情報公開制度の全体像
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第9章 情報公開・個人情報保護 #119/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
役所の文書は見せてもらえるのか
図:今日の問い
- 役所が持っている文書を見せてと言えるのか
- 理由を言わなくてよいのか
- 外国に住む人でもよいのか
- メモ書きや決裁前の文書も対象になるのか→第9章の地図=対象→請求権→不開示情報→開示のしかた→第三者→争い方、今日は最初の2つ
前回で、第8章の行政手続は終わりました。今日から第9章、情報公開です。行政が持っている情報を、誰が、どこまで見られるのか。その入口を扱います。問いを4つ置きます。1つ目。役所が持っている文書を、見せてほしいと言えるのでしょうか。2つ目。見せてほしい理由を、言わなければならないのでしょうか。3つ目。外国に住んでいる人でも、請求できるのでしょうか。4つ目。担当者のメモ書きや、決裁の前の文書も、対象になるのでしょうか。答えを先に言います。見せてほしいと請求する権利は、法律が与えています。理由は、言う必要がありません。国籍も問いません。そして、メモも、決裁の前の文書も、一定の条件を満たせば対象です。この章の流れは6つです。まず、請求できる文書や相手を決める。次に、誰が請求できるかを決める。それから、見せてはいけない情報、つまり不開示情報。そのあと、開示のしかた、第三者が関わる場合、最後に争い方です。今日は、最初の2つ、対象と請求権を押さえます。
なぜ見られるのか——請求権は法律が作る
図:なぜ見られるのか
- 国民主権→説明責任〔第1章・説明責任の原則〕→知る権利の社会権的側面は抽象的権利〔憲法〕→具体的な請求権は法律・条例が作る
- 国の情報公開法・自治体の情報公開条例
先に復習です。第1章の説明責任の原則と、憲法の知る権利を、まとめて聞きます。情報公開法は、説明責任の根拠そのものでしたか、それとも具体化でしたか。そして、知る権利の社会権的な側面、つまり情報の公開を国に求める側面は、そのまま裁判所で使える請求権でしたか?具体化です。根拠は国民主権で、情報公開法は、それを形にした法律でした。知る権利のその側面は、抽象的権利にとどまります。具体化する法律があって、初めて動きます。憲法の条文だけでは、どの情報を、誰に対して、どんな手続で請求できるのかが、決まりません。だから、抽象的権利でした。ここから、今日の出発点が決まります。憲法から直接に、役所の文書を見せろと請求できるのではありません。具体的な請求権を作るのは、法律や条例です。国の機関については情報公開法、地方公共団体については、各地の情報公開条例です。
請求の根拠になるのは、市役所なら、その市の情報公開条例です。条例があって初めて、見せてほしいという求めが、権利になります。国の情報公開法の1条を、改めて出します。第1章では、国民主権と説明責任の2点を見ました。今日は、別の点に注目します。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律1条
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第一条 この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。
個別法ですから、骨格だけ読みます。国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利を定める。それによって、情報の一層の公開を図る。目的は2つです。政府の活動を、国民に説明する責務が全うされるようにすること。そして、国民の的確な理解と批判の下にある、公正で民主的な行政を進めること。今日の力点は2つです。1つ目。開示を請求する権利、と書いてあります。役所が好意で見せるのではなく、請求する権利を定めているのです。2つ目。この目的の条文に、知る権利という言葉は、出てきません。憲法の知る権利を受けた制度ではありますが、条文には書いていない。条例には、知る権利を明記するものが多いのとは、対照的です。条文に知る権利が無くても、請求できるかどうかは、3条の請求権で決まります。答案でも、根拠は3条と書きます。
ここは区別してください。法律が定めているのは、行政文書の開示を請求する権利です。知る権利という、憲法上の大きな権利そのものを、条文で宣言しているわけではありません。
情報公開の3つの意味
図:情報公開の3つの意味の区別
- 開示請求権制度=国民の請求に基づき行政文書を開示・権利として請求・拒否されれば争える
- 情報提供制度=行政が自分の判断で知らせる・請求権なし・例=広報誌
- 情報公表制度=請求がなくても公表が義務づけられる・例=河川整備計画を定めたら公表〔河川法16条の2第6項〕
- この章の主役は開示請求権制度
