行政法ゼロから行政法#111

理由の提示の趣旨と程度

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第8章 行政手続 #111/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

条文番号は書いてある。それでも理由ではない

今日の問い(山小屋の開設許可を拒否された申請者Bに届いた通知書の理由欄/左=「里山保全法第5条第2号に適合しないため。」/右=「申請地の沢沿いにある希少植物の群生地に、宿泊棟の排水が流れ込むと見込まれ、同号に適合しないため。」/①8条と14条を細部まで読む②どこまで書けば足りるか③通知書の理由欄を自分で判定する) 図:今日の問い

  • 山小屋の開設許可を拒否された申請者Bに届いた通知書の理由欄
  • 左=「里山保全法第5条第2号に適合しないため。」
  • 右=「申請地の沢沿いにある希少植物の群生地に、宿泊棟の排水が流れ込むと見込まれ、同号に適合しないため。」
  • ①8条と14条を細部まで読む②どこまで書けば足りるか③通知書の理由欄を自分で判定する

山小屋を開きたいと考えた事業者のBが、県知事Aに許可を申請しました。しばらくして、不許可の通知書が届きます。理由の欄には、こう書いてありました。里山保全法第5条第2号に適合しないため。実は、これでは理由を示したことになりません。これを読んで、Bは何を直せばよいのか、分かるでしょうか。2号が何を定めているのか、調べないと分かりませんし、調べても、どこが当たったのかは分かりません。今日は、理由の提示を見ます。前回は、聴聞と弁明の機会の付与でした。3つ進めます。1つ目、8条と14条を、細部まで読みます。2つ目、どこまで書けば理由として足りるのか。3つ目、最後に、通知書の理由欄を4通り見て、自分で判定します。

理由付記の2つの働きは、解釈の道具

2つの働きから何が出るか(働き1=判断を慎重にして恣意を抑える/働き2=理由を知らせて争う手がかりを渡す/ここから説明できる=同時に・書面・例外・どこまで書くか/趣旨は暗記項目ではなく、条文と程度を決める道具) 図:2つの働きから何が出るか

  • 働き1=判断を慎重にして恣意を抑える
  • 働き2=理由を知らせて争う手がかりを渡す
  • ここから説明できる=同時に・書面・例外・どこまで書くか
  • 趣旨は暗記項目ではなく、条文と程度を決める道具

理由を示させる目的は、制定前の判例の回で見た、理由付記の2つの働きです。まず1つ目は、処分をする側の判断を慎重にして、恣意を抑えること。2つ目は、理由を相手方に知らせて、争う手がかりを渡すことです。旅券の発給を、条文の号数だけを書いて拒否した、旅券の判決は、これをもとに、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用したかが、記載自体から分かることを求めました。今日使うのは、ここまでです。今日の新しい点は、この2つを覚える項目としてではなく、道具として使うことです。理由は、いつ示すのか。書面か口頭か。省けるのはどんなときか。どこまで書くのか。これらは、2つの目的を当てれば、すべて説明がつきます。

条文の文言は読みますが、なぜそうなっているのかは、2つの働きから導けます。順に当てていきます。

8条を読む——申請を拒否するとき

8条の読み方(対象=申請により求められた許認可等を拒否する処分/同時に/ただし書=要件・審査基準が数量的指標その他の客観的指標で明確+申請が適合しないことが申請の内容から明らか→求めがあったとき示せば足りる/2項=書面でするなら理由も書面/認める処分は対象外) 図:8条の読み方

  • 対象=申請により求められた許認可等を拒否する処分
  • 同時に
  • ただし書=要件・審査基準が数量的指標その他の客観的指標で明確+申請が適合しないことが申請の内容から明らか→求めがあったとき示せば足りる
  • 2項=書面でするなら理由も書面
  • 認める処分は対象外

まず、申請を拒否する場面の8条を読みます。

条文行政手続法8条1項・2項

行政手続法 第八条(理由の提示)(1項・2項)   行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。 2 前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。

