信用毀損罪・業務妨害罪
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第11章 秘密・名誉・信用・業務に対する罪 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
信用毀損罪の保護法益と「信用」の意義 〔短答・論文共通〕

まず信用毀損罪。守っているのは、何だと思いますか。保護法益はこうです。経済的な側面における、人の社会的評価。いい所に気づきました。名誉毀損は、評価一般を守る。だから信用毀損は、名誉毀損と財産犯の、中間なんです。では客体の「信用」。ここに昔から争いがあります。従来の通説は、こう考えました。支払能力と、支払意思への信頼。要するに、お金まわりの信用に限る、という立場。うまい。でも判例は、もう一歩広げます。最判平15・3・11です。販売される商品の品質に対する社会的信頼も、「信用」に含む。なぜ広げたか。理由は、現代の広告・宣伝の重要性です。だから品質への信頼も、経済的な評価として守る。

図で、ビフォーアフターを見ましょう。左は、支払能力・支払意思への信頼だけ。理由は、広告・宣伝の社会経済的な重要性。
信用毀損罪の行為(虚偽の風説の流布/偽計)と抽象的危険犯 〔短答・論文共通〕

次に、信用毀損罪の行為です。手段は二つ。一つ目が、虚偽の風説を流布する、です。客観的真実に反する事実を、不特定または多数人に伝播させる。ここで大事なのが、流布の範囲です。不特定または多数人に伝播する可能性があれば、足りる。だから、特定かつ少数の人に伝えただけでも成立しうる。二つ目が、偽計を用いる、です。人を欺罔・誘惑する、または、人の錯誤や不知を利用すること。この偽計は、後の業務妨害罪でも出てきます。そして、ここが要注意。条文は「毀損した」と書いています。一見そう見えます。でも、これは抽象的危険犯です。なぜか。信用が実際に下がったか、認定するのが難しいから。だから、信用低下の危険が生じれば既遂。名誉毀損と同じ構造です。
業務妨害罪の「業務」の意義 〔短答・論文共通〕

ここから業務妨害罪です。条文は二つに分かれています。233条後段が偽計業務妨害、234条が威力業務妨害です。では、その「業務」とは何か。これが論文の規範です。社会生活上の地位に基づき、継続して行う事務。これが「業務」。職業に限りません。社会的な地位で、繰り返し行う事務なら入ります。いいんです。報酬や経済性は不要。無償の継続的活動でも業務たりうる。ここで、一つ注意点。過失致死傷罪にも「業務」が出ましたね。あちらの「業務」には、娯楽も含まれました。覚えていますか。でも、この業務妨害罪の「業務」には、娯楽は含まれません。そこが面白い所です。理由は、役割が違うから。過失致死傷の「業務」は、刑を重くする要件。危険なものを広く拾う。でも業務妨害の「業務」は、刑法が守る対象そのものです。だから娯楽は含まない。役割が違えば、範囲も変わる。なお、違法な業務でも、要保護性があれば含む場合があります。そこは有力説で、射程に議論もあります。深入りはしません。
条文を確認——233条(信用毀損及び業務妨害)・234条(威力業務妨害) 〔約束③(条文全文)〕

核心の条文を全文で見ます。233条です。前段が信用毀損罪。後段が偽計業務妨害罪です。それで「人の信用を毀損した者」が、信用毀損罪。手段は共通で、結果が信用か業務か、で分かれます。古い本だと刑名が違うかもしれません。続いて234条。威力業務妨害です。

234条はシンプルです。威力を用いて人の業務を妨害した者も。前条、つまり233条と同じ刑、という意味です。233条後段が偽計、234条が威力。これで業務妨害は二つそろう。
🔴 偽計と威力の区別 〔短答・論文共通〕

では疑問②、偽計と威力の区別です。対比表で見ましょう。まず偽計。さっき信用毀損でも出た言葉です。ポイントは、目に見えない形で仕掛けること。相手に気づかれないように、こっそり妨害する。あるいは、こっそり通信回線を切る、とか。これに対して威力。定義はこうです。人の意思を制圧するに足りる勢力を示すこと。ただし、暴行・脅迫に至らないものも含みます。社会的地位や経済的な優越、集団の勢いなども威力になりうる。目に見える形で示すこと。相手の目の前で、勢力を見せる。大声で怒号して立ちふさがる、とか。だから区別の目安は一つ。妨害が、目に見える形か。そして、どちらも抽象的危険犯。さっきと同じですね。
🔴 公務と業務——保護の隙間という問題 〔論文の骨格〕

まず問題の場面から。図を見てください。妨害者の甲が、公務員Xを妨害します。ただし、暴行も脅迫もしない。威力か偽計で妨害する。ここで、公務員を守る専用の罪を思い出してください。でも、95条は「暴行・脅迫」が成立の要件なんです。公務執行妨害罪は、成立しません。では、業務妨害罪で拾えないか、と考える。そこです。これが、威力業務妨害と公務執行妨害の、保護の隙間。この隙間をどう埋めるか。
🔴 公務と業務——打たれ強さで割る 〔論文の骨格〕

