個人情報保護制度②(本人の開示・訂正・利用停止の請求)
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第9章 情報公開・個人情報保護 #127/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
本人は、役所に何を求められるのか
図:今日の問い
- 前回=役所が負う義務の側〔取る・使う・渡す・守る〕
- 今日=本人が求める側
- 問い=役所が持つ「自分の情報」を本人は何を・どの順番で求められるか
- 道筋=①情報公開との違い→②3つの請求と順番→③開示請求→④誰が「本人」か→⑤訂正→⑥利用停止→⑦争い方→⑧条例の余地
前回は、役所が負う義務の側を見ました。取る、使う、渡す、守る、です。今日は、反対側です。役所が持っている自分の情報について、本人は、何を、どの順番で求められるのか。これが今日の問いです。本人が求められることは、1つではありません。見る。誤りを直させる。使うのをやめさせる。この3つは別々の請求で、順番も決まっています。そのうえで、前回、亡くなった人の情報はどうなるのか、と聞かれて、今日に回した問いがあります。亡くなった人についての記録を、誰が請求できるのか。もう1つ、役所が請求に応じなかったら、どう争うのか。今日は、この2つに答えます。
図:設例の登場人物
- A=乙市の長〔行政機関等〕
- B=本人〔乙市の住民〕
- C=民間の学習塾
- D=Bの亡くなった母
- 乙市が保有するBの児童手当の認定記録=申請書の写し+認定のための確認メモ
設例を置きます。前回と同じ配役です。乙市の長をA、乙市に住む本人をBとします。Bは児童手当の申請書を出しました。乙市は、申請書の写しと、認定のための確認メモをまとめた、認定記録を作って保有しています。Bの亡くなった母がD、前回、名簿を求めてきた民間の学習塾がCです。答えを先に言います。本人は、まず開示を請求して、何を持たれているかを知ります。誤りがあれば訂正を、違法な扱いがあれば利用停止を、開示を受けた日から90日以内に請求します。決定に不服なら、審査請求です。そして、請求できる、本人、とは誰かという線引きが、今日の一番の山場です。
「何人も」と書いてあるのに、請求できるのは本人
図:2つの請求の向き
- 情報公開法3条=何人も・どの行政文書でも・個人に関する情報は不開示の側
- 個人情報保護法76条1項=何人も・自己を本人とする保有個人情報だけ・本人の情報は本人に出る、他人の情報は不開示
- 78条1号=請求者の生命・健康・生活・財産を害するおそれがある情報も不開示
まず、情報公開との違いです。開示請求の根拠は、76条です。
条文個人情報の保護に関する法律76条
個人情報の保護に関する法律 第七十六条 1 何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長等に対し、当該行政機関の長等の属する行政機関等の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。 2 未成年者若しくは成年被後見人の法定代理人又は本人の委任による代理人(以下この節において「代理人」と総称する。)は、本人に代わって前項の規定による開示の請求(以下この節及び第百二十七条において「開示請求」という。)をすることができる。
読み方です。1項は、何人も、と始まります。ただし、請求できるのは、自己を本人とする保有個人情報の開示です。何人も、と書いてあっても、対象が自分の情報に絞られているので、実際に請求できるのは本人です。2項は、未成年者や成年被後見人の法定代理人と、本人から委任を受けた代理人が、本人に代わって請求できると定めます。書き方は同じですが、中身が違います。情報公開法3条の、何人も、は、請求者が誰でもよいという意味で、請求できる文書も、どの行政文書でもかまいません。個人情報保護法の、何人も、は、請求者は誰でもよい形に見えて、対象に、自己を本人とする、という絞りがかかっています。訂正の90条1項も、利用停止の98条1項も、同じ形です。もう1つ違いがあります。不開示情報の作りです。情報公開法5条1号は、個人に関する情報を不開示にしていました。しかし、本人が自分の情報を請求したのに、本人に見せない理由はありません。そこで、78条は、こう書きます。
条文個人情報の保護に関する法律78条1項
個人情報の保護に関する法律 第七十八条(第1項・柱書・第一号) 1 行政機関の長等は、開示請求があったときは、開示請求に係る保有個人情報に次の各号に掲げる情報(以下この節において「不開示情報」という。)のいずれかが含まれている場合を除き、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示しなければならない。 一 開示請求者(第七十六条第二項の規定により代理人が本人に代わって開示請求をする場合にあっては、当該本人をいう。次号及び第三号、次条第二項並びに第八十六条第一項において同じ。)の生命、健康、生活又は財産を害するおそれがある情報
続いて、2号です。
条文個人情報の保護に関する法律78条1項2号
個人情報の保護に関する法律 第七十八条(第1項第二号・続き) 二 開示請求者以外の個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)若しくは個人識別符号が含まれるもの又は開示請求者以外の特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
2号のただし書です。
条文個人情報の保護に関する法律78条1項2号ただし書
個人情報の保護に関する法律 第七十八条(第1項第二号ただし書・続き) イ 法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている情報 ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、開示することが必要であると認められる情報 ハ 当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法第二条第四項に規定する行政執行法人の職員を除く。)、独立行政法人等の職員、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第二条に規定する地方公務員及び地方独立行政法人の職員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分
読み方です。2号は、開示請求者以外の個人に関する情報、と書きます。情報公開法の、個人に関する情報、と違い、請求者本人の情報は、この号の網にかかりません。つまり、本人の情報は本人に出し、他人の情報は不開示にする作りです。ただし書のイロハは、情報公開法5条1号のただし書と同じ型で、不開示の網から戻す場合です。1号は、この法律に特有の号です。開示請求者の生命、健康、生活又は財産を害するおそれがある情報です。本人に知らせること自体が、本人の健康を害するような場合です。本人だからといって、全部が出るわけではありません。1号の、本人を害するおそれと、2号の、他人の情報に加えて、3号以下の、法人等の情報や、事務の支障のおそれなどが、不開示の網になります。覚え方は、情報公開は請求者を問わず、個人情報の開示請求は、請求者本人を基準に見る、です。