4つの点に分けて読みます。まず1つ目は、対象です。申請により求められた許認可等を、拒否する処分です。つまり、申請を認める処分には、この義務がありません。申請者は、求めたものが得られています。理由を知らせて争う手がかりを渡す必要が、まず無いからです。反対する第三者がいれば、その人には不利益になりえますが、この法律は、行政庁と申請者の二者の手続保障を中心に組んでいます。第三者の場面は、設計の外です。申請の一部だけを認めない場合は、申請どおりにならなかった部分について、理由が要ると考えます。文書の一部だけを開示する決定で、開示されなかった部分に理由が要る、というのがその例です。2つ目、同時にです。処分のときに示します。後から示すのでは、慎重に判断させるという1つ目の働きが果たせません。処分が決まったあとで理由を作っても、判断を慎重にする働きは、もう終わっているからです。3つ目、ただし書です。条件は、2つで、両方そろう必要があります。1つは、要件や審査基準が、数量的指標その他の客観的指標で、明確に定められていること。もう1つは、申請が適合しないことが、申請書の記載などから明らかなことです。この場合は、申請者の求めがあったときに示せば足ります。

8条ただし書の流れ(里山保全法5条1号=水源から100メートル以上離れていること〔数量的〕/2号=周辺の自然環境を著しく害するおそれがないこと〔抽象的〕/申請書の地図では水源から60メートル→1号は①数量的・②明らか→求めがあったときに示せば足りる/2号で不許可→抽象的なのでただし書は使えない→同時に示す) 図:8条ただし書の流れ

  • 里山保全法5条1号=水源から100メートル以上離れていること〔数量的〕
  • 2号=周辺の自然環境を著しく害するおそれがないこと〔抽象的〕
  • 申請書の地図では水源から60メートル→1号は①数量的・②明らか→求めがあったときに示せば足りる
  • 2号で不許可→抽象的なのでただし書は使えない→同時に示す

設例で当てます。里山保全法の5条は、許可の要件を2つ置いているとします。1号は、水源から100メートル以上離れていること。2号は、周辺の自然環境を著しく害するおそれがないこと。Bの申請書の地図を見ると、予定地は水源から60メートルです。1号は数量で決まっており、60メートルでは足りないことが、申請書から明らかです。この場合は、通知書に理由欄を書かなくても、Bが求めたときに示せば足ります。2号で拒否するときは、ただし書は使えません。自然環境を著しく害するおそれは、数量では決まりません。行政庁の評価が入ります。ですから、2号で拒否するときは、処分と同時に理由を示す義務があります。

2つの働きに当ててください。数字で決まっていて、申請書を見れば明らかなら、行政庁が気ままに判断する余地が小さいですし、Bも、自分で何が駄目か分かります。理由欄が空でも、2つの働きは果たされます。だから、省けるのではなく、求めがあったときに示せば足りるのです。理由を示さなくてよい、のではありません。4つ目は、2項です。この処分を書面でするなら、理由も書面で示します。理由が口頭だけでは、後から確認できず、争う手がかりとして弱いからです。

14条を読む——不利益処分をするとき

14条の読み方(1項=不利益処分をするときは名あて人に同時に理由/ただし書=理由を示さないで処分すべき差し迫った必要がある場合/2項=ただし書で示さなかったときは、所在不明等を除き処分後相当の期間内に示す/3項=書面でするなら理由も書面) 図:14条の読み方

  • 1項=不利益処分をするときは名あて人に同時に理由
  • ただし書=理由を示さないで処分すべき差し迫った必要がある場合
  • 2項=ただし書で示さなかったときは、所在不明等を除き処分後相当の期間内に示す
  • 3項=書面でするなら理由も書面

次は、不利益処分の14条です。1項を読みます。

条文行政手続法14条1項〜3項

行政手続法 第十四条(不利益処分の理由の提示)(1項〜3項)   行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。 2 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。 3 不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならない。

