執行猶予の効果と取消し・仮釈放
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第11章 刑罰 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
猶予期間を終えると、判決はどうなるか
図:なかったことになるのに、不利に考慮されるのは矛盾では
前回、法定刑から処断刑、そして宣告刑という3段階を経て、判決の刑が決まるところまで見ました。今日はその続きです。宣告刑が決まっても、それがそのまま執行されるとは限りません。執行されないこともあるんですか。あります。今日はまず、刑の言渡しを受けても実際には刑務所に入らずに済む制度、執行猶予を見ます。ここで、少し奇妙に見える話をします。刑法27条1項は、執行猶予の期間を無事に終えると、「刑の言渡しは、効力を失う」と定めています。効力を失う、だから判決は無かったことになる——そう読めそうですよね。でも、もしそうだとしたら、おかしなことが起きます。この人が、猶予期間が終わったあとに、また別の罪を犯したとします。そのとき裁判官が、「この人は以前にも有罪判決を受けている」という事実を、量刑の判断材料にすることは、許されるのでしょうか。
この、どちらも正しく感じられる2つの直感、実は両立します。今日はまず、この矛盾を解くところから始めます。
執行猶予の意義
図:刑の言渡しをしたうえで、執行を猶予する
執行猶予とは、刑の言渡しをしたうえで、一定期間その刑の全部または一部の執行を猶予し、猶予期間を無事に経過したときは、その効果が生じる制度です。2種類あります。全部の執行猶予と、一部の執行猶予です。名前のとおり、全部を猶予するか一部だけ猶予するかの違いではあります。ただ、違いはそれだけではありません。この2つは、猶予期間がいつから始まるか、そして猶予期間を終えたときに何が起きるかまで、仕組みが違います。まず全部の執行猶予から見ていきます。
全部の執行猶予①——27条の効果から逆算する
図:効力を失うのは、刑の言渡しという法律関係だけ
今日は、要件を先に並べるのではなく、まず効果から見ます。全部の執行猶予でいちばん大事なのは、この効果だからです。27条1項を読みます。
条文刑法27条1項
刑法27条1項(刑の全部の執行猶予の期間経過の効果) 「刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。」
猶予の言渡しを取り消されることなく、猶予期間を無事に経過したときは、刑の言渡しは効力を失います。効力を失うとは、たとえば将来また罪を犯した場合、25条1項1号の「前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者」に、この人はあたる、ということです。前回見た累犯加重、つまり57条で刑の長期を2倍以下に引き上げるあの加重も生じませんし、この判決によって生じていた職業資格などの制限も消滅します。だからこそ、冒頭の矛盾に戻ります。ここで整理しておきたいのは、条文が失わせているのは「刑の言渡し」という法律上の効力であって、「刑の言渡しがあったという事実」ではない、という点です。
身近な例で考えます。友人にお金を借りて、期日どおりに全額返済したとします。返済が終われば、借用証書は効力を失います。もう「返す義務がある」という法律関係はありません。しかし、友人の記憶からは、「あのとき一度お金を借りた」という事実そのものは消えません。次にまた大きな金額を貸してほしいと頼んだとき、友人が過去の貸し借りを思い出して慎重になるとしても、それは証書が生きているからではなく、そういう事実があったことを覚えているからです。証書の効力と、借りたという記憶は、そもそも別のレイヤーにあります。27条1項も同じ構造です。猶予期間を無事に終えると、刑の言渡しという法律関係は効力を失います。次に罪を犯したとき、前科者として扱われることはありません。しかし、有罪判決を受けたという事実そのものが、記録の上から否定されるわけではありません。将来の量刑でその事実がどこまで考慮されるかは別の論点ですが、効力が消えることと、あったという事実自体は否定されないことは、矛盾しません。
効力が消えるのは、あくまで将来の法律上の扱いの部分だけです。
全部の執行猶予②——猶予期間中の公訴提起
図:猶予期間が過ぎても、公訴提起中は効力が続くことがある
ただし、猶予期間さえ過ぎればそれで確実に逃げ切れる、という制度ではありません。27条2項から4項が、この点を定めています。