開示から訂正・利用停止へ——3つの請求と順番
図:3つの請求の流れ
- 開示請求〔76条〕→開示決定→開示を受けた日から90日以内→訂正請求〔90条〕
- 利用停止請求〔98条〕→決定→不服=審査請求
- 訂正・利用停止は開示を受けた保有個人情報についてだけ
次に、3つの請求の全体像です。流れを図で出しました。開示請求から始まります。開示を受けたあと、内容が事実でないと思えば訂正請求、扱いが違法だと思えば利用停止請求です。開示を受ける前に、いきなり訂正を求めることは、条文上できません。訂正を請求できるのは、開示を受けた保有個人情報だけです。90条を読みます。
条文個人情報の保護に関する法律90条
個人情報の保護に関する法律 第九十条 1 何人も、自己を本人とする保有個人情報(次に掲げるものに限る。第九十八条第一項において同じ。)の内容が事実でないと思料するときは、この法律の定めるところにより、当該保有個人情報を保有する行政機関の長等に対し、当該保有個人情報の訂正(追加又は削除を含む。以下この節において同じ。)を請求することができる。ただし、当該保有個人情報の訂正に関して他の法令の規定により特別の手続が定められているときは、この限りでない。 一 開示決定に基づき開示を受けた保有個人情報 二 開示決定に係る保有個人情報であって、第八十八条第一項の他の法令の規定により開示を受けたもの 2 代理人は、本人に代わって前項の規定による訂正の請求(以下この節及び第百二十七条において「訂正請求」という。)をすることができる。 3 訂正請求は、保有個人情報の開示を受けた日から九十日以内にしなければならない。
読み方です。1項は、自己を本人とする保有個人情報の内容が事実でないと思うときに、訂正を請求できる、という定めです。その保有個人情報は、括弧書きで、次に掲げるものに限る、と絞られています。1号は、開示決定に基づいて開示を受けたもの。2号は、他の法令の規定によって開示を受けたものです。ただし書は、訂正について、他の法令に特別の手続があるときは、この請求はできないと譲っています。3項は期限で、開示を受けた日から90日以内です。利用停止も同じ形です。98条1項の、自己を本人とする保有個人情報、は、この90条1項の括弧書きを受けています。だから、開示を受けたものに限られます。期限も、98条3項で、開示を受けた日から90日以内です。趣旨は、こう説明されます。何を持たれているか分からなければ、どこが誤りか、どこが違法か、見当がつきません。だから、まず開示で中身を知り、それを材料に、訂正や利用停止を求める。この順番です。
開示請求には、期限がありません。90日の期限は、訂正と利用停止だけです。
図:3つの請求の一覧
- 開示=76条以下・対象は自己を本人とする保有個人情報・期限なし・不開示情報を除き開示
- 訂正=90条以下・開示を受けた保有個人情報・内容が事実でないと思料・開示を受けた日から90日以内・利用目的の達成に必要な範囲内
- 利用停止=98条以下・開示を受けた保有個人情報・事由は列挙・90日以内・適正な取扱いの確保に必要な限度
- 3つとも書面で請求〔77条・91条・99条〕・決定は30日以内・延長は30日以内〔83条・94条・102条〕
表にまとめました。手続の型は、3つとも共通です。書面で請求し、本人であることを示す書類を出します。77条、91条、99条です。請求を受けた役所は、決定をして書面で通知します。期限は、請求から30日以内で、延長は30日以内です。83条、94条、102条です。これらは、行政手続法の申請と、申請に対する処分です。理由の提示や審査基準は、申請の回で見た内容が、そのまま当てはまります。地方公共団体の機関の決定も同じです。情報公開の回では、条例に基づく開示の決定には行政手続条例が働く、と見ました。個人情報の請求は、地方公共団体の機関がするものも、条例ではなく、この法律に基づく決定です。行政手続法3条3項が外すのは、根拠が条例や規則にある処分だけなので、行政手続法が当てはまります。違いが出るのは、役所の義務の限度です。開示は、不開示情報を除いて開示、訂正は、利用目的の達成に必要な範囲内、利用停止は、適正な取扱いの確保に必要な限度です。あとで1つずつ見ます。
開示請求——情報公開に準じた作りと、押さえる4点
図:情報公開法との条文の対応
- 79条部分開示=6条
- 80条裁量的開示=7条
- 81条存否応答拒否=8条
- 82条決定と通知=9条
- 83条期限30日+延長30日=10条
- 84条期限の特例=11条
- 85条移送=12条
- 86条第三者の意見書=13条
- 87条開示の実施=14条
- 89条手数料=16条
- 押さえる4点=①82条1項に利用目的②86条の第三者③79条2項④87条4項の30日
開示請求の中身です。この部分は、情報公開の回で見た情報公開法と、よく似た作りです。条文の対応を一枚にまとめました。79条の部分開示は、6条にあたり、不開示の部分だけを除いて残りを出す仕組みです。80条の裁量的開示は、7条にあたり、不開示情報が含まれていても、役所の判断で出せる仕組みです。ただし、出せるのは、個人の権利利益を保護するため特に必要なときで、7条の、公益上特に必要なとき、とは書き方が違います。81条の存否応答拒否は、8条にあたり、記録があるかないかを答えるだけで不開示情報が分かってしまうときに、あるともないとも答えずに断る仕組みです。82条から85条は、9条から12条にあたり、決定の通知、30日の期限と延長、期限の特例、ほかの機関への移送です。86条は13条にあたる第三者への意見書の機会、87条は14条にあたる開示の実施の方法、89条は16条にあたる手数料です。そのうえで、情報公開の回と並べて押さえる点を、4つ見ます。文言まで違うのは、1点目だけです。残りの3つは、作りは同じでも、本人の記録という場面で読み方が変わる点と、同じ数字を確かめる点です。1点目は、82条1項です。
条文個人情報の保護に関する法律82条1項
個人情報の保護に関する法律 第八十二条(第1項) 1 行政機関の長等は、開示請求に係る保有個人情報の全部又は一部を開示するときは、その旨の決定をし、開示請求者に対し、その旨、開示する保有個人情報の利用目的及び開示の実施に関し政令で定める事項を書面により通知しなければならない。ただし、第六十二条第二号又は第三号に該当する場合における当該利用目的については、この限りでない。
読み方です。開示の決定を通知するときに、開示する保有個人情報の利用目的も書きます。役所が、その情報を何のために持っているのかを、本人に知らせるためです。ただし、前回見た明示義務の例外のうち、明示すると本人や第三者の権利利益を害するおそれがあるときと、役所の事務の適正な遂行に支障が出るおそれがあるときは、その利用目的は書かなくてよいとされています。情報公開法9条1項の通知には、この利用目的の項目がありません。本人は、ここで知った利用目的を物差しにして、このあと見る訂正や利用停止を考えます。2点目は、86条の第三者です。第三者の定め方は、情報公開法13条と同じで、国や地方公共団体などと、開示請求者を除いた者です。違うのは場面です。情報公開では、役所の文書に載った企業や他人の情報でした。ここでは、本人の自分の記録の中に、他人の情報が混ざっている場面です。そのときに、その人に意見書を出す機会を与えます。第三者が開示に反対の意見書を出したのに開示するときは、決定の日と開示を実施する日の間に、少なくとも2週間を置きます。3点目は、79条です。
