行政法ゼロから行政法#92

義務履行確保の全体像

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第7章 行政調査・義務履行確保・行政罰 #92/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

守られない撤去命令

守られない命令と3つの問い(A町の条例=無許可の大型の看板を禁じ撤去を命じる・過料の罰則もある/店Bは命令を無視→看板は立ったまま/問い①A町は看板を自分で取り除けるのか/問い②Bの店主の体を押さえてでも従わせてよいのか/問い③条例に「従うまで毎日1万円ずつ過料」と書けるのか) 図:守られない命令と3つの問い

  • A町の条例=無許可の大型の看板を禁じ撤去を命じる・過料の罰則もある
  • 店Bは命令を無視→看板は立ったまま
  • 問い①A町は看板を自分で取り除けるのか
  • 問い②Bの店主の体を押さえてでも従わせてよいのか
  • 問い③条例に「従うまで毎日1万円ずつ過料」と書けるのか

A町の条例が、無許可の大型の看板を禁じています。町は、駅前で看板を立てているBの店に、撤去を命じました。条例には、罰則として過料も置いてあります。ところが、Bの店主は命令を黙って無視しました。数か月たっても、看板は立ったままです。今日の問いは3つです。1つ目、町は看板を、自分の手で取り除けるのか。2つ目、店主の体を押さえてでも、従わせてよいのか。3つ目、条例に「従うまで毎日1万円ずつ過料」と書けるのか。3つ目の問いが、今日いちばん疑ってほしいところです。命令を出せることと、守らせるために実力を使えることは、別の話です。今日は、個別の手段の中身には入りません。守らせる手段にどんなものがあるか、その地図を1枚作ります。答えは、最後に回収します。

義務を課す段階と、守らせる段階

2つの段階と根拠(上の段=義務を課す〔命令・禁止〕→根拠は法律または条例/下の段=守らせる〔強制する〕→根拠は法律だけ〔のちに条文で確かめる〕/命令を出すだけでは行政の目的は達せられない/義務履行確保=守らせること) 図:2つの段階と根拠

  • 上の段=義務を課す〔命令・禁止〕→根拠は法律または条例
  • 下の段=守らせる〔強制する〕→根拠は法律だけ〔のちに条文で確かめる〕
  • 命令を出すだけでは行政の目的は達せられない
  • 義務履行確保=守らせること

最初に、全体の見取り図を置きます。行政が義務を課すとき、段階が2つあります。1段目は、義務を課す段階です。撤去せよ、営業をやめよ、と命令したり禁止したりします。2段目は、その義務を守らせる段階です。守られなければ、行政の目的は達せられません。この2段目を、義務履行確保と呼びます。守らせること、と読み替えれば足ります。ここまでの回でも、この続きは見えていました。事前のチェックがあり、処分や命令があり、言い分を聴く手続があり、罰則があり、最後に行政自身による強制がある。5段の流れでした。今日は、その4段目と5段目を、広げて地図にする回です。大事なのは、根拠も別に要るという点です。義務を課す根拠は、法律または条例です。ところが、強制する根拠は、法律でなければなりません。この区別は、あとの節で条文を使って確かめます。

考えてから聞いてください。命令の根拠が条例にあるとします。それだけで、町は看板を自分の手で取り除けるでしょうか。命令の根拠だけでは足りない気がします。命令を出す権限と、実際に手を出す権限は、別のものだと思います。注文票を書く権限と、人の家に上がり込んで品物を運び出す権限は、別物です。前に見た執行力の話も、この続きです。処分があれば当然に執行力がある、というのは誤りでした。命令の根拠法があるだけでは足りず、強制を認める別の法律の根拠が要る。今日は、これを一般化して、地図にします。

地図A・B・C——守らせる3つの方向

守らせる手段の地図(A=義務の履行を強制する〔将来に向けて義務の中身が実現された状態をつくる〕:①行政上の強制執行〔代執行・強制徴収・直接強制・執行罰〕②民事手続による強制〔司法的執行〕/B=義務違反に制裁を科す〔過去の違反に対する不利益〕:行政刑罰・過料・課徴金・加算税・制裁的公表/C=義務を課さずに実力を使う:即時強制/見分け=これからやらせるか・やったことを罰するか・義務を課さずに実力を使うか) 図:守らせる手段の地図

