不開示情報①(個人に関する情報・法人情報)
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第9章 情報公開・個人情報保護 #120/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
出張記録を請求したら、どこまで見えるのか
図:今日の問い
- 役所の出張記録を請求したら
- 職員の氏名は見られるか
- 一緒に行った民間人の氏名は
- 取引先の会社の数字は→今日は5条の1号・1号の2・2号
前回は、行政文書の開示請求の仕組みまで来ました。今日は、その続きです。請求したら、文書の中身は全部見えるのか。答えは、見えません。見せてはいけない情報が、文書の中に混ざっているからです。問いを3つ置きます。1つ目。役所の出張の記録を請求しました。出張した職員の氏名は、見られるでしょうか。2つ目。その出張に同行した、民間の人の氏名は、どうでしょうか。3つ目。出張先の会社の、取引の数字は、見られるでしょうか。今日の道具を先に渡します。不開示情報の判断は、2段です。1段目は、この情報が、どの号の網にかかるか。2段目は、網にかかっても、例外で戻らないか。網をかけて、例外で戻す。この順番を、最後まで崩さないでください。そうすると、今の3問は、どれも根拠をつけて答えられます。今日は、1号の個人に関する情報、1号の2、2号の法人等に関する情報までです。
5条の構造——原則開示、例外が不開示
図:5条の号の地図
- 柱書=開示請求があれば原則開示
- 不開示情報が記録されている場合を除く
- 1号=個人に関する情報
- 1号の2=行政機関等匿名加工情報等
- 2号=法人等に関する情報
- 今日はここまで
- 3号=国の安全等
- 4号=公共の安全等
- 5号=審議・検討・協議
- 6号=事務・事業=次回
- 2段=①号の網にかかるか→②ただし書で戻るか
先に、前回の復習です。開示請求は、理由を言わなくてもできましたか?そして、請求した人によって、判断が変わることはありましたか?理由は言わなくてもできます。誰が請求しても、同じ判断になります。その同じ判断の中身を決めるのが、5条です。柱書を読みます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条柱書
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(柱書) 行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
力点は、しなければならない、です。開示するかどうかを、役所が選ぶのではありません。原則は開示で、不開示は例外です。不開示にしたいなら、いずれかの号の網にかかることを、示さなければなりません。号は、1号、1号の2、そして2号から6号まであります。個人に関する1号、匿名加工情報等の1号の2、法人等に関する2号、国の安全等の3号、公共の安全等の4号、審議や検討の5号、事務や事業の6号です。今日は前半の、1号、1号の2、2号です。号の網にかかったら、そのまま不開示ですか。違います。多くの号には、ただし書があります。網にかかった情報のうち、一定のものを戻すための例外です。ですから、必ず2段で見ます。網にかかるか。戻らないか。
1号——個人識別型という網の張り方
図:個人識別型とプライバシー保護型の比較
- 個人識別型=特定の個人を識別できる情報を原則不開示・中身がプライバシーかは問わない・基準は明確で運用しやすい・不開示の範囲が広がりやすい→例外の定め方が要
- プライバシー保護型=公にされると私生活が害される情報に限って不開示・範囲を絞れる・何が侵害かの基準がはっきりしない
- 5条1号は個人識別型
山場の1つ目です。1号を読みます。長い条文なので、前半の網の部分と、後半のただし書に分けて出します。まず前半です。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1号本文
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(第一号・本文) 一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画若しくは電磁的記録に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項をいう。次条第二項において同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
この網を、個人識別型と呼びます。大事なのは、条文のどこにも、プライバシーという言葉が無いことです。氏名と肩書だけの情報を考えてください。やましいところは何もありません。それでも、特定の個人が分かる以上、1号の網にかかります。個人情報というのは、プライバシーに当たる情報のことではないのですか。そこが、一番多い誤解です。比較で整理します。個人を守る型は、2つあります。1つ目は、今見た個人識別型です。誰のことか分かる情報を、まず不開示の候補にします。2つ目は、プライバシー保護型です。公にされると私生活が害される、という情報に限って、不開示にします。例で比べます。ある職員の氏名と所属だけの名簿。識別型なら、氏名で個人が分かるので、網にかかります。保護型なら、氏名と所属だけではプライバシーの侵害とは言いにくいので、網にかかりません。識別型の長所は、基準が明確なことです。氏名のように、誰のことか分かるかどうかを見れば足りるので、現場で迷いません。短所は、網が広くなりやすいことです。恥ずかしくも何ともない情報まで、いったん網にかかります。保護型は、範囲を絞れますが、何がプライバシーの侵害かの線が、はっきりしません。5条1号は、識別型を選びました。そのかわり、広くなった網から、戻す例外を丁寧に作っています。それが、後半のただし書です。網を広く張り、例外で戻す。この設計を、頭に置いておいてください。