条文刑法27条2項
刑法27条2項(猶予期間内の公訴提起と効力継続期間) 「前項の規定にかかわらず、刑の全部の執行猶予の期間内に更に犯した罪(罰金以上の刑に当たるものに限る。)について公訴の提起がされているときは、同項の刑の言渡しは、当該期間が経過した日から第四項又は第五項の規定によりこの項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しが取り消されることがなくなるまでの間(以下この項及び次項において「効力継続期間」という。)、引き続きその効力を有するものとする。この場合においては、当該刑については、当該効力継続期間はその全部の執行猶予の言渡しがされているものとみなす。」
猶予期間内に更に犯した罪、しかも罰金以上の刑に当たる罪について、公訴が提起されているときは、話が変わります。この場合、その罪の取消しの可否が決まらなくなるまでの間——これを条文は「効力継続期間」と呼びます——刑の言渡しは、なお効力を持ち続けます。しかも、この効力継続期間中は、あたかもまだ執行猶予の言渡しがされているもの、として扱われます。たとえば、3年の猶予期間があと1か月で終わるという時期に更に罪を犯し、起訴されたまま最終日を迎えた場合です。このときは、最終日が来ても言渡しの効力は消えず、その裁判の決着を待つことになります。では、その効力継続期間のあいだ、その人はずっと前科者として不利益を負い続けるのか。そこを定めたのが3項と4項です。
条文刑法27条3項・4項
刑法27条3項・4項(効力継続期間中の適用除外と必要的取消し) 3項「前項前段の規定にかかわらず、効力継続期間における次に掲げる規定の適用については、同項の刑の言渡しは、効力を失っているものとみなす。 一 第二十五条、第二十六条、第二十六条の二、次条第一項及び第三項、第二十七条の四(第三号に係る部分に限る。)並びに第三十四条の二の規定 二 人の資格に関する法令の規定」 4項「第二項前段の場合において、当該罪について拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないときは、同項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、当該罪が同項前段の猶予の期間の経過後に犯した罪と併合罪として処断された場合において、犯情その他の情状を考慮して相当でないと認めるときは、この限りでない。」
3項によって、その効力継続期間中も、25条や26条、26条の2、27条の2の一部、27条の4の一部、それに34条の2の適用や、資格に関する法令の適用については、効力を失ったものとみなされます。つまり、実際上の不利益はできる限り生じさせない形で、決着を待つ、という設計です。そして4項、その新しい罪について拘禁刑以上の刑に処せられ、しかもその刑の全部について執行猶予が付かなかったときは、もとの猶予の言渡しは必ず取り消されます。5項・6項にも規定がありますが、深入りはせず、ここでは「猶予期間さえ過ぎれば逃げ切れる制度ではない」という骨格を押さえてください。
全部の執行猶予③——初度と再度で要件が変わる理由
図:効果が強いからこそ、初度と再度で入口が違う
ここまでの効果の強さを踏まえて、要件を見ます。だからこそ、初度の執行猶予と再度の執行猶予とで、要件が変わります。25条1項を読みます。
条文刑法25条1項
刑法25条1項(刑の全部の執行猶予・初度) 「次に掲げる者が三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。 一 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者 二 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者」
前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない人、または処せられたことがあっても、その刑の執行を終えた日や執行の免除を得た日から5年以内に拘禁刑以上の刑を受けていなければ、3年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、刑の全部の執行を猶予できます。ここは、あとで一部の執行猶予と比べるときの重要なポイントなので、覚えておいてください。次に、再度の執行猶予です。25条2項を読みます。
条文刑法25条2項
