刑法ゼロから刑法#95

法定刑・処断刑・宣告刑と72条の順序

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第11章 刑罰 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

選べる幅は、どこからどこまでか

未遂、従犯、自首、しかも別に窃盗も 図:未遂、従犯、自首、しかも別に窃盗も

ある罪の法定刑が「1年以上20年以下の拘禁刑」だったとします。この罪について、被告人は未遂で、しかも正犯を手伝った従犯で、さらに自首もしていました。そのうえ、別に窃盗罪も犯していたとします。この場合、裁判所が実際に選べる刑期の幅は、どこからどこまでになるでしょうか。うーん……未遂だから軽くなって、従犯だからさらに軽くなって、でも窃盗もあるから重くなって……順番によって答えが変わりそうな気がします。加重する事情と減軽する事情が同時にあるとき、どの順番で計算するかは、裁判所の自由ではありません。刑法72条が、順序をきっちり定めています。今日はその順序を使って、この問いに実際に数字で答えを出します。今日は「計算の回」です。

法定刑とは何か(9条・10条・12条の復習と拡張)

各本条の「上限」と、総則の「下限」が組み合わさる 図:各本条の「上限」と、総則の「下限」が組み合わさる

前回、拘禁刑の中身や9条の主刑の種類を見ました。今日はその続きとして、条文に書かれた刑が、どうやって判決の具体的な数字に変わっていくかという手続きに入ります。まず法定刑です。法定刑とは、235条の窃盗罪のように、各本条に定められている刑そのものです。235条を見ると、「10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」とあります。多くの各本条は、上限だけを定めています。その場合、下限は前回見た12条が埋めます。12条1項は、有期拘禁刑を1か月以上20年以下と定めていました。235条に下限の指定が無い以上、窃盗罪の法定刑は「1か月以上10年以下の拘禁刑」になります。

法定刑の幅は、各本条の規定と、9条・10条・12条のような総則の規定が組み合わさって、初めて確定します。

同種の刑どうしは、長期→短期の順で比べる 図:同種の刑どうしは、長期→短期の順で比べる

もう1つ、今日何度も使う条文があります。10条です。1項はすでに前回、9条の並びがそのまま軽重の並びになる、という形で見ました。今日はその続きの2項・3項を使います。全文を読みます。

条文刑法10条

刑法10条(刑の軽重) 1項「主刑の軽重は、前条に規定する順序による。」 2項「同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。」 3項「二個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。」

1項は、死刑・拘禁刑・罰金・拘留・科料という9条の並び順が、そのまま軽重の順になるという規定でした。2項は、拘禁刑どうし、罰金どうしのように、同じ種類の刑どうしを比べるときの基準です。まず長期、つまり上限が長い方が重い。長期が同じなら、次は短期、つまり下限が長い方が重いと判断します。3項は、長期も短期もまったく同じだった場合の最後の基準で、犯情、つまり事件の中身で軽重を決めます。この2項・3項の基準を、このあと何度も使います。

処断刑の形成——6ステップの全体像

6つの手続きを経て、判決の枠ができる 図:6つの手続きを経て、判決の枠ができる

ここからが処断刑です。処断刑とは、法定刑に加重や減軽を施して、裁判所が実際に刑を選べる幅として確定させたものをいいます。法定刑から処断刑を作る手続きは、実務上6つのステップに分かれます。1つめが科刑上一罪の処理、2つめが刑種の選択、3つめが累犯加重、4つめが法律上の減軽、5つめが併合罪の加重、6つめが酌量減軽です。72条が順序を定めているのは、3つめから6つめまでの4つだけです。1つめの科刑上一罪の処理と、2つめの刑種の選択は、その手前で行う前処理にあたります。1つめと2つめは、まだ「1つの罪について1つの法定刑」を確定させる段階です。1つの行為が複数の罪名にあたる場合にどの法定刑を使うか、法定刑に選択の余地があるときにどちらの刑種にするかを、ここで先に決めてしまいます。法定刑がまだ複数の候補を抱えたままでは、3つめ以降の加重・減軽の計算に入れません。だから1つめと2つめを先に済ませてから、72条の4段階に進む、という順番になっています。

