審査基準と標準処理期間
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第8章 行政手続 #107/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
書類の一覧を貼れば、基準を公にしたことになる?
図:今日の問い
- 窓口に必要書類の一覧が貼ってある→これで審査基準を公にしたと言えるか
- 公にしろと言われているのは書類ではなく判断の基準そのもの
- 今日の道筋=①審査基準とは何か②5条の3つの項③公にしておく≠公表④作らなくてよい場面⑤基準の性質と判例⑥個人タクシー事件とのずれ⑦標準処理期間⑧遅れたときの意味⑨当てはめ演習
申請の窓口に、必要な書類の一覧が貼ってあります。これで、審査の基準は公にしてある、と言えるでしょうか。実は、言えません。条文が公にしろと言っているのは、書類の一覧ではなく、判断の基準そのものだからです。書類の一覧があれば、申請の準備はできます。でも、書類をそろえることと、どういう判断で許可が出るのかを知ることは、別の話です。なぜ、行政手続法は後者を見せろと言うのか。前回の最後に見た設計から、順に読みます。前回の確認です。申請を断られる側には、聴聞のような事前の意見陳述がありませんでした。その代わりに、基準を先に見せ、書面で主張させ、断るなら理由を示す設計になっている、と見ました。今日は、その最初の部品である5条の審査基準と、続く6条の標準処理期間を、中身まで掘ります。一つ、先に断っておきます。このシリーズの第2回で、鉄道の運賃の認可を審査する物差しを、審査基準と呼びました。あれは、条文が直接書いている、何を超えてはいけないかという審査の物差しを指す呼び方でした。今日の審査基準は、行政手続法の言葉です。条文に書かれた要件を、実際にどう判断するかに落とすために、行政庁が自分で定める基準のことです。同じ言葉ですが、別のものです。ここから先、審査基準と言ったら、後者です。
審査基準とは何か——要件の下に置かれる基準
図:要件と審査基準の上下
- 法令の要件=上〔例:申請地の周辺住民の生活環境に著しい支障が無いこと〕→行政庁Aが定める審査基準=中段〔例:居住施設から100メートル以内は原則不許可という目安〕→個々の申請の審査
- 第2回で呼んだ物差しは上段・5条の審査基準は中段
まず定義を、全文で確かめます。2条8号のロです。
条文行政手続法2条8号
行政手続法 第二条(定義)(8号) 八 命令等 内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう。 イ 法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。次条第二項において単に「命令」という。)又は規則 ロ 審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。) ハ 処分基準(不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。) ニ 行政指導指針(同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項をいう。以下同じ。)
注目するのは、その法令の定めに従って判断するために、という部分です。審査基準は、法令の定めの下に置かれる基準です。上に法令の要件があり、その要件を判断するために、行政庁が定めるのが審査基準です。設例を置きます。ドローンで農薬を散布する事業を許可する、ある個別の法律があります。県の行政庁をA、事業をしたい人をBとします。法律の許可要件には、申請地の周辺住民の生活環境に著しい支障が無いこと、と書かれています。ただ、これだけでは、何メートル離れていれば著しい支障が無いのか、分かりません。そこでAが、居住施設から100メートル以内は原則不許可、といった目安を定めます。この目安が、審査基準です。