本文は8条と同じ形です。名あて人に、同時に、理由を示します。ただし書は、理由を示さないで処分をすべき、差し迫った必要がある場合です。たとえば、腐った食品が市場に出回っていて、直ちに販売を止めさせないと被害が広がる場面です。理由を書いている間にも、被害が出ます。理由の提示を後回しにしても、止めるべき処分を先にします。ここで注意です。ただし書で示さなかったからといって、示さなくてよいわけではありません。2項です。名あて人の所在が分からなくなったときや、処分の後で理由を示すことが困難な事情があるときを除いて、処分後、相当の期間内に、理由を示さなければなりません。理由の提示は、省かれるのではなく、後ろにずれるのです。3項は、書面でするなら、1項と2項の理由も書面で、です。ここで、前々回を思い出して、問いを一つ置きます。13条2項で意見陳述の手続を省ける場合、理由の提示はどうなるでしょうか?

省けません。13条2項が省けるとするのは、意見陳述の手続だけです。理由の提示の例外は、14条のただし書が、別に決めています。

8条と14条の違い——例外の理由が違う

8条と14条の読み比べ(対象=8条は申請拒否・14条は不利益処分/同時に=どちらも/ただし書=8条は数量的・客観的+明らか〔理由欄が無くても2つの働きが果たされる〕・14条は差し迫った必要〔理由を書く暇が無い〕/例外のあと=8条は求めがあれば示す・14条は処分後相当の期間内に義務として示す/書面=どちらも書面なら理由も書面) 図:8条と14条の読み比べ

  • 対象=8条は申請拒否・14条は不利益処分
  • 同時に=どちらも
  • ただし書=8条は数量的・客観的+明らか〔理由欄が無くても2つの働きが果たされる〕・14条は差し迫った必要〔理由を書く暇が無い〕
  • 例外のあと=8条は求めがあれば示す・14条は処分後相当の期間内に義務として示す
  • 書面=どちらも書面なら理由も書面

2つの条文を並べます。対象は、8条が申請を拒否する処分、14条が不利益処分です。同時に示すことと、書面でするなら理由も書面であることは、どちらも同じです。違いが出るのは、ただし書です。例外が許される理由が、まったく違います。8条のただし書は、理由欄がなくても2つの働きが果たされるから、許されます。ですので、あとで求めがあれば示せば足ります。14条のただし書は、理由を書く時間がないから許されます。働きが果たされるわけではありません。ですので、処分のあとで、義務として示さなければなりません。例外の理由が違うから、例外のあとの処理も違う。これが、この2つの条文の関係です。なお、申請を拒否する処分は、不利益処分ではありません。申請に対する処分と不利益処分の回で見たとおり、2条4号の定義が、申請を拒否する処分を不利益処分から外しているからです。申請拒否には8条、不利益処分には14条です。当てはめるときは、どちらの条文を使うのかを、先に決めてください。

判例が条文になった——使える判例が広がる

判例法理が条文に(行手法の前=法律が理由付記を求める場合の判例が積み上がる/8条・14条=その考え方を一般化した条文/判例は申請拒否と不利益処分を分けず論じる→8条にも14条にも使える/個別法・条例が理由付記を求めれば同じ物差し〔目的が同じ2つの働きだから/条例の非開示決定の判決〕) 図:判例法理が条文に

  • 行手法の前=法律が理由付記を求める場合の判例が積み上がる
  • 8条・14条=その考え方を一般化した条文
  • 判例は申請拒否と不利益処分を分けず論じる→8条にも14条にも使える
  • 個別法・条例が理由付記を求めれば同じ物差し〔目的が同じ2つの働きだから/条例の非開示決定の判決〕