もう1点。括弧書きです。事業を営む個人の、その事業に関する情報は、1号から除かれます。たとえば、1人でパン屋を営む人の、仕入れ先ごとの取引価格。これは1号ではなく、あとで見る2号で判断します。同じ人の、自宅の家族構成は、事業に関する情報ではありません。こちらは1号です。事業の顔と、私生活の顔で、置き場が分かれるのです。
網の広がり——照合と、識別できなくても害する情報
図:1号の網の2種類
- ①識別型の網=氏名・生年月日などの記述で特定の個人を識別できる/単体で識別できなくても他の情報と照合すれば識別できるものを含む=モザイク/「他の情報」=一般人が通常入手できる情報(近親者・地域住民なら知っている情報も含みうる/特別の調査が要る情報は通常含まない)
- ②識別はできないが、公にするとなお個人の権利利益を害するおそれがあるもの=後段の網
識別型の網は、さらに2方向に広がっています。1つ目は、照合です。条文の括弧に、他の情報と照合することにより、特定の個人を識別できることとなるものを含む、とあります。たとえば、ある文書に、氏名は載っていません。ただ、年齢と、住んでいる町と、勤め先の業種が載っています。この3つを、一般に出回っている情報と突き合わせると、あの人だと分かってしまう。そういうときは、この情報も、網にかかります。モザイクのように、小さな断片を組み合わせると、絵が現れるからです。条文に定義はありません。一般の人が普通に手に入れられる情報、たとえば図書館で調べられる情報が中心です。ただ、誰でも請求できる制度なので、家族や近所の人なら知っているような情報も、含めて考えるとされています。他方、特別な調査をしないと手に入らない情報までは、普通は含めません。そこまで含めると、ほとんど全ての情報が、網にかかってしまうからです。2つ目は、条文の後段です。特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。氏名が無くて、誰のことか分からなくても、公にすることで、個人の権利利益を害するおそれがあるなら、網にかかります。たとえば、名前を消した作文や、名前を消したカルテです。誰のものか分からなくても、中身をそのまま公にすれば、書いた本人の権利利益を害するおそれがあります。整理します。1号の網は、2種類です。識別型の網と、識別はできないが害する場合の網。前者が中心で、後者が補いです。
ただし書イ・ロ・ハ——網から戻す3つの例外
図:ただし書イロハ
- 網から戻す
- イ=法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
- ロ=人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
- ハ=当該個人が公務員等で、情報がその職務の遂行に係る情報であるとき、そのうち公務員等の「職」及び「職務遂行の内容」に係る部分
後半です。網から戻す、3つの例外を読みます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1号ただし書イ〜ハ
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(第一号・ただし書) イ 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報 ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報 ハ 当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人の役員及び職員を除く。)、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成十三年法律第百四十号。以下「独立行政法人等情報公開法」という。)第二条第一項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)の役員及び職員、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第二条に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員及び職員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分
