刑法ゼロから刑法#1

刑法とは何か

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199条の形(犯罪と刑罰の対応)

199条の構造(①犯罪=人を殺した者は/②刑罰=死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する)

条文の2つの部分

結論199条は「殺すな」という命令ではなく、行為と刑罰の対応で書かれています。

  • 前半「人を殺した者は」:どんな行為が犯罪になるかを示します。
  • 後半「〜に処する」:その犯罪にどんな刑罰が科されるかを示します。

理由命令だけでは、破ったらどうなるかが分かりません。

行為と結果を1セットで示すので、何をすればどうなるかを誰もが読めます。

つまり、刑法は予測できる法になっています。

199条(殺人)|刑法 第二編 罪 第二十六章 殺人の罪(199〜203条)人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。

拘禁刑

定義拘禁刑とは、身体の自由を奪う刑です。

実質的意義の刑法

199条は、犯罪と刑罰の対応を定めた条文です。
では、この形をした法規は、何と呼ばれるのでしょうか。

実質的意義の刑法

定義次の2つを定めた法規を、実質的意義の刑法といいます。

  • 犯罪の内容:何が犯罪になるかです。
  • 刑罰の内容:その犯罪にどんな刑罰が科されるかです。

注意法律のタイトルは関係ありません。

この2つの中身を持っていれば、実質的な意味での刑法にあたります。

1条(どこで適用されるか)

条文刑法が「どこで」適用されるかは、199条とは別に、1条が定めています。

1条1項は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用すると定めています。

注意「何が犯罪か」と「どこで効くか」は、別の条文が定めています。

1条(国内犯)(抜粋)|刑法 第一編 総則 第一章 通則(1〜8条)1項:この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。

形式的意義の刑法と特別刑法

実質的意義の刑法は、法律のタイトルではなく中身で決まります。
では、「刑法」という名前の法律とは、どういう関係にあるのでしょうか。

形式的意義の刑法(『刑法』という名前の法律=刑法典)と実質的意義の刑法(①犯罪と②刑罰を定めたすべての法規・特別刑法も含む)の対比表

形式的意義の刑法

定義「刑法」という名前が付いた法律そのもの(六法に載る刑法典)を、形式的意義の刑法といいます。

注意実質的意義の刑法とは、多くは重なりますが、ズレることがあります。

特別刑法

定義タイトルは「刑法」でなくても、中身が実質的意義の刑法にあたる法律を、特別刑法といいます。

結論刑法という科目は、刑法典だけでなく、特別刑法もすべて射程に入ります。

具体例軽犯罪法や道路交通法です。

「こういう行為をした者は、こういう刑罰に処する」という、199条と同じ構造の条文が並んでいます。

実体法と手続法

刑法が決めるのは、何が犯罪で、どんな刑罰が科されるかという中身です。
では、刑法と刑事訴訟法は、どう役割を分けているのでしょうか。

実体法(刑法=何が犯罪か・どんな刑罰か)と手続法(刑事訴訟法=どう捜査するか・どう裁くか)の役割分担

定義中身を決める法律と、手続を決める法律に分かれます。

  • 実体法:何が犯罪で、どんな刑罰が科されるかを決めます(刑法)。
  • 手続法:逮捕・取調べ・裁判の進め方など、どう捕まえ、どう裁くかを決めます(刑事訴訟法)。