ここで、制定前の判例の回で見た判決との関係を整理します。青色申告や旅券の判決は、行政手続法ができる前の判決でした。当時は、個別の法律が、処分書に理由を書くこと、つまり理由付記を求めていて、判決はその規定を読み解いたものです。8条と14条は、その考え方を、どの処分にも通じる条文にしました。呼び名も、理由の提示に変わりました。ですから、制定前の判決が、そのまま解釈に使えます。判決は、申請拒否か不利益処分かを分けずに論じているので、8条にも14条にも共通して使えます。制定前の判例の回では、判決の射程は、その法律の枠の中にとどまる、と見ました。それでも、個別の法律や条例が理由付記を求めているときは、同じ物差しで読まれます。理由を書かせる目的が、どの法律でも、同じ2つの働きだからです。その使い方を、これから見ます。

どこまで書くか、その1——記載自体から、相手が知っていても

記載自体から了知しうるか(規範=いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用したかを、記載自体から了知しうる/相手方が事情を知っていたか・推測できたかは問わない/理由=処分自体の慎重と公正妥当の担保も目的だから/青色申告の承認取消し=通知書に取消事由の号数だけ書いた事案) 図:記載自体から了知しうるか

  • 規範=いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用したかを、記載自体から了知しうる
  • 相手方が事情を知っていたか・推測できたかは問わない
  • 理由=処分自体の慎重と公正妥当の担保も目的だから
  • 青色申告の承認取消し=通知書に取消事由の号数だけ書いた事案

どこまで書くか、です。基準は、記載自体から、事実関係と適用した法規が分かるか、でした。ここで一つ問いです。申請者のBが、事情を全部知っていたら、理由欄は簡単でよいでしょうか?判例は、相手方が事情を知っていても、理由欄を簡単にしてよいとは考えません。青色申告の承認取消しの事件です。不利益処分の側の判決で、通知書には、取消事由にあたる号数だけが書かれていました。この判決は、2つのことを述べています。まず、1つ目の判旨を読みます。

判例最判昭49・4・25 民集28巻3号405頁

青色申告の承認取消しの通知書 右附記を命じた規定の趣旨が、処分の相手方の不服申立てに便宜を与えることだけでなく、処分自体の慎重と公正妥当を担保することにもあることからすれば、取消しの基因たる事実は通知書の記載自体において明らかにされていることを要し、相手方の知、不知にはかかわりがないものというべきである。

骨格を読みます。取消しの基因となる事実は、通知書の記載自体で明らかにされなければならず、相手方が知っていたかどうかは関係がない、という判旨です。決め手は、2つの働きの1つ目にあります。理由は、争う便宜のためだけにあるのではありません。処分をする側の判断を慎重にして、公正さを担保するためにもあります。Bが事情を知っていても、行政庁が、何を根拠にどう判断したのかを、自分で書き出す意味は残ります。だから、相手方の知不知は問いません。設例で言えば、Bは調査のときに口頭で聞いているから、理由欄は簡単でよい、というのは誤りです。

判例最判昭49・4・25 民集28巻3号405頁

青色申告の承認取消しの通知書(裁量と手がかり) 処分の相手方としては、その通知書の記載からいかなる態様、程度の事実によつて当該取消しがされたのかを知ることができるのでなければ、その処分につき裁量権行使の適否を争う的確な手がかりが得られないこととなるのである。

2つ目です。裁量のある処分では、どんな態様と程度の事実で処分されたのかが分からないと、裁量の使い方が適切だったかを争う手がかりがありません。裁量の幅が広い処分ほど、事実を具体的に書く必要が大きいのです。ただし、この判決が求めたのは、どこまで書くかです。書かれた事実が正しいかどうかは、別の問題です。このあと、足りないのと間違っているのは別、という形で切り分けます。

どこまで書くか、その2——条文だけで足りるのは、いつか

根拠条文だけで足りるか(問い=条文を示せば足りるのはどんなときか/足りる=条文を示せば事実関係も当然分かる〔要件が具体的・一義的〕/足りない=要件が概括的・抽象的〔旅券法の「おそれ」・里山保全法の「著しく害するおそれ」〕/要件が抽象的なほど事実まで書く) 図:根拠条文だけで足りるか