刑法25条2項(刑の全部の執行猶予・再度) 「前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が二年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、この項本文の規定により刑の全部の執行を猶予されて、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。」
前に拘禁刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されていた人が、さらに罪を犯し、2年以下の拘禁刑の言渡しを受けた場合です。この場合も、情状に「特に」酌量すべきものがあるときは、もう一度、執行猶予を付けられます。すでに1回、執行猶予という恩恵を受けている人が、さらにもう一度猶予を得るわけですから、対象となる刑も2年以下に絞られ、情状の要求も重くなります。ただし書もあります。この2項の規定で執行猶予を受け、保護観察に付された人が、その保護観察の期間内にさらに罪を犯していた場合は、この2項の対象から外れます。つまり、再度の猶予をすでに使い、しかも保護観察という見守りの期間中にまた罪を犯していた人には、もう一度は認めない、という歯止めです。
拘留や科料の言渡しには、執行猶予は付けられないんですか。付けられません。25条1項も2項も、対象を拘禁刑と罰金の言渡し、もっと言えば2項は拘禁刑の言渡しだけに限っています。拘留・科料の言渡しにはそもそも執行猶予を付ける規定がありませんし、再度の執行猶予は罰金にも付けられません。
全部の執行猶予④——保護観察
図:初度は裁量、再度は必ず付ける
執行猶予には、保護観察という制度が組み合わさることがあります。25条の2を読みます。
条文刑法25条の2
刑法25条の2(刑の全部の執行猶予中の保護観察) 1項「前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。」 2項「前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。」 3項「前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、前条第二項ただし書及び第二十六条の二第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。」
初度の執行猶予、25条1項の場合は、保護観察に付するかどうかは裁量です。付けても付けなくてもかまいません。これに対して、再度の執行猶予、25条2項の場合は、必ず保護観察に付されます。再度の執行猶予は、すでに一度猶予を受けた人に、もう一度チャンスを与える場面です。それだけ再犯のリスクが高いと見られるので、行政官庁による見守り、つまり保護観察を必ず組み合わせることにしています。付けられた保護観察は、行政官庁の処分によって途中で仮に解除することもできます。3項は、その仮解除の効果を定めていて、仮解除されている間は、さっき見た25条2項のただし書や、このあと見る26条の2の判断にあたっては、保護観察に付されていなかったものとして扱われます。
全部の執行猶予⑤——取消し
図:必要的取消しと裁量的取消しの区別
効果が強い制度だからこそ、取消しの仕組みも用意されています。まず、必ず取り消される場合、26条です。
条文刑法26条
刑法26条(刑の全部の執行猶予の必要的取消し) 「次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。 一 猶予の期間内に更に罪を犯して拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。 二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。 三 猶予の言渡し前に他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられたことが発覚したとき。」
猶予期間中に更に罪を犯し、拘禁刑以上の実刑を受けたとき、猶予の言渡し前に犯していた別の罪で実刑を受けたとき、そして猶予の言渡し前の実刑が後から発覚したとき、この3つは必ず取り消されます。いずれも「実刑になった、または実刑だったことが分かった」という、猶予に値しなかったことが確定した場面です。なお、ただし書もあり、3号にあたる場合でも、猶予の言渡しを受けた人が25条1項2号にあたる人であるとき、または次に見る26条の2の3号にあたるときは、この必要的取消しの対象から外れます。26条の2を読みます。