要件は法令が決めたもの、審査基準は、その要件を当てはめるためにAが決めたものです。前に見たとおり、こうした基準は、多くの場合、行政庁の裁量を縛る裁量基準で、行政規則に当たります。2条8号の中で、審査基準と処分基準が並んでいたのも、呼び名の違いでした。申請に答える側の基準を審査基準、不利益処分の側の基準を処分基準と呼びます。
5条の3つの項は3つの役割
図:5条の3つの項
- 1項=定める〔「定めるものとする」=義務の側〕
- 2項=許認可等の性質に照らしてできる限り具体的に〔「しなければならない」〕
- 3項=行政上特別の支障があるときを除き、申請の提出先の事務所での備付けその他の適当な方法で公にしておく〔「しなければならない」〕
- 趣旨=恣意の防止・申請者の予測可能性・判断過程の公正と透明性
次は、その審査基準を定める5条です。全文で読みます。
条文行政手続法5条
行政手続法 第五条(審査基準) 行政庁は、審査基準を定めるものとする。 2 行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。 3 行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。
3つの項は、3つの役割です。1項は、定める。2項は、できる限り具体的にする。3項は、公にしておく。以前の回で、定める、具体的にする、公にする、と見たものです。今日は、各項の中身を掘ります。前回の色分けを思い出してください。定めるものとする、は義務の側でした。2項と3項は、しなければならない、で、はっきり義務です。5条は、3つの項とも義務の側の条文です。理由は3つあります。1つ目は、行政庁の恣意的で独断的な判断を防ぐことです。基準が無ければ、同じ条件の申請でも、担当者次第で結論が変わりえます。2つ目は、申請する側が結論を予測できることです。許可がほしいなら、何を整えればよいかが分かります。3つ目は、判断の過程を公正で透明にすることです。試験にたとえます。採点基準を、試験が終わってから決める。しかも受験生には見せない。これでは、受験生は何を書けばよいか分からず、採点者も、好みで点を付けられます。採点基準を、あらかじめ決めて見せておくのが、5条の発想です。前回見たとおり、申請側には事前の意見陳述がありません。その代わりに、申請者は、基準を見て、自分の事業はここを満たす、と申請書に書いて主張します。基準が見えないと、この主張が成り立ちません。基準を先に見せるのは、申請者を守る設計の、柱なのです。2項の、できる限り具体的に、にも一言。許認可等の性質に照らして、とあるので、どこまで具体化できるかは、許認可の性質によって違います。ただ、周辺の生活環境に著しい支障が無いこと、とだけ書いた基準は、要件の言い換えにすぎず、基準を定めたことになりません。目安の数字や、判断の考慮事項まで書いてこそ、具体的なものです。
公にしておくと公表は違う
図:公にしておく3段階の比較
- ①内部資料のみで見せない〔窓口の書類一覧だけ貼る・尋ねても教えない〕=5条3項を満たさない
- ②窓口に備え付けて求めがあれば閲覧できる=5条3項を満たす
- ③広く周知しホームページにも載せる=公表〔36条の行政指導指針の側〕/提出書類の一覧の交付では審査基準を公にしたことにならない=東京高判平13・6・14
ここで、冒頭の問いに戻る前に、問いを一つ置きます。窓口に、申請に必要な書類の一覧が貼ってあるだけで、判断の基準は内部資料のままです。5条3項の、公にしておく、を満たすでしょうか。何の言葉で決まりますか。満たしません。決め手は、審査基準を、という言葉です。公にするものは、審査基準、つまり許可するかどうかを判断するための基準です。書類の一覧は、何を出せばよいかを示すだけで、どう判断するかを示していません。どんな書類を出すかの案内を渡しても、判断の基準を見せたことにはならない、と述べた高等裁判所の例があります。
