行政法ゼロから行政法#91

行政調査の要件・手続と瑕疵

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第7章 行政調査・義務履行確保・行政罰 #91/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

約束なしに来た調査官

突然の調査と3つの問い(A=税務署の職員が小さな和菓子店Bを朝に訪ねて「帳簿を見せてほしい」/事前の連絡なし・調査の理由の説明なし・身分証明書は店主が頼むまで出さない/問い①要件=そもそも何があれば調べてよいのか/問い②手続=事前の通知や理由の告知は要るのか/問い③瑕疵と処分=問題のある調査のあとで税額を決められたら、その決定は取り消せるのか) 図:突然の調査と3つの問い

  • A=税務署の職員が小さな和菓子店Bを朝に訪ねて「帳簿を見せてほしい」
  • 事前の連絡なし・調査の理由の説明なし・身分証明書は店主が頼むまで出さない
  • 問い①要件=そもそも何があれば調べてよいのか
  • 問い②手続=事前の通知や理由の告知は要るのか
  • 問い③瑕疵と処分=問題のある調査のあとで税額を決められたら、その決定は取り消せるのか

小さな和菓子店に、ある朝、税務署の職員が現れました。「帳簿を見せてください」と言います。事前の連絡はありません。何の調査なのか、なぜこの店なのかの説明もありません。身分を示す証明書も、店主が頼むまで出てきませんでした。今日の問いは3つです。1つ目、そもそも何があれば、調べてよいのか。これが要件です。2つ目、事前の通知や、理由の告知は要るのか。これが手続です。3つ目、手続や要件に問題のある調査のあとで、税額を決められたら、その決定は取り消せるのか。調査の傷が、処分にどう響くかです。調査が違法なら処分も自動的にだめになる、と考えたくなります。ここが、今日いちばん疑ってほしいところです。調査と処分は、別の行為です。この回は、行政調査のパートの最終回です。3つの問いを、混ぜずに順に解いていきます。

前回までの受けと、手続の一般法

手続の一般法が無い(行政手続法3条1項14号=報告または物件の提出を命ずる処分その他職務の遂行上必要な情報の収集を直接の目的としてされる処分・行政指導には、第2章から第4章の2の規定を適用しない/2条4号イ=事実上の行為は不利益処分の定義から除かれる/結論=調査の手続は個別法と判例で補う/行政手続法の適用除外の全体は後の章で扱う) 図:手続の一般法が無い

  • 行政手続法3条1項14号=報告または物件の提出を命ずる処分その他職務の遂行上必要な情報の収集を直接の目的としてされる処分・行政指導には、第2章から第4章の2の規定を適用しない
  • 2条4号イ=事実上の行為は不利益処分の定義から除かれる
  • 結論=調査の手続は個別法と判例で補う
  • 行政手続法の適用除外の全体は後の章で扱う

最初に、前回の確認です。質問検査の権限を、犯則調査や捜査の手段として行使することは許されませんでした。では、集めた資料が後で刑事裁判の証拠に使われることが、調査の時点で想定できた。それだけで、手段として行使したことになるでしょうか?ならないのでしたね。想定できたにとどまるなら、直ちには手段として行使したことにならない、という線でした。ここから今日の本題です。前回、行政調査の手続をまとめて定める一般的な法律が見当たらない、という話が出ました。その理由を、ここで確かめます。行政手続法という、処分や行政指導の手続を定める法律があります。これは調査の手続も定めてくれているのでしょうか。

ところが、行政手続法は調査の手続を定めていません。行政手続法は、調査を適用除外にしています。条文を読みます。

条文行政手続法3条1項14号

行政手続法第3条第1項第14号 次に掲げる処分及び行政指導については、次章から第四章の二までの規定は、適用しない。 十四 報告又は物件の提出を命ずる処分その他その職務の遂行上必要な情報の収集を直接の目的としてされる処分及び行政指導

柱書は、次章から第四章の二までの規定を適用しない、と定めています。つまり、情報を集めることを直接の目的とする処分には、申請に対する処分、不利益処分、行政指導などの一般的な手続規定を適用しない、ということです。調査の性質上、一般的な規定になじまない、というのが理由です。たとえば、帳簿の提出を求めるたびに、前もって言い分を聞く手続を必ず踏ませると、その間に帳簿を作り替えられかねません。もう1つあります。立入検査のような事実上の行為は、そもそも不利益処分の定義から除かれます。