3つを、戻す理由で覚えます。イは、すでに世の中に出ている、または出ることが予定されている情報だからです。隠す意味がありません。ロは、命や健康を守るために必要なら、個人の利益よりも優先するからです。ハは、公務員の仕事は、国民への説明責任の対象だからです。慣行で公にされている、というのは、法令の規定が無くても、実際に長年、公にされている扱いがある場合です。たとえば、毎年、職員録に載せて売り出している、といった扱いです。さらに、公にされているだけでなく、これから公にされることが予定されている、というだけでも足ります。ハで、注意してほしいことがあります。戻るのは、職と、職務遂行の内容に係る部分だけです。どの課の、何という役職の人が、どんな職務をしたのか。そこは戻ります。次の節で、その外側に何があるのかを見ます。
公務員の氏名——ハではなく、イで決まる
図:公務員の氏名の読み分け
- ハで戻る=職〔役職・課名〕と職務遂行の内容〔用務・行き先・結果〕
- 氏名はハの文言に出てこない
- 氏名が戻るのはイ=慣行として公にされ又は公にすることが予定されているときだけ
- 「公務員だから氏名は見られる」ではなく「その氏名が慣行等で公にされているか」で決まる
山場の2つ目です。公務員の氏名は、見られるのでしょうか。ハをもう一度見てください。戻る範囲は、公務員等の職と、職務遂行の内容に係る部分です。氏名という言葉は、出てきません。つまり、公務員の氏名は、ハでは戻らないのです。職務の内容は戻るのに、氏名が戻らない理由は、氏名が持つ性質にあります。職や職務の内容は、国民が行政を監視するのに必要な情報です。一方、氏名は、その人個人を特定します。公務員も、1人の個人です。氏名まで当然に出すと、個人としての生活に影響が及びかねません。ですから、氏名は、ハとは別の理由で戻るかどうかを考えます。それがイです。その氏名が、慣行として公にされ、または公にすることが予定されている情報に当たるときだけ、戻ります。結論を、1行にします。公務員だから氏名が見られるのではありません。その氏名が、公にされている扱いだから、見られるのです。同じ公務員でも、役職によって結論が分かれうるのは、このためです。ここで、1問です。ある職員の出張記録があります。この職員は課長です。課長の氏名と、課長が行った出張の用務。ハで戻るのは、どちらでしょうか。そして、氏名は、どの条件が満たされたときに戻るでしょうか。
用務のほうが、ハで戻ります。職務遂行の内容に当たるからです。氏名は、ハでは戻りません。イの、慣行として公にされているという条件に当たるときだけ戻ります。では、出張記録の全体で、通しで判定します。
当てはめ——出張記録を項目ごとに判定する
図:出張記録の当てはめ
- 甲省〔架空〕。B=請求者がA=甲省の大臣〔行政機関の長〕に開示請求。文書に載っているC=①課長〔氏名は職員録で公表〕②係員〔氏名の公表慣行なし〕③出張の用務・行き先・結果④同行した民間の専門家⑤同行者の井戸水の検査結果〔別設例〕⑥宿泊した旅館〔株式会社〕
- 各項目=網→ただし書→開示or不開示
設例です。架空の甲省に、開示請求がありました。請求者をB、甲省の大臣、つまり行政機関の長をAと呼びます。請求された文書は、X課の出張記録です。文書に載っている人や会社を、Cと呼びます。設定を置きます。この出張には、課長と係員が行きました。さらに、民間企業に勤める専門家が1人、同行しました。宿泊は、株式会社の旅館です。甲省は、課長級以上の職員の氏名を、毎年、職員録に載せて公表しています。係員の氏名は、公表していません。項目を1つずつ、網、戻り、結論の順に判定します。1つ目。課長の氏名です。氏名で個人が識別できるので、1号の網にかかります。ハでは、氏名は戻りません。ところが、課長級の氏名は、職員録で公表されている。これは、慣行として公にされている情報なので、イで戻ります。結論は、開示です。2つ目。係員の氏名です。網にかかります。ハでは戻らず、公表の慣行も無いので、イでも戻りません。結論は、不開示です。ただし、この係員の職名と、担当した用務は、ハで戻ります。氏名の部分だけを隠して、残りは開示します。1つの文書の一部だけを隠して出す仕組みがあるからです。仕組みの中身は、別の回で扱います。これは、架空の甲省の話です。実際の国の役所では、平成17年の申し合わせで、仕事に関する職員の氏名は、支障がない限り公にする扱いになっています。そうした氏名は、イで戻ります。3つ目。出張の用務、行き先、結果です。これは、職務遂行の内容そのものです。ハで戻り、開示です。
専門家は、公務員ではありません。ハは、公務員等の情報にしか使えません。氏名や自宅の住所は、網にかかります。イの、公にされている扱いも無く、ロの、命や財産を守るために必要という事情も無いので、不開示です。仕事で同行したという事実だけでは、戻りません。5つ目は、別の設例です。同行した専門家の、自宅近くの井戸水から、有害物質が検出された、という記録が、同じ文書にあったとします。専門家の氏名と結びついていれば、識別型の網にかかります。しかし、近所の住民が飲んでいる水の安全に関わる情報で、公にしなければ健康が守れないという状況なら、ロに当たります。ロの要件は、人の生命、健康、生活、財産を保護するため、公にすることが必要と認められること。これに当たれば、網から戻ります。6つ目。宿泊した旅館、つまり株式会社の、個別の宿泊料の取り決めです。これは個人ではなく、法人の情報です。1号ではなく、このあと見る2号で判断します。整理します。課長の氏名は、イで開示。係員の氏名は、不開示。用務と職名は、ハで開示。民間人は、不開示。ただし、命や健康に関わるときは、ロで開示。このように、1つの文書の中でも、項目ごとに結論が分かれます。
1号の2——匿名加工情報等という別の号
図:1号の2の位置
