行政法ゼロから行政法#94

行政代執行の要件

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第7章 行政調査・義務履行確保・行政罰 #94/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

町が自分で片づけたい

3つの設例(設例1=A町が町立文化会館の練習室の使用許可を更新しなかったが、Bの楽団が楽器と機材を置いたまま居座る〔搬出を命じる定めは無い〕/設例2=A町の自主的な条例が空き地への廃材の山積みを禁じ撤去を命じられると定める→所有者Bが撤去しない→業者Cに頼んで片づけ費用をBに請求したい/設例3=A市の営業停止命令に従わず営業を続けるB店→市が店を自分の手で閉めたい) 図:3つの設例

  • 設例1=A町が町立文化会館の練習室の使用許可を更新しなかったが、Bの楽団が楽器と機材を置いたまま居座る〔搬出を命じる定めは無い〕
  • 設例2=A町の自主的な条例が空き地への廃材の山積みを禁じ撤去を命じられると定める→所有者Bが撤去しない→業者Cに頼んで片づけ費用をBに請求したい
  • 設例3=A市の営業停止命令に従わず営業を続けるB店→市が店を自分の手で閉めたい

町が、他人の持ち物を、自分の手で片づけたいとします。業者に頼んで撤去し、費用だけ持ち主に請求できたら、話は早いです。ところが法律は、これをどんな場合にもできる、とは言っていません。設例を3つ出します。1つ目です。町立の文化会館の練習室を使ってきた楽団がありました。町長が使用許可を更新しなかったのに、楽団は楽器と機材を置いたまま居座っています。町は、機材を自分で運び出したいのですが、撤去を命じる定めは、町の条例にも規則にもありません。2つ目です。町が自主的に作った条例が、空き地に廃材を山積みにすることを禁じ、町長は撤去を命じられると定めています。命令を受けた所有者は、従いません。町は、業者に頼んで片づけさせ、費用を所有者に請求したいと考えています。3つ目です。市の営業停止命令に従わず、営業を続ける店があります。市は、店を自分の手で閉めたいと考えています。

今日の3つの問い(問い1=設例1〜3は、行政代執行法の代執行でできるか/問い2=できる・できないを分けるものは何か/問い3=代執行は、守らせる手段の地図のどこに入るか(A①行政上の強制執行の4つの手段の1つ)) 図:今日の3つの問い

  • 問い1=設例1〜3は、行政代執行法の代執行でできるか
  • 問い2=できる・できないを分けるものは何か
  • 問い3=代執行は、守らせる手段の地図のどこに入るか(A①行政上の強制執行の4つの手段の1つ)

今日の問いはそこです。1つ目、設例の1から3は、行政代執行法の代執行でできるのか。2つ目、できる場合とできない場合を分けるものは何か。3つ目は、前に作った守らせる手段の地図での位置です。地図のAの1つ目、行政が自分で実現する強制執行の、4つの手段のうちの代執行にあたります。答えは、最後に回収します。先に言っておくと、3つは別々の理由で、結論も揃いません。先に骨だけ言うと、分かれ目は2つです。義務がもう生じているか。その義務を、他人が代わってできるか。理由を探す道具は、行政代執行法2条の条文1本です。これを4つに分けて、順に確かめます。

代執行とは何か・2条を4つに分ける

代執行の仕組み(A町=義務者Bがすべき行為を自分でするか、業者Cにさせる→かかった費用は義務者Bから徴収する/根拠=行政代執行法2条) 図:代執行の仕組み

  • A町=義務者Bがすべき行為を自分でするか、業者Cにさせる→かかった費用は義務者Bから徴収する
  • 根拠=行政代執行法2条

代執行の一言定義は、前々回で出しました。義務者に代わって行政が行い、または第三者にさせ、かかった費用を義務者から取る仕組みです。設例2でいえば、町が業者に撤去させ、費用を所有者に請求する形です。行政が自分でやる場合も、第三者にやらせる場合も、費用は義務者の負担です。ただ、これは、行政が自分の手で、人の物や人の土地に入り、作業をして、費用まで取る仕組みです。相手の財産に直接手を出す、例外の手段です。だから、使う前に確かめることを、条文が並べています。2条を全文で読みます。前々回は括弧書だけでしたので、今日は最後まで読みます。