情報公開という言葉は、実は3つの意味で使われます。区別しないと、話がかみ合いません。1つ目は、開示請求権制度です。国民が請求して、それに基づいて、行政文書が開示される仕組みです。請求は権利で、拒否されれば争えます。この章の主役は、これです。2つ目は、情報提供制度です。役所が、自分の判断で、住民に知らせます。広報誌に載せる、ホームページで案内する、といったものです。国民には、これを求める権利はありません。役所の好意と言ってもよい仕組みです。3つ目は、情報公表制度です。請求がなくても、法律が、公表を義務づけているものです。前回、河川法の16条の2を読みました。河川整備計画を定めたら、遅滞なく公表しなければならない、という6項です。あれが、公表の例です。
請求に基づくなら、1つ目。請求がなく、役所の任意なら、2つ目。請求がなく、義務なら、3つ目です。以後、情報公開と言えば、1つ目の開示請求権のことです。
条例が先、法律は後
図:条例と法律の順序
- 1980年代〜各地の情報公開条例が先行→今はほぼ全ての自治体にある
- 国の情報公開法=1999年成立・2001年施行
- 相違点=条例は知る権利を明記する例が多い・手数料は法は課す
- 条例は無料が多い
- 法25条=地方公共団体は必要な施策を策定・実施する努力義務
歴史を一言だけ。順番は、条例が先でした。1980年代から、各地の自治体が情報公開条例を作り、今では、ほぼすべての自治体にあります。国の法律は、遅れて、1999年に成立し、2001年に施行されました。条例と法律の違いは、2点だけ覚えてください。1つ目は、知る権利を、条例は明記する例が多く、法は書いていないこと。2つ目は、手数料です。法は手数料を課しますが、条例は、無料の自治体が多いのです。もう1つ。法の25条は、地方公共団体に、情報公開に関して必要な施策を、策定して実施するよう、努めなければならないと定めています。努力義務です。自治体の情報公開は、条例の世界、と整理しておきます。
誰に請求するのか——対象機関
図:対象機関の仕分け
- 情報公開法の対象=国の行政機関〔内閣官房・内閣府・省・委員会・庁・政令で定める施設等機関など〕+会計検査院
- 対象外=国会・裁判所〔それぞれ内部の規程で運用〕
- 地方公共団体=各条例
- 独立行政法人等=別の法律〔この章の後半〕
- 会計検査院は内閣から独立しているが対象に入る
次は、誰に請求するのかです。2条1項が、情報公開法の対象になる行政機関を並べています。板に全文を出します。個別法ですから、読み上げは骨格だけです。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条1項1号〜4号
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第二条(第1項・第一号〜第四号) 1 この法律において「行政機関」とは、次に掲げる機関をいう。 一 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府及び防災庁を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関 二 内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項及び第二項に規定する機関(これらの機関のうち第五号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。) 三 防災庁(第六号の政令で定める施設等機関を除く。) 四 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関(第七号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)
後半です。最後の号に、何が入っているかを見てください。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条1項5号〜8号
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第二条(第1項・第五号〜第八号) 五 内閣府設置法第三十九条及び第五十五条並びに宮内庁法(昭和二十二年法律第七十号)第十六条第二項の機関並びに内閣府設置法第四十条及び第五十六条(宮内庁法第十八条第一項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの 六 防災庁設置法(令和八年法律第六十一号)第十五条の施設等機関で、政令で定めるもの 七 国家行政組織法第八条の二の施設等機関及び同法第八条の三の特別の機関で、政令で定めるもの 八 会計検査院
骨格です。内閣に置かれる機関、内閣府、各省や庁といった国の行政機関が、並んでいます。そして最後に、会計検査院が入っています。号の番号と、細かい括弧は、覚えなくて構いません。注意したいのは、入るものと、入らないものです。国会と裁判所は、この法律の対象ではありません。それぞれが、内部の規程で、情報の取扱いを定めています。地方公共団体は、先ほど見たとおり、各自治体の条例です。独立行政法人などは、別の法律があります。それは、第9章の後の回で扱います。国会と裁判所が入らないのは、この法律が、題名のとおり、行政機関の保有する情報についての法律だからです。たとえば、裁判所が持っている訴訟の記録は、この法律で開示を請求する対象ではありません。ここで確認です。会計検査院は、第2章で見たとおり、内閣から独立している機関でした。独立しているのに、対象に入るのでしょうか?