条文行政手続法2条4号イ

行政手続法第2条第4号イ 不利益処分 行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。 イ 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分

事実上の行為とは、法的な効果を直接に生じさせない行為のことです。職員が店に入って帳簿を眺める行為は、それだけで誰かの権利義務を変えるわけではありません。その意味で事実上の行為です。結論です。調査の手続を一般に定める法律は、ありません。行政手続法の手続規定の多くも、調査には適用されません。ですから、手続は個別の法律と、判例で補います。強制にわたる調査は、憲法の手続保障が及ぶかも問題になる、というのは、令状主義と供述拒否権の回で見たとおりです。行政手続法の適用除外の全体は、後の章でまとめて扱います。

最高裁の決定 要件・細目・事前通知

最高裁の3つの規範(事案=税務署の職員が所得税の調査のため事業者に帳簿などの質問検査を求めた→質問検査の拒否が当時の所得税法の罰則違反で起訴された・事業者側は事前の通知も調査の理由・範囲の説明も無いことなどを主張→上告棄却/規範1=要件は客観的な必要性/規範2=実施の細目は職員の合理的な選択に委ねられる・ただし社会通念上相当な限度=比例の限度/規範3=事前通知・理由の個別的具体的な告知は法律上一律の要件ではない) 図:最高裁の3つの規範

  • 事案=税務署の職員が所得税の調査のため事業者に帳簿などの質問検査を求めた→質問検査の拒否が当時の所得税法の罰則違反で起訴された・事業者側は事前の通知も調査の理由・範囲の説明も無いことなどを主張→上告棄却
  • 規範1=要件は客観的な必要性
  • 規範2=実施の細目は職員の合理的な選択に委ねられる・ただし社会通念上相当な限度=比例の限度
  • 規範3=事前通知・理由の個別的具体的な告知は法律上一律の要件ではない

最高裁の決定を読みます。行政調査の最初の回で、罰則つきの質問検査を任意調査と呼んだ、と紹介した、荒川民商事件の決定です。今日は、その中身を読みます。事案は、こうです。税務署の職員が、所得税の調査のために、ある事業者に、帳簿などの質問検査を求めました。この質問検査を拒んだことが、当時の質問検査の罰則に違反するとして、起訴されたのです。事業者側は、事前の通知がなく、調査の理由も範囲も示されていないことなどを主張しました。上告審は、上告を棄却しました。決定の中身は、3つの規範に分けられます。1つ目は、質問検査の要件です。読みます。決定当時の条文は所得税法234条1項で、今の国税通則法74条の2第1項にあたります。

判例最決昭48・7・10 刑集27巻7号1205頁

質問検査の要件 客観的な必要性(所得税法234条1項、現在の国税通則法74条の2第1項にあたる) 国税庁、国税局または税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には、前記職権調査の一方法として、同条一項各号規定の者に対し質問し、またはその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行なう権限を認めた趣旨であつて

職員が判断する、という形ですが、判断の中身は、客観的な必要性です。職員の主観や、勘ではだめです。調査の目的、調べる事項、申告の体裁、帳簿の記入や保存の状態、相手の事業の形態など、具体的な事情に照らして、必要だと言える場合に限って、質問検査の権限が認められます。和菓子店で言えば、申告の売上が前の年の半分に落ちたのに、仕入れは変わっていない。これなら調べる必要が客観的に言えます。職員が店主と個人的にもめていて、困らせたいから行く。これは必要性ではありません。2つ目は、細目です。範囲、程度、時期、場所のように、法律に書かれていない詳しい実施の仕方を、どうするかです。

判例最決昭48・7・10 刑集27巻7号1205頁

質問検査の実施の細目 職員の合理的な選択 この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく

実定法上特段の定めのない実施の細目、つまり、法律に書かれていない詳しい実施の方法は、必要があり、かつ、相手の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、職員の合理的な選択に委ねられる、という判示です。職員の自由ではありません。裁量を認めつつ、限度を付けています。相手の不利益と、調査の必要を比べて、釣り合いが取れる範囲に収める。これは比例の限度という考え方です。たとえば、帳簿を見るために、閉店後の深夜に押しかけたり、必要のない部屋まで全部開けさせたりすれば、相当な限度を超えやすい。逆に、営業時間内に、必要な帳簿だけ見せてもらうなら、選択の範囲に収まりやすい、ということです。