- 5条1号の2=行政機関等匿名加工情報〔行政機関等匿名加工情報ファイルを構成するもの〕と、その作成に用いた保有個人情報から削除した記述等・個人識別符号
- 7条の裁量的開示〔公益上特に必要があると認めるとき〕の対象から除外される
- 制度の中身は別回
1号の次は、1号の2です。条文を出します。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条(抜粋)
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(抜粋) 一の二 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)第六十条第三項に規定する行政機関等匿名加工情報(同条第四項に規定する行政機関等匿名加工情報ファイルを構成するものに限る。以下この号において「行政機関等匿名加工情報」という。)又は行政機関等匿名加工情報の作成に用いた同条第一項に規定する保有個人情報から削除した同法第二条第一項第一号に規定する記述等若しくは同条第二項に規定する個人識別符号
骨格です。行政機関等匿名加工情報、つまり、行政機関が持つ個人の情報を、誰のことか分からないように加工し、元に戻せないようにしたものと、その作成のために削った記述等や個人識別符号です。個人識別符号は、指紋のデータや旅券の番号のように、それだけで本人が分かる符号です。何のために作るのか。役所が持つ大量の個人の情報を、民間の事業者が事業に生かせるようにするためです。個人情報保護法に、事業者から提案を受け、審査をして、契約を結んだ相手にだけ渡す仕組みが置かれています。誰のことか分からないように加工してあるので、1号の、特定の個人を識別できる、という網には、かかるとは限りません。そこで、1号とは別の号に並べて、不開示情報にしています。ここで押さえるのは、7条との関係です。7条を出します。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律7条
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第七条 行政機関の長は、開示請求に係る行政文書に不開示情報(第五条第一号の二に掲げる情報を除く。)が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該行政文書を開示することができる。
1号の2の情報は、括弧書きで、この対象から外されています。つまり、公益上の理由があっても、裁量で開示することはできません。なぜか。審査と契約を通した相手にだけ渡すはずの情報が、誰にでも出す情報公開の道から出てしまえば、その仕組みが素通りされるからです。削った記述等は、加工前の本人にたどり着く手がかりそのものでもあります。7条は、あとの回で詳しく扱います。匿名加工情報の制度そのものも、別の回です。
2号——法人等に関する情報
図:2号の構造
- 対象=法人等〔国・独立行政法人等・地方公共団体・地方独立行政法人を除く〕に関する情報
- 事業を営む個人の当該事業に関する情報
- イ=公にすると権利・競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
- ロ=行政機関の要請を受けて公にしない条件で任意に提供され、条件が合理的なもの
- ただし書=人の生命、健康、生活又は財産を保護するため公にすることが必要な情報は除く=開示
次は2号です。法人等の情報を守る号です。条文を出します。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(第二号) 二 法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。 イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの ロ 行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの
法人等の情報か、事業を営む個人の事業の情報で、イかロのどちらかに当たれば、網にかかります。ただし書で、命や健康などを守るために必要な情報は、戻ります。1号と、網の張り方が違うことに注目してください。1号は、識別できれば、中身を問わず網にかけました。2号は、最初から、害される場合だけに絞っています。荷物の預かり方にたとえると、1号は、名札のついた荷物を、中身を見ずにいったん全部預かって、あとで返す。2号は、傷むものだけを、最初から冷蔵庫に入れる。そういう違いです。イから見ます。公にすることで、法人の競争上の地位などが害されるおそれがあるもの。たとえば、ある会社の取引先別の単価表。公にすると、競争相手に、価格の手の内を見られます。これは、イに当たりえます。