条文個人情報の保護に関する法律79条
個人情報の保護に関する法律 第七十九条 1 行政機関の長等は、開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合において、不開示情報に該当する部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。 2 開示請求に係る保有個人情報に前条第一項第二号の情報(開示請求者以外の特定の個人を識別することができるものに限る。)が含まれている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなる記述等及び個人識別符号の部分を除くことにより、開示しても、開示請求者以外の個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。
読み方です。1項は部分開示です。不開示の部分を容易に区分して除けるなら、残りを開示しなければなりません。2項は、他人の個人情報の部分開示です。他人の氏名や生年月日など、その人と分かる部分を除けば、残りを開示しても、その人の権利利益を害するおそれがないときは、残りは、他人の情報に含まれないものとみなして、1項を使います。つまり、名前だけを黒く塗れば、他の部分は出る、ということです。情報公開の回で見た6条2項と同じ発想ですが、守る相手が、開示請求者以外の個人、と書かれています。本人の記録なので、本人の部分は塗らずに、他人の部分だけを塗るためです。4点目は、87条4項です。開示の実施の方法の申出は、開示の決定の通知があった日から30日以内にします。正当な理由があるときは例外です。この30日は、情報公開法14条3項と同じ数字で、違いはありません。決定までの30日と、申出までの30日を、取り違えないように押さえます。設例で当てはめます。Bは、認定記録の開示を請求しました。記録には、Bの申請内容と、乙市の確認メモがあります。確認メモには、世帯の事情を乙市に伝えた第三者の氏名も書かれています。Bの情報は、78条1項2号の網にかからないので出ます。第三者の氏名は、開示請求者以外の個人に関する情報なので、不開示です。ただし、その部分だけを除けば足りるので、79条1項で、他の部分は部分開示です。
亡くなった母の記録は、誰が請求できるのか
図:「本人」の判定
- 請求者に関する情報か→記述等により請求者を識別できるか→はい=請求者を本人とする保有個人情報として請求できる
- いいえ=請求できない
- 「証拠として重要」「請求権の存否に密接に関連」は矢印にならない
- 76条1項→2条4項「本人」→2条1項「個人情報」〔生存する個人〕→60条1項
本人の話に入る前に、前回の復習を1問。個人情報の定義に、生存する、と入っているのは、なぜでしょうか。亡くなった人の情報だけだと、何が欠けるのでしょうか?前回の定義を確かめます。個人情報は、生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できるものでした。亡くなった人についての情報だけでは、この定義の個人情報に当たりません。ただし、その記録の中に、生きている誰かについての記述があれば、その部分は、その人の個人情報になりえます。ここが、今日の山場の入口です。前回、今日に回した問いに入ります。亡くなった母Dについての記録を、子のBが、開示請求できるのか。入口は条文です。76条1項は、自己を本人とする保有個人情報、と書きます。この、本人、が何かを、2条4項が定めます。
条文個人情報の保護に関する法律2条4項
個人情報の保護に関する法律 第二条(第4項) 4 この法律において個人情報について「本人」とは、個人情報によって識別される特定の個人をいう。
読み方です。個人情報について、本人とは、その個人情報によって識別される特定の個人です。そして、個人情報は、2条1項で、生存する個人に関する情報とされています。保有個人情報は、60条1項で、その個人情報のうち、役所が文書として組織的に持つものでした。つなぐと、こうなります。ある記録が、請求者を本人とする保有個人情報であるためには、その情報が、請求者に関する情報であって、そこに含まれる記述等によって、請求者を識別できるものでなければなりません。これが、今日の物差しです。設例を置きます。Bの母Dは、乙市の市立施設で転倒事故にあい、その後、亡くなりました。Bは、損害賠償を請求できるかもしれないと考えて、乙市に、事故の調査記録の開示を請求しました。開示を受けられるでしょうか。
同じ問題が、実際の裁判になりました。この判決は、今は廃止された、国の行政機関向けの法律の事件です。条文は、今の個人情報保護法に引き継がれていて、本人の枠組みは同じです。そこで、今の条文に読み替えて話します。事案から確認します。
判例最三小判令和8・2・20 令和6(行ヒ)第362号
亡母の調査記録の開示請求(事案) 本件は、上告人が、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(令和3年法律第37号による廃止前のもの。以下「法」という。)12条1項に基づき、処分行政庁に対し、上告人の死亡した母(以下「亡母」という。)が収容されていた刑務所(以下「本件刑務所」という。)において同室者から受けたいじめに関する事案を調査した記録(以下「本件調査記録」という。)に記録されている情報(以下「本件情報」という。)等の開示を請求したところ、その全部を開示しない旨の決定(以下「本件決定」という。)を受けたため、被上告人を相手に、その取消しを求める事案である。
事案を整理します。上告人、つまり子が、亡くなった母が刑務所で同室者から受けたいじめを調査した記録を、開示請求しました。全部を開示しない決定を受けて、取消しを求めたのが、この事件です。条文の対応は、廃止前の12条1項が今の76条1項、2条2項が2条1項、45条1項が124条1項です。子は、母の同室者や国に対する損害賠償請求権が、発生した可能性を主張していました。判断は2段階です。1段階目は、適用除外の規定です。原審は、この調査記録が、刑の執行に係る保有個人情報の適用除外に当たるとして、不開示を維持しました。今の法律では、124条1項です。
条文個人情報の保護に関する法律124条1項
個人情報の保護に関する法律 第百二十四条(第1項) 1 第四節の規定は、刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判、検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分、刑若しくは保護処分の執行、更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報(当該裁判、処分若しくは執行を受けた者、更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものに限る。)については、適用しない。