入ります。2条1項の最後に、会計検査院と書いてあるからです。独立していることと、情報公開法の対象かどうかは、別の話だと思います。条文に書いてあるかどうか、で決まります。
何を請求するのか——行政文書の3要素
図:行政文書の3要素
- ①行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した
- ②文書・図画・電磁的記録
- ③その職員が組織的に用いるものとして、行政機関が保有している→3つ揃えば行政文書/除外=販売目的の刊行物・特定歴史公文書等・政令で定める施設の特別管理資料/決裁・供覧は要件ではない/作成者は問わない
山場の1つ目です。何を請求できるのか。条文は、行政文書と呼びます。2条2項を読みます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条2項
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第二条(第2項) 2 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。 一 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの 二 公文書等の管理に関する法律(平成二十一年法律第六十六号)第二条第七項に規定する特定歴史公文書等 三 政令で定める研究所その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(前号に掲げるものを除く。)
骨格です。行政文書とは、行政機関の職員が職務上作成し、または取得した文書、図画、電磁的記録で、その職員が組織的に用いるものとして、行政機関が保有しているもの。ただし、販売目的の刊行物などは除きます。要素は3つに分けられます。まず1つ目。職員が、職務上、作成したか、取得したか。2つ目。文書、図画、電磁的記録のどれかであること。電磁的記録とは、パソコンのデータや録音データのように、人の目や耳では直接分からない形式の記録です。3つ目。職員が組織的に用いるものとして、行政機関が保有していること。決裁を受けているかどうかは、要件ではありません。決裁、つまり権限のある上司の承認も、供覧、つまり関係者に回して見てもらう手続も、条文のどこにも書かれていません。もし決裁が要件なら、都合の悪い文書を、決裁に回さないという運用が生まれてしまいます。ですから、決裁の前の起案文書でも、3つの要素を満たせば、行政文書です。もう1点。作成者は、問いません。民間の会社が作った資料でも、外国政府が作った文書でも、職員が職務上取得して、組織的に用いるものとして保有していれば、行政文書になります。「誰が作ったか」ではなく、「行政機関が組織的に持っているか」で決まるのです。除外されるものは3つです。まず1つ目は、官報や白書、新聞、雑誌、書籍のような、不特定多数に販売することを目的に発行されたもの。これは、すでに誰でも買える物だからです。2つ目は、公文書管理法でいう特定歴史公文書等。歴史資料として保存される文書で、扱いは別の仕組みです。3つ目は、政令で定める研究所などで、歴史的な資料や学術研究用の資料として特別に管理されているものです。
判定演習——この文書は行政文書か
図:判定演習の4文書
- 甲省X課〔架空〕=①課の共有フォルダに置かれた打合せメモ
- ②係長が自宅用に書いた個人の備忘録
- ③決裁前の起案文書
- ④書店で売っている白書/判定基準=職務上作成・取得/文書等/組織的に用い保有/除外類型でないか
判定してみましょう。架空の甲省のX課で、4つの文書があるとします。1つ目。課の共有フォルダに置かれた、打合せのメモです。課の職員が、いつでも見られる状態にあります。2つ目。係長が、自分の勉強のために書いて、自宅用の手帳にしまっている備忘録。3つ目。まだ決裁を受けていない、起案の途中の文書。4つ目。書店で売っている、白書です。先に、3要素を言ってみてください。職務上作成か取得したこと。文書か図画か電磁的記録であること。組織的に用いるものとして、保有していることです。では、1つ目の、共有フォルダの打合せメモは?
課の職員が共有して使っていますから、組織的に用いるものとして保有しています。メモという名前でも、行政文書に当たると思います。名前は関係ありません。共有の実態で決まります。2つ目の、係長の備忘録は?係長が個人の控えとして持っていて、組織的には用いていません。3つ目の要素を満たさないので、当たりません。ただし、同じメモでも、課のみんなで回し読みして、仕事に使っているなら、結論は変わります。決め手は、組織的に用いられているかどうかです。3つ目の、決裁前の起案文書は?決裁は要件ではありませんから、3要素を満たしていれば、当たります。4つ目の、書店で売っている白書は?