条文行政代執行法2条

行政代執行法第2条 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。

行政代執行法2条を4つに色分け(要件1=義務の根拠〔法律〈委任命令・規則・条例を含む〉により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為〕/要件2=代替的作為義務〔他人が代つてなすことのできる行為に限る・義務者がこれを履行しない〕/要件3=補充性〔他の手段によつてその履行を確保することが困難〕/要件4=公益要件〔不履行を放置することが著しく公益に反すると認められる〕/効果=自ら行為をなし又は第三者にさせ、費用を義務者から徴収できる)

  • 要件1=義務の根拠〔法律〈委任命令・規則・条例を含む〉により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為〕
  • 要件2=代替的作為義務〔他人が代つてなすことのできる行為に限る・義務者がこれを履行しない〕
  • 要件3=補充性〔他の手段によつてその履行を確保することが困難〕
  • 要件4=公益要件〔不履行を放置することが著しく公益に反すると認められる〕
  • 効果=自ら行為をなし又は第三者にさせ、費用を義務者から徴収できる

長い一文ですが、4つの部品に分かれます。1つ目、義務の根拠。法律が直接に命じたか、法律に基づいて行政庁が命じた行為であること。2つ目、代替的作為義務。括弧書にある、他人が代わってなすことのできる行為に限る、という部分です。義務者が履行しないこと、もここに入れます。3つ目は、補充性です。他の手段によって履行を確保することが困難であること。4つ目は、公益要件です。不履行を放置することが著しく公益に反すると認められること。この4つが揃うと、効果として、行政庁が自ら行い、または第三者にさせ、費用を取れます。

補充という名のとおり、補う役の手段、という意味です。ほかに義務を果たさせる手はないのか。手があるなら、代執行は後回しです。代執行は最後の手段、という要件です。読み方の指針です。4つは、並んで、つながっています。条文の「且つ」が示すとおり、全部が揃って初めて代執行ができます。1つでも欠けると、代執行としては適法になりません。番号は、条文の順に、義務の根拠が1、代替的作為義務が2、補充性が3、公益要件が4です。答案に書くときの確認の順も、この1から4の順です。ただ、今日の説明は、2から先に固めます。他人が代わってできる行為か、という線引きを先に理解してから、そもそも義務が発生しているのか、を見るほうが、つまずきにくいからです。地図の位置も確認しておきます。行政上の強制執行の4つの手段のうち、一般法があるのは代執行だけでした。残る強制徴収、直接強制、執行罰は、個別の法律が要ります。それらは別の回で扱います。

要件2 代替的作為義務

義務の分類と代執行の可否(作為義務のうち代替的=物の除却・移転・原状回復・土地や物件の引渡し→代執行できる/作為義務のうち非代替的=建物からの明渡し・立退き〔本人が占有をやめることが要る〕→できない・民事訴訟へ/不作為義務=営業をやめる・建てない→できない・罰則など別の手段) 図:義務の分類と代執行の可否

  • 作為義務のうち代替的=物の除却・移転・原状回復・土地や物件の引渡し→代執行できる
  • 作為義務のうち非代替的=建物からの明渡し・立退き〔本人が占有をやめることが要る〕→できない・民事訴訟へ
  • 不作為義務=営業をやめる・建てない→できない・罰則など別の手段

要件2です。代替的作為義務とは、他人が代わってすることのできる、何かをする義務です。作為義務は、何かをする義務のことです。その反対が、何かをしない義務で、不作為義務と呼びます。代替的作為義務の典型は、物の除却や移転、撤去した物の返還や、壊した物の修復です。土地や物件の引渡しも、ここに入れて整理されます。廃材の山を片づける義務は、まさにこれです。誰が運んでも、山は片づくからです。対象外になるものが2つあります。1つ目は、不作為義務です。営業をやめる義務や、建ててはならない義務は、しない義務です。他人が代わって、しない、ということはできません。これは前々回に、営業停止命令の説明として見ました。2つ目は、非代替的作為義務です。義務者本人の意思や行為が欠かせない作為です。典型は、建物からの明渡しや立退きです。物を運び出すことは他人にもできます。しかし、住むのをやめる、占有を手放す、ということは、本人がするしかありません。代わりに荷造りはできても、本人の退去は代われない、と考えてください。