規範3 事前通知と理由の告知(判示=実施の日時場所の事前通知・調査の理由および必要性の個別的具体的な告知は、質問検査を行ううえの法律上一律の要件ではない/年の途中や確定申告の期限より前でも質問検査は許される/読み方=一律でない≠どんな場合も不要/一律にしない理由=相手も場面もさまざま・知らせると帳簿を隠されたり作り替えられたりするおそれ) 図:規範3 事前通知と理由の告知

  • 判示=実施の日時場所の事前通知・調査の理由および必要性の個別的具体的な告知は、質問検査を行ううえの法律上一律の要件ではない
  • 年の途中や確定申告の期限より前でも質問検査は許される
  • 読み方=一律でない≠どんな場合も不要
  • 一律にしない理由=相手も場面もさまざま・知らせると帳簿を隠されたり作り替えられたりするおそれ

そして3つ目が、冒頭の和菓子店に、いちばん直接かかわる部分です。事前の通知や、理由の告知です。

判例最決昭48・7・10 刑集27巻7号1205頁

事前通知・理由の告知 法律上一律の要件ではない また、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない。

前半は、年の途中や、確定申告の期限より前でも、調べてよい、という意味です。後半が本題です。実施の日時場所の事前通知、それから、調査の理由と必要性の個別的で具体的な告知は、質問検査を行ううえの、法律上一律の要件とされているものではない。ここで、1問です。この決定の時点で、事前通知なしの質問検査は、違法だったでしょうか。一律の要件ではない、のですから、違法ではなかった、になります。ただし、読み方に注意してください。一律の要件ではない、は、どんな場合でも通知や告知が要らない、と言い切った言い方ではありません。事情によっては必要になりうる余地を残した言い方です。なぜ一律にしなかったのか。調べる相手も場面もさまざまで、前もって知らせると、帳簿を隠されたり作り替えられたりするおそれがある場合もあります。法律に書かれていない以上、知らせるかどうかも、細目と同じく、職員の合理的な選択の中で決める、という読み方です。

⭐ 論文で書く規範:【規範】質問検査の要件は、諸般の具体的事情に照らした客観的な必要性。実施の細目は、必要があり、かつ社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、職員の合理的な選択に委ねられる。事前の通知や、理由の個別的具体的な告知は、法律上一律の要件ではない (判例が立てた規範(条文に無い基準)/答案では判決の言葉のまま書く)

暗記の線は、3本です。要件は客観的な必要性。細目は合理的な選択で、限度は比例。事前通知や理由告知は、一律の要件ではない。短答では、判例は事前通知を不要と判断した、という文が出ることがあります。決定当時の国税の質問検査については、一律の要件ではないという限りで、そのとおりです。ただし、どんな場合も不要と言い切った判断ではありません。では、今も同じなのか。次の節で確かめます。

今の国税通則法の手続

2011年の改正で入った調査の手続(国税通則法の実地の調査/事前通知=74条の9/例外=74条の10/終了時=74条の11/身分証明書=74条の13/判例が一律の要件でないとした事前通知を、立法が原則として必要とした) 図:2011年の改正で入った調査の手続

  • 国税通則法の実地の調査
  • 事前通知=74条の9
  • 例外=74条の10
  • 終了時=74条の11
  • 身分証明書=74条の13
  • 判例が一律の要件でないとした事前通知を、立法が原則として必要とした

結論から言います。今は、同じではありません。国税通則法は、2011年の改正で、実地の調査の前後の手続を定めました。判例が一律の要件ではないとした事前通知は、国税の実地の調査については、原則として必要になったのです。決定の時点では、調べに来る日時や目的を、納税者が前もって知る手立てが、法律にありませんでした。その点を、立法が埋めた、と整理できます。実地の調査とは、納税者のところへ行って、帳簿などを調べる調査です。条文を読みます。第1項の、通知の部分です。