理由刑法が決めるのは中身だけなので、刑法だけでは事件は裁けないからです。

注意同じ役割分担は、民法と民事訴訟法の関係にも当てはまります。

自然犯と法定犯

ここまでは、何が実質的意義の刑法にあたるかを見ました。
では、刑法が犯罪とする行為には、どのような性質の違いがあるのでしょうか。

自然犯(法律がなくても道徳的に悪いとされる行為・例:詐欺、殺人)と法定犯(制度が犯罪と定めたことで初めて悪くなる行為・例:路上喫煙禁止条例違反)の対比表

自然犯

定義自然犯とは、法律がなくても、道徳的に悪いとされる行為です。

具体例詐欺(人をだまして財物を得る行為)です。

「人をだますのは悪い」という感覚は、法律より前からあります。

199条の殺人も、典型的な自然犯です。

法定犯

定義法定犯とは、制度が犯罪と定めたことで、初めて悪くなる行為です。

行為自体は、道徳的に無色か、無色に近いものです。

具体例路上喫煙を禁止する条例の違反です。

条例のない街での歩きタバコは、それだけで強く道徳的に非難されるわけではありません。

条例がある街では、した瞬間に「してはいけないこと」になります。

区別の相対性

自然犯は法律より前から悪い行為、法定犯は制度が定めて初めて悪くなる行為です。
では、ある行為がどちらにあたるかは、固定されているのでしょうか。

結論自然犯と法定犯の区別は、固定ではなく相対的です。

社会の受け止めが変われば、境界線は動きます。

具体例喫煙の扱いは、次のように変わってきました。

  • かつて:個人の自由やマナーの問題として、行政的にゆるく扱われていました。
  • 現在:受動喫煙による健康被害の認識が広がり、周囲への配慮を欠く行為として、道徳的な非難の対象になってきています。

注意覚えるべきは、個々の行為の分類ではなく、区別は動きうるという命題です。

ある行為が制度的な規制にとどまるか、道徳的な非難にまで踏み込んでいるかを論じるとき、理由づけの土台になります。

区別の実益(38条3項)

自然犯と法定犯の区別は、相対的です。
では、この区別には、どのような実益があるのでしょうか。

38条3項の読み方

結論法律を知らなかったことは、原則として、罪を犯す意思(故意)を否定しません。

条文38条3項は、本文が原則、ただし書が例外の入口です。

  • 本文:法律を知らなかったとしても、罪を犯す意思がなかったことにはなりません。
  • ただし書:情状により、その人の事情しだいで刑を軽くできます。

38条(故意)(抜粋)|刑法 第一編 総則 第七章 犯罪の不成立及び刑の減免(35〜42条)3項:法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

自然犯と法定犯での違い

結論「その規制自体を知らなかった」という場面は、法定犯のほうがずっと起きやすいです。

  • 自然犯:殺人や詐欺は、法律を知らなくても悪いと分かるので、まず起きません。
  • 法定犯:制度が先にあって初めて悪くなるので、制度を知らなければ悪いと気づけません。

具体例路上喫煙を禁止している街に、引っ越してきたばかりの人です。

吸ってから初めて、「ここは禁止だったのか」と知る場面が起こりえます。

注意押さえるのは、知らずにやってしまう場面の起きやすさが違うというところまでです。

行政刑法

法定犯では、38条3項の「知らなかった」が起きやすくなります。
では、法定犯は、どのような事情から作られるのでしょうか。

定義行政上の目的を実現するために作られた刑罰規定のまとまりを、行政刑法と呼ぶこともあります。

結論法定犯は、行政上の目的を実現するため、行政的な必要から作られることが多いです。

目にした罰則が行政刑法だと分かれば、法定犯寄りだと見当がつきます。

38条3項の「知らなかった」が起きやすい領域です。

具体例路上喫煙禁止条例は、「まちを清潔・快適に保ちたい」という行政目的から作られています。

注意特別刑法と行政刑法は、分け方の軸が違います。

  • 特別刑法:名前での分け方です。
  • 行政刑法:何のために作られたかでの分け方です。

法益保護機能

ここまでは、刑法の中身を見てきました。
では、刑法は何のためにあるのでしょうか。

法益と保護法益

定義2つの言葉の意味は、次のとおりです。

  • 法益:法によって保護される利益です。生命・身体・自由・名誉・財産などが代表例です。
  • 保護法益:ある条文が守ろうとしている利益です。同じ「法益」を、条文の側から見た言い方です。