読み方です。刑事事件の裁判や処分、刑の執行などに係る保有個人情報で、その裁判、処分、執行を受けた者に係るものには、開示、訂正、利用停止の節を適用しない、という規定です。除外されるのは、執行を受けた本人の情報だけです。最高裁は、こう判断しました。
判例最三小判令和8・2・20 令和6(行ヒ)第362号
適用除外の解釈の誤り 亡母は生存する個人ではなく、本件情報が亡母に関するものとして法45条1項所定の保有個人情報に当たるものということはできず、また、上告人は刑の執行を受けた者ではなく、本件情報が上告人に係るものとして同項所定の保有個人情報に当たるとみる余地もない。したがって、本件情報が同項所定の保有個人情報に当たるとした原審の判断には、同項の解釈適用を誤った違法がある。
母は、生存する個人ではないので、母に関する情報として除外されることはありません。子は、刑の執行を受けた者ではないので、子に係る情報として除外される余地もありません。だから、原審の解釈は誤りでした。ただし、ここで子が勝つわけではありません。除外に当たらないことと、開示を請求できることは、別の問題だからです。2段階目に進みます。
判例最三小判令和8・2・20 令和6(行ヒ)第362号
「本人」であるかどうかの判断枠組み もっとも、法12条1項に基づく開示請求が認められるためには、開示請求に係る保有個人情報が開示請求者を本人とするものであることを要する。そして、本件情報が開示請求者である上告人を本人とする保有個人情報に当たるか否かを判断するに当たっては、本件情報が、上告人に関する情報であって、これに含まれる記述等により上告人を識別することができるものであるか否かを検討する必要がある(法2条2項)。
読み方です。開示請求が認められるには、請求された保有個人情報が、請求者を本人とするものであることが必要です。その判断は、その情報が、請求者に関する情報であって、そこに含まれる記述等により、請求者を識別できるものか、で行います。さきほどの、今日の物差しが、判決の言葉で出てきました。ここは論文で論点になりうるところです。あてはめを読みます。
判例最三小判令和8・2・20 令和6(行ヒ)第362号
あてはめと結論 そこで検討すると、亡母の同室者又は被上告人に対する損害賠償請求権は、上告人がその発生の可能性を主張しているにとどまるものであって、上告人がこれを有しているとはいえない。そうである以上、本件調査記録に記録された亡母に関する情報は、上告人が有する損害賠償請求権に関する情報であるということはできず、上告人に関する情報であるとはいえないし、本件調査記録に記録された亡母に関する情報をもって上告人を識別することができるということもできない。このことは、本件調査記録が上記請求権の存否に関する重要な証拠であるか否かや、本件情報が上記請求権の存否に密接に関連する情報であるか否かによって、左右されるものではない。そして、他に、本件調査記録に、上告人に関する情報であって、氏名、生年月日その他の記述等により上告人を識別することができるものが記録されていることをうかがわせる事情も見当たらない。したがって、本件情報は、上告人を本人とする保有個人情報に当たらないというべきである。
決め手を整理します。子は、損害賠償請求権を、持っているとはいえず、発生の可能性を主張しているにとどまりました。だから、母についての記録は、子が持つ権利に関する情報とはいえません。子に関する情報でもなく、子を識別することもできません。そして、記録が重要な証拠かどうか、請求権の存否に密接に関連するかどうか、という事情は、結論を左右しないとされました。母の記録が、子の賠償請求の証拠として大事でも、だめなんですか。だめです。物差しは、証拠として役に立つかではなく、その情報が、請求者自身に関する情報で、請求者を識別できるかです。役に立つ、は、請求者の側の都合です。本人であるかは、情報の側の性質で決まります。設例に戻ります。Bが、賠償請求できるかもしれない、と言うだけで、Dの事故調査記録を求める場合は、この判決の型で、Bを本人とする保有個人情報には当たりません。他方で、同じ記録の中に、遺族としてのBの氏名や連絡先が書かれているなら、その部分は、Bに関する情報で、Bを識別できます。判決も、事案の記録に、ほかに請求者自身を識別できる記述が無いことを確かめています。補足意見も見ておきます。補足意見であって、法廷意見ではない点に注意してください。2人の裁判官が、法廷意見の射程を述べています。第1に、法の規定を離れて、請求権の存否に密接に関連するか、という基準で判断するのは相当でない。第2に、法廷意見は、この問題に関する事例の一つについての判断にとどまる。そして、審査会の答申の積み重ねとして、遺族が亡くなった人の未支給の保険給付の支給決定を受けているときの調査結果復命書や、相続税の更正処分を受けた相続人にとっての相続財産の調査書類は、請求者を本人とする保有個人情報に当たるとされてきた、と整理します。請求者自身が請求権を取得していたり、納税義務者と特定されていたりするからです。第3に、医療や介護の場面で遺族に情報を提供する話は、個別の法令や指針、条例の問題で、個人情報保護法制の枠の外にあるとしています。
BがDの未払いの給付を請求して、支給決定を受けていた場合、Bは、自分自身の請求権を取得しています。Dの給付に関する調査記録は、Bの権利に関する情報として、Bに関する情報で、Bを識別できるものと言いえます。さきほどの、賠償請求できるかもしれない、と言うだけの場合との違いは、Bが、請求権を現に持っているかどうかです。この判決は事例判断、つまり、この記録とこの請求についての当てはめの判断なので、結論は、記録の中身と請求の経緯ごとに、物差しに当てはめて決まります。前回、子が亡くなった記録は親自身の情報とも見られる、と言って、今日に回した場面も回収します。亡くなった子の記録を、親が請求する場面です。子についての記録には、子の情報のほかに、申請者としての親の氏名や住所、親が保護者として受けた対応のような、親についての記述が書かれていることがあります。その部分は、親に関する情報で、記述により親を識別できるので、親の本人情報になりえます。他方で、子の病状や経過だけの部分は、親を識別できなければ、親の本人情報にはなりません。記録を、部分ごとに、請求者に関する情報かで見る。これが、判決の枠組みを当てはめる読み方です。
代理人が請求するとき
図:代理人による請求
- 76条2項=未成年者・成年被後見人の法定代理人
- 本人の委任による代理人
- 訂正90条2項・利用停止98条2項も同じ
- 77条2項=代理人であることを示す書類
- 78条1号の「開示請求者」=代理請求のときは本人
- 線引き=代理人は本人を代わりに動かす・遺族は自分が本人かが問題
先ほどの遺族の話と、代理人は別の問題です。代理人は、本人に代わって請求します。76条2項、90条2項、98条2項が、同じ形で定めています。代理人になれるのは、未成年者や成年被後見人の法定代理人と、本人の委任による代理人です。請求のときは、代理人であることを示す書類も出します。77条2項です。
条文個人情報の保護に関する法律77条2項