条文国税通則法74条の9第1項

国税通則法第74条の9第1項 税務署長等(国税庁長官、国税局長若しくは税務署長又は税関長をいう。以下第七十四条の十一(調査の終了の際の手続)までにおいて同じ。)は、国税庁等又は税関の当該職員(以下同条までにおいて「当該職員」という。)に納税義務者に対し実地の調査(税関の当該職員が行う調査にあつては、消費税等の課税物件の保税地域からの引取り後に行うもの又は国際観光旅客税について行うものに限る。以下同条までにおいて同じ。)において第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求(以下「質問検査等」という。)を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者(当該納税義務者について税務代理人がある場合には、当該税務代理人を含む。)に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする。

実地の調査をさせる場合には、あらかじめ、納税義務者に、その旨と、次に掲げる事項を通知する、という定めです。通知する事項は、各号に並んでいます。

条文国税通則法74条の9第1項各号

国税通則法第74条の9第1項各号 一 質問検査等を行う実地の調査(以下この条において単に「調査」という。)を開始する日時 二 調査を行う場所 三 調査の目的 四 調査の対象となる税目 五 調査の対象となる期間 六 調査の対象となる帳簿書類その他の物件 七 その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項

通知する事項は、日時、場所、目的、税目、期間、帳簿書類などの物件です。納税者に税務代理人、つまり、納税者に代わって税務の手続をする税理士などがいるときは、その代理人にも通知します。事前通知が要らない場合もあります。次の条文です。

条文国税通則法74条の10

国税通則法第74条の10 前条第一項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第三項第一号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第一項の規定による通知を要しない。

通知をすると、証拠を隠されたり、帳簿を作り替えられたりして、正確な税額の把握が難しくなるおそれがある、と税務署長等が認める場合は、事前通知を要しない、という例外です。原則は通知、例外は不要、という形に変わりました。ほかの手続も、並べます。調査が終わるときの手続が、74条の11です。更正決定など、つまり、申告された税額を税務署が直す処分などを、すべきでないと認める場合は、その旨を書面で通知します。すべきと認める場合には、調査の結果の内容、つまり、どの額が、どんな理由で、と説明します。修正申告の勧奨や、不服申立ての説明も、ここに定められています。身分証明書は、74条の13です。条文を読みます。

条文国税通則法74条の13

国税通則法第74条の13 国税庁等又は税関の当該職員は、第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査、提示若しくは提出の要求、閲覧の要求、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施をする場合又は前条の職務を執行する場合には、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを提示しなければならない。

職員には、身分証明書を携帯し、請求があれば提示する義務があります。学説は、これを強行規定、つまり、守らなければならない規定と解しています。違反する質問検査は違法で、相手に、応答する義務や受忍する義務は生じない、という整理です。身分証明書は、成田新法の回でも、令状が要らないことを支える歯止めの1つとして出ました。ここでは、守らないと調査が違法になる、手続の規定として見ます。身分証明書は、頼まれたら示せばよいので、頼むまで出さなかっただけなら、違反ではありません。違反になるのは、頼まれても示さない場合です。和菓子店への当てはめは後でします。もう1点、理由の告知です。通知する事項には調査の目的が入っています。ただし、なぜこの店を調べるのか、という個別具体的な調査の理由まで、一律に開示することは求められていません。判例が言った、理由および必要性の個別的、具体的な告知は一律の要件ではない、という部分は、今も残っているのです。

個別法の手続の例(都市計画法25条=他人の土地へ立ち入る調査は、2項=立ち入ろうとする日の3日前までに占有者へ通知/3項=建築物のある土地・囲い地は立入りの際あらかじめ告げる/4項=日出前・日没後はその土地へ占有者の承諾なく立ち入れない/27条=身分を示す証明書の携帯・関係人の請求で提示/土地収用法には事前通知を置く規定・自然環境保全法や自然公園法には意見書を出す機会を置く規定/個別法ごとに手続は違う) 図:個別法の手続の例

  • 都市計画法25条=他人の土地へ立ち入る調査は、2項=立ち入ろうとする日の3日前までに占有者へ通知
  • 3項=建築物のある土地・囲い地は立入りの際あらかじめ告げる
  • 4項=日出前・日没後はその土地へ占有者の承諾なく立ち入れない
  • 27条=身分を示す証明書の携帯・関係人の請求で提示
  • 土地収用法には事前通知を置く規定・自然環境保全法や自然公園法には意見書を出す機会を置く規定
  • 個別法ごとに手続は違う