条文刑法26条の2
刑法26条の2(刑の全部の執行猶予の裁量的取消し) 「次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。 一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。 二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。 三 猶予の言渡し前に他の罪について拘禁刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。」
猶予期間中に再犯があっても罰金にとどまったとき、保護観察の遵守事項に違反し、しかも情状が重いとき、そして猶予の言渡し前の別の罪が、これも執行猶予付きだったと後から発覚したとき、この3つは裁量です。26条の実刑になった場合に比べて、事情が軽い場面が並んでいます。
一部の執行猶予①——要件
図:実刑部分と猶予部分に、二階建てで分ける
ここから、一部の執行猶予です。全部の執行猶予は、刑務所に入らずに済む制度でした。一部の執行猶予は、これとは違います。まず刑期の一部を実際に執行してから、残りの執行を猶予する、いわば実刑と猶予の二階建てです。27条の2第1項を読みます。
条文刑法27条の2第1項
刑法27条の2第1項(刑の一部の執行猶予・要件) 「次に掲げる者が三年以下の拘禁刑の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。 一 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者 二 前に拘禁刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者 三 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者」
対象は3年以下の拘禁刑だけです。全部猶予にあった「50万円以下の罰金」という選択肢は、一部猶予にはありません。要件も、犯情の軽重や犯人の境遇その他の情状を考慮して、再犯防止のために必要かつ相当と認められるとき、という書きぶりです。認められれば、1年以上5年以下の期間、刑の一部の執行を猶予できます。全部猶予が「そもそも入らない」という強い効果なのに対し、一部猶予は「一部だけ実際に執行する」制度なので、判断の物差しがより具体的に条文化されています。なお、薬物使用等の罪については、これとは別に特別法で一部執行猶予の制度が用意されています。
一部の執行猶予②——保護観察・取消し
図:保護観察は裁量、取消しは全部猶予と型が同じ
一部の執行猶予にも、保護観察の規定があります。27条の3第1項を読みます。
条文刑法27条の3第1項
刑法27条の3第1項(刑の一部の執行猶予中の保護観察) 「前条第一項の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。」
一部猶予の保護観察は、常に裁量です。全部猶予の「初度は裁量、再度は必要的」という区分がありましたが、一部猶予にはそもそも「再度」という区分がありません。取消しは、全部猶予の26条・26条の2と同じ型で、必要的と裁量的に分かれます。
条文刑法27条の4
刑法27条の4(刑の一部の執行猶予の必要的取消し) 「次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十七条の二第一項第三号に掲げる者であるときは、この限りでない。 一 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、拘禁刑以上の刑に処せられたとき。 二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられたとき。 三 猶予の言渡し前に他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。」
条文刑法27条の5
刑法27条の5(刑の一部の執行猶予の裁量的取消し) 「次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。 一 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。 二 第二十七条の三第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。」