ホームページに載せるところまでは要りません。公にしておくとは、申請者や一般の人から求めがあれば、自由に見られる状態にしておくことです。5条3項は、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法、と書いています。窓口への備付けが通常の方法で、積極的に知らせて回ったり、ネットに載せたりすることまでは、求められていません。設例で3段階に分けます。1段階目。Aが目安を定めたが、内部資料にとどめて、窓口に書類の一覧だけを貼っている。2段階目。目安を窓口に備え付けて、求めがあれば閲覧できる。3段階目。ホームページにも載せて、広く知らせる。5条3項を満たすのは、2段階目からです。1段階目は満たしません。尋ねられても、教えられません、と答えるなら、なおさら満たしません。3段階目は、公表と呼ばれる側です。たとえば36条は、複数の者を対象とする行政指導の指針を、行政上特別の支障がない限り、公表しなければならない、としていました。公表は、広く知らせる側の言葉です。5条は、公表ではなく、公にしておく、という言葉を選んでいます。求められたら見せられる状態で足りる、というのが、5条の水準です。なぜ、それで足りるのか。基準を必要とするのは、これから申請しようとする人です。その人は、いずれ申請書を持って窓口に来ます。だから5条3項は、申請の提出先の事務所での備付けを、まず挙げているのです。
公にしておくは、見に行けば見られる状態、公表は、知らせに行く状態、と区別してください。
5条が動かない場面と、審査基準ではないもの
図:5条の例外と対象外
- ①法令の定めが十分に具体的なら別に基準を作らなくてよい
- ②行政上特別の支障=外交交渉上の不利益・国の安全が害されるおそれなど極端な場合・単に行政がやりにくくなるだけでは足りない
- ③この事業は許可制の対象か=許認可が要るかどうかの基準→審査基準ではない〔2条8号ロは「申請により求められた許認可等をするかどうか」の基準〕/許可するかどうかの基準=審査基準
次は、5条が動かない場面と、そもそも審査基準でないものを、3つ見ます。1つ目。法令の定めが十分に具体的なら、別に基準を作る必要はないと考えられます。法令がそのまま判断の物差しになるなら、基準を重ねて定めても、新しいことは何も言えないからです。設例なら、許可要件が、居住施設から100メートル以上離れていること、と数字まで法律で書いてあれば、Aが目安を足す余地がありません。2つ目。3項の、行政上特別の支障があるときを除き、の読み方です。これは狭く読みます。想定されているのは、公にすると外交交渉上の不利益が生じる場合や、国の安全が害されるおそれがある場合などの、極端な場合です。単に、公にすると行政がやりにくくなる、という程度では、当たりません。
基準を公にすると、申請者が基準ぎりぎりを狙ってくるので、困る場合はどうですか。それは、行政がやりにくいという程度の話です。基準を見せて、申請者が基準を満たそうとすること自体が、5条の狙いです。ですから、特別の支障には当たりません。3つ目。ここが、短答で狙われます。この事業は、許可制の対象か、つまり許可を受けなければ事業ができるかどうか、という線引きの基準は、審査基準ではありません。2条8号ロは、申請により求められた許認可等をするかどうかの基準、と書いています。許可が必要かどうかは、申請に入る前の話です。許可するかどうかを判断する基準だけが、審査基準です。
審査基準の法的性質と、合理性が物差しになる場面
図:審査基準の性質と判例の位置づけ
- 審査基準=行政規則〔裁量基準・解釈基準〕・原則として外部効果なし
- しかし基準の合理性が処分の違法性を判断する物差しになる場面がある
- 最判平4・10・29=原子炉設置許可の事件:用いられた具体的審査基準に不合理な点があれば違法〔5条の審査基準の話ではない〕
- 最判平10・7・16=法規でない通達の基準でも、合理的ならそれに沿った処分は原則適法とした例〔公にしていたかは争点外〕
- 公開した基準と異なる判断をするなら合理的な根拠を示すべき