省が持っていても、不特定多数に販売することを目的として発行されたものなので、除外されます。当たりません。整理します。共有のメモは当たる、個人の備忘録は当たらない、決裁前の起案は当たる、市販の白書は除外。判定は、名前でも、決裁の有無でもなく、条文の要素で行います。
請求の対象は文書であって情報ではない
図:文書であって情報ではない
- 請求の対象=記録媒体としての行政文書
- 新たに文書を作る義務は無い
- 保有していない〔廃棄済み・もとから無い〕→開示しない旨の決定〔9条2項括弧書〕
- 文書管理が杜撰だと請求権が空振り→公文書管理法〔この章の後半〕
- 沖縄密約をめぐる最高裁判決・保有の主張立証責任は請求者側
- 推認できず不開示は適法
- 立証責任は不開示決定の争い方の回・取消訴訟の立証責任の回
もう1つ、大事な区別があります。請求できるのは、文書です。情報ではありません。たとえば、去年の相談件数を教えてほしい、と請求したとします。その数字が、すでに文書として存在していれば、その文書を請求できます。しかし、役所が数えていなければ、数えて作ってもらう義務は、ありません。無い文書を、新しく作らせる権利ではないのです。2条2項は、行政機関が保有している文書、と定めていました。持っている文書を見せる仕組みであって、調べて答えを作る仕組みではないのです。保有していないときも、開示をしない旨の決定をします。9条2項の括弧書に、開示請求に係る行政文書を保有していないときを含む、と書いてあります。廃棄してしまった場合も、もとから作っていなかった場合も、同じです。ただし、文書の管理がずさんなら、請求権は空振りします。そこで、公文書管理法という法律が別にあります。中身は、あとの回で扱います。保有しているかどうかを、誰が立証するのかも、あとの回です。判例として、沖縄の密約をめぐる最高裁判決があります。沖縄返還の際に交わされたとされる密約の文書の開示が請求され、国が、保有していないとして開示しなかった事件です。最高裁は、保有していることは開示を求める側が立証する必要があるとしたうえで、この事件の密約の文書については、不開示を決めた時点でも国が持っていたとは推認できないとして、国の不開示を適法としました。
誰が請求できるのか——何人も
図:開示請求権
- 3条=何人も・個人も法人も・国籍・年齢を問わない・利害関係も不要
- B→A 開示請求〔Aは行政機関の長〕・A→B 開示
- 開示しない決定〔争える〕
- 請求の理由・目的は問われず、理由で拒めない
- 誰が請求しても同じ判断〔属人性の否定〕
- 自己情報の開示請求は別制度〔個人情報保護の回〕
山場の2つ目です。誰が請求できるのか。3条を読みます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律3条
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第三条 何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長(前条第一項第五号から第七号までの政令で定める機関にあっては、その機関ごとに政令で定める者をいう。以下同じ。)に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。
骨格です。何人も、行政機関の長に対し、その行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。相手は、行政機関の長です。ここでは、行政機関の長をAと呼び、請求する人をBと呼びます。何人も、とは、誰でも、という意味です。個人でも、法人でも構いません。日本の国籍がなくても、外国に住んでいても、請求できます。年齢も問いません。その文書に、利害関係があるかどうかも、問いません。ここで、確認です。外国に住む研究者が、日本の省に、ある統計文書の開示を請求しました。拒めるでしょうか?拒めません。何人も、ですから、国籍や住所で請求を断ることはできないと思います。では、法人が請求した場合、あるいは、目的を言わない個人が請求した場合は?
法人も、何人もに含まれます。目的を言わないことを理由には、拒めません。ここで、さらに重要な性質があります。請求の理由や目的は、問われません。理由を書かなかったから、あるいは、理由が気に入らないから、という理由で、Aは請求を拒めないのです。悪用は心配されますが、法の作りは、誰が請求しても同じ判断、です。この人は信用できるから見せる、この人は怪しいから見せない、とはしません。見せてよい情報かどうかを、文書の側で決める、という考え方です。なお、自分自身の情報を求める請求は、別の制度です。自己情報の開示請求といい、あとの回で扱います。また、権利として定められている以上、拒否されたときは、争うことができます。単なる提供とは、ここが違います。
大量請求と手数料
図:大量請求・濫用・手数料
- 理由・目的が無い大量請求でも原則拒めない
- 条例の下で、業務に著しい支障を生じさせる目的の大量請求を権利濫用とした裁判例がある
- 文書を特定するための情報提供・意思確認→手続は開示の手続の回
- 手数料〔16条〕=実費の範囲内で政令の額・できる限り利用しやすい額・経済的困難で減免
理由を問わないなら、大量に請求されたらどうなるでしょうか。大量だからというだけでは、原則として、拒めません。ただし、権利があっても、使い方によっては通らない、という権利の濫用の考え方は、ここにも及びます。第1章の権限濫用の回で見たとおりです。実際に、条例のもとで、業務に著しい支障を生じさせる目的の大量請求を、権利の濫用とした裁判例があります。国の情報公開法には、濫用を理由に断る規定はありませんが、国の法でも、同じ考え方が及ぶと考える余地があります。大量の請求は、どの文書が欲しいのかがはっきりしないまま、漠然と請求したときにも起きます。だから、請求を受ける側にも、請求する側にも、どの文書かを特定するための、情報の提供や、意思の確認が大切です。その手続は、あとの回で扱います。最後に、手数料です。16条を見ます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律16条