義務の分類と代執行の可否(作為義務のうち代替的=物の除却・移転・原状回復・土地や物件の引渡し→代執行できる/作為義務のうち非代替的=建物からの明渡し・立退き〔本人が占有をやめることが要る〕→できない・民事訴訟へ/不作為義務=営業をやめる・建てない→できない・罰則など別の手段) 図:義務の分類と代執行の可否

  • 作為義務のうち代替的=物の除却・移転・原状回復・土地や物件の引渡し→代執行できる
  • 作為義務のうち非代替的=建物からの明渡し・立退き〔本人が占有をやめることが要る〕→できない・民事訴訟へ
  • 不作為義務=営業をやめる・建てない→できない・罰則など別の手段

3つの問いで確かめます。1つ目です。命令に従わない店を、市が代執行で閉められるか。次に、2つ目。違反建築物の除却命令に従わない所有者の建物を、町が取り壊せるか。3つ目。居座る楽団を、代執行で追い出せるか。考えてから聞いてください。3つとも正解です。建築基準法9条の除却命令は、前に見ました。取り壊しが代わってできるから、代執行の典型になるのです。これが、境目の内側と外側の対です。壊す・運ぶ・戻すは内側。やめる・出ていくは外側です。手段がなくなるわけではありません。不作為義務なら、罰則や、個別の法律の直接強制などで守らせます。明渡しや立退きは、前の回で見たとおり、市が自分の所有権や管理権に基づいて、民事訴訟で求める道があります。財産権の主体としての訴えなので、可能でした。

存置物件の搬出(A町が楽団Bの物を運び出したい→搬出だけ見れば他人に代われる作為/ただし搬出が明渡しの実現に付随する行為と見られるときは、搬出だけを取り出して代執行にはできないという見方がある/搬出を独立の義務として命じる処分が出ていれば代替的作為義務と整理する見解もある/下級審は分かれる) 図:存置物件の搬出

  • A町が楽団Bの物を運び出したい→搬出だけ見れば他人に代われる作為
  • ただし搬出が明渡しの実現に付随する行為と見られるときは、搬出だけを取り出して代執行にはできないという見方がある
  • 搬出を独立の義務として命じる処分が出ていれば代替的作為義務と整理する見解もある
  • 下級審は分かれる

落とし穴が1つあります。居座る人が残した物の搬出です。机や楽器を運ぶだけなら、他人にもできる行為に見えます。ところが、搬出が明渡しを実現するための付随の行為と見られるときは、搬出だけを取り出して代執行にはできない、という見方があります。命令の本来の目的が、明渡しの実現にあるからです。逆に、搬出を独立した義務として命じる処分が出ていれば、それは代替的作為義務だ、と整理する見解もあります。下級審の裁判例は分かれている、と整理されています。引渡し義務の履行としての搬出で足りるとするものもあれば、明渡しに伴う必然の行為として代執行を認めないものもあります。ここは、分かれていると知っておけば足ります。断定して覚えないでください。引渡しの代執行を、実際に書いた条文を1つ見ます。土地収用法です。事業のために土地を取得するとき、土地や物件を引き渡す義務を、代執行で実現する規定です。

条文土地収用法102条の2第2項前段

土地収用法第102条の2第2項前段 前条の場合において、土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転すべき者がその義務を履行しないとき、履行しても充分でないとき、又は履行しても明渡しの期限までに完了する見込みがないときは、都道府県知事は、起業者の請求により、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。

引き渡すべき者が履行しないとき、都道府県知事は、起業者、つまり道路やダムなどの事業をする側の請求により、行政代執行法の定めるところに従い、自ら行い、または第三者にさせることができる、という規定です。引渡しと移転が、代執行の対象として書かれています。ここでの引渡しに、建物の明渡しまで含まれるのか。それが、さきほどの裁判例の分かれの背景です。個別法なので、深入りはしません。立法論としての指摘も、1つだけ添えます。庁舎のような施設の明渡しや立退きについては、執行罰や直接強制を認める規定が、今の法律にありません。そこで、代替的か非代替的か、という形式の線引きだけでなく、実態に合った措置かどうかを、利益の比べ方も含めて論じる必要がある、と指摘されます。たとえば、行政が施設を早く取り戻す必要と、出ていく側の暮らしや仕事を、どう比べるか、です。暗記の線は、これです。代執行できるのは、代替的作為義務だけ。不作為義務と非代替的作為義務はできない。一般に、明渡し・立退きは非代替的。ここは論文でも論点になりうる部分です。