  • A=義務の履行を強制する〔将来に向けて義務の中身が実現された状態をつくる〕:①行政上の強制執行〔代執行・強制徴収・直接強制・執行罰〕②民事手続による強制〔司法的執行〕
  • B=義務違反に制裁を科す〔過去の違反に対する不利益〕:行政刑罰・過料・課徴金・加算税・制裁的公表
  • C=義務を課さずに実力を使う:即時強制
  • 見分け=これからやらせるか・やったことを罰するか・義務を課さずに実力を使うか

地図を1枚、示します。守らせる手段は、3つの方向に分かれます。

行政上の強制執行の4つの手段(行=代執行・強制徴収・直接強制・執行罰/列=一言・対象の義務・一般法・詳細の回/代執行=義務者に代わって行政が行い〔または第三者にさせ〕費用を義務者から取る・他人が代わってできる作為義務〔代替的作為義務〕に限る・行政代執行法・次の次の回/強制徴収=金銭の支払義務を滞納処分で行政が自ら取り立てる・金銭支払義務・国税徴収法〔国税〕と個別法の「滞納処分の例による」定め/直接強制=義務者の体や財産に直接力を加えて履行された状態を実現する・個別法がある場合だけ・一般法なし/執行罰=履行するまで過料を繰り返し課して履行を促す〔間接の強制〕・個別法がある場合だけ・一般法なし〔砂防法のみ〕) 図:行政上の強制執行の4つの手段

  • 行=代執行・強制徴収・直接強制・執行罰
  • 列=一言・対象の義務・一般法・詳細の回
  • 代執行=義務者に代わって行政が行い〔または第三者にさせ〕費用を義務者から取る・他人が代わってできる作為義務〔代替的作為義務〕に限る・行政代執行法・次の次の回
  • 強制徴収=金銭の支払義務を滞納処分で行政が自ら取り立てる・金銭支払義務・国税徴収法〔国税〕と個別法の「滞納処分の例による」定め
  • 直接強制=義務者の体や財産に直接力を加えて履行された状態を実現する・個別法がある場合だけ・一般法なし
  • 執行罰=履行するまで過料を繰り返し課して履行を促す〔間接の強制〕・個別法がある場合だけ・一般法なし〔砂防法のみ〕

Aは、義務の履行を強制する方向です。将来に向けて、義務の中身が実現された状態を作ります。看板を撤去させるなら、看板がなくなった状態を作る。Aの中には2つあります。1つ目は、行政上の強制執行です。行政が自分の手で義務を実現する仕組みで、代執行、強制徴収、直接強制、執行罰の4つがあります。代わりにやって費用を取る、お金を取り立てる、体や物に直接力を加える、過料を繰り返して促す。ざっくり、この4つです。

守らせる手段の地図(A=義務の履行を強制する〔将来に向けて義務の中身が実現された状態をつくる〕:①行政上の強制執行〔代執行・強制徴収・直接強制・執行罰〕②民事手続による強制〔司法的執行〕/B=義務違反に制裁を科す〔過去の違反に対する不利益〕:行政刑罰・過料・課徴金・加算税・制裁的公表/C=義務を課さずに実力を使う:即時強制/見分け=これからやらせるか・やったことを罰するか・義務を課さずに実力を使うか) 図:守らせる手段の地図

  • A=義務の履行を強制する〔将来に向けて義務の中身が実現された状態をつくる〕:①行政上の強制執行〔代執行・強制徴収・直接強制・執行罰〕②民事手続による強制〔司法的執行〕
  • B=義務違反に制裁を科す〔過去の違反に対する不利益〕:行政刑罰・過料・課徴金・加算税・制裁的公表
  • C=義務を課さずに実力を使う:即時強制
  • 見分け=これからやらせるか・やったことを罰するか・義務を課さずに実力を使うか

