B=犯則調査、C=課税、D=処罰/矢印1=A→C〔目的どおりの利用・制限なし〕/矢印2=B→D〔目的どおりの利用・制限なし〕/矢印3=B→C〔許される・最判昭63・3・31〕/矢印4=A→D〔条件つき・手段として行使したのでなければ許される・最決平16・1・20・74条の8〕) 図:4つの矢印の図

  • A=質問検査、B=犯則調査、C=課税、D=処罰
  • 矢印1=A→C〔目的どおりの利用・制限なし〕
  • 矢印2=B→D〔目的どおりの利用・制限なし〕
  • 矢印3=B→C〔許される・最判昭63・3・31〕
  • 矢印4=A→D〔条件つき・手段として行使したのでなければ許される・最決平16・1・20・74条の8〕

整理の前に、1問です。前の回で、38条1項の保障が及ぶ側に入るのは、質問検査と犯則調査のどちらでしたか?犯則調査です。質問検査は、直結を一般的に有さないので、及びません。では、資料の動きを、4本の矢印にします。質問検査をA、犯則調査をB、課税をC、処罰をDとします。1本目。AからC、質問検査から課税。これは本来の使い道です。税額確定のために集めたのですから、目的と使い道が一致していて、問題が起きる余地がありません。2本目。BからD、犯則調査から処罰。これも本来の使い道です。許可状や供述拒否権の保障の下で集めた資料を、その保障が必要な刑事の場面に使うのですから、歯止めを通ってきています。3本目。BからC、査察の資料を課税に使うこと。許されます。査察資料を課税に使った判決です。判決は理由を述べていませんが、一般にされる説明では、慎重な手続で集めたものを行政の目的に使うだけで、歯止めが足りなくなる心配がないから、と整理されます。4本目。AからD、質問検査から処罰。これだけに、条件が付きます。質問検査が、犯則事件の調査や捜査の手段として行使されたのでなければ、許されます。法人税の質問検査の決定と、74条の8です。想定できただけでは、足りません。

4本目だけに条件が付くのは、なぜですか。4本目だけが、令状も供述拒否権も一律には効かない調査を、それらが効く手続の代わりに使う危険を持つからです。1本目と2本目は、本来の使い道です。3本目は、手続が重い側から、軽い目的への流れです。歯止めを通っていない資料が、歯止めの必要な場面に入り込むのは、4本目だけです。向きの原則として、こう覚えてください。重い手続で集めた資料は、軽い目的にも使える。軽い手続で集めた資料を、重い目的に使うには、初めからそのために使っていないことが条件。重い、軽いは、たとえです。

冒頭の2つの場面に当てはめる(場面A=質問検査で受け取った写しを脱税の裁判へ=矢印4・初めから捜査のために使ったのでなければ質問検査権の行使は違法にならない/場面B=犯則調査の資料で追加の税の処分=矢印3・許される/別の問題=証拠能力・今日の線で決まるのは権限行使の適法まで・手段として使った違法があれば刑事訴訟法の違法収集証拠の排除の議論) 図:冒頭の2つの場面に当てはめる

  • 場面A=質問検査で受け取った写しを脱税の裁判へ=矢印4・初めから捜査のために使ったのでなければ質問検査権の行使は違法にならない
  • 場面B=犯則調査の資料で追加の税の処分=矢印3・許される
  • 別の問題=証拠能力・今日の線で決まるのは権限行使の適法まで・手段として使った違法があれば刑事訴訟法の違法収集証拠の排除の議論

冒頭の2つの場面に戻ります。場面A、質問検査で受け取った写しを、後で脱税の裁判に回すのは、初めから脱税の捜査のために使ったのでなければ、質問検査権の行使として違法になりません。場面B、犯則調査の資料で追加の税の処分をするのは、3本目で許されます。証拠として使えるかどうかは、今日の線とは別に決まります。今日の線で決まるのは、質問検査権の行使が適法か、という点までです。法人税の質問検査の決定は、行使に違法はないとして、証拠能力を認めた結論を是認しました。逆に、手段として使った違法があったとき、証拠から外れるかは、刑事訴訟法の違法収集証拠の排除、つまり違法に集めた証拠を裁判で使わせないか、の議論になります。

壁は絶対か 適正手続の見方

壁は絶対か(判例の結論=行政調査と犯罪捜査を別の手続とみる建前に立てば筋が通る/学説の指摘=供述拒否権が及ばない調査で得た供述をもとに刑事責任が問われうる/見方=行政調査にも適正手続の要請が及ぶ・両者の境目ははっきりせず違いは程度の差/手続をまとめて定める一般的な法律が見当たらない現状では解釈で憲法上の適正手続を働かせる必要が大きい/調査と捜査のつながりを見て法執行の全体で手続の保障を考える) 図:壁は絶対か