個人情報の保護に関する法律 第七十七条(第2項) 2 前項の場合において、開示請求をする者は、政令で定めるところにより、開示請求に係る保有個人情報の本人であること(前条第二項の規定による開示請求にあっては、開示請求に係る保有個人情報の本人の代理人であること)を示す書類を提示し、又は提出しなければならない。
読み方です。請求する人は、本人であることを示す書類を出します。代理人が請求するときは、本人の代理人であることを示す書類を出します。本人を基準に見ます。78条1項1号の括弧書きが、代理人が本人に代わって請求する場合は、開示請求者は本人をいう、と定めているからです。たとえば、本人に知らせると本人の健康を害する情報は、代理人に見せてよいかではなく、本人の利益を基準に判断します。線引きをまとめます。代理人は、本人を代わりに動かす人です。本人であることは争いになりません。遺族は、自分が本人に当たるかが問われる人です。この違いを、混同しないでください。
訂正請求——対象は事実、義務の範囲は利用目的
図:訂正の仕分け
- 記録の内容→事実か評価・判断か→〔事実〕→利用目的の達成に必要な範囲か→訂正義務あり/〔評価〕→訂正請求の対象外=訂正しない旨の決定/設例=①児童数の誤り→事実・認定に必要→訂正
- ②「申告に不誠実な印象」の所見→評価・判断→対象外
- ③認定時点の住所が今の住所と違う→認定時点の記録として正しい→訂正義務なし
次は訂正請求です。ここで1度止めます。Bは、認定記録の開示を受けました。記録には、児童が2人と書かれていますが、実際は3人です。また、確認メモには、申告に不誠実な印象、という所見があります。訂正を求められるのは、どちらでしょうか?訂正を求められるのは、児童数です。不誠実な印象という所見は、訂正請求の対象になりません。条文で理由を確かめます。要件は、先ほどの90条1項でした。自己を本人とする、開示を受けた保有個人情報の内容が、事実でないと思料するときです。書面で、訂正請求の趣旨と理由を書き、開示を受けた日から90日以内に出します。91条1項3号です。対象は、事実です。評価や判断そのものは、事実かどうかを問う性質のものではないので、訂正請求の筋ではありません。ただし、境界があります。不誠実な印象、という所見が書かれている、という記録の存在そのものは事実です。また、所見の基礎になった事実が誤っているなら、その事実の部分は対象になります。たとえば、申告が期限に出ていたのに、遅れたと書かれていたら、期限に出たかどうかは事実です。その部分は、訂正を請求できます。所見の中身が妥当かどうかは、訂正請求では争えません。その所見をもとに不利な決定が出たなら、その決定そのものを、審査請求や取消訴訟で争う筋になります。次に、役所の義務です。92条です。
条文個人情報の保護に関する法律92条
個人情報の保護に関する法律 第九十二条 行政機関の長等は、訂正請求があった場合において、当該訂正請求に理由があると認めるときは、当該訂正請求に係る保有個人情報の利用目的の達成に必要な範囲内で、当該保有個人情報の訂正をしなければならない。
読み方です。請求に理由があると認めるときは、役所は、訂正しなければなりません。ただし、その訂正は、利用目的の達成に必要な範囲内です。この言葉は、前回見た65条の、利用目的の達成に必要な範囲内で、過去又は現在の事実と合致するよう努める、と同じです。つまり、どの時点の事実と合っている必要があるのかは、その情報を何のために持っているかで決まります。3つの場合があります。1つ目は、過去の一定時点の事実だけで足りる場合です。たとえば、宿泊名簿です。チェックインの日の住所を記録する名簿は、後で客が引っ越しても、書き換えません。2つ目は、現在の事実が必要な場合です。連絡先のリストは、今の住所が合っていなければ、使えません。3つ目は、過去と現在の両方が必要な場合です。たとえば、前の住所を消さずに残し、今の住所を書き足していく台帳です。設例に、もう1つ場面を足します。認定記録の住所が、認定時点のもので、今の住所と違う。1つ目の、宿泊名簿と同じ型です。この記録は、認定した時点の状況を記録する目的で持っています。認定の時点の住所として正しければ、後の引っ越しを反映して書き換える義務は、生じません。これが、利用目的の範囲内、の意味です。
条文個人情報の保護に関する法律93条
個人情報の保護に関する法律 第九十三条 1 行政機関の長等は、訂正請求に係る保有個人情報の訂正をするときは、その旨の決定をし、訂正請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。 2 行政機関の長等は、訂正請求に係る保有個人情報の訂正をしないときは、その旨の決定をし、訂正請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。
読み方です。訂正をするときも、しないときも、決定をして、書面で通知します。しないときは、理由の提示が要ります。所見を直してほしいという請求には、訂正しない旨の決定になります。期限は、請求から30日以内で、延長は30日以内です。特に長い期間がかかるときは、95条の特例があります。訂正を実施したあとは、必要があれば、97条で、提供先にも通知します。
訂正の判決と92条の読み方——京都市条例の事件
図:訂正の判決
- 京都市の個人情報保護条例に基づく訂正請求の事件=現行92条の判例ではない
- 事案=歯科のレセプトの開示を受けた患者が診療内容は実際と違うとして訂正請求→市長は訂正しない処分→原審は取消し→最高裁は破棄して請求棄却
- 判断=①制度の趣旨と調査権限の限界②レセプトの文書としての性格③保管の目的
- 92条への当てはめ=同じ考え方で読むと
訂正請求の範囲について、有名な判決があります。ただし、最初に断っておきます。この判決は、今の個人情報保護法の判決ではありません。京都市の個人情報保護条例に基づく訂正請求の事件です。現行の92条を解釈した判決ではないので、事例として読み、そのあとで、同じ考え方で92条を読むとどうなるかを、別に考えます。事案です。患者が、歯科診療に係る国民健康保険の診療報酬明細書、通称レセプトの開示を、条例に基づいて受けました。レセプトとは、保険医療機関が、おこなった診療の内容を書いて、費用を請求するための書面です。患者は、そこに記録された診療の内容が、実際と違うとして、訂正を請求しました。市長は、市には、レセプトを訂正する権限も、調査する権限もないとして、訂正しない処分をしました。原審は、市に権限があるかにかかわらず、誤りの部分を明らかにするため、訂正の措置を執らなければならないとして、処分を違法としました。最高裁は、原判決を破棄し、請求を棄却しました。判断は、3つの点を積み上げています。訂正請求の制度の趣旨と調査権限の限界、レセプトという文書の性格、そして市が保管している目的です。
判例最判平18・3・10 集民219号677頁