全部猶予の必要的取消しは、「実刑になり、かつ、その全部について猶予が付かなかったとき」でしたが、一部猶予の必要的取消しは、「更に罪を犯し拘禁刑以上の刑に処せられたとき」とだけ定められています。つまり、新しい罪について、たとえ執行猶予の言渡しがあったとしても、拘禁刑以上の刑に処せられさえすれば取り消される、という違いがあります。文言はよく似ていますが、細部まで同じではありません。なお、ただし書もあり、3号にあたる場合でも、猶予の言渡しを受けた人が27条の2第1項3号にあたる人であるときは、この必要的取消しの対象から外れます。
全部猶予の裁量的取消しは、保護観察の遵守事項違反に加えて、情状が重いことまで求めていました。一部猶予の裁量的取消しは、遵守事項を守らなかったという事実だけで足ります。全部猶予より一部猶予のほうが、取消しのハードルが低いんです。これは、一部猶予が、更なる犯罪を防ぐために猶予が必要であり、かつ、相当であると積極的に認めて、刑期の残りをあえて執行しないでおく制度だからです。その前提が崩れた事実が出てきた以上、情状の重さを問わずに猶予を外せる、という組み立てになっています。
一部の執行猶予③——起算日と効果
図:起算日は、実刑部分の執行が終わった日
ここが、今日いちばんの弁別ポイントです。猶予期間はいつから数えるのか。27条の2第2項を読みます。
条文刑法27条の2第2項
刑法27条の2第2項(刑の一部の執行猶予・猶予期間の起算) 「前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。」
一部猶予は、まず執行が猶予されなかった部分、つまり実刑部分を実際に執行します。そして、その執行が終わった日、または執行を受けることがなくなった日から、猶予期間のカウントが始まります。全部猶予は、判決が確定したその日から、猶予期間がすぐ始まります。刑務所には最初から入りません。これに対して一部猶予は、いったん刑務所に入り、実刑部分の執行を終えて出所した日から、ようやく猶予期間のカウントが始まります。期間の長さは同じでも、いつから始まるかが違うんです。ここを混同しないようにしてください。では、猶予期間を無事に終えたら、何が起きるのか。効果を見ます。27条の7第1項を読みます。
条文刑法27条の7第1項
刑法27条の7第1項(刑の一部の執行猶予・猶予期間経過の効果) 「刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その拘禁刑を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする拘禁刑に減軽する。この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。」
猶予期間を無事に終えると、言い渡された拘禁刑を、実刑部分の期間だけを刑期とする拘禁刑に、減軽します。しかもこの場合、実刑部分の執行を終えた日、またはその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行をすでに受け終わったものとして扱われます。ここが対比の核心です。同じ「猶予を無事に終える」でも、全部猶予は「言渡しの効力を失う」、一部猶予は「減軽する」と、効果の書き方が違います。全部猶予は、そもそも刑務所に入っていないので、猶予期間を終えると言渡しそのものの効力が消えます。一部猶予は、すでに実刑部分を執行してしまっているので、言渡し自体は消えません。その代わり、残っていた猶予部分が実行されずに済んだことを踏まえて、刑を実刑部分だけに作り直す、つまり減軽するという形を取ります。
図:拘禁刑2年6か月、うち8か月の執行を4年間猶予
独自の数値で確かめます。拘禁刑2年6か月、そのうち8か月分の執行を4年間猶予する、という言渡しがあったとします。2年6か月引く8か月で、1年10か月を実際に服役します。出所した日から、4年間の猶予期間が始まります。取消しなくこの4年間が経過すれば、27条の7第1項によって、拘禁刑は1年10か月だったものとして扱われることになります。
全部猶予と一部猶予の対比
図:起算日と効果が、いちばんの弁別点