国税以外の個別法にも、手続を置くものがあります。都市計画法は、他人の土地に立ち入って調査するとき、立ち入ろうとする日の3日前までに、占有者へ通知することを求めます。建物のある土地や囲いのある土地には、立ち入るときに、あらかじめ告げることも求めます。そして、日の出前と日没後は、その土地には、占有者の承諾がなければ入れません。さらに27条で、身分を示す証明書の携帯と、請求があれば提示することを定めます。ほかにも、土地収用法には事前の通知を置く規定が、自然環境保全法や自然公園法には、意見書を出す機会を置く規定があります。

ですから、調査の手続を問われたら、根拠の個別法を確認する、という手順になります。これは、質問検査の個別法を読む手順の回で見たとおりです。条番号の暗記は要りません。国税では、事前通知が法定された、という位置づけが大事です。

判例と現行法を比べる

判例当時と今の比較(行=事前の通知/理由の告知/身分証明書/必要性/細目、列=昭48決定の時点/今の国税/事前の通知=一律の要件でない→実地の調査は原則必要〔74条の9〕・例外あり〔74条の10〕/理由の告知=一律の要件でない→個別具体的な理由の開示までは求められない/身分証明書=決定は触れていない→携帯と請求での提示が条文で要求〔74条の13〕/必要性=客観的な必要性→変わらない/細目=職員の合理的な選択→変わらない・比例の限度) 図:判例当時と今の比較(行=事前の通知/理由の告知/身分証明書/必要性/細目、列=昭48決定の時点/今の国税/事前の通知=一律の要件でない→実地の調査は原則必要〔74条の9〕・例外あり〔74条の10〕/理由の告知=一律の要件でない→個別具体的な理由の開示までは求められない/身分証明書=決定は触れていない→携帯と請求での提示が条文で要求〔74条の13〕/必要性=客観的な必要性→変わらない/細目=職員の合理的な選択→変わらない・比例の限度)

決定の時点と、今を、1枚の表にします。変わったものと、変わらないものを分けます。変わったのは、事前の通知です。一律の要件ではなかったものが、実地の調査では原則必要になりました。例外は、74条の10です。身分証明書も、携帯と、請求による提示が、条文で求められています。変わらないのは、3つです。要件は、客観的な必要性。細目は、職員の合理的な選択で、比例の限度。そして、個別具体的な理由の開示は、一律には求められない。この3つは、今も判例の枠組みで考えます。事前通知をしなかった調査は、74条の10の例外に当たらない限り、74条の9違反で違法と評価されます。ただし、ここで止まってはいけません。調査が違法であることと、その調査を経た処分が取り消されることは、別の問題です。次の節で、そこを見ます。

調査の違法は処分の取消事由になるか

調査の瑕疵と処分(問い=違法な調査で集めた資料を使って更正処分がされた→処分を取り消せるか/法律に規定は無い・最高裁が正面から判断した判例もまだ見当たらない/否定寄り=調査と処分は別の行為・調査の違法は当然には取消事由にならない/肯定寄り=適正手続の観点・必要な調査を実質的に欠くなら前提を欠く/今の整理=調査に重大な違法があるときに処分も違法・単なる違法では足りない) 図:調査の瑕疵と処分

  • 問い=違法な調査で集めた資料を使って更正処分がされた→処分を取り消せるか
  • 法律に規定は無い・最高裁が正面から判断した判例もまだ見当たらない
  • 否定寄り=調査と処分は別の行為・調査の違法は当然には取消事由にならない
  • 肯定寄り=適正手続の観点・必要な調査を実質的に欠くなら前提を欠く
  • 今の整理=調査に重大な違法があるときに処分も違法・単なる違法では足りない

