刑法とは何か
刑法とは「何が犯罪か」「どんな刑罰を科すか」を定めた法。名前でなく中身で捉える理由、刑罰の3分類、実体法と手続法の違いまでを整理する初回。
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第1章 刑法の基礎 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
1. 刑法とは——犯罪と刑罰 〔短答〕
刑法とは、①何が「犯罪」になるか、②その犯罪にどんな「刑罰」を科すか——この2つを定めた法です。こうした「中身」に着目した捉え方を、実質的意義の刑法といいます。
殺人罪の条文を例に見てみましょう。
【条文】刑法199条(殺人罪) 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処する。

「人を殺した」が犯罪、「死刑又は……拘禁刑に処する」が刑罰です。すべての刑罰法規は、この「犯罪」と「刑罰」のセットでできています。
図:刑法199条には「犯罪(人を殺した)」と「刑罰(死刑〜拘禁刑)」が両方入っている。
なぜ「名前」ではなく「中身」で捉えるのか
理由は2つあります。
- ① 名前で線を引くと取りこぼす … 世の中には、名前は「刑法」ではないのに、犯罪と刑罰を定めた法律が山ほどあります(後述の特別刑法)。名前で判断すると、それらが全部こぼれ落ちてしまう。
- ② 書いてあることだけが犯罪 … 刑法に書いてある行為だけが犯罪です。逆に、書いていない行為は、たとえ道徳的に悪くても罰せられない。この「書いてないことは罰せられない」というしくみが、私たちの自由を守る働きにつながります(刑法の機能として第1章③でじっくり扱います)。
覚えるポイント — 刑法とは
- ① 何が「犯罪」か … どんな行為を罰するか
- ② その犯罪にどんな「刑罰」を科すか
- この2つを定めた法 = 刑法(中身に着目した捉え方=実質的意義)
- 名前ではなく中身で捉えるのが出発点
2. 刑法の分類——形式的意義・特別刑法・実質的意義 〔短答〕
なぜ道路交通法も「刑法」なのか。ここで刑法の分類を整理します。
図:実質的意義の刑法 = 形式的意義(刑法典)+ 特別刑法。
- 形式的意義の刑法=「刑法」という名前の法典そのもの。
- 特別刑法=名前は違うが、犯罪と刑罰を定める法(軽犯罪法・道路交通法など)。
- 実質的意義の刑法=その両方を合わせた全体。
なぜ特別刑法が必要なのか
交通・環境・経済……社会のルールは膨大です。これを1冊の刑法典に全部詰め込むのは現実的ではありません。そこで、各分野の法律が自分の中に「違反=犯罪」と「罰則=刑罰」を抱えています。
たとえば道路交通法では、制限速度を大きく超えて走ると罰金などの罰則があります。「速度超過という行為」が犯罪、「罰金」が刑罰。名前は「道路交通法」でも、中身は刑法そのものです。
大事なのは、名前で判断しないこと。「犯罪と刑罰を定めているか」が、刑法かどうかの基準です。なお、受験で単に「刑法」というときは、ふつうこの実質的意義を指します。
3. 刑罰の種類 〔短答〕
「刑罰」は、奪うものに応じて大きく3つに分かれます。
図:刑罰は「奪うもの」に応じて生命刑・自由刑・財産刑の3つ。
刑罰とは、国が犯人から何かを奪う制裁です。人から奪えるものは、突き詰めると生命・自由・財産の3つ。だから刑罰も、この3つに対応して分かれます。
- 生命刑(生命を奪う)=死刑
- 自由刑(身体の自由を奪う)=拘禁刑
- 財産刑(財産を奪う)=罰金・科料・没収 など
「奪えるものは3つ」だから刑罰も3つ。丸暗記ではなく理屈で思い出せます。199条の「死刑又は……拘禁刑」も、生命刑と自由刑が並んでいる、と読めます。
なお、従来の「懲役」「禁錮」は、改正で拘禁刑に一本化されました。古い問題集の「懲役」表記に注意しましょう(細かい刑の種類は、先の刑罰論の回でまとめて扱います)。
4. 刑法は「実体法」 〔短答〕
刑法は「実体法」に分類されます。何が犯罪で、どんな刑罰かという“中身”を決めるのが刑法。実際にどう捜査し、どう裁くかという“手続”は刑事訴訟法の役割です。
なぜ2つに分けるのか——「何が正解か」と「その正解をどう確かめて実現するか」は別の問題だからです。料理にたとえると、
- レシピ=「何を、どんな材料で作るか」を決める … これが刑法
- 調理工程=「どの順で火を入れ、盛り付けるか」 … これが刑事訴訟法
どちらが欠けても料理は出てきません。刑法で犯罪の「成立」を決め、刑訴でそれを「実現」する。両輪の関係です。
覚えるポイント — 実体法と手続法
- 刑法 … 何が犯罪で・どんな刑罰か(中身=実体法)
- 刑事訴訟法 … どう捜査し・どう裁くか(手続=手続法)
- 刑法で「成立」を決め、刑訴で「実現」する
短答ひっかけ
- 名前が「刑法」でなくても刑法(=特別刑法。道路交通法など)
- 受験で「刑法」は実質的意義を指す
- 刑法は実体法(手続は刑事訴訟法)
📝 論文の型
- 該当なし(導入回)
今日の地図(保存版)
- 刑法=「犯罪」と「刑罰」を定める法
- 実質的意義 = 形式的意義(刑法典)+ 特別刑法
- 刑罰 = 生命刑・自由刑・財産刑(人から奪えるもので分ける)
- 刑法は実体法(手続は刑訴)
図:本回の全体地図——刑法とは/分類/刑罰の種類/実体法。
次回は #2「自然犯と法定犯」。
参照条文
- 刑法199条(殺人罪)