訂正請求の制度の趣旨と調査権限 本件条例の定める訂正請求の制度は、基本的に、本件条例に基づいて開示を受けた自己の個人情報の内容に事実についての誤りがあると認める者に対し、その訂正を請求する権利を保障することにより、市の管理する誤りのある個人情報が利用されることによる個人の権利利益の侵害を防止することを趣旨目的として設けられたものと解される。そして、本件条例は、訂正請求があったときは、実施機関が必要な調査をした上、当該請求に係る個人情報の訂正をする旨又はしない旨の決定をしなければならないとしているものの、実施機関に対してそのために必要な調査権限を付与する特段の規定を置いておらず、実施機関の有する対外的な調査権限におのずから限界があることは明らかである。
読み方です。訂正請求の制度の趣旨は、市が管理している誤った個人情報が利用されて、本人の権利利益が侵害されるのを防ぐことです。そして、条例には、役所に調査権限を与える特別の規定がなく、役所が外部に対して持つ調査権限には、おのずから限界がある、と述べています。市が外部に対して持つ調査の権限には、限りがある、ということです。ただし、判決はこの点だけで結論を出していません。次に見る、文書の性格と保管の目的を合わせて、訂正は予定されていないと結論づけます。次が、レセプトという文書の性格です。
判例最判平18・3・10 集民219号677頁
レセプトの文書としての性格 上記の事情を踏まえると、保険医療機関が自ら行った診療として本件レセプトに記載した内容が実際のものと異なることを理由として、実施機関が本件レセプトに記録された被上告人の診療に関する情報を誤りのある個人情報であるとして訂正することは、保険医療機関が請求した療養の給付に関する費用の内容等を明らかにするという本件レセプトの文書としての性格に適さないものというべきである。
レセプトは、保険医療機関が、自分でおこなったと記載した診療の内容を書いて、費用を請求するための文書です。その記載が、実際と違うことを理由に、市が訂正するのは、費用の内容を明らかにするという、この文書の性格に合わない、という判断です。
判例最判平18・3・10 集民219号677頁
保管の目的 本件レセプトについての上記保管目的からすると、本件レセプトに記録された被上告人の診療に関する情報は、本件訂正請求がされた当時、市において被上告人の実際に受けた診療内容を直接明らかにするために管理されていたものとは認められず、被上告人の権利利益に直接係るものということは困難であると考えられる。
市がレセプトを保管している目的を見ています。市は、支払の明細に係る証拠書類として、保管しています。患者が実際に受けた診療の内容を、直接明らかにするために、管理しているわけではありません。だから、そこに記録された診療の情報は、患者の権利利益に直接係るものとは、いいにくい、という判断です。
判例最判平18・3・10 集民219号677頁
結論 以上の諸点に照らすと、本件レセプトの被上告人の診療に関する記載を訂正することは、本件条例の定める訂正請求の制度において予定されていないものということができるから、上告人が本件処分をしたことが違法であるということはできない。
結論です。レセプトの診療に関する記載を訂正することは、条例の訂正請求の制度が予定していないので、市長の処分は違法ではない、とされました。補足意見が、レセプトの情報の意味を、こう整理しています。
判例最判平18・3・10 集民219号677頁 補足意見
補足意見(滝井裁判官) 本件レセプトの持つ情報の直接的な意味は保険医療機関が記載どおりの医療行為をしたことを理由にして診療報酬の請求をしたという事実であり、診療内容の存否及びその内容を証するものではないのであって、その意味において本件レセプトの記載内容に誤りはないということができるのである。
読み方です。レセプトの情報の直接の意味は、保険医療機関が、記載どおりの医療行為をしたことを理由に、診療報酬を請求した、という事実です。診療が実際にあったかどうかを証明する文書ではありません。その意味で、記載内容に誤りはない、と言えます。この判決は条例の事件なのに、どうして今の法律の勉強で読むんですか。考え方が、92条を読むときの手がかりになるからです。ただし、判旨として、92条の判例だと言うことはできません。そのうえで、同じ考え方で92条を読むと、こうなります。92条は、利用目的の達成に必要な範囲内で、と明文で書いています。そこで、まず、その記録が持つ直接の意味、つまり、いつの、何についての事実を記録した文書かを見ます。次に、その情報を持っている目的に照らして、訂正が、その目的の達成に必要かを見ます。目的が、過去の一定時点の事実を記録し、証明することなら、その時点の記録として正しいかぎり、後の事情による訂正の義務は生じません。設例の2つに当てはめます。認定時点の住所は、認定した時点の状況を記録する目的で持っているので、その時点の記録として正しければ、訂正義務は生じません。所見は、役所の評価という記録で、事実かどうかを問う筋ではありません。覚えるのは、訂正請求の対象は事実、義務の範囲は利用目的の達成に必要な範囲内、そして、この判決は条例の事件として覚える、という3点です。
利用停止請求——取る・使う・渡すの違反を止める道
図:利用停止請求
- 98条1項=事由は列挙〔1号=61条2項・63条・64条・69条1項2項の違反→利用の停止又は消去/2号=69条1項2項・71条1項の違反→提供の停止〕
- 開示を受けた保有個人情報・書面・90日以内
- 100条=適正な取扱いの確保に必要な限度・事務の適正な遂行に著しい支障のおそれがあれば義務なし
- 訂正〔92条〕との対比
3つ目は利用停止請求です。前回見た、取る、使う、渡す、の違反を、本人が止める手段です。98条1項を読みます。
条文個人情報の保護に関する法律98条1項
個人情報の保護に関する法律 第九十八条(第1項) 1 何人も、自己を本人とする保有個人情報が次の各号のいずれかに該当すると思料するときは、この法律の定めるところにより、当該保有個人情報を保有する行政機関の長等に対し、当該各号に定める措置を請求することができる。ただし、当該保有個人情報の利用の停止、消去又は提供の停止(以下この節において「利用停止」という。)に関して他の法令の規定により特別の手続が定められているときは、この限りでない。 一 第六十一条第二項の規定に違反して保有されているとき、第六十三条の規定に違反して取り扱われているとき、第六十四条の規定に違反して取得されたものであるとき、又は第六十九条第一項及び第二項の規定に違反して利用されているとき 当該保有個人情報の利用の停止又は消去 二 第六十九条第一項及び第二項又は第七十一条第一項の規定に違反して提供されているとき 当該保有個人情報の提供の停止
読み方です。請求できる事由は、列挙されています。1号は、保有の制限の61条2項、不適正な利用の63条、不正な取得の64条、目的外の利用の69条に違反しているときで、求める措置は、利用の停止か消去です。2号は、目的外の提供の69条や、外国にある第三者への提供の71条1項に違反して提供されているときで、求める措置は、提供の停止です。71条1項は、前回は扱わなかった条文です。外国にある第三者に、利用目的以外のために渡すときは、原則として、あらかじめ本人の同意が要る、という定めです。98条1項のただし書で、他の法令に特別の手続があるときに譲るのは、訂正の90条と同じです。