ここまでを、対比表にまとめます。根拠条文、対象となる刑、保護観察の要否、期間、そして起算日と効果です。期間の長さそのものは、どちらも1年以上5年以下で共通しています。違うのは、いつから数えるかと、猶予を終えたあとに何が起きるかです。言渡しの効力が消えるのは全部猶予、実刑部分だけを刑期とする刑に減軽されるのは一部猶予でした。起算日は、全部猶予が裁判確定の日、一部猶予が実刑部分の執行が終わった日でしたね。
仮釈放——「入らない」と「早く出る」の違い
図:いったん収容されたあと、刑期満了前に釈放する
次は仮釈放です。ここまでの執行猶予は、刑の言渡しの段階で、そもそも刑務所に入らない、または一部だけ入る制度でした。仮釈放は、これとは位置づけが違います。いったん拘禁刑の執行として刑務所に入った人を、刑期が満了する前に釈放する制度です。28条を読みます。
条文刑法28条
刑法28条(仮釈放) 「拘禁刑に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。」
拘禁刑に処せられた人に改悛の状、つまり反省して行いを改めたと見られる様子があるとき、有期刑なら刑期の3分の1を、無期刑なら10年を経過したあと、行政官庁の処分によって仮に釈放できます。執行猶予は裁判所が判決の時点で決めるんでしたよね。仮釈放も、裁判所が決めるんですか。違います。そこが位置づけの違いを表しています。仮釈放を決めるのは、裁判所ではなく行政官庁です。収容されたあと、刑務所での様子を見て、行政の側が判断します。取消しもあるんですか。あります。29条1項を読みます。
条文刑法29条1項
刑法29条1項(仮釈放の取消し) 「次に掲げる場合においては、仮釈放の処分を取り消すことができる。 一 仮釈放中に更に罪を犯し、罰金以上の刑に処せられたとき。 二 仮釈放前に犯した他の罪について罰金以上の刑に処せられたとき。 三 仮釈放前に他の罪について罰金以上の刑に処せられた者に対し、その刑の執行をすべきとき。 四 仮釈放中に遵守すべき事項を遵守しなかったとき。」
仮釈放中に更に罪を犯して罰金以上の刑に処せられたときなど、4つの場合に取り消せます。取り消されると、仮に釈放されていた間の日数は、刑期に算入されません。なお、拘留や労役場留置については、仮出場という別の制度が30条にあります。
執行猶予と仮釈放の対比
図:判決の段階か、収容後の段階か
執行猶予と仮釈放を並べます。執行猶予は刑の言渡しの段階で効く、判断するのは裁判所。仮釈放は刑の執行の段階、収容されたあとに効く、判断するのは行政官庁です。執行猶予と仮釈放、先に効くのはどちらでしたか?執行猶予です。判決の時点で、刑務所に入るかどうかがまず決まります。刑務所に入った場合に、その中でさらに早く出られるかどうかを判断するのが、あとから効く仮釈放です。
刑の時効と刑の消滅
図:執行を受けずに一定期間が過ぎると、執行を免れる
最後に、刑の執行をめぐる制度をもう2つ見ます。まず刑の時効です。31条は、刑の言渡しを受けた人が、時効によってその執行の免除を得る、と定めています。時効の期間は32条にあり、刑の種類・重さごとに区分されています。執行猶予・仮釈放は、これから刑をどう執行するかという話でしたが、時効は、執行を受けないまま一定期間が過ぎると、その執行そのものを免れる、という制度です。
図:27条とは別の制度——刑の消滅(34条の2)
もう1つ、刑の消滅です。34条の2の1項を読みます。
条文刑法34条の2第1項
刑法34条の2第1項(刑の消滅) 「拘禁刑以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。」
拘禁刑以上の刑の執行を終えた人、または執行の免除を得た人が、罰金以上の刑に処せられないまま10年経過すれば、刑の言渡しは効力を失います。それより軽い、罰金以下の刑の執行を終えた場合は、5年の経過で同じことが起きます。混同しやすいところですが、別の制度です。27条は、執行猶予が付いた人が、猶予期間を無事に終えた場合の効果でした。34条の2は、そもそも執行猶予が付かなかった人、または執行猶予が取り消された人が、刑の執行そのものを終えたあと、さらに一定期間、再犯なく過ごした場合の制度です。入口が違います。猶予とは別の道からも、言渡しの効力は失われる——この対比で押さえてください。
総論の総復習——今日のミニ事例
図:今日のミニ事例——A・B・Cの1つの事案で、道具を使い分ける