2つ目は、民事手続による強制です。裁判所を通して実現するやり方で、司法的執行とも呼びます。Bは、義務違反に制裁を科す方向です。過去の違反に対する不利益を与えます。行政刑罰、過料、課徴金、加算税、制裁的公表があります。Cは、義務を課さずに実力を使う方向で、即時強制です。見分ける問いは1つです。これからやらせるのか、やったことを罰するのか。罰金を払っても、看板は消えません。罰則は、命令を後ろから支えますが、やめさせることを保証しません。ですから、罰則だけでは履行は確保されたと言えない。この点は、前に見たとおりです。AとBは、狙いが違うのです。

違います。AもBも、命令が出ていて、それが守られない場面が前提です。Cは、義務を課さないまま、行政がいきなり実力を使います。命令、不履行、強制という流れに乗りません。冒頭で見た5段の、どこにも入らない手段です。典型は、義務を課す時間もない急場です。ただ、定義の軸は、義務を課さないという点にあります。行政調査の最初の回で、強制調査を即時強制の枠で論じたと触れました。即時強制との関係はあとで扱う、と送ってありました。今日は、地図に置くだけです。Bの各手段を、一言ずつ定義しておきます。行政刑罰は、裁判所が刑事裁判の手続で科す刑罰です。過料は、刑罰ではなく、行政上の秩序罰で、条例の過料は長が科します。課徴金と加算税は、金銭の負担で違反を抑える仕組みです。制裁的公表は、従わない者の名前を出して従わせる仕掛けです。詳しい中身は、それぞれの回で扱います。見分けの練習をします。次の3つは、A、B、Cのどれでしょうか。違反した店の名前を公表する。履行するまで毎月の過料を繰り返す。違反建築物を行政が取り壊して費用を取る。考えてから聞いてください。

毎月の過料は、履行を促す執行罰で、Aです。取壊しは代執行で、これもAです。同じ過料でも、過去の違反に1回科すなら、Bの秩序罰です。ここでは予告だけにします。行政上の強制執行が使えない義務について、民事の手続で守らせられるのか、という問題です。裁判所を通す道は、認められにくい。結論は、次の回で、判断の中身を読みながら確かめます。協定のように、契約上の義務にあたる場合は、別の筋で民事訴訟が使えます。この区別も、次の回の話です。

自力救済禁止の例外と、戦前・戦後

自力救済禁止の例外と、戦前から戦後へ(私人=自分の権利でも自分の力で実現しない〔裁判所に訴え判決を得て裁判所の関与のもとで強制執行〕/行政=法律の根拠があれば自分で実現できる〔国が債権者で租税なら民事訴訟を経ず滞納処分で差押え・換価〕/あらゆる処分の執行について当然には認められず強制を認める法律の根拠がある場合に限る/戦前=旧行政執行法〔代執行・執行罰・直接強制+強制徴収=国税徴収法〕と即時強制を一般に定める→1948年=行政代執行法の制定で旧法を廃止→戦後の一般法=行政代執行法〔代執行〕のみ) 図:自力救済禁止の例外と、戦前から戦後へ

  • 私人=自分の権利でも自分の力で実現しない〔裁判所に訴え判決を得て裁判所の関与のもとで強制執行〕
  • 行政=法律の根拠があれば自分で実現できる〔国が債権者で租税なら民事訴訟を経ず滞納処分で差押え・換価〕
  • あらゆる処分の執行について当然には認められず強制を認める法律の根拠がある場合に限る
  • 戦前=旧行政執行法〔代執行・執行罰・直接強制+強制徴収=国税徴収法〕と即時強制を一般に定める→1948年=行政代執行法の制定で旧法を廃止→戦後の一般法=行政代執行法〔代執行〕のみ

ここで少し戻って、執行力のところを思い出してください。処分に執行力があるといえるのは、どんな場合に限られましたか?法律が、行政上の強制執行を認めている場合に限る、でした。なぜ、そんな限定があるのか。出発点は、前に見た自力救済の禁止です。私人は、自分の権利でも、裁判所を通さずに自分の力で実現してはならない、というルールでした。ところが、行政には、これが認められる場合があります。国が債権者で、相手の滞納が租税なら、裁判所に訴えなくても、滞納処分で、財産を差し押さえ、換価できます。換価とは、差し押さえた財産を売って、お金に換えることです。滞納処分とは、税を払わない人の財産を、行政が自分で差し押さえて取り立てる手続のことです。