具体例199条の保護法益は、人の生命です。

注意保護法益は、その条文の趣旨にほぼ重なります。

個々の犯罪を見るときは、毎回ここが出発点になります。

法益保護機能

定義法益保護機能とは、刑罰を通じて法益を保護する刑法の働きです。

  • 威嚇:罰があるとあらかじめ示して、犯罪を防ぎます。
  • 制裁:実際に犯した人に、刑罰を科します。

具体例「人を殺した者は、重い刑罰に処する」と定めることで、人の生命という法益を守っています。

自由保障機能

法益保護機能は、刑罰を通じて法益を守る働きです。
では、刑法にはほかに、どのような機能があるのでしょうか。

定義自由保障機能とは、犯罪になる行為をあらかじめ明示することで、それ以外の行為は自由だと保障する働きです。

理由刑法がなければ、国家はどんな行為でも、後から「それは悪いことだった」と処罰できてしまいます。

何が犯罪かを条文で先に示すので、国民は安心して残りの行動をとれます。

注意法益保護機能とは、逆向きの働きです。

2つの機能の綱引き

法益保護機能と自由保障機能は、逆向きの働きです。
では、2つの機能は、犯罪の範囲にどう作用するのでしょうか。

犯罪の輪を法益保護機能が広げ、自由保障機能が絞る綱引きの図(輪が広い=取りこぼしは減るが際どい行為も巻き込む/輪が狭い=無実・軽微は守れるが本来罰すべき行為を見逃す)

犯罪の輪

定義「犯罪にあたる行為」の集まりを、1つの輪と考えます。

輪の中に入れば犯罪、外なら犯罪ではありません。

結論2つの機能は、輪を反対方向に引っ張り合います。

  • 法益保護機能:輪を広げます。悪質な行為を取りこぼさずに済む代わりに、処罰に値しない際どい行為まで巻き込むリスクが増えます。
  • 自由保障機能:輪を絞ります。無実の人や軽微な行為を守れる代わりに、本来罰すべき行為を見逃すおそれが増えます。

具体例詐欺で、輪の内と外を分けます。

  • 輪の中:はっきり嘘をついて、相手にお金を出させた場合です。
  • 輪のすぐ外:店で「これは良い品ですよ」と、少し大げさに褒めて売った場合です。輪を広げれば巻き込まれかねませんが、絞ればただのセールストークとして外に出ます。

注意どこに線を引くかは、綱引きの結果しだいで動きます。

両機能の調整

定義法益保護機能と自由保障機能のバランスを取ることを、両機能の調整といいます。

結論どちらか片方に決め切らず、両方の力を働かせたまま、決着点を探り続けます。

理由どちらに振り切っても、困る社会になるからです。

  • 広げすぎ:無実の人まで処罰される社会になります。
  • 絞りすぎ:悪質な行為が野放しになる社会になります。

総論と各論

結論刑法の解釈の対立は、根っこをたどれば、輪を広げたい主張と絞りたい主張のぶつかり合いです。

  • 総論:犯罪が成立するための共通ルールを扱います。輪の線引きは、構成要件・違法性・責任という3つの関門で具体的に問題になります。
  • 各論:殺人罪や窃盗罪など、個別の犯罪類型を扱います。

刑罰の種類(9条)

刑法の条文は、犯罪と刑罰の対応で書かれています。
では、刑法が定める刑罰には、どのような種類があるのでしょうか。

定義9条は、刑罰を主刑と付加刑に分けています。

  • 主刑:それ単独で科せる刑です。死刑・拘禁刑・罰金・拘留・科料の5つです。
  • 付加刑:主刑に付け加えるときだけ科せる刑です。没収の1つです。

注意拘禁刑は、2025年6月に呼び方が一本化されたものです。

それより前は、「懲役」「禁錮」と呼ばれていました。

9条(刑の種類)|刑法 第一編 総則 第二章 刑(9〜21条)死刑、拘禁刑、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。

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