ここで、順番がなぜ大事なのか、身近な例で確かめておきます。上限の目盛りがある水槽を思い浮かべてください。水を倍に増やすポンプが1つ、半分に抜くバルブが2つあります。ポンプは1回しか使えません。バルブも、それぞれ1回ずつしか使えません。先にポンプで倍にしてから、バルブで半分に抜くと、上限を超えた分はあふれて戻ってきません。逆に、先にバルブで半分に抜いてから、あとでポンプで倍にすると、上限に余裕があるぶん、そのまま倍になります。同じ組み合わせでも、順番によって残る水位が変わるんです。今日の処断刑の計算も、同じ理屈で動きます。このあと1つめから順番に1つずつ見ていきます。

科刑上一罪の処理(54条1項)

一個の行為が、二個の罪名に触れるとき 図:一個の行為が、二個の罪名に触れるとき

科刑上一罪は、第10章で見たとおり、犯罪の成立は数罪のまま、刑を科す場面だけを1罪として扱うものでした。まず1つめの科刑上一罪の処理から始めます。54条1項を読みます。

条文刑法54条1項

刑法54条1項(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理) 「一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。」

1個の行為が2個以上の罪名にあたる場合、それに、犯罪の手段や結果である行為が別の罪名にあたる場合、どちらも「最も重い刑」で処断すると定めています。ここで「最も重い刑」をどう判断するかが、さっき見た10条の出番です。例で考えます。窃盗罪、235条で10年以下の拘禁刑、そして公用文書等毀棄罪、258条で3か月以上7年以下の拘禁刑という、2つの罪が観念的競合になったとします。たとえば、市役所の事務室に忍び込み、机の鍵のかかった引き出しをこじ開けて、中の現金を、一緒に入っていた公用文書ごと、破れてもかまわないと思ってつかみ出し、実際に文書が破れた。つかみ出すという1個の行為が、現金の窃盗と、公用文書の毀棄という、この2罪に触れる場面です。

長期で比べると窃盗、でも下限は公用文書毀棄の3月 図:長期で比べると窃盗、でも下限は公用文書毀棄の3月

窃盗罪は、長期10年、短期は指定が無いので12条の下限で1か月。公用文書等毀棄罪は、長期7年、短期3か月です。10条2項で長期どうしを比べると、10年の窃盗罪の方が重いと判断されます。重い方の罪の法定刑をそのまま丸ごと使う、とはなりません。ここに、この論点のいちばんの注意点があります。

判例最判昭和28年4月14日(刑集7巻4号850頁)

「最も重い刑」の意味 最も重い刑により処断するとは、最も重い罪の法定刑によって処断することをいうが、その他の罪について定めた刑の最下限より軽い刑を科することはできない、という趣旨を含む。

判例は、「最も重い刑」とは最も重い罪の法定刑によるという意味だが、それでも、他の罪について定めた刑の下限より軽く処断することはできない、という考え方を示しています。今の例で言うと、上限は窃盗罪の10年をそのまま使いますが、下限は窃盗罪の1か月ではなく、公用文書等毀棄罪の下限である3か月を使います。窃盗罪の下限である1か月のままにしてしまうと、公用文書等毀棄罪だけを犯した場合よりも軽い刑になりかねないからです。だから、この例の処断刑は「3か月以上10年以下の拘禁刑」になります。上限は重い罪から、下限はもう一方の罪の下限を下回らないように、という2段構えで決まる点を押さえてください。

刑種の選択

選択刑があれば、裁判所が刑の種類を選ぶ 図:選択刑があれば、裁判所が刑の種類を選ぶ

2つめは、刑種の選択です。235条の窃盗罪のように、拘禁刑か罰金かという選択の余地がある法定刑では、どちらの刑種にするかを裁判所が選びます。刑の種類そのものが決まらないと、長期何年、短期何か月という加重減軽の計算に入れません。なお、拘禁刑への一本化によって、懲役にするか禁錮にするかという選択の論点は無くなりました。これで、1つめと2つめの前処理が終わり、法定刑が1つに絞られました。ここから、72条の4段階に入ります。

累犯加重(56条〜59条)