  • 問い=条文を示せば足りるのはどんなときか
  • 足りる=条文を示せば事実関係も当然分かる〔要件が具体的・一義的〕
  • 足りない=要件が概括的・抽象的〔旅券法の「おそれ」・里山保全法の「著しく害するおそれ」〕
  • 要件が抽象的なほど事実まで書く

次の問いです。根拠条文を示すだけで足りるのは、どんなときでしょうか?旅券の判決に、例外がありました。条文を示せば、事実関係も当然に分かる場合です。では、それはどんな条文でしょうか。要件が具体的で、条文を示すだけで、どの事実に当たるのかが一義的に分かる場合です。逆に、概括的で抽象的な要件ほど、何を認定したのかが条文からは分かりません。設例の1号なら、第5条第1号の要件を満たさない、と書けば、予定地が水源から100メートル以上離れていない、と認定されたことが、条文から読めます。設例の2号です。周辺の自然環境を著しく害するおそれがない、という要件は、抽象的です。第5条第2号に適合しない、と書いても、どんな事実を認定したのかが、まったく分かりません。冒頭の通知書が足りなかったのは、このためです。事実まで書かなければなりません。要件の具体性が、書く量を決めます。そして、不利益の重さや、裁量の幅も効きます。外国旅行の自由を制限する処分も、青色申告の承認を取り消す処分も、事実を具体的に書くことが求められました。

どこまで書くか、その3——条例の非開示決定でも同じ

条例の非開示決定と理由(事案=東京都の公文書の開示条例に基づく開示請求→非開示の理由として「9条8号に該当」とだけ付記/判旨=請求者がどの非開示事由に該当するのかをその根拠とともに了知し得るもの/根拠規定を示すだけでは足りない/口頭説明では治らない/申請拒否の型=同じ物差し) 図:条例の非開示決定と理由

  • 事案=東京都の公文書の開示条例に基づく開示請求→非開示の理由として「9条8号に該当」とだけ付記
  • 判旨=請求者がどの非開示事由に該当するのかをその根拠とともに了知し得るもの
  • 根拠規定を示すだけでは足りない
  • 口頭説明では治らない
  • 申請拒否の型=同じ物差し

同じ考え方が、条例にも使われた例を見ます。東京都の、公文書の開示を定める条例です。開示を請求した人に、非開示の決定がされました。理由は、条例9条8号に該当する、とだけ付記されていました。9条8号は、事務事業に関する情報を、幅広く挙げた規定です。

判例最判平4・12・10 集民166号773頁

条例に基づく公文書の非開示決定 公文書の非開示決定通知書に付記すべき理由としては、開示請求者において、本条例九条各号所定の非開示事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず、単に非開示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として、本条例七条四項の要求する理由付記としては十分でないといわなければならない。

骨格を読みます。どの非開示事由に当たるのかを、その根拠とともに分かるものでなければなりません。根拠規定を示すだけでは、請求者が当然に分かる場合を別として、足りません。なぜ足りないのか。9条8号は、幅広い情報を挙げた規定なので、号数だけでは、どの情報が、なぜ当たるとされたのかが分かりません。設例の2号と同じで、要件が広いほど、事実まで書くことになります。ここでの、当然に分かる、は、請求者が個人的に事情を知っていたか、ではありません。示した根拠規定と、文書の種類や性質とを、あわせて見れば当然に分かる、という意味です。

開示請求を断る処分も、申請を拒否する処分と同じ型です。同じ物差しが、条例の理由付記にも使えます。情報公開そのものは、第9章で別に見ます。この判決は、同じ判旨の中で、相手方の知不知にはかかわりがないとも述べています。さきほどの青色申告の判決と同じです。