法人の名前や所在地が文書に載っている、というだけで、当然に2号イに当たるわけではありません。法人の名前が出ることで、どんな正当な利益が、どう害されるのか。そのおそれがあることが要ります。名前や所在地が、すでに公にされていれば、害されるおそれは小さいはずです。法人の情報だから不開示、という発想は、取れません。ロに移ります。要素は3つです。1つ目。行政機関の要請を受けて。2つ目。公にしないという条件で、任意に提供されたこと。3つ目。その条件を付けることが、情報の性質や当時の状況などに照らして、合理的であること。設例で、境界を引きます。甲省が、ある企業に、製造工程の資料の提出を要請しました。企業は、外には出さないでほしい、と条件を付けて、任意に提出しました。製造工程は、通例として、社外に出さないものです。条件を付けるのが合理的なので、ロに当たりえます。一方で、企業が、自分の判断で出した資料はどうでしょうか。行政機関の要請を受けて、という要素が欠けるので、ロではありません。また、公にしないでください、と言われただけで、不開示になるわけでもありません。条件が合理的でなければ、ロに当たりません。行政に提供する側の信頼と、国民が開示を求める利益。その釣り合いを取るために、合理性という要素が置かれています。ただし書です。人の生命、健康、生活、財産を保護するため、公にすることが必要と認められる情報は、除かれます。たとえば、許可を受けた工場の排水に含まれる有害物質の測定値。企業にとっては、公にしたくないかもしれません。しかし、周辺の住民の健康を守るために必要なら、開示されます。
もう1つ。事業を営む個人の、その事業に関する情報は、2号で判断します。1号の括弧書きで外され、2号の柱書きで取り込まれる。表と裏の関係です。さっきのパン屋の取引価格は、イに当たるかどうかで、判断します。
1号と2号の比べ方
図:1号と2号の対比
- 網のかけ方=1号は識別できれば網〔識別型〕・2号は害のおそれ
- 条件の合理性で網〔害される場合だけ〕
- 戻し方=1号はただし書イロハの3つ・2号はただし書1つ〔生命等の保護〕
- 個人事業者の事業情報=1号から除外→2号で判断
- 私生活の情報は1号
ここで、2つの号を、横に並べます。網のかけ方。1号は、識別できるかどうか。2号は、害されるおそれがあるか、または条件が合理的か。戻し方。1号は、ただし書が3つで、イ、ロ、ハ。2号は、ただし書が1つで、生命等を守るために必要なとき。個人事業者は、事業に関する情報なら2号、私生活の情報なら1号です。判断の型は、同じ2段です。1号は、広い網を張って、丁寧に戻す。2号は、最初から絞った網を張って、戻りは1つだけ。この違いが、条文の構造になっています。
2号イの該当性は、裁判所が客観的に判断する
図:2号イの客観判断
- 条文=「害するおそれ」
- 行政庁の裁量を認める書き方ではない
- 判断枠組み=要件に該当する事情の有無によって客観的に判断・処分行政庁の裁量判断に委ねられない
- 事案=事業者が経済産業局長に提出した定期報告書の工場ごとの燃料・電気使用量等の数値情報→局長は2号イで不開示
- 結論=競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性が客観的に認められる→2号イに当たる=不開示が維持
- 客観的に判断=開示寄りの意味ではない
最後に、同じ日に出た最高裁の判決を、2つ見ます。同じ種類の報告書の数値をめぐって、別々の地域の経済産業局長を相手に争われた、別々の事件です。1つ目の事件で判断の仕方を、2つ目の事件で実際の認定を見ます。2号イは、おそれがあるもの、と書いてあります。おそれがあるかどうかは、誰が判断するのでしょうか。事案の形は、2つとも同じです。当時の省エネルギー関係の法律に基づき、製造業の事業者が、地域の経済産業局長に、定期報告書を出していました。その中の、工場ごとの燃料や電気の使用量などの数値を、環境団体が、開示請求しました。局長は、2号イに当たるとして、不開示にしました。1つ目の事件で争いになったのは、判断の仕方です。原審は、行政機関の長の判断が、社会通念上妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱したり濫用したりしたと認められない限り、違法ではない、という見方で判断しました。第5章で見た、行政庁の判断を尊重して、枠を踏み外したときだけ違法とする、逸脱・濫用の審査です。最高裁は、この判断の仕方を是認しませんでした。ただし、不開示という結論は、そのまま維持しました。
判例最判平23・10・14(平成20年(行ヒ)第11号)
2号イの該当性は客観的に判断され、処分行政庁の裁量判断に委ねられない ……本件数値情報が情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるか否かは同号イの定める要件に該当する事情の有無によって客観的に判断されるべきものであって,処分行政庁の裁量判断に委ねられるべきものではない……
最高裁は、2号イに当たるかどうかを、裁判所が要件を自分で見て判断する、と言ったのです。第5章の言葉で言えば、要件裁量は無く、裁判所が判断代置をする、ということです。第5章では、不確定概念があっても裁判所が意味を決める例として、不開示情報を挙げました。2号イは、その1つです。なぜ裁量に委ねないのか。2号イの条文は、害するおそれがあるもの、と情報の性質を書いているだけで、行政機関の長がそう認めるかどうか、という書き方をしていないからです。役所の言い分を、そのまま通す枠組みではない、ということです。裁判所は、要件に当たる事情があるかを、自分で認定します。2つ目の事件では、最高裁が、原審の判断を覆して、自分で次のように判断しました。
判例最判平23・10・14(平成20年(行ヒ)第67号) 集民238号57頁