5年以内に再び罪を犯すと、長期が2倍以下まで上がる 図:5年以内に再び罪を犯すと、長期が2倍以下まで上がる

72条の1つめ、再犯加重です。56条1項を読みます。

条文刑法56条1項

刑法56条1項(再犯) 「拘禁刑に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期拘禁刑に処するときは、再犯とする。」

拘禁刑に処せられた人が、その執行が終わった日、または執行の免除を得た日から5年以内に、さらに罪を犯し、有期拘禁刑に処せられるときを、再犯と呼びます。効果は57条に定められています。

条文刑法57条

刑法57条(再犯加重) 「再犯の刑は、その罪について定めた拘禁刑の長期の二倍以下とする。」

再犯の刑は、その罪の拘禁刑の長期の2倍以下です。ここで注意してほしいのは、「2倍にする」のではなく「2倍以下」だという点です。「2倍にする」なら、機械的に長期が2倍に固定されます。しかし条文は「2倍以下」としているので、2倍を上限として、その範囲でどこまで引き上げるかは裁判所の量刑判断に委ねられています。短答では、この「以下」という言葉が落とされていないか、正確に見てください。そして短期は動きません。加重されるのは長期だけです。累犯加重は、水槽でいえば水を増やすポンプにあたる操作で、しかも1回しか使えません。

条文刑法59条

刑法59条(三犯以上の累犯) 「三犯以上の者についても、再犯の例による。」

3犯目以降も、同じ再犯のルールがそのまま適用されます。何回繰り返しても、加重の基準は変わりません。なお、長期をどれだけ引き上げても、前回見た14条2項により、30年を超えることはできません。ここで1つ確認です。第10章で学んだ併合罪、成立要件は何だったか覚えていますか。確定判決を経ていない数個の罪が、同時に裁判できる関係にあること、でした。今日出てくる併合罪の加重は、このあと5つめで扱いますが、この累犯とは別の場面ですので、混同しないようにしてください。

法律上の減軽(68条・70条)

必要的減軽・必要的減免・任意的減軽の区別 図:必要的減軽・必要的減免・任意的減軽の区別

72条の2つめ、法律上の減軽です。各本条や総則の規定によって、裁判所の裁量ではなく法律上当然に減軽される事由を、必要的減軽・必要的減免・任意的減軽の3つに分けて一覧にしました。心神耗弱と従犯は、必ず減軽される必要的減軽です。中止犯だけは少し違って、43条ただし書が「その刑を減軽し、又は免除する」と定めています。減軽か免除かのどちらかを必ずしなければならない、いわば必要的減免です。減軽で止まるとは限らず、刑をまるごと免除する可能性まで条文が用意している点が、ほかの必要的減軽と違います。障害未遂、過剰防衛、過剰避難、法律の錯誤、自首・首服は、減軽してもしなくてもよい任意的減軽です。それぞれの成立要件は、もうそれぞれの回で扱いましたので、今日は「法律上の減軽の一員である」という位置づけだけ押さえてください。

ここで、今日いちばん間違えやすい点に入ります。減軽事由が3つも重なったら、3回減軽するのでしょうか。3つあるのだから、3回では駄目なんですか。1回だけです。根拠は、これから読む68条の文言そのものにあります。条文は「一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による」と書いています。事由が1個でも2個以上でも、使う物差しは「次の例」1つだけ、という書き方です。未遂・従犯・自首の3つがそろっていても、2分の1にするのは1回きりです。3回繰り返して8分の1にする、ということにはなりません。法律上の減軽は、水槽でいえば1つめのバルブにあたります。事由がいくつ重なっても、このバルブは1回しか使えません。

減軽事由が多いほど刑が限りなく軽くなっていく仕組みにしてしまうと、事情を積み増すほど刑が際限なく縮んでしまい、処罰の実効性が失われてしまいます。だから法は、どれだけ事由が重なっても、減軽の効果は1回分に固定しています。減軽の具体的な中身は、68条が定めています。全文を読みます。

条文刑法68条

刑法68条(法律上の減軽の方法) 「法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。 一 死刑を減軽するときは、無期又は十年以上の拘禁刑とする。 二 無期拘禁刑を減軽するときは、七年以上の有期拘禁刑とする。 三 有期拘禁刑を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。 四 罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の二分の一を減ずる。 五 拘留を減軽するときは、その長期の二分の一を減ずる。 六 科料を減軽するときは、その多額の二分の一を減ずる。」