後から補えるか——「同時に」の意味

後から補えるか(問い=処分のあとに理由を示せば足りるか/答え=足りない〔同時に=慎重さの担保は処分の前にしか果たせない〕/別の機関が審査の裁決で補っても治らない〔瑕疵の治癒の回の、更正の判決〕/条例の非開示決定→後日の補助職員の口頭説明でも治らない/処分後でよいのは法律が認めた例外だけ〔8条ただし書=求めがあれば/14条2項=処分後相当の期間内〕) 図:後から補えるか

  • 問い=処分のあとに理由を示せば足りるか
  • 答え=足りない〔同時に=慎重さの担保は処分の前にしか果たせない〕
  • 別の機関が審査の裁決で補っても治らない〔瑕疵の治癒の回の、更正の判決〕
  • 条例の非開示決定→後日の補助職員の口頭説明でも治らない
  • 処分後でよいのは法律が認めた例外だけ〔8条ただし書=求めがあれば/14条2項=処分後相当の期間内〕

ここで、瑕疵の治癒、つまり処分のあとで欠けていたものが補われることを扱った回を、思い出してください。理由付記の不備を、処分庁とは別の機関が、後から補った場合、治癒されたか。治癒されませんでした。処分庁と異なる機関が示しても、処分庁の判断を慎重にする、という目的は果たせないからです。同時に、の意味を一段だけ掘り下げます。理由の提示は、判断を慎重にするためのものですから、処分と同時でなければ意味がありません。処分のあとから示しても、すでに終わった判断を、慎重にすることはできません。今回の判例で、さらに2点追加します。条例の非開示決定の判決では、後日、実施機関の補助職員が口頭で理由を説明しても、付記理由不備の瑕疵は治癒されない、とされました。青色申告の承認取消しの判決でも、同じです。処分に不服を申し立てたあとの判断である、再調査決定や審査決定で理由が示されても、治りません。瑕疵の治癒の回で見たのは、青色申告の更正の判決で、これとは別の事件ですが、結論は同じです。

判例最判平4・12・10 集民166号773頁

条例に基づく公文書の非開示決定(後日の口頭説明) これに記載することを要する非開示理由の程度は、相手方の知、不知にかかわりがないものというべきである(……)し、また、本件において、後日、実施機関の補助職員によって、被上告人に対し口頭で非開示理由の説明がされたとしても、それによって、付記理由不備の瑕疵が治癒されたものということはできない。

骨格を読みます。非開示理由の程度は相手の知不知に関係せず、後日の口頭説明があっても、不備は治りません。結論です。処分のあとに理由を示してよいのは、法律自身が認めた2つの例外だけです。8条のただし書で、求めがあったときに示す場合と、14条2項で、処分後相当の期間内に示す場合です。8条のほうは、理由欄がなくても2つの働きが果たされるので、もともと処分と同時に示さなくてよい場面でした。14条2項は、時間がない場面のために、法律が後ろにずらしたものです。どちらにも当たらないのに後から補っても、治ったことにはなりません。治癒の一般論は、以前の回のとおりです。

足りないのと、間違っているのは別

切り分け(足りない・書かれていない=手続の違法〔今日の話〕/間違っている=処分の中身の違法〔実体〕/例=理由欄に「水源から60メートル」と書いたが実際は120メートル→記載自体から了知できるので理由の提示としては足りる・ただし実体で違法/理由の不備が取消事由か・訴訟での理由の差替えは別の回) 図:切り分け

  • 足りない・書かれていない=手続の違法〔今日の話〕
  • 間違っている=処分の中身の違法〔実体〕
  • 例=理由欄に「水源から60メートル」と書いたが実際は120メートル→記載自体から了知できるので理由の提示としては足りる・ただし実体で違法
  • 理由の不備が取消事由か・訴訟での理由の差替えは別の回

