行政手続法の全体像
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第8章 行政手続 #104/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
作った意味はどこにあるのか
図:今日の問い
- 手続のルールは1本の行政手続法にまとまった→ところが法律で「この法律は適用しない」と書けば外せる→それなら行政手続法を作った意味はどこにあるのか
- 今日の道筋=①目的〔1条1項〕②規律する4つと対象外③一般法であることの意味④個別法を読む3つの手順
前回の結論を思い出してください。判例が作った手続のルールは、個別の法律の枠内にとどまり、行政全体の穴は埋まりませんでした。そこで1993年に、事前手続の一般法として、行政手続法ができました。ところが、ここに引っかかりがあります。ほかの法律が、この処分には行政手続法を適用しない、と書いてしまえば、その手続は外せてしまいます。答えを先に一言だけ言うと、原則と例外を逆にしたことです。なぜそう言えるのかは、最後に確かめます。そのために、まず、行政手続法が何を決めた法律なのかを、条文の言葉から読みます。目的、規律する4つの対象、そして一般法であることの意味。最後に、個別の法律を読むときの3つの手順まで持ち帰ります。
1条1項——目的は二段で読む
図:行政手続法1条1項の構造
目的は、1条1項に書いてあります。第1章の適正手続の原則の回でも読んだ条文ですが、もう一度、全文を読みます。
図:行政手続法1条1項
- 処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
- 透明性=行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること
条文行政手続法 1条1項
行政手続法 第一条(目的等)(1項) この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
長い一文ですが、骨組みは三段です。共通する事項を定めることによって、公正の確保と透明性の向上を図る。そして、もって、国民の権利利益の保護に資する。「これによって」「その結果として」くらいの意味です。つまり、公正と透明性は手段で、国民の権利利益の保護が最終目的です。手続を整えること自体が目的ではなく、整えた結果として、国民の権利利益を守る。この二段を押さえてください。身近な形にすると、レストランの衛生管理に似ています。厨房の掃除と記録は手段で、本当の目的は、お客さんが食中毒にならないことです。掃除を完璧にしても、お客さんを守れなければ意味がありません。
「公正」と「透明性」
図:公正と透明性
- 公正=行政の決定が、気ままな判断ではなく、偏りのない正しい情報にもとづいていること
- 透明性=行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること〔1条1項かっこ書〕
- 制定前=個別法ごとに手続の有無が違い、定めのない処分は決め方が国民に見えない
公正と透明性、それぞれの意味です。公正とは、行政の決定が、気ままな思いつきや独りよがりの判断ではなく、偏りのない正しい情報にもとづいていることです。透明性は、定義が条文に書いてあります。今読んだかっこ書です。行政上の意思決定について、その内容と過程が、国民にとって明らかであること。条文から読めますので、覚える必要はなく、読めるようにしておけば足ります。制定前の状況を思い出してください。個別の法律ごとに、手続があるものとないものが混ざっていました。何も定めのない処分では、行政がどんな情報で、どんな順序で決めたのか、国民からは見えません。見えなければ、偏りがあったのかどうかも、確かめようがありません。前々回の飲食店を思い出してください。営業停止を決めるまでに、保健所がどの検査の結果を根拠に、店の状況をどう確かめたのか。手続の定めがなければ、店の側からは何も見えません。たとえば、店の状況を取り違えていても、気づきようがありません。ですから、決め方の中身を見えるようにすることと、決め方を偏りのないものにすること、この2つが、不公正と不透明を克服するための両輪になりました。前に適正手続を学んだときの話とも、同じ向きです。適正手続の理念が、公正性と透明性という言葉で、法律に入ったわけです。そして、その先にあるのが、国民の権利利益の保護でした。