要件1 義務の根拠

要件1の2つの出どころ(義務が既に生じていることが前提/出どころ1=法律が直接に命じる〔法律の規定そのものが義務を発生させる型・数は多くない〕/出どころ2=法律に基づいて行政庁が命じる〔違反建築物の除却命令=建築基準法9条1項/河川管理者の除却・原状回復命令=河川法31条2項・実際の代執行はほとんどこちら〕/括弧書=命令・規則・条例を含む) 図:要件1の2つの出どころ

  • 義務が既に生じていることが前提
  • 出どころ1=法律が直接に命じる〔法律の規定そのものが義務を発生させる型・数は多くない〕
  • 出どころ2=法律に基づいて行政庁が命じる〔違反建築物の除却命令=建築基準法9条1項/河川管理者の除却・原状回復命令=河川法31条2項・実際の代執行はほとんどこちら〕
  • 括弧書=命令・規則・条例を含む

前の回で見た内容を1問だけ確かめます。強制徴収が認められている金銭債権を、民事訴訟で取り立てられたでしょうか? また、専ら行政権の主体として義務の履行を求める訴えは、どう扱われたでしょうか?前の回の整理では、どちらも民事訴訟の道は閉じられていました。だから、行政が自分の手で実現する代執行が大事になるのです。ただし、代執行も、使う前に条件があります。要件1の義務の根拠です。代執行は、相手にすでに義務が生じていることが前提です。2条は、出どころを2通り想定しています。1つ目は、法律が直接に命じる場合です。法律の規定そのものが義務を発生させる型で、火薬類の残りの譲渡や廃棄の義務を定めた規定などがあります。数は多くありません。2つ目は、法律に基づいて、行政庁が命じた場合です。違反建築物に対する特定行政庁の除却命令、河川の管理者が出す除却や原状回復の命令などです。実際の代執行は、ほとんどこちらです。

町が撤去を進めるには、まず撤去の義務を生じさせる根拠が要ります。順番が大事です。義務が先、強制は後です。撤去せよ、という義務を発生させる根拠、つまり法律の規定か、法律に基づく命令が見つかるか。見つからなければ、代執行は使えません。なぜ、義務が先なのか。代執行は、義務者がすべき行為を、代わりにする仕組みです。すべき行為が決まっていなければ、代わりにする中身がありません。前々回の2段の図でいえば、義務を課す根拠と、強制する根拠は、別々に要ります。要件1は、義務を課す根拠の側です。設例1に当てはめます。使用許可を更新しなかっただけでは、許可の効力が尽きて、使用する権限が無くなるだけです。搬出を命じる義務は生じていません。権限が無くなったから明渡しを求められる、ということと、搬出を命じる根拠がある、ということは、別の話です。ですから、設例1の町は、代執行ができません。町が求めるなら、自分の管理権や所有権に基づく民事訴訟です。前の回の整理でいう、財産権の主体としての訴えです。許可を取り消した場合も同じです。取消しだけでは、搬出を命じる根拠は生まれません。

浦安の漁港の杭の事件(漁港の区域内の川に鉄道のレールの杭約100本が不法に打たれ、船の航行が危険→町は撤去を決め業者に請け負わせた〔代金130万円〕/町には漁港管理規程が無かった→住民が公金の違法な支出だとして町長に賠償を求めた〔公金支出の結論は前に済み〕/今日の使い方=規程が無いまま強行した撤去は、代執行としての適法性を肯定する余地が無い→この判決は要件1の側から読まれる) 図:浦安の漁港の杭の事件

  • 漁港の区域内の川に鉄道のレールの杭約100本が不法に打たれ、船の航行が危険→町は撤去を決め業者に請け負わせた〔代金130万円〕
  • 町には漁港管理規程が無かった→住民が公金の違法な支出だとして町長に賠償を求めた〔公金支出の結論は前に済み〕
  • 今日の使い方=規程が無いまま強行した撤去は、代執行としての適法性を肯定する余地が無い→この判決は要件1の側から読まれる