ここから、総論の総復習です。新しい定義は足しません。これまでの回で固めてきた言葉を、そのまま思い出しながら、1つの事例で「今どの関門の、どの論点の話か」を当てていきます。事例はこうです。Aは、Bに「Cの倉庫に、壊してでも入って商品を取ってこい。気づかれたら殴ってでも逃げろ」と頼みました。Bは倉庫の窓を割って中に入り、商品を物色しましたが、警報が鳴ったため、何も持ち出せないまま逃げようとしたところをCに見つかり、Cを殴って逃走しました。
図:場面1——Bが商品を物色したが、何も取れなかった
まず1つめの場面です。Bは、窃盗罪の実行に着手して商品を物色しましたが、警報が鳴ったため、何も持ち出せないまま終わりました。これは、43条のどちら側の話だったか、思い出せますか?惜しいですが、43条ただし書の中止未遂ではありません。Bがやめたのは、警報が鳴ったからです。自己の意思によるものではありません。自分の意思とは関係なく遂げられなかった場合は、43条本文、障害未遂です。窃盗罪という基本的構成要件を、時間的に修正した形が問われている場面です。
図:場面2——Bが、逃げるためにCを殴った
2つめの場面です。BはCに見つかり、逃げるためにCを殴りました。まず、Bの行為が暴行罪の構成要件に該当するかどうかを確認したあと、次に何を検討しますか。構成要件に該当した行為は、通常は違法だと推定されるから……違法性阻却事由があるかどうかだけを確認する、でした。構成要件に該当した行為は原則として違法だと推定され、確認するのは違法性阻却事由の有無だけになる——これが違法性推定機能です。今回、Cは倉庫の持ち主として何もしていない立場ですから、Bに正当防衛のような阻却事由は認められません。違法性も「あり」となります。
Bに責任能力があり、他に責任を阻却する事情も無ければ、責任も認められます。構成要件該当性、違法性、責任、この3つの関門がすべて認められて、初めて犯罪が成立するのでしたね。
図:場面3——Aは、Bに何を頼んだか
3つめの場面です。Aは、自分では倉庫に入っていません。Bに頼んだだけです。これは、どの論点でしたか。自分では実行行為をしない点で共同正犯と区別される、狭義の共犯……教唆犯ですよね。61条でした。Aは、Bに犯罪の実行を決意させ、実行させた立場にあたります。
図:場面4——建造物侵入・器物損壊・窃盗未遂・暴行、いくつの罪か
4つめの場面です。Bの行為は、建造物侵入、器物損壊、窃盗未遂、暴行と、複数の構成要件に触れています。これをいくつの罪として扱うかは、どの章の話でしたか。4つの層の並びを先に確かめておきましょう。単純一罪、評価上一罪、科刑上一罪、併合罪の4つでしたね。今回のように、手段と結果の関係にある複数の行為が、それぞれ別の構成要件に触れる場合、科刑上一罪の中の牽連犯として扱われる可能性がある、というのが罪数の考え方でした。今回でいえば、倉庫に入った侵入の罪が手段で、その中で商品を取ろうとした窃盗未遂が結果にあたります。この手段と結果の関係があるからこそ、牽連犯の候補になります。それぞれの構成要件が成立するかどうかは別に検討したうえで、最後に「何個の罪として処断するか」を、この道具で決めます。
新しく覚えることは何もありませんでした。今日やったのは、これまでに作ってきた道具箱の中から、場面ごとにどれを取り出すかを選ぶ練習です。
今日の地図(保存版)
図:今日の到達点——言渡し、執行、そして総論の道具箱
今日を振り返ります。全部の執行猶予は、27条1項により、猶予期間を無事に終えると、刑の言渡しの効力が失われます。ただしそれは、言渡しがあったという事実そのものを消すわけではありませんでした。要件は25条、初度と再度で対象や情状の要求が変わります。一部の執行猶予は、実刑部分を執行してから、残りを猶予する二階建ての制度で、起算日は実刑部分の執行が終わった日、効果は言渡しの効力喪失ではなく減軽でした。仮釈放は、刑の執行段階で、行政官庁が判断する制度です。そして最後の総論の総復習では、構成要件該当性、違法性、責任の3つの関門、未遂、共犯、罪数という、これまで作ってきた道具を、1つの事例の中で使い分けました。
第11章「刑罰」がこれで終わり、総論もいったんここまでです。今日まで作ってきた道具、構成要件・違法性・責任・未遂・共犯・罪数・刑罰の適用と執行を使って、次からは実際の犯罪類型を1つずつ見ていきます。
参照条文
- 刑法27条1項
- 刑法27条2項
- 刑法27条3項・4項
- 刑法25条1項
- 刑法25条2項
- 刑法25条の2
- 刑法26条
- 刑法26条の2
- 刑法27条の2第1項
- 刑法27条の3第1項
- 刑法27条の4
- 刑法27条の5
- 刑法27条の2第2項
- 刑法27条の7第1項
- 刑法28条
- 刑法29条1項
- 刑法34条の2第1項