ここで、前に見た論点を一つ思い出します。裁量基準は行政規則なので、基準に反した処分は、直ちに違法になるでしょうか。行政規則は国民を縛らないので、直ちには違法にならない、でした。審査基準も、多くは裁量基準で、行政規則です。原則として外部効果、つまり国民や裁判所を縛る力はありません。ただし、これで終わりではありません。基準の合理性が、処分の違法性を判断する物差しになる場面があります。裁判所が、基準に縛られるのではありません。行政庁は、基準を当てはめて処分を決めます。ですから、処分の判断が合理的かを確かめるには、その判断の中身になった基準が合理的かを見ることになります。基準は、裁判所を縛る決まりとしてではなく、審査される対象として、物差しになるのです。以前に、専門技術的裁量の代表として読んだ、原子炉の設置許可の判決を思い出してください。周辺の住民が、許可の取消しを求めた事件です。裁判所は、行政庁の判断が不合理かどうかを、専門的な審議で用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか、という観点から審理しました。基準が不合理なら、その基準に基づく許可は違法になる、という枠組みです。ただし、これは原子炉設置許可の事件で、行政手続法5条の審査基準の話ではありません。基準の合理性が判断の物差しになりうる、という場面の一例として、位置づけてください。もう一つ、基準が合理的なら、その基準に沿った処分は原則として適法だとした最高裁の例があります。こちらで使われた基準は、法規ではない、行政の内部の通達でした。法規でない基準でも、合理的であれば、処分の適法性を支える、という方向の例です。ただし、行政手続法ができる前の処分で、基準を公にしていたかどうかは問題になっていません。設例なら、Aの、居住施設から100メートル以内は原則不許可、という目安が合理的なら、居住施設から50メートルの申請地について、Bを不許可にした処分は、原則として適法と見られる、という向きです。前の判決が違法を導く向きなら、こちらは適法を支える向きです。
さらに、Aが公にした審査基準があるのに、Bの申請について、基準と違う判断をしたいなら、合理的な根拠を示すべきだと考えられます。基準を公にして、申請者に見せた以上、理由なく外れることは許されないからです。その限りで、審査基準にも、一定の外部効果があると言えます。公にした基準に、行政自身が縛られるこの力を、行政の自己拘束と呼ぶのでした。基準を外れた処分の効力は、裁量基準の回で扱いました。
個人タクシー事件との距離
図:個人タクシー事件と5条のずれ
- 判決=内部的にせよ審査基準を設定せよ・公開までは求めていない
- 5条3項=公にしておくことを義務にした〔判例を一歩超えた〕
- 判決の事案は個別法に意見聴取〔聴聞〕の規定があった場合・行手法の申請側は意見陳述を保障せず基準の設定と公開に重点
- 5条の話は5条から始めれば足りる
審査基準の話をすると、個人タクシー事件を思い出す人が多いと思います。個人タクシーの免許に、枠を大きく超える申請が集まり、担当官が申請者から話を聴いたうえで、少数だけを選んで免許した事件です。原告は、却下された申請者の一人でした。事案と判旨は、別の回で詳しく見ました。ここでは、5条との距離だけを確認します。判決は、抽象的な免許基準しかない場合には、内部的にせよ、具体化した審査基準を設定し、公正かつ合理的に適用すべきだ、と述べました。ここに、公開までは含まれていません。5条3項は、内部的にとどめず、公にしておくことを義務にしました。判例を一歩超えた規定です。もう一つ。判決の事案は、個別の法律に、意見を聴く手続の規定があった場合でした。ところが、担当官の多くは、基準の項目すら知らされておらず、原告の申請を却下する決め手になった2点を、聴いていませんでした。何を基準に判断するかがはっきりしなければ、何について話を聴くのか、つまり聴聞の主題も定まりません。そこが、問題とされたのです。行政手続法の申請側には、事前の意見陳述の保障がなく、基準の設定と公開に重点が置かれています。
5条の話であれば、判決まで遡らず、5条から始めれば足ります。審査基準を定めていなかった、公にしていなかった、という事実があれば、5条の違反として書き出します。そのような手続の瑕疵が、処分の取消事由になるかどうかは、手続の瑕疵の回で扱います。
標準処理期間——6条の二段構え
図:標準処理期間の時間軸
- 申請が事務所に到達→標準処理期間〔通常要すべき標準的な期間・設定は努力義務〕→処分
- 定めたら公にしておく〔義務〕
- 経由機関があるとき=提出先に到達→行政庁に到達の区間も併せて定める