理由は、前に見た2つです。義務が公益にかかわるので、確実に履行させる必要があること。行政機関が、国家機関として、法の執行を担っていること。ただし、何でも自分で強制できるわけではありません。あらゆる処分の執行について、当然には認められません。強制を認める法律の根拠がある場合に限ります。人権を守るためです。では、歴史を見ます。戦前は、旧行政執行法という法律が、強制執行を一般に定めていました。代執行、執行罰、直接強制の3つです。これに、強制徴収を定める国税徴収法を合わせると、4つの類型が、一般法として整っていました。同時に、即時強制も、一般に定めていました。人の身柄を一時押さえる検束、仮に物を預かる仮領置、家宅への立入り、強制診断、居住の制限などです。だから、戦前は、行政行為には当然に執行力が備わる、と言われました。

戦後、この仕組みは、国家が人権を侵すために使われたとして、強く反省されました。1948年に、行政代執行法が制定され、その附則で旧行政執行法は廃止されました。同じ頃、警察官職務執行法ができています。即時強制を定める代表的な法律です。そして、今の姿です。行政上の強制執行の一般法は、行政代執行法の代執行だけです。金銭の強制徴収は、国税については国税徴収法が根拠です。国税以外にも、個別の法律が「国税滞納処分の例による」と定めて、同じ仕組みを使わせることがあります。代執行の費用の徴収も、行政代執行法6条が、国税滞納処分の例による、としています。直接強制と執行罰は、個別の法律に定めがあるときだけです。ごくわずかしかありません。

一般的に使える強制執行は、代執行。それ以外は、個別法があるときだけ。この一言です。

行政代執行法1条・2条——条例で強制の手段は作れない

1条の「法律」と2条の「法律」の対比(行政代執行法1条=行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる→「法律」に括弧書なし/2条=「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)」と括弧書で条例まで含めると定義/義務を課す根拠=法律または条例/強制する根拠=法律だけ) 図:1条の「法律」と2条の「法律」の対比

  • 行政代執行法1条=行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる→「法律」に括弧書なし
  • 2条=「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)」と括弧書で条例まで含めると定義
  • 義務を課す根拠=法律または条例
  • 強制する根拠=法律だけ

今日の核心です。行政代執行法の1条と2条を読みます。まず、1条です。

条文行政代執行法1条

行政代執行法第1条 行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。

行政上の義務の履行確保、つまり義務を守らせる方法は、別に法律で定めたものを除き、この法律による、という定めです。守らせる方法を決めるのは、法律です。条例が守らせる方法の根拠になりうるのかを確かめるために、2条を読みます。

条文行政代執行法2条

行政代執行法第2条 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。

2条の細かい要件は、次の次の回で扱います。今日は、冒頭の括弧書だけを見てください。2条の「法律」には、法律の委任に基づく命令、規則、そして条例を含む、と書いてあります。これは、代執行の対象になる義務を課す根拠は、条例でもよい、という意味です。町が条例に基づいて出した撤去命令も、2条の「法律に基き行政庁により命ぜられた」行為に当たります。1条と2条の括弧書の違いが論点です。2条は、条例を含む、と、わざわざ書きました。同じ法律の1条の「法律」には、その括弧書がありません。わざわざ含めると書いたのだから、1条の「法律」は条例を含まないと解されます。条文の対比から、書いていない範囲を反対に読む。これを反対解釈と呼びます。

⭐ 論文で書く規範:【整理】1条の「法律」は条例を含まない。義務を課す根拠は法律または条例(2条)、強制する根拠は法律だけ。条例で、直接強制や執行罰など強制の手段を新しく作ることはできない (条文の対比から導く解釈(通説)。判例が言い切ったものではない/答案では1条と2条の括弧書を対比して書く)

ここは、短答で聞かれ、論文でも論点になりうる部分です。注意してほしいのは、これは条文の対比から導いた解釈で、判例が言い切ったものではない点です。ですから、答案では、解される、と書きます。