この義務の根拠の側から、前に見た判決をもう一度読みます。漁港の鉄の杭の事件です。漁港の区域内の川に、鉄道のレールの杭が、約100本、不法に打たれていました。船の航行が危険になったので、町は撤去を決め、業者に請け負わせました。代金は130万円です。ところが、その町には、漁港管理規程が定められていませんでした。漁港管理規程は、漁港の管理者が、法律に基づいて定める、漁港の管理のルールです。住民が、公金の違法な支出だと主張して、町長に賠償を求めたのが、事件の始まりです。公金支出の結論は、前に見ました。今日は、代執行の面だけを読みます。

判例最判平3・3・8 民集45巻3号164頁

漁港管理規程が無いまま鉄杭撤去を強行したことに、代執行としての適法性を肯定する余地はない しかし、当時、c町においては漁港管理規程が制定されていなかったのであるから、上告人がd漁港の管理者たる同町の町長として本件鉄杭撤去を強行したことは、漁港法の規定に違反しており、これにつき行政代執行法に基づく代執行としての適法性を肯定する余地はない。

判決は、漁港の管理者は漁港管理規程に従って撤去できる、という仕組みを前提にしています。その規程が無かった。だから、強行した撤去は、漁港法に違反し、代執行としての適法性を肯定する余地も無い、と言いました。町は、杭を打った者に撤去を命じることなく、自分で撤去を強行しました。代執行は、義務が先にあって初めて使える仕組みです。この判決は、その義務の根拠の側から、要件1を欠く例として読まれます。第1章の、緊急の撤去の回で見たとおり、それでも町長の賠償責任は否定されました。権限があったから許された、のではありません。緊急に対処するためのやむを得ない措置として、責任を問わないとされた、という読み方でした。暗記の線は、これです。先に義務を課さないまま行政が自分で片づけても、代執行として適法にはなりません。

条例上の義務は代執行できるか(2条括弧書「法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む」→素直な読み=「法律の委任に基く」が命令・規則・条例のすべてにかかる→委任条例だけ/自主条例〔地方自治法14条1項2項を根拠に自治体が独自に作る〕は入らないことになる→従来は消極/有力説=自主条例を含め条例全体が対象/理由=担保が無い不都合・1条で強制手段は条例で作れない・即時強制との均衡) 図:条例上の義務は代執行できるか

  • 2条括弧書「法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む」→素直な読み=「法律の委任に基く」が命令・規則・条例のすべてにかかる→委任条例だけ
  • 自主条例〔地方自治法14条1項2項を根拠に自治体が独自に作る〕は入らないことになる→従来は消極
  • 有力説=自主条例を含め条例全体が対象
  • 理由=担保が無い不都合・1条で強制手段は条例で作れない・即時強制との均衡

もう1つの論点です。条例上の義務は、代執行の対象になるのか。前々回に、条例に基づく撤去命令を、町は代執行で実現できる、と結論だけ言いました。ここで、その理由を見ておきます。2条の括弧書は、法律の委任に基づく命令、規則、そして条例を含む、と書いています。素直に読むと、法律の委任に基づく、という部分が、命令・規則・条例のすべてにかかります。すると、法律が個別に委任した条例、委任条例だけが入ります。自治体が、地方自治法14条を根拠にして、自分で作る条例を、自主条例と呼びます。まず、14条を読みます。

条文地方自治法14条1項・2項

地方自治法第14条第1項・第2項 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。 2 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。