- 設例:窓口は市・決定は県
後半は、6条の標準処理期間です。5条が、どう判断するかを先に見せる条文なら、6条は、いつごろ答えるかを先に見せる条文です。その前に、前回の確認です。申請に対する処分の側で、定めたら公にするのは義務、定めること自体は努力義務、という条文はどれでしたか?6条の標準処理期間です。全文で読みます。
条文行政手続法6条
行政手続法 第六条(標準処理期間) 行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。
二段になっています。1段目は、定めるよう努める、で努力義務です。2段目は、定めたときは公にしておかなければならない、で義務です。5条との違いは、1項の設定そのものが、義務ではないことです。5条は、定める、まで義務でした。6条は、定めること自体は努力にとどまります。定めていなくても、それだけで処分が違法になるわけではありません。ただし、定めないことに合理的な理由が無い場合や、目安にならないほど不相当に長く設定した場合は、制度の趣旨に反し、不当だと言われます。いったん定めて公にすれば、行政庁は、自分で示した期間を守れないことを強く批判されます。そこで、申請の処理を早める実効性が期待されます。かっこ書きも見ます。法令により、行政庁と異なる機関が、申請の提出先とされている場合があります。これを経由機関と呼びます。設例で、窓口は市で、許可を決めるのは県のAとします。Bは市の窓口に申請書を出し、市がそれをAに送ります。この場合、Aの事務所に届いてから処分までの期間だけでなく、市の窓口に届いてからAの事務所に届くまでの期間も、併せて定めます。申請者から見れば、窓口に出した時から数えて、いつごろ結果が出るかが大切だからです。
期間を過ぎたら?——「標準」と「相当の期間」
図:期間徒過の意味
- 標準処理期間を過ぎても直ちに違法ではない
- 行訴法3条5項の「相当の期間」は標準処理期間と同じ期間ではない=裁判所が事案ごとに判断
- ただし標準処理期間を過ぎたことは「相当の期間」が経過したかを判断する重要な考慮要素
- 設例:標準処理期間30日・申請から半年返事なし→相当の期間を徒過したと言いやすい
設例を置きます。窓口には、標準処理期間は30日、と備え付けてあります。ところが、Bが申請してから半年たっても、Aから返事がありません。標準処理期間を過ぎたので、Aの不作為は、直ちに違法でしょうか。標準処理期間と、相当の期間は、同じものでしょうか。直ちに違法とまでは言えません。標準処理期間は、通常かかる標準的な期間、つまり目安だからです。標準、という言葉が、その性質を表しています。超えれば、直ちに違法になる期限ではありません。一方、不作為の違法確認の訴えは、行政事件訴訟法3条5項に定められています。全文を読みます。
条文行政事件訴訟法3条5項
行政事件訴訟法 第三条(抗告訴訟)(5項) この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
この、相当の期間と、標準処理期間は、同じ期間ではありません。なぜか。標準処理期間は、行政庁が自分で決めて見せる目安です。相当の期間は、条文に何日とは書かれておらず、訴訟の中で、裁判所が、その申請を処理するのに通常どれだけかかるかを、事案ごとに判断します。決める者も、決め方も違うのです。ただし、別物だからといって関係がないわけではありません。標準処理期間を過ぎたことは、相当の期間が経過したかどうかを判断する、重要な考慮要素になります。設例なら、標準が30日なのに半年かかっていて、特別な事情も無いので、相当の期間を過ぎたと言いやすくなります。
個別法のスピード担保
図:行手法6条とは別の層
- 個別法が法定処理期間を置く例=情報公開法10条1項
- 一定期間の経過で処分があったとみなす例=みなし拒否〔生活保護法24条7項〕・みなし承認〔青色申告の承認=所得税法147条・法人税法125条〕
- 標準処理期間=目安・法定処理期間とみなし規定=個別法の定め