条文の柱書に「一個又は二個以上の事由があるときは」とあります。ここが、いま確認した「1回きり」の根拠です。事由が1個でも2個以上でも、適用する効果は同じ「次の例による」の内容1つだけです。今日いちばん使うのは3号、有期拘禁刑の場合です。長期・短期とも、2分の1を減じます。表現としては「2分の1を減ずる」ですが、結果としては、もとの数字が半分になります。長期20年なら、2分の1を減じて10年。短期1年なら、2分の1を減じて6か月です。最後に、端数処理の規定も見ておきます。

条文刑法70条

刑法70条(端数の切捨て) 「拘禁刑又は拘留を減軽することにより一日に満たない端数が生じたときは、これを切り捨てる。」

2分の1にした結果、1日に満たない端数が出た場合は、切り捨てます。実際の事件では、この端数処理が必要になる場面もある、ということは覚えておいてください。

併合罪の加重(47条)

最も重い罪の長期に、2分の1を加える 図:最も重い罪の長期に、2分の1を加える

72条の3つめ、併合罪の加重です。根拠は47条ですが、47条自身の見出しは「有期拘禁刑の加重」です。「併合罪の加重」というのは72条三号が並べている項目名の方で、条文の見出しとは別の言葉だと分けておいてください。47条を読みます。

条文刑法47条

刑法47条(有期拘禁刑の加重) 「併合罪のうちの二個以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。」

併合罪の関係にある2個以上の罪について、有期拘禁刑にするときは、その中でいちばん重い罪の長期に、その2分の1を加えて、新しい長期にします。ただし、それぞれの罪の長期を全部足した数字を超えることはできません。併合罪の加重は、水槽のポンプやバルブとは別物です。長期に新しく数字を足す操作なので、倍にする・半分にするだけの水槽の喩えでは表せません。この操作だけは別物だと考えてください。「最も重い罪」の判定は、さっき見た10条の基準をそのまま使います。長期で比べて、同じなら短期で比べます。なお、併合罪という関係そのものの成立要件、確定判決を経ていない数個の罪という要件は、第10章の回で扱いましたので、今日は加重の計算式だけを扱います。

短期は動きません。長期だけが加重される点は、さっきの累犯加重と同じ形です。並べて比べてみましょう。

累犯加重と併合罪加重の比較 図:累犯加重と併合罪加重の比較

累犯加重は57条が根拠で、長期を2倍以下にします。上限の歯止めは条文自体には無く、前回見た14条2項の30年で頭打ちになるだけです。併合罪の加重は47条が根拠で、最も重い罪の長期に2分の1を加えます。しかも、それぞれの罪の長期を合計した数字を超えられない、というただし書の歯止めが付いています。72条の中での位置も、累犯加重が1番目、併合罪の加重が3番目と別の段階です。

酌量減軽(66条・67条・71条)

情状に酌量すべきものがあれば、裁判所の裁量で減軽する 図:情状に酌量すべきものがあれば、裁判所の裁量で減軽する

72条の4つめ、最後の酌量減軽です。66条を読みます。

条文刑法66条

刑法66条(酌量減軽) 「犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。」

犯罪の情状に酌量すべきものがあるとき、裁判所は裁量で刑を減軽できます。法律上の減軽は、未遂や従犯のように、条文が定める事由に該当すれば当然に働きます。酌量減軽は、そういう決まった事由が無くても、事件の情状を見て裁判所が独自の判断で減軽できる、という制度です。「できる」という書きぶりに、裁量であることが表れています。

条文刑法67条

刑法67条(法律上の加減と酌量減軽) 「法律上刑を加重し、又は減軽する場合であっても、酌量減軽をすることができる。」

法律上の加重や減軽をした場合でも、それとは別に、酌量減軽をすることができます。つまり、1つめから3つめまでの処理をすでに行ったあとの処断刑に対しても、さらに酌量減軽を重ねられる、ということです。