1項が条例を作る権限、2項が、義務を課すには条例が要る、という定めです。この14条に基づく自主条例の義務は、個別の法律の委任に基づいていません。文言どおりなら、代執行の対象外になります。従来は、このように、対象外と考えられていました。自主条例が対象外だと、条例で義務を課しても、代執行で実現する道がありません。この不都合が、見解の転換の理由です。現在は、自主条例を含めて、条例全体が対象になる、と解する見解が有力です。理由は3つあります。1つ目、条例で義務を課しても、代執行による担保が無いのは不都合だからです。2つ目、前々回に見たとおり、条例では、直接強制や執行罰など、強制の手段を作れません。代執行まで使えないと、条例上の義務を実現する道が、ほとんど無くなります。3つ目、義務を課さずに実力を使う即時強制は、行政代執行法の外にあって、条例でも作れます。実力を使う点で、即時強制と代執行に、実質的な違いは小さいのに、片方だけ使えないのは釣り合いません。ただ、文言どおりなら委任条例だけという読みもあった、と知っておいてください。前々回の言い切りは、そのまま、この有力な見解の結論です。では、括弧書の文言は、どう読むのか。読み方は2つあります。1つ目は、法律の委任に基づく、という言葉は、条例にまではかからない、と読むものです。2つ目は、地方自治法14条1項が、条例を作る権限を、法律として一般的に与えている、と見るものです。これを一般的な委任と呼びます。どちらの読みでも、自主条例が、括弧書の条例に入ります。

⭐ 論文で書く規範:【論証の型】2条括弧書の「法律の委任に基く」は条例にはかからない、あるいは地方自治法14条1項の一般的な委任があると解する。自主条例上の義務も代執行の対象 (括弧書の文言の読み方と地方自治法14条1項/有力な見解/理由は、担保の不都合・強制手段を条例で作れないこと・即時強制との均衡)

設例2に当てはめます。自主条例に基づく撤去命令は、廃材を撤去する、という代替的作為義務です。条例に代執行の根拠が書いていなくても、代執行の一般法は行政代執行法です。2条の対象になります。要件1と要件2は、満たします。残りは、あとの2つの要件です。条例の作り方そのものは、別の回で扱います。暗記の線をまとめます。代執行は、義務が発生していなければできない。条例上の義務も、自主条例を含めて対象になると解される。これで、冒頭で言った分かれ目が、2つともそろいました。他人が代われるか、が要件2。義務がもう生じているか、が要件1です。

要件3・4 補充性と公益要件

要件3・4の読み方(要件3=補充性〔他に義務を果たさせる手段があれば代執行は後回し/細部は、ほかに義務を果たさせる実効的な手があるかで当てはめる〕/要件4=公益要件〔行政庁に判断の余地〕/位置づけ=比例原則を条文に書いたものにすぎないとの見方・代執行が使われにくい一因との見方もある/緩和=建築基準法9条12項など特別法で要件を緩められる) 図:要件3・4の読み方

  • 要件3=補充性〔他に義務を果たさせる手段があれば代執行は後回し/細部は、ほかに義務を果たさせる実効的な手があるかで当てはめる〕
  • 要件4=公益要件〔行政庁に判断の余地〕
  • 位置づけ=比例原則を条文に書いたものにすぎないとの見方・代執行が使われにくい一因との見方もある
  • 緩和=建築基準法9条12項など特別法で要件を緩められる

残る2つは、補充性と公益要件です。補充性は、他の手段によって履行を確保することが困難であること。ほかの手段で義務を果たさせられるなら、代執行は後回しです。何が他の手段に当たるかの細部は、まず、ほかに義務を果たさせる実効的な手があるか、で当てはめれば足ります。たとえば、専ら行政権の主体として行政上の義務の履行を求める民事訴訟は、前の回の最高裁判決で不適法とされました。公益要件は、不履行を放置することが著しく公益に反すると認められること、です。ここは、行政庁に判断の余地があります。設例2で確かめます。所有者が何度言われても動かず、ほかに片づけさせる手が無ければ、補充性は満たします。廃材の山が崩れかけていて、すぐ横の通学路に倒れそうなら、放置は著しく公益に反する、と言いやすいでしょう。反対に、人の来ない空き地の奥に低く積んであるだけなら、公益要件で争いになりえます。位置づけについては、こう言われます。補充性と公益要件は、比例原則、つまり目的に対して手段が重すぎないかを、条文に書いたものにすぎない、との見方があります。他方で、判断の余地が大きいため、行政庁が慎重になり、代執行がなかなか使われない要因になっている、との見方もあります。緩める特則もあります。前に見た建築基準法9条12項のように、この2つの要件を求めずに代執行できる、特別の定めがあります。暗記の線は、補充性と公益要件は2条の要件、ただし特別法で緩められることがある、です。