違法な調査のあとに、その調査で集めた資料を使って、課税処分、つまり更正処分がされました。処分は取り消せるのか。冒頭の問いの3つ目です。調査が違法なら処分もだめ、と考えたくなるのは自然です。ただ、まず、結論の置かれ方を確認します。この点に、法律の規定はありません。最高裁判所が正面から判断した判例も、まだ見当たりません。ですから、解釈に委ねられています。考え方を、2つの寄り方で整理します。1つ目は、否定寄りです。調査と処分は、別の行為です。課税処分の適否は、課税要件が客観的に満たされているかで決まります。調査が違法だったからといって、集まった情報の中身が、変わるわけではありません。だから、調査の違法は、当然には処分の取消事由、つまり処分を取り消す理由にならない、という考え方です。2つ目は、肯定寄りです。第1章で見て、前回、行政調査にも及ぶと確かめた、適正手続の原則に照らせば、処分が正しいと言えるかは、結論の中身だけでなく、そこへ至る調べ方の正しさまで含めて見るべきだ、という考え方です。必要な調査を実質的に欠くなら、前提となる要件を欠いたものとして、処分は違法になります。

実際は、歩み寄った整理になっています。どちらも、貫くと困るからです。否定寄りを貫くと、どれほどひどい調査をしても処分は残るので、調査のルールを守らせる手段がなくなります。肯定寄りを貫くと、小さな手順の傷ひとつで、正しい税額の処分まで消え、払うべき人が払わずに済んでしまいます。そこで、調査に、適正手続の観点から重大な違法があるときに限って、その調査を経た処分も違法として取り消される。単なる違法では足りません。

⭐ 論文で書く規範:【整理】調査の違法は、当然には処分の取消事由にならない。適正手続の観点から調査に重大な違法があるときに、処分も違法となる (学説・下級審の整理(最高裁が正面から判断した判例はまだ見当たらない)/①調査の違法と②処分の取消しを別に論じる)

下級審の傾向も、同じ方向です。調査手続の単なる瑕疵は、処分に影響しない。調査が刑罰法規に触れたり、社会通念上相当な限度を超えて濫用にわたったりして、何も調査せずに処分したに等しいと評価される重大な違法を帯びる場合に限り、取消しの原因があるとされます。物差しが2つあるように聞こえますが、1つです。適正手続の観点から重大か、を具体的に測るのが、何も調査せずに処分したに等しいか、です。等しいと言える道は2つあります。1つは、調査そのものが、実質的に行われていない場合。もう1つは、調べ方がひどい場合です。刑罰法規に触れたり、社会通念上相当な限度を超えて濫用にわたったりする調査が、これに当たります。そうして集めた資料は、処分の材料に使えないと考えれば、手元に残るものはほとんどなく、何も調査しなかったのと同じ扱いになる、と説明できます。たとえ話をします。ある菓子店で、試食会の手順が雑で、案内状の出し忘れがあった。それで、出来上がった菓子の味が悪くなるわけではありません。ところが、材料を1つも仕入れずに、菓子を出したなら、話は別です。調査の手順の傷と、処分の中身は別。ただ、中身を決める前提そのものが欠けたなら、処分が崩れる。この区別が、重大な違法という言葉の中身です。

和菓子店への当てはめと答案の流れ(問いその1=身分証明書を携帯せず頼まれても示さないまま質問検査→74条の13違反で調査は違法・身分証明書を携帯していなかった事案で取消事由になる程度の違法性は無いとした裁判例→処分は取り消されない・別の道は国家賠償/問いその2=事前通知を一切せず74条の10の例外にも当たらない実地の調査→74条の9違反で違法・調査は実質的に行われていて取消しに直結するとは限らない/反対側=帳簿も見ず店主の話も聞かず推測だけで税額を決めた→何も調査せずに処分したに等しい→処分も取り消されうる/答案では①調査の違法を認定→②重大な違法か→あり:処分も違法〔取消し〕・なし:処分は取り消されない) 図:和菓子店への当てはめと答案の流れ

  • 問いその1=身分証明書を携帯せず頼まれても示さないまま質問検査→74条の13違反で調査は違法・身分証明書を携帯していなかった事案で取消事由になる程度の違法性は無いとした裁判例→処分は取り消されない・別の道は国家賠償
  • 問いその2=事前通知を一切せず74条の10の例外にも当たらない実地の調査→74条の9違反で違法・調査は実質的に行われていて取消しに直結するとは限らない
  • 反対側=帳簿も見ず店主の話も聞かず推測だけで税額を決めた→何も調査せずに処分したに等しい→処分も取り消されうる
  • 答案では①調査の違法を認定→②重大な違法か→あり:処分も違法〔取消し〕・なし:処分は取り消されない

