自然犯と法定犯
犯罪を自然犯(もともと悪い)と法定犯(ルールを破ったから悪い)に分ける区別とその実益を扱う回。区別の相対性、法の不知(38条3項)、行政刑法の両罰規定まで。
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第1章 刑法の基礎 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
1. 自然犯と法定犯とは 〔短答〕
犯罪は、大きく自然犯(刑事犯)と法定犯(行政犯)に分けられます。
- 自然犯=法律がなくても「悪い」とわかる行為。殺人・窃盗・放火など。法律は「もともと悪い」を確認しているだけ(mala in se=それ自体が悪)。別名 刑事犯。
- 法定犯=行為そのものは道徳的に無色だが、国が行政上の必要からルールを作り、それを破ったから悪い。無免許運転・速度違反など。違反して初めて反道義性を帯びる(mala prohibita=禁止されたから悪い)。別名 行政犯。

イメージ:自然犯は「ルールブックを配られる前から誰もが反則と分かるプレー」、法定犯は「その競技だけのローカルルール(このコートでは赤い線を踏んだら反則)。読まないと反則かどうか分からない」。
2. 区別は相対的(時代で動く) 〔短答〕
この区別は固定ではなく、社会の「悪い」という感覚で動きます。たとえば飲酒運転は、かつては”ただのルール違反”(法定犯に近い扱い)と考えられていましたが、重大な死亡事故が相次ぎ、社会の怒りを背景に厳罰化が進んだ結果、今日では自然犯に近い重さで捉えられています。ストーカーや児童ポルノも、近年になって本格的に犯罪化・厳罰化された同じ流れです。
覚えるポイント — 区別は固定でない
- 社会の「悪い」という感覚で動く
- 飲酒運転:法定犯(的扱い) → 厳罰化 → 自然犯(的扱い)へ
- 出どころが「ルール違反」から「本来悪い」へ移った=本質的でなく相対的
3. 実益①「知らなかった」と刑法38条3項 〔短答・論文(送り)〕
この区別の実益の1つ目は、「法律を知らなかった」の扱いです。
- 自然犯は「悪いと知っていて当然」→「知らなかった」はまず通らない。
- 法定犯は、細かい行政規制を本当に知らないことがある →「知らなかった」が現実に問題になる。
ここで条文に着地します。刑法38条3項(法律の不知)。
刑法38条3項 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
- 原則=法律を知らなくても、それだけでは故意は否定されない(=「知らなかった」では逃げられない)。
- 例外=ただし書。情状により、刑を減軽できる(法定犯で「どうやっても知りようがなかった」等の事情に効く余地)。
※「違法性の意識は責任故意の要件か(厳格故意説/制限故意説/不要説)」という学説の本論と、法律の錯誤の処理は #27 責任故意・違法性の意識 で扱います。故意の意義・事実の錯誤は #16・#17 へ。
4. 実益②行政刑法の特徴(両罰規定・過失処罰) 〔短答〕
実益の2つ目は、法定犯(行政刑法)に固有の特徴があることです。
- 両罰規定=違反した本人だけでなく、その事業主・法人も罰金で処罰する規定が多い(自然犯=「悪いことをした本人」の責任が原則なのと対照的)。
- 過失処罰規定も比較的多い/故意・他人の行為への責任を、行政犯の特殊性から刑法の原則と変えて解釈する見解も有力。
出どころが「行政目的の達成」だからこそ、個人の道義的非難を超えた処罰の仕組み(法人処罰・過失処罰)が正当化されやすい、と理解すると軸でつながります。
※ 法定犯=法律で犯罪と定めたもの。「何が犯罪かを法律で決める」罪刑法定主義は #5 で扱います。
短答ひっかけ
- 自然犯は「知らなかった」が故意を否定しない(刑法38条3項 原則)
- 法定犯でも「知らなかった」で故意は否定されない——ただし情状により刑を減軽できる(38条3項ただし書)
- 自然犯と法定犯の区別は固定でなく相対的(飲酒運転は厳罰化で自然犯的扱いへ)
- 両罰規定・過失処罰は法定犯(行政刑法)の固有の特徴
- mala in se(それ自体が悪)=自然犯、mala prohibita(禁止されたから悪)=法定犯
📝 論文の型
- 法律の錯誤(法の不知)が問題となるとき:刑法38条3項を摘示し「法律を知らなくても故意は否定されない」と原則を示す
- 情状による減軽余地(38条3項ただし書)は法定犯で特に機能する旨を指摘する
今日の地図(保存版)
- 自然犯(刑事犯)=本来悪い(殺人・窃盗・放火)/法定犯(行政犯)=ルールを破ったから悪い(無免許運転・速度違反)
- 区別は相対的(時代で動く=飲酒運転)
- 実益①「知らなかった」は法定犯で論点 → 刑法38条3項(原則 故意は否定されない/情状により減軽できる)に着地
- 実益②行政刑法の特徴=両罰規定・過失処罰
- 送り:違法性の意識の要否 → #27/故意・錯誤 → #16・#17/罪刑法定主義 → #5
次回は #3「刑法の2つの機能」。