  • 判例の結論=行政調査と犯罪捜査を別の手続とみる建前に立てば筋が通る
  • 学説の指摘=供述拒否権が及ばない調査で得た供述をもとに刑事責任が問われうる
  • 見方=行政調査にも適正手続の要請が及ぶ・両者の境目ははっきりせず違いは程度の差
  • 手続をまとめて定める一般的な法律が見当たらない現状では解釈で憲法上の適正手続を働かせる必要が大きい
  • 調査と捜査のつながりを見て法執行の全体で手続の保障を考える

最後に、見方を1つ足します。判例の結論は、行政調査と犯罪捜査を別の手続とみる建前に立てば、筋がとおっています。ただ、学説は、こう指摘します。行政調査で得た資料が、犯則や刑事の手続に使われうる以上、供述拒否権が及ばない調査で得た供述をもとに、刑事責任が問われることになる、と。令状も供述拒否権も一律には効かない場で集めたものが、効く場の結論を左右してしまうのです。具体的に考えます。質問検査で、社長が罰則を恐れて、売上の一部を帳簿から外していた、と答えたとします。刑事の取調べなら、黙っていてよい内容です。ところが、行政調査では答えを迫られた。その答えが、あとで刑事責任を問う出発点になりうるのです。

壁が絶対ではない、ということです。行政調査にも、適正手続、つまりデュー・プロセスの要請が及びます。第1章で見た原則です。理由も告げず、言い分も聞かずに進めれば、中身が正しくても、手続の問題が残る、というものでした。行政調査と犯罪捜査の境目は、はっきりしたものではなく、違いは程度の差です。行政調査の手続をまとめて定める一般的な法律が見当たらない現状では、解釈によって憲法上の適正手続を働かせる必要が大きい、とも言われます。建前を貫くこと自体が目的ではありません。調査と捜査のつながりを見ながら、法執行の全体で手続の保障が保たれているかを考える、という見方です。答案での使い方も、押さえておきます。結論は、判例の線で書きます。ただ、壁が相対的なら、質問検査という名目だけで、手段でなかったとは言えません。そこで、手段として行使したか、の認定に、調査の経緯、担当者、依頼の有無といった事実を拾います。この線の使い方は、論文で論点になりうる部分です。

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まとめ(問い=令状も供述拒否権も一律には効かない調査の資料を処罰に使ってよいか/74条の8=質問検査権は犯罪捜査のために認められたものと解してはならない/最決平16・1・20=手段として行使は許されない・想定できただけでは足りない・線は初めからそのために使ったか/最判昭63・3・31=犯則調査の資料は課税に使える/4つの矢印=条件が付くのは質問検査→処罰だけ/壁は相対的) 図:まとめ

  • 問い=令状も供述拒否権も一律には効かない調査の資料を処罰に使ってよいか
  • 74条の8=質問検査権は犯罪捜査のために認められたものと解してはならない
  • 最決平16・1・20=手段として行使は許されない・想定できただけでは足りない・線は初めからそのために使ったか
  • 最判昭63・3・31=犯則調査の資料は課税に使える
  • 4つの矢印=条件が付くのは質問検査→処罰だけ
  • 壁は相対的

まとめます。1つ目、問いです。令状も供述拒否権も一律には効かない調査で集めた資料を、処罰に使ってよいのか。条件つきで、使えます。2つ目、74条の8です。質問検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。前回は権限の性格として、今回は使い方の線として読みました。3つ目、法人税の質問検査の決定です。質問検査の権限を、犯則事件の調査や捜査の手段として行使することは許されません。ただし、後に証拠として利用されることが想定できただけでは、手段として行使したことになりません。線は、結果として使われたかではなく、初めからそのために使ったかです。4つ目、査察資料を課税に使った判決です。犯則調査で集めた資料を、課税処分に使うことは許されます。5つ目、4つの矢印です。質問検査から課税、犯則調査から処罰、犯則調査から課税は、許されます。条件が付くのは、質問検査から処罰だけです。加えて、2つの手続の壁は絶対ではなく、行政調査にも適正手続の要請が及びます。導入の場面に戻ります。質問検査で受け取った写しは、初めから捜査のために使ったのでなければ、質問検査権の行使は適法で、後の刑事裁判に回せます。犯則調査の資料での課税処分も、許されます。次の回は、調査がどんな要件と手続で行われ、違法な調査に基づく処分がどうなるかを見ます。

参照条文

  • 国税通則法74条の8

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