2つの段階と根拠(上の段=義務を課す〔命令・禁止〕→根拠は法律または条例/下の段=守らせる〔強制する〕→根拠は法律だけ〔のちに条文で確かめる〕/命令を出すだけでは行政の目的は達せられない/義務履行確保=守らせること) 図:2つの段階と根拠

  • 上の段=義務を課す〔命令・禁止〕→根拠は法律または条例
  • 下の段=守らせる〔強制する〕→根拠は法律だけ〔のちに条文で確かめる〕
  • 命令を出すだけでは行政の目的は達せられない
  • 義務履行確保=守らせること

2段の図に戻します。上の段、義務を課す根拠は、法律または条例。下の段、強制する根拠は、法律だけです。

守られない命令と3つの問い(A町の条例=無許可の大型の看板を禁じ撤去を命じる・過料の罰則もある/店Bは命令を無視→看板は立ったまま/問い①A町は看板を自分で取り除けるのか/問い②Bの店主の体を押さえてでも従わせてよいのか/問い③条例に「従うまで毎日1万円ずつ過料」と書けるのか) 図:守られない命令と3つの問い

  • A町の条例=無許可の大型の看板を禁じ撤去を命じる・過料の罰則もある
  • 店Bは命令を無視→看板は立ったまま
  • 問い①A町は看板を自分で取り除けるのか
  • 問い②Bの店主の体を押さえてでも従わせてよいのか
  • 問い③条例に「従うまで毎日1万円ずつ過料」と書けるのか

冒頭の問いに答えます。1つ目、町は看板を自分で取り除けるか。看板の撤去は、他人が代わってできる、何かをする義務です。代替的作為義務と呼びます。ですから、2条の要件を満たせば、行政代執行法に従う代執行ができます。条例上の義務でも、2条の「条例」に当たります。2つ目、店主の体を押さえてでも従わせるのか。これは直接強制で、個別の法律がない限りできません。条例でも作れません。3つ目、従うまで毎日1万円の過料です。これは執行罰で、条例では作れません。これは、作れないというより、新しく作る必要がない、が答えです。取壊しは代執行で、行政代執行法が、一般法として、すでに用意しています。条例で作れないのは、1条にない新しい強制の手段です。では、条例に「従わなければ戸口を閉鎖して実力で営業をやめさせる」と書いたらどうでしょう。

実力で止めるのは直接強制だから、作れない、ですね。混ぜてはいけない点を1つ言います。条例の回で見たとおり、条例には、5万円以下の過料を置けます。地方自治法14条3項です。これは過去の違反に科す秩序罰で、Bです。履行まで繰り返す執行罰とは、別のものです。条例に書けるのは前者で、後者は書けません。制裁的公表は、条例に根拠を置けば足りると考えられます。第1章の公表の回で見たとおり、制裁として働く公表には根拠が要りますが、その根拠は条例でもかまいません。そして公表は、1条が法律に限った強制の手段には含まれない、と解されています。1条は、公表のような新しい手法までは想定していない、と考えられるからです。即時強制も、条例で定められると解されます。地図のCを思い出してください。即時強制は義務を課さないので、強制して実現する義務が、そもそもありません。1条が法律に限っているのは、課された義務を強制する手段のほうです。

手持ちの札4つ——行政上の強制執行

行政上の強制執行の4つの手段(行=代執行・強制徴収・直接強制・執行罰/列=一言・対象の義務・一般法・詳細の回/代執行=義務者に代わって行政が行い〔または第三者にさせ〕費用を義務者から取る・他人が代わってできる作為義務〔代替的作為義務〕に限る・行政代執行法・次の次の回/強制徴収=金銭の支払義務を滞納処分で行政が自ら取り立てる・金銭支払義務・国税徴収法〔国税〕と個別法の「滞納処分の例による」定め/直接強制=義務者の体や財産に直接力を加えて履行された状態を実現する・個別法がある場合だけ・一般法なし/執行罰=履行するまで過料を繰り返し課して履行を促す〔間接の強制〕・個別法がある場合だけ・一般法なし〔砂防法のみ〕) 図:行政上の強制執行の4つの手段