最後に、行政手続法の標準処理期間とは別の層の話を、短く見ます。個別の法律が、処理の期限を直接定める例があります。情報公開法10条1項の、法定処理期間がその一つです。目安ではなく、法律が決めた期限です。また、一定の期間がたつと、処分があったものとみなす定めもあります。申請が拒否されたものとみなす、みなし拒否は、生活保護法24条7項です。申請者は、返事を待たされ続けず、拒否されたものとして、その拒否を、不服申立てや訴えで争う段階に進めます。承認されたものとみなす、みなし承認は、青色申告の承認についての、所得税法147条や法人税法125条です。標準処理期間はあくまで目安で、これらは個別の法律が決める、別の仕組みです。行政手続法の全体像の回で、個別の法律を読む3つの手順を見ました。原則として行政手続法が及ぶと考え、適用除外を探し、その法律に独自の手続がないかを確かめる、の3つです。こうした期限やみなしの定めは、3つ目で探す、その法律独自の仕組みです。
当てはめ演習——どの言葉で決まるか
図:当てはめ演習の設例
- ドローン農薬散布事業の許可を定める個別の法律
- A=県の行政庁・B=申請者
- ①窓口に必要書類の一覧だけが貼ってある②目安を定めたが尋ねられても教えない③ホームページには載せていないが窓口で閲覧できる④この事業は許可が要るかどうかの線引き⑤標準処理期間が定められておらず半年返事がない
- 答え方=結論とどの文言で決まるか
5問、仕分けます。結論だけでなく、どの言葉で決まったかを言ってください。1問目。窓口に、必要書類の一覧だけが貼ってあります。判断の目安は内部資料です。5条3項を満たしますか。2問目。Aは目安を定めましたが、申請者に尋ねられても、教えられません、と答えます。3問目。目安はホームページには載せていませんが、窓口で閲覧できます。4問目。この事業は、許可を受けなければできないのか、という線引きを定めた基準は、審査基準ですか。最後の5問目。標準処理期間が定められておらず、Bの申請から半年返事がありません。Aは6条違反で、不作為も当然に違法でしょうか。
図:当てはめ演習の答えと決め手
- ①満たさない=公にするのは「審査基準」・書類の一覧は基準ではない
- ②満たさない=「公にしておく」=求めがあれば見られる状態になっていない
- ③満たす=公表までは要らず「備付けその他の適当な方法」で足りる
- ④審査基準ではない=2条8号ロは「申請により求められた許認可等をするかどうか」の基準・許可が要るかどうかはその前の話
- ⑤6条違反ではない=「定めるよう努め」る努力義務・不作為の違法は「相当の期間」を過ぎたかで別に判断
5問とも、決め手の言葉を言えました。答えと、決め手になった言葉を、1枚に並べておきます。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 審査基準=法令の要件の下に行政庁が定める基準〔第2回の物差しとは別〕
- 5条=定める・具体的に・公にしておく〔いずれも義務の側〕
- 公にしておく=求めがあれば見られる状態・書類の一覧では足りない・公表とは別
- 要否の線引きは審査基準でない
- 基準は行政規則だが合理性が物差しになる場面あり
- 標準処理期間=設定は努力義務・公にするのは義務・過ぎても直ちに違法でないが相当の期間の重要な考慮要素
冒頭の問いに戻ります。窓口に書類の一覧が貼ってあれば、審査基準を公にしたことになる。これは誤りでした。公にするものは、判断の基準そのものです。持ち帰るのは3点です。1つ目。5条は、審査基準を定める、できる限り具体的にする、公にしておく、という3つの役割を、義務として求めています。公にしておくとは、求めがあれば見られる状態のことで、公表までは要りません。2つ目。法令が十分具体的なら基準は不要で、特別の支障は極端な場合に限られ、許可が要るかどうかの線引きは審査基準ではありません。基準は行政規則ですが、合理性が物差しになる場面があります。3つ目。標準処理期間は、定めるのは努力義務、定めたら公にするのは義務です。過ぎても直ちに違法ではありませんが、相当の期間を判断する、重要な考慮要素になります。
参照条文
- 行政手続法2条8号
- 行政手続法5条
- 行政手続法6条
- 行政事件訴訟法3条5項