では、その隙間をどう埋めるか。判例の考え方をフローで通します。鍵になるのは、たった一つの軸。打たれ強さ、です。正確には、自力で妨害を排除する力。自力排除力です。ここで、自前のたとえを一つ。用心棒を連れているか、です。警察の捜索を考えてみて。屈強な用心棒を連れた要人のようなものです。逮捕や捜索や強制執行は、相手の抵抗を実力で押し返せる。これを、強制力を行使する権力的公務、と呼びます。打たれ強いなら、わざわざ業務妨害罪で守る必要がない。だから権力的公務は「業務」に含まれない。そのときは公務執行妨害罪95条で守れば足りる。役割分担です。一方、こちら。役所の窓口や、大学の講義を考えてみて。丸腰です。絡まれても、自分では追い払えない。これを、強制力を行使しない、非権力的公務と呼びます。だから、民間の業務と同じく、業務妨害罪で守る必要がある。ここで規範です。これは逐語で押さえてください。強制力を行使する権力的公務は「業務」に含まれない。そして、それ以外の公務は「業務」に含まれる。判例の立場です。軸は一本。打たれ強さがあれば95条に任せ、なければ業務妨害罪で守る。
🔴 権力的公務と非権力的公務——判例まとめ 〔短答・論文共通〕

では、具体的にどんな公務がどちらか。判例で整理します。左の権力的公務。これは「業務」に含まれない側です。民事なら、執行官の現実的な強制執行。行政なら、即時強制や、行政代執行。だから含まれない。95条に任せます。これは「業務」に含まれる側。判例が積み重なっています。最決昭62・3・12。権力的・非権力的の区別を立てた判例です。次が、選挙長の、立候補の届出受理。最決平12・2・17。国立大学の講義も、非権力的公務です。そして、段ボール住居の撤去や、動く歩道の整備作業。これらは、自力排除力を持たない公務。だから守る。年月日や事案の細部は、深入りしません。核心は区別の軸です。
📝 論文の型

公務と業務妨害罪の「業務」。コア規範の核心だけ。権力的公務は含まれない、それ以外は含まれる。採点キーワードは、ここを逐語で押さえる。復元キーで、趣旨から組み立て直します。まず保護の隙間から。だから威力・偽計だと公務執行妨害が成立しない。そして打たれ強さで割る。権力的なら自分で排除できる。この鎖を、趣旨から再構成すればいい。逐語は核心だけ。

答案の型です。さっきの捜索の設例で、最後まで通しましょう。問題提起で、暴行・脅迫がないから95条は不成立、と書く。規範で、打たれ強さから区別を立てる。だから威力業務妨害罪は成立しない、で締めます。
論文の型:信用毀損罪の「信用」の意義 〔論文〕

もう一枚、信用毀損の「信用」の型です。こちらは簡潔に。支払能力・支払意思に加え、商品の品質への社会的信頼も含む。復元キーは、保護法益から。経済的な社会的評価です。でも広告・宣伝が重要だから、品質の信頼も含む、と展開する。

答案の型も見ましょう。飲料の虚偽の風説の設例です。問題提起で、商品の品質への信頼が「信用」に入るか、と書く。あてはめで、品質も「信用」だから信用毀損成立、と締める。この型で、信用毀損もコンパクトに書けます。
公務執行妨害罪95条の「職務」の範囲(接続) 〔短答〕

一つ、接続の論点に触れます。95条の「職務」の範囲です。いい問いです。判例は、こう考えます。最判昭53・6・29。95条の「職務」は、およそ全ての公務に及ぶ。なぜなら、公務は公共の福祉に奉仕するもの。厚く守る。業務妨害罪と、公務執行妨害罪の、両方で守られうる。暴行・脅迫なら95条、威力・偽計なら業務妨害罪で拾える。権力的公務も、95条の「職務」には当然含まれます。そこは混同しやすいので注意。95条の中身は、国家的法益の回で扱います。
業務妨害罪が抽象的危険犯であること 〔短答・論文共通〕

もう一点、業務妨害罪も抽象的危険犯です。さっきと同じ話ですね。業務が現実に妨害されたか、認定するのは難しいんです。だから、業務妨害の危険が生じれば既遂、と解する。この章の罪は、危険犯でそろう。まとめて押さえましょう。
電子計算機損壊等業務妨害罪234の2 〔短答中心〕

最後の罪です。電子計算機損壊等業務妨害罪、234条の2。趣旨はシンプル。今は業務をコンピュータが担っています。だから、その妨害は深刻。偽計・威力業務妨害より重く処罰します。五年以下の拘禁刑、または、百万円以下の罰金。一段重いですね。加害行為は三つ。一つ目が、電子計算機や電磁的記録の損壊。二つ目が、虚偽の情報や、不正な指令を入力すること。三つ目が、その他の方法。電源を切る、回線を切る、などです。使用目的に沿う動作をさせない、または反する動作をさせる。ここで「電子計算機」とは何か、が問われます。基本はそうです。人の代替となるもの。情報を処理・制御する機能。家電や自販機のマイコンは、入らないとされます。判例の立場です。そして、この罪は未遂も処罰されます。234条の2第2項。最後に一つ注意。似た名前の罪があります。電子計算機使用詐欺罪。でも、あれは財産犯。財産や利益を取得する罪です。区別は財産犯の回で本格的にやります。
短答ひっかけ

短答でひっかかる所を整理します。①信用は商品の品質も含む。②「業務」は社会生活上の地位に基づき継続して行う事務。③偽計は見えない、威力は見える。区別の目安です。⑤軸は打たれ強さ。自力排除力があるかで割る。⑥95条の「職務」は、およそ全公務。二重保護されうる。この七つで、信用毀損・業務妨害は、かなり戦えます。
今日の地図(保存版)

まとめます。守るのは、活動そのものでした。信用毀損の「信用」は、商品の品質への信頼も含む。業務妨害の「業務」は、社会生活上の地位に基づき継続して行う事務。偽計は見えない、威力は見える。これが区別の目安。強制力を行使する権力的公務は「業務」に含まれない。用心棒がいるかいないか。権力的なら95条、非権力的なら業務妨害。電子計算機損壊等業務妨害も忘れずに。重く処罰、未遂罰あり。次は#53。いよいよ財産犯総論。財産そのものを守る罪に入ります。