  • 行=代執行・強制徴収・直接強制・執行罰
  • 列=一言・対象の義務・一般法・詳細の回
  • 代執行=義務者に代わって行政が行い〔または第三者にさせ〕費用を義務者から取る・他人が代わってできる作為義務〔代替的作為義務〕に限る・行政代執行法・次の次の回
  • 強制徴収=金銭の支払義務を滞納処分で行政が自ら取り立てる・金銭支払義務・国税徴収法〔国税〕と個別法の「滞納処分の例による」定め
  • 直接強制=義務者の体や財産に直接力を加えて履行された状態を実現する・個別法がある場合だけ・一般法なし
  • 執行罰=履行するまで過料を繰り返し課して履行を促す〔間接の強制〕・個別法がある場合だけ・一般法なし〔砂防法のみ〕

地図のAの中身、手持ちの札4つを、表で一言ずつ定義します。代執行は、義務者に代わって行政が行い、または第三者にさせ、かかった費用を義務者から取る仕組みです。対象は、他人が代わってできる、何かをする義務、つまり代替的作為義務に限ります。一般法は行政代執行法です。強制徴収は、金銭の支払義務を、滞納処分で、行政が自ら取り立てる仕組みです。国税は国税徴収法が根拠で、国税以外は、個別法が国税滞納処分の例によると定めたときに使えます。直接強制は、義務者の体や財産に直接力を加えて、履行された状態を実現する仕組みです。一般法はなく、個別法があるときだけです。執行罰は、履行するまで、過料を繰り返し課して、履行を促す仕組みです。直接力を加えない、間接の強制です。行政調査の回の、間接強制調査と言葉が似ています。どちらも実力を使わず、圧力で動かすので、間接と言います。ただ、あちらの圧力は罰則でした。執行罰の圧力は罰ではなく、繰り返す過料で、地図のAです。これも一般法がなく、砂防法のように、ごく限られた法律にだけ置かれています。1問、出します。営業停止命令に従わない店を、役所が戸口を閉鎖して止めることはできるでしょうか。考えてから聞いてください。

執行力の回で、営業停止命令に代執行は使えない、と見たのと同じです。営業をやめる、建てない、といった、しない義務は、不作為義務と呼びます。他人が代わって、しない、ことはできませんから、代執行の対象外です。直接強制や罰則が頼りになりますが、直接強制は個別法がほとんどありません。結局、罰則に頼ることになります。ところが、その罰則が、思うように働かないことがあります。次の節で見る、刑罰の機能不全の背景の1つです。暗記の注意を1つ足します。執行罰の過料は、将来に向けて繰り返し科します。秩序罰の過料は、過去の違反に科します。同じ「かりょう」ですが、別物です。また、刑罰の「科料」とも別の字です。

制度はあっても動かない——機能不全と、制裁・即時強制への流れ

動かない強制執行と、その先(命令→不履行→強制執行〔厳格で重い・準備が要る・敬遠される〕→放置→制裁・公表・即時強制へ/厳格さは人権を守る仕組み〔二面関係=行政と義務者〕/コストが大きいと違反が放置される〔三面関係=行政・義務者・利害が対立する周辺住民〕/行政刑罰は警察・検察頼みで有効に機能していない→過料・課徴金・加算税・制裁的公表へ/執行罰・直接強制の活用を探る動き) 図:動かない強制執行と、その先

  • 命令→不履行→強制執行〔厳格で重い・準備が要る・敬遠される〕→放置→制裁・公表・即時強制へ
  • 厳格さは人権を守る仕組み〔二面関係=行政と義務者〕
  • コストが大きいと違反が放置される〔三面関係=行政・義務者・利害が対立する周辺住民〕
  • 行政刑罰は警察・検察頼みで有効に機能していない→過料・課徴金・加算税・制裁的公表へ
  • 執行罰・直接強制の活用を探る動き