62条の、利用目的の明示や、65条から68条の違反は、入っていないんですか。入っていません。62条の明示義務と、65条から68条の正確性や安全管理の違反は、利用停止請求の事由ではありません。短答では、ここが問われます。このうち、記録の内容が事実と違う、という正確性の問題は、さきほどの訂正請求で正します。ほかが外れるのは、止めても直らない違反だからだ、と整理できます。利用停止は、使うことや渡すことを止める手段です。利用目的を示さなかった、安全管理の措置が足りない、という違反は、使うのを止めても正されません。正すのは、示し直すことや、措置を整えることです。そこは、役所自身の義務と、個人情報保護委員会の監督に委ねられます。156条から158条で、委員会は、資料の提出や実地調査を求め、指導や勧告ができます。義務の限度は、100条です。
条文個人情報の保護に関する法律100条
個人情報の保護に関する法律 第百条 行政機関の長等は、利用停止請求があった場合において、当該利用停止請求に理由があると認めるときは、当該行政機関の長等の属する行政機関等における個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な限度で、当該利用停止請求に係る保有個人情報の利用停止をしなければならない。ただし、当該保有個人情報の利用停止をすることにより、当該保有個人情報の利用目的に係る事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるときは、この限りでない。
読み方です。請求に理由があるときは、適正な取扱いを確保するために必要な限度で、利用停止をしなければなりません。ただし、利用停止をすると、その保有個人情報の利用目的に係る事務や事業の性質上、適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるときは、義務はありません。訂正と並べます。訂正の92条は、利用目的の達成に必要な範囲内で、ただし書はありません。利用停止の100条は、適正な取扱いの確保に必要な限度で、事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるときは、義務がありません。ただし書の有無は、こう整理できます。訂正は、誤った記録を正しく書き直すだけで、事務はそのまま続けられます。利用停止は、その情報を使うこと自体を止めます。その情報なしでは回らない事務まで止まりかねないので、100条にだけ、著しい支障があれば義務はない、という歯止めがあります。利用停止によって守られる本人の利益と、損なわれる公共の利益を比べる、という見方もあります。設例で当てはめます。乙市の別部局が、Bの住所を、69条2項2号の要件を満たさないまま、公営住宅の入居案内に使っていたとします。Bは、先に開示を受けて、そのことを知り、開示を受けた日から90日以内に、98条1項1号で、利用の停止か消去を請求できます。また、乙市が学習塾Cに、Bの同意なく情報を渡していたなら、2号で、提供の停止を請求できます。
争い方——審査請求と審査会
図:争い方
- 開示・訂正・利用停止の決定〔と請求への不作為〕→審査請求→審理員は置かない→審査庁が審査会へ諮問〔国=情報公開・個人情報保護審査会/地方=行政不服審査法81条1項又は2項の機関〕→答申→裁決
- 取消訴訟とは自由選択
- 諮問しなくてよい4類型=①不適法で却下②全部認容で全部開示〔反対意見書が出ている場合を除く〕③訂正の全部認容④利用停止の全部認容
ここで、前に見た情報公開の復習を1問。開示決定の審査請求で、審理員を置かない代わりに、何を置いたでしょうか?情報公開の審査請求の作りを確かめます。審理員を置く代わりに、審査庁が、外部の審査会に諮問して、公正さを担保します。個人情報の請求への決定も、同じ作りです。決定に不服があるときの審査請求を、104条から見ます。
条文個人情報の保護に関する法律104条1項
個人情報の保護に関する法律 第百四条(第1項) 1 行政機関の長等(地方公共団体の機関又は地方独立行政法人を除く。次項及び次条において同じ。)に対する開示決定等、訂正決定等、利用停止決定等又は開示請求、訂正請求若しくは利用停止請求に係る不作為に係る審査請求については、行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)第九条、第十七条、第二十四条、第二章第三節及び第四節並びに第五十条第二項の規定は、適用しない。
読み方です。国の機関や独立行政法人等に対する、開示、訂正、利用停止の決定への審査請求、またはこれらの請求への不作為への審査請求には、行政不服審査法の審理員の指名の9条などの規定を適用しません。つまり、審理員は置きません。審査庁、つまり裁決をする行政機関の長が、自分で手続を進めます。その代わりが、次の105条です。
条文個人情報の保護に関する法律105条1項
個人情報の保護に関する法律 第百五条(第1項) 1 開示決定等、訂正決定等、利用停止決定等又は開示請求、訂正請求若しくは利用停止請求に係る不作為について審査請求があったときは、当該審査請求に対する裁決をすべき行政機関の長等は、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、情報公開・個人情報保護審査会(審査請求に対する裁決をすべき行政機関の長等が会計検査院長である場合にあっては、別に法律で定める審査会)に諮問しなければならない。 一 審査請求が不適法であり、却下する場合 二 裁決で、審査請求の全部を認容し、当該審査請求に係る保有個人情報の全部を開示することとする場合(当該保有個人情報の開示について反対意見書が提出されている場合を除く。) 三 裁決で、審査請求の全部を認容し、当該審査請求に係る保有個人情報の訂正をすることとする場合 四 裁決で、審査請求の全部を認容し、当該審査請求に係る保有個人情報の利用停止をすることとする場合
続いて、105条の2項と3項です。
条文個人情報の保護に関する法律105条2項・3項
個人情報の保護に関する法律 第百五条(第2項・第3項・続き) 2 前項の規定により諮問をした行政機関の長等は、次に掲げる者に対し、諮問をした旨を通知しなければならない。 一 審査請求人及び参加人(行政不服審査法第十三条第四項に規定する参加人をいう。以下この項及び第百七条第一項第二号において同じ。) 二 開示請求者、訂正請求者又は利用停止請求者(これらの者が審査請求人又は参加人である場合を除く。) 三 当該審査請求に係る保有個人情報の開示について反対意見書を提出した第三者(当該第三者が審査請求人又は参加人である場合を除く。) 3 前二項の規定は、地方公共団体の機関又は地方独立行政法人について準用する。この場合において、第一項中「情報公開・個人情報保護審査会(審査請求に対する裁決をすべき行政機関の長等が会計検査院長である場合にあっては、別に法律で定める審査会)」とあるのは、「行政不服審査法第八十一条第一項又は第二項の機関」と読み替えるものとする。