4要件チェックとまとめ

4要件チェックの流れ(設例→要件1〔法律が直接or法律に基づく命令・条例も可〕→要件2〔代替的作為義務か・不作為と非代替は不可〕→要件3〔他の手段で履行確保が困難か〕→要件4〔放置が著しく公益に反するか〕→全部YES=代執行可/どこかでNO=代執行は不可〔別の手段へ〕) 図:4要件チェックの流れ

  • 設例→要件1〔法律が直接or法律に基づく命令・条例も可〕→要件2〔代替的作為義務か・不作為と非代替は不可〕→要件3〔他の手段で履行確保が困難か〕→要件4〔放置が著しく公益に反するか〕→全部YES=代執行可
  • どこかでNO=代執行は不可〔別の手段へ〕

答案で書く順番に、1枚の流れにします。まず、要件1。義務の根拠はあるか。法律が直接に命じているか、法律に基づく命令があるか。条例上の義務もここに入ります。次に、要件2。代替的作為義務か。不作為義務と非代替的作為義務は、ここで落ちます。次に、要件3。他の手段で履行を確保することが困難か。最後に、要件4。放置が著しく公益に反するか。全部が揃えば、代執行ができます。どこかで欠ければ、代執行としては適法になりません。別の手段を探します。冒頭の3つの設例に戻ります。設例1、許可を更新しなかった楽団は、要件1の段階で、搬出を命じる根拠が無いので落ちます。さらに、明渡しの付随と見られるなら、要件2も怪しくなります。代執行は不可です。町が求めるなら、民事訴訟です。設例2、自主条例上の撤去命令は、有力な見解によって要件1を満たします。廃材の撤去は代替的作為義務ですから、要件2も満たします。要件3と4は、ほかに片づけさせる手があるかと、廃材の山がどれだけ危ないかで決まります。崩れかけて通学路に迫っているなら、代執行ができます。設例3、営業停止命令に従わない店は、営業をやめるというしない義務ですから、要件2で落ちます。罰則など、別の手段で守らせることになります。直接強制は、個別の法律があるときだけです。

分けていたのは、義務が先にあるか、他人が代われるか、という2点でした。

まとめ(1=代執行は義務者に代わって行政が行い費用を義務者から取る〔2条〕/2=要件は4つ=義務の根拠・代替的作為義務・補充性・公益/3=対象は代替的作為義務だけ〔不作為・非代替的は不可・明渡しと立退きは非代替的〕/4=義務が発生していなければできない〔根拠の定めが無い撤去は代執行として適法でない〕・条例上の義務も対象〔自主条例を含む見解が有力〕/5=補充性と公益要件は行政庁の判断の余地・特別法で緩められる) 図:まとめ

  • 1=代執行は義務者に代わって行政が行い費用を義務者から取る〔2条〕
  • 2=要件は4つ=義務の根拠・代替的作為義務・補充性・公益
  • 3=対象は代替的作為義務だけ〔不作為・非代替的は不可・明渡しと立退きは非代替的〕
  • 4=義務が発生していなければできない〔根拠の定めが無い撤去は代執行として適法でない〕・条例上の義務も対象〔自主条例を含む見解が有力〕
  • 5=補充性と公益要件は行政庁の判断の余地・特別法で緩められる

まとめます。1つ目、代執行は、義務者に代わって行政が行い、費用を義務者から取る仕組みです。2条に定めがあります。2つ目、要件は4つです。義務の根拠、代替的作為義務、補充性、公益。全部が揃って初めて使えます。3つ目、対象は代替的作為義務だけです。不作為義務と非代替的作為義務はできません。一般に、明渡しや立退きは非代替的です。4つ目、義務が発生していなければできません。根拠の定めが無いまま撤去した行為は、代執行として適法とする余地がありません。条例上の義務も対象になり、自主条例を含める見解が有力です。5つ目、補充性と公益要件は、行政庁に判断の余地があります。特別法で緩められることもあります。次の回は、行政代執行の手続と問題点です。戒告から費用の徴収まで、順に見ていきます。

参照条文

  • 行政代執行法2条
  • 土地収用法102条の2第2項前段
  • 地方自治法14条1項・2項

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