条文刑法71条

刑法71条(酌量減軽の方法) 「酌量減軽をするときも、第六十八条及び前条の例による。」

酌量減軽の具体的な計算方法は、法律上の減軽と同じ、さっきの68条・70条のとおりです。有期拘禁刑なら、長期・短期とも2分の1にします。ただし酌量減軽は、水槽でいえば2つめのバルブにあたります。1つめのバルブ、つまり法律上の減軽とは別に、裁判所の裁量でもう一段階かけられます。

冒頭の問いを解く——72条の順序で計算する

再犯加重→法律上の減軽→併合罪の加重→酌量減軽 図:再犯加重→法律上の減軽→併合罪の加重→酌量減軽

ここからが今日の山場です。ここまでの、1つめの再犯加重、2つめの法律上の減軽、3つめの併合罪の加重、4つめの酌量減軽、この4つを、同時に行うときの順番を定めているのが72条です。この4つの並びには筋があります。1つめと2つめは、その罪1つ、その被告人1人だけの事情を反映する段階。3つめは、そこまでで確定した枠を土台に、複数の罪をまとめて扱う段階。4つめは、最後に裁判所の裁量で一段階だけ緩める段階です。狭い範囲から広い範囲へ、法律上の処理から裁量の処理へ、という順番になっています。全文を読みます。

条文刑法72条

刑法72条(加重減軽の順序) 「同時に刑を加重し、又は減軽するときは、次の順序による。 一 再犯加重 二 法律上の減軽 三 併合罪の加重 四 酌量減軽」

これで、冒頭の問いに答える準備がそろいました。もう一度整理します。法定刑は「1年以上20年以下の拘禁刑」。未遂・従犯・自首が成立していて、累犯はありません。そして別に窃盗罪、10年以下の拘禁刑が併合罪の関係にあります。1つめの再犯加重は、累犯にあたる事情が無いので、該当なし。ここはスキップします。

未遂・従犯・自首がそろっても、2分の1は1回だけ 図:未遂・従犯・自首がそろっても、2分の1は1回だけ

次は2つめ、法律上の減軽です。未遂、従犯、自首と3つの事由がありますが、さっき確認したとおり、68条の文言から、減軽処理は1回だけです。68条3号により、長期・短期とも2分の1にします。長期は20年から10年、短期は1年から6か月です。この段階での処断刑は、暫定的に「6か月以上10年以下の拘禁刑」になります。ここで3つめ、併合罪の加重に入ります。その前に、ここから先ずっと効く原則を1つ置きます。併合罪の加重は、いくつもの罪をまとめて扱う段階です。そこに入ってくる各罪は、それぞれが自分に固有の加重減軽を済ませた状態で並びます。

本罪には未遂・従犯・自首という本罪だけの事情があり、さっき2分の1にしました。窃盗罪にはそういう事情が無いので、窃盗罪は法定刑のままここに来ます。だから、このあとの「最も重い罪」の比較も、47条本文の2分の1を加える計算も、ただし書の合計の上限も、全部この処理を済ませた長期どうしで行います。では、本罪と窃盗罪、どちらが「最も重い罪」になるか、10条の基準で考えてみてください。窃盗罪の法定刑は、10年以下の拘禁刑、下限は12条により1か月です。10条2項で長期を比べると、本罪の10年と窃盗罪の10年で、同じです。

長期が同じなら短期を比べる——短期が長い方が重い 図:長期が同じなら短期を比べる——短期が長い方が重い

10条2項の後段、長期が同じなら短期の長い方が重いという基準を使います。本罪の短期は6か月、窃盗罪の短期は1か月です。6か月の方が長いので、本罪が「最も重い罪」と判定されます。

長期10年に5年を加えて15年、短期は動かない 図:長期10年に5年を加えて15年、短期は動かない

47条により、本罪の長期10年に、その2分の1である5年を加えて、長期15年にします。合計の上限、本罪と窃盗罪それぞれの長期を足した20年を超えていないか確認すると、15年は20年以内なので問題ありません。短期は加重されないので、6か月のままです。この段階の処断刑は、「6か月以上15年以下の拘禁刑」になります。酌量減軽をするかどうかは、裁判所の裁量です。しない場合は、ここまでの「6か月以上15年以下の拘禁刑」が、裁判所が選べる幅になります。これが、冒頭の問いに対する基本の答えです。今の設問には累犯はありませんが、仮にこの事件に累犯もあったとして確かめてみましょう。72条どおりの順番、1つめの再犯加重からだと、長期20年を57条の上限いっぱいまで、つまり2倍に引き上げたとして40年。でも14条2項の上限30年を超えられないので、30年に頭打ちになります。そこから2つめの法律上の減軽、68条3号で2分の1にして、長期15年です。