ここで、冒頭の和菓子店で確かめます。当てはめの問い、その1です。職員が、身分証明書を携帯せず、頼まれても示さないまま質問検査を行い、その資料で更正処分がされました。処分は取り消されるでしょうか。考えてから、聞いてください。順に確かめます。学説の整理では、74条の13は強行規定ですから、調査は違法です。強行規定であることが効くのは、その場面です。頼んでも身分証明書が示されないなら、店主は、質問に答えたり検査を受け入れたりする義務を負いません。冒頭の、断ってもいいのか、への答えの1つがこれです。次に、重大な違法か。身分証明書は、質問検査にあたる職員の身分を明らかにして、調査を円滑に進めるためのものです。集めた帳簿の中身が正しいかどうかとは、関わりません。この趣旨から、身分証明書を携帯していなかった事案で、取消事由になる程度の違法性は無いとした裁判例があります。この考え方に従えば、取消しは認められません。調査は違法、処分は取り消されない、です。

調査の違法は、別の形で争える余地があります。たとえば、国家賠償の問題です。処分の取消しとは、別の道です。その2です。事前通知を一切せず、74条の10の例外にも当たらないのに、実地の調査を行い、その資料で処分しました。調査は、74条の9違反で違法です。では、重大な違法か。物差しは、何も調査せずに処分したに等しいと言えるか、です。通知は欠けていても、職員は帳簿を見て、店主の話も聞いていて、調査そのものは実質的におこなっています。そこまでとは言いにくく、取消しに直結するとは限りません。反対側も見ておきます。職員が店に来たものの、帳簿も見ず、店主の話も聞かないまま帰り、推測だけで税額を決めた。これは、何も調査せずに処分したに等しい場合です。重大な違法として、処分も取り消されうる側です。

調査の違法から処分の行方まで(流れ=調査に違法あり→①調査の違法を認定〔要件・手続〕→②重大な違法か→あり:処分も違法〔取消し〕/なし:処分は取り消されない〔調査の違法は別途、国家賠償など〕/混ぜない=①と②は別の問い/予告=手続の瑕疵の回で同じ形をもう一度整理する) 図:調査の違法から処分の行方まで

  • 流れ=調査に違法あり→①調査の違法を認定〔要件・手続〕→②重大な違法か→あり:処分も違法〔取消し〕
  • なし:処分は取り消されない〔調査の違法は別途、国家賠償など〕
  • 混ぜない=①と②は別の問い
  • 予告=手続の瑕疵の回で同じ形をもう一度整理する

答案の組み立て方を、流れにします。調査に違法があるように見える。まず1段階目で、調査の違法を認定します。要件を満たすか、手続を守ったか。次に2段階目で、その違法が重大か。重大なら処分も違法で、取り消されます。重大でなければ、処分は取り消されません。1と2を混ぜない。これが、この論点の骨格です。論文で論点になりうる部分です。この形の問題は、他の場面でも出てきます。ただ、取消しの要否は、手続の瑕疵を扱う回で、理由付記や聴聞なども並べて整理します。ここでは、今日の2つの寄り方と同じ引っ張り合いがある、とだけ覚えてください。

調査を欠く行政決定 計画の基礎調査

基礎調査を欠く計画決定(都市計画法6条=都道府県は、おおむね5年ごとに人口・就業人口・土地利用・交通量などの現況と将来の見通しについて都市計画に関する基礎調査を行う/高裁の裁判例=静岡県の都市計画道路の幅員の変更決定とその区域内の建築不許可処分/調査の結果という裏づけを欠いた都市計画の変更決定は違法となりうる/位置づけ=必要な調査を欠けば決定は前提を欠く/判決は東京高判平17・10・20) 図:基礎調査を欠く計画決定

  • 都市計画法6条=都道府県は、おおむね5年ごとに人口・就業人口・土地利用・交通量などの現況と将来の見通しについて都市計画に関する基礎調査を行う
  • 高裁の裁判例=静岡県の都市計画道路の幅員の変更決定とその区域内の建築不許可処分
  • 調査の結果という裏づけを欠いた都市計画の変更決定は違法となりうる
  • 位置づけ=必要な調査を欠けば決定は前提を欠く
  • 判決は東京高判平17・10・20