競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性が客観的に認められる ……本件数値情報が開示された場合には,これが開示されない場合と比べて,これらの者は事業上の競争や価格交渉等においてより有利な地位に立つことができる反面,本件各事業者はより不利な条件の下での事業上の競争や価格交渉等を強いられ,このような不利な状況に置かれることによって本件各事業者の競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性が客観的に認められるものというべきである。 ……以上によれば,本件数値情報は,これが公にされることにより本件各事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして,情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるというべきである。
図:2つ目の事件の当てはめ
- 数値情報が開示されると競争相手・取引先は事業上の競争や価格交渉で有利な地位に立つ→事業者は不利な条件を強いられる→競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性が客観的に認められる→2号イに当たる=不開示
- 注意=客観的に判断は開示寄りの意味ではない〔2つの事件とも不開示〕・抽象的な心配では足りず競争上の不利益を具体的に認定する
骨格です。数値が開示されると、競争相手や取引先は、事業上の競争や価格交渉で有利な地位に立てます。反対に、事業者は不利な条件を強いられ、競争上の地位などが害される蓋然性、つまり、そうなる見込みが、客観的に認められる。だから2号イに当たる、と判断しました。注意が2つあります。1つ目。客観的に判断する、というのは、開示のほうに傾く、という意味ではありません。2つの事件とも、結論は不開示、でした。裁判所が自分で見た結果、害される蓋然性が認められたのです。2つ目。抽象的な心配では足りません。事案の事情から、競争上どんな不利益が生じるのかを、具体的に認定していく作業です。
図:2号イと3号・4号の書き分け
- 2号イ=公にすることにより害するおそれがあるもの=情報の性質を書く・裁判所が要件に当たる事情の有無を客観的に判断・要件裁量は無く判断代置
- 3号・4号=行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある・長の判断にある程度の幅=要件裁量
- 違いは次回
3号と4号は、条文の書き方が違います。行政機関の長が、認めることにつき、相当の理由がある、という形です。ここでは、行政機関の長の判断に、ある程度の幅が認められます。第5章の言葉で言えば、要件裁量です。2号イとは、判断のしかたが違う。論文でも論点になりうるところです。2号イでは、裁量を認めるのではなく、要件の事実を客観的に判断する、という筋道を、頭に置いておいてください。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 5条=原則開示・例外不開示の2段〔網にかかるか→ただし書で戻るか〕
- 1号=個人識別型・ただし書イ〔公にされている〕ロ〔生命等の保護〕ハ〔公務員等の職・職務遂行の内容〕
- 公務員の氏名はハではなくイ
- 1号の2=位置と7条の対象外
- 2号=イ〔おそれ〕ロ〔要請+条件+合理的〕+ただし書・個人事業者は2号
- 2号イ=客観的に判断
- 次回=3号〜6号
最初の3つの問いに戻ります。職員の氏名は見られるか。民間人の氏名は見られるか。会社の数字は見られるか。答えです。職員の氏名は、公務員だから見られるのではありません。氏名が慣行として公にされているとき、イで戻ります。民間人の氏名は、ハが使えず、イもロも当たらなければ、不開示です。会社の数字は、2号イで、競争上の地位などを害するおそれが、客観的に認められるかで決まります。持ち帰るのは、4点です。1つ目。5条は、原則開示、例外が不開示です。号の網にかかるかを見て、次に、ただし書で戻るかを見る、2段です。2つ目。1号は個人識別型で、プライバシーかどうかを問いません。戻すのは、イ、ロ、ハ。公務員の氏名は、ハではなく、イです。3つ目。1号の2は、匿名加工情報等で、7条の裁量的開示から外れます。4つ目。2号は、イの、害するおそれと、ロの、要請を受けた任意提供で条件が合理的、にただし書を加えたものです。個人事業者の事業情報も2号です。イの該当性は、裁判所が客観的に判断します。国の安全、公共の安全、審議や検討、事務や事業。そして、不開示情報の判断に、行政機関の長の裁量があるのかを見ます。
参照条文
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条柱書
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1号本文
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1号ただし書イ〜ハ
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条(抜粋)
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律7条
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号