逆に、2つめの法律上の減軽を先にやると、長期20年を2分の1にして10年。そこから1つめの再犯加重、57条で2倍にすると、長期20年です。同じ2つのルールでも、順番だけで長期が15年と20年に分かれます。先に2倍にすると、40年のうち30年という頭打ちを超えた10年分が、その場で切り落とされます。あとで半分にしても、この切り落とされた分は戻ってきません。さっきの水槽と同じです。先にポンプで倍にすると、上限からあふれた分は取り返せない。だから72条は、再犯加重を法律上の減軽より先に置いて、この順番を条文の側で固定しているんです。

酌量減軽まで行うと、幅はさらに半分になる 図:酌量減軽まで行うと、幅はさらに半分になる

仮に、裁判所がさらに4つめの酌量減軽まで行う場合も見ておきます。71条により、68条3号の例で、長期・短期ともまた2分の1にします。長期15年は7年6か月、短期6か月は3か月です。酌量減軽まで行った場合の処断刑は、「3か月以上7年6か月以下の拘禁刑」になります。酌量減軽は裁判所の裁量なので、必ず行われるとは限りません。冒頭の問いの答えは、酌量減軽をしない場合で「6か月以上15年以下」、酌量減軽まで行った場合で「3か月以上7年6か月以下」です。いずれにしても、1つめから4つめまで、72条の順番どおりに、1つずつ数字を動かしていけば、答えは一意に決まります。

宣告刑と量刑

枠の中から、一点を選ぶ 図:枠の中から、一点を選ぶ

最後に、宣告刑です。ここまでで作ってきた処断刑という枠の中から、裁判所が具体的に言い渡す刑が、宣告刑です。宣告刑を決めることを、刑の量定、量刑と呼びます。大きく2つの要素があります。1つは犯情、結果の重さや動機、計画性のような、その行為自体に関する事情です。もう1つは一般情状、前科や生活状況のような、行為以外の事情です。これらを総合して裁判所が判断しますが、恣意的に決めてよいわけではなく、合理性が求められます。今日見てきた法定刑から処断刑までの計算は、答えが一意に決まる作業でした。宣告刑は、その決まった枠の中で、裁判所がどこを選ぶかという判断の話になります。

処断刑という枠は、いわば水槽の目盛りの範囲が確定した状態です。宣告刑は、その範囲の中のどこに実際の水位を合わせるかを、裁判所が決める段階にあたります。

今日の地図(保存版)

3段階と、6つの手続きを、条文のまま並べ直す 図:3段階と、6つの手続きを、条文のまま並べ直す

今日を振り返ります。判決の刑は、法定刑、処断刑、宣告刑という3段階で決まります。処断刑を作る手続きは6つ、そのうち54条1項の科刑上一罪の処理と刑種の選択が前処理、そして72条が定める4段階、再犯加重、法律上の減軽、併合罪の加重、酌量減軽が本体です。再犯加重は長期を2倍以下に、法律上の減軽は事由がいくつあっても1回だけ長期・短期を2分の1に、併合罪の加重は最も重い罪の長期に2分の1を加え、酌量減軽は最後に裁量で長期・短期をまた2分の1にする。この順番を守れば、どんな事情の組み合わせでも、答えは一意に決まります。

冒頭の問いの答えは、酌量減軽をしない場合で「6か月以上15年以下の拘禁刑」、酌量減軽まで行った場合で「3か月以上7年6か月以下の拘禁刑」でした。

参照条文

  • 刑法10条
  • 刑法54条1項
  • 刑法56条1項
  • 刑法57条
  • 刑法59条
  • 刑法68条
  • 刑法70条
  • 刑法47条
  • 刑法66条
  • 刑法67条
  • 刑法71条
  • 刑法72条

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