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第十六条(第1項〜第3項) 1 開示請求をする者又は行政文書の開示を受ける者は、政令で定めるところにより、それぞれ、実費の範囲内において政令で定める額の開示請求に係る手数料又は開示の実施に係る手数料を納めなければならない。 2 前項の手数料の額を定めるに当たっては、できる限り利用しやすい額とするよう配慮しなければならない。 3 行政機関の長は、経済的困難その他特別の理由があると認めるときは、政令で定めるところにより、第一項の手数料を減額し、又は免除することができる。
骨格です。請求する者や開示を受ける者は、実費の範囲内で、政令で定める額の手数料を納める。額は、できる限り利用しやすい額になるよう配慮する。経済的困難など特別の理由があれば、減額や免除ができる。条文の言い方としては、開示請求に係る手数料と、開示の実施に係る手数料の2種類です。請求の手数料と、コピーなどを受けるときの手数料、と考えてください。実費の範囲内、という点が大事です。利益を上げるための手数料ではありません。
守秘義務との接点
図:守秘義務との接点
- 国家公務員法100条1項=職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない・退職後も同じ
- 情報公開法に基づく開示=法の定めに従った行政機関としての開示→秘密を漏らしたことにならない
- 何を見られるかは不開示情報の枠で決まる〔不開示情報の回〕
最後に、1点だけ。公務員には、守秘義務があります。国家公務員法の100条1項です。
条文国家公務員法100条1項
国家公務員法 第百条(第1項) 1 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。
職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。退職した後も同じです。情報公開による開示は、守秘義務の違反になりません。情報公開法の定めに従って、行政機関として開示するのは、法令の定める開示だからです。もう1つ、理由があります。守秘義務が守る秘密は、形だけ秘密とされたものではなく、実際に守る値打ちのある情報です。不開示情報は、中身の面では、そうした情報とほぼ重なるように作られています。ぴったり一致するわけではありませんが、法律の定めに従って開示している限り、守秘義務の違反にはならない、と考えられています。たとえば、職員が、開示の決定に従って、文書の写しを請求者に渡すのは、この法律の手続です。同じ職員が、そうした手続を経ずに、職場で知った秘密を友人に話せば、守秘義務の問題になります。
演習——4問で確かめる
図:演習の問い
- 問1=省が持つ共有の打合せメモ〔決裁前〕は請求できるか
- 問2=国会が持つ文書を情報公開法で請求できるか
- 問3=去年の相談件数がまとまった文書が無い場合、作るよう求められるか
- 問4=目的を言わない外国在住の個人は請求できるか
演習です。問1。課の職員が共有している、決裁の前の打合せメモは、請求できますか。請求できます。共有して組織的に用いていて、決裁は要件ではないからです。問2。国会が持っている文書を、情報公開法で請求できますか。できません。国会は、2条1項の行政機関に入っていないからです。問3。必要な数字がまとまった文書が、そもそも無いとき、作るよう求められますか。求められません。文書が無ければ、開示をしない旨の決定になります。問4。目的を言わない外国在住の個人は、請求できますか。できます。何人もですし、理由や目的は問われません。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 問い=役所の文書を見せてと言えるか・理由は要るか・外国人はどうか・メモは対象か
- 憲法の知る権利は抽象的権利→請求権は法律・条例が作る
- 情報公開の3つの意味〔主役は開示請求権制度〕
- 対象機関=国の行政機関+会計検査院〔国会・裁判所は対象外〕
- 行政文書の3要素=職務上作成・取得
- 文書等
- 組織的に用い保有〔決裁不要〕
- 請求は文書であって情報ではない
- 何人も・理由不問・手数料は実費の範囲
- 次回=不開示情報①
最初の4つの問いに戻ります。見せてと言えるか。理由は要るか。外国の人でもよいか。メモは対象か。答えです。請求権は、法律が与えています。理由は要りません。外国の人でも請求できます。メモも、決裁の前の文書も、3要素を満たせば、行政文書です。持ち帰るのは、4点です。1つ目。情報公開には3つの意味があり、この章の主役は、請求に基づく開示請求権です。2つ目。対象は、国の行政機関と会計検査院です。国会と裁判所は、対象外です。3つ目。行政文書は、職務上作成・取得、文書・図画・電磁的記録、組織的に用いて保有、の3要素です。決裁は要りません。4つ目。請求できるのは、何人もで、理由や目的は問われません。ただし、請求できるのは文書であり、無ければ、開示しない旨の決定になります。何でも見られるわけではありません。まず、個人に関する情報と、法人の情報から見ていきます。
参照条文
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律1条
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条1項1号〜4号
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条1項5号〜8号
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条2項
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律3条
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律16条
- 国家公務員法100条1項