最後に、切り分けを一つ。理由が書かれていない、あるいは足りない。これは手続の問題です。一方、理由が間違っている。処分の中身が誤っている。これは実体の問題で、別の話です。設例で言えば、通知書に、予定地は水源から60メートルの位置にある、と書いたのに、実際には120メートルだったとします。理由欄は、記載自体から何を根拠にしたかが分かるので、理由の提示としては足ります。ただし、事実が違うので、処分は実体の面で違法になりえます。理由の不備が取消事由になるかは、この章の後ろの回で、訴訟になってから理由を差し替えられるかは、第15章で見ます。

演習——通知書の理由欄を判定する

通知書の理由欄・4通り(里山保全法・山小屋の開設許可/①「第5条第2号に適合しないため。」②「周辺の自然環境を著しく害するおそれがあるため。」③「宿泊棟の排水が沢沿いの希少植物の群生地に流れ込むと見込まれ、第5条第2号に適合しないため。」④許可処分〔理由欄なし〕/判定の道具=2つの働き・記載自体から・要件の具体性) 図:通知書の理由欄・4通り

  • 里山保全法・山小屋の開設許可
  • ①「第5条第2号に適合しないため。」②「周辺の自然環境を著しく害するおそれがあるため。」③「宿泊棟の排水が沢沿いの希少植物の群生地に流れ込むと見込まれ、第5条第2号に適合しないため。」④許可処分〔理由欄なし〕
  • 判定の道具=2つの働き・記載自体から・要件の具体性

演習です。山小屋の許可を拒否された、Bの通知書の理由欄を4通り見ます。足りるか、足りないか、義務がないか。2つの働きと、記載自体から、で判定してください。1通目。第5条第2号に適合しないため。2通目。周辺の自然環境を著しく害するおそれがあるため。3通目。宿泊棟の排水が、沢沿いの希少植物の群生地に流れ込むと見込まれるため、第5条第2号に適合しない。4通目。Bの申請を認めて許可する処分です。理由欄は空です。最後に、別の申請者のCが、水源から60メートルの地点を予定地として申請し、1号で不許可になったとします。理由欄は空でした。違法でしょうか。

演習の答え(①条文番号だけ=足りない〔抽象的要件だから事実まで〕②条文の文言の写し=足りない③事実と条文=足りる〔記載自体から了知〕④認める処分=義務なし〔8条は拒否する処分が対象〕⑤数量的で明らかで理由欄なし=8条ただし書・求めがあれば示せば足りる) 図:演習の答え

5問とも、決め手を言えました。答えは、1枚に並べておきます。

今日の地図(保存版)

今日の地図(8条=拒否する処分・同時に・ただし書〔数量的+明らか→求めで〕・書面/14条=不利益処分・同時に・ただし書〔差し迫った必要→処分後相当の期間内〕・書面/程度=記載自体から・知不知は問わない・条文だけは当然に分かる場合だけ・条例も同じ/後からは補えない/足りないと間違いは別) 図:今日の地図

  • 8条=拒否する処分・同時に・ただし書〔数量的+明らか→求めで〕・書面
  • 14条=不利益処分・同時に・ただし書〔差し迫った必要→処分後相当の期間内〕・書面
  • 程度=記載自体から・知不知は問わない・条文だけは当然に分かる場合だけ・条例も同じ
  • 後からは補えない
  • 足りないと間違いは別

冒頭の問いに戻ります。条文の番号が書いてあるのに、理由を示したことにならないのは、なぜか。2つの働きに当てると、判断の根拠も、争う手がかりも、番号だけでは分からないからです。持ち帰るのは3点です。1つ目。8条は申請を拒否する処分、14条は不利益処分です。どちらも同時に、書面なら理由も書面です。ただし書は、8条が数量的で明らかなら求めがあれば、14条が差し迫った必要なら処分後に、と理由が違います。2つ目。どこまで書くかは、記載自体から、です。相手方の知不知は問いません。条文だけで足りるのは、条文から事実も当然に分かる場合だけです。条例の非開示決定でも同じです。後から補うことはできません。3つ目。足りないのと間違っているのは別の問題です。

参照条文

  • 行政手続法8条1項・2項
  • 行政手続法14条1項〜3項

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