規律する4つの対象
図:規律する4つと対象外
- 条文の文言=処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続
- 規律する4つ=①処分②行政指導③届出④命令等を定める手続
- 条文に載らない=行政計画の策定手続・行政調査の手続・義務履行確保の手続・行政契約→行手法は何も言っていない〔別の法律や判例に委ねられる〕
行政手続法が規律する対象は、いま読んだ1条1項の文言から、そのまま数えられます。処分、行政指導、届出、そして命令等を定める手続の4つです。命令等を定める手続とは、政令や省令などを定めるときの手続のことです。中身は、別の回で見ます。計画策定や行政調査の手続を定めていない、という点に、今日は根拠を足します。根拠は、1条1項の文言です。この4つに載っていない行為形式については、行政手続法は何も言っていません。行政計画の策定手続、行政調査の手続、義務履行確保の手続、それから行政契約も、載っていません。ここで問いです。行政計画を策定するときの手続を、行政手続法は定めているでしょうか。根拠はどこで読めますか。
定めていません。1条1項の4つに、載っていないからです。短答では、行政手続法は行政調査の手続も定める、という肢が出ますが、誤りです。載っていないなら、計画や調査には手続がいらない、ということですか。そこが、つまずきどころです。違います。行政手続法が定めていないだけで、手続が不要になるわけではありません。個別の法律の規定や、判例などに委ねられます。計画の策定手続は、第6章で、都市計画法の定めとして見ました。行政調査の手続は、第7章で見ました。計画の手続は、第8章の後ろのほうで、行政手続の側から、もう一度扱います。
行政指導の章の性格
図:行政指導の章の性格
- 行手法の行政指導の章=手続を踏め、というより、行政指導とは何か・どこまで許されるかという実体的な一般原則に近い〔任意性・不利益取扱いの禁止など〕
- 入れた理由=行政指導は透明性・明確性を確保する必要が大きいから
- 詳しい中身=行政指導の回
4つの対象のうち、行政指導だけは、性格が少し違います。行政指導は、第6章で扱いました。任意の協力を求めるもので、従わなくても不利益に扱ってはならない、という話でした。行政指導の回の、G市の担当課が、マンションの業者に、戸数を少し減らせませんか、と頼んだ設例でした。断っても、法的な義務違反にはなりません。行政手続法の行政指導の章は、こう手続を踏みなさい、という定めというより、行政指導とは何か、どこまで許されるのか、という実体的な一般原則に近いものです。実体とは、どんな順序で進めるかという手順ではなく、そもそも何をしてよいかという中身のことです。第1章で、条文を手続と実体に読み分けたときと同じ区別です。任意性や、不利益な取扱いの禁止が、その代表です。
行政指導は、法律の根拠なく行われることが多く、何をどこまで求められているのかが、相手に見えにくい。透明性と明確性を確保する必要が、特に大きかったからです。ここは、この性格づけだけ持ち帰れば十分です。
2条2号——「処分」は同じ言葉で書かれている
図:行政手続法2条2号
- この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
- 二 処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。
- 行政不服審査法・行政事件訴訟法の「処分」と同じ言い回し
条文行政手続法 2条2号
行政手続法 第二条(定義)(柱書・2号) この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 二 処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。
4つの対象の先頭にある「処分」の定義です。行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為、と書いてあります。この言い回しは、第4章の最初の回で、3つの法律を並べて見たとおり、行政不服審査法や行政事件訴訟法の「処分」と、同じ形です。行政不服審査法は、処分に不服があるとき、行政に見直しを求める審査請求の法律です。行政事件訴訟法は、処分の取消しを裁判所に求める、取消訴訟などの法律です。同じ形なので、行政手続法で手続を踏むべき処分と、後から審査請求や取消訴訟で争える処分は、同じ定式で見分けることになります。その定式は、取消訴訟の回で、正面から扱います。