最後に、現状です。法律上は、代執行や強制徴収ができるのに、実際には、あまり使われません。理由は、手続が厳格で、入念な準備が要り、簡易迅速にできないからです。代執行は、実際に行うことが敬遠され、ごく例外的な状況でしか実施されないと言われます。悪いものではありません。行政と義務者の2者だけを見れば、手続が厳格なほど、人権は守られます。古典的な法治主義、つまり行政の実力に法律で厳しい枠をはめて人権を守る考え方からも、望ましい姿です。ただ、コストが大きいと、違反が放置されがちになります。ここに、周辺住民など、違反者と利害が対立する人を加えて考えます。行政、義務者、利害を持つ第三者の三面関係です。放置されて困るのは、この第三者です。違反の程度に応じて、柔軟に対応できる仕組みが、今後の課題とされています。制裁の側でも、同じ事情があります。行政刑罰は、義務違反を間接的に担保してきました。ただ、刑罰は刑事裁判の手続で科すので、行政が自分で科すことはできません。警察が捜査し、検察が起訴して、はじめて罰が科されます。警察と検察に動いてもらわなければ、違反は罰せられないまま残る。そのため、必ずしも有効に機能していません。これが、刑罰の機能不全です。そこで、過料、課徴金、加算税、制裁的公表へと、手段が広がってきました。執行罰や直接強制を、もう一度活用できないか、探る動きもあります。即時強制も、この流れの中に置かれます。即時強制は義務を課さないので、命令を出し、守られないのを待ち、それから強制する、という段を踏みません。しかも、先ほど見たとおり、条例でも定められます。重い強制執行の外にある手段として、制裁と並んで、即時強制との関係も問われるのです。

今日の地図(保存版)

まとめ(①義務を課す段階と守らせる段階は別・根拠も別②地図=A強制する〔行政上の強制執行4つ+民事手続〕・B制裁・C義務を課さない即時強制③強制執行は自力救済禁止の例外・法律の根拠が要る・旧行政執行法は廃止・一般法は行政代執行法〔代執行〕のみ④1条の「法律」は条例を含まない・条例で直接強制や執行罰は作れない・義務を課す根拠は条例でもよい〔2条〕⑤制度はあるのに動かない→制裁・公表・即時強制へ/導入の3つの問い=代執行ならできる・直接強制は個別法がなければ不可・執行罰は条例で作れない) 図:まとめ

  • ①義務を課す段階と守らせる段階は別・根拠も別②地図=A強制する〔行政上の強制執行4つ+民事手続〕・B制裁・C義務を課さない即時強制③強制執行は自力救済禁止の例外・法律の根拠が要る・旧行政執行法は廃止・一般法は行政代執行法〔代執行〕のみ④1条の「法律」は条例を含まない・条例で直接強制や執行罰は作れない・義務を課す根拠は条例でもよい〔2条〕⑤制度はあるのに動かない→制裁・公表・即時強制へ
  • 導入の3つの問い=代執行ならできる・直接強制は個別法がなければ不可・執行罰は条例で作れない

まとめます。1つ目、義務を課す段階と、守らせる段階は別です。根拠も別に要ります。2つ目、守らせる手段の地図は3方向です。Aは履行を強制する方向で、行政上の強制執行の4つと、民事手続です。Bは過去の違反を制裁する方向です。Cは義務を課さずに実力を使う、即時強制です。3つ目、行政上の強制執行は、自力救済禁止の例外で、法律の根拠が要ります。戦前の旧行政執行法は廃止され、今の一般法は、行政代執行法の代執行だけです。直接強制と執行罰は、個別法があるときだけです。4つ目、行政代執行法1条の「法律」は条例を含まないと解されます。ですから、条例で直接強制や執行罰など、強制の手段は作れません。義務を課す根拠は、2条のとおり、条例でもかまいません。5つ目、制度はあるのに動かないため、制裁、公表、即時強制へ向かう流れがあります。冒頭の3つの問いに戻ります。町は看板を自分で取り除けるか。2条の要件を満たせば、代執行ならできます。店主の体を押さえてでも従わせてよいか。直接強制は、個別法がなければできず、条例でも作れません。毎日1万円の過料と条例に書けるか。執行罰は、条例では作れません。次の回は、行政上の義務を、裁判所を通して強制できるのか、を扱います。

参照条文

  • 行政代執行法1条
  • 行政代執行法2条

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