読み方です。1項は、原則として、情報公開・個人情報保護審査会に諮問しなければならない、と定めます。諮問しなくてよいのは、4つだけです。初めの2つは、情報公開法19条と同じで、新しいのは、訂正と利用停止の2つです。審査請求が不適法で却下する場合。審査請求の全部を認めて、全部を開示する場合。ただし、第三者の反対意見書が出ているときは、諮問が要ります。訂正を、全部認める場合。利用停止を、全部認める場合です。請求者が全部勝つだけの場合は、外部に確認する必要が薄いからです。2項は、諮問したことを、審査請求人や参加人、請求者、反対意見書を出した第三者に通知する定めです。3項は、地方公共団体です。地方公共団体の機関や地方独立行政法人にも準用されますが、諮問先は、行政不服審査法81条1項又は2項の機関、つまり、条例で置く第三者機関です。106条で、地方の場合も審理員による審理手続の規定は適用されません。
審査会の調査の権限も、情報公開と同じ作りです。審査会は、不開示とされた保有個人情報そのものの提示を求められます。ただし、何人も、提示された情報の開示を審査会に求められません。審査会は文書を見られますが、請求者には見せません。裁判所は、不開示とされた文書そのものを見ることができない、という対比も、情報公開と同じです。第三者が反対した開示を維持する裁決では、開示を実施するまで、少なくとも2週間を置きます。107条1項が、86条3項を準用しています。取消訴訟との関係は、自由選択です。審査請求を先にしなければならない、という前置きはありません。訂正や利用停止を裁判で命じさせる義務付け訴訟は、別の回で扱います。
条例の余地——法律が共通ルール、条例は細部と地域の事情
図:条例の余地
- 一元化=法律が共通ルール
- 108条=この節の規定に反しない限り開示・訂正・利用停止の手続と審査請求の手続について条例で必要な規定を定められる
- 条例に残る場所=条例要配慮個人情報〔60条5項〕・情報公開条例との整合のための不開示情報〔78条2項〕・手数料〔条例〕・審査請求の特例〔107条2項〕
前回見たとおり、2021年の一元化で、それまで地方公共団体がそれぞれの条例で決めていた個人情報のルールも、この法律に統一されました。それでも、地方公共団体には、条例を定める余地が残っています。108条です。
条文個人情報の保護に関する法律108条
個人情報の保護に関する法律 第百八条 この節の規定は、地方公共団体が、保有個人情報の開示、訂正及び利用停止の手続並びに審査請求の手続に関する事項について、この節の規定に反しない限り、条例で必要な規定を定めることを妨げるものではない。
読み方です。この節の規定に反しない限り、開示、訂正、利用停止の手続と、審査請求の手続に関する事項について、条例で必要な規定を置いてよい、という定めです。条例に残される場所は、ほかにもあります。まず、条例要配慮個人情報です。
条文個人情報の保護に関する法律60条5項
個人情報の保護に関する法律 第六十条(第5項) 5 この章において「条例要配慮個人情報」とは、地方公共団体の機関又は地方独立行政法人が保有する個人情報(要配慮個人情報を除く。)のうち、地域の特性その他の事情に応じて、本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして地方公共団体が条例で定める記述等が含まれる個人情報をいう。
読み方です。要配慮個人情報は、法律と政令で決まっています。それとは別に、地域の特性などに応じて、特に配慮を要するものを、地方公共団体が条例で定められます。そのほか、78条2項で、情報公開条例との整合性を確保するために不開示とする情報を条例で定められます。情報公開条例では出さないと決めている種類の情報が、本人の開示請求のほうからは出てしまう、という食い違いを防ぐためです。手数料の額は条例で定め、審査請求の特例は、107条2項で、地方公共団体は条例で設けられます。まとめます。一元化で、共通のルールは法律に統一されました。条例に残るのは、手続の細部と、地域の事情に関わる部分です。
設例の通し——Bの認定記録の道のり
図:設例の通し
- ①開示請求〔本人の情報は出る・他人の氏名は不開示・部分開示〕
- ②訂正〔事実か評価か・利用目的の範囲〕
- ③利用停止〔69条違反の利用・提供〕
- ④遺族の場合〔Bに関する情報でBを識別できるか〕
- ⑤不服〔審査請求→審査会/取消訴訟〕
設例を通します。Bの認定記録の道のりです。まず、開示。Bは認定記録の開示を請求します。本人の情報なので出ますが、乙市に事情を伝えた第三者の氏名は不開示で、その部分だけを除いて部分開示になります。次に、訂正。開示を受けた日から90日以内に、児童数の誤りは訂正を請求できます。所見は評価なので対象外、認定時点の住所は、認定時点の記録として正しいので、訂正義務はありません。次に、利用停止。別部局による目的外の利用や、Cへの同意のない提供は、利用停止請求で止められます。ただし、事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるときは、役所の義務は生じません。遺族の場合は、請求者に関する情報で、請求者を識別できるかで決まります。決定に不服があれば、審査請求から審査会への諮問で、取消訴訟とは自由選択です。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 開示→訂正・利用停止の順・90日
- 本人=請求者に関する情報で請求者を識別できるもの
- 訂正=事実・利用目的の範囲
- 利用停止=適正な取扱いの確保に必要な限度
- 審査請求→審査会
- 条例の余地=手続の細部と地域の事情
- 次回=役所の情報を社会で使う道とマイナンバー法
最初の問いに戻ります。役所が持っている自分の情報について、本人は、何を、どの順番で求められるのか。答えは、まず開示、次に訂正と利用停止、そして不服なら審査請求、です。持ち帰るのは、5点です。1つ目。何人も、と書いてあっても、請求できるのは、自己を本人とする保有個人情報で、本人の情報は本人に出ます。2つ目。訂正と利用停止は、開示を受けた情報についてだけで、開示を受けた日から90日以内です。3つ目。本人とは、請求者に関する情報であって、記述等により請求者を識別できるものです。記録が重要な証拠かどうかや、請求権に密接に関連するかどうかでは、決まりません。この判決は事例判断です。4つ目。訂正は、対象が事実で、義務の範囲は利用目的の達成に必要な範囲内です。利用停止は、適正な取扱いの確保に必要な限度で、事務の適正な遂行に著しい支障のおそれがあれば義務がありません。5つ目。審査請求は、審理員を置かず、審査会に諮問します。今日は、本人が求める側でした。
参照条文
- 個人情報の保護に関する法律76条
- 個人情報の保護に関する法律78条1項
- 個人情報の保護に関する法律78条1項2号
- 個人情報の保護に関する法律78条1項2号ただし書
- 個人情報の保護に関する法律90条
- 個人情報の保護に関する法律82条1項
- 個人情報の保護に関する法律79条
- 個人情報の保護に関する法律2条4項
- 個人情報の保護に関する法律124条1項
- 個人情報の保護に関する法律77条2項
- 個人情報の保護に関する法律92条
- 個人情報の保護に関する法律93条
- 個人情報の保護に関する法律98条1項
- 個人情報の保護に関する法律100条
- 個人情報の保護に関する法律104条1項
- 個人情報の保護に関する法律105条1項
- 個人情報の保護に関する法律105条2項・3項
- 個人情報の保護に関する法律108条
- 個人情報の保護に関する法律60条5項