行政手続法の処分は、申請に対する処分と、不利益処分に分かれます。それぞれの見分け方は、次の次の回から、順に見ていきます。
一般法であることの意味
図:これまでの確認
- 問い=個別の法律ごとの手続のばらつきをならすため、1993年に何ができたか
- 答えの形=事前手続の一般法
ここが、今日の核心です。その前に、前々回の確認です。個別の法律ごとの手続のばらつきをならすため、1993年に、何ができましたか?行政手続法です。事前手続の一般法でした。一般法とは、場面を限らずに共通して当てはまるルールのことでした。第1章で、運転免許の場面だけに当てはまる特則と対にして見ました。では、一般法であることには、どんな意味があるのか。
図:一般法の意味
- 制定前=個別法に定めた範囲でしか手続が保障されない
- 行手法=4つの対象に共通の最低線を引く〔最低賃金のイメージ〕
- 原則=法律で適用除外を書かない限り行手法が及ぶ
- 除外には、それを認める法律の規定が要る
- 個別法が行手法より厚い手続を置けば、厚い手続が存続する
最低賃金を思い浮かべてください。会社ごとに、就業規則はばらばらでした。そこに、国が、これより低くしてはならない、という共通の下限を引きました。下限より良い条件の会社は、そのままです。下限を下回ることを認めるなら、特例を認める根拠が要ります。行政手続法も同じです。処分、行政指導、届出、命令等を定める手続について、一定の水準を、一般的に保障しました。これが、共通の最低線を引く、という意味です。何もなかった法律の処分にも、最低線が届くようになりました。ここから、3つのことが出てきます。1つ目。法律で適用除外を書かない限り、行政手続法が及びます。処分には、行政手続法が適用されるのが原則です。2つ目。適用されない場合は、それを認める法律の規定が必要です。最低線を引いたのは、行政手続法という法律です。法律で決めたことを外せるのは、やはり法律だけで、行政が自分の判断で外すことはできません。3つ目。個別の法律が、行政手続法より厚い手続を置いているなら、その厚い手続が生きます。最低線は、あくまで下限だからです。
1条2項——他の法律に特別の定めがあるとき
図:行政手続法1条2項
- 処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関しこの法律に規定する事項について、他の法律に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。
- 行手法自身が置く適用除外〔3条・4条〕は次回
条文行政手続法 1条2項
行政手続法 第一条(目的等)(2項) 処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関しこの法律に規定する事項について、他の法律に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。
一般法と個別法の関係を、条文で押さえます。1条2項です。この法律に規定する事項について、他の法律に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。先ほどの、個別法が厚い手続を置いている場合は、この条文が足場になります。ただし、注意が1つあります。個別の法律が、この処分には行政手続法を適用しない、と書く場合も、1条2項の特別の定めにあたります。第1章で見た、運転免許の場面の特則が、その例でした。厚い手続を積むのも、外すのも、根拠は他の法律の側にあります。これに対して、行政手続法自身が、これは適用しない、と並べている適用除外の規定、3条や4条は、行政手続法が自分で外しているもので、別のものです。
行手法の限界と、それでも残る意味
図:行手法の限界と意味
- 限界=行手法も法律の1つで他の法律より上位ではない→法律で除外すれば免れうる
- 各法がみな除外を置けば制定前と変わらない
- それでも意味=①除外が書かれていなければ行手法が及ぶと明確になった②除外が書かれていれば「なぜ外す必要があるのか」と批判的に問える→例外に理由が要る