最後に、調査を欠いた行政決定を見ます。行政決定のなかには、調査の結果に基づいて行うことを、法が求めるものがあります。都市計画がその例です。都市計画法6条は、都道府県が、おおむね5年ごとに、人口、就業人口、土地利用、交通量などの現況と将来の見通しについて、都市計画に関する基礎調査を行う、と定めています。基礎調査とは、計画の前提になる、現況と将来の調査のことです。静岡県の都市計画道路をめぐる高裁判決があります。道路の幅員を変更する決定と、その区域内の建築不許可処分が争われました。調査の結果という裏づけを欠いたまま都市計画を変えれば、法の趣旨に反して違法となりうる、と述べた裁判例です。前の節との関係で整理します。税金の処分は、所得がいくらか、という課税要件で中身が決まります。調査は、その額を知るための手段です。だから、手段に傷があっても、額が正しければ、処分は残りえました。都市計画は違います。人口や交通量の見通しから、道路の幅をどれだけにするかを決めます。調査の結果そのものが、決定の中身の根拠で、法律も、その調査を行うことを求めています。ですから、必要な調査を実質的に欠けば、決定は根拠を欠いて、違法になりえます。帳簿も見ずに推測で税額を決めた場面と、同じ形です。考慮要素の審査の回で、二風谷ダム事件の、必要な調査を怠った、という指摘を見ました。行政が調査を尽くしたかを問う審査は、ここにつながります。計画の審査そのものは、計画の審査の回で見たとおりです。

今日の地図(保存版)

まとめ(①調査の手続の一般法は無い〔行政手続法は適用除外〕②要件=客観的な必要性・細目=合理的な選択〔比例の限度〕③事前通知・理由告知=最決昭48は一律の要件でないとした/今は国税の実地の調査は事前通知が原則〔74条の9〕・身分証明書〔74条の13〕④調査の違法は当然には処分の取消事由にならない・重大な違法があれば処分も違法〔適正手続〕⑤調査を欠く決定は前提を欠く〔基礎調査〕/導入の3つの問い=要件・手続・処分の行方) 図:まとめ

  • ①調査の手続の一般法は無い〔行政手続法は適用除外〕②要件=客観的な必要性・細目=合理的な選択〔比例の限度〕③事前通知・理由告知=最決昭48は一律の要件でないとした
  • 今は国税の実地の調査は事前通知が原則〔74条の9〕・身分証明書〔74条の13〕④調査の違法は当然には処分の取消事由にならない・重大な違法があれば処分も違法〔適正手続〕⑤調査を欠く決定は前提を欠く〔基礎調査〕
  • 導入の3つの問い=要件・手続・処分の行方

まとめます。1つ目、調査の手続を一般に定める法律は、ありません。行政手続法は調査を適用除外にしていて、手続は個別法と判例で補います。2つ目、質問検査の要件は、諸般の具体的事情に照らした客観的な必要性です。範囲や時期などの細目は、職員の合理的な選択に委ねられますが、社会通念上相当な限度、つまり比例の限度があります。3つ目、事前通知と理由の告知を、最高裁の決定は、法律上一律の要件ではないとしました。今の国税では、実地の調査の事前通知が、原則として必要です。例外は74条の10です。身分証明書の携帯と提示は、74条の13です。個別具体的な理由の開示までは、求められていません。4つ目、調査が違法でも、処分は当然には取り消されません。適正手続の観点から、調査に重大な違法があるときに、処分も違法になります。調査の違法の認定と、処分の取消しは、別々に論じます。5つ目、必要な調査を欠いた決定、たとえば基礎調査を欠く計画の決定は、前提を欠くものとして違法になりえます。冒頭の3つの問いに戻ります。何があれば調べてよいのか。客観的な必要性です。通知や告知は要るのか。今の国税では、実地の調査は事前通知が原則で、身分証明書も要ります。調査に問題があれば、処分は取り消されるのか。当然にはではなく、重大な違法があるときに限ります。手続が悪かったときの処分の扱いは、手続の瑕疵の回で、もう一度、同じ形の問題として整理します。

参照条文

  • 行政手続法3条1項14号
  • 行政手続法2条4号イ
  • 国税通則法74条の9第1項
  • 国税通則法74条の9第1項各号
  • 国税通則法74条の10
  • 国税通則法74条の13

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