冒頭の問いに戻ります。行政手続法も、法律の1つです。他の法律より上位にある、というわけではありません。ですから、法律で適用除外を定めれば、免れることができます。どの法律にも除外が書かれれば、制定前と変わらない。理屈の上ではそうなります。だからこの法律は、万能ではありません。それでも、意味は2つあります。1つ目。除外が書かれていない限り、行政手続法が及ぶ、という前提が明確になりました。以前は、手続がないのが普通で、あるのが例外でした。いまは、手続があるのが原則です。2つ目。除外が書かれていたら、なぜ外す必要があるのか、と問えるようになりました。外すことに、理由が要る。これが、例外に理由が求められる、ということです。
最低賃金に特例があっても、下限があること自体の意味は消えない、のと同じです。
個別法を読む3つの手順
図:個別法を読む3つの手順
- ①処分なら行手法が適用されるのが原則②適用除外の規定を探す〔行手法自身のもの・個別法のもの〕③除外された部分に個別法独自の手続がないかを確かめる
- 以下の甲法・乙法・丙法は説明用の架空の法律
最後に、この考え方を、実際に使える手順にします。3つあります。1つ目。処分であれば、行政手続法が適用されるのが原則だと考える。2つ目。適用除外の規定を探す。行政手続法自身にあるものと、個別の法律にあるものの、両方です。3つ目。除外された部分に、個別の法律独自の手続がないかを確かめる。架空の法律を3つ使って、当ててみます。実在の法律ではなく、説明のために作った甲法、乙法、丙法です。問いです。営業停止の通知を受けたとき、まず何を探しますか。手順どおりなら、まず原則適用を考えて、そのうえで適用除外の規定を探します。まず、甲法です。
図:甲法の設例
- A=行政庁、B=事業者
- 甲法には、行政手続法の適用除外の規定がない
- AがBの営業許可を取り消そうとする
- 手順②で除外が見つからない→ここで終わり
- 行手法の不利益処分の手続がそのまま及ぶ
甲法には、適用除外の規定がありません。行政庁Aが、事業者Bの営業許可を取り消そうとする。手順の1つ目、処分なら原則適用。2つ目で除外を探しても、見つかりません。ですから、行政手続法の不利益処分の手続、たとえば、処分の前にBの言い分を聴く手続が、そのまま及びます。手順は、ここで終わりです。次に、乙法です。
図:乙法の設例
- A=行政庁、B=事業者
- 乙法に「この処分には行政手続法の不利益処分の規定は適用しない」と書いてある→手順②で除外を発見
- そのうえで乙法は独自の意見聴取を置く→手順③で乙法の意見聴取の中身を確かめる
乙法には、この処分には、行政手続法の不利益処分の規定は適用しない、と書いてあります。しかも、乙法は、独自の意見聴取の手続を置いています。手順の2つ目で、除外の規定が見つかります。ここで終わってはいけません。手順の3つ目です。行政手続法は及ばなくなりましたが、乙法の意見聴取が、Bの言い分を聴くのに足りる内容なのかを、乙法の条文で確かめます。除外されたから手続がない、と短絡しないことが大事です。最後に、丙法です。
図:丙法の設例
- A=行政庁、B=事業者
- 丙法は、行政手続法より厚い手続〔公開の審理〕を置く
- 行手法の最低線の上にある→厚い手続が生きる
丙法は、行政手続法が求めるよりも厚い手続として、公開の審理を置いています。これは、最低線を下回る除外ではなく、上に積んだ手続です。1条2項の特別の定めとして、その厚い手続が生きます。外すのか、積むのか。手順の2つ目と3つ目で、どちらなのかを見分けます。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 目的=公正の確保と透明性の向上〔手段〕→国民の権利利益の保護〔最終目的〕
- 規律する4つ=処分・行政指導・届出・命令等を定める手続、対象外=計画・調査・義務履行確保・行政契約
- 一般法=共通の最低線・原則は適用・除外には根拠
- 3つの手順=①原則適用②除外探し③独自手続の確認
冒頭の問いに戻ります。法律で適用しないと書けば外せるなら、行政手続法を作った意味はどこにあるのか。答えは、原則と例外を逆にしたことです。除外がない限り及ぶ。除外があれば、なぜ外すのかと問える。持ち帰るのは3点です。1つ目。目的は、公正の確保と透明性の向上という手段で、国民の権利利益を守る、という二段です。2つ目。規律する対象は、処分、行政指導、届出、命令等を定める手続の4つ。計画、調査、義務履行確保は、行政手続法の対象外です。3つ目。一般法として共通の最低線を引いたので、原則は適用で、外すには法律の根拠が要ります。そして、個別法を読むときは、原則適用、除外探し、独自手続の確認、の順に当てます。
参照条文
- 行政手続法 1条1項
- 行政手続法 2条